独占インタビュー「ラノベの素」 紫大悟先生『魔王2099』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2021年1月20日にファンタジア文庫より『魔王2099』が発売される紫大悟先生です。第33回ファンタジア大賞にて《大賞》を同作で受賞し、満を持してデビューされます。500年の時を経て復活を遂げた魔王の眼前に広がっていた光景は、ありとあらゆるものが規格外な発展を遂げた未知の世界で……。本作の内容についてはもちろん、登場するキャラクターについてなど、様々なことをお聞きしました。
【あらすじ】 統合暦2099年――不死の王国を統べていた、伝説の魔王・ベルトールが滅びを迎えてから500年――魔王再臨の刻、来たれり。サイバーパンクシティ『新宿市』。天を貫く超高層ビル群、宙を錯綜する極彩色のネオン光――魔導工学の技術革新によって栄光ある発展を遂げた、究極の未来都市。魔王が降り立った世界は、かつての絶対支配者を置き去りに、驚愕の進化を果たしていた――。巨大都市国家が手にした、華々しい繁栄。しかし……その裏に隠されていたのは――恐るべき“闇”だった。輝かしくも荒んだ“新たな世界”を再び支配すべく、魔王は未来を躍動する! |
――それでは自己紹介からお願いします。
神奈川県出身の紫大悟と申します。このたび第33回ファンタジア大賞で《大賞》を受賞しました。好きなものはゲームで、学生の頃はずっとオンラインゲームをプレイしていました。それこそ大学生の頃はネットカフェと大学を往復するような生活をしていましたね(笑)。苦手なものは雑談やトークですね……。自分のことについて喋る機会はこれまでほとんどなかったので、お手柔らかにお願いします。
――作品を拝読して、なんとなくではあったのですが、ゲームがお好きなんだろうなとは感じていました。
ゲームは本当に大好きです。『ダークソウル』のようなゲームもそうですし、『ロックマン』のような横スクロールアクションも好きです。『サイバーパンク2077』も買ったはいいものの、執筆作業に追われてあまり触れられていないので、早く思い切り遊びたいです(笑)。
――あらためて第33回ファンタジア大賞《大賞》受賞おめでとうございます。受賞の連絡を受けた時の率直な感想をお聞かせください。
ありがとうございます。《大賞》受賞の連絡をいただいた時は、喜びと驚きと戸惑いが入り混じっていました。そして時間が経てば経つほど、戸惑いの気持ちが大きくなっていきました。《大賞》ということは、大々的に宣伝もしていただけるわけで、作品としての取り扱いも大きくなるじゃないですか。そういう観点からも《大賞》が欲しいと思ってはいましたけど、時間が経つにつれて、『作家』ってどうすればいいんだ、みたいな(笑)。嬉しさとプレッシャーが入り混じった複雑な気持ちでいっぱいです。
――紫大悟先生の投稿歴や執筆歴はどのくらいなのでしょうか。新人賞への応募はほとんどがファンタジア大賞だったんですよね。
そうですね。投稿したての頃は、自分の好きな要素や世界観だけを詰め込んで、それで選評をもらうまでまずは頑張ってみようと。それをモチベーションにしていた感じです。そこから選評の指摘を自分の作品に取り込んだり、流行りや大衆向けの要素を追加して、ブラッシュアップしていくように努めていました。また応募先を選ぶにあたっては、WEB応募が可能だったことも大きかったです。小説の応募っていうと、どうしても紙の原稿をまとめて郵送しなくちゃいけないというイメージが強くて、そういった手間のかからない応募方法も魅力でした。楽っていうのも大事だと思うんですよ(笑)。
――応募先にファンタジア大賞を選んだこともそうですが、作家になろうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。
あまりポジティブなきっかけではないのですが、就職活動が難航していたのも大きな要因でした。うまくいかない中で、自分は何をやれるんだろうとあらためて考えた時に、「文章」での成功体験がいくつか思い浮かんだんです。高校生の時に小論文を褒めてもらったことがありました。そして、自分の創作の原点にもなった小学校の作文コンクール。家族を題材にして書いた作文が新聞に載ったりもしました。その作文には何割か事実とは異なる創作も混じっていたりもして、あらためて考えると本当に自分自身の“創作”の原点だったなと(笑)。小学校の図書館には『スレイヤーズ』が置いてありましたし、その後もライトノベルを読むようになり、作家への憧れも強くなっていました。最初はふんわりと「ちょっと挑戦してみよう」からのスタートではありましたが、挑戦から数年越しにその想いが結実したことを考えると、感慨深いものがありますね。
――それでは第33回ファンタジア大賞《大賞》受賞作『魔王2099』はどんな物語なのか教えてください。
本作は、とあるハイファンタジーな世界で、定命の種族と不死の種族とが争い、魔王が勇者に敗れてしまうというプロローグから始まります。そこから魔王は500年後の世界に復活を果たすのですが、降り立った世界は、魔王が元々存在していた世界・アルネスと、地球(アース)が融合した世界になっているんです。魔法と科学とが融合した結果、文明が規格外に発展しており、魔王にとって文字通りの別世界です。そんな未来世界に蘇った魔王が、悪戦苦闘しながら成り上がっていく物語なのですが……わかりやすくまとめるのが結構難しいお話でもあるんですよね(笑)。自分が伝えたいこと以上の内容が、本作には詰まっているはずです!
