【特集】電子書籍ストアから見るライトノベルのいま BOOK☆WALKER×ブックライブ×Reader Store担当者座談会
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2010年頃を契機にして、私たちの身近な存在となっている電子書籍にフォーカスした座談会をお届けします。昨今は紙の高騰なども相まって、電子書籍への注目度は日々高まりを見せています。ライトノベルの電子書籍も、話題の面でも売上の面でも、決して切り離すことはできない存在となっています。「電子書籍のライトノベルは売れているのか?」、「電子書籍で最も売れ線のジャンルは何か?」など、実情と実態について、総合電子書籍ストアである「BOOK☆WALKER」、「ブックライブ」、「Reader Store」の3社の担当者にお集まりいただき、電子書籍とライトノベルをテーマのひとつに据えつつ、電子書籍ストアから見えるライトノベルの景色など、様々なお話を語っていただきました。
――各電子書籍ストアの担当者が集まる機会もほとんどなかったということで、今回はいろいろなお話をお聞かせいただければと思っております。よろしくお願いいたします。
BOOK☆WALKER(以降BW)担当者:よろしくお願いします。
ブックライブ(以降BL)担当者:よろしくお願いします。
Reader Store(以降RS)担当者:よろしくお願いします。
――それではまず、各ストアのご紹介をお願いできますでしょうか。言える範囲で構わないので、ライトノベルの売上状況などにも触れてもらえると嬉しいです。
BW担当者:「BOOK☆WALKER」のサービスは2010年12月からスタートしました。利用者の現在の男女比でいうと男性の方が多いですが、最近では女性も増えてきました。20代後半から40代前半の方が多い状況です。ライトノベルは、書籍の中でも特に高い売上シェアを占めるジャンルです。
BL担当者:「ブックライブ」のサービスは2011年2月より開始しております。男女比について、現在は女性が6割、男性が4割で、女性比率が多くなっています。主要年齢層は30代や40代、女性ユーザーだと20代のユーザーが増えてきています。全体における売上比率は、マンガが一番多いのですが、ラノベも文字ものジャンルではかなり多い方でして、主要な一ジャンルになっています。
RS担当者:「Reader Store」のサービスは2010年12月からスタートしました。男性比率がかなり高めで、年齢層も30代から40代が主要なユーザーです。私たちのストアは文字ものが一般書を含めて比較的強いのですが、やはり今はコミックが一番売れていて、コミックとの規模には差こそありますが、それに次ぐ売上がライトノベルになります。
――3社ともサービス開始の時期がかなり近いですが、業界的に足並みを揃えるような動きがあったのでしょうか。
RS担当者:どうなんでしょう。インターネットの速度やデバイスも影響していたんじゃないかと思います。
BL担当者:スマートフォンやタブレットなどの端末が出てきたタイミングに合わせてっていうのが大きいのかなと思います。
BW担当者:2010年あたりは、いわゆる「電子書籍元年」と呼ばれ、日本国内でも多数の電子書籍ストアがオープンしたタイミングだったかと思います。
――ありがとうございます。ここからはライトノベルの話題にも触れていこうと思うのですが、まず各ストアではどういったライトノベル作品が売れているのか、或いは売れやすいと感じているのか教えていただけますでしょうか。
BW担当者:弊社は男性比率が高いので、基本的には男性が読む、オーソドックスな異世界ものが多いです。また、女性向けの異世界作品においても、男性も読める作風のものはBOOK☆WALKERでも売れていますね。
BL担当者:弊社でもやはり異世界転生ものがメインで売れています。女性向けの作品も多くなってきていますし、女性向けの作品の中に、男性向けっぽい異世界転生の要素を織り交ぜた作品も増えてきているかなという印象を受けています。売上規模としては男性向けの方が売れていますが、最近の伸び率としては女性向け作品が非常に高いです。
