独占インタビュー「ラノベの素」 青葉寄先生『夏に溺れる』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2024年8月20日にガガガ文庫より『夏に溺れる』が発売された青葉寄先生です。第18回小学館ライトノベル大賞にて「大賞」を受賞し、満を持してデビューされます。「母を殺した」と告白してきた男の子との7日間の逃避行。そしてとあるゲームに様々な想いを抱きながら向き合う二人を描いた本作。小学館ライトノベル大賞史上最年少での受賞を果たし、作家となった著者についてはもちろん、物語やキャラクターについてなど、様々にお話をお聞きしました。

 

 

夏に溺れる

 

 

【あらすじ】

「母さんを殺してきた」――夜凪凛が、元クラスメイトの夏乃光から衝撃的な告白を受けたのは、夏休み明けの始業式の日のことだった。成績優秀で眉目秀麗、学校内ヒエラルキーの頂点にいながら自殺願望を持つ光。友人関係に悩み不登校になった過去を持つ凛は、彼に誘われるまま逃避行に出る。これからどうするのかと問う凛に、光はあるゲームを提案する。それは、八月が終わるまでの七日間、一日一人ずつ交互に殺したい人間を殺していくというものだった……。行き場を失くした二人は凶器と化す。第18回小学館ライトノベル大賞・大賞受賞作。

 

 

――それでは自己紹介からお願いします。

 

青葉寄です。出身は富山県の高岡市です。執筆歴は、ちゃんと書き始めたなっていうのが、高校2年生くらいの時だったと思うので、だいたい4年目くらいになります。小説を読むことが好きで、最近ではミステリージャンルをよく読んでいる気がします。

 

 

――最近ハマっていることなどはありますか。

 

映画を見ることが多いかもしれないです。それで最近、プロジェクターを買いました。Amazonプライムのジャンル選択で「ミステリー・サスペンス」っていう区分があるんですけど、そこから選んで視聴することが多いです。最近面白かったのは、漫画原作の『ミュージアム』っていう作品が印象に残っています。猟奇殺人事件を刑事が追うサスペンスミステリーですね。

 

 

――ありがとうございます。あらためて第18回小学館ライトノベル大賞「大賞」受賞おめでとうございます。まずは率直な感想をお聞かせください。

 

受賞するとは思っていなかったので、すごく驚きました。嬉しいという気持ちよりも驚きの方が大きかった気がします。母に受賞したことを伝えたら、どこか落ち着きがないようには見えていたみたいです。「どうりでそわそわしている感じがした」と、母には見破られていました。

 

 

――受賞したことについて、ご家族の反応はいかがでしたか。

 

すごく正直な話をすると、小説を書いていることや作家になったことは伝えたくありませんでした。でも2021年に行われた「カクヨム甲子園2021」で受賞させていただいているんですけど、応募には親の許可が必要だったこともあり、その時に仕方なく母に伝えた感じでした。なので、カクヨム甲子園への応募がなければ、誰にも何も言わないまま書き続けていたと思います。他に知っているのは、文学フリマに一緒に出展しているグループのメンバーくらいでしょうか。

 

 

――周囲に明かさずに書き続けていた可能性もあったというお話でしたが、ご自身で小説を執筆しようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。

 

中学生の頃に、すごく本が好きな友達がいて、その友達から学校の図書館に置かれていた『文学少女』シリーズを勧められました。それが私の読書の入り口だったと思います。そしてその本を勧めてくれた友達が小説を書いていて、その姿を見て私も書いてみようと思ったのが始まりだったと思います。

 

 

――最初はどんなジャンルの作品を執筆されたんですか。

 

最初に書いた小説は、中学二年生の子が、担任の教師を殺してしまって、その事件を記者の人がいろんな関係者から話を聞いていくというストーリーだったと思います。私自身、読書の入り口はライトノベルでしたが、その後はライト文芸作品やミステリー作品を好んで読んでいました。辻村深月先生の『オーダーメイド殺人クラブ』はすごく面白くて、強く印象に残っています。

 

 

――また、本賞への応募が初の公募への挑戦だったとお聞きしています。応募のきっかけはなんだったのでしょうか。

 

