独占インタビュー「ラノベの素」 川原 礫先生『デモンズ・クレスト』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2022年11月10日に電撃文庫より『デモンズ・クレスト』が発売された川原 礫先生です。国民的作品にまで成長を遂げた『ソードアート・オンライン』をはじめ、WEB連載から人気シリーズを世に送り出してきた川原先生が、作家デビュー14年目にして初となる完全書き下ろしの新作として刊行する本作。デスゲームであっても『ソードアート・オンライン』とはまったく異なる展開を見せていきたいという意気込みや、小学生を主人公として描いていく物語の内容まで、様々にお話をお聞きしました。

 

 

デモンズ・クレスト

 

 

【あらすじ】

「お兄ちゃん、ここは現実だよ!」 雪花小学校6年1組の芦原佑馬は、VRMMORPG《アクチュアル・マジック》のプレイ中、ゲームと現実が融合した《新世界》に足を踏み入れる。事態が飲み込めず混乱する佑馬の前に現れたのは、クラス一の美少女・綿巻すみかだった。だが彼女の容姿は悲劇的なほどに変貌していた。それはゲームの『モンスター』としか思えないもので……。「――これはゲームであって、そして現実だ」 VR(仮想現実)、AR(拡張現実)に続く、川原礫最新作の舞台は、MR(複合現実)&デスゲーム!

 

 

――本日はよろしくお願いします。まずは自己紹介からお願いします。

 

川原 礫です。出身は群馬県高崎市……まではウィキペディアに載ってるのかな?(笑)。東京には大学進学時に出てきまして、仕事のようなものをしながら、ずっとMMORPG廃人を続けていました。その後、2008年に『アクセル・ワールド』の原稿を電撃小説大賞に応募して受賞し、2009年の2月に商業デビュー、今年で作家生活14年目になります。好きなものは最近まったく乗れていませんが、自転車やオートバイですね。苦手なものは……山ほどあるはずなんですが、人生から排除していったら忘れてしまいました(笑)。そもそも小説家を目指したのは就職活動をしたくなかったからですし、世間一般的なお仕事は全部苦手だという意識があるのかもしれませんね。

 

 

――ありがとうございます。川原先生のゲーマーぶりは大変有名です。生活は非常にお忙しいとは思うのですが、エンターテイメントは摂取できていますか。

 

そうですね。非常に限られた時間ではありましたけど、今年の2月に発売された『エルデンリング』はプレイしました。とはいってもやり込む時間もなく、1回クリアしただけなんですけど。その代わりというわけではないですが、ゲームを遊ぶ機会の減少と比例して、ゲーム配信者さんの動画を見るようになりまして。最近は仕事をしながら流していることが多いですね。

 

 

――配信の視聴はお仕事の支障にはならないのでしょうか。ついつい横目で画面を見てしまいそうな感じもしますが(笑)。

 

これが意外と邪魔にはならないんです。アニメや映画はどうしても意識の大半を持っていかれてしまうんですが、ゲーム配信は配信者さんのおしゃべりがメインです。感覚的にはラジオに近くて、意識を原稿に集中させつつ聞いていられるんですよ。もちろんどうしても気になったら画面を見ちゃいますけど、聞いているだけでだいたいの状況把握ができますからね。最近は特に音楽よりもゲーム配信動画を流しているので、自分でゲームを遊んでいなくても世のゲームトレンドにはなんとかついていけていると思います。遊んだことはないですが『Apex Legends』にはだいぶ詳しくなりました(笑)。

 

 

――なるほど。今も様々なオンラインゲームが登場していますが、ゲームで遊びたいという欲求はだいぶ抑えられている感じなんですね。

 

いや、そんなことはなくて遊びたいという欲求は無茶苦茶ありますよ。ただ、時間がそれを許してくれない。もしMMORPGを遊ぶにしても、僕はカジュアルプレイじゃ満足できない(笑)。それこそ人生の9割を捧げる勢いで、1日最低10時間は遊ばないと遊んだ気にもならないと思います。僕が『ウルティマオンライン』や『ラグナロクオンライン』をプレイしていた時は、1日平均10時間や12時間プレイするのが当たり前でしたし、それぐらいやり込まないと、本当の醍醐味を味わえないと思うんですよね。しかしながら今のお仕事の状況を踏まえると老後になるまでは難しい……。ちなみにライトノベル作家の老後っていつなんですかね。ライトノベル作家としてのすごろくをあがった方って、まだいらっしゃらないんじゃないかという気もするんですが。