※魔王が復活を遂げるまでの500年の間に世界は一変していて……!?
――ファンタジーとサイバーパンクを融合させた世界観など、本作はどんな着想で生まれたのでしょうか。
ひとつはエンターテインメントとして面白いだろうというところがありました。冒頭でゲームが好きだというお話をさせていただいたと思うのですが、本作には、ゲームや映画から蓄積して、自分の中に落とし込んだ世界観が広がっています。ハイファンタジーな世界観に電脳やネットワークといったSF的な世界観を掛け合わせ、かつ作品としての楽しさを優先し、小難しくならないよう注意しました。以前に似たようなジャンルの作品を書いて応募したこともあったのですが、それはどちらかというとSFにもっと寄っていて、若干のとっつきにくさがあると選評で指摘を受けました。そこで、わかりやすいファンタジー要素を積極的に取り入れて、今作が生まれたという経緯があります。本作では、ファンタジー世界における常識を基盤に、SFの文明が成り立っています。既存の科学と魔法が融合した、新しい技術体系の上に成り立つ新世界ですね。
――なるほど。本作の世界観においては、主人公を魔王ではなく勇者として描くこともできたのではと思うのですが、魔王を主人公とした理由は何だったのでしょうか。
それは自分もかなり悩んだところではあって、実際には勇者側からの書き出しもなかったわけじゃありません(笑)。もちろんそれ以外にも、地球(アース)側の人物を主人公にする案もあったんですよね。それぞれパンチがそこまで強くなかったことと、魔王の方が書いていて楽しいと感じたんです。勇者が主人公だと、あまり悪いことをさせられないじゃないですか(笑)。執筆する上で自分も楽しめるキャラクターを主人公にしようと考えた結果、魔王を主人公に選びました。
――科学ベースと魔法ベースの2つの世界が融合していることで、書きにくさなどはありませんでしたか。
それはほとんどありませんでした。2つの世界が混じりあっているとはいえ、ストーリーラインを明確にして読みやすさ重視で執筆しましたし、自分自身、頭の中で設定をこねくりまわすのは嫌いじゃありません。物語の本筋とは絡んではいないけど、複雑な世界観が垣間見えるような描写もかなり織り交ぜているので、ぜひ注目してもらいたいです。端々の設定から想像の間口を広げてもらえたら、本作をさらに楽しんでいただけるんじゃないかなと思います。
――それでは続いて、本作に登場するキャラクターについて教えてください。
ベルトールは500年後の世界に復活を遂げた魔王です。みなさんがイメージしている魔王をわかりやすく踏襲した存在でもあります。500年後の世界に少しずつ順応していける柔らかい頭の持ち主でもあって、そこは自分自身も意識している点ですね。堅物キャラがみせる、ちょっと可愛いギャップなんかにも注目してもらえたらと思います。
※500年後の世界に適応していく魔王の姿も見どころ
マキナはベルトールの配下ですね。500年もの間、本当に復活するかどうかもわからない魔王の再臨を待ち続けた苦労人です。500年の間に気持ちが折れてしまいそうな時もあったと思いますし、現在の生活環境も込みで、本当に苦労してきたキャラクターだと思います。清楚で健気なヒロインです。
※魔王の再臨を待ち続けた配下・マキナ
高橋は地球(アース)側のキャラクターで、陽気なハッカーです。チャイナ服にドワーフ・ジャケットを羽織るという、かなり奇抜な格好をしていて、ベルトールとの掛け合いが非常に弾む存在でもあります。作品的にも作者的にも便利なキャラクターになりました(笑)。
※500年後の世界を象徴するキャラクターのひとりでもあるハッカー・高橋
グラムはかつて魔王を倒した勇者です。500年後の世界にも存在しており、ご多分に漏れず苦労しています。過去に栄華を誇っていたキャラクターは、軒並み苦労人になっていますね(笑)。
※500年後の世界で奇しくも魔王と再会を果たすことになる勇者・グラム
――キャラクターについてお伺いしているとコメディ色が強めにも聞こえるのですが、実際はシリアスなシーンも多いですよね。特に、500年前と500年後の、新旧世界の戦いのような構図も垣間見えました。
そこはおっしゃる通りで、改稿の際に、新しい世界やその技術、また、古い世界と魔法について、新旧をわかりやすく描写していきましょうという、担当編集さんからの指摘もありました。なので、セリフひとつ取ってもかなり意識しています。ベルトールにしてもグラムにしても、新旧の戦いはぜひ注目していただきたいです。
――本作のイラストはクレタ先生が担当されています。あらためてイラストの感想を教えてください。
