独占インタビュー「ラノベの素」 零真似先生『君はヒト、僕は死者。世界はときどきひっくり返る』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2020年7月17日にガガガ文庫より『君はヒト、僕は死者。世界はときどきひっくり返る』が発売された零真似先生です。第14回小学館ライトノベル大賞にて「ガガガ賞」を同作で受賞されました。ヒトと死者という交わることのなかったはずの2人が出会い、優しい物語として描かれていく本作。作品に課されたテーマやその要素について、そして手を取り合う2人の在り方についてなど、様々にお聞きしました。

 

 

君はヒト、僕は死者。世界はときどきひっくり返る

 

 

【あらすじ】

天空に浮かぶ「世界時計」を境に分かたれた「天獄」と「地国」。地国で暮らす死者の僕はある日、常夜の空から降ってくる彼女を見つけた。一目見た瞬間から僕はもう、恋に落ちていた。彼女の名前はファイ。僕の名前はデッド。彼女はヒトで、僕は死者。だからこの恋は、きっと実らない。それでも夜空は今日も明るい。二つの世界の引力バランスがひっくり返る「天地返り」の日まで、僕は地国のゾンビから彼女を守り、そしてきちんと「さよなら」を告げる。これはやがて世界を揺るがすことになる、相容れない僕たちの物語だ。

 

 

――それでは自己紹介からお願いします。

 

零真似と申します。出身は香川県で、週3でうどんを食べてます。好きなものは施しで、嫌いなものは敬うに値しないセンパイ。最近ハマっているのはスマブラで低パーセント撃墜を狙うことです。好きな施しはもちろん受けるときだけです。センパイに関しては学校とかでもよくいる「ただ年が上なだけで尊敬されると思っているやつ」が嫌いでしたし、逆に僕がその立場になったとき、敬う必要もないのに敬意を表してきたり、僕に気を遣ってテキパキ動こうとする後輩が苦手でした。「上」を強く感じたのが中学生のときで、「下」を強く感じたのが大学生のときですね。スマブラは最近よく「ベレス」を使ってます。ドンキーとかを空Nで崖下に連れていくのがたのしいんですよね。割と事故ってこっちだけ落ちちゃって試合投げたみたいになっちゃうこともあるんですけど。持ちキャラは「勇者」です。「メガンテ」か「マダンテ」の名前変えてくれ!

 

 

――零真似先生は他の小説賞でも受賞歴がありますが、小説の執筆や投稿はいつ頃からされていたのでしょうか。

 

はじめて小説の賞に投稿したのは18歳のときで、それまでインターネットで書いていた長編ケータイ小説を無理やり規定枚数に圧縮して投稿しました。既に「プロを名乗るに値する最低限の実力はあるだろう」という自負を抱いていたので、“有象無象のプロレベル”でどこまで「いちばん」に近づけるか知りたくて、当時唯一知っていた電撃大賞に応募したのを覚えています。結果は「二次落選」で、「じゃあはじめから新人賞の規定枚数に合わせて書いたらどこまでいくのか」を知りたくて、別のところにも応募したりしました。その結果、20項目最低評価となるオール1のシートをもらって、しばらく小説を書くのをやめました。

 

 

――小説の執筆をしばらくやめられたのは、理想と現実にギャップがあったということでしょうか。

 

いえ、そういうわけではなく、顔も知らないだれかに「こいつは世界でいちばん小説を書くのがヘタなやつだから絶対にデビューさせるべきじゃない」と思わせるくらいのものは書けていたようなので、一旦はいいかなと。それで、作家としてのスキルアップを一度やめて、人生を豊かにしてみようと思ったんです。とはいえ、あまり創作から離れすぎてもいけないなと思ったので、大学では演劇と哲学を中心に学ぶことにしました。それから4年間大学生活を送りましたが、やっぱり豊かな人生ってくだらないな、と思って賞への投稿を再開することになりました。

 

 

――そうだったんですね。そしてこのたび第14回小学館ライトノベル大賞にて「ガガガ賞」を受賞されました。ガガガ文庫に応募してみようと思った理由はなんだったのでしょうか。

 