 

 

――ライトノベル作家の老後ですか……。『ロードス島戦記』の水野良先生でさえ、まだまだ執筆を続けていらっしゃいますしね。

 

そうですよね。神坂一さんもバリバリやっておられますし、ライトノベル作家って何がどうなったら老後なのかわからないんですよ(笑)。もちろん本が売れなくなってしまって、意に沿わず引退ってことはあるかもしれませんけど、それはそれで新たな戦いが続くわけで……。1日中ネットゲームをするには、今のところ老後を迎えるしかない身としては、その答えが欲しくもある。もし老後を迎えられたら、その頃には腰や肩に負担のかからない、『SAO』のようなフルダイブ型のゲーム配信が行われていてほしいですね(笑)。

 

 

――1日中ネットゲームをする日々を夢見ていただきながら、まだまだ多くの作品を世に送り出し続けていただきたいところです(笑)。ちなみになのですが、川原先生は他の作家さんとの交流はどの程度あるのでしょうか。コロナの影響もあり、業界を総じて作家間の交流もかなり減っている印象がありまして。

 

商業デビューしてからはしばらく頻繁にありましたね。月に1回ラノベ作家が集まる飲み会も開催されていて、僕も顔を出していました。お名前は出しづらいですけど、現在も第一線で活躍されている作家さんも大勢いましたし、すごく刺激をいただける場所でもあったんですよね。ただ開催頻度はじょじょに下がっていき、僕もプライベートで何人かの作家さんとツーリングに行ったりすることに留まるようになっていったと思います。そして2020年のコロナですよね。交流のほぼすべてが消滅し、自分も仕事以外で他の作家さんとやり取りすることがほとんどなくなってしまいました。

 

 

――川原先生にとってもコロナの影響は大きかったんですね。

 

そうですね。仮にプライベートで会うことが難しくなってしまっても、出版社さんの忘年会などで1年に1回は必ず会えていたことを考えるとなおさらです。もう3年近くそういった機会が失われていて、他の作家さんとリアルで顔を合わせることもありません。ついでに言えば、編集部にもまったく足を運べてないんですよ。この期間に電撃文庫編集部も様変わりしていて、フリーアドレス制になったことで編集者さん個人のデスクもないし、編集部に打ち合わせや作業用のブースもなくなりました。昔、と言っても数年前までは編集部の作業スペースを借りてゲラチェックをこなすことも多かったんですけど、それもなくなってしまった。時代の流れと言えばそれまでなのですが、すべてがオンラインで完結してしまうのも少し寂しいというか味気ない気はしますね。

 

 

――なるほど。やはり編集部には足を運びたいものですか。

 

はい。特に私は電撃文庫の作家であるという意識でずっとやってきましたし、それは今も変わらないんですが、足を運ばなくなってしまうと、電撃文庫編集部という存在が概念と化してきてしまうんです。編集者さんとご飯にも行かなくなりましたし、繋がりが減ってきている。新人さんの授賞式こそギリギリやっていますが、受賞パーティーもないので、レーベルの先輩後輩も、顔を合わせる機会が少なくなってきています。僕はそれがすごく残念なんですよ。

 

 

――繋がり、という面で言えば間違いなく減少していますからね。

 

ライトノベル作家としてデビューするには、新人賞を受賞してデビューするか、WEBで連載してデビューするかの主だった2つのルートがありますよね。僕は新人賞でデビューする最大のメリットは、同期の作家さんと密接な繋がりができることだと思ってます。僕も同期の作家さんたちと情報交換をしたり、励まし合ったり、ライバル意識を持ったり、結構やり取りもしていたし定期的に会ってもいました。同期作家とみんなで一緒に頑張ろうみたいな意識があったんです。でも今は授賞式で顔合わせはできても、その後に飲み会とかもやりづらい。編集部に頻繁に足を運ぶこともご飯に行くことも難しい現状、繋がりを作ったり保ったりすることのハードルも上がっているんじゃないかなと想像しています。