最初にベルトールのイラストを拝見したんですが、もうバッチリすぎて「これだ!」と(笑)。自分の頭の中で思い描いていたベルトールの姿がそのまま出力されたかのような素晴らしいイラストを描いていただいたという、それぐらいの衝撃でした。奇抜な格好をしている高橋のイラストも素晴らしかったです。お気に入りのイラストは、告知用に描いていただいたイラストですね。ベルトールをはじめとした各キャラクターが描かれていて、その背後にはサイバーパンクシティ・新宿市の街が広がっているんです。本作は、メカだったりファンタジーものだったり、ごちゃ混ぜな世界観になっているわけで、それを表現していただくのは本当に大変だったと思うんです。クレタ先生には本当にがっちりと本作の世界を体現していただきました。
※本作の世界観をわかりやすく描いた必見の告知イラスト
――著者として本作はどんな方が読むとより面白いと感じられると思いますか。
どちらかというと、こんな方に読んでもらいたいという願望になるのですが、これまであまりSFに触れてこられなかった人に、SFやサイバーパンクの入門編として手に取ってもらえたらとは思っています。SFはファンタジーと比較して少しばかり難しいイメージを持たれている方もいるのかなと思っていて、そういった部分の橋渡し役になれればと。とにかく入りやすく、とっつきやすさを意識して書きましたので。あとは自分自身、ファンタジーな世界に、漢字やひらがなが存在しているような世界観が好きなので、そういった込み入った世界観好きにはぜひ読んでいただきたいですね。
――今後の目標や野望があれば教えてください。
目標としては、ジャンルの流行の先頭に立ちたいという思いを持っています。例えるなら、『ソードアート・オンライン』が流行ったことで、VRMMOものが流行ったりしたと思うんです。そういったジャンル流行の先駆けになるようなポジションを目指していきたいと思っています。本作が世に出て、ファンタジー世界に、地球や日本の文化が入り混じっている、世界観のごった煮みたいな作品が増えてくれたら嬉しいですね。これは受賞する前からずっと思っていたことでもあるので、今回の受賞を契機に新しい流れを作っていけたらいいなと思います。
――それでは最後に本作へ興味を持たれた方に一言お願いします。
新宿の歌舞伎町にエルフやオークが歩いている、それが本作の世界観における魅力のひとつだと思っています。近未来的な世界観に触れたことがない、そういったジャンルの作品に慣れ親しんでいない人に、ぜひ手に取っていただきたいです。SFとファンタジーのそれぞれの美味しいところを調理した作品ですし、最終的に読者の方が読んで気持ちよくなれる物語を意識して書いておりますので、ぜひ信じて読んでみてください。読者のみなさんと一緒に、作品を盛り上げていけたらと思います!
■ラノベニュースオンラインインタビュー特別企画「受賞作家から受賞作家へ」
インタビューの特別企画、受賞作家から受賞作家へとレーベルを跨いで聞いてみたい事を繋いでいく企画です。インタビュー時に質問をお預かりし、いつかの日に同じく新人賞を受賞された方が回答します。そしてまた新たな質問をお預かりし、その次へと繋げていきます。今回の質問と回答者は以下のお二人より。 |
第25回スニーカー大賞「特別賞」W受賞作家・三上こた先生
⇒ 第33回ファンタジア大賞《大賞》受賞作家・紫大悟先生
【質問】
自分には料理のレシピ本集めといった執筆以外の趣味もあるのですが、そういった執筆とは関係ない趣味が作品作りの根幹に影響することはありますでしょうか。自分としては刊行された2作品において、RPG好きの影響が出ていると思うのですが、影響の有無、また具体的な影響事例があれば教えてください。
【回答】
回答としては、影響していると思います。自分はゲームと映画を観るのが好きで、話の作りや画面の作りは結構意識しています。ゲーム内のアイテムの説明文を読むのも好きですね。あの説明文の中にもストーリーがあるんですよ。本作における細かい設定や世界観を読者に想像させる描写、ガジェットの歴史など、物語を紡ぐ上で多分に影響を受けていると思います。半ば無意識でやっている感じですが(笑)。
――本日はありがとうございました。
<了>
第33回ファンタジア大賞にて《大賞》を受賞した紫大悟先生にお話をうかがいました。複雑な世界観をシンプルにわかりやすく、そして楽しく読めるように描いたという本作。魔王を中心とする物語の本筋はもちろん、端々に描かれるガジェットからも目が離せない、新時代の魔王譚を描く『魔王2099』は必読です!
<取材・構成・執筆:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>
©紫大悟・クレタ KADOKAWA ファンタジア文庫刊
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