独占インタビュー「ラノベの素」 メグリくくる先生『暗殺者は黄昏に笑う』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2022年1月25日にオーバーラップ文庫より『暗殺者は黄昏に笑う』が発売されるメグリくくる先生です。第8回オーバーラップ文庫大賞にて「金賞」を受賞し、満を持してデビューされます。異世界へと転生した主人公が求めたのは誰かを助ける力。かくして与えられた力は誰かを殺す「暗殺者」としての力で。異世界で検死を行う主人公のもとには様々な事件の遺体が持ち込まれて始まるファンタジーサスペンス。本作の着想や登場するキャラクターについてなど様々なお話をお聞きしました。

 

 

暗殺者は黄昏に笑う

 

 

【あらすじ】

かつて医者として多くの人を救ってきた荻野知聡。そんな彼が異世界転生時に授けられたのは、「暗殺者」の天職であった――。彼は助手の少女ミルとともに遺体の検視を行うかたわら、もしそれが他殺であれば、万物を殺しうる《切除》の異能を振るい、確実に犯人へ復讐を果たす『復讐屋』として日々を過ごしていた。だがある日、彼の日常は一変する。『復讐屋』のもとに持ち込まれた子供の変死体。それを皮切りに頻発する怪事件に、知聡は巻き込まれることになり……?「僕には、才能があり過ぎた。誰かを殺すという、不快極まりない才能が」 第8回オーバーラップ文庫大賞《金賞》受賞。ファンタジーサスペンス第1幕。

 

 

――第8回オーバーラップ文庫大賞「金賞」受賞おめでとうございます。まずは自己紹介からお願いします。

 

メグリくくると申します。出身は愛知県で、社会人になったのを機に上京しました。好きなものは野球で、2021年は応援しているオリックスが日本シリーズへひさしぶりに出場したので、毎日ずっと試合を見てました。あとはお酒が好きで、最近はクラフトビールにハマっています。美味しい食べ物も好きなので、食べ歩きや飲み歩きをよくします。苦手なものは精神的に追い詰められることでしょうか。切羽詰まる状況があまり好きではなくて、何かに追い立てられることなく自由な環境で生きていきたいと思っています(笑)。

 

 

――ありがとうございます。第8回オーバーラップ文庫大賞「金賞」受賞の率直な感想をお聞かせください。

 

やっぱりものすごく嬉しかったですね。受賞の連絡は仕事の合間にお電話でいただきました。執筆活動を10年近く続けてきたということもありますし、ここ2、3年は最終選考まで残るものの受賞を逃すというケースがいくつかの賞であったので、なおさら嬉しかったです。喜びと安堵をすごく感じたところがありつつ、作家としてのスタートラインに立ったわけでもあるので、これから頑張っていかなきゃいけないという感じです。

 

 

――10年近く執筆活動を続けてこられたというお話ですが、小説執筆のきっかけはなんだったのでしょうか。

 

文章を書いていたという意味では、大学時代に放送系のことをやっていたサークルに入っていて、そこでラジオの台本を書いたりしていました。ただ、小説を書き始めたのは社会人になってからです。きっかけはかなり特殊だと思うんですが、新卒で入社した会社の先輩に、「君の書いている日本語はわかりづらいね」と言われちゃいまして(笑)。結構ショックを受けつつも、社会人としてきちんとやらなくちゃいけないと考えた結果、小説を書くことにしたんです。そうすれば自然と文章力も高められるはずだと。

 

 

――会社の先輩の指摘がきっかけだったんですね(笑)。

 

そうなんです(笑)。なので、最初は仕事の質を上げるために書き始めたわけなんですが、それがどんどん面白くなって、かれこれ10年くらい書き続けることになりました。

 

 

――となると、公募や新人賞への応募は別のきっかけがあったということでしょうか。

 

実際に応募を始めたのは、書き始めてから2~3年してからだったと思います。もともと小説を書くからにはどこかに応募しようとは思っていました。やはり会社の先輩の言葉がきっかけだったわけで、それを見返す必要がありましたので。だからこそ公募などに応募して、出版社の方からある程度「文章力がある」と判断してもらえるものが書ければ、「わかりづらい日本語」という指摘に対して、克服できたと思えるに違いないと考えました。

 

 

――なるほど。第三者から文章力を評価してもらう場所として、新人賞を活用しようと(笑)。

 

はい(笑)。ただ、先輩に言われたこともあながち間違っていなかったということにも気付かされることになりました。私自身小説を書いていると、途中で設定を色々と作ったり、キャラクターに語らせたくなるタイプでして、いざ書き終えた時に「こんな説明ばかりの文章、誰が読んで面白いんだろう」って思うこともかなりあったんです。そうしたらもう、書いては消しての繰り返しになるわけですよね。応募するまで2~3年近い時間がかかったのも、物語をしっかりと完結させることがとにかく大変で、その欠点を克服するまで書き続けた結果でもあったんです。

 

 

――面白い動機からデビューに繋がっていったんだなとあらためて感じます(笑)。小説を書くという選択において、ライトノベルを選んだのは何か理由があったのでしょうか。

 

ライトノベルはもともと読んでいて好きでしたし、そのぶん身近に感じていたので、書くならライトノベルを書こうと。そもそも私が本を好きになったきっかけが、安井健太郎先生の『ラグナロク』でした。中学生の頃に『ラグナロク』と出会い、その後はライトノベルをメインに小説を読むようになったんです。浅井ラボ先生の『されど罪人は竜と踊る』も好きですし、川上稔先生の『GENESISシリーズ 境界線上のホライゾン』も大好きです。リブートされた『ラグナロク:Re』も嬉しかったですし、新作の方もすぐに買って読みました。私の中では物事の解釈であったり、世界観であったり、「こんな考え方をしてもいいんだ」っていう物語を見せてくださる先生の作品には、すごくハマってしまいますね。

 

 

――ありがとうございます。それでは受賞作『暗殺者は黄昏に笑う』はどんな物語か教えてください。

 

本作は異世界転生ものの作品で、最終的に少し大きな事件へと繋がっていく連作短編サスペンスです。主人公はもともとお医者さんで、死んだ後に異世界へと転生することになります。異世界「アブベラント」に暮らしている人たちは一人一人才能を持っていて、その才能に準じて生きているんです。前世が医者だった主人公は「誰かを治す」という才能があると考えていたのですが、言い渡された才能は「暗殺者」でした。人を治すどころか、逆に殺す才能があるよ、と。そうなると物語としてはどうしても血生臭い方向に向かっていくんですが、主人公は遺体を検死して、死の原因を辿るようになっていきます。誰に殺されたのか、或いはどんなモンスターに殺されたのか。主人公の元には様々な依頼が舞い込んでくるようになり、その事件のひとつひとつを解決していくことになります。

 

暗殺者は黄昏に笑う

※「復讐屋」を掲げるチサトにもとには様々な事件の依頼が舞い込むのだが……

 

 

――本作の着想についてもお聞かせください。

 

最初の発想と言いますか、異世界ファンタジー系の作品を読んでいると、全然違う種族と夫婦になったり、子供を作ったりすることができるじゃないですか。人間とゴブリンの間にも子供ができたりするわけですよね。それを見た時に、「これは遺伝子的な構造や染色体はどうなってるんだろう」と疑問に思ってしまったんです(笑)。そうすると回復魔法の自然治癒をはじめとして、様々な疑問が浮かんでくるわけです。これらをきちんと医療系の知識で表現することができたなら、これは今までと少し違うファンタジーの物語ができるんじゃないかなと考えたんです。

 

 

――そこに疑問を持って、なおかつ表現してみようと考えたのは素直にすごいと思います。

 

ありがとうございます(笑)。ただ10年近く執筆をしていると、どうしても迷走する時期があるんですよ。ジャンルもギャグや時代物に振ってみたり、何をどう書くのか悩む時期もありました。そうした中では発想の転換がどうしても必要になりますし、それが面白さに繋がるんじゃないかなど、いろいろ考えるんです。その試行錯誤の末、新人賞の選考が少し前に進んだりもして。普段何気なく見たり聞いたりしているものを、しっかりと掘り下げて考えるような癖がつくようになったんだと思います。

 

 

――そうなんですね。また連作短編の方式を採用しているのは、ご自身の作風なのでしょうか。

 

そうですね。作風でもあり、私の弱点に由来するところでもあると思っています。私は1本の長編を書こうとすると、どうしても物語が冗長化してしまうところがあるんです。たとえばバトルものも好きなので、バトルものの作品を書こうとすると、本当に物語の8割くらいがバトル描写になっちゃったりするんですよ(笑)。送った新人賞での評価もそうでしたが、一編ずつ話がまとまっている作品の方が評価も良く、自分に合っているのかなという感覚がありました。もうひとつは、読者さんに読んでもらうための動機付けを考えた際に、謎を少しずつ用意した方が飽きずに読んでいただけるんじゃないかと考えた結果ですね。

 

 

