【レポート】『汝、暗君を愛せよ』著者・本条謙太郎×『オルクセン王国史』著者・樽見京一郎対談トークイベントの模様をお届け

2026年1月11日(日)にジュンク堂書店池袋本店の9階イベントスペースにて行われた「本条謙太郎×樽見京一郎 対談トークイベント&サイン会 ~「暗君」と「名君」~」の模様をお届けする。トークショーは『汝、暗君を愛せよ』第2巻ならびに『オルクセン王国史 ~野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか~』第6巻の発売を記念して実施されたものとなる。会場は満員御礼となり、両作品の熱心なファンが見守る中、創作の裏側から意外なプライベートまでが語られる濃密な90分となった。

 

 

本条謙太郎×樽見京一郎 対談トークイベント&サイン会 ~「暗君」と「名君」~

 

 

満席の会場から沸き起こる盛大な拍手に迎えられ、本条先生と樽見先生が登壇。「今日は立会人としてサンテネリとオルクセンの争乱を見届けていただければ」と樽見先生が挨拶し、会場を和ませた。

 

トークはまず、お互いの作品に対する印象からスタートした。樽見先生は『汝、暗君を愛せよ』をWEB連載時から読んでいたそうで、推薦文の依頼が来た際もその日のうちに快諾し、推薦文を送ったというエピソードを披露。作品については「トップに立つ人間の孤独が色濃く反映された作品」と評しつつ、WEBで読んでいた時から「書籍化することは間違いないと感じていた」と語った。一方、本条先生は『オルクセン王国史』について「緻密に設計された箱庭のような世界の中で、物語的なキャラクターが生きている。それを読者の視点で俯瞰的に見ることで物語に奥行きが感じられる」と、その世界構築の巧みさを絶賛した。

 

また、話の途中ではお互いの執筆スタイルに関する話題も上がった。本条先生は夜中にワインを飲み、程よく酔いが回った状態で執筆していると告白。プロットも準備せず、ほぼノープランで書いていることを明かした。対する樽見先生もほとんど紙のプロットは書かなかったとのこと。『オルクセン王国史』を書き始める前に用意したのは、A4用紙2枚分の設定表のみだったと、緻密な設定からは想像できない驚きの回答が返ってきた。

 

文体の話題になると、樽見先生は『汝、暗君を愛せよ』について、「とても難しい話をしているのに平易で読みやすい。ページをめくる手が止まらなくなる」と文章の読みやすさを評価。一方、本条先生は『オルクセン王国史』の文体を「カチッとしていて正統派」と称えた。樽見先生は佐藤大輔氏、開高健氏、フレデリック・フォーサイス氏、エミール・ゾラ氏といった作家からの影響を挙げ、「写実性や細かさ」へのこだわりを語った。対して本条先生は、リズム感を重視して文法を崩したり、あえて誤用を用いるスタイルで、フランス近代詩やジャン=ポール・サルトル氏、アルベール・カミュ氏などからの影響を受けているという。正統派と意図的な逸脱、対照的な二人の文体論が興味深いやり取りとなった。

 

本条謙太郎×樽見京一郎 対談トークイベント&サイン会 ~「暗君」と「名君」~

 

架空戦記や海外文学などから強い影響を受けているお二人。とはいえ、『汝、暗君を愛せよ』も『オルクセン王国史』もライトノベルである以上、キャラクターの魅力は欠かせない。本条先生はグロワスと4人の妃たちの関係性について「男女の関係というより、あくまでも人間同士の関係性を書こうと考えていた」と執筆時の意識を振り返りつつ、「他者からの影響を受けたくないというポリシーを持つ主人公が、徐々に周囲の影響を受けていった」と語り、「その変化が第2巻ラストの"ぼく"の決断につながった」と物語の核心にも触れた。樽見先生は『銀河英雄伝説』から影響を受けたと語りつつ、グスタフの造形についてはラインハルトを「反面教師にした」と意外な告白。万能な超人にしないため、グスタフから軍事の才能を外し、その役割をグレーベンに託したという。また、ゼーベックとグレーベンは元々一人のキャラクターだったことも明かされた。「もともとプロイセンの軍人モルトケをモデルに構想したが、一人に収めるには能力が高すぎたため二人に分けた」という創作秘話には、多くのファンが納得の表情を浮かべていた。

 

そして、話題はイベントのタイトルにもなっていた「暗君」グロワスと「名君」グスタフへと移る。樽見先生はグスタフについて「彼は自分のやっていることが『魔王』と呼ばれるような行為だと自覚している。だから『名君』と称されても、本人は素直に喜べないだろう」とグスタフの心境を分析。また、「名君」の定義については「名君かどうかはその時の人々によって基準が変わる」と指摘した。本条先生も樽見先生の指摘に深く頷き、昭和の名物経営者も現代ではパワハラと捉えられかねないことを引き合いに出しながら「暗君と呼ばれた君主の評価も時がたてば変わることが多い。そこに歴史の無常性がある」と語った。グスタフもグロワスも、自らを「名君」とは思っていない。樽見先生は両作品の読者層が重なる理由として、「主人公の自己評価の低さがあるのではないか」と分析した。