RS担当者:Reader Storeも男性の比率が高く、かつ年齢層も比較的高めということもあって、男性向けの作品の方がよく購入されていますね。ストアの傾向として、映像化されている作品が非常に強く、映像化のタイミングで既刊を一気に購入されるユーザーが多かったりします。また人気のシリーズを長く買い続けているユーザーが多いので、発売日を把握した上で当日に購入される方が多いという印象です。
――やはりアニメの放送がスタートしたタイミングで一気に買われるという方がどのストアでも多いのでしょうか。
BL担当者:そうですね。基本的にアニメ放送時にはフェアがほぼ必ず展開されるので、買いやすい価格になったタイミングで一気に買うというユーザーは多いですね。
BW担当者:弊社では毎回セットを組んで、まとめて購入してもらうという施策もやっています。もともとBOOK☆WALKER自体、ユーザーのARPUも高いので。
RS担当者:アニメ化された作品の中でも、もちろん差はあります。まとめて買われるユーザーも多いですが、まず1巻を買うというユーザーも多くおられますね。メディア化の影響はやはり大きくて、クーポンも出ますし、ストア内での露出も増えます。試し読みをしなくても、アニメが放送されているので、アニメを見れば面白そうかどうかをユーザーも判断しやすいんじゃないでしょうか。
――なるほど。アニメ化は大きな購買のタイミングになっているわけですね。また、試し読みというワードが出たのでお聞きしたいのですが、試し読み機能は、ユーザーにどの程度使われているのでしょうか。試し読みの効果については版元との話でも話題に上ることが多く、どの程度活用している方がいるのか大変気になります。
RS担当者:試し読みがある作品のほうが購入されやすい傾向にあるというデータはありますね。
BW担当者:BOOK☆WALKERの試し読みは、読書メーターなどからも導線があります。読書メーターはラノベユーザーがものすごく多いというわけではないのですが、試し読みはよく読まれています。なので、外部からの需要はすごくあるのかなと。また、親会社であるKADOKAWAの各レーベルが弊社の試し読みのURLを載せてSNS投稿をすることも多く、かなり拡散された時は、読んでいる方が多いんじゃないかなと思いますね。
RS担当者:それはシリーズの1巻がスタートする時に、KADOKAWAの各レーベル担当者が意識的に試し読みリンクを投稿されているということでしょうか。
BW担当者:そうだと思います。
RS担当者:既刊やシリーズの新刊だとそこまで試し読みリンクのSNS投稿はされないですか?
BW担当者:ヒットしている作品であれば結構押し出しているとは思います。でもやっぱり、各編集部鳴り物入りの推したい作品が、主だってSNSで投稿されている感じがします。
BL担当者:試し読み増量の施策というものもあって、新刊や新作で行われることが多いですよね。まずは1巻、その作品がどういった内容なのかを把握させるための施策かなと思うんですけど、巻数が増えていくと、そのシリーズの試し読みはあまり読まれなくなりますよね。もう知ってるよ、みたいな感じなのかなと思うんですけど。
RS担当者:文字ものの場合は、文体が合う合わないというのもあると思うので、そういった面で試し読みが役立つという話は聞いたことがあります。ただ、コミックに比べると、どうしてもその重要度は低くなるのかなと感じますね。
一同:確かに。
――本を売る側であるストアとして、これくらいは読めるようにしてほしいとか、もしコントロールができたらそれはプラスになったりするでしょうか。
BW担当者:弊社には通常の試し読みとは別に、1日10分であれば好きなだけ読める「まる読み10分」という機能があります。対象は特定版元の一部作品に限られますが、ユーザーに読みたいところまで読んでもらって、気になったら購入という流れは作れており、一定の効果は得られているんじゃないかなと思います。
