小説投稿サイト「ネオページ」の掲げる作家応援とは――原稿料が支払われる「契約作家」のメリットとデメリットをぜんぶ聞いた
2024年7月30日に新たな小説投稿サイト「ネオページ」が正式オープンした。みなさんもご存知の通り、日本の小説投稿サイトは、出版・書籍化を目指すための場所として、この十数年で認知を一気に拡大し、昨今では漫画やアニメをはじめとするメディアミックスの原作や原案を求める場所にもなりつつある。そして国内外から小説投稿サイトの新規参入事例も増え、「ネオページ」もまた、日本市場へと挑戦する。香港に拠点を置く「ネオページ」の掲げる理念には、「作家の応援・支援」がある。日本の小説投稿サイトでも少しずつではあるが、様々な形でWEB小説作家への支援や還元への取り組みが動き出している。今回はネオページの運営チームに、作家支援の大きな柱である「ネオページ・サポート・プログラム(契約作家)」について、作家側のメリットやデメリット、実情や裏側についてなど、赤裸々に語っていただいた。
<聞き手:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>
――ネオページの正式オープンから1ヶ月が経ちました。現在の手応えはいかがでしょうか。
ネオページでは様々なキャンペーンを展開させていただいていますが、多くのWEB小説作家のみなさまには伝わり切っておらず、様子見の段階なのだろうと感じています。そして私たちも痛手だと感じているのが、スマートフォンに対応したページ開発の遅れです。様々な社内事情があったとはいえ、スマートフォン向けページがないという現状は、書き手の方だけでなく、読み手の方の様子見も生んでいると考えています。現在は社内で開発を急ピッチで進めています。ご不便をおかけしていますが、もう少々お待ちいただけたらと思います。
■「ネオページ・サポート・プログラム」とは
――「ネオページ」はプレオープン時から、作家の支援やサポートをテーマ、そしてコンセプトとしても掲げていらっしゃいますよね。その最たるものとして、作家に原稿料を支払う「ネオページ・サポート・プログラム(※以下、契約作家)」があります。あらためてどんなシステムなのか教えていただけますでしょうか。
弊社が「ネオページ」のリリースにあたって行った市場調査において、日本のWEB小説作家のほとんどが、無料で執筆と掲載を行い、書籍化やメディアミックスが実現されるまで、無報酬で活動している状況にあることを認識しました。中国や韓国のWEB小説市場の在り方と比較すると、日本のWEB小説作家の創作環境は、恵まれているとは言えない状況です。そういった状況を私たちは課題として位置づけ、作品の書籍化に至るまでの期間や過程において、WEB小説作家のみなさまをサポートしていくことにしました。そのひとつとして「契約作家」のシステムを設け、弊社と契約を締結することで、文字数ベースでの報酬を、活動中のWEB小説作家のみなさまに提供する。それが「ネオページ・サポート・プログラム」です。
――WEBで小説を執筆しているWEB小説作家への認識は、概ねその通りだと思います。現在ではいくつかの小説投稿サイトにおいて、PV(ページビュー)や広告収益の報酬の分配、サブスクによる収益、投げ銭など、様々な方法で収益化にも目が向けられるようになってきました。そんな中、「ネオページ」では原稿料を作家収益の軸として掲げられているわけですが、支援の在り方を原稿料とした理由はなんだったのでしょうか。
おっしゃる通り、PV数などによる報酬、投げ銭のようなシステムで、作家の収益に繋げている小説投稿サイトはあります。ただ、ネオページのように文字数ベースの原稿料を報酬とするモデルはありませんでした。PV数や投げ銭は、自作品をうまくアピールする術を知る作家さんとそうでない作家さんの差が大きくなりがちです。一方で、ネオページの原稿料方式は、作家さんの成果によらず「ベースとなる報酬」を保証するので、契約したすべての作家さんが恩恵を受けることができます。今後は契約作家による原稿料だけでなく、他の形でもインセンティブを提供するつもりなので、ぜひチェックしていただきたいです。
――ありがとうございます。正式オープンから1ヶ月が経ち、契約作家になるための、契約作品の審査・応募状況などはいかがでしょうか。
サイトをリリースしたばかりということもあり、ここまでの申請数自体はまだ少ないのが実情です。サイトのプレオープン時から存在している契約作品については、ネオページの編集者が作家さんを直接勧誘し、興味を持っていただいた方を対象にトライアルを行わせていただきました。そこで契約締結となった方が、契約作家となっている状況です。概算になりますが、契約作家への契約締結率は約20%というところです。申請できる作品の基準が5万文字以上となっており、ネオページで連載されている作品は編集者が逐一チェックをしています。そういったチェックを経て勧誘をさせていただくこともありますし、ネオページ上の機能として、いつでも編集者に申請することが可能になっています。
