【特集】画集『妹さえいればいい。 カントク ARTWORKS』発売記念インタビュー 平坂読先生×カントク先生
2020年2月18日に発売された画集『妹さえいればいい。 カントク ARTWORKS』、そしてシリーズ最終巻となる『妹さえいればいい。』第14巻の発売を記念して、物語を手掛けてこられた平坂読先生と、同じくイラストを手掛けてこられたカントク先生のお二人に、完結を迎えた同作についてのお話を伺いました。なお、本インタビューの一部は画集『妹さえいればいい。 カントク ARTWORKS』にも収録されたものとなっており、画集と本記事をあわせて読むことで、インタビューの全編を読むことができます。
・平坂読(インタビュー内は「平」)
ガガガ文庫にて『妹さえいればいい。』を全14巻で刊行。MF文庫J刊『僕は友達が少ない』などの人気シリーズを手掛ける。
・カントク(インタビュー内は「カ」)
ガガガ文庫にて『妹さえいればいい。』のイラストを担当。MF文庫J刊『変態王子と笑わない猫。』などのイラストも手掛ける。
・担当編集・岩浅
ガガガ文庫『妹さえいればいい。』担当編集者。二人の対談の中でもちょくちょく名前が登場する。
■対談全概要 ・5年を駆け抜けた『妹さえ』を振り返る(画集収録・冒頭のみWEB公開) ・登場する作家には平坂読の一部が投影されている(画集収録) ・2017年にTVアニメ化も行われた『妹さえ』(画集収録) ・物語としてのターニングポイントは千尋の性別が明かされた瞬間だった(画集収録) ・群像劇を描く特徴的だったカバーイラストには挑戦が詰まっていた(画集収録) ・平坂読「アシュリーこそ理想の嫁」(画集収録) ・大切なのは「妹」よりも「○○さえいればいい。」(画集収録) ・カントク「『妹さえ』は平坂先生に引っ張り続けてもらった作品」(画集収録) ・絶えず変化し続けたキャラクターたち(WEB公開) ・『妹さえ』は6割がフィクションの物語である(WEB公開) ・シリーズを最後まで追いかけてくれたファンのみなさんへ(画集収録・WEB共通) |
――本日は平坂読先生とカントク先生にお話をお伺いします。よろしくお願いします。
平&カ:よろしくお願いします。
――それでは自己紹介について平坂先生お願いします。(カントク先生の自己紹介は過去記事にて)
平:出身は岐阜県です。経歴は2004年にMF文庫Jから『ホーンテッド!』という作品でデビューさせていただきました。その後MF文庫Jで10年程執筆を続け、代表作に『僕は友達が少ない』などがあります。ガガガ文庫では『妹さえいればいい。』を執筆しています。
カ:平坂先生は新人賞からのデビューなんでしたっけ。
平:MF文庫Jライトノベル新人賞の第0回ですね。当時は新人賞としての募集ではなく、持ち込みのように随時募集中のような感じでした。新人賞を獲ったという体での幻の第0回です。
カ:そうなんですね(笑)。
――好きなものや苦手なものがあれば教えてください。
平:食べ物とかでもいいんですかね。であれば海老が好きですね。苦手なものはモツ系の料理がちょっと……。
カ:海老がお好きなのは存じていたんですけど、蟹も好きじゃなかったでしたっけ。
平:蟹も好きですけど海老の方が好きですね。海鮮全般が好きで、その中で海老が飛び抜けて大好きです。自分で料理も結構するんですけど、海老料理ではアヒージョをよく作りますね。刺身のような生食ではなく、きちんと火を通した海老が好きなんですよ。
カ:料理やお酒がお好きなんだろうなっていうのは、『妹さえ』第1巻の頃から雰囲気を感じていたんですけど、本格的に料理を作るようになったのはいつ頃からなんですか。
平:大学に入った頃から一人暮らしで、当時から自分で作るようにはしていたんです。調理器具に凝るようになったのは、ちょうど2015年の『妹さえ』を書き始めた頃からだったと思います。とはいえ、揚げ物なんかを作るようになったのはここ最近ですが。
カ:羨ましいです。我が家には揚げ物用の鍋とかありませんからね(笑)。料理に凝り始めたきっかけってあったんですか。
平:あったかな……はっきりとは覚えてないんですけど、恐らく料理ものの漫画やアニメの影響だったと思います。『異世界食堂』はきっかけのひとつだったような気がしますね。