BL担当者:ラノベに限らず、文字ものの試し読みをここまで読ませたら、次のコンバージョンに繋がるっていうのは、すごく難しいところだと思っています。漫画はこのコマで切れば、続きを読みたくなるっていうのがすごくわかりやすい世界なんですけど、文字ものはここまで読んでもらえれば続きも読みたくなるという判断がしづらいのかなと。なので、BOOK☆WALKERさんの試し読みを10分間読ませる機能は、ユーザーに合わせていてすごくいいなと思いますね。ストアとしてはやっぱり、試し読みを冒頭の数ページとかではなく、もうちょっと読ませたいみたいなところはあるんですけど、数値的な根拠がとりづらいっていうのもあるので、なかなか版元に提案しづらいところはあるんですよね。
RS担当者:ストアとしてこの作品をすごく推したいというピンポイントで、施策として増やしてみるというのはアリなのかもしれません。ただ、作品数がたくさんある中で、継続して何作品も施策を行うとなると、ある程度の人がしっかり読んで「この作品はここまで読ませたい」という、エビデンスの構築までかなりの工数がかかると想定されます。試し読みの量を増やすとなれば、版元に納得していただく必要があるので、「なぜここまで読ませるのか」という根拠を示して伝えなくてはならないのですが、ブックライブさんもおっしゃっていたように、根拠を作りづらいんですよね。文字ものの購買には、作品の設定や概要が重要になってくる可能性もあるので難しいところです。
BL担当者:私自身も試し読みをしてから買う派ですが、試し読み時点では何もわからないっていう作品もたくさんあるので、もうちょっと読めるといいなって思うこともありますよね。本当に難しいです。
――ありがとうございます。少し時事ネタ的な部分もお聞きしたいのですが、2020年の新型コロナウイルスの影響で、本の購買が増えたという話題も記憶に新しいかと思います。電子書籍でも影響はありましたか。
BW担当者:これは間違いなくありました。第一波が2020年の春頃だったと思うんですけど、売上の伸びはすごいことになっていました。ただ2021年の春頃には、コロナ禍の需要は鈍化して、今はもう完全に落ち着いています。もちろん今も伸びてはいるんですけど、あの当時のような伸び率ではありませんね。業界全体は伸長していますが、当時のような伸び方はある意味特殊だったなと感じます。
BL担当者:弊社も同じ感想です。コロナ禍のタイミングで、これまで電子書籍に触れたことのない人たちが、電子書籍に触れるようになったことで爆発的に増えました。当時、ステイホームを充実させる手段として電子書籍を始めた方が多かったことはありがたく思っていますが、現在はその動きも落ち着いていますので、当時初めて電子書籍を手に取った方に、いかに継続的にサービスを楽しんでいただくかが今後の課題だと思っています。
RS担当者:コロナ禍で生活の在り様が変わり、外に行く楽しみが減って自宅で過ごすようになったわけじゃないですか。電子書籍に触れる方は、コロナ禍で爆増したのは間違いなく、より身近なものになったと思います。みなさんと一緒で、当時は売上としてもかなり顕著でしたけど、その大きな盛り上がりは落ち着いているので、業界全体としても頑張らなきゃいけないタイミングになっているのかなと思いますね。
――続いて、ムーブメントと電子書籍での売上についてお聞きしたいと思います。ライトノベルのムーブメントとして、2010年代中頃から巻き起こった異世界転生ジャンルの隆盛。やはり各ストアでも売上に大きな影響をもたらすことになったのでしょうか。
BW担当者:最初はブームとして始まり、「このブームはいつか終わる可能性もあるね」っていうお話を版元ともしていました。売上の規模もすごく大きなものになっていましたが、ずっと続くことはないだろうと。しかしながら、最終的に「異世界」は、ブームからひとつのカテゴリとして定着したと思っています。影響は今もなお大きく、ボーイズラブやティーンズラブなど、そういった方面にも異世界が輸出されている……というか、同系統の作品が増えてきています。もはやブームではなく、当たり前のようにそこにあるものという感じになりました。もちろん異世界だけが売れているわけではないんですけど、売上を語るにあたっては、決して無視できない存在になりましたね。
