独占インタビュー「ラノベの素」 平坂読先生『変人のサラダボウル』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2022年6月17日にガガガ文庫より『変人のサラダボウル』第3巻が発売された平坂読先生です。貧乏探偵のもとに異世界の皇女が舞い降りて始まる、予測不能な群像喜劇を描く本作。あっという間に日常へと馴染んでいく皇女サラと、川辺のホームレスから生活をスタートさせる女騎士リヴィアが、様々な人と出会い、交流を深めていくことになります。笑いは大切だという平坂先生の言葉通りに、笑い必至の本作について様々にお話をお聞きしました。

※フリーペーパー「ラノベNEWSオフラインvol.9」には本記事未掲載のインタビューも掲載されています

 

 

変人のサラダボウル3

 

 

【あらすじ】

惣助の尽力で戸籍を手に入れ、学校に通うことになったサラ。頭脳、メンタルともに規格外のサラは、当然のように入学早々波乱を巻き起こすのだった。一方、中学でぼっちになってしまった友奈にも、人生の転機となるような出来事が訪れ、惣助に想いを寄せるブレンダ&閨の悪女二人も、変化した状況に対して動き出す。そして何故かバンドでメジャーデビューを目指すことになったリヴィアは、パチンコでの負けを取り戻そうと沼にハマっていた――。ラブコメ度やや高め?で繰り広げる、変人達の奇想天外おもしろ群像喜劇第三弾!!

 

 

――ご無沙汰しております。『妹さえ。』の画集対談以来ですね。あらためて本日はよろしくお願いします。

 

よろしくお願いします。

 

 

――早速ですが、以前のインタビューで「次作はもう少し気楽な作品を手掛けたい」というお話をされていました。新シリーズとなる『変人のサラダボウル』ですが、読者からの反響も非常によく、面白い作品になりましたよね。

 

ありがとうございます。反響については読んだ方からの感想や評判はすごいよくて、本当にありがたいなと思ってます。作品の気楽さは……前作よりもう少し気楽な作品にできればよかったんですが、正直気楽ではないですね(笑)。ぶっちゃけると『妹さえ。』の時よりも勉強や取材をしないといけないことが多いです。コロナの影響で頻繁に岐阜へ取材にも行けないですし、結構大変です。

 

 

――求めていた気楽さは失われてしまっていたんですね(笑)。コロナというお話もありましたが、コロナ禍での作家活動や執筆環境に変化はありましたか。

 

コロナ前だった前作までは喫茶店やファミレスに行って書いたりしていたんですけど、それがなくなったのでパソコンをノートからデスクトップに変えました。効率は正直どうなんですかね。パソコンとしての性能はデスクトップの方が断然良いので、書きやすくはなったと思います。その代わり、自宅にいる時間が増えたこともあって、だらだらネットを見ちゃう時間も増えたのでプラマイゼロかもしれません。

 

 

――なるほど。執筆環境としては様々な制限もある中でスタートした『変人のサラダボウル』ですが、舞台は岐阜で、平坂先生も岐阜出身ですよね。自身の出身地を描く上で、解像度にはやはり注力されているんでしょうか。

 

正直あんまり細かくは再現していないと思います(笑)。惣助が住んでいる事務所の街並みだとか、そのあたりは漠然としたイメージしかないですね。もちろん観光名所などはしっかり書いてますけど。基本は当時住んでいた頃の記憶などを参考にしながら書いてます。ただ、自分の子供の頃と比べると、駅前はかなり発展しましたが、その一方で商店街はどんどん寂びれていたりもします。これを発展として捉えるのか、衰退として捉えるのか、難しいところがありますね。

 

 

――せっかくなので、これから岐阜に行く人にオススメの名所なども教えてください。

 

……そんなにないですね(笑)。岐阜で有名なのは下呂温泉や飛騨高山なんですけど、あのあたりはあまり地元感がないというか。強いて言うなら岐阜城は行ってみてもいいんじゃないかなと思います。岐阜は北の山間部と南の平野部で、ほぼ別の県みたいな感じなんですよ。物語の舞台でもある岐阜市は南の平野側なんですけど、北の山間部はもはや富山かなって(笑)。名古屋から行くよりも富山から行く方が早かったりするので、そこは豆知識としてひとつ。

