独占インタビュー「ラノベの素」 六海刻羽先生『星詠みの魔法使い』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2021年1月25日にオーバーラップ文庫より『星詠みの魔法使い』が発売される六海刻羽先生です。第7回オーバーラップ文庫大賞にて「金賞」を同作で受賞し、満を持してデビューされます。魔法学校を舞台に描かれる「夢」。純粋にひたむきに走り続ける少女と、夢破れた少年の出会いによって、彼ら彼女らは魔法使いとして、懸命に星へと手を伸ばそうとします。キャラクター達が成長する姿を描きたかったという本作の内容はもちろん、登場するキャラクターについてなど様々にお聞きしました。

 

 

星詠みの魔法使い 魔導書作家になれますか?

 

 

【あらすじ】

世界最高峰の魔法使い教育機関であるソラナカルタ魔法学校に籍を置く少年・ヨヨ。夢を失い、目標もなく過ごすヨヨが出会ったのは純粋無垢な新入生の少女・ルナだった。「わたし、魔導書作家になりたいんです!」 魔導書作家――魔法使いの極致で、世界にほんの一握りの存在。誰もが夢見ては挫折する夢を一途に追いかけるルナとの出会いで、ヨヨの心境に変化が生まれる。交流を深めていく中、ルナの才能を狙う騒動が発生し――!? 夢を失ったヨヨと、魔導書作家を夢見るルナ。二人の魔導書を巡る物語が、今幕を開ける――。

 

 

――それでは自己紹介からお願いします。

 

はじめまして。第7回オーバーラップ文庫大賞にて「金賞」をいただきました六海刻羽(りっかいときわ)と申します。普段は高校の数学教師をしております。趣味はランニング、あとはゲームでしょうか。RPGとか大好きだったんですけど、就職してからはしばらく忙しく、購入はするもののプレイできずにひたすら積み上がっていっている状態です。苦手なことについては、最近ようやくひとり暮らしを始めまして、家事全般に四苦八苦している最中というところでしょうか(笑)。

 

 

――作家としてデビューするにあたっても、ひとり暮らしはいい環境の変化だったかもしれませんね。

 

そうですね。ひとり暮らしのメリットは一緒に住んでいた家族のことを考慮せず、自分だけのスケジュールで1日を過ごせる点でしょうか(笑)。時間を自由に使えるようになった気がします。就職してからは深夜の活動を控えようとかいろいろ考えていたんですが、仕事から帰って寝て、深夜に起きて活動するといった時間の使い方もできるようになりましたね。もちろんデメリットもたくさんあって、本当に当たり前のことなんですが、仕事から家に帰っても温かいご飯がないという。もうこればっかりは親に感謝しかなかったですよね。痛感しています(笑)。

 

 

――あらためて第7回オーバーラップ文庫大賞「金賞」受賞おめでとうございます。まずは率直な感想をお聞かせください。

 

受賞の連絡をいただいて、非常に嬉しい思いがありましたよね。それから嬉しさの質が少しずつ変化もしていて、受賞に対する喜びから、今までパソコンの中で綴り続けてきた物語が、ようやくパソコンの中から卒業して羽ばたいてくれるという喜びに変わっていった感じです。教え子の合格報告を受けたような気持ちでした。

 

 

――六海先生が小説を書こうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

 

僕が小説を書きはじめたのは大学2年生の冬くらいだったんですけど、高校まではハンドボールをやっていて、全国の一歩手前まで行ったりと、部活漬けだったんです。部活引退後は燃え尽き症候群のような状態になってしまい、大学に入学してからも何をするわけでもなく、講義に参加して自宅に帰っての繰り返しでした。さすがにこのままではマズいと思って、いくつか新しいことを始めたんです。そのうちのひとつが小説を書くことでした。熱量高く執筆活動に取り組むようになったのも、新人賞に応募するようになったのも大学卒業後なので、執筆歴でいうと4~5年くらいでしょうか。

 

 

――新人賞への応募は大学卒業後からとのことでしたが、ライトノベルの新人賞に応募しようと思った理由は何だったのでしょうか。

 