――お酒も非常にお好きだと伺っています。
平:そうですね、お酒は好きです。ただ、かなり前の出来事ですけど、お酒の飲みすぎでガチで身体を壊してして搬送されたことがあって、それ以来は控えるようになりました。控えめだと思います。とりあえず、めちゃくちゃに飲むようなことはなくなりました(笑)。
――カントク先生が平坂先生の食べ物の好みをご存知でしたが、お二人は頻繁に交流されていらっしゃるんですか。
カ:基本的には新刊が発売されるたびに打ち上げ兼打ち合わせみたいな感じで顔を合わせてましたよね。第13巻が発売された後にもお話していますし。
平:そうですね。年3冊くらいの刊行ペースだったので、1年で3~4回の頻度でお会いしていました。とは言っても、これと言って作品についての詳細なお話をするわけではなかったですけど。
カ:次が決まっていないことも多かったので、いつも感想戦になっていた気がします。『妹さえ』は僕もかなり楽しく読んじゃっていたので、「あのシーンがよかった」「このシーンのイラストを描くのはすごいプレッシャーだった」とか、そんな話ばかりしていました(笑)。物語については、僕が何か意見を言ったとしても、結局は平坂先生が考えた方が面白いことは分かりきっていましたから、そういう話はあまりしなかったと記憶しています。
平:次の巻の話をする時は、新キャラが多くなるからキャラデザが大変になるかも……みたいな話が中心でしたね。
カ:キャラデザの数が多いとスケジュールにも影響が出るかもしれない、みたいな。
平:それ以外は業界話で盛り上がりつつ、私生活の話をほんの少しばかり、みたいな感じだったと思います。
カ:そうですね。アニメ放送の期間中とかも業界のお話をたくさんしていた気がします。
■5年を駆け抜けた『妹さえ』を振り返る
――あらためて本作の企画立ち上げの経緯をお聞かせください。
カ:僕もこういう経緯で、というところをしっかりと把握していないので一緒に整理しましょう(笑)。僕の主観からだと、次の作品を何かやりたいなと思っていた時期があって、編集の岩浅さんにも少し相談していました。相談よりしばらく経ってから「平坂先生の新企画があるんだけどどうだろう」ってお話をいただいたんですよ。これはやるしかないとお引き受けしました。ざっくりと僕から見た企画の発端はこんな感じだったんですけど。
平:自分は岩浅さんからガガガ文庫で作品を書いてみませんかというお話をいただいたところがスタートだったと思います。その後に、カントク先生と組んでやりませんかっていう話をあらためて聞いた感じですね。
カ:なるほど。僕と平坂先生のスケジュールを押さえてから動き出したってことなんですかね。
平:結果的にはそうなんだと思います。当時、企画自体はいくつか考えていて、そのうちのひとつが『妹さえいればいい。』だったんですよ。
カ:僕は平坂先生とタッグを組むことが決まって、岩浅さんからはギャグっぽいものになるかもしれないという話だけは聞いていました。
平:自分は作家ものをずっとやりたいと思っていて。とはいえ、作家ものが売れ線ではないことは理解していたので、正直足踏みをしていたのが実情です。ただ、カントク先生とタッグを組めるのであれば、作家ものでも市場で戦えるんじゃないかって思ったんですよね。そうして企画が本格的に動き始めました。
カ:当時は僕のスケジュールもぽっかり空いていて、シリーズを始めるにあたって障害になるものが何もなかったんですよね。
平:カントク先生は常に忙しいイメージなので、タッグを組めたこと自体がすごく幸運だったと思っています。
――実際にタッグを組まれたわけですが、当初のお互いの印象はいかがでしたか。
平:もともと『僕は友達が少ない』のアンソロジーで表紙を描いていただいたりと、カントク先生との面識自体はありました。イラストレーターとしての力量がすごいことは知っていましたし、岩浅さんからもいち社会人としてしっかりした方であると聞いていました。最初から信頼してお任せすることしか考えていなかったです。