ガガガ文庫って、昔はなんか怖かったんですよね。他のレーベルはだいたいかわいい女の子のイラストがあって、「ジャンル不問! おもしろい作品募集中!」って感じなのに。ガガガは「ヴィジュアルがつくことを前提としたエンタテイメント作品」みたいな堅苦しい募集要項をイラストなしの白背景で掲げていた記憶があって。22歳のときに一度応募を考えましたけど、避けて別の賞に応募しました。その後、他の賞で受賞をしたり、小説を書けなくなってしまったり、諸々あったのですが、あらためて賞選考に臨もうと考え応募を開始したんです。僕にとって2017年の9月と2018年の9月は特別な意味を持っていて、そんな特別な意味を持っている9月の締切で知っているレーベルがガガガ文庫で、応募しました。

 

 

――受賞の連絡を受けた時はいかがでしたか。

 

編集部から電話がきたときは「……そっちか」という感じでした。じつは2つの作品が選考を通過していたんです。ひとつは締切直前に書き上げた作品でした。そしてもうひとつが今から4年前、他の賞をいただく前に書いた作品でした。今回受賞したのは後者で、小説が書けなくなった状態から脱却して、遮二無二でキーボードをぶっ叩いて賞レースに出せる作品を書いていたのに、受賞したのが4年前の作品で、自分としても復活できたのかどうか、うれしさ半分、不安半分といった感じでした。案の定、うらぶれた僕は受賞後の改稿で目がつぶれるほど苦労することになるのですが(笑)。

 

 

――それでは受賞作『君はヒト、僕は死者。世界はときどきひっくり返る』はどんな物語なのか教えてください。

 

『君はヒト、僕は死者。世界はときどきひっくり返る』は、「苦手なものを書いてみよう」という課題で臨んだ作品です。僕はおそらく現実の舞台にファンタジーのような異物がまざっている、みたいなやつが得意なのですが、この話は逆張りでファンタジーを舞台にしてみました。この世界には「天獄」と「地国」があって、地国の空は常に夜です。だけど暗くはなくて。月を見上げたときにすこしだけ浮き上がる心みたいに、不思議な明るさに包まれています。そんな世界を徘徊しているのが死者です。死者が蔓延る世界である地国に、生者である女の子が落ちてきます。主人公はその女の子に一目惚れをしてしまうのですが、夜空から落ちてくる女の子と出会って恋に落ちないやつはいないので、これは自然な流れですね。その気持ちを拒まれるのもまた自然な流れです。朗らかな幻想と、歩幅一歩分くらいの勇気。そういうものでこの作品はできている気がします。

 

君はヒト口絵01

※死者が蔓延る「地国」へと落ちてきた生者の女の子との出会いから物語は動き出す

 

 

――「課題」というお話もありましたが、執筆にあたってご自身で何かを課されていたのでしょうか。

 

そうですね。僕は賞レースに向けた執筆をしているときは、物語とはべつのところで自分に課題を設けるようにしていました。普通にやっていたら間に合わない締切に間に合わせるとか。小説作法本とかではタブーとされている表現や演出をあえて取り入れてみたりとか。なので、今回の作品についても、「苦手なものを書いてみよう」だけではなく、「あまり書き慣れていないストーリー構成」もテーマにしていました。

 

 

――本作の作品タイトルもすごく面白く感じました。『君はヒト、僕は死者。世界はときどきひっくり返る』は、一見比喩のように思えるタイトルなのですが、すべて作中における事実で組み上げられているんですよね。

 

タイトルはめちゃくちゃ悩みました。もっと捻ったほうがいいかな、とか。でも最近はタイトルで内容を簡潔に言い表しているのがよさげなのでこれに決めました。「世界」というワードを入れておけばだいたい比喩っぽくなって含みが出ますし(笑)。『なにもない夜のヒューマンデッドエチュード』とか『心臓の転がりは恋の高鳴りと似ている』とか、候補の中には個人的に気に入っているのもけっこうあったんですけど、このタイトルが興味を持っていただけるきっかけになってくれればいいなと思っています。じつはたぶんそんなにセカイ系ではないです(笑)。

 

 

――本作は死者とヒトとの恋物語で、あらゆるものを超越した純愛ストーリーという印象を受けました。本作の着想についてもお聞かせください。

 

僕は基本的に「ラブ」が大好きで焦がれているのですが、同時に「そんなのあるわけないじゃん」とも思っています。なので、ありはしなさそうなものを物語として描くにあたって、それを正当化するためのウソを混ぜています。実在性を増すための虚飾と言い換えてもいいかもしれません。とかく様々なやり方で僕は「ラブストーリー」を書いているつもりです。今回でいえば、普通のヒトが普通のヒトに「ラブ」を叫んでもウソにしかきこえないので、二人の間に「命」の壁を築いて「本物」を炙り出そうとしています。あるといいよね、「ラブ」。

