【特別企画】著者と編集者が語る『図書館ドラゴンは火を吹かない』200万円超で大成功したクラウドファンディング実行から成功まで

【特別企画】

2019年6月14日、とある作品のクラウドファンディングの募集が終了しました。400人以上の支援者、そして目標金額の4倍を超える約200万円を集め大成功を収めた作品の名は『図書館ドラゴンは火を吹かない』です。2016年に宝島社より単行本第1巻、その後2018年には文庫版も発売された本作ですが、残念ながら続刊には至りませんでした。こと出版においてはどうしても続きを出せない作品が生まれてしまうのも実情です。しかし本作の著者である東雲佑先生は、クラウドファンディングにて物語の続きを提供しようと行動し、結果として大成功を収めることになりました。個人によるクラウドファンディングの活用が珍しくなくなってきている昨今、この貴重な成功体験を共有したいという声のもと、東雲佑先生と本作の担当編集者であり、クラウドファンディングの実現に向けて尽力した岡田勘一氏にお話をうかがいました。クラウドファンディングに挑戦するにあたり、考えなくてはならなかったことはなにか。当時の心境と一緒に振り返っていただいています。※クラウドファンディングは「Makuake」を利用(プロジェクトページはこちら


東雲佑

第3回なろうコン(現:ネット小説大賞)にて拾い上げられた『図書館ドラゴンは火を吹かない』で作家デビュー。ファンタジー情報サイト「パンタポルタ」にてエッセイ『作家と学ぶ異類婚姻譚』および小説『女化町の現代異類婚姻譚』を連載しているほか、ゲームのシナリオ監修などでも活躍している。


岡田勘一

編集プロダクション有限会社マイストリート所属の編集者。担当作に『図書館ドラゴンは火を吹かない』、『異世界居酒屋「のぶ」』などがある。クラウドファンディングの実施を東雲佑先生に提案した張本人であり、プロジェクトを成功に導いた。


――クラウドファンディングの大成功おめでとうございます。制作はこれからが佳境だと思いますが、『図書館ドラゴンは火を吹かない』の第2巻がクラウドファンディングでの企画となった経緯を教えてください。

東雲:そもそものはじまりは宝島社からの続刊が難しいという話になった際に、担当の岡田さんから「クラウドファンディングで続刊に挑戦してみたらどうか?」と提案していただいたことでした。クラウドファンディングというものがどういったものであるのか、それを知ったのもこの時です。今にして思えば、このような提案をしていただけたこと自体がありがたいことだったと思います。出版社からの続刊が難しいという判断が行われた後もこの作品のことを諦めないでいてくれたわけですから。岡田さんにもイラストレーターの輝竜先生にも頭が上がりません。

岡田:私は少しビジネスライクな視点からになるのですが、VTuberのスーパーチャットを主とした、「コンテンツを支えるためにユーザーが支援をする」という文化が充分に成熟してきたと思っていました。コンテンツというものは、より多くの人に届き、広く知られるようになったほうが望ましいことは大前提です。しかし、作り手も受け手も熱量が高いのに絶対数が少ないゆえに商業的には継続不可能になるコンテンツも多く、私自身もこれまでたくさん見てきました。そういった「深く狭い」コンテンツが現状を打開する策として、クラウドファンディングは適していると思い、東雲先生に提案をさせていただいたんです。

東雲:もちろん当初はクラウドファンディング以外の手段も検討しました。ただ、僕の認識としてはあらゆる手段をすべて試みた上で、最後に残されたのがクラウドファンディングだったという感じです。

岡田:そうですね。宝島社からもしっかりと許可を取って行っています。それと今回のクラウドファンディングにあたっては、弊社マイストリート内にて企画許可をもらうことができ、会社としてサポートする形にできたことも大きかったと思います。弊社はめちゃくちゃ規模が小さいので、前例のないことでも比較的チャレンジがしやすく、編集プロダクションという立場と環境だったからこそ、著者と一緒になって挑戦、実現できたと思っています。恐らくですが、出版社勤務の編集者さんがこういった動きをするには、かなりのハードルが存在するはずなんです。なにせ勤務する会社が続きは難しいという判断をするわけですから。そういったことからも、本件はやや特殊な事例であるということも念頭に置いていただけるとありがたいです。

――クラウドファンディングという言葉は耳慣れてきている方も増えている一方で、実際に取り組む場合のメリットやデメリットをはじめ、考えなくてはいけないことも多かったと思います。そもそもどんなことを考えなくてはならなかったのか、またどんなことを話し合ったのでしょうか。