 

 

――ありがとうございます(笑)。新シリーズをスタートするにあたって、再タッグとなったカントク先生とは何かお話をされたりしましたか。

 

事前に打ち合わせはしていて、『佐々木とピーちゃん』との被りを若干気にしていたくらいでしょうか(笑)。現代が舞台でファンタジー的な要素もあって、ロリも出てくる。同じくカントクさんが手掛けられている作品でもあるので、絵面的な被りをなくそうと。作中のキャラクターの服装ひとつとっても、打ち合わせはリモートでかなり回数を重ねたと思います。物語については普通に面白かったというリアクションをいただけたので、よかったです。

 

 

――ふと小耳に挟んだのですが、実は『変人のサラダボウル』の前に進めていた新作があったという。

 

これは本当で、『妹さえ。』第13巻のあとがきの後ろに書いていたアイデアは、全部ガチの新作候補だったんです。その中で『〆切前には百合が捗る』はGA文庫さんで書かせてもらいました。そしてもうひとつ有力な候補だったのが、予備校ものの『僕たちは失敗しました(仮)』だったんです。カントクさんや編集さんともその方向で行こうと話していましたし、事前に打ち合わせもかなり重ねて、実際3人で予備校にも行こうって言っていたほどでした。ただ、コロナ禍で予備校事情もだいぶ変わってしまったことや、自分のやりたかったお話が今のご時世ではできないっぽいという話もあって、急遽別案として『変人のサラダボウル』を提出することになったんですよ。

 

 

――ある意味思わぬ形で、『変人のサラダボウル』は誕生したわけですね。また第3巻の刊行に向けては、SNSで「モブになりたいキャンペーン」を展開されていたのも印象的でした。

 

そうですね。あんまり僕はSNSで読者さんと絡んだりしていなかったので、今どきの作家っぽく読者と交流してみようかなって(笑)。結果100名近い方から応募していただいて、完全ランダムのくじ引きで選ばせてもらいました。作中では応募いただいた方の本名をそのまま使っているんですが、中にはモブとして使いづらい珍しい名前の方もいたりと面白かったです。そこは自分が考えるよりも逆に現実っぽくていいのかなと。とはいえ、それぞれ扱いに差が出てしまっているので、使われたご本人がどう思うのか、完全に事後承諾ではありますがそこはちょっと我慢してくださいって感じです(笑)。またタイミングがあれば今後もやるんじゃないかなと思います。

 

 

――それではあらためて『変人のサラダボウル』についてどんな物語なのか教えてください。

 

物語としては探偵をやっている冴えないおっさんと言うには若い、鏑矢惣助のもとに異世界のお姫様であるサラが転移してきて始まります。惣助がサラの面倒をみるという大きな流れがひとつあり、その二人を中心とした人間関係が描かれていきます。そしてもう一人、異世界人の女騎士リヴィアを中心とした人間関係、巻き起こるトラブル、ホームレスからの成り上がりなど、この2本軸が本作のメインの物語となっています。二人の異世界人が全然違う形で現代に馴染んでいく姿は面白いんじゃないかということと、それぞれ出会う人間によってまったく異なる物語が展開していくという面白味があるんじゃないかなと思います。

 

変サラ口絵01

※貧乏探偵のもとに異世界の皇女が転がり込んで始まるおかしな日常を描いていく

 

 

――安定のサラ、破天荒のリヴィアと生活が二極の物語になっていますよね。リヴィアが成り上がる、という視点はなかったので驚きです(笑)。

 

いや、成り上がるのか成り下がるのか。リヴィアの先の展開は本当に読めないので、そこを楽しみにしていただければなと思います。リヴィアはサラの安定感に比べて、生活のアップダウンがかなり激しいキャラクターなので、そこは面白く読めるんじゃないかなと思いますね。サラとリヴィアは互いに影響を少しずつ与えていくことになるわけですが。一応リヴィアの人生については考えているので、この物語の着地点になるかどうかはわからないですが、楽しみにしてもらえたらなと思います。

