独占インタビュー「ラノベの素」 紺野千昭先生『奇世界トラバース ~救助屋ユーリの迷界手帳~』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2022年1月15日にGA文庫より『奇世界トラバース ~救助屋ユーリの迷界手帳~』が発売された紺野千昭先生です。第13回GA文庫大賞にて《金賞》を受賞し、満を持して書籍を刊行されます。様々な世界を内包した「迷界」で繰り広げられる、壮大な大冒険譚を描く本作。救助屋を営む主人公のもとへと持ち込まれた人探しの依頼から始まる物語の着想や、登場するキャラクターについてなど様々なお話をお聞きしました。
【あらすじ】 門の向こうは未知の世界-迷界(セフィロト)-。ある界相は燃え盛る火の山。ある界相は生い茂る密林。神秘の巨竜が支配するそこに数多の冒険者たちが挑むが、生きて帰れるかは運次第――。そんな迷界で生存困難になった者を救うスペシャリストがいた。彼の名は「救助屋」のユーリ。「金はもってんのかって聞いてんの。救助ってのは命がけだぜ?」 一癖も二癖もある彼の下にやってきた少女・アウラは、迷界に向かった親友を救ってほしいと依頼する。「私も連れて行ってください!」 目指すは迷界の深部『ロゴスニア』。危険に満ちた旅路で二人が目にするものとは!? 心躍る冒険譚が開幕! |
――第13回GA文庫大賞《金賞》受賞おめでとうございます。まずは自己紹介からお願いします。
このたび第13回GA文庫大賞にて《金賞》を受賞させていただきました紺野千昭と申します。出身は長野県で、アニメが特に好きです。苦手なものは運動で、今日も出掛けに忘れ物をしてしまい、GA文庫さんのオフィスに来るまで走ったりしたので、体力的に死ぬかと思いました(笑)。
――特にアニメがお好きとのことですが、具体的にはどんな作品がお好きなんですか。
たくさんあって悩むところではありますが、『ご注文はうさぎですか?』シリーズは特に好きでした。今も毎期たくさんのアニメが放映されていますが、第1話はほぼほぼ全部見ていると思います。みなさんもそうだと思うのですが、そこから選別していって、日常系であったりロボットもの、あとは原作のないオリジナル作品なんかが継続して見る作品に残っていく傾向が強いかもしれません。それと自分のアニメの視聴方法は少し特殊で、第1話を見て面白いなって感じたものは、録画などで放映終了後にまとめて見ることがほとんどです。美味しいものを最後に食べるじゃないですけど、期待しているものは一旦置いて、最後まで取っておく傾向がありますね(笑)。
――なるほど。ものすごくアニメがお好きだということが伝わってきます(笑)。アニメにはいつ頃からハマられたんですか。
やっぱり一人暮らしを始めた大学時代がきっかけで、そこから本格的に視聴するようになりました。就職と同時に東京に出てきた時も、「こんなにたくさん放送しているんだ」って驚きましたね。これは田舎出身あるあるなんじゃないかなと(笑)。
――その田舎出身あるある、すごくわかります(笑)。あらためて第13回GA文庫大賞《金賞》受賞の率直な感想をお聞かせください。
入賞のタイミングで電話をいただいたんですが、寝起きだったと記憶しています(笑)。それと自分が電話を取った直後は少し勘違いをしていまして、受賞の連絡ではなく最終選考の通過の連絡だと思っていたんです。なので、お話を聞き流していたわけではないんですけど、電話を受け取ったタイミングではまったくと言っていいほど驚きはありませんでした。自分としては受賞時にはじめて受賞連絡がもらえるものだと思っていましたし。自分の中ではそういうはずだと思っていたんですが、少しお話をしていたら「受賞です」って言われて(笑)。会話の中で唐突に驚かされましたよね。
――最終結果はメールで連絡を受けているとうかがっていますが、その際はいかがでしたか。
