独占インタビュー「ラノベの素」 菊石まれほ先生『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2021年3月10日に電撃文庫より『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』が発売された菊石まれほ先生です。第27回電撃小説大賞にて《大賞》を受賞し、満を持してデビューされます。現実の地続きにあるというIF世界を舞台に、優秀すぎるがゆえにパートナーを病院送りにしてしまう電索官と、人型のロボットでありながら電索補助官を務めることになるアミクスとのバディクライムドラマを描く本作。作品の内容や世界観はもちろん、バディを組む二人の凸凹コンビぶりについてなど、本作を読みたくなること間違いなしの様々なお話をお聞きしました。
【あらすじ】 脳の縫い糸――〈ユア・フォルマ〉 ウイルス性脳炎の流行から人々を救った医療技術は、日常に不可欠な情報端末へと進化をとげた。縫い糸は全てを記録する。見たもの、聴いたこと、そして感情までも。そんな記録にダイブし、重大事件解決の糸口を探るのが、電索官・エチカの仕事だ。 電索能力が釣り合わない同僚の脳を焼き切っては、病院送りにしてばかりのエチカにあてがわれた新しい相棒ハロルドは、ヒト型ロボット〈アミクス〉だった。過去のトラウマからアミクスを嫌うエチカと、構わず距離を詰めるハロルド。稀代の凸凹バディが、世界を襲う電子犯罪に挑む! 第27回電撃大賞《大賞》受賞のバディクライムドラマ、堂々開幕!! |
――第27回電撃小説大賞「大賞」受賞おめでとうございます。まずは自己紹介からお願いします。
菊石まれほと申します。愛知県在住で、好きなものはゲームや読書、映画鑑賞です。最近はあまり趣味に時間を費やせていないのですが、4月に発売される『NieR Replicant ver.1.22474487139...』はすごく楽しみにしています。苦手なものは虫で、家がかなり古いため虫が侵入しやすく、朝起きた時に天井にカマキリが張り付いていたこともあり苦労させられています。
――あらためて第27回電撃小説大賞「大賞」受賞の感想をお聞かせください。
受賞の連絡については、連絡をいただける日を事前に伺っていましたので、その日は緊張してご飯が喉を通りませんでした。そうして待っていたところ、担当編集さんから「大賞です」とご連絡をいただき、びっくりし過ぎて「うそでしょ!?」と叫んでしまって。嬉しさはもちろんありつつも、私が大賞でいいのかなという戸惑いも強かったです。
――電撃文庫編集部ならではの「残念ながら……」から始まるフェイントはありましたか?
いえ、それはありませんでした(笑)。担当編集さんとは何度かお話をしていて、私が緊張しているのをご存じだったからだと思います……。
――そうだったんですね(笑)。菊石先生はいつ頃から小説を書き始められたのでしょうか。
中学生の頃から小説を書くようになって、初めて公募に応募したのが10代後半だったと思います。中学時代に好きだった小説の続きがなかなか発売されず、自分だったらこうやって続きを書くかなと思い、二次創作のような形で書き始めました。そこから段々とオリジナルも書くようになっていきましたが、長い間、執筆は一人で楽しむためのものでした。
――小説を書き始めるようになってから、新人賞や公募に応募しようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。
応募に至るまでオリジナルの作品を何本か書いてきて、私自身がどのくらいの実力があるのか知りたくなったというのが最初の応募動機だったと記憶しています。選評をいただけるということもあり、私の作品がどう判断されるのか知りたいなと。『神様のメモ帳』や『狼と香辛料』といった作品がとても好きだったこともあり、初めて送った賞は電撃大賞でした。ほかにもライトノベルから一般文芸までいくつかの賞に応募してみたことはあるのですが、安定して二次選考以上に進めたのが電撃大賞だけだったこともあり、次第に電撃大賞に注力するようになっていきました。
――作家になりたいという気持ちは、当初はあまりなかったのでしょうか。
いえ、もちろん作家になりたいという気持ちはゼロではありませんでした。ただ、現実的に作家になれる確率は非常に低いだろうなとは考えていました。
――ありがとうございます。それではあらためて受賞作『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』がどんな物語なのか教えてください。
本作は侵襲型複合現実デバイス〈ユア・フォルマ〉と、人間そっくりの人型ロボット〈アミクス〉が社会に浸透した2023年が舞台になっています。〈ユア・フォルマ〉は人間の脳と一体化しており、その人が体験したことや抱いた感情を「機憶」として保存できる機能があるんです。作品の世界では、その「機憶」が犯罪捜査に役立てられていて、主人公は「機憶」にアクセスすることで、重大な犯罪事件の解決の鍵を探っていく電索官という仕事に就いています。物語としては主人公がアミクスの相棒を得て、犯罪捜査に挑んでいくというバディ捜査ものになっています。