ライトノベルは高校2年の時に、部活の友人が読んでいたものを貸してもらったのが始まりです。それまでは活字が苦手で本とか全然読んでこなかったんですけど、いざ読んでみると本当に面白くて、こんな世界もあるんだなって思いました。『デート・ア・ライブ』の第1巻だったんですけど、あの感覚はこの先忘れることはないと思います。ライトノベルは漫画と比較してもコストパフォーマンスが良く、実際に小説を書き続けるようになるまで、読み続けていました。その中で、物語に対する妄想を考えるようになっていきました。自分で考えれば自分の好みの展開やキャラクターを作ることができるわけで、いつか作ってみたいなと。ライトノベルの新人賞に応募したのは、自分の読書歴が9割9分ライトノベルだったからですね(笑)。

 

 

――ということは根っからのラノベ好きなんですね(笑)。

 

そうですね(笑)。就職してからは2週間に1冊くらいのペースになってしまっていますが、大学時代は週に3~4冊は読んでいました。『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』などもずっとタイミングがなくて手を出してなかったんですけど、読み始めたら読み終わるまで秒でしたね(笑)。ちゃんと長いお休みが取れたときには『とある魔術の禁書目録』シリーズにも手を出したいと思っています。さすがに平日に読み始めてしまうと、生活が破綻してしまう恐れがあるので……。

 

 

――ありがとうございます。それでは第7回オーバーラップ文庫大賞「金賞」受賞作『星詠みの魔法使い』はどんな物語なのでしょうか。

 

本作は魔法学校を舞台にした王道なファンタジー小説です。かつて夢を諦めてしまった主人公と、魔導書作家になるという夢を追い続けているヒロインの出会いから始まります。そんな二人が行動を共にし、ヒロインは自分の夢をより強く抱くようになり、主人公はかつての夢への想いを取り戻していく成長の物語です。自己紹介でも触れたのですが、自分は教師をしており、現実でも物語においても誰かが成長する姿って魅力があると思っています。その魅力に携わりたいという想いから教職に就きましたし、この作品においても現実と同様に主人公やヒロインが成長する姿、その魅力を込めたいと考え執筆しました。

 

星詠みの魔法使い_口絵01

※夢を追い続ける魔法使いたちの成長の物語がここに――

 

 

――本作の着想について教えてください。

 

本作は第1巻に収められているラストシーンから始まりました。この物語には主人公がヒロインに伝えたい言葉がありました。その言葉は、伝えるまでに登場人物たちの大きな葛藤があって、乗り越えて、ようやく届けられた言葉だったんです。そのシーンをとにかく書きたくて、ラストから逆算する形で物語を形成していきました。ラストシーンにかける想いは、『Re:ゼロから始める異世界生活』の第1巻にも強く影響されていて、ネタバレになるので詳細は伏せますが、ひとつのことのためだけに頑張るキャラクターの姿がとても格好よく映ったんです。それが今回の自分の作品における、タイトルの問いかけへの答えです。その言葉を伝えるためだけに頑張る展開を書きたかったんです。

 

 

――物語の舞台は魔法学校となるわけですが、学校の設定はもちろん世界観、そして魔法の設定についてもすごく緻密な印象を受けました。

 

ありがとうございます。職業柄、学園モノのネタは周囲に溢れていますからね(笑)。とはいえ、最初の舞台は学校ではなく、魔法を使った生活が当たり前となった都市を舞台にして書きはじめていました。それでも執筆しているうちに、成長の瞬間を見るなら学校の方がいいという考えが何度も頭を過ぎり、原稿の半分程まで書いた段階で、思い切って舞台を学校へと変更したんです。自分自身、日常が取材にもなるし、それ自体が自分の強みになるんじゃないかと思いました。学校という世界には、子供たちを成長させるためのギミックが本当にたくさんあるので。

 

 

――ご自身の仕事環境をそのまま創作に活かせるというのも大きな利点ですよね。

 

