独占インタビュー「ラノベの素」 三嶋与夢先生『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2019年8月30日にGCノベルズより『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です』第4巻が発売される三嶋与夢先生です。女尊男卑の乙女ゲーム世界のモブキャラに転生した主人公が、思わぬ形で成り上がっていくファンタジーシリーズ。過酷な世界だからこそ笑って読めるゲスでクズなキャラクター達をはじめ、作品の裏側、そして最新刊をはじめとした本作の見どころについてお聞きしました。
【あらすじ】 「―― 一つ良いことを教えてやる。俺は小心者なんだ」 留学生としてアルゼル共和国へとやってきたリオンとマリエ一行。もし王国でのマリエと同じようなことがこの共和国でも起きていたら、またしても世界滅亡の危機へと繋がってしまう。しかしすでに異変は起きていた。ゲームでは一人であった主人公が、双子の姉妹として存在していたのだ。さらに聖樹の力を背景に傲慢はなはだしい貴族の子弟がリオンたちに牙を剥いてきた。このややこしい局面に、リオンはどう対処するのか? そして、やらかし女王マリエの運命やいかに! |
――それでは自己紹介からお願いします。
三嶋与夢です。出身は鹿児島県の離島で、小説はWEBサイトへの投稿から始まり、「小説家になろう」に投稿を始めて7年になります。最近ハマっているのはYouTubeを見ることで、DIYやガンプラの製作動画を見て、自分もやりたいな~と思っています。苦手なものは納豆でしょうか。昔からどうしても駄目で、食べられないんですよね……。
――小説の投稿歴が7年になるとのことですが、執筆のきっかけはなんだったのでしょうか。
我ながら小説を書き始めたきっかけは少々特殊と言いますか……(笑)。小説を書きはじめるようになった7年前にパソコンを購入しました。それで「ブラインドタッチってカッケェ!」と思って、練習を始めたのがきっかけなんですよ。「小説家になろう」のサイト自体は知っていて、タイピングソフトを買うよりもこっちで小説を書いていれば上達するだろう、と。それが始まりでしたね。
――タイピングの練習手段として小説の執筆をスタートしたのですね(笑)。
そうですね。それに今でこそ浅はかだったと振り返るんですが、当時は「小説家になろう」に投稿されていた作品を読んで「自分でも書ける」と思ってしまったんです。それで書き始めたんですけど、これがとにかく酷かったわけで。まともに書くことすらできず、読者さんからは見向きもされませんでした(笑)。そこから心境にも変化があり、とにかく悔しかったので頑張ろうと。そうして書くことを続けた結果、書籍化の打診をいただくようになり、今に至ります。
――当初のタイピング目的から段々と読者を意識するようになっていったわけですね。もともと本などは読まれていたりしたのでしょうか。
今でこそいろいろと読んで好きな作品もありますが、当初は本を読む習慣自体ほとんどありませんでした。そんな自分が何となく購入して読んだエッセイ本『心は実験できるか 20世紀心理学実験物語』は大きな衝撃を受けました。有名な心理学の実験を取り扱った本なんですけど、当時は何も知らなかったので、衝撃はより大きかったです。自分はコメディ要素の強い作品を書いていますが、特にこの本からの影響は強く受けていると思いますね。
――それでは第3巻までを振り返りながら『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です』がどんな物語であるか教えてください。
まずお伝えしたいのは『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です』は主人公が男で、男性向け作品ということです。タイトルに乙女ゲーとあるので、女性向けと勘違いされることが多いそうで、タイトルで損をしているとよく指摘されます(笑)。作品のテーマは「因果応報」や「勧善懲悪」を目指して書いていますが、どうにもやり過ぎてしまうリオンやマリエが、その責任を取る羽目になるのも作品のテーマにあることから、「因果応報」の物語と言っていい気がします(笑)。本作は主人公が生前に妹に押しつけられプレイしていた乙女ゲームの世界に、名前すら登場しないモブとして転生するところから始まります。転生先は辺境の田舎貴族の三男坊。モブに生まれた主人公のリオンは、乙女ゲーの舞台となっている学園に入学します。そこではモブだからシナリオなんて関係ないと、傍観者を決め込み学園生活を楽しもうとするのですが、なぜか乙女ゲーの本来の主人公がいるべきポジションに謎の女生徒がおり、攻略対象の男子達が次々と籠絡されていくことになってしまいます。リオンはこのゲームの結末を知っています。なので、このまま謎の女生徒が好き放題してしまうと世界が破滅の上ゲームオーバーになってしまう。そうしてチートアイテムであり相棒のルクシオンと共に、嫌々シナリオに関わっていくことになります。
※自分の知っている乙女ゲーの世界とは何かが違うようで……。
――本作は乙女ゲームの世界を舞台にしつつ、コメディ要素が強かったり、嫌々成り上がったりと、読んでいて面白い要素が非常に多いのですが、どういった着想から考えていったのでしょうか。
着想の大本は女性読者にも人気が高い「悪役令嬢もの」でした。本当にざっくりですが、乙女ゲームに登場する悪役に転生した物語の主人公(女性)が活躍する物語を指します。こういった作品は、実のところ男性が読んでも面白いと思える作品が多くて、自分でも書いてみたいと考えました。本作の主人公であるリオンの立ち位置をモブ、かつ男にしたのは、攻略対象の男子たちをぶっ飛ばすためです(笑)。イケメンたちを自称普通の男子であるリオンがぶっ飛ばす、書いている自身を含めてきっとスッキリするのだろうな、と(笑)。とはいえ、リオンにとって都合が良すぎても面白くないと考え、本人が嫌がる出世をさせて苦悩させる展開は、読者の方にも程よく笑ってもらえるポイントなのかなと考えています。
――ちなみに世界観の舞台でもある「乙女ゲーム」について、三嶋先生は実際にプレイされたことはあるんですか。
……大変失礼なのですが乙女ゲームはプレイしたことがないんです。着想自体が「悪役令嬢もの」から始まったこともあるのですが、本来の乙女ゲームには悪役令嬢ものは少ないらしいです。それでも書く前には色々と調べました。乙女ゲームの種類の豊富さには驚きました(笑)。
――なるほど(笑)。作中でも語られていますが、舞台となっている乙女ゲームはいわゆるギャルゲーメーカーが制作した作品ということにもなっています。シミュレーション要素もあったりと、男性が受け入れやすくなるような余地があるのも面白いなと感じました。
世界観を作る際には男性読者も好きなはずであるハーレムものを意識しています。自分の大好きな世界観のひとつでもあって、「これが逆転したら面白くないか?」と考えました。作中で学園の女子生徒たちが奴隷を連れ歩いているのも、男主人公が女性を侍らせて連れ歩いていることの逆バージョンですね。ただ、男女では価値観も違いますし、単純に逆転すれば作中のような世界になるとは言えませんけど(笑)。それでもわかりやすさを重視して逆にしただけにとどめています。ハーレムものの男女が逆転するとこう見えるのではないか? そう思って本作を描いています。
――作中の女尊男卑は強烈な設定ですが、コメディとのバランスも非常に魅力的だと感じています。
世界観を作る際には独自色を強く意識しました。特に注意したのは貴族階級に女尊男卑が起きた理由です。どうしてこうなったのか、というのを自分なりに考えていました。作中では、主人公が「この世界はもともとゲームだから」と思考停止してしまっているわけですが、そうなった理由はきちんと用意しておきたかったんです。また、コメディ要素は自分が好きなので取り入れていますが、バランスについては結構苦労していますね(笑)。なので、メリハリは非常に大切にしていて、シリアスなシーンではたとえ軽口を叩いていてもシリアスとわかるように書こうと努めていますし、コメディシーンではとことんコメディ風に書くようにと考えています。ただ、勘違い要素も含む作品なので、主人公がコメディ風に考えていても周囲がシリアスだったという場合が難しい点ですね(笑)。
――それではあらためて本作に登場する主要なキャラクターについて教えてください。
主人公のリオンは少し捻くれていますが優しいキャラクターです。照れ隠しで軽口を叩くのですが、それが一人称だとなかなかわかりづらいので、リオンが口に出さない部分を指摘してくれるキャラクターとして、相棒のルクシオンがいます。漫才で言うならリオンがボケで、ルクシオンがツッコミですね(笑)。ルクシオンがいるから、リオンがただの口の悪い嫌な奴にならないで済んでいると考えています。そして、リオンをはじめとした転生者たちにはちゃんと転生した理由があるんです。作中で語られることはないと思いますが、実はマリエにもリオンのように重要な役割があった、という感じです。ぜひいろいろと想像してみてください。
※相棒のルクシオンと共に世界を守るためゲスにもなる(!?)リオン
マリエは第1巻から第3巻までの間で印象が大きく変化するキャラクターです。これは狙っていた部分もあるのですが、想像以上に人気が出たのは驚きでした。彼女は前世で苦労したキャラクターであり、人間の汚い部分も持ち合わせています。欲望に忠実で動かしやすいキャラクターの一人でもありますね。それでも根は優しいと思います(笑)。面倒を見ることになったあの5人を放り出さないのは、きっと母性があるのでしょう。作中では半端な知識で大失敗をしてしまいますが、マリエが好かれた理由は幸せになるために努力していた姿が見えていたからではないでしょうか。せっかく掴んだ幸せも幻だったというオチがついてしまえば、同情するしかありませんからね。本当に「どうしてこうなった?」というキャラクターです(笑)。
※作者でさえ「どうしてこうなった!?」と振り返るマリエ
アンジェリカとオリヴィアはダブルヒロインです。オリヴィアが庶民の正統派のヒロインで、アンジェリカはお嬢様であり、男前なヒロインという感じです。立場が異なる二人の価値観の違いは特に注意しました。オリヴィアは甘さもあるが心優しいヒロイン。逆にアンジェリカは激情家で厳しい面もあります。二人ともゲームの展開から大きく運命を変えることになった存在ですね。
※乙女ゲー世界では悪役令嬢ポジションだったがリオンに救われるアンジェリカ
※乙女ゲー世界では主人公のはずがマリエに取って変わられたオリヴィア
――良家から一気に立場を失うも、マリエへの愛だけは止まらないイケメン5人衆についても教えてください(笑)。
作者としてはコメディ部分で活躍してくれる大事な5人ですね(笑)。マリエとセットで動かしやすくてありがたいです。5人は駄目なところもありますが、その分だけ成長要素もあるキャラクター達だと思っています。温かい目で見守って欲しい5人ですね。
※乙女ゲーでは攻略対象だった良家の5人。メンタルだけは異常に強く、マリエにぞっこんなのだが……。
――第3巻までを振り返って印象的なシーンやイラストがあれば教えてください。
お気に入りのシーンは、第1巻のユリウスを煽る場面ですね。よく書けたなって、自分でも読み返して驚いています(笑)。お気に入りのイラストは色々とありますが、第1巻のリオンがマリエたちに決闘を申し込む場面を描いた見開きの口絵が好きです。ここからリオンの反撃が始まる、というシーンなので。孟達先生のイラストはどれも本当に素晴らしくて、いつも要望に応えていただきありがとうございますとお礼を言いたいです。この作品は設定がややこしい上に、SF要素まで詰め込んだ作品なので、イラストを担当していただいていて大変だろうな、と申し訳なく思っております(笑)。
※三嶋先生が特にお気に入りだというイラスト
――2018年からはコミカライズの連載もスタートしています。コミカライズならではの見どころや魅力はどんなところだと思いますか。
まず、コミカライズが決定した際は本当に嬉しかったですね。自分の考えた作品が、漫画として形になるなんて最高でした。今も毎回のようにネームや初稿が上がってくるのを楽しみにしています。潮里潤先生に作画を担当してもらっているのですが、本当に良かったと思っています。細々としたところに自分でも「おっ!」って思うところがありますからね。
特にコミカライズで注目して欲しいのは、小説に登場しないキャラクターたちですね。小説ではイラストになっていないキャラクターたちが、漫画では動き回っているのでぜひとも楽しんで欲しいです。潮里先生の描くキャラクター達ですが、モブで登場する子も可愛いので。主人公のリオンから見れば悪役になるのですが、ゾラという女性キャラクターは、本当にいいキャラクターとして描いていただけたと思っています。孟達先生に引き続き、この作品の面倒な部分を潮里先生が頑張って描いてくれているので、そこもぜひ楽しんでいただきたいです!
――いよいよ第4巻が発売となりますが、第3巻ラストでは主人公自身もあずかり知らない【乙女ゲームに続編が出ていた】という状況から、異なる国へと留学することになります。最新刊の見どころについて教えてください。
「“あの乙女ゲー”に続編の二作目があった!」ということで、第4巻の舞台は外国「アルゼル共和国」になります。リオンたちは世界の危機を放置できないので、アルゼル共和国にある学院に留学することにしたのが第3巻の終わりでしたね。第4巻の舞台は、聖樹と呼ばれる巨大樹が存在する大陸になります。しかし、リオンには二作目の知識がありません。マリエは記憶が曖昧という状態で、二作目の舞台である学院に乗り込むことになります。注目して欲しいところは全部と言いたいですが、やはりマリエと5人の生活ですかね?(笑)。ここからマリエの魅力が発揮されると思うので、楽しんでいただければと思います。あと、全編において書き直しをしています。Webでは登場しなかった「二作目の悪役令嬢」が登場するので、WEBで読んでくれている読者さんでも楽しめる内容になっていると思います。新たな舞台の中心人物はノエルとレリアは双子の姉妹です。本来は1人しかいないはずの二作目の主人公が、双子となって学院にいるためリオンたちが混乱する原因にもなり、この2人にもぜひ注目していただければと思います。
※第4巻でも騒動に巻き込まれ続けるリオン。双子として登場するヒロインにも注目だ!
――今後の目標や野望あれば教えてください。
もっと作家としての実力を付けたいですね。文章力、構成、その他諸々と足りないところばかりですから。なので、もっと実力が欲しいので勉強することですかね。明確な目標を上げるなら、アニメ化でしょうか? そのためには、もっと頑張らないといけませんけど(笑)。個人的な目標は、イラストの指定で困ることが増えたので自分でイラストを描けるようになりたいです。担当の編集の方に「こういう感じで!」と、イメージが伝えやすそうだなと思うので!
――それでは最後に第4巻の発売を楽しみにしていた読者、ならびに本作をこれから読んでみようと思っている方へ一言お願いします。
第4巻はWeb版から大きく変更しております。「小説家になろう」で読んだ、という読者さんも書籍版で新しい展開を楽しんでいただけるようになっています。また、少し先のお話になりますが、第5巻は完全にWeb版と別物になる予定です。書籍版『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です』をどうかよろしくお願いいたします。それから、まだ『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です』を読んだことがない読者さんに言いたいのは、男性向けの異世界転生物です、ということでしょうか(笑)。タイトルに乙女ゲーとありますが、楽しく読んでいただけると思いますので、安心して購入していただけたら嬉しいです。
――本日はありがとうございました。
<了>
女尊男卑の過酷な乙女ゲー世界へと転生してしまった主人公が嫌々成り上がっていくコメディを描き続ける三嶋与夢先生にお話をうかがいました。発売される第4巻からは物語の舞台が大きく変わりつつも、これまでのキャラクターたちの行動からも目が離せない本作。「新作ラノベ総選挙2019」<新文芸・ブックス部門>で第3位にも選ばれ、モブキャラのはずが成り上がりの止まらない『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です』第4巻も必読です!
リオン×マリエ×ルクシオンが大暴れ(!?)な書き下ろし作品紹介!
©三嶋与夢/マイクロマガジン社 イラスト:孟達
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