BL担当者:弊社でも異世界転生ブームの影響はかなりありました。それこそ今も、売れ線のほとんどがその手の作品だったりします。女性向けの作品でも異世界に連なったブームは起こっていますし、ラブコメや現代ものの作品も、もちろん売れている作品はあるんですけど、やっぱりほとんどが異世界転生ものっていう状況は続いていますね。
RS担当者:弊ストアも回答としてはかなり被るところはありますが、この10年でファンタジーやSFとはまた違った、異世界というひとつのカテゴリが確立されているなと感じています。本当にずっと売れ続けていて、コミックでも異世界ものの影響はありますし、ランキング上位の3分の1を異世界系が占めることもあります。もう異世界というカテゴリは消えないと思いますし、文字ものの売上を牽引してくれている存在なのかなと思います。
――なるほど。ライトノベルでは2020年前後から青春ラブコメがムーブメントになっています。このジャンルの主だった購買層はどちらかというと若年層という印象があり、電子書籍の購買層とはやや異なるのかなと思うのですが、電子書籍ストアにはどの程度ラブコメの波は押し寄せているのでしょうか。
BW担当者:電子においてもラブコメは若年層がメインの購買層となっていますので、おっしゃる通り、現在の電子書籍の購買層とはやや異なります。ですので、ラブコメも売れてはいますが、王道のファンタジーや異世界作品に比べると……といった感じではありますね。
――つまり異世界系の作品が今も断然強いということですか?
BW担当者:少なくとも弊社ではそうです。アニメ化されたりすれば、作品によっては大なり小なり売れると思うんですけど、電子書籍利用者のマスに売れるということが、ラブコメではあまりないかもしれません。
BL担当者:ほぼ同じ認識です。アニメ化した作品などはある程度売れるものもありますが、なかなかランキングの上位に食い込んでくる作品はほとんどありません。上位となると、やっぱり異世界っていう感じになってしまいますね。
RS担当者:そうですね。ラブコメがまったく動かないということではないのですが、異世界作品とラブコメ作品のストア内での露出が一緒だったとしたら、やっぱり異世界ものの方が売上として動くという感じですね。
――電子書籍には届くブームと届き切らないブームがあるわけですね。若い世代へのアプローチというのは、みなさんどのように考えてらっしゃるのでしょうか。
RS担当者:若年層はどちらかというと、LINEマンガや無料アプリなどの、漫画に特化しているところにいるんじゃないかと思っています。私たちは総合書店なので、そのあたりも影響はしているのかなと。
BW担当者:若年層へのアプローチは重要な課題ですので、試行錯誤しながらいろいろとチャレンジしている最中です。やはり、決済面のハードルは課題の一つではあります。
BL担当者:ストア全体としては20代の会員は増えていますが、アカウント登録をしてもらった方に、サービスを継続利用いただくために頑張っている最中です。ラノベ読者の若年層へのアプローチも重要な課題ですね。
――ありがとうございます。電子書籍の売上分布としては、毎年漫画の売上が右肩上がりとなり、割合も高まっているかと思います。一方で文字ものの売上はやや横ばいに変化しているのかなと感じており、現場ではどのように感じていらっしゃるのでしょうか。
RS担当者:コミックが右肩上がりを続けている中で、ライトノベルや文字ものが横ばいの状況になりつつあるというのは、認識としてはあります。特に長く続いているシリーズを新規で追いかけることが少し難しいコンテンツなのかなと感じることもあります。ただ、ストア担当者としては作品をしっかりと読み込んで、本当に面白いものを押し出していくことが必要だと感じています。これはライトノベルに限らずですが、新しい見せ方に挑戦していこうっていうのは考えていますね。
