独占インタビュー「ラノベの素」 星畑旭先生『僕は今すぐ前世の記憶を捨てたい。 ~憧れの田舎は人外魔境でした~』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2024年11月15日にTOブックスより『僕は今すぐ前世の記憶を捨てたい。 ~憧れの田舎は人外魔境でした~』第6巻が発売された星畑旭先生です。日本によく似た世界に転生した主人公が、療養のため祖父母の住む田舎で暮らすことになり、前世の記憶がまったく通用しない人外魔境「魔砕村」でたくましく成長していくスローライフファンタジーを描く本作。子供の成長をじっくり描くことに対するこだわりや、舞台である「魔砕村」の不思議な動植物や神様についてなど様々にお話をお聞きしました。

 

 

僕は今すぐ前世の記憶を捨てたい。 6

 

 

【あらすじ】

家族が東京に帰り数日、空は元気に過ごしていた。物騒なタラの芽や走るゼンマイの収穫など、去年出来なかったことに次々挑戦!更にはタケノコ狩りも見学することになり、ルンルン気分で出かけたのだが――春は大人しいはずの妄想竹にいきなり襲われてしまった!?どうやら“なよ竹の姫”という寄生生物により、竹たちが操られているらしい。敵の居場所もわからず皆が苦戦する中、「タケノコごはんを守るんだ!」と空の食欲【やる気】は全開!保育所で友達になった鑑定スキル持ちの変人先生・泰造を呼びだしたうえ、テルちゃんとフクちゃんまで応援に送りだし……!?力を合わせて、暴走竹林を鎮めろ!臆病少年の命がけ(?)ほのぼのファンタジー第六弾!

 

 

―それでは自己紹介からお願いします。

 

新潟県出身の星畑旭です。執筆歴は20年ぐらいだと思うのですが、実際は10年ほどお休みしていたので、そこまで長くはないと思います。趣味は料理と読書です。料理は普段から仕事がお休みの日にしていますし、クリスマスなどのイベントごとでは手の込んだ料理に挑戦することもあります。小説に関してはジャンル問わず読むタイプで、ライトノベルはもちろん、昔はミステリーや海外ファンタジーを読むこともありました。最近は自分が書き手にまわったこともあり、Web小説で活字欲を満たすことが多いです。あとはゲームも好きで『ファイナルファンタジーXIV』や『牧場物語』などをプレイしています。自分では結構多趣味な方だと思っていて、手芸なんかもやりますし、いろんなものに手を出しています。

 

 

――小説については様々なジャンルを読まれているという事ですが、読書好きになったきっかけは何ですか。

 

私は昔から図書館に入り浸っているような子供でしたので、これといったきっかけはなく自然と本を手に取るようになっていました。ライトノベルだと一番熱心に読んでいたのは『デルフィニア戦記』が刊行されていた頃だったので、当時読んだ作品が私の根底にあるのかなと思っています。

 

 

――なぜご自分で小説を書こうと思ったのかについても教えていただけますでしょうか。

 

昔、派遣のお仕事をしていたのですが、つい癖で仕事を効率化してしまったんですよね。その結果、暇な時間がいっぱいできたんです。派遣なので任せてもらえる仕事にも限りがありますし、仕事をしているように見せつつ、暇な時間を潰さないといけなくなってしまって……(笑)。最初は小説を読んでいたのですが、好みの作品を読み尽くしてしまい、それなら自分で書いてみようと思い立ったのがきっかけです。いざ書き出してみると、かなり楽しくて「意外と小説を書くのって私に向いているのでは?」と感じるようになり、執筆活動にのめり込んでいきました。

 

 

――ありがとうございます。それでは第5巻までを振り返りながら、『僕は今すぐ前世の記憶を捨てたい。 ~憧れの田舎は人外魔境でした~』がどんな物語なのか教えてください。

 