まずは〆切の日時がタイミングとしてちょうどよかったっていうのがありました。またSNSで繋がっている方で、ライトノベルの新人賞やコンテストに応募している人が多く、いろいろ情報をもらったりもしていたんです。その中で、ガガガ文庫の新人賞はなんでも受け取ってもらえると聞いて、それならと思い応募しました。

 

 

――初投稿作となった本作は、執筆を始めてから何作目だったのでしょうか。

 

長編小説で言うと1作目になります。それまではずっと短編を書いていました。短編で書いた本数と合わせると、25本目くらいになるかもしれないです。

 

 

――ありがとうございます。そしてこのたび、青葉先生は小学館ライトノベル大賞において最年少での受賞となりました。あらためてお気持ちをお聞かせください。

 

最年少という部分にはあまりピンときていなくて、自分が若いとかどうとかも気にしたことはないかもしれません。SNSを眺めていても、同年代で自分よりも技術を持っている人はたくさんいるので。

 

 

――ちなみに青葉先生が過ごした高校3年間は、コロナ禍真っただ中だったともうかがっています。小説を書き始めた時期とも重なっていたわけですが、特殊な高校生活だと感じていましたか。

 

そうですね。入学した直後に緊急事態宣言が発令されたり、いろいろと制限もあったんですけど、私は部活動もやっていなかったので、あらためて振り返ってみるとそこまで不便に感じたことはなかったような気がします。それでも授業はリモートになったりはしました。でも修学旅行もない学校でしたし、私には影響は少なかったです。

 

 

――リモートの授業は率直にどう感じていましたか。

 

先生がすごく大変そうだなと思いながら見ていました。教材はもちろん、動画を事前に撮影して流していた先生も多かったので。受ける側としては、良い面もあったような気はします。自宅で授業を受けることができましたし、説明も動画の方がわかりやすく感じた面もありました。その代わり、サボってしまうことも多かったかもしれません(笑)。

 

 

――余談も含み、ありがとうございました(笑)。それでは作品について触れていきたいと思います。まずは受賞作『夏に溺れる』がどんな物語なのか教えてください。

 

ガール・ミーツ・ボーイの物語になると思います。夏休みの終わりに、成績優秀で眉目秀麗、学校内のヒエラルキーで一番上にいながらも自殺願望を持っている夏野光から、「母親を殺した」という告白を主人公が受けることになり、そこから二人の逃避行が始まります。その中で、光はとあるゲームを主人公に提案し、8月31日までの7日間、一人ずつ人を殺していくという物語になります。

 

夏に溺れる

※夏の終わりの突然の告白から、二人の逃避行がスタートする

 

 

――着想についてもお聞かせいただきたいのですが、本作は青葉先生が18歳の時に、18歳のキャラクターを描いているという点も特徴のひとつなのかなと感じました。現在の18歳の人たちが何を考えて、何を想うのか、そういった視点も考えたりはされたのでしょうか。

 

まず着想については、夏を舞台にした逃避行の物語を書こうと思ったことが始まりです。さらに、命のやり取りを題材に加えることで、物語に緊張感が生まれるのかなと考え、こういったお話になりました。サスペンスやミステリーのお話が好きで、血生臭さというか、人がたくさん死ぬような作品を面白いと感じることが多いのも、着想のひとつになっているかもしれません(笑)。キャラクターについては、どちらかというとフィクション要素を大きく膨らませたつもりで書いています。私自身が、高校生までの年齢の子しか知らないのもあるので、なるべくフィクションに落とし込もうと考えていました。書いた年齢とキャラクターの年齢が一緒ではあるんですけど、どちらかというとたまたまそうなっただけで、気付いた時に「そういえば年齢が一緒だ」くらいの感覚だったように思います。18歳の当時の自分が、18歳の子たちを書こうと思い、意識して書いていたわけではなかったですね。

 

 

――つまり、作中における凛や光の考え方や思考の巡り方は、同世代を参考にしたというわけではないと。

 

そうですね。少なくとも意識的にしているつもりはありません。ただ、無意識的にはやっているかもしれません。やっぱり私自身がその年齢の子たちまでしか知らないですから。それに私はどちらかというと、ストーリーを考えてからキャラクターを作るので、キャラクターの性格などを意図して狙って書いたりすることは少ないかもしれませんね。

 

夏に溺れる

※登場するキャラクターたちはあくまでフィクションであるとのこと

 

 