 

 

――レーベルへの帰属意識、そして同期をはじめとした作家間の繋がりに対するアプローチは、各出版社さんにとっての課題になっていくのかもしれませんね。新人さんのお話も出てきましたが、ここ数年は書籍化の間口も広がり、20歳前後の若い作家さんのデビューも増えた印象があります。川原先生も下からの突き上げを感じたりはされていますか。

 

当然あります。ただ、作家は体力勝負の面もかなりあると思っていて、デビューは早ければ早いほどいいと思ってます。特にライトノベルで言うと、量を書いてなんぼという面もある。若ければ若いほどたくさんの経験が積めるし、たくさん原稿も書けますよね。なので、若くしてデビューする作家さんが増えるのはとてもよいことだと思います。おっしゃられた通り、そのぶん下からの突き上げが激しくなりますが、それを言い出したら僕もデビューして上を突き上げてきたわけですから(笑)。業界もそうやって発展してきたので、そこは今更言っても仕方がないでしょう。突き上げられるのが嫌なら、可能な限り上に居座り続けられるよう、蓋をし続けられるよう頑張るしかないんですよ(笑)。

 

 

――競争が起こっていることそのものが、業界として健全な証でもあるわけですね。

 

こと競争に関して言えば、あくまで個人的な意見ですけど、環境としてより過酷になっているのはベテランよりも新人さんなのかなと思います。同条件で競う方の絶対数が増えているわけですからね。デビューしてある程度キャリアのある作家は、もちろん突き上げは人数分激しくはなるんでしょうけど、そこはまた様々な戦い方があるわけです。なので、生き残りが難しいという意味では、新人さんの方が環境として厳しくなっているような気はします。

 

 

――ありがとうございます。それでは『デモンズ・クレスト』のお話もお聞かせください。まずはWEBからの書籍ではないという意味では、初の完全書き下ろしの新作となりました。作家デビュー14年目で本作を世に送り出す率直なお気持ちはいかがですか。

 

あとがきにも書いていますが、『デモンズ・クレスト』という作品のアイデアを練り始めたのが2016年です。そこから肉付けをしていき、お話の内容が見えてきたのが2018年から2019年頃。当時は『ソードアート・オンライン』の劇場版『オーディナル・スケール』の公開が終わり、TVアニメとして放送された《アリシゼーション》編の準備が佳境に入っていました。とにかく忙しくて、とてもじゃないけど既存の4シリーズに加えて新作をもう1本動かせるような状況ではなかったんですね。少なくともどれか1タイトルが落ち着くまで出版はできないとお蔵入りさせていたんです。それからしばらくして、三木一馬さんがストレートエッジの事業として、縦読み漫画のWebtoon事業に参入し、Webtoonレーベル「HxSTOON」を立ち上げたんですよ。そこで『デモンズ・クレスト』をWebtoon化しないかと。

 

デモンズ・クレスト

※しばらくのお蔵入りから、Webtoon化への話で動き出した本作

 

 

――お蔵入りとなっていた作品を、Webtoonとして展開するというのが最初の動きだったんですね。

 

僕も作品をずっと寝かせておくよりは、原作として使っていただければと考え、ぜひにと快諾したんです。そうしたら、「ひいてはWebtoonの連載開始と同時に小説を電撃文庫から出版したい」というお話が三木さんから一緒に戻ってきたんですよ(笑)。これは正直かなり迷いました。ただでさえ『ソードアート・オンライン』、『ソードアート・オンライン プログレッシブ』、『アクセル・ワールド』、『絶対ナル孤独者《アイソレータ》』が、年に1冊出るかどうかの、ラノベシリーズとしてはギリギリ限界の刊行ペースだったわけでして。仮にもう1作品動かしてしまうと、どの作品も続刊を1年以上お待たせすることになりかねず、読者さんに申し訳ないという思いもありました。その一方で、文庫として出版するタイミングを考えると、Webtoonにあわせて刊行する考え方は正しいし、ここを逃すと次に出版できる機会が何年後になるかも想像がつかなかった。本当にいろいろと考え、結果「じゃあやりましょう、出しますか」とお返事をさせていただいたんです。