そうですね。学問の分野をひとつ取ってみても、自分の職場にはそれぞれのエキスパートがいるわけです。たとえば魔物のような存在を作品に登場させたいと思った時は生物の先生のところにお伺いして、「面白い生態をした生物っていないですか?」みたいに聞いたりもしています(笑)。その生物の先生もお話をするのが大好きな方で「最近こんな面白い生物が発見されたんだよ」って。各分野のエキスパートにそれぞれの面白い話を聞く機会は結構多いです。あとは生徒の存在ですね。彼らの発想力は本当に凄まじいんですよ(笑)。生徒からもたらされるエピソードのひとつひとつに、内心で「なるほど」と思いながら聴いていることも多いです。

 

 

――それでは続いて、本作に登場する人物について教えてください。

 

主人公のヨヨはソラナカルタ魔法学校の5年生で、性格は割とまったりしています。本来、魔法使いならば何かを目指しているべきなんですけど、ヨヨには野心がないんですよね。自分の目指していた夢が破れたことで無気力に学校生活を送っていたのですが、夢をひたむきかつ純粋に追い続けているルナと出会うことで、彼の止まった時間が動き出すようになっていきます。

 

ヨヨ

※ルナと出会うことで止まっていた時間が動き出す主人公・ヨヨ(キャラクターデザインより)

 

ヒロインのルナはソラナカルタ魔法学校の1年生で、まっすぐ明るい裏表のない性格の女の子です。魔導書作家になるという夢を追い続けている夢追い人でもありますね。本作では目標に向かって進むことを「星に手を伸ばす」という比喩表現を使っているんですけど、ルナは本作において誰よりも、もちろんヨヨよりも星に手を伸ばしている魔法使いなのかなと思います。

 

ルナ

※魔導書作家になることを夢見る少女・ルナ(キャラクターデザインより)

 

位置付けとしてはサブヒロインという立ち位置になるエヴァは、ルナの親友ポジションとして登場します。ルナの夢を追う姿に彼女もまた影響され、すごく成長していくことになります。彼女の存在は自分でも驚く程に大きなっていて、彼女がいなければヨヨは主人公として立ち上がることができなかったんじゃないかというくらい、重要なキャラクターの一人になりました。

 

エヴァ

※ルナの友人となる魔法使い・エヴァ(キャラクターデザインより)

 

 

――冒頭のシーンから紐解けるように、本作は物語の中に物語が描かれている構成ですよね。主人公とヒロインという以上に、W主人公のようにも感じました。

 

そうですね、W主人公と言っても遜色はないと思っています。ヨヨもルナも主人公しているわけで(笑)。作品の設定自体、この物語がルナの書いている魔導書という、ヒロインの視点を追体験できるような作品になっています。なので、作品自体がヒロインの書いた作品で、その主人公がヨヨになるのかなと思います。

 

星詠みの魔法使い_挿絵02

※物語の構造からもW主人公といえる本作

 

 

――本作のイラストはゆさの先生が担当されています。イラストについての感想もお聞かせください。

 

ゆさの先生からキャラクターデザインをいただいた時は、泣かせる気ですかって思いました(笑)。こんなにも素敵にヨヨやルナたちを描き起こしてくださって、感無量でした。すべてが素晴らしいのですが、その中でも特にお気に入りなのがカバーデザインです。ヨヨとルナはもちろん、ちょっとした小物や装飾品までとても細かく描いていただいています。本作の設定をきちんと噛み砕いてゆさの先生が描いてくださったというのが本当に嬉しくなりました。

 

星詠みの魔法使い_カバー

※細やかに描かれているカバーイラストは必見

 

 

――著者として本作はどんな方が読むとより面白いと感じられると思いますか。

 

基本的には王道展開のファンタジーが大好きな方であれば、刺さってくれるんじゃないかなと思っています。それとジャンルとは少し異なるオススメの仕方になるんですけど、夢ほど壮大なものでなくても構いません。本作にはやりたいことがあって、ずっと走り続けているルナや、一度足を止めてしまったヨヨのように、様々な角度から夢や目標と向き合う姿が描かれています。何かやりたいことがある人に読んでいただいて、その方のやりたいことへの後押しになってくれたら、嬉しいなと思います。

