独占インタビュー「ラノベの素」 三嶋与夢先生『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2021年11月30日にGCノベルズより『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です』第9巻が発売された三嶋与夢先生です。第4巻刊行時にもインタビューにはご登場いただいており、このたびは2022年4月放送開始のTVアニメ化決定を記念して再登場となります。自身の明確な目標のひとつとして挙げていたアニメ化決定の裏話や、シリーズを通して成長著しい(?)個性的なキャラクター達についてなど、様々にお話をお聞きしました。
※フリーペーパー「ラノベNEWSオフラインvol.7」には本記事未掲載のインタビューも掲載されています
【あらすじ】 あの乙女ゲー三作目の時系列に突入し、主人公と攻略対象たちをくっつけようと画策するリオン。だがその目論見はすでにほころびを見せていた。なんと攻略対象の一人が性転換し、女の子へと生まれ変わってしまったのだ。しかも主人公は主人公で、ゲームには登場しなかったお付き騎士といい雰囲気という有様。さらに王都では謎の組織の暗躍に連続殺人事件まで起き、収拾のつかない状態に。果たしてリオンは、自分のことは棚に上げ、ゲームの正常なルートに戻すことが出来るのか!? |
――ご無沙汰しております。前回のインタビューから約2年ぶりとなりますが、YouTubeを見てやりたいと言われていたDIYやガンプラ制作に進捗はございましたか?(笑)。
こちらこそご無沙汰しています。DIYはまったく手つかずですね(笑)。ただ、ガンプラ作りはやっています。決して本格的というわけではないのですが、部分塗装したり、艶消ししたり、墨入れしたり。とはいえ、動画だと簡単そうに見えたガンプラ作りは、実際にやってみるとまったく思い通りにいかず、失敗ばかりしていますね……。忙しさも相まって積まれているプラモデルも10個くらいあるので、作る時間ももっと欲しいところです。
――そんな三嶋先生の忙しさの起因にもなっているであろう、TVアニメ化決定おめでとうございます!
ありがとうございます! アニメ化の決定については、嬉しさはもちろんあるんですが、周囲の方々含めて運にも恵まれたなって感じています。前回のインタビュー時に具体的な目標として掲げていたことでもあったので、達成できたことはとても嬉しいです。もちろん本番はこれからなので、このまま放送日を迎えるまで緊張しっ放しだと思います(笑)。
――あらためてTVアニメ化のお話はいつ頃から動き始めていたんですか。
最初に連絡をいただいたのは2020年の夏頃だったと思います。担当編集さんから「本決まりではないんですけど、アニメ化のお話が出ています」と連絡をいただきました。連絡は非常に嬉しかったのですが、「やっぱりダメでした」となる可能性もゼロではなかったので、そうなってしまった時に落ち込まないよう、しばらくはアニメのことをひたすら意識せず、考えないようにしていました。
――なるほど。正式に決定したのはいつ頃だったのでしょうか。
一報をいただいてから数ヶ月後の秋だったと思います。正式決定した時はなにかしら大きなリアクションをするでもなく、とにかく考えないよう自分を制御し続けていたことからの解放感と脱力のようなものがすごかったです(笑)。もちろん嬉しかったです。
――TVアニメ化の決定についてはどなたかに報告はされたりしましたか。
それがまったくしてなかったんですよ。他社の編集さんにも言っておらず、その結果仕事が被るという(笑)。『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です』の原稿が危ないかもしれないですという話を担当編集さんにしたら、そこは先方にも共有して調整してくださいって言われました(笑)。身近な人にもまったく伝えていなかったですし、おそらく実際に放送されてからでないと「本当に?」と疑われ続けると思います。周囲には今ですら、本当に仕事をしているのか怪しまれてますから(笑)。既にアニメのアフレコにもリモートで参加させていただいていますし、本当に楽しみです。
――あらためてご自身の作品がTVアニメになるわけですが、率直な感想をお聞かせください。
作品のことをよく「自分の子供」って言いますよね。自分もその気持ちは一緒なんですが、自分一人の作品ではなくなるという思いは強いです。もともと書籍化の頃からそういった感情を意識するようになってはいたんですが、アニメ化はさらに規模が大きいわけじゃないですか。個人的にはもう自分の手を離れて、作品そのものが独り立ちしたという視点になっています。自分ひとりで自由に関われるものから、自分を含めた多くの人たちと一緒に関わっていくものになっているんだと思います。
※2022年4月よりTVアニメ放送開始! ティザービジュアルも解禁!
――TVアニメ化に際して期待していることはどんなことですか。
やっぱり原作は超えてほしいなって思いますし、実際に手応えも感じています。自分が「小説家になろう」から独学で小説家になったということもあって、プロが関わった時の「違い」や、台詞や物語の構成の変化など、日々勉強させてもらっているという感じです。原作よりもよくなっている部分はたくさんあるので、読者さんにも伝わったらいいなって思います。
――本作にはロボットや戦艦に相当するギミックも多く登場するので、非常に映像映えしそうですよね。
ロボットや戦艦は自分も大好きなので、そのあたりは自分も期待しちゃってます(笑)。とはいえ、ロボットの作画まわりはどうしてもカロリー高めだと思いますし、アニメ制作陣は間違いなく大変だと思うんです。お恥ずかしながら設定をしっかりと作っていなかった箇所もあり、アニメ制作を機に詰めたりもしています。もっとしっかり考えておくべきだったなっていう反省はもちろん、一緒に考えてくださっている制作陣のみなさんには申し訳ない気持ちもありますね(笑)。
※アニメでは作中に登場するロボットや戦艦にも大きな期待が寄せられる
――アニメのデザインは既に目を通されたりしているんですか。
そうですね。本作にはパルトナーという飛行船が登場するんですが、すごく格好いいデザインに仕上がっています。原作版のデザインと多少違う部分もあったりするのですが、個人的にも早く映像を見てみたいですね。
――リモートでアフレコにも参加されているとのことですが、アフレコ現場を見た感想はいかがでしたか。
主人公のリオンやヒロインのオリヴィア、アンジェリカをはじめ、「彼ら、彼女らはこういう声なんだ」と素直に思いました。自分は原稿を執筆している時は、それぞれのキャラクターに具体的な声をイメージすることはありませんでした。キャスト陣はオーディションを経て決まったんですが、個人的にはずっと発見ばかりだったと記憶しています。キャラクターに声が付くという新鮮さ、そして「こんな声なんだ」という納得感。小説や漫画とは違った形でキャラクターに命が吹き込まれていくようなイメージでした。また、アフレコを拝見させていただいたことで、この台詞やあの台詞を変えておけばよかったという後悔もしばしばしています。ほら、リオンはちょっと口が悪すぎるので(笑)。
――なるほど(笑)。放送は来年の4月からということで、まだ一足早くはあるのですが、見どころや期待してもらいたいことがあればお願いします。
やはりアニメーションとして動き回ることになるリオンとルクシオンの掛け合いであったり、リオンが搭乗するアロガンツの活躍する姿には注目していただきたいですし、楽しみにしていただけたらと思っています。作品タイトルに『乙女ゲー』と書いてはありますが、男性向けか女性向けかと問われれば、本作は間違いなく男性向けです。ぜひアニメ化決定のこの機会に、女性向けじゃないかと敬遠されていたみなさんには本作を手に取っていただけたらと思っています。
――ありがとうございます。では続いて、王国編と共和国編を終えた原作小説についても振り返っていただけますでしょうか。
第7巻の共和国編までを振り返るのであれば、まずストーリーがWEB版より大きく変わっており、あらためて改稿して良かったと感じました。WEB版は物語そのものがやや重めになってしまったことを個人的に反省しており、その反省点を改善しながら着地できたんじゃないかなと思います。新キャラクターとして登場させたルイーゼも読者さんから非常に反響があり、リオンのハーレムに入るんじゃないかという期待の声もたくさんいただきました。共和国編から登場した新ヒロインのノエルについても、ストーリー冒頭からリオンとしっかり絡ませるなど、WEB版より改善したことで、当時WEBで言われていた「影の薄いヒロイン」というポジションから脱却することができたんじゃないかなと思います(笑)。アンジェリカ、オリヴィアに続く3人目のヒロインとして、読者さんにもしっかりと受け入れてもらえたんじゃないかなと。ただ、ハーレムが一人増えるたびに、リオンの性格の悪さが粗目立ちするので、いち作者としてはいろいろ思うところや反省点は多いです(笑)。
※共和国編で3人目のヒロインとして登場したノエル
※読者人気が非常に高かったというルイーゼ
――前巻である第8巻のあとがきでは、第8巻は箸休めのような物語であると語られていたかと思います。一方で、リオンの兄であるニックスにドロテアという嫁ができたりと、次に繋がりそうな展開も多い巻だったように思いました。
ありがとうございます。第8巻については一度物語の主軸に対して小休止を挟みたかったというのと、第9巻以降もWEB版と内容を変えていくこともあり、その前振りを仕込んだという巻でもありました。読者さんが後から読み返した際に、「そういうことだったのか」と思っていただけたら嬉しいですね。
――本作では女尊男卑という衝撃的な価値観から物語は始まるわけですが、リオンの登場とシリーズの進行によってそういった価値観も少しずつ変化が生じているかと思います。
そうですね。貴族社会には少しずつ新しい風が入ってきていると思います。本作は「勧善懲悪」や「因果応報」という主軸のテーマに比べ、「女尊男卑」はメインテーマから少し外れていたこともあり、WEB版ではしっかりとした区切りをつけることができていませんでした。第9巻ではWEB版では語ることのできなかったエピソードをしっかりと書かせていただいています。シリーズが続けばそのぶん変化もありますし、既に完結しているWEB版を通して気付くことのできたテーマを書籍ではしっかりと描いているので、そういった点も楽しんでいただけたらと思います。
――ありがとうございます。続いてはアニメでの掛け合いも必見間違いなしであろう、リオンとルクシオンのコンビの成長についてもお聞かせください。
前提として、リオンとルクシオンの二人の関係が、読者のみなさんから見て良くなっていると思ってもらえているなら嬉しいです。とにかく二人とも口が悪いので、執筆の最中でも本当に仲が良いように見えているのか不安になってくるんですよ。お互い皮肉と嫌味をぶつけながら、段々と信頼を置けるような間柄に見えるよう意識していたんですけど、大丈夫でしたでしょうか?(笑)。自分自身、第8巻の時点で信頼関係はきちんと構築できていると思っていますし、お互いを信頼していたからこそイデアルに勝利することができたと思っています。嫌味と皮肉ばかりなのはもうご愛嬌ということで(笑)。
――共和国編でリオンとルクシオンの前に立ちはだかったイデアルの存在は、二人に大きな影響をもたらしたことは間違いないですよね。
著者として、そして作品としては、人間と人工知能が手を取り合って戦ったリオンとルクシオンの方が強かったという姿を描きたかったんですよね。力を合わせた二人と、そうではなかったイデアルという構図です。また、作品の外側という観点で考えると、もともとリオンにはルクシオンというチート能力、戦艦があったわけです。王国編では全員が格下というと言い過ぎかもしれないのですが、リオンにとっては勝てる相手だったと思うんです。そんな中で、自分たちと互角の相手が登場した時、戦えるのかという姿も描きたかったんです。もともと同格の相手を登場させて、リオンとルクシオンの二人に挑ませようとは思っていたので。
※シリーズ屈指の戦いとなったリオン&ルクシオンVSイデアル
――ここまでのシリーズを振り返り、あらためてお気に入りのキャラクターについても教えてください。
リオンとルクシオンと言いたいところですが、書いていて楽しいのは前回のインタビューでも挙げたんですが、マリエと5バカなんですよね(笑)。マリエは雑に扱ってもいいというか、5バカによって理不尽な目にあっても読者が笑顔で受け入れてくれるので、とにかく使い勝手がいいんです。また、リオンとルクシオンのように、リオンとマリエを組ませても物語が膨らませやすいですね。前世が兄妹の二人ですし、マリエルートっていう違う物語を書いたら書いたで、意外としっくりきちゃうので(笑)。
※リオン、ルクシオン、マリエが絡めば物語は無限に広がる!?
――5バカこと、王国の良家5人については、前回のインタビューで成長の余地があるキャラクターとして触れていただいていました。あらためて共和国編という難局を経て、5人は成長しましたか?(笑)。
成長した、はずです!(笑)。王子のユリウスは串焼き好きになって、庶民の生活をそこから学びました。5人の中ではたぶん、おそらく、一番まともに成長したのではないでしょうか。マリエの好きな働く男になっている……はず。とはいえ、王子という身分なので本来はダメなんですけどね(笑)。
※シリーズを通して5バカーー王国良家の5人は成長した……のか……?
ナルシストのブラッドは共和国で仕事を自分で見つけ、稼げるように、かつ自分に自信をつけました。お金の使い方はド下手なんですけど。もうね、急に手に負えなくなったナルシストって感じです(笑)。
グレッグは自分磨きに目覚めましたよね。かつては威張り散らしていたものですが、自分の肉体美や身体を鍛えることに集中できるようになりました。ある意味、荒々しい性格が落ち着いてメンタルが安定したとも言えると思います。第1巻ではリオンを「雑魚」と煽っていたあのグレッグが、身体と心を鍛えているんです!……いや、なかなか褒めるのって大変ですね。次にいきましょうか。
クリスは風呂好きに目覚めて、水回りの掃除が大好きになりました。剣聖っていう派手な称号ばかりを追いかけていた頃とは違って、下働きや地味な仕事にも意味を見出せるようになっています。誰かの役に立つためにっていうのは成長なんじゃないかなって。……うん、みんなダメな方向に成長している(笑)。
最後のジルクはユリウスの乳兄弟として一緒に育った大事な家臣でした。それこそユリウスのために汚い仕事もこなしたりするわけです。そんな彼も共和国に行って、一層磨きがかかりましたよね! 5人の中で一番悪質な困らせ方をするっていう磨きが。作者としては問題を引き起こしてくれるいいキャラになったと思います。ほかの4人でさえジルクには引いちゃうシーンもありますし、孤立してても孤立感を感じさせないのもジルクの魅力ですよね。唯一の美徳だった王子への忠誠さえ失いつつあって……うん、ダメだ(笑)。
――最後の方は疑問形になっていましたが、実際問題として5人の成長は想定通りでしたか。また、今後の成長の余地についてもお聞かせください。
あくまで感覚的にではあるんですけど、思い通りにいったのがユリウス、ブラッド、クリスの3人。グレッグとジルクはちょっと予想外だったような気がします。特にグレッグとジルクはWEB版と比較してより個性を意識していた面もあったので、そのあたりも作用しているのかもしれません。成長の余地については、5人の傍にはリオンとマリエがいて、これまでも悪い影響を受けていたんですけど、良い影響も絶対受けるはずだと信じています。今後の展開を踏まえても5人の成長は必須です。共和国編まではコメディ寄りに成長していた気がするので、第9巻以降はシリアス寄りな成長の姿も見せられたらなと思いますね。
――そんな5人の成長も楽しみな第9巻からは新章も開幕しました。内容や見どころについて教えてください。
WEB版で帝国編と言われていた物語へと本作は向かっていくことになります。一方、物語の前半はWEB版で少ししか描かれなかったある国を舞台に、王都に戻ったリオンたちが謀略に関わっていくエピソードが描かれます。その流れで、第1巻に登場したゾラ一家など、リオンにとって因縁のある相手も登場することになります。見どころはやはり、読者さん的にもすっきりする要素として、ゾラとの勝負になるのかなと。また、リオンとルクシオンに対抗して、帝国から留学してくる留学生にも注目していただきたいですし、フィンリーというリオンの妹の過激な手の付けられなさと言いますか、獅子奮迅の活躍も楽しんでいただけたらと思います!
※新章に突入して新たな登場人物も数多くの登場する!
――2022年4月からはアニメ放送も行われる本作。最後にファンのみなさんに向けて一言お願いします。
既存の読者さんに向けては、ありがとうございますとお礼を。これまで応援していただいたおかげでアニメ化まで辿り着くことができました。ぜひアニメも期待していただければと思います。アニメ化をきっかけに興味を持ってくださった読者さんに向けては、本作はタイトルに『乙女ゲー』と書いてありますが、男性にも楽しめる作品になっています。むしろ読んでいただければ、男性向けだと理解していただけると思います。乙女ゲー世界に男が転生したらという、ちょっと珍しい物語になっていると思うので、この機会にぜひ手に取ってみてください。よろしくお願いします。
――本日はありがとうございました。
<了>
ファンはもちろん、ご自身にとっても待望となるアニメ化が発表された三嶋与夢先生にお話をうかがいました。独特の世界観にコメディ要素、そしてロボットなどアニメ映えすること間違いなしの本作。主人公を筆頭にクズの多い笑える展開も間違いなく見どころです。2022年4月からのアニメ放送、そして第9巻より新章へと突入する『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です』は必読です!
<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>
©三嶋与夢/マイクロマガジン社 イラスト:孟達
©三嶋与夢/マイクロマガジン社/モブせか製作委員会
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