 

変人のサラダボウル

※ホームレスから始まる女騎士リヴィアの生活は波乱万丈に過ぎる

 

 

――本作はキャッチコピーに群像喜劇という言葉が使われています。前作も群像劇でしたが、あらためて平坂先生の考える群像劇の魅力について教えてください。

 

まず、書いている側の魅力としては、複数の人物を深堀りできるというのが大きいです。人物同士を複雑に絡み合わせる面白さもあり、書き手としては楽しいジャンルだと思います。群像劇タイプではない作品だと、どうしても掘り下げきれないところが出てきたりするのですが、そこまできっちりと掘り下げられるのは魅力かなと。読み手としても複数の人物が絡み合う、パズル的な面白さが楽しいですよね。もちろん、主人公が世界の中心じゃないと嫌だという読者さんもいると思うので、メリットとデメリットのどちらにも捉えられる要素だとは思いますが。

 

 

――では続いて、本作に登場するキャラクターについても教えてください。

 

鏑矢惣助は良くも悪くも普通の人ですね。ちゃんと理想は持っているんだけど、現実に負けそうで苦労している主人公です。ただ、実際にいたらモテるんだろうなって思います。

 

鏑矢惣助

※実はモテる?貧乏探偵の鏑矢惣助(キャラクターデザインより)

 

サラはリアルな子供じゃなくて、精神的に完成している感じの、自分が一番可愛いと思うヒロインという位置づけで書いてます。

サラ

※現代で無双する皇女のサラ・ダ・オディン(キャラクターデザインより)

 

リヴィアはもともと女騎士という要素を自分が好きで、面白い女騎士を書こうと。リヴィアに関しては勝手気ままに動くに任せてます(笑)。

リヴィア

※面白い女騎士を目指すリヴィア・ド・ウーディス(キャラクターデザインより)

 

 

――この3人は特に主要なキャラクターですが、本作に登場するキャラクターには、スポットライトが当たらないキャラクターが存在しないという面白さもあると思います。ちょっとした社会問題ひとつをとっても、その一人一人、末端にまでネタが仕込まれていて、目が離せないんですよ。

 

基本的には登場人物全員が重要人物として活躍できるように意識はしていますね。また、この作品は現実が舞台なので、必然的にちょっとした社会問題などの要素が入ってきます。とはいえ、なかなかコメディとして扱うには難しい問題もたくさんあるので、取捨選択が難しいです。どうやっても重くしかならないような要素は極力書かないようにしてはいますね。まあ、ホームレスの話も実際は重たいんですけど、そこはリヴィアのキャラクター性で面白おかしく書いているような感じだったり、ちょっとしたキャラクターがポロっと漏らすような、ちょいちょいブラックなネタは端々に仕込んでいます(笑)。そういう細かいところでも笑ってもらえれば嬉しいです。

 

 

――ありがとうございます。では続いてイラストについてもお聞かせください。カントク先生との再タッグはもちろん、変顔など挿絵での遊びも増えていて、前作以上に視覚的な楽しさも増えたように思うのですがいかがでしょうか。

 

まず『妹さえ。』の時になかった要素としてはファンタジーの要素ですよね。サラとリヴィアがいるので、『妹さえ。』よりも華やかな、派手な印象にはなっているのかなって思います。変顔については、「変顔をさせてください」と指定をさせていただいています。また、第2巻の最後の挿絵は、サンプルになる画像を添付して原稿を編集さんに送りつけてお願いしました。1冊につき1枚以上は、面白い絵を入れられたらいいなと思っていますし、カントクさんに変顔をオーダーする人なんて自分くらいじゃないかと(笑)。

 

変人のサラダボウル

 

変人のサラダボウル

※変顔などの平坂先生のオーダーを想像以上のクオリティに仕上げるカントク先生

 

 

――本当に印象的なイラストの多い本作ですが、気に入っているイラストについても教えてください。

 