 

 

――それではあらためて、このラブストーリーに登場するキャラクターについても教えてください。

 

この物語の主人公であるデッドは元々ナナシの死者ですが、やがて「デッド」になります。内向的で利他主義的なところは僕がよく描いてしまう人物像ではあるのですが、比較的やさしくて、しっかりと感情があります。女の子を殴ったりなんかしないし、ちゃんと友達もいます。いいやつです。たぶんこれ以上いいやつを描くことはもうないんじゃないかなと思っています。

 

君はヒト挿絵03

※「地国」に生きる意思を持った死者・デッド

 

ファイは、生きてます。心臓が動いているだけじゃなくて、物語に出てくる人間というキャラクターとしてしっかりと生かすことができたかなと感じています。僕が描いてきた中でいちばんちゃんとヒロインをしてる気がします。なんと、タバコを吸わない! たぶんこれ以上ちゃんとしたヒロインを描くことはもうないんじゃないかなと思っています。

 

君はヒト挿絵01

※「天獄」から落ちてきた生者の少女・ファイ

 

クロスは、イカしてますよね。スカすことなくイカしているのはすごいことです。デッドの友達として大事なところで背中を押してくれる。たぶんこれ以上イカした友達を描くことはもうないんじゃないかなと思っています。

 

君はヒト挿絵02

※デッドの良き友人で死者・クロス

 

名前のあるキャラクターであともうひとり「みーちゃん」もいて、僕は彼女のほの暗さがとても好きだったのですが、「みーちゃんの出番絶対削るマン」と化した担当編集者によって、ここで紹介するだけのエピソードが奪われてしまいました。でも結果的にその判断は正しかった気がするので、許します。

 

 

――デッドが「いいやつ」というのはまさにその通りで、非常に純粋なキャラクターでもあり、眩しさすら感じました。

 

たくさんの人が自分にとって「いちばん大切なもの」を求めていて、それが「いちばん大切にしたいもの」になればいいと思っている、と僕は考えています。だからデッドに惹かれる部分があるとすれば、それは彼の行動ではなく出会いにあるのだと思います。彼は大切なものと大切にしたいものが冒頭で合致している。そこさえハマれば、きっとだれだって願いに殉じることができます。僕だって今は創作がいちばん大切ですが、いつかはそれより大切にしたいものに出会いたいと願っているし、そのときがきたらきっとそれ以外のものは切り捨ててしまえます。だから込めた想いとはちがうかもしれませんが、僕はデッドに対して「いいなあ、愛に生きられて」と思っています。愛に生きて、愛に死にたい。

 

君はヒト口絵02

※二人の純粋さと眩しさは本作の大きな魅力に繋がっている

 

 

――「大切なもの」と「大切にしたいもの」が合致しているからこその魅力は、仰る通りだと思います。

 

ただ、それだけだと物語がありえそうにない純度に達して「ウソ」っぽくなってしまうので、適度な現実感として天獄があるようです。僕はけっこう感覚で書くところがあるので、この設定にはこういう意味がある、という構築論はどうしても後付けになってしまいがちなのですが。なんでも許されるファンタジーの世界で、天獄はかなり現実を意識して書きました。異なる容姿や価値観が憧れに繋がる場合はいいのですが、そうでない場合、世間はけっこう冷たいものです。イケメンにはなりたいけどブサイクにはなりたくない。いろんな人と仲良くしたほうがいいに決まってるから揉め事を起こすやつの気が知れない。あえて近いところで例を挙げるとそんな感じでしょうか。

 

 

――なるほど。デッドに感じる魅力はもちろんですが、その相手であるファイも非常に魅力的なキャラクターなんですよね。

 

空から降ってくるファイは、逆にファンタジーの象徴ですかね。僕らが心の内側で僕らの凝り固まったつまらない現実を華やかにぶっ壊してほしいと願っているように、変わり映えのしない日常に退屈していたデッドの現実が、彼女の飛来によって壊れ、再構成されていきます。そういう意味で、はじめてファイにぶたれた瞬間、デッドは一度死んでいるのかもしれませんね。物語が進むにつれて、デッドだけではくファイも変化していきます。それは心境だけではなく、たとえば彼女の立ち位置も移ろいます。後ろからついてきてくれたり、前を進んでくれたり、隣に並んで立ってくれたりする彼女は、きっとデッドにとっての「世界」であり「神様」です。