東雲:今だからこそ言えますが、メリットとデメリットを考えた際、僕はデメリットを強く感じていました。数えればキリがないんですが、たとえば支援が集まらなかったらどうするのか。特に最初の頃は企画のリスクばかりが明瞭だったんです。本作の続刊については粘り強く交渉をいただいたのですが、どうしても「OK」という判断が出なかった作品でもあるわけで、自信を持てというのも無理な話でした。それこそ支援が集まらなければ、会社としてサポートをしていただくマイストリートに損害を与えてしまうし、岡田さんの経歴にも傷をつけてしまうかもしれない。僕自身にとっても支持を受けられなかった作品として『図書ドラ』にある種の「トドメ」を刺してしまうことになると考えていました。支援が集まるか否かの二択で作品の運命が決まってしまう、そんなことばかりを考えていましたね。

岡田:私は『図書ドラ』であれば、一定の支援額は集まるであろうという想定はしていました。東雲さんに関するTwitterでの反応、歌い手のそらるさんが動画を上げ、ライブでも歌ったことで新しいファンが着いてきているという感覚。このあたりを総合的に見て、クラウドファンディングで支援を得て自費出版する、という「小規模な」刊行方法であれば、「やれる」のではないかと。もちろんどの程度金額として集まるか確証はなかったので、賭けであったことは確かです。そういった点を踏まえながら東雲先生と相談を行いました。

※『図書館ドラゴンは火を吹かない』イメージソング「Liekki」

東雲:そうしてクラウドファンディングのお話がより現実味を帯びてきた際に、違う方向性の心配も生まれてきたんです。何を自惚れているのかと言われてしまうかもしれませんが、無理をして高額の支援をしようとしてくれるファンも出てきてしまうのではないかということでした。大変ありがたいことに『図書ドラ』は熱心なファンに支えていただいているという自覚もありましたし、ゆっけさんが作詞・作曲したイメージソングの「Liekki」が公開されて以降は十代の若いファンも増えていました。だからこそ若い子が大事に貯めたお小遣いを我々の支援につぎ込んでしまうのではないか。いくら支援を募るとはいえ、あまりにもそれは慙愧に耐えない。そんな思いも生まれていました。だからこそ、せめて我々ができることとしてリターン(返礼品)は支援をしてくれた人が損をしないようにして欲しい、リターンは値段に見合った品物にして欲しいと、だいぶ岡田さんに無理を言いましたね。

岡田:「お前それ完全に赤字だよ」みたいな言い合いもしましたね(笑)。

※色紙用イラスト

東雲:そうですね(笑)。と、ここまでデメリットばかりに触れましたが、もちろんメリットもあるんです。最初の単行本から約3年、ずっと信じて待ってくれていた人たちに、ようやく第2巻を届けることができます。巻末には支援者のみなさんのクレジットも載るので、『図書ドラ』第2巻は、まさしく記念碑のような作品になると思います。

岡田:東雲先生がすごく不安に思っていたことは理解していましたし、私自身もいろんな計算を裏側でしていました。仮に目標額に到達しなくてもその規模での印刷部数であれば、費用は仕様変更で縮小できるだろう、そういった判断もありました。当たり前の話ですが、クラウドファンディングの目標金額到達の可否は、商業出版における「利益が出るかはわからない」と一緒です。今回は迂闊にもAll inという方式にしてしまいましたが、クラウドファンディングには「目標額に達さなければ中止」というAll or Nothing方式も取れるので、こういった点も一つ挑戦の指針になるのではと思っています。

――ただ単純に実行すればいい、ということではなく様々なことを考えられていたんですね。そうしていよいよクラウドファンディングが実行に移されていきました。

東雲:クラウドファンディングの実行が決まるとすぐに第2巻の制作も始まりました。この時点ではクラウドファンディングが成功するかどうかもわからない状況だったのですが、挿絵の作業などを考えると成功を待ってから動き出しては遅いという判断でもありました。なので、極端な話1円も集まらなかったら本当にどうするのか、そんな不安ばっかりでしたね……。

岡田:私の方ではいくつかの見積もりパターンを事前に用意していました。ソフト費からは「イラスト、デザイン、DTP、校正」、ハード費からは「印刷費、グッズ製造費」などです。また、クラウドファンディングではここに配送料が支援者の数だけ乗ってきますし、クラウドファンディングの支援額は消費税込みであることも注意が必要でした。いずれにしても達成金額によって予算も変われば状況も変わってきますし、その中で商業小説と同等のクオリティを保って制作するにはどうすればいいのかを考えていましたね。