※物語は侵襲型複合現実デバイス〈ユア・フォルマ〉が浸透した世界で動き出す
――本作の着想についてもお聞かせください。
人間がインターネットやSNSを閲覧している際、膨大な情報を処理するがために深い思考ができなくなり、理解力や集中力が削れてしまうという内容の記事を見たんです。現実的に考えて、私たちはインターネットやSNSを切り離して生活することが難しくなっていると思うんですね。ある種、人間に欠かせないものになってきていると。そうなった時、このままでは人間は機械のように情報処理に特化していくんじゃないかとか、そんな想像をしまして、〈ユア・フォルマ〉と一体化した人間の世界というものを考えました。一方で、一般的にロボットと言われている存在はどうなっていくんだろうと考えた時、ロボットが逆に人間へと近づいたら面白いんじゃないかとも思いました。本作に登場するアミクスを人間くさいキャラクターにしたいと考え、そこからバディ捜査ものへと物語構造がシフトしていったような感じでした。
――本作は世界観もかなり緻密ですが、設定を考える苦労などはありませんでしたか。
現実に寄り添い過ぎることで、夢のない物語にならないよう考えるのは苦労した点かもしれません。本作の世界は現実と地続きな点も多く、SFならではの飛躍した夢のある設定というか、そういった華やかな雰囲気が色濃い作品ではないと感じているので、工夫するのに苦心しました。
――ご自身の中では、本作のようなSFをベースとした世界観の作品を書かれることは多かったのでしょうか。
これまでの応募作の執筆傾向としては、確かにSF要素を含んだ作品は多かったのかなと思います。知人に勧められた『インターステラー』という作品をきっかけにSF映画をたくさん見るようになり、本作もロボット工学三原則で有名なアイザック・アシモフの作品などに大きく影響を受けています。
――では続いて本作に登場するキャラクターについて教えてください。
主人公の少女・エチカは、他人の機憶に潜ることで事件解決のきっかけを探る電索官という仕事に就いています。彼女は機械のように並外れた処理能力を持っていますが、その処理能力に釣り合うパートナーが見つかっていません。電索官は一度他人の機憶に潜ると、電索補助官というパートナーに引き揚げてもらわないと電索を終えることができないんです。エチカは釣り合わないパートナーと組んでいるせいで、毎回相手を病院送りにしてしまっています。賞賛されるタイプの天才ではないため、同僚からも疎まれているんですよね。性格はややツンデレのような部分がありつつ、基本的には非常にクールなキャラクターなんですが、ヒロインとしてどうなのかと感じるくらい、衣食には無頓着なキャラクターです(笑)。一番のポイントは過去のトラウマから、アミクスが嫌いであるという点でしょうか。
※機械嫌いの天才電索官・エチカ
ハロルドはエチカの新しい相棒になる電索補助官なのですが、人間ではなく青年の姿をしたロボットのアミクスです。アミクスの補助官というのは世界観的にも一般的ではなく、ハロルドは、ハイスペックな特別仕様であるため、例外的に補助官を務めることができています。それ以外にも刑事顔負けの鋭い観察眼を有しており、補助官としてだけではなく、持ち前の観察眼を発揮してエチカの捜査を手助けしたりもします。性格はエチカと正反対で、エチカはアミクスが嫌いでハロルドを突っぱねる一方、ハロルドはグイグイとエチカとの距離を縮めようとします。ロボットなのに人間以上に人間くさいキャラクターで、休日はお洒落をして外出したり、食にもこだわったりと、対極にいるようなキャラクターでもありますね。
※エチカの相棒となるアミクスのハロルド
――エチカに関する女の子らしさの表現については、改稿作業でちょっとした苦労もあったとお聞きしました。
そうですね。受賞後の書籍化に向けた改稿作業において、エチカの口調を少し変えてみてはどうかというお話があったんです。応募原稿では、かなり男の子っぽいイメージだったこともあり、口調をキャラに落とし込んでいく作業は慣れるまでに時間がかかりました。
――ハロルドについては物語を通して終始計算高さがうかがえるキャラクターとして印象的でした。
ありがとうございます。本作は基本的にエチカの視点で物語が描かれていることもあり、ハロルドがそれぞれのシーンで何を考えているのか、触れられていない部分も多いです。ただ、私の中では各シーンにおいて、ハロルドは「こう思っているだろうな」とか、「ここまではわかっているんだろうな」とか、きっちりと決めながら考えているので、読者のみなさんには計算高いキャラクターとして映ることになるんじゃないかなと思います。
――本作のイラストについては野崎つばた先生が担当されています。あらためてイラストの感想や、お気に入りのイラストなどがあれば教えてください。