《金賞》受賞とのメールをいただいて、語彙力を失うレベルで驚きました(笑)。やっぱり公募に送っている以上は受賞を目指しているわけでなので、嬉しくないわけがありません。素直によかったという感想を抱きました。
――紺野先生はHJ小説大賞2020前期でも受賞されていて、本賞とあわせてW受賞ですよね。
そうですね。受賞の連絡はHJ小説大賞の方が2週間くらい早かったと思います。もともといろんな賞へ原稿が完成次第送り続けていたので、HJ小説大賞2020でも受賞させていただいたことは非常にありがたかったです。とはいえ、ほぼ同時に賞を獲ったから何か特別なことがあるかと言われればそんなことはないんですが、とにかく単純に嬉しいという気持ちでいっぱいでした。受賞したそれぞれの作品のテイストもかなり違ったりしているんですが、どちらの物語も自分が好きで書いたものですし、一生懸命書いたものなので、喜びはひとしおです。
――ご自身のアニメ好きも大なり小なり影響はされていると思うのですが、小説を執筆するにあたって、ライトノベルというジャンルを選ばれた理由はなんだったのでしょうか。
自分は大学で日本文学を専攻していたんですが、その過程で文芸作品を執筆するのは肌に合わなさそうだと感じてしまったのが大きいです。自分が執筆する姿を想像した時に、あまり楽しそうなイメージを浮かべられなかったんですよね。そしてあとがきにも書いているんですが、『バーティミアス』や『デルトラ・クエスト』などの海外の児童小説との出会いが源流としてあります。それらの作品には剣も魔法もモンスターも登場しますし、バチバチのファンタジーですから(笑)。ライトノベルをたくさん読んでいるわけではないのですが、海外の児童小説の派生から少しずつライトノベルにも触れるようになっていきました。
――ありがとうございます。それでは受賞作『奇世界トラバース』はどんな物語なのかお聞かせください。
まず作品タイトルにもある「トラバース」は登山用語のひとつです。山の斜面をジグザグに横切ることや、安全な登山道が断たれた難所を乗り越えていくというニュアンスとしても用いられることがあります。本作は砂漠や氷河、大海原などが連なった世界の集合体である「迷界」と呼ばれる世界群を旅する探索アドベンチャー作品になっています。『メイドインアビス』や『岳』、『神々の山嶺』といった作品からもインスピレーションを受けていたりするので、そういった作品が好きな方には特に楽しんでいただけるんじゃないかなと思っています。
※迷界と呼ばれる世界群へ挑む壮大なアドベンチャーが幕を開ける
――本作の着想についても教えてください。
登山漫画などでリュックにロープや保存食を詰めて、旅に備えるシーンがあると思います。自分はとにかくああいったシーンが好きなんです。また『ざんねんないきもの事典』なども一時期流行ったと思うのですが、図鑑やWikiなどを眺めたり読んだりするのも好きなんですよ。とにかく楽しめる。これは不思議と言えば不思議な話だと思っていて、図鑑などは基本的に事実が羅列されているだけで、そこに物語があるわけじゃないのに面白いんですよ。本作ではそういった面白さに挑戦してみたいと考えたところもありました。おそらく別の作品であれば削ってしまっているようなシーンを敢えて残したりしていますし、作中で主人公が語るうんちくにも力を入れています。そういったシーンにもぜひ注目していただけたらと思っています。
――受賞後の改稿作業も含めて、筆が乗ったシーンや手応えを感じたシーンはありましたか。
基本的に筆が乗るという感覚に至ったことがないのでなんとも……(笑)。毎回自分のイメージ通りに書けないシーンは出てきますし、それこそ3行に1回筆が止まることもザラです。これは今作に限った話ではなく、これまで書いてきた作品すべてに共通しているんですよね。その中でも楽しかったのはリュックに様々な道具を準備していく荷造りのシーンで、道具の名称を羅列するところは楽しかったです(笑)。改稿作業については、一人で手直しをしている時よりも、第三者のノウハウを持たれている方にアドバイスをいただけるという安心感はすごかったです。一人だとどうしても、改稿の結果、直す前より悪くなっている場合も出てきてしまうわけで。全体的に苦しみながら執筆に取り組んでいたことに変わりはありませんが、とにかく安心感はありました。