本作は、現代日本によく似た世界に転生した男の子・杉山空(ソラ)が、病気のせいで東京で生きていくことが難しくなり、療養のために祖父母が住む田舎の村「魔砕村」に向かうところから始まります。魔砕村は、前世の記憶とはかけ離れた人外魔境で、ソラはそのギャップに戸惑いながらも、周りの人たちにやさしく見守られながらすくすく育っていきます。第1巻から第4巻では、ソラが前世の記憶との向き合い方に悩みながらも、自らの意思で友達を守れるようになるまで成長していきます。第5巻では魔砕村に住み始めてから2度目の春を迎えたソラの物語が繰り広げられています。

 

僕は今すぐ前世の記憶を捨てたい。

※人外魔境の魔砕村でソラはよく食べて、よく遊んで、成長していく

 

 

――続いて本作の着想についても教えていただけますか。

 

前世の記憶がまったく役に立たない、むしろ前世の記憶が足を引っ張ってしまうストーリーを読んでみたいなと思ったのが着想のきっかけでした。どうしたら前世の記憶が邪魔になる展開にできるかを考えた際に浮かんだのが、「日本によく似ているけど、前世の常識とはかけ離れた世界」でした。日本の田舎をベースにしたのは、単純に書きやすいということもありましたが、読者の方に現代日本と作品世界のギャップをより強く感じてもらえるのではという狙いもありました。日本の田舎の原風景は誰しもイメージできるかと思います。だからこそ「逃げる山菜」や「巨大なカブトムシ」といった、魔砕村では当たり前に受け入れられているものの異質さが強調されるのではないかと考えていました。

 

 

――「魔砕村の異質さ」は本作の魅力ですよね。大きな声を上げると破裂するスイカや、空飛ぶサワガニ、完熟するまで収穫させてくれないブドウなど、面白い動植物がたくさん登場します。これらのアイデアはどのように考えられているのかも気になります。

 

これは読者の方にも聞かれるのですが、ふとした時に思いつくことが多いんです。細かく設定を練っているわけではなく、植物や家の冷蔵庫を眺めながら、思いついたアイデアを形にしています。ひとつ採用基準にしているのは、食材などの場合は危険になりすぎないようにすることです。たとえば本作のオクラはロケットのように飛んで行ってしまう特徴があるのですが、迷惑ではあっても危険とまではならないかと思います。こういった形で「ちょっとの可愛げ」と「若干の面倒臭さ」をバランスよくミックスさせることを意識しています。

 

僕は今すぐ前世の記憶を捨てたい。

※魔砕村の魔訶不思議な動植物にワクワクさせられる読者も多いはず

 

 

――動物や植物以外では個性豊かな神様や精霊なども登場します。アオギリ様やコケモリ様は、村人から大事にされながらも、人間臭いところがあって印象的でした。

 

神様については本作が日本をベースにした作品という事もあり、日本の神様のような親しみやすさと強さを表現できればと考えていました。日本の神様は八百万の神のように人の生活に根ざした親しみやすさがありつつ、荒魂と呼ばれる荒々しく恐ろしい一面もあります。本作で神様を描く際は、親しみやすさを意識しつつ、物事の考え方や実行する方法などは根本的に人間とは違うことを描くようにしています。

 

 

――ありがとうございます。タイトルでも「人外魔境」と銘打たれている通り、魔砕村は住人以外から見るとハードな環境です。魔砕村で生きていく上で、魔力以外に必要なことはありますか。

 

読者の方から「本作には嫌な人が登場しない」と言っていただくことが多いんですが、魔砕村は都会に比べるとかなりハードな環境なので、村人同士で争うといった悠長なことをしていては生きていけないんです。危険があるからこそ、周りの人と協力することが大事になってきます。魔砕村で生きていくために必要なのは「助け合いの精神」だと考えています。

 

 

――続いて、本作に登場する主なキャラクターを紹介していただけますでしょうか。

 

主人公の杉山空(ソラ)は、よく食べるキャラクターです。チートのようなものは持っていないんですけど、頑張って成長していけるところは彼の魅力なのかなと思っています。

 

僕は今すぐ前世の記憶を捨てたい。

※なんでも美味しそうに平らげるソラの食べっぷりには惹かれるものがある

 