 

 

――今後の目標や野望があれば教えてください。

 

挑戦したい事はたくさんありますが、まずは自分が手掛ける作品を面白く在り続けられるように頑張っていきたいです。高校時代にスポーツをガチでやっていた身として、新しいことや面白そうなことに挑戦するには、その根底の技術であったり、しっかりとした基盤がないとチャレンジ自体を楽しめないと思っています。まずは、新人らしく目の前の作品をより面白くなるよう努力し、その最中にチャンスが転がり込んで来たら、積極的にチャレンジしていきたいなと思います。

 

 

――それでは最後に本作へ興味を持たれた方へと一言お願いします。

 

本作は魔法使いの物語ではあるんですけど、彼らの抱えている葛藤や悩みは等身大の人間と変わりません。本作の見どころは、悩みや葛藤の答えを見つけようとあがいて、成長していくキャラクター達の姿だと思っています。努力して成長する姿はとても魅力があると思っていますし、誰かのそういう姿を見た周囲にも影響すると思うんです。影響してくれた方が、この作品を手に取ってくれたみなさんであったのなら、作者としても非常に嬉しいです。僕の作品は生徒、我が子みたいなものなので、晴れ舞台をどうか温かい目で見守っていただけたらと思います。

 

 

■ラノベニュースオンラインインタビュー特別企画「受賞作家から受賞作家へ」

インタビューの特別企画、受賞作家から受賞作家へとレーベルを跨いで聞いてみたい事を繋いでいく企画です。インタビュー時に質問をお預かりし、いつかの日に同じく新人賞を受賞された方が回答します。そしてまた新たな質問をお預かりし、その次へと繋げていきます。今回の質問と回答者は以下のお二人より。

第33回ファンタジア大賞「大賞」受賞作家・紫大悟先生

 ⇒ 第7回オーバーラップ文庫大賞「金賞」受賞作家・六海刻羽先生

 

【質問】

他の先生の執筆状況や執筆スケジュールに興味があります。専業や兼業でもちろん異なるとは思うのですが、1日どれぐらいのペースで執筆活動をされているのでしょうか。自分は1日10ページという、ページ数で1日のノルマを決めています。自分は締切直前に何十ページも書き出したりすることは無理なタイプなので、締切から逆算してペース配分を行っています。作家志望の段階から同様のスタイルでしたので、ぜひ他の方の執筆状況を教えていただきたいです。

 

【回答】

まず言えることは、目が泳ぎまくっちゃうような質問だということです(笑)。率直に申し上げると、そういったプランは基本ゼロです。ともしたら質問で聞きたかったこととズレてしまうかもしれませんが、自分は朝早く夜遅くというなかなかハードな仕事でして、平日は泥のように眠ってしまうんです。基本的には週末の深夜にエナジードリンク+ヘッドホン(大音量)で、ドーピング状態で執筆作業をすることが多いです。本当にどうしようもない時は平日でも執筆せざるを得ないのでしょうが、今のところそれでどうにかなってきちゃっているので……。とはいえ、いずれそういう問題に直面する時はくると思ってます。質問をいただいて申し訳ないのですが、僕もまだ答えが見つかってません(笑)。一応弁明しておきますと、学校でも授業計画を立てたり、スケジュールを構築することは得意なんですけど、執筆計画を立てられるほどの余裕がない状況です(笑)。

 

 

――本日はありがとうございました。

 

 

<了>

 

 

第7回オーバーラップ文庫大賞「金賞」を受賞した六海刻羽先生にお話をうかがいました。職場環境をフルに活かした取材によって、キャラクター達の等身大の成長を描く王道ファンタジー。「夢」を追いかけ続ける魔法使い達の物語『星詠みの魔法使い』は必読です!

 

<取材・構成・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>

 

©六海刻羽/オーバーラップ イラスト:ゆさの

kiji

[関連サイト]

『星詠みの魔法使い』特設サイト

オーバーラップ文庫公式サイト

 

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星詠みの魔法使い 1.魔導書作家になれますか? (オーバーラップ文庫)

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