カ:僕もまったく同じでした。平坂先生とお話をしてもすごく真面目にお答えいただけるし、原稿の締切もきっちり守られる。すごく大人なクリエイターだなって思ってました。一方で、周囲から聞こえてくる平坂先生のイメージとはかなり違ったところもあったので、未だに混乱しているところもありますけど。本当の平坂先生とは、って(笑)。
平:過去にいろいろあったことは否めないので、このあたりはノーコメントということで(笑)。
カ:でもこの5年間一緒にお仕事をさせていただいて、今の姿が本来の平坂先生なんだろうなって思っています。素晴らしいクリエイターだと思います。
※5年を駆け抜けた『妹さえ』の更に深い振り返りは画集の対談にて確認してもらいたい
■絶えず変化し続けたキャラクターたち
――キャラクターをデザインする上ですんなり描けたキャラクター、非常に悩んだキャラクターはいましたか。
カ:悩まないキャラデザはほとんどないのですが、初っ端から外したのは那由多でした。当初は銀髪美少女を描きたい欲求が強くて、かっちりとした優等生デザインだったんです。まさに天才銀髪小説家ですね。でも実際に作品を読み込むとそうじゃないってわかるんですよ。平坂先生の場合は読み込むと大体その中に正解がある。なので、物語を深く理解することの大切さを学ぶことができたと思いました。那由多以外では、千尋も苦戦しました。最初はてっきり伊月の前以外では制服を着て学校に通っているものとばかり思っていたので、そういうアレンジも可能な女の子をデザインしたんです。でも千尋は私服登校OKの学校に通っているというお話で、普段からユニセックスの服を着ているという。まさにイラストレーター泣かせなキャラクターでしたね(笑)。
平:男性陣はどうでしたか。
カ:逆に男性陣はすんなり描けることが多くて、ほとんど苦労がなかったように記憶しています。おっさんからお爺さんまで、これまであんまり描いてこなかった属性ですけど、抵抗はありませんでした。
平:羽島啓輔のイラストには、カントク先生に大変気を遣っていただいたと感じました。伊月と絶妙に似ている雰囲気を醸し出してもらって、ちゃんと家族であることを感じることができました。基本的にはどのキャラクターもデザインがあがってくるたびに、素晴らしいなって満足していました。
※カントク先生が苦戦したという那由多と千尋
――物語を通してもっとも印象が変化したキャラクターは誰ですか。
平:当初の予定からどんどん変化したのはアシュリーでしたね。第1巻では税理士という属性ありきで、重要キャラではないからこそぶっ飛んだキャラ設定にしていたんです。でもどんどん人間味が増して、転機は第7巻でした。はじめは海津や幽と知り合いであるという設定そのものがなかったんです。まさに第7巻で生まれた彼女の物語であり、それがなければ本当にただの脇役で終わっていたと思うんです。
※物語を通して最も変化したのはアシュリーだったという
カ:それは第6巻時点まではまったく考えられていなかったってことですか。
平:そうですね。まったく考えていませんでした。
カ:アニメの影響ってわけでもないんですよね。
平:第7巻はアニメが始まる前でしたから。アニメではアシュリー役の沼倉愛美さんの声と芝居が素晴らしくて、よりお気に入りにはなりましたけど。
カ:僕は読者目線になってしまうんですけど、那由多ですね。毒も強めのキャラクターで、伊月への依存が半端じゃなかった。伊月と那由多は最初からくっついているようなものだったので、伊月に対するアンチウイルスというか、青葉に対して「泥棒猫」って牽制する台詞もありましたけど、そんな台詞もすごく似合う面白いキャラクターだったと思います。そうしていよいよ面白くなってきたと思ったら、髪をばっさりと切ってしまう。伊月と一度別れたことで、これまで見えてこなかった内面や性格、理知的な面が覗くようになったと感じました。第14巻でも印象はより変わっていますし、最初から最後までデザイン共々変化し続けたキャラクターだなって思います。
平:春斗はほとんど変わらずに良い奴でイケメンでしたね。
カ:そうなんですけど、初登場の一言目が「イケメンでーす」でしたからね(笑)。
平:そこは今振り返ると、春斗としてはちょっと違ったのかなって思います(笑)。
カ:千尋は変わっているようで、あんまり変わっていないのかなって。
平:千尋はポンコツ化しますからね(笑)。