――それでは本作に登場するキャラクターについても教えてください。
主人公のユーリは、冒険者ではなく、迷界で帰還できなくなってしまった冒険者を助ける救助屋です。お金にがめつかったり、悪ぶって格好をつけたりもしますが、根はいいキャラクター。彼の性格は自分にとってしっくりくる主人公像のひとつでもあります。また作中における救助屋は、一般的に普及はしているものの儲からないというか割に合わない職業だったりします。普通の冒険者が遭難するようなところにわざわざ助けに行くだけですし、それだけの実力があるなら自分で冒険した方がお金にも繋がる。そういう意味でも救助屋を営むユーリは珍しい部類だったりするんです。戦闘能力が飛びぬけて高いわけではなく、どうすれば生き残ることができるのかというサバイバル技能に精通しているキャラクターですね。
※救助屋のユーリ(キャラクターデザインより)
アウラは本作のヒロインであり、ユーリに友人の救助を依頼することになる少女です。感情が希薄で何を考えているのかわかりづらく、ちょっとした秘密も抱えていたりします。彼女に関しては迷界の知識をほとんど持ち合わせていないため、ある意味で読者と同じ目線に立つことになるキャラクターだと思います。彼女はヒロインに留まらない成長も見せてくれるので、楽しみにしていただけたらと思います。
※ユーリに人探しの依頼をすることになる少女アウラ(キャラクターデザインより)
ネズミは怪しげな穴倉というお店の店主です。ユーリとは昔ながらの顔なじみでもあり、長く付き合いのあるキャラクターです。登場シーンが多いわけではないのですが、イラストレーターの大熊まい先生にもすごく気に入っていただけているキャラクターでもありますね(笑)。
※ユーリの顔なじみで怪しげな店の店主を務めるネズミ(キャラクターデザインより)
――ちょうど話題にも出ましたが、本作のイラストは大熊まい先生が担当されています。キャラクターデザインを見た際の感想や、お気に入りのイラストなどがあれば教えてください。
キャラクターデザインについては4キャラクター分を一気にいただきました。その中でも熟練の冒険者という立ち位置にいる、スウェインというキャラクターのデザインが本当に格好良くて、興奮したのを明確に覚えています(笑)。お気に入りのイラストは口絵のピンナップでしょうか。思わず「冒険してる!」って叫びたくなるくらい素晴らしい1枚に仕上げていただいていて、冒険している感がとにかくすごい。自分は執筆中にキャラクターや情景をイメージするのが苦手なタイプなんです。キャラクターの顔や表情のイメージもゼロの状態で執筆を続けていたので、大熊先生からのイラストが送られてきて、はじめて「彼ら彼女らはこういう顔をしているんだ」とストンと落ちたんですよね。
※紺野先生がその格好良さに一目惚れしたというスウェイン(キャラクターデザインより)
※キャラクターの顔や表情が具体的に描かれたことでよりイメージが固まったという紺野先生
――紺野先生がおっしゃったイラストから感じる「冒険感」は、背景の描き込み具合にも如実に表れているんだろうなと思います。すごいですよね。
自分はイラストについて詳しくないのですが、描き込みが細部まで細かく、ものすごい解像度で世界を描いていただいているということは理解しているつもりです。なので先ほどの「冒険感」というのも、おっしゃる通りそういった細部に至る描き込みに由来しているとすごく感じますね。漠然としていた世界のひとつひとつを細かく拾っていただいていて、もう自分よりも大熊先生の方が本作の世界に詳しいんじゃないかって思います(笑)。
※緻密で幻想的に描かれている本作のイラストにも注目してもらいたい
――それではあらためて著者として本作の見どころ、注目してほしい点を教えてください。