 

後半は事前に参加者から募集した質問のコーナーへ。まずは作家デビュー後の変化について聞かれると、本条先生は「正直、実感がない」と率直に答えた。昨年1月にWEB版が完結し、気がついたら書籍が2冊出て「このライトノベルがすごい!」の「新作単行本・ノベルズ部門」1位になっていたとこれまでを振り返る。編集長から連絡を受けた際も「宝島社さんが連絡先を間違えたのでは」と本気で思っていたと会場の笑いを誘った。樽見先生は「この歳になって初めての経験をたくさんさせてもらっている」と喜びを語った。特にコミカライズでは、読者の「この子かわいい」「このおじさん誰?」という反応をきっかけに、モブからネームドに昇格したキャラクターが4人ほどいるという。そうして育ってゆくキャラクター達について「孫のように愛おしい」と目を細めた。

 

本条謙太郎×樽見京一郎 対談トークイベント&サイン会 ~「暗君」と「名君」~

 

 

続いて「『ぼく』という主人公が生まれた経緯」について本条先生に質問が飛んだ。「立場が上になると胸に秘めなければならないことが増え、トップになればすべて自己責任とされる。でも一個人としては『俺の声を聞いてよ』という気持ちがあるはず」という考えを示し、そうした封殺された声を届けたいという想いが、主人公の造形に繋がったと語った。

 

話題は両作品の象徴的なモチーフへ。『オルクセン王国史』といえば食事描写が印象的だが、樽見先生は池波正太郎氏からの影響を挙げた。「池波先生は料理で季節感を出していた。私はそこから、料理を描くことで周囲の環境も表現できると学んだ」と語る。オークの種族特性、文化背景、地理的な違いといったものを、食事を通して描くことにはこだわっていたとのこと。たとえば序章でディネルースがオークの「ありあわせの料理」に驚くシーンは、両種族の物資の豊かさの差を端的に示しているのだと解説した。さらに「難しい説明と説明の間に料理を入れることで、読者の休憩ポイントにしている」という構成上の工夫も語られた。

 

本条謙太郎×樽見京一郎 対談トークイベント&サイン会 ~「暗君」と「名君」~

 

 

一方、『汝、暗君を愛せよ』には食事シーンがほとんどない。代わりに登場するのが時計だ。本条先生は「時計は矛盾の塊」だと語る。スマートウォッチの時代に、膨大な手間をかけてゼンマイ式を作るという「無用の用」がある。投機対象や富の象徴でありながら、500万円の時計も1,000円の時計も等しく愛でるマニアも存在している。「そういう矛盾を作品でも描きたかった。時計はその象徴」と創作意図を明かした。

 

本条謙太郎×樽見京一郎 対談トークイベント&サイン会 ~「暗君」と「名君」~

 

 

終盤、お互いへの質問コーナーでは思わぬ方向に話が転がった。樽見先生が「どうしてそんなにダンディなんですか?」と本条先生に問いかけると、本条先生は「いやいや、ファッションにこだわっているのはそちらでは」と返す。実際、樽見先生はオーダースーツやYシャツを愛用しており、「オーダーシャツなら腕時計のサイズに合わせて袖口を調整できる」と実用面のこだわりを披露。これを聞いた本条先生は「それなら心置きなく大きな時計を勧められる」と、時計沼への誘いを宣言すると会場から笑い声が挙がった。

 

また「今のマイブームは?」と問われた樽見先生は、車のレストアを挙げた。父親から譲り受けたトヨタ・パブリカのコンバーチブルをきっかけに古い車が好きになったという。また、「オルクセンに協力してくださった皆さんのためにフィールドキッチンを作りたい」という壮大な計画も飛び出した。本条先生からは「皆さん、これが本物のブルジョワです」とツッコミが入り、会場は笑いに包まれた。

 

樽見先生は「サンテネリとオルクセンの手打ちは完了しました」と締めくくり、本条先生は「ブルジョワであることが判明したので……、これからも仲良くしましょう(笑)」と会場の笑いを誘った。約90分にわたるトークイベントは、両先生の息の合った掛け合いとともに幕を閉じた。

 

本条謙太郎×樽見京一郎 対談トークイベント&サイン会 ~「暗君」と「名君」~

 

 

『汝、暗君を愛せよ』は、DREノベルスより第2巻まで、『オルクセン王国史~野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか~』は、サーガフォレストより第6巻まで発売中。

 

 

©Kentaro Honjo

Illustration by toi8

©Kyouichirou Tarumi ©HIFUMI SHOBO イラスト/THORES柴本

kiji

[『汝、暗君を愛せよ』関連サイト]

『汝、暗君を愛せよ』作品ページ

DREノベルス公式サイト

 

[『オルクセン王国史』関連サイト]

『オルクセン王国史』ポータルサイト

サーガフォレスト公式サイト

 

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