割と全部好きなんですけど、サラが競馬観戦して叫んでいるイラストや、サラがご飯を食べて幸せそうにしているイラストなど、サラが幸せそうにしているイラストは全体的に好きです。あとはリヴィアの全裸とか、サービスカットも大好きです。このあたりは『妹さえ。』からリヴィアに引き継がれている感じですね。まあ、サラを脱がすわけにはいかないですからね(笑)。

 

変人のサラダボウル

 

変人のサラダボウル

 

変人のサラダボウル

※サラのイラスト、そしてリヴィアのサービスカットがお気に入りだという平坂先生

 

 

――そして本作はコミカライズの企画も進行していますよね。

 

そうですね。コミカライズの担当は『ソードアート・オンライン ファントム・バレット』などの漫画を担当されている山田孝太郎さんです。山田さんにはアニメ『妹さえ。』の蚕登場のシーンで、蚕の漫画を描いていただいたこともありますし、『はがない』の時にもちょっとしたお付き合いがありました。担当編集さんとも付き合いが長く、昔からの御縁が繋がった感じです。既にネームも何話か監修させていただいていて、超上手いです。媒体は未定ですが、夏頃からの連載が予定されているので、自分も今から楽しみです。

 

サラ

※山田孝太郎先生が担当するコミカライズは今夏スタート予定!

 

 

――ありがとうございます。では発売された最新刊の見どころについてもお聞かせください。第2巻のラストではサラに裏切られた友奈の雄叫びで幕を閉じていました。

 

そうですね。第3巻のおおまかな流れを言うと、サラの小学校生活編がひとつメインになります。小学校で無双するサラのとんでもなさを楽しんでもらえればと思います。そしてサラに裏切られちゃった友奈にも大きな出来事がありますし、他のキャラクターにもラブコメのような要素が入ってきたりもします。リヴィアも相変わらずひどい生活というか、とにかく盛りだくさんなので、楽しんでいただければと思います。

 

変人のサラダボウル

※どのキャラクターからも目が離せない第3巻の展開にも注目してもらいたい

 

 

――本作で目指したい目標や野望があれば教えてください。

 

自分としては、人を笑わせられたらいいなって感じです。『変人のサラダボウル』を手掛けるうえで、もともとやりたかったことがあるんです。自分は大武政夫さんの『ヒナまつり』という漫画がすごい好きだったんですが、2020年に終わっちゃったんですよね。だからこそ、『ヒナまつり』のような作品を自分で書こうと思ったのも大きい理由としてありました。いろんなキャラクターが登場して、楽しい作品になっていけばいいなって思います。ライトノベルにも純粋なコメディだけのお話っていうか、笑えるギャグ作品が増えるといいなって思ってます。

 

 

――それでは最後にファンのみなさんにメッセージをお願いします。

 

第3巻も前巻に引き続き、リヴィアの激動の人生があったりして、第1巻や第2巻が楽しかった人にとっては絶対に楽しいと思います。そしてまだ本作を読んでいない方へは、コメディが好きであれば刺さる作品だと思います。もちろんキャラクターの可愛さなどから入っていただいても全然楽しいですし、いろんな人に、幅広い層に楽しんでもらえる作品になっていると思います。ちょっと変わったものが読みたい人にも刺さると思うので、全人類にオススメっていう感じです。

 

 

――本日はありがとうございました。

 

 

<了>

 

 

現代に馴染んでいく異世界の皇女と女騎士を中心にした日常を描く群像喜劇を綴る平坂読先生にお話をうかがいました。安定した生活を送るサラと、波乱万丈で激動の人生を送るリヴィアの対比も、笑って面白く読むことができる本作。キャラクターひとりひとりの笑える言動から目が離せない『変人のサラダボウル』は必読です!

 

<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>

 

©平坂読カントク/小学館「ガガガ文庫」刊

kiji

[関連サイト]

ガガガ文庫公式サイト

 

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変人のサラダボウル (3)
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変人のサラダボウル (ガガガ文庫 ひ 4-15)

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