 

 

――本作のイラストは純粋先生が担当されています。お気に入りのイラストやデザインがあれば教えてください。

 

純粋先生は絵に体温を込めることができる方だなと思っています。温かみのある絵が描ける人はけっこういると思いますが、空気感だけでなく、生きている人物の温度まで載せられるのはすごいです! そして『君はヒト、僕は死者。世界はときどきひっくり返る』には生きているヒトとは真逆の死者が出てきます。死者は死んでいるので体温がありません。けれど感情はあります。それってつまりは「心の体温」です。冷たさの中にある温かさ。そういう微妙なニュアンスを表現できるのは、さすがプロ! という感じです。いただいたイラストは全部すきなのですが、あえてどれかを選ぶならお腹を抱えて笑っているファイのイラストが好きですね。守りたいです。この笑顔。

 

君はヒト挿絵04

※ファイが笑っていられるようにデッドは奔走する

 

 

――著者として本作はどんな方が読むと、より面白いと感じてもらえると思いますか。

 

夜が好きな人、でしょうか。夜が好きな人はだいたい現実に正しく適応できていないか、適応したくないと思っているので。この本がそういう人の言い訳になればいいなと思っています。本を読んでいるときくらい考えるべきことを先送りにしていいじゃないか。あの本の作者だって後ろ向きなんだから前進しなくてもいいじゃないか。たとえばそんな感じでこの物語が意味を持ってくれたらうれしいです。小説家のセリフとしてはふさわしくないのかもしれませんが、物語なんてものは結局動き始めた時点で無数の取捨選択によって綴られた迷路の筋道でしかないので。その点を追ってくれてももちろんいいんだけど、迷路の中に漂う、なにか得体の知れない強大で透明な気配に怯えたり打ちのめされたり乗り越えたりしてくれてもいいです。作家として、そういう気配を一冊の本の中に宿していけたらいいなと思っています。それができるのが「本物」だと思っているので。

 

 

 

――それでは最後に今後の目標や野望があれば教えてください。

 

けっこう強い思想を語ったりもしましたが、現状の僕はほとんどすっからかんです。それは懐事情もそうですが、なにより創造力――僕の感性に近い言葉でいうなら「作家力」が枯渇しています。それもそのはずで、僕は本物の作家としてあり続けるために必要なそれを2019年の9月にすべて燃やし尽くしてしまった。たとえばアイディアだったり、文庫換算で300ページの物語を過不足なく書ききる力だったり。そういうものをもう自分の中に感じません。刊行にあたって施すべきちょっとした改稿にも苦心して目をつぶすほどです。でも、生き残った以上、いつまでも燃えカスでいるわけにもいかないので、意識的に失った「作家力」を意識的にとりもどすため、しばらくはそれを養う期間にしたいです。大学生のとき、創作から離れすぎない位置で演劇や哲学をして感性を磨いたように、おもしろそうなイベントに参加したりしていろいろ遊びたいなと思っています。既にその準備もはじめていて、それだけでちょっとはパワーが回復していくのを感じます。とはいえ、あまり遊んでいるとせっかく僕のことを知ってくれたり応援してくれたりしてくれる読者に見限られてしまうので、並行してちゃんと本を出せるように動いていきたいです。とりあえず手元には刊行に足ると思っている作品が15作ほどあるので、これをなんとかうまく商業ラインに乗せていきたいですね。一緒に世界をぶん殴ってくれるレーベル、永久に募集中!!

 

 

――本日はありがとうございました。

 

 

<了>

 

 

ヒトと死者が出会い、「大切なもの」と「大切にしたいもの」のために奔走する優しい物語を綴った零真似先生にお話をうかがいました。築かれた「命」という壁から炙り出される「本物」を、ひたすら純粋に描き切る本作。真っ直ぐな2人のラブストーリーを描く『君はヒト、僕は死者。世界はときどきひっくり返る』は必読です!

 

 

©零真似純粋/小学館「ガガガ文庫」

kiji

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ガガガ文庫公式サイト

 

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君はヒト、僕は死者。世界はときどきひっくり返る (ガガガ文庫 せ 1-1)

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