カ:確かにそうですね(笑)。いいシーンが後半からたくさん出てきて面白かったです。
平:物語として千尋の役割は性別バレが一番大きくて、性別がバレてからは出番が減るかなって思ってたんですけど、コメディ要員としてすごく使いやすくなったんですよ。むしろ性別バレする前よりも輝いている気がします。これまではあんまり目立つキャラでもなかったぶん、どんどん前に出てくるいいキャラクターになりました。
カ:千尋、京、那由多の3人はアンケートでもずっと同じくらいの人気でしたよね。
平:そうですね。アンケートはだいたいその巻で活躍したヒロインが1位として入れ替わりながら、伊月を含めて上位を争っていましたね。
※性別バレをしてから一層魅力を増したという千尋
■『妹さえ』は6割がフィクションの物語である
平:フィクションとノンフィクションは半々……でも言うほどリアルではない気がします。割合でいうと6対4くらいです。もちろん作品としてリアリティがあるように書いている部分もありますからね。真実を知りたければ、自分で業界に入ってその目で確かめてもらうしかないですよね(笑)。
カ:本当にどす黒い、クリエイターの内面みたいなものは描かれてないですしね。
平:そうですね。フィクション・ノンフィクションのお話をするなら、漫画の部分は本当にフィクションばかりです(笑)。蚕の登場によってこの作品のフィクション度は一気に跳ね上がりましたから。
カ:確かに蚕というキャラ自体が勢いで乗り切っている雰囲気がありますよね。
平:漫画家だから手先が器用です、みたいなくだりも書きましたし。
カ:そんなわけはない(笑)。
平:ただ、クリエイターの生々しい部分を書きたかったというのは事実で、コメディでコーティングしながら、嫌な部分も書かなきゃという想いはありました。
カ:コーティングされていないシーンは、本当にグッサリ刺さりました。
平:そういうところは直接的に刺しにいきましたので(笑)。
カ:僕は第2巻でいきなり刺されましたからね。京の存在のありがたさと重要性が格段に上がったエピソードだったと思います。
※本作におけるフィクションの象徴だったという蚕
■シリーズを最後まで追いかけてくれたファンのみなさんへ
平:『妹さえ』はいろいろと挑戦的なこともやっているシリーズで、好みも分かれる作品だったと思います。それでも最後までついてきてくださったみなさんには感謝をお伝えしたいですし、読んでくださった方々の心に刺さるものがあったのなら、それに勝る喜びはありません。
カ:最後まで読んでいただいてありがとうございます。『妹さえ』は口絵や挿絵だったり、コミカライズ、アニメをはじめ様々な形でビジュアル化されました。でも、それだけでは描き切れていないものもたくさんあったと思うんです。この対談を最後まで読むくらいの『妹さえ』中毒者のみなさんであれば、イラストがなくても各シーンの映像が脳裏に浮かぶと思うんです。ここまで一緒に、僕も読者として、一緒に楽しんでくれたことにただただ感謝を。
担当編集・岩浅:最後に担当編集として私からも一言伝えさせてください。この作品は当初、最強の作家と最強のイラストレーターのタッグで始まり、絶対に外せない企画として死にもの狂いで走り回った作品でした。ただ、一緒に作品を作っていく中で、平坂先生の文章、カントク先生のイラストを見ていくうちに、僕自身も編集者からファンにされてしまったところもあると思っています。世界で2番目に原稿を読ませてもらう身として、そして読者の代弁者として頑張ってきたつもりです。その熱量が少しでもみなさんに届いていたら嬉しいです。『妹さえ』に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
<了>
画集『妹さえいればいい。 カントク ARTWORKS』が発売された平坂読先生とカントク先生のお二人にお話をうかがいました。本記事には掲載されていない『妹さえ』秘話が画集では満載となっておりますので、本記事とあわせて読んでみてください。最高のラストを描く『妹さえいればいい。』第14巻もガガガ文庫より同時発売!
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