東雲:そうして5月5日にクラウドファンディングの支援募集がスタートしました。期間は40日、当初の目標金額はクラウドファンディング会社側の手数料を除いた50万円でした。この50万円という額面は「とりあえずなんとか本が作れる」というギリギリの額で、僕の原稿料はおろか岡田さんにも1円も入らない額面でした。本の仕様もカバー無しのペーパーバックにするなど様々な部分で諦めなければならず、DTPやデザインなど専門の人にお任せする仕事も支援額頼み。その時点での企画書の「校正」には「有志」と書いてあり、潔すぎて笑ってしまったのを覚えています。

岡田:イラスト、デザイン、印刷は依頼。その他は自分でやるというのであれば50万円でギリギリです。東雲先生の言う通り、そこには編集費も原稿料もありません。判型を四六判ではなく文庫判にしたのも、こういった予算感から考えていました。私もなるべく宝島社文庫版と同じような形にしたいと思っていましたし、このあたりは「予算に応じて仕様を決める」という、商業企画でも変わらない方法ですね。

東雲:「初日に15万円」、これが僕と岡田さんの目標でした。僕は無茶だと思っていたんですけど、蓋を開けてみればものの30分足らずで到達することができました。まさに支援が「殺到」したと言ってもいいと思います。かなりネガティブな想定に支配されていた僕は画面をリロードするごとに更新されていく支援額を信じられない思いで眺めていましたね。

――結果として、目標金額の4倍にあたる約200万円が集まりました。大成功の要因はなんだったのでしょうか。

東雲:すべてはファンの皆様のおかげです。他にあるとすれば、勇気付けて背中を押してくれた作家仲間や、素敵な楽曲を作ってくれたゆっけどるちぇさん、「Liekki」を歌ってくれたそらるさん、それに岡田さんや輝竜司先生といったチーム『図書ドラ』のメンバー。とにかく、全方位におかげさまです。

岡田:制作側の思っている以上にファンの熱量が大きかった、ということに尽きると思います。また、東雲先生自身のキャラクターもあり、周囲の作家陣の応援も大きかったですね。支援はもちろん情報の拡散にもなっていたと思います。

――今回ひとつの成功例を示したことにより、商業に向けてもどんな道が拓けるのか、その展望について教えてください。

岡田:クラウドファンディングは、「ファンの絶対数は少ないが熱量がある」という分野に向いていると思います。「めちゃくちゃ高評価でファンも活発なのに、売上部数は伸びない」と悩んでいるコンテンツでも希望が見いだせるものだと思います。ただ、闇雲に始めればよいというわけはなく、著者自身が熱意を持ってコンテンツ作りに臨むことと、自分のファンに向き合ってしっかりとコミュニケーションを取り、自分に着いてきてもらえるように活動をしていく必要があります。さらに、しっかりとファンの「熱量」を感じることも大切です。どんなところから感じ取るかが難しいので、今後もコンテンツを見極めるための課題だと思っています。

東雲:『図書ドラ』の今後については、大いに展望が開けたと思っています。今回の第2巻クラウドファンディング企画の大成功を受けて、「これなら第3巻も」という話はもちろん出ました。もう無理だろうと思っていた『図書ドラ』の続きが書ける。僕にとってはそれだけで大きすぎる展望です。今回支援してくださった皆さんが、「書いていい」と僕に言ってくれたのです。感謝してもしきれません。或いはこういった形で続くことによりメディアミックスの可能性も……ということで、メディアミックスのお話もお待ちしています(笑)。

――ありがとうございました。

「クラウドファンディング」という著者とファンとを結びつける新たな場には様々な可能性が秘められていると感じました。成功を収めることによって、一度商業の道から外れてしまった作品をもう一度商業の世界へと引っ張り上げることも可能なのでは、そう強く感じます。また、成功のためにはそのプロセスを見極めた上での挑戦である、その重要性も強く感じました。作品の熱量、ファンとの距離感、そして話題性。これらはクラウドファンディングでの成功はもちろん、商業活動における成功への道筋のひとつと言っても過言ではないと思います。『図書館ドラゴンは火を吹かない』が商業に返り咲く姿もぜひ見てみたいですね!

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