BL担当者:弊社でも男性向けラノベに関しては横ばい傾向ですが、女性のユーザーが増えている分、女性向けラノベは伸びてきているんですね。今後は女性向けラノベを一層伸ばせるといいのかなとは思っています。特に女性向けはコミカライズの広告とも相性がよく、コミカライズを読むために入ってきたユーザーの何割かが原作にも関心を持って読むようになるという動きもあります。男性向けでもそういった動きは多少ありますが、作品への入りはコミックだけど、原作も読んでもらうという流れを、我々としてはしっかりと作っていかなきゃいけないし、まだやり切れていないところなのかなと感じています。
BW担当者:弊社も文字ものに関しては横ばい傾向ではありますが、引き続きラノベはもちろん、ラノベを含めた文字ものを頑張っていこうという方針です。読書メーターなどのサービスがグループ内にはあるので、相互流入を密にやったり、文字ものをなるべくうちで読んでもらえるよう頑張っていくつもりです。また、弊社では読み放題のプランもあるので、1巻や2巻を投入してもらって、作品に触れていただく。そこから単品で買っていただくという流れは作れているので、より活用していきたいなと思っています。一方で、ラノベ最盛期に本を読んでいた人たちが、今読みたい作品はなんだろうって思うことはあって、そういった作品がラノベに少なくなってきているのかなと感じることもあります。
RS担当者:最盛期にラノベを読んでいた方々は、40代から50代だと思うんですけど、今何を読んでるんですかね。『ロードス島戦記』とか、あのあたりの作品を読んでいた人たちは一般文芸に行ってしまったんでしょうか。本を読みたい欲はありそうだなとは思うのですが。
BL担当者:そうですよね、今何を読んでいるんでしょう。
RS担当者:海外ファンタジーを「Netflix」などの、動画配信コンテンツとして見ているのかもしれません。
BW担当者:どこか別の方向に行ってしまった可能性はありそうですよね。
RS担当者:彼らが今何を読んでいるのか、或いは何を読みたいのか、ぜひ探って、作品提案に活かしていきたいです。
――続いては新作の売れ行きについてもお聞きしたいと思います。Reader Storeさんからは週間と月間で売上ランキングを提供していただいているのですが、眺めていると基本的に新作が上位にランクインしてこないんですよ(笑)。リアル書店の書泉ブックタワーさんのランキングとは様相もかなり違っていて、電子書籍の新作や新刊は、どういったタイミングで売れ伸びることが多いのでしょうか。
RS担当者:いつもお世話になっています(笑)。ランキングについては、Reader Storeのユーザーが人気を得ているシリーズであったり、アニメ化決定といった話題性であったり、安心して購入できるタイミングになってから購入するというユーザーが比較的多いので、ちょっと新作を買ってみようと思われるユーザーは少ない傾向にあるかもしれません。買い方の特徴だと思うので、ラノベに強いBOOK☆WALKERさんだと状況は違うのかもしれません。
BW担当者:弊社はラノベのコアな読者を抱えているので、新作でも発売当日ないし、発売1、2週間で買われることはあります。ただ、そういった作品は、たとえば新人賞などの受賞作であったり、WEB連載時から注目を集めていた作品、SNSのラノベコミュニティの中でめちゃくちゃ話題になった作品などが多く、それらにあたらない作品がドンと売れるかというと、そういった事例は多くありません。版元によっては、新刊発売時に露出を増やすところもありますし、1巻や2巻のタイミングでまとめて露出するといった、プロモーションプランも違ったりしています。
BL担当者:弊社も無名の新作がいきなり売れるといったことはほとんどなくて、WEBで話題になっているものが書籍化されて売れるというパターンと、ずっと続いているシリーズの続刊がメインで売れるという感じです。新作の場合、何かしらの外部要因で話題になってはじめて読者が関心を持つようになる、という感じはありますね。
――購買層の方に新作へ目を向けてもらうのは一定のハードルの高さはある感じなんでしょうか。
BW担当者:そうですね。我々としても何もしていないわけではないんですが。