初めてキャラクターデザインをいただいた時は、エチカが私の想像を遥かに超えた可愛さで、とても嬉しかったです。文章だけでは可愛げのないキャラクターに映ってしまい、大丈夫かなと思っていたんですけど、野崎さんのおかげで強い安心感を得ることができました。ハロルドについても私の頭の中から出てきたのかなと思うくらいそのままの姿で描いていただき、嬉しさと感動で毎日イラストを眺めていました。カバーイラストにはペテルブルクの街並みや、事件のキーワードにもなっている吹雪のイメージ、そして電索の命綱にもあたるコードなど、1枚のイラストの中に様々な要素を描きこんでいただいています。作品を細部にいたるまで表現していただいた素晴らしい一枚になっているので、ぜひ隅々までご覧ください。お気に入りのイラストについては第2章と第3章の扉絵でしょうか。第2章の扉絵には子供の頃のエチカを可愛く描いていただきました。第3章の扉絵はエチカとハロルドですが、電索シーンのシリアスな雰囲気と距離感、ハロルドの機械的な設定を忠実に描いていただいて、思わずニヤリとしました。
※菊石先生も思わずニヤリとしてしまったという美麗なイラストの数々も見どころのひとつ
――著者として本作の見どころ、注目してほしい点を教えてください。
バディものでもありますので、エチカとハロルドの関係性や二人の掛け合いの部分でしょうか。機械嫌いでハロルドを突っぱねるエチカと、構わずに距離を詰めてくるハロルド。やり取りを楽しいと感じてもらえるよう力を入れた部分でもあります。二人の対照的な性格や立ち位置、それが物語を通してどう変化していくのか、ぜひ注目していただきたいです。本作はSFやバディものが好きな方であったり、人間とアンドロイドといった組み合わせがお好きな方には一層楽しんでいただけると思いますし、登場人物の過去を掘り下げる系のお話が好きな方にも気に入っていただけるんじゃないかなと思います。
――今後の野望や目標があれば教えてください。
作家としては一日でも長生きできるように活動を続けていきたいです。『ユア・フォルマ』については、自分の頭の中に物語としてのひとつの終わり方があるので、そこへと辿り着くことができるよう頑張っていきたいと思います。
――最後に本作へ興味を持った方、これから本作を読んでみようと思っている方へ一言お願いします。
SFというと敷居が高いとか、難しそうだなと思ってしまう方もいらっしゃると思いますが、本作は現実と地続きの部分も多いですし、設定や世界観が難解になりすぎないよう書いたつもりでもあります。性別年齢問わず、どなたでも気軽に手に取っていただけたら嬉しいです。
■ラノベニュースオンラインインタビュー特別企画「受賞作家から受賞作家へ」
インタビューの特別企画、受賞作家から受賞作家へとレーベルを跨いで聞いてみたい事を繋いでいく企画です。インタビュー時に質問をお預かりし、いつかの日に同じく新人賞を受賞された方が回答します。そしてまた新たな質問をお預かりし、その次へと繋げていきます。今回の質問と回答者は以下のお二人より。 |
第7回オーバーラップ文庫大賞「金賞」受賞作家・六海刻羽先生
⇒ 第27回電撃小説大賞「大賞」受賞作家・菊石まれほ先生
【質問】
受賞作が誕生するまで応募用など様々な作品を書かれていると思います。特に自分はそういった日の目を見なかった作品にも非常に愛着があり、少しでも何とかできないかといつも考えています。自分の中では日の目を浴びなかったキャラクターの設定を練り直しつつ、書籍化した作品に登場させられないかと考えることも多いです。日の目をみなかった作品は、小説投稿サイトに投稿したり、何らかの形でお披露目されているのでしょうか。それともパソコンの中に眠り続けているのでしょうか。
【回答】
過去の作品の現状については、パソコンの中に眠らせてしまっています。ただ、日の目を見なかった設定を次の作品に活かしたり、より面白い形にできないかと挑戦して、新しく別の作品に使うことは多々あります。それこそ『ユア・フォルマ』の電索官が機憶に潜るという設定も、過去の作品で心残りだった「人の心に潜る」という設定を再構築しています。
――本日はありがとうございました。
<了>
機械嫌いの電索官と、ロボットなのに人間以上に人間くさいアミクスのバディクライムを綴った菊石まれほ先生にお話をうかがいました。緻密で魅力的な世界観で巻き起こる事件に凸凹コンビが挑む、二人の関係性からも目が離せません。エチカとハロルド、それぞれの過去も見どころな『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』は必読です!
<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>
©菊石まれほ/KADOKAWA 電撃文庫刊 イラスト:野崎つばた
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