一番注目してほしいポイントは、迷界そのものでしょうか。界相ごとに様々な世界と生態系があり、そういう世界観が楽しいと思って執筆をしました。あとは何度か触れている荷造りのシーン(笑)。リュックの中にランタンやナイフ、ロープなどを詰めるシーンが好きな方はぜひ。また、広範な生態系の描写も多いので、図鑑を読むのが好きという方にも面白いと思っていただければ嬉しいです。本作は壮大な世界を描いたファンタジー作品ですので、ファンタジー好きな方にはぜひ読んでいただければと思います。
――今後の野望や目標があれば教えてください。
一番は第13回GA文庫大賞《金賞》という栄えある賞をいただいたことへの恩返しになるような結果を残せたらいいなとは思っています。個人的な目標としては、都度都度詰まって止まらずに執筆できるようになりたいです。苦しい思いをせずに、自分がイメージした内容を書けるようになりたい……! ずっと昔から思っていることですけど(笑)。
――最後に本作へ興味を持った方、これから本作を読んでみようと思っている方へ一言お願いします。
この物語はファンタジー世界における探索アドベンチャーです。本当にキャッチコピーのままで、難しいテーマや深いメッセージ性が主題ではなく、壮大な世界を冒険するお話なので、気楽なエンタメとして読んでいただければと思います。試し読みでは、第二章の最後まで公開されているので、読んでいただければ、物語の空気感は理解していただけるのかなと。担当編集さんからもGA文庫らしい濃厚なファンタジーと太鼓判をいただいているので、ぜひ気軽に触れていただけたらと思います!
■ラノベニュースオンラインインタビュー特別企画「受賞作家から受賞作家へ」
インタビューの特別企画、受賞作家から受賞作家へとレーベルを跨いで聞いてみたい事を繋いでいく企画です。インタビュー時に質問をお預かりし、いつかの日に同じく新人賞を受賞された方が回答します。そしてまた新たな質問をお預かりし、その次へと繋げていきます。今回の質問と回答者は以下のお二人より。 |
第15回小学館ライトノベル大賞「ガガガ賞」受賞作家・雨森たきび先生
⇒ 第13回GA文庫大賞「金賞」受賞作家・紺野千昭先生
【質問】
原稿を執筆していると、どうしても筆が進まない時があるかと思います。受賞して商業作家となったことで、より厳しい〆切りも生まれ、これまでできていた「書けるまで時間を置く」であったり、別の作品を書いたりしながら、筆が進むようになるのを「待つ」ということも難しくなりました。そういった際、どのようにして気持ちを切り替えていくのか、どう気持ちを作っていくのか、非常に気になっているので教えてほしいです。
【回答】
自分はそもそもの段階から詰まることが多いので、毎回詰まっては使えそうなワードや文章をひとまずメモしつつ、先延ばしにしながら書けるところから書いていきます。結果として重いパートだけが大量に残るので、なんとかならないかと思いつつ、どうにもならない状況を繰り返しています(笑)。正直、時間があるのであれば寝てしまいます。でも時間がない時は書けないところを飛ばしながら、最後まで走り切ります。どうしたってやるしかないわけですから、やり切るしかないんですよ!(笑)。
――本日はありがとうございました。
<了>
「迷界」と呼ばれる広大で、そして様々な生態系が存在する世界へと挑む冒険探索アドベンチャーを綴った紺野千昭先生にお話をうかがいました。大自然へと挑むことへの難しさ、道を切り拓くために必要不可欠な事前の知識と準備。まさに大冒険譚と呼ぶに相応しい『奇世界トラバース ~救助屋ユーリの迷界手帳~』は必読です!
<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>
©紺野千昭/ SB Creative Corp. イラスト:大熊まい
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