RS担当者:ストアでも押し出すようにはしていますが、人気シリーズと比べると反応は控えめになりますね。
BL担当者:版元からもキャンペーンをやってくださいって提案もくるので、そのタイミングで押し出したりはしますが、なかなかやっぱり難しいですよね。
RS担当者:一例ですけど、版元で賞を設けたり、何かしらの冠を付けて1巻を送りだすみたいな形もありますし、「次にくるライトノベル大賞」や「このライトノベルがすごい!」で選ばれた、まだ多くの人に知られていないけど面白い!という作品をしっかりと押し出していくということを、我々としては地道にやっていきたいと思います。そういえば、ラノベニュースオンラインさんでインタビューを掲載されていた『誰が勇者を殺したか』という作品を弊ストアでもピックアップしたんですが、この半年ピックアップしてきた作品の中で一番反応が良かったです。発売から数ヶ月経ってからでしたけど、コンバージョン率はかなり高かったですね。
BL担当者:あの作品はすごい面白かったですよね。
RS担当者:著者インタビューのタイミングをきっかけにピックアップをして、それがしっかり数字に繋がったので、弊ストアとしては嬉しかったです。
BW担当者:『誰が勇者を殺したか』は販売直後、初日から1週間程度はものすごい動きではなかったんですけど、その後に口コミが爆発したんですよね。そこからが本当に凄かったです。そういった口コミ的な爆発力をストアとしていかに作れるかを、日々考えています。
――作品との出会いという点において、各ストアには検索窓があると思うのですが、特定の単語で人気の検索ワードがあるのか、それとも購入したい作品をピンポイントで指名検索されることが多いのか、個人的には後者のイメージが強いのですが、実際はいかがでしょうか。
BL担当者:ユーザーのほとんどは、「この作品が欲しい、TOPページにないから指名検索、そして購入」という流れが圧倒的です。もしくは広告で〇〇という作品を見たから検索をしてみてという、そういった使い方をしている方が大多数だと思います。検索結果に付随したタグやジャンルなどをしっかりと出していくという点では改善の余地もまだまだあるのかなと思いますが、基本的には特定の作品が欲しいからで検索をされている方が大多数って感じです。
RS担当者:ほぼ確実に後者、指名検索のパターンが圧倒的に多いのかなと思います。弊社では検索からの広がりよりも、映像化をはじめとした様々なタグを露出させて、そこから入っていく形になるので、検索は作品名や著者名で行われることがほとんどですね。
BW担当者:既にストアを使い慣れているユーザーと、新規のユーザーとで動きはだいぶ違う気もしますね。既存のユーザーであれば、わざわざ検索をする前に、事前にチェックをしていたりしますし、自身のチェックリストや本棚から作品ページに飛んだりと、導線もたくさんあります。新規のユーザーは、無料や悪役令嬢、異世界、百合、TRPGといった単語で、かなり検索されていることがわかっています。実際に比較をしたことがないので、何とも言い難いところではありますが、他社さんと同じような感じだとは思います。
BL担当者:検索については基本的にユーザーの任意の動きですからね。
BW担当者:曖昧な単語で検索しても、ある程度適合度の高い作品が検索結果として出てくるとは思うんですけど、そういった使い方もひとつの思想ではありますよね。完璧に実現できているかというと難しいところではありますが。
BL担当者:まずはユーザーに検索してもらって、一発で適した検索結果に行きついてほしい。そしてあわよくば、検索単語が「異世界」であれば、他の異世界作品があるよっていう、レコメンドを充実させていければいいんじゃないでしょうか。まずはユーザーが調べたいものをきちんと結果として見せる、その精度を各社さん高めていらっしゃると思います。
RS担当者:ユーザーが探したい本を探しやすく、そして辿り着きやすくすることを第一に考えているので、そこから先となると、気になるものをタップしてもらって、その先に関連した作品への導線を引いている感じになります。うちのストアの場合は、検索などで1回何かしらの作品に触れてもらえれば、それなりに出会ったことのない関連作品やおすすめの作品が、次回のアクセス時にレコメンドとして表示されやすくなっていますので、あわせて注目してもらえたら嬉しいです。