――契約作家になるため申請を行い、契約が現時点で難しいと判断された場合には、その旨の連絡はもらえるのでしょうか。
連絡はさせていただきます。作品の中には、どうしても冒頭で判断が難しいものもあります。連載を継続することで、内容がどんどん面白くなっていくパターンもあるため、仮に5万文字の時点で契約がNGだったとしても、10万文字や15万文字などのタイミングで、再申請できるようなシステムも考えています。ネオページは、作家さんも作品も成長するものであると考えています。一度目の申請でNGだったとしても、編集者から「こうしてみたらいいんじゃないか」といったフィードバックも送らせていただき、再チャレンジの機会も作っていきたいです。また、契約まわりは抜きにして、編集者から直接フィードバックが欲しいという方にも、申請を利用していただけたらなと考えています。
――フィードバックのイメージとしては、いわゆる公募などにおける評価シートのようなイメージでしょうか。
そうですね。ネオページにおける編集者からのフィードバックは、数百文字をベースにお戻しするようにしています。先日、SNS上にてフィードバックキャンペーンも行わせていただきました。その際は約200~300文字でフィードバックを行わせていただいていています。契約作家の申請時のフィードバックは、原則それ以下にはならない想定です。
――続いては契約の審査についても教えてください。ひとつの例として、出版社の編集部では、書籍を刊行する際に編集会議を経て作品の刊行を決定するというプロセスが存在します。契約作家を決定するプロセスにおいては、編集会議のようなことが実施されるのか、それとも編集者ひとりひとりに一定の裁量が存在するのか、どういった判断基準で決定されているのでしょうか。
ネオページでも編集会議は行っています。ネオページにはかなりたくさんの編集者が在籍しており、各編集者は、異世界ファンタジーが得意だったり、SFが得意だったりと、各々得意なジャンルを持っています。編集者が得意としているジャンルに申請が来た場合、まず担当の編集者が判断を行い、OKであれば編集長に共有が行われます。その後、編集会議を開催し、執筆のクオリティや作品の方向性など、様々な角度から評価を行います。その結果で、契約するか見送るかを決定します。ただ、現在はネオページ内の作品数が少ないので、編集者による一次判断はありつつも、対象となる作品はすべて編集会議で議論していますね。今後は作品数の増加などにより、編集者自身が編集会議にかけるかどうかを判断するようになっていくと思いますし、編集者一人だけでNGの判断を確定させないよう、二人体制のクロス評価も実施していくつもりです。私たちとしては、ポテンシャルのある作品が漏れてしまわないよう、チェックしていきたいと思っています。
■契約作家の月額報酬目安とネオページのメリット
――そこで気になるのは、契約作家となった際の原稿料についてです。文字数ベースというお話ではありましたが、契約作家の1ヶ月の原稿料の目安はどの程度になるのでしょうか。
「契約作家」の契約は文字数ベースとなっているため、1ヶ月であればその期間中にどの程度執筆し、連載したかによって変動します。そのため一概には言えませんが、更新が控えめな作家さんで月額2~3万円、更新が頻繁な作家さんは月額5~6万円の原稿料の支払いが行われています。まだまだ契約作品が少ないこともあり、直近1ヶ月の契約作家への支払報酬総額は約500万円という状況になっています。
――「ネオページ・サポート・プログラム(契約作家)」への初期投資には3億円が準備されているとのことでしたよね。一方で、今後月額として支払う金額が増えるほどに、原稿料の支払いに対する頭打ちがきてしまうのではないかという懸念を持たれている方もいらっしゃると思います。長くこのシステムを継続できるという理由、利用者サイドの安心材料になるような情報があれば教えていただきたいです。
まず、3億円はあくまで初期投資になります。弊社の本社は香港にあり、投資を受けてグローバルな電子書籍市場への進出を模索しています。日本法人は、日本市場を主に担当しています。そして親会社では2000万ドル(日本円にして約30億円)の資金調達が完了しています。今後も日本における「契約作家」への投資は続けていきますので、お支払いについて心配いただく必要はないと考えています。
――月額の支払総額が1000万円でも300ヶ月、2000万円でも150ヶ月、資本に不安がないことも強みのひとつというわけですね。とはいえ、これだけ莫大な金額の投資は、ネオページにどのようなメリットをもたらすと考えているのでしょうか。