ソラのおじいちゃんである米田幸生は、「孫、尊い」みたいなことをずっと思っているタイプの孫バカです(笑)。最強のおじいちゃんですが、ソラのためとなるとさらにパワーアップします。

 

僕は今すぐ前世の記憶を捨てたい。

※幸生は抑えきれず道具を破壊してしまうほどのパワーを持っている

 

ソラのおばあちゃんである米田雪乃は、幸生と違う方向性の強さがあるキャラクターにしたいなと思いながら書いていたキャラクターです。魔法が最強のおばあちゃんになっています(笑)。

 

僕は今すぐ前世の記憶を捨てたい。

※力自慢な幸生と反対に魔法が得意なおばあちゃんの雪乃

 

キャラクターはみんな好きなのですが、脳筋キャラやパワー系キャラが好きなので幸生と雪乃は書いていて特に楽しいです。後は座敷童のような守り神のヤナちゃん、鳥のフクちゃんも気に入っています。

 

 

――幸生と雪乃が代表だと思うのですが、本作にはパワフルで前向きな老人が多いですよね。

 

年を取るにつれて、ため込んでいる魔素の量も多くなっていくので、老人はみんな元気で丈夫なんです。単純に私がつよつよな老人好きっていうのもありますが……(笑)。逆に、その次の世代にあたる良夫や泰造たちは、今の老人世代があまりに強すぎるせいでちょっと萎縮しちゃっている部分もあったりします。

 

 

――ありがとうございます。第1巻から第5巻までで、作中では1年という期間が経過しました。この1年でソラはどういった点で成長しましたか。

 

「前世の記憶を失くしたい」と思っていたソラが、「前世の記憶を含めて自分なんだ」って思えるようになったことは、1番成長したところです。ずっと前世の記憶と村の常識のギャップに悩まされていたソラにとって、前世の記憶のおかげで友達の明良を救うことができた第4巻のエピソードは、大きなターニングポイントだったと考えています。

 

僕は今すぐ前世の記憶を捨てたい。

※前世の記憶と向き合えたことはソラにとって大きな成長だった

 

 

――最近では主人公の成長速度がスピーディーな作品も増えていますが、本作ではかなり丁寧にソラの成長を描いていますよね。

 

サクッと成長する作品もたくさんありますし、そういったお話もいいと思うのですが、子供時代ならではの物語を書きたいという思いがありました。読者の方には、ソラの成長をより近い目線で追いかけてほしいと考えているので、本作ではあえてじっくり書いています。

 

 

――子供時代ならではのエピソードですと、第2巻のカブトムシ捕りが印象的でした。明良の友達である勇馬の挑発に乗って、危険だと分かりながらカブトムシ捕りに同行してしまうわけですが、「危険だと理解しているのになぜ同行したのだろう」と思いつつも、「子供の頃だったらやっちゃっていたよな」といった納得感がありました。

 

カブトムシ捕りのお話は、子供同士だからこそ駄目だとわかっていても引くに引けず、失敗してしまうというエピソードになっています。私の甥っ子がちょうどソラと同じぐらいの年齢なんですが、一見すると筋が通っていそうな主張をしつつも、よくよく聞いてみると理不尽なことを言っていることが結構あるんですよね。読者の方からも「この行動には共感できない」といった感想をいただくこともあるのですが、大人になってからだと子供の行動を完全に理解するのは難しいのかなと思います。なので、共感というより「子供の頃ってこんなことあったよなぁ」ぐらいの気持ちで読んでいただけるとありがたいです。

 

僕は今すぐ前世の記憶を捨てたい。

※筋が通っていなかろうと、子供たちはいたって真剣なのだ

 

 

――続いてイラストについてもお聞きしたいのですが、本作のイラストはスズキイオリ先生が担当されています。これまでのイラストで特に気に入っているものを教えてください。

 

スズキイオリ先生のイラストは子供たちがめちゃくちゃ可愛いくて、本当に素敵なんです。第1巻のおにぎりを頬張るソラ君と第2巻の葉っぱの傘で遊んでいるソラ君のイラストは特に好きです。後はカバーイラストや口絵もいいですよね。田舎の自然が作り出す造形を美しく描いてくださっていて、綺麗だなと思います。第5巻のカバーイラストや第2巻のひまわり畑なども気に入っています。