――電子書籍の大きな強みのひとつに、既に本屋に並んでいない作品を購入できる良さがあると思いますが、実情として15年や20年前、30前の作品は、どの程度売れているのかも気になっていまして。
BW担当者:個々の販売数量は多くありませんが、商品数の多さで売上を形成しているイメージです。ただ、キャンペーンやセールのタイミングでは、まとめて買われる方もいらっしゃるので、そこでは売上が大きく上がります。また、おっしゃる通り、紙の書店でもう購入できない作品がいつでも購入できるという環境は電子書籍の強みだと思います。
BL担当者:弊社でも過去の名作はキャンペーンやセール等のタイミングでユーザーの目に留まって売上に繋がる感じです。セールの多いKADOKAWAさんの作品は、相対的には売上に繋がっています。
RS担当者:版元の施策などキャンペーンのタイミングで売れている印象はありますが、それ以外のタイミングでは大きく動くということはないかもしれません。今後やれることとしては、昔は紙で持っていたけど手放してしまった方へ、既刊の名作ラノベを電子で買いませんかという提案をしていきたいと思っています。
――セールのお話もあったのでお聞きしたいのですが、毎年かなりの回数、セールやフェアが行われているなと感じます。ぶっちゃけた話、何年もセールの対象となっている作品の売れ行きはどのような感じなのでしょうか。
BW担当者:レジェンド級のタイトルやメジャータイトルは、セールのたびに動きます。ただ一方で、適正なセールの頻度や実施間隔はあると感じています。
BL担当者:ブックライブでも人気のシリーズの値引きキャンペーンは、頻繁に行われています。特に男性向けのラノベは、シリーズを含めて同じ作品が何年も定番人気としてランキングの上位にいます。そういった作品は頻繁に値引きしても、安定して売れ続けるという状況が続いていますね。
RS担当者:Reader Storeも、ブックライブさんと売れ方は似ているんじゃないかなと思います。みなさんが絶対知っている超ビッグタイトルは、ずっと新規が入り続けて売れています。Reader Storeはビッグタイトルとメディア化された作品の売上が非常に顕著なので、売り逃しが発生しないよう、いろんなタイミングでキャンペーンを提案し続けていくことになると思います。
――電子書籍の話題のひとつに「ストア間における本棚の一元化」という話題を目にすることが多々あります。超えなくてはならないハードルは非常に高いものがあるとは思うのですが、各ストア内でそういった話題や議題が挙がることはあったりしますか。
RS担当者:これは経営者を呼んでいただいた方がいいかもしれない話題ですね(笑)。
BL担当者:ブックライブでは、BOOK☆WALKERさんとは、一部のKADOKAWA作品を対象とした本棚連携をやっていたりします。あくまで可能性論ではありますが、版元傘下のストアさんと、我々との連携というようなことは、今後もあるのではと思っています。本棚アプリや本棚機能は、各社さんが力を入れてらっしゃる部分でもあると思うんです。業界の上の方でそういった話がされている可能性もあるかもしれませんが。
BW担当者:現場レベルではあまり聞いたことはないですよね。
BL担当者:メディアドゥさんがNFTの電子書籍を配信されたりしているので、もしかしたら今後、そういった流れも出てくるのかもしれませんね。
――各ストアの独自の施策や取り組み、今後に向けた展望などについて教えてください。
RS担当者:Reader Storeはパーソナライズしたシステムを強みとして、版元からも高く評価していただいています。ユーザー一人一人から見える画面はかなり違うものになっています。その強みは引き続き活かしながら、やはりデータなどでは導き出せない作品提案ももっと必要なんじゃないかなと思っています。時代の変化にあわせて、データとは異なる視点での提案を実施していきつつ、ストア発のヒットをより多く出せるようにしていきたいと思っています。