――ありがとうございます。それでは続いて、様々な事件に関わっていくことになるキャラクターについても教えていただけますでしょうか。

 

主人公のチサトは、異世界へと転生して暗殺者の能力を見出だされました。物語はチサトが転生してから5年後くらいのお話になるんですが、自分のやりたいことと、暗殺者としての現実と、折り合いを付けながら生きています。序盤はチサトに対して冷たい印象を受けるかもしれませんが、個人的にはかなりピュアな性格だと思っています(笑)。守りたいものが明確だからこそ、そんなに優しくないこの異世界でもがき苦しんでいるキャラクターでもあるので、彼が悩みながらどうやってこの異世界を生きていくのか、ぜひ注目していただけたらなと思います。

 

暗殺者は黄昏に笑う

※異世界へと転生し、復讐屋を営むチサト

 

続いてミルですが、チサトの傍から離れない、チサトと共に生きていくことを決めている少女です。可愛らしいキャラクターでありつつ、非常にドライな部分もあったりするんですが、たまに垣間見えるチサトに対する独占欲は見どころのひとつかなと思いますね。

 

暗殺者は黄昏に笑う

※チサトと共に歩む謎の少女・ミル

 

ニーネは新人の冒険者です。改稿を経て登場シーンが増えた一人でもあり、チサトにとってもニーネにとっても、ある意味で認め合えるキャラクターなのかなと思います。彼女はチサトにとって大きな意味がある存在でもありますね。

 

暗殺者は黄昏に笑う

※新人の冒険者・ニーネ

 

最後にもう一人、ジェラドルです。彼はチサトの悪友というか、状況によっては敵にも味方にもなり得るキャラクターですね。出会いは憎まれ口を叩き合う関係であり、過去には一緒に事件を解決したこともあります。ただ、ジェラドルにはジェラドルの守りたいものがあって冒険者をやっているので、そこでチサトと折り合いがつけばいい相棒になるでしょうし、折り合いがつかなければ戦う相手になってしまうこともあるかもしれませんね。

 

 

――主人公のチサトに関しては、なぜ転生から5年後の姿を描こうと思ったのでしょうか。

 

チサトの前世は医者で、救いたいと思う気持ちが人一倍強いのに、異世界では暗殺者。この時点でチサトは苦労するんだろうなと感じていました。転生直後のチサトは、誰かを救えると思い続けている、本当に甘い考えを持っていたキャラクターだったと思います。でも現実は甘くないし、手にした力も違うわけで。もし転生直後からの物語を描いていたら、読者の方はきっとイライラするんだろうなとも感じていました。そんなチサトが、誰かを救うという甘い考えと折り合いをつけるには、きっと5年くらいかかるんだろうなとも。ゆえに物語は転生から5年後の姿を描くことにしたんです。とはいえその結果、ずいぶん擦れた感じのキャラクターになってしまいましたけど(笑)。

 

 

――そんなチサトを主人公として、本作は様々な事件をファンタジー世界におけるサスペンスとして描かれていますよね。

 

はい。ファンタジーはファンタジーで楽しいと思うのですが、サスペンス要素が加わることによって、より現実感があって身近な物語になっているんじゃないかなと思います。また、事件についても同様で、私自身点と点を繋げて線にするという作業が好きで、事件を考える上でも論文をはじめとしたさまざまな資料に目を通したりもしました。ファンタジーという遠い世界でありながら、もう少し近い視点で楽しんでいただける、そんな物語を目指したので、ファンタジーでありサスペンスであり、ちょっとしたミステリ的な視点など、様々な角度から楽しんでいただければと思っています。

 

暗殺者は黄昏に笑う

※様々な事件の中には異世界でなくても起きうるようなものも……

 

 

――本作は書籍化に際して岩崎美奈子先生がイラストを担当されています。あらためてキャラクターデザインを見た際の感想やお気に入りのイラストについて教えてください。

 

イラストをいただいた際には、素直にすごいなって思いましたよね。自分が文章で書いている間は、なんとなくのイメージはあるんですけど、かっちりと決まっていたものではありませんでした。なので、文章からここまでビジュアル化できることに対して、岩崎先生のすごさを痛感しました。お気に入りのイラストはジャケットで、作品を通して自分が描きたかったものをしっかりと表現していただきました。荒廃した背景、黄昏的な情景、チサトの格好良さとミルの可愛さも映えています。岩崎先生の光の使い方が本当に好きで、語彙力がなくて表現が難しいんですけど、とにかく素敵だと感じました!