 

 

――あとがきを拝見した際にも感じましたが、刊行に際しては本当に大きな葛藤があったわけですね。

 

もちろん、僕も一定の見通しが立ちそうだなと思ったからこそ決断したわけです。ここ10年近く、アニメの脚本の監修や特典小説の執筆など、小説以外の仕事が相当なウエイトを占めていたんですが、2022年で一旦落ち着くはずなんです。なので、2023年は小説を書く時間が今年に比べると、2倍とは言わずとも、1.5倍くらいには増える……予定です。なので、来年は頑張れば年4冊いけるか、いきたい、という思いがありますし、小説にあてられる時間を考えつつ、刊行を決断しました。ただ、そうですね。誤算というと誤解を招いてしまうのですが、『デモンズ・クレスト』のプロモーション体制が僕の想定を遥かに超える予算がかけられていて……想像していたよりも大きな船に乗っているぞと感じています。三木さんをはじめとしたストレートエッジさん、Webtoonの作画まわりを担当されているフーモアさん、プラットフォームのアカツキさん、この3社の意気込みがとにかくすごくて、途中で僕だけ海に飛び込むことはできない状況になってしまいました(笑)。

 

 

――なるほど(笑)。ですが、読者からの期待の声も大きく、発売前重版も行われました。その点はひとつ安心材料にはなりませんでしたか。

 

発売前重版については本当にありがたいお話ですし、もちろん嬉しいです。でも作品評価を経ての重版ではないということは、しっかりと頭の中に入れておかなくてはいけないと思っています。発売前重版はプロモーションを含め、作品への期待の表れだと思っているので、ここからどれだけその期待に応えていけるかどうかが鍵です。特に今作は、マーケティング的な視点をほぼ考えず、僕が全力で面白いと信じたものを書いた作品でもあります。それが現在の読者さんに受け入れてもらえるのかどうか、プレッシャーは感じています。

 

 

 

――それでは『デモンズ・クレスト』についてどんな物語なのか教えていただけますでしょうか。

 

物語の入り口としては、VRMMOとデスゲーム。VRMMORPG「アクチュアル・マジック」は、『ソードアート・オンライン』とは異なり家庭用ではなく、アミューズメント施設の専用カプセルに入って遊ぶフルダイブゲームになります。そのオープニングイベントに、主人公の佑馬くんが通う小学校6年1組のクラス全員が招待されます。全員がカプセルに入り、「アクチュアル・マジック」を楽しくプレイするわけですが、そこで何かが起こってしまう。ここまでは『ソードアート・オンライン』と同じような展開だ、と思われるかもしれませんが、その先からがだいぶ違います。事件発生後、本作は『ソードアート・オンライン』とは似ても似つかない作品になっていくので、そこで読者さんには1回驚いていただきたいなと思っています。

 

デモンズ・クレスト

※VRMMORPG「アクチュアル・マジック」からログアウトできなくなるのだが……

 

 

――本作のアイデアは2016年頃より練り始めたというお話でした。あらためて着想についてお聞かせください。

 

この作品の出発点はVRMMOやデスゲーム要素ではなく、群像劇です。今となっては『ソードアート・オンライン』も『アクセル・ワールド』もキャラクターがたくさんいますけど、シリーズとして長く続いた結果であって、ジャンルとしても群像劇ではありません。僕自身、1回いろんなキャラクターが入り乱れ、それぞれの思惑で動いていく群像劇作品を手掛けたいと考えていました。それも小学校の1クラスで、です。小学生は学校と家庭が世界のすべてみたいなところがあるじゃないですか。今でこそわかりませんけど、僕が小学生の頃は学校が世界だとすると、隣のクラスは別の国くらいに遠い場所でした。自分の教室が自分の暮らしている国で、本当に密度の濃い世界だったんです。決して大きな世界ではない中に、小学生ならではの人間関係やヒエラルキーが存在します。そんな子供たちをVRMMOのデスゲーム的な世界観の中で描きたいと思ったんです。

 

 

――群像劇の執筆が原点であったと。それはそれとして、小学生とデスゲームの組み合わせも、ライトノベルではかなり挑戦的だなと思いました(笑)。

 

三木さんにも当時、「小学生でデスゲームのようなことをやっても大丈夫ですかね?」みたいな相談はしたと思います。いつもの調子で、「全然いいっすよ」みたいなことを言っていた記憶がありますね(笑)。

 

 

――だからこそお聞きしたいのですが、小学生を主人公に据えたのはなぜなのでしょうか。

 

理由としては先程も言ったように、小学生で群像劇を描きたかったからですね。また、僕の書く作品の読者年齢が年々上がってきている感覚があるんです。これは書いている僕自身もそうですし、読者さん自身もそう。『ソードアート・オンライン』で例えると、《アリシゼーション》編は明らかに小学生に向けたものではないですからね(笑)。なので、作品もターゲットとする年齢層も1回下げたいという思いがあるんです。もちろん『デモンズ・クレスト』を小学生が読んでくれるかどうかはまた別の話ではあるんですけど、僕の意図としては小学生からちゃんとターゲットにして読んでもらいたい。個人的にも少年漫画のような立ち位置の作品を目指してみたいという思いもあるので。ただ、ターゲットとする年齢層を下げるからといって、作品のテイストを温くするのかというとそんなことはありません。昨今『鬼滅の刃』は小学生にも大ヒットしましたけど、あの世界観もめちゃくちゃハードですよね。敢えて小学生向けにレーティングを意識する必要はまったくないとも思っているので、僕が書けるギリギリの熱湯に浸かってほしい。実際、主人公たちが陥る運命、状況はだいぶ過酷な感じになっていますからね。

 

 

――なるほど、そういった思惑もあるわけですね。それでも小学生を主役級として描くことの難しさもあるんだろうなと思います。小学生の子供たちを描いていく上での難しさ、そして面白さについても教えてください。

 

そこはおっしゃる通りで、感情の制御能力ひとつ取ってみても、中高生とは同列にできないですし、単純に比べられなかったりもするので、非常に難しいポイントのひとつだと思います。だからといって、中高生や大人と比べて頭を悪くする必要もないと思っています。友人の小学生のお子さんとゲームをしたりすると、ゲームに対する理解力は断然彼らの方が上です。もちろん社会全般に関する知識は大人にかなわないこともあるでしょうけど、ゲーム的なことで言えば、対処能力や判断能力は子供だからと制限する必要はありません。もちろん、全員が全員極限状態で大人な対応ができるかというとそんなことはない。そこは子供らしくパニックになったりいがみあったりするわけです。僕としてもバランスをかなり考えて描いていますね。

 

 

――それでは気になる登場キャラクターについてもお聞かせいただければと思います。

 

主人公の芦原佑馬は、おそらく僕が書いてきたこれまでの主人公と比べても、尖った属性がほぼなく、かなりニュートラルな主人公だと思います。ゲームが好きで、学校でいじめられているわけでもなく、クラスのヒーローでもない。これまで朗らかに育ってきたひとりの少年が、これから様々な要因によって難しい選択を迫られていくことになります。僕も佑馬というキャラクターがどんな選択をしていくのか楽しみながら描いていきたいです。

 

ユウマ

※小学6年生で11歳の主人公・芦原佑馬

 

佑馬の双子の妹の芦原佐羽は、一応ヒロイン扱いになるのかな?(笑)。小6としてはやや幼めな佑馬に対して、佐羽は少しばかり大人びています。これまでドジでいい加減なところもあるお兄ちゃんに、うるさいことを言う役目を担って育ってきました。物語が始まってからもそういう立ち位置ではあるんですけど、佐羽は佐羽で過酷な状況に置かれていくことになります。双子ならではの絆のようなものや、その認識に対する変化を迫られていくことになるかもしれません。

 

サワ

※小学6年生で佑馬と双子の芦原佐羽

 

茶野水凪は佑馬と佐羽の双子のお隣の家の子で、幼稚園に入る前の保育園から一緒に育ってきた幼馴染になります。次に紹介する近堂健児を入れた4人組の中で、実はこの子が一番しっかりしています。佐羽もしっかり者ではあるんですけど、感情の起伏に流されやすいところがある。そういう意味でも水凪は一番安定していて、4人組の接着剤的な役割を果たしています。とはいえ、この子は冒頭で行方不明になってしまい、水凪を探すのが主人公たちの大きな目的のひとつにもなります。水凪なしの3人の頑張りと、いつか登場してくるその時を楽しみにしてほしいキャラクターです。

 

ナギ

※4人組の中で一番のしっかり者・茶野水凪

 

近堂健児はムードメーカー的な、佑馬以上のお調子者です。雰囲気を明るくすることがとにかく上手で、頭の回転も悪くない。僕がこれまで書いてきた作品には、主人公と同年代の親友キャラクターがいませんでした。『ソードアート・オンライン』もユージオが出てきてようやくですし、『アクセル・ワールド』のタクムは最初は敵としての登場で、『絶対ナル孤独者』のミノルには影も形もありませんでした。僕としても初めて書く主人公の親友ポジションで、書いていて本当に楽しいキャラクターの一人です。健児と佑馬のコンビプレイも僕自身楽しんで書きたいし、読者さんにも楽しんで読んでいただきたいと思っています。

 

コンケン

※佑馬の親友ポジション・近堂健児

 

そしてPVにも登場している綿巻すみか。クラスで一番の美少女というありがちな設定ではありますが、序盤から大変なことになっています。綿巻さんを助けることも主人公たちの目的になります。美少女としてちゃんとしゃべる台詞はいくつもありませんが、回想シーンとして書いていく機会は増えていくでしょう。また、書店で配布する特典のリーフレットでは掌編を書いています。佑馬くんと綿巻さんのお話になっているので、そちらもぜひ手に入れて読んでいただければと思います。本編の試し読みなどでも読めているのかなと思いますが、彼女はモンスター化してしまう。ただ、僕はモンスター化した綿巻さんも好きなので、今後もたくさん登場させたいなと思ってます(笑)。

 

綿巻すみか

※クラス一の美少女でモンスター化してしまう綿巻すみか

 

 

――主人公の佑馬については、これまでの主人公との違いには触れていただきました。反対にこれまでの主人公たちとの共通点があれば教えてください。

 

結局ゲーマーだということなんですよね。佑馬くんの台詞や佑馬くん視点の地の文でもゲーム用語は頻出します。そこはやっぱり僕の書く主人公なんだなと(笑)。ただ、事件が起きてからの大規模アミューズメント施設「アルテア」は、ゲームであってゲームではないので、ゲーマーの知識だけでは乗り切れない場面がたくさん出てくると思います。主人公の佑馬くんが生身の人間としてどう立ち向かっていくのかも見どころにしていきたいです。

 

 

――ありがとうございます。続いて、本作のイラストは堀口悠紀子先生が担当されています。あらためてイラストを拝見した際の感想などをお聞かせください。

 

堀口さんは『けいおん!』などのアニメーション作品のキャラクターデザイナーとして有名ですが、《白身魚》というペンネームで、電撃文庫の土橋真二郎さんの作品のイラストを描いてもおられます。いまさら失礼かなとも思うんですけど、とにかくめちゃくちゃ上手いというのが第一印象。最初にキャラクターのデザインラフをいただいたんですけど、思わず三木さんに「めちゃくちゃ上手いっすね」ってメールに書いて送っちゃいました。それだけ魅力がすごくて、主人公の佑馬、佐羽、水凪、健児たちの小学生らしさや、活き活きとした存在感がすごく伝わってくる。それは主人公たちだけにとどまらず、綿巻さんも、第1巻では憎まれ役になっている須鴨くんや三園さんも同様です。カラーもモノクロも、アニメーション作品の切り出し画像かというくらいの迫力と魅力があって、イラストを見るためだけに買ってもいいんじゃないかって思います。

 

 

――特にモノクロイラストは、私も拝見させていただいてそのクオリティに大きな衝撃を受けました。ぜひ川原先生のお気に入りの1枚も教えてください。

 

全部のイラストが好きなのですが、カラーでは口絵の教室のシーンですかね。僕自身、カーテン全開で教室に入ってくる自然光と、そのぶん絞られた照明のコントラストがすごかったなという、学生時代の記憶を思い出すことになった1枚です。モノクロではネタバレになるためここではお見せできませんが、最後の1枚がすごく好きです。あとは、佑馬くんがキャプチャーしたウサギのモンスターに騒いでいる佐羽と水凪のイラストが可愛くて、表情がとにかく素晴らしいです!