日本のWEB小説作家さんは「投資の対価は何か」、そういった点を気にされているイメージが強いですよね(笑)。まず、ネオページに多くのユーザーを集め、ネオページを大きくしていくという目的が私たちにはあります。ある程度の規模になれば、そこから様々なマネタイズのモデルを検証していきたいと考えています。マネタイズの手法については、作品の有料販売やライツ展開、投げ銭、さらに何らかのサブスクリプションサービスなど、さまざまな視点から検討していきたいと考えています。また、まだまだ検討段階ではありますが、欧米などの市場にもサービスを広げ、日本のネオページで連載されている作品を、英語圏の読者に提供することも視野に入れています。
――なるほど。ちなみに晴れて契約作家になれた後に、契約が打ち切られるということはあるのでしょうか。
基本的に弊社からの一方的な打ち切りはありません。契約の内容次第ではありますが、契約内には最低保証という条項もあります。たとえば契約内で30万文字分が保証されている場合、私たちは30万文字分までは絶対に報酬を支払わなければなりません。ただ、契約した作品の継続が何らかの理由で難しくなる場合もあるでしょう。そういう場合は、作家さんと編集者の双方で相談を行い、新作を書いてもらうようなことも選択肢のひとつになります。いずれにせよ、作家さんと編集者間で決めることになるとは思いますが、できる限り作家さんの続ける意思を尊重したいと考えています。そして2年後や3年後、ネオページがきちんと発展し、様々なデータが蓄積されてくれば、作家さんに対して、より多くのアドバイスや選択肢を提供できるのではないかと思います。
――現在の契約作家は、あくまで作品と結ぶ契約であることから、契約作品をどう続けていくのかが大きなテーマになるわけですね。
そうですね。ただ、ネオページとしては作家さん自身の成長にも大きく期待をしています。いずれは、数百万文字単位での契約を結び、作家さんの長期的な支援を提供し、新人からベテランまでの成長をサポートしたいという思いもあります。そういった大型契約については、できれば作品単位ではなく、作家単位の契約として、長期的なサポートに繋げられることが理想だと考えています。(※現在の契約作家システムは作品に対して行われているもので、中長期的には作家に対して実施していきたいという考えがあるとのこと)。
■契約作家のメリットとデメリットは?
――出版界隈に限った話ではありませんが、契約書や契約条項におけるゴタゴタを見かけることは少なくありません。ネオページの契約作家となった場合に起こり得る、作家側のデメリットにはどんなことが考えられるのでしょうか。また、作家自身の判断で、契約作家の解除は可能なのでしょうか。
まず、契約作家からの契約解除の申し込みは可能です。ただ、契約上において作家さんに対し、何かしらの制限を行っているわけではないので、相談ベースでお願いしますという形になるかと思います。一応契約の中には、「毎月最低限これくらいは書いて、連載してください」という条項が存在しています。ただ、そこまで強制力を持たせた条項ではありませんので、思い詰めてしまわれる前にご相談をいただければと思っています。どうしても契約作家さんの体調や家庭の都合などで、文字数をそこまで書くことができないという状況も出てくる可能性はありますし、実際そういったご相談を受けたこともあります。このあたりはいろんなエピソードがあるのですが、ネオページとしてはできる限り柔軟に、作家さんに寄り添った対応をしていきたいと考えています。
――契約作家になった後は、淡々と作品の連載を続けるようなイメージがあったのですが、編集者の方とはそれなりにコミュニケーションの機会もありそうですね。
そうですね。ネオページの構想のひとつとして、作家さんが編集者と積極的に交流できる仕組みを検討しています。日本の出版業界では出版社さんと関りを持たないと、直接編集者と話をする機会はほとんどないというイメージがあります。ネオページとしては、編集者にはいつでも連絡や相談ができるものであるということを、日本でも広めていきたいと考えています。そういった活動のひとつとして、ディスコードサーバーを立ち上げ、ネオページの編集者が雑談や質問に対して日常的に返信を行っていますし、今後は作家さん向けのワークショップなども展開していきたいと考えています。編集者という存在を遠くに感じている作家さんたちが、編集者と打ち解けられる機会も作っていきたいですね。特に日本では、創作は一人でやるものという認識を持っているWEB小説作家さんがどうしても多いので、ネオページでは編集者と積極的にコミュニケーションを取ってもらって、創作は支え合うものだというイメージを持ってもらえる環境を作りたいと思っています。
――今後、契約作家の作品の書籍化というお話も出てくると思います。その場合、ネオページとしてはどのような立ち位置となるのでしょうか。
ネオページで実施する「契約作家」の契約は、出版契約ではないため、独占的な力は持っていません。契約はあくまで、作品のWEB連載まわりでのお話となっており、基本的には出版の弊害になるような内容にはなっていない認識です。弊社としても契約作品を様々な出版社へ推薦、提案してくような動きもやっていきたいと考えており、立ち位置としてはエージェントに近い側面もあると思いますし、優秀な作品に対してはプロモーションも行いますので、PRサポーターという側面もあると考えています。
――つまり、契約作品を書籍として出版し、ネオページでも連載を継続する場合は、印税と原稿料の双方が作家さんの収入源になるということですか。
その認識で問題ありません。原稿料は印税以外のさらなる収入源として考えていていただいて大丈夫です。
――ちなみに他の投稿サイト等に掲載している作品を契約作品化することは可能でしょうか。
結論から言えば可能です。ただ、いくつか条件はあります。ひとつは出版社と出版契約を結んだ作品ではないこと。もうひとつは完結している作品ではないことです。基本的にネオページが原稿料としてお支払いするのは、その時点で掲載している作品の「続きの文字数」に対してとなります。そのため、既に他サイト等で連載している部分をネオページに掲載すること自体は問題ありませんし、契約作品化した暁には、以降の新しい部分をネオページのみに掲載するという条件付きでお願いする形になります。
――ひとりの作家が複数の契約作品を有することは可能なのでしょうか。
原則としては可能です。ただ、並行した連載はかなり大変だと思うので、基本は完結したら次の作品という形をオススメしたいとは思っています。ネオページでは現在、「ネオページ・サポート・プログラム賞」を開催しています。参加条件として、既に契約済みの作品は対象外ですが、契約作家さんが新しい作品で参加することは可能です。もしここで契約作家さんの新たな作品が選ばれれば、契約作品の複数連載という形になりますね。
――デビューを目指す作家のサポートがネオページのスタンスだと思いますが、今後複数の作品を契約作品化し、生計を立てる作家さんが出てきても不思議ではないと感じています。目指しているスタンスとは、ちょっとズレていると感じる部分もありますが、その点は問題ないのでしょうか。
もし「契約作家」のみで生計を立てるような作家さんが現れたとしたら、それだけの実力があるわけですから、私たちとしては問題ないと思っています。逆に、そこまでの作家さんが現れたのなら、ネオページから外部の企業に様々なアプローチを行い、上のステージへと押し上げるような動きをしていくことになるでしょう(笑)。
■まとめ
――しつこいかもしれませんが、あらためて契約作家としての契約を締結するにあたり、作家サイド、そして作品に生まれるデメリットはありませんか。
デメリットかどうかはわかりませんが、契約作品については、マルチプラットフォームでの作品投稿に関して一部制限を設けさせていただいています。原稿料をお支払いしている関係上、ネオページでしか見られないコンテンツも求めておりますので、小説の一部内容はネオページのみで公開していただくようお願いしています。それ以外にデメリットと言えるようなものはないと思っていただいて構いません。ネオページの想いとしては、あくまで作家応援です。傍から見たらボランティアのように見えるかもしれませんが、弊社のメリットは、作家さんを集められることと、WEBサイトとしての発展を見込んだ上でサービスを提供しています。作家さんにデメリットの大きい条件や契約を持ちかけても、目標から遠ざかるだけなので、安心していただければと思います。
――ここまで赤裸々に語っていただいてありがとうございました。最後に執筆活動を続けていきたいと考えている作家のみなさまへメッセージをお願いします。
ネオページで行っている「契約作家」という試みは、日本では初の試みになります。なので、ぜひ多くの作家さんに試していただきたいですし、試すだけならそこまでリスクもないのではないでしょうか。また、ネオページでは様々なキャンペーンも開催していますので、ぜひ覗いてみてください。そして運営における資金面、長期的な展開についても、心配はまったくございません。様々な市場調査の結果、日本のWEB小説作家さんの創作を継続する環境には、困難が多いと感じています。だからこそ私たちは支援をしたいと考え、事業をスタートしました。日本の小説を執筆している方々のほとんどは兼業作家です。出版している作家さんでさえも大半が兼業作家となっています。私たちは日本の小説家の境遇を変えたいという気持ちで、ネオページを盛り上げていきます。みなさまもぜひネオページを利用してみてください。
――ありがとうございました。
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