BL担当者:ラノベに限らない話ではありますが、ブックライブでは2、3年前から、顔の見える電子書店員をテーマとして設けています。「書店員すず木」っていう弊社の社員なんですけど、いろんな媒体に露出させていただいていています。実際に彼女は漫画も大好きで、ブックライブにはこういった書店員がいるんだっていうことを根付かせ、レコメンドだけではない、「この人が言うんだったら買ってみよう」という流れを目指していきたいです。現在は漫画に寄っていますが、ラノベや文字ものでも書店員を育て、みなさんに訴求できたらいいなと思っています。また、弊社にはオリジナルコミックの部隊もあります。自社IPの育成をはじめ、クロスフォリオという投稿サイトも運営しています。原作の発掘、投稿してもらえるクリエイターの発掘、そこからラノベやコミックを作って、自社で販売していくという流れも引き続き実施していきたいと思っています。
BW担当者:BOOK☆WALKERもみなさんのお話と似てしまう部分はありますが、どのストアにも商品としてはほぼ同じものが並んでいる中で、いかにBOOK☆WALKERらしさを出せるか、利用者のみなさんに楽しんでいただけるかを大事にしています。オリジナルキャンペーンであったり、中の人のオススメであったり、いろいろありますが、そういった企画力の向上に注力していくことも、目指していることのひとつです。売り上げはもちろん大事なんですが、BOOK☆WALKERが本を買うだけの場所ではなく、新たな本と出会うというところも含めての読書体験を楽しめる場所でありたいと思っています。
――ありがとうございます。それでは最後に読書家のみなさまへメッセージをお願いいたします。
BL担当者:異世界転生ものが今も流行っている状況で、実際売れてる作品も異世界ジャンルが多いんですけど、それ以外にも面白い作品がたくさんあるよっていうのは伝えたいですね。実際に書店員が作品を読んで、レビューも書いたりしているので、そういったものも読んでもらえたらなと思います。
RS担当者:先ほどの補足にもなりますが、Reader Storeも女性のユーザーにも利用していただきたいという思いがあって、オリジナルのボーイズラブレーベル「コミックマズル」を6年前に立ち上げています。そういったところも入り口にしていただけたらなと思っています。各ストアさんも独自でコミックスタジオを持たれていると思いますが、男女双方のユーザーに向けた作品を自分たちでも作って、利用していただきやすいように、ストアを作り上げていきたいです。欲しいものが見つかる書店として、努力していければなと思います。
BW担当者:これはBOOK☆WALKERだけでなく、どのストアのユーザーさんにもお願いしたいのですが、「こういう機能が欲しい」、「こういう風に本を読みたい」とか、突拍子のないアイデアでも、思いついたらぜひ使っているストアに届けてほしいなって思います。「こんなことを言ってもしょうがないんだろうな」って諦めていたり、遠慮されている方もまだまだいらっしゃると思うんです。声が集まれば、説得力を持って「こういう開発をしたい」と我々も会社に対して言えます。ぜひそういった声を届けていただけたらなと思います!
――本日はありがとうございました。
総合電子書籍ストアである「BOOK☆WALKER」、「ブックライブ」、「Reader Store」の3ストアにご協力をいただき、お話をうかがわせていただきました。電子書籍は今後、ライトノベルを含めたあらゆる書籍のジャンルで、シェアを拡大していくことになるでしょう。そういった時代を迎えていく中で、我々読者も電子書籍の実情や課題を知ることは重要なことだと考えています。今回の座談会がそういった知識を得る上での入り口のひとつになれば幸いです。まだ電子書籍に触れたことのない方は、この機会にぜひ触れてみてはいかがでしょうか。
<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>
[関連サイト]