 

デモンズ・クレスト

 

デモンズ・クレスト

※堀口悠紀子先生による必見のイラストが満載!

 

 

――そして本作が動き出すきっかけにもなったWebtoonも連載を開始しました。縦読み漫画ならではの魅力を教えてください。

 

僕はタブレットで漫画を読む派でして、スマホで漫画を読むことはほとんどなかったんですけど、印象は大きく変わりました。Webtoon版『デモンズ・クレスト』のネームを担当されている柊こだちさんと作画担当のTOもえさんがすごく上手くて、縦読み漫画ならではの表現、利点をすべて取り入れているんじゃないかと感じるくらい、とにかくすごいんですよ。読まれる方にはぜひ、構図やスピード感、演出の上手さを味わってほしいなって思います。僕自身も『デモンズ・クレスト』のWebtoon版を読んだことで、初めて縦読み漫画の味わい方をきちんと理解できたような気がします。背景の動きやそこにいるキャラクターの動きを、スクロールしていくことで感じることができる、まったく新しいメディアなんだと思います。『デモンズ・クレスト』はアクションがメインの作品なので、戦闘シーンの迫力、魔法を使うシーンはWebtoonの形式にマッチしていると思います。縦読み漫画初体験の人にとっても、楽しんでいただけるんじゃないでしょうか。

 

デモンズ・クレスト コミカライズ

※縦読みフルカラーマンガ版は「HykeComic」にて連載中!

※1~4話が無料で読める! 詳細はWEBTOON 公式Twitterをチェック!

 

 

――ありがとうございます。そして川原先生は2024年に作家デビュー15周年も控えています。ぜひ今後の目標や野望についても教えてください。

 

これまでも様々なインタビューで目標を聞かれてきて、ずっと生き残ることだと答えてきました。少なくとも10年目を迎えるまでは、最初の目標である「作家として10年生き残ること」を目指して全力で駆け抜けてきました。おかげさまで生き残るという目標は現在進行形で達成中です。そしていよいよ次の目標として「作品を完結させること」が視野に入ってきました。『ソードアート・オンライン』も『アクセル・ワールド』もまだ風呂敷が広がっている最中ですが、僕としても、それぞれの作品に相応しい形で完結させることが、新たな目標になるのかなと考え始めていましたし、考える時期に来ていることも間違いないのかなと思っています。どちらも30巻が目の前に迫ってきています。具体的な巻数や年数は明言できないですが、しっかりと完結を視野に入れて、各シリーズと向き合っていくことになるのかなと思います。

 

 

――最後にファンのみなさんに向けて一言お願いします。

 

『デモンズ・クレスト』第1巻では物語の舞台と状況が提示され、「え、ここで?」というところで終わっています。なので、第2巻はあまりお待たせせずにお届けしたいと思っています。第2巻では開示すべき情報をしっかりと開示して、この物語の全体像を示しながら、読者さんにこの作品にのめり込んでいただけるような展開にしていきたいと思っております。ぜひご期待ください。そして他の作品も疎かにせず、新シリーズもスタートしたからには、並行してガンガンやっていくしかありません! 2023年はこれまで以上に頑張って小説を書いていきますので、応援よろしくお願いいたします!

 

 

――本日はありがとうございました。

 

 

<了>

 

 

作家デビュー13年目にして、WEBからの書籍化ではない初の完全書き下ろし新作を手掛けた川原礫先生にお話をうかがいました。小学生たちを主人公に据えて、特異な展開から動き出すデスゲームを群像劇として描いていく本作。少年少女たちが、謎に満ちた過酷な環境下で一生懸命に走り出す『デモンズ・クレスト』は必読です!

 

<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>

 

©川原 礫 イラスト/堀口悠紀子

©HykeComic / Straight Edge Inc.

kiji

[関連サイト]

電撃文庫『デモンズ・クレスト』特設サイト

WEBTOON『デモンズ・クレスト』公式Twitter

電撃文庫公式サイト

 

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デモンズ・クレスト1 現実∽侵食 (電撃文庫)

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