 

暗殺者は黄昏に笑う

※メグリくくる先生も大絶賛のジャケットイラスト

 

 

――あらためて著者として本作の見どころ、注目してほしい点を教えてください。

 

そうですね。やはりチサトを通して見える異世界「アブベラント」の世界についてでしょうか。この世界はどうなっているのか、ぜひ見ていただきたいです。本作は決して順風満帆な物語ではなく、チサトも大いに苦悩しています。そんな生きているキャラクターたちが、必死に足掻いて、辿り着く答えがどんなものなのか、注目してもらいたいと思っています。あとはバッドエンドでも大丈夫な方は、本作を一層楽しんでもらえるんじゃないでしょうか(笑)。ほかにも空想科学読本や、ファンタジーや特撮を科学の視点で見ることが好きな方であれば、楽しんでいただけると思います。

 

 

――今後の野望や目標があれば教えてください。

 

人を選ぶ作品なのかなとは思うんですけど、それこそヒット作のような位置づけになれるくらい、たくさんの人に読んでいただきたいです。担当編集さんからはオーバーラップ文庫の新人賞でヒット作を出すのが悲願というお話も聞いているので、ぜひその悲願成就のために頑張りたいです(笑)。それが成されることで、私としてもこの物語を長く続けていけるという思いもありますし、メディアミックスにも繋がっていくと思います。とにかくいろんな人に読んでもらうということを頑張りたいですね。

 

 

――最後に本作へ興味を持った方、これから本作を読んでみようと思っている方へ一言お願いします。

 

まず、本作に興味を持ってもらえるだけでも嬉しいです。ありがとうございます。そして本作の世界はそんなに優しい世界ではないんですけど、その世界で懸命に生きているチサトであったり、その傍にいるミルがどのような答えを出していくのか、ぜひ注目していただけたら嬉しいです。まずは手に取ってどんな物語なのか、パラパラとでも見てもらえたらなと思います。よろしくお願いします!

 

 

■ラノベニュースオンラインインタビュー特別企画「受賞作家から受賞作家へ」

インタビューの特別企画、受賞作家から受賞作家へとレーベルを跨いで聞いてみたい事を繋いでいく企画です。インタビュー時に質問をお預かりし、いつかの日に同じく新人賞を受賞された方が回答します。そしてまた新たな質問をお預かりし、その次へと繋げていきます。今回の質問と回答者は以下のお二人より。

 

第13回GA文庫大賞「金賞」受賞作家・紺野千昭先生

 ⇒ 第8回オーバーラップ文庫大賞「金賞」受賞作家・メグリくくる先生

 

【質問】

自分の思い通りにシーンを書きたいという欲求はみなさんあると思うんですけど、思い通りにいかないこともたくさんあると思っています。そういった筆力をみなさんはどうやって訓練しているんだろうって疑問に思ってます。本を読むだとか実際に書いてアウトプットを繰り返すといった方法以外で、やろうと思わないとなかなかやらないような、オリジナルの訓練方法があればぜひ教えてください。

 

【回答】

これは私が小説を書く前、大学時代にWEBラジオの台本を書く時の訓練として始めたことなんですが、目で見るものを頭の中でリアルタイムに文章描写をする、ということをやっていました。たとえば電車で移動する際、窓から流れる風景をひとつひとつ詳細に描写しようとしても、スピードが速いので無理じゃないですか。どんどん過ぎ去る景色をどう描写しようかと考えた際、取捨選択をしなくちゃいけません。何を細かく描写して、何の抽象度を高めるのか。これをひたすら繰り返します。実際、私自身も物語の構成を考える際など、かなり寄与しているんじゃないかと感じています。目に見えているものを描写することは、キャラクターが見ているものと同じスピード感で描くことに繋がると思うので、ぜひ参考にしていただければ幸いです!

 

 

――本日はありがとうございました。

 

 

<了>

 

 

異世界へと転生した医者が、救いと殺しの狭間で懊悩するファンタジーサスペンスを綴ったメグリくくる先生にお話をうかがいました。主人公のもとには様々な依頼が舞い込み、遺体を解剖することで事件の真相へと辿り着いていきます。生かすことと殺すこと、その理想と現実の狭間でもがき続ける主人公を描いた『暗殺者は黄昏に笑う』は必読です!

 

<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>

 

©メグリくくる/オーバーラップ イラスト:岩崎美奈子

kiji

[関連サイト]

『暗殺者は黄昏に笑う』特設サイト

オーバーラップ文庫公式サイト

 

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暗殺者は黄昏に笑う 1 (オーバーラップ文庫)

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