 

僕は今すぐ前世の記憶を捨てたい。

 

僕は今すぐ前世の記憶を捨てたい。

※星畑旭先生が特にお気に入りだと語るイラスト

 

 

――そして発売された第6巻では、新しい春の味覚も登場しますし、これまであまり描かれてこなかったキャラクターにもスポットがあてられますよね。見どころについてお聞かせください。

 

第6巻は、私が去年あたりからずっと書こうと思って書けなかったタケノコ狩りのエピソードがメインとなります。善三がいつも通り不憫な目に遭いますので、クスっと笑ってもらえると嬉しいです。他には保育所に通い始めたソラの新たな友達となる「面白い男枠」の泰造や良夫も活躍しますので注目してほしいです。また、Web版には掲載していない「差別的なキャベツ」のお話や雪乃が作る特製クッキーのお話も収録されていますので、Web版を読んでいる方も楽しんでいただけるかと思います。

 

僕は今すぐ前世の記憶を捨てたい。

※ソラが魔砕村に来てから2年目の春の物語が描かれていく

 

 

――また、本作は大島つむぎ先生によるコミカライズも行われています。小説第6巻と合わせて、コミックス第3巻も同時発売となりました。あらためて見どころについて教えていただけますでしょうか。

 

コミカライズ版を見て感じたのは、やはりマンガじゃないとできない表現がたくさんあるんだなという事でした。たとえば雪乃が空中で鮭を焼いて、鮭ほぐしを作るところや、幸生の派手な田起こし、巫女の弥生ちゃんが躍るシーンなどは、小説だと個人の想像力頼りになってしまうかと思います。そういった小説では描き切れないところをマンガではうまく表現してもらっているので、注目してほしいです。コミックス第3巻は、田起こしのエピソードがめちゃくちゃ楽しいので、ぜひコミカライズも読んでいただけると嬉しいです。

 

僕は今すぐ前世の記憶を捨てたい。 コミックス3

※コミックスもコロナ・コミックスより第3巻まで発売中(「コロナEX」での連載はこちら

 

 

――今後の目標や野望などがあれば教えてください。

 

もう少し執筆のペースを安定させたいですね。どうしても、リアルのお仕事の影響もあり、短期間で一気に書き上げる形になってしまっているので、コツコツ書き続けるような形にモデルチェンジできればと考えています。野望ですと、やっぱりアニメ化できると嬉しいです。

 

 

――最後に、第6巻を楽しみに待っていた読者の方々、まだ本作を読まれていない方へメッセージをお願いします。

 

無事第6巻をお届けできて嬉しく思います。これまで本作を読んでくださっている方には、1年経ってちょっと成長したソラと一緒に、魔砕村ライフを楽しんでいただけますと幸いです。まだ読んだことがない方はぜひ試しに読んでみてほしいです。本作は男性向けとも女性向けとも言い難くて、恋愛要素も無いんですが、逆に恋愛が無いから安心して読めるという声もあったりします。疲れている人、おじいちゃんやおばあちゃんに「よしよし」されたい人、つよつよな老人が大好きな人は間違いなく楽しめるかと思いますので、ぜひ読んでみてください。

 

 

――ありがとうございました。

 

 

<了>

 

 

前世の記憶とはかけ離れた田舎の村で、様々な経験をしながら成長していくソラの物語を綴った星畑旭先生にお話をうかがいました。魔砕村のほのぼのとした雰囲気と、そこに生きるエキセントリックな動植物たちとのギャップも魅力の本作。子供の頃の気持ちを思い返しながら楽しめる『僕は今すぐ前世の記憶を捨てたい。 ~憧れの田舎は人外魔境でした~』は必読です。

 

<取材・文:ラノベニュースオンライン編集部・宮嵜/鈴木>

 

©星畑旭/TOブックス イラスト:スズキイオリ

kiji

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僕は今すぐ前世の記憶を捨てたい。~憧れの田舎は人外魔境でした

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