――なるほど。本作を拝読した際、凛と光はどちらとも、未来に対する希望が薄いように感じるシーンもあったので、これが現在の高校生世代の考え方なのかなと一瞬脳裏を過ぎったこともあり、逆に安心しました(笑)。

 

私たちの世代が、特別未来に希望を持っていないわけではないと思います。あくまでフィクションに振り切って書いていますので(笑)。

 

 

――ありがとうございます。書籍化に向けては改稿も行ってこられたと思いますが、大変なことはありましたか。

 

割とサクサク順調だったかもしれないです。後半に光視点のエピソードがあるんですけど、そこが少しだけ大変だったかなとは思います。

 

 

――では続いて、逃避行をすることになる二人について教えてください。

 

主人公の夜凪凛は、人間関係というか、交流やコミュニケーションを苦手にしている感じの女の子です。人間関係をかなり諦めていて、私は冷めた感じの子だと思いながら書いています。

 

夜凪凛

※光に誘われるがまま逃避行に出る夜凪凛

 

夏野光は、割となんでもできて、見た目もよく、完璧に見えるような人です。だけど自殺願望を持っている。作中でもかなり腹の内が読めないタイプでもあって、書いている時も非常に大変で、とても難しかったです。なぜ自殺願望を持つに至ったのか、そういったことを私自身は考えたことがないタイプだったので、余計に難しかったですね。

 

夏野光

※凛を逃避行に誘い、あるゲームを提案する夏野光

 

 

――また、書籍化に際してはイラストを灸場メロ先生が担当されました。あらためてビジュアルを見た時の感想や、お気に入りのイラストについて教えてください。

 

改稿作業をしている間は、あまり作家になるという実感がなかったんですけど、表紙の絵が送られてきた時に、本当に作家になるんだという気持ちが湧きました。キャラクターのビジュアルについても、もともと執筆時は実写をイメージして書いていたこともあって、自分の中のキャラクター像がはっきりと形作られたきっかけになったと思います。お気に入りのイラストは表紙かなと思っていて、イラストの下部に小物が描かれているんです。これは灸場先生からぜひ描きたいというお話をいただいて、すごく印象的な1枚になっていると思います。

 

夏に溺れる

※お気に入りだというジャケットイラスト

 

 

――著者として本作の見どころや注目してほしい点はどんなところでしょうか。また、どんな読者が読むと、より本作を楽しめると考えていますか。

 

この物語は夏の終わりのお話なので、夏の情景描写はこだわって書きました。なので、注目していただきつつ、本作を楽しんでいただけたらなと思います。夏を舞台にしたお話が好きな人、人がたくさん死ぬことに抵抗がない方、そういったみなさんに手に取っていただけたら、より面白く読んでいただけるんじゃないかなと思います。

 

 

 

――あらためて、著者として本作のキャラクターが過ごした真夏の7日間、そこに救いはありましたか。

 

救いはあったんじゃないかなと思っていて、私は全然バッドエンドではないと思っています。凛も光も、最後には納得していると思うし、この結末しかなかったと、きっと二人も思っていると思うので、救われているんじゃないかなと思います。ぜひみなさんの感想もお聞かせいただけたら嬉しいです。

 

夏に溺れる

※凛と光の二人が行き着く先をぜひ見届けてもらいたい

 

 

――今後の野望や目標があれば教えてください。

 

目標についてですが、改稿作業の最中、長編小説を書く中で、技術面や知識面でまだまだだなと思うことが多かったので、小説がうまくなりたいなって思っています。これからもサスペンスっぽい感じで、青春も一緒に絡むようなお話を書いていきたいなと思います。

 

 

――最後に本作へ興味を持った方へメッセージをお願いします。

 

本作の発売はちょうど8月で、夏です。作中も夏なので、夏の思い出になるような1冊になればいいなと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。

 

 

――本日はありがとうございました。

 

 

<了>

 

 

1日1人を殺す――8月31日までの7日間の逃避行を綴った青葉寄先生にお話をうかがいました。高校最後の夏を、鮮烈かつ刺激的に、そして命をテーマに描いた本作。二人が何を考え、何を想い、最後の日となる8月31日を迎えることになるのか、『夏に溺れる』は必読です!

 

<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>

 

©青葉寄灸場メロ/小学館「ガガガ文庫」刊

kiji

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『夏に溺れる』特設サイト

ガガガ文庫公式サイト

 

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