独占インタビュー「ラノベの素」 裕時悠示先生『高3で免許を取った。可愛くない後輩と夏旅するハメになった。』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2022年4月15日にGA文庫より『高3で免許を取った。可愛くない後輩と夏旅するハメになった。』が発売された裕時悠示先生です。『踊る星降るレネシクル』、『俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎる』、『29とJK』を完結させ、満を持して刊行される本作は、凸凹なふたりの掛け合いも魅力の車旅×ラブコメ作品となっています。本インタビューでは、新たな作品を執筆するにあたって意識したことや、車での旅という題材だからこそ描ける面白さなど、様々な内容についてお聞きしました。
【あらすじ】 「せんぱい、免許取ったんですか?」車で夏の北海道を旅するのが夢だった僕は、校則違反の免許を取った。しかし、最悪の相手に運転しているところを見つかってしまう。鮎川あやり──なぜか僕のことを目の仇にする冷酷(クール)な風紀委員だ。僕の夢もこれで終わりと思いきや、「事故でも起こされたら大変です。わたしが運転技術を確認します」ゆかいにドライブしてしまう僕ら。助手席の彼女は、学校では誰にも見せない可愛い顔を覗かせたりして。「それじゃせんぱい。良い夏旅を」別れ際、彼女が一瞬見せたせつない笑顔に、僕は──。裕時悠示&成海七海が贈る青春冒険ラブコメ“ひと夏の甘旅”始動! |
――まずは自己紹介からお願いします。
裕時悠示と申します。『踊る星降るレネシクル』という作品で第2回GA文庫大賞の「優秀賞」をいただき、2010年にデビューいたしました。作家生活も今年で13年目になります。現在ハマっていることはYouTubeでの動画投稿です(ラノベ作家が何かをさけぶ。)。この1ヶ月ほどは毎日動画を投稿しています。
――YouTubeでの動画投稿にハマっているとのことですが、始められた理由は何だったのでしょうか。
動画投稿をしたいと考え始めたのは3,4年ほど前からだったと思います。その頃から、アニメやゲームよりもYouTubeに触れる時間が長くなってきたんです。YouTubeでは、マンガの考察や解説をしている動画チャンネル、ライフハック系の動画チャンネル、あとはエンジェルネコオカさんやセカイノフシギさんが手掛けられている漫画動画などをよく見ていました。それらのコンテンツの視聴を続けるうちに「自分でも動画投稿をしてみたい」という思いが強くなってきたんです。
――そうだったんですね。また、動画投稿を始めると同時にTwitterも始められましたよね。
Twitterを始めたのは、これからは自分で作品を宣伝する必要があると感じたからです。現在は新作を立ち上げる際に試し書きしたショートストーリーの投稿を中心につぶやいています。少しでも作品を知ってもらうきっかけに繋がればと思ってやっています。
――試し書きでショートストーリーを作るというのは珍しい気がします。新作を書く前にはショートストーリーをよく書かれているんですか。
いえ、今回が初めてです。前作まではキャラクターがたくさん登場するタイプの作品を書いていたのですが、今作は一対一の掛け合いがメインのお話になっています。なので、これまであまり書いてこなかった一対一の掛け合いを練習する意味でショートストーリーを書いていました。
――裕時悠示先生が動画投稿やTwitterを始められた今年の2月には『俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎる』の最終巻も発売されました。あらためて完結を迎えた心境を教えてください。
正直これといって感じることは無いです。最終巻の後も彼らの人生は続くわけで、僕としては作品が完結してもキャラクターたちはまだ生きているって感覚が強いんです。なので、完結した寂しさや余韻のようなものはあまりないです。普通ですね(笑)。
※シリーズは完結しても彼ら彼女らの人生と物語は続いているという
――『俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎる』完結までの11年という月日はかなり長かったと思うのですが、始まりと終わりを振り返って『俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎる』という作品に対するスタンスに変化はありましたか。
2013年に『俺修羅』をアニメ化していただいた際は、「自分の作品」というよりも「みんなの作品」という意識が強かったです。アニメ制作会社や監督さん、声優さんなどと作品を共有しているという感覚でした。アニメの放送が終了してからはキャラクターがより自由に動きだしたという感覚が強くて、ある程度彼らに任せて僕自身はそれを眺めているというスタンスになりました。
――読者の間では『俺修羅』第15巻のカオルの変化も話題になっていました。あの展開も自由に動き出したキャラクターによって、筆が動かされたという事なのでしょうか。
そこは少し違っていて、『俺修羅』はキャラクターに筆を動かされるというよりも、キャラクターと相談しながら書いていた作品なんです。「今こういう展開にしようと思ってるんだけど、カオル的にどうよ?」といった形で、キャラクターに質問を投げかけるんです。細かなネタバレは避けますが、あの展開に関しては「無難におさまるぐらいなら、こうしたいよ」というカオルの主張が反映されたものになっています。ただ、キャラクターと相談しながら執筆する形を取っているので、時には僕の言う事を聞いてもらう事もあります。キャラクターたちの変化や物語の展開に関しては、僕のコントロールが半分、キャラクターに任せる部分が半分という形でした。
――ありがとうございます。そんな『俺修羅』の完結も経て刊行される『高3で免許を取った。可愛くない後輩と夏旅するハメになった。』について、どんな物語なのか教えてください。
まさにタイトル通りの物語ですね(笑)。学校ではよく喧嘩をしている少年と少女が、ひょんなことから一緒に車で旅をすることになってしまい……という物語です。ジャンルで言えば「ケンカップルもの」ですかね。喧嘩するほど仲がいい、喧嘩しているけどお互いに惹かれあっている、そんなふたりの旅路を描いた物語になっています。
※喧嘩ばかりのふたりによる「夏旅」が幕を開ける
――本作については「俺修羅に続く」と掲げられていますが、新作をラブコメにしようと最初から決めていたのでしょうか。
決めていたわけではないです。新作を立ち上げる際、当時の担当編集さんにはバトルものやミステリーものなど30個ほど企画を提出していました。その中で、需要があるもの、かつ自分が楽しく書けるものを選ぼうという事でラブコメを執筆することになったんです。
――そうだったんですね。『俺修羅』や『29とJK』は同じラブコメジャンルでも学校や職場などの箱を舞台にしたラブコメだったと思います。一方で本作は箱の外側に飛び出していくラブコメなのかなと思っています。この違いについては企画段階から意識されていたのでしょうか。
本作では、「ラブコメとしての純度を高める」という点を意識しました。新作を立ち上げるにあたって、人気のラブコメを読みながらあらためて「ラブコメ」というものに向き合ってみたんです。その中で感じたのは「ラブコメとしての純度の高さ」が今のラブコメ読者の期待に応える要素のひとつではないか、ということでした。本作はラブコメの純度を高めるべく、学校や職場という人間関係を飛び出して、ふたりだけの空間でラブコメを描くことにしたんです。
――なるほど。焦点を主人公とヒロインに合わせることで、ラブコメの純度を高めようとされているんですね。ぜひその着想についても教えてください。
最近は「同居ラブコメ」や「半同居ラブコメ」というジャンルが流行しているのを踏まえて、自分ならどう書くかと考えていた時に浮かんだのが「男女が車で北海道を旅する」というアイデアでした。運転席と助手席という距離の近さ、車での旅だからこそ生まれる長時間ふたりきりという状況、運転手とナビゲーター役という共同作業を行う中で、自然と生まれるコミュニケーション。これらの要素は流行のラブコメが好きな人にも刺さるのではないかなと思っています。「同居ラブコメ」ならぬ「同乗ラブコメ」ですね。
※車中で生まれるふたりきりというシチュエーションは大きな魅力となっている
――車中の空間に対して、ラブコメにおける面白さを見出だされたと。
そうです。電車などよりも「閉鎖空間にふたりきり」というラブコメ的においしいシチュエーションを作り出せる点は大きなポイントです。また、車だと自由が効くという点も大きいと思うんです。例えば、電車ではどうしても時刻表に縛られる部分がありますよね。それはそれで楽しいと思うのですが、僕自身は時間に縛られない旅のほうが好きなんです。自由度が高いという点も車を選んだ理由の一つです。
――本作のキーアイテムとなる車ですが、若かりし頃の裕時悠示先生の目には、車はどのようなものとして見えていたのでしょうか。
「自由の象徴」っていうとかっこよすぎるでしょうか。普通の高校生は車を持っていないので、どこかに行こうと思っても簡単には行けません。作中で主人公の廉太郎がヒロインのあやりを車で迎えに行くシーンがあるんですけど、普通の高校生は車を持っていないからできないわけじゃないですか。ほかの作品の主人公にはできないヒロインの助け方ができるという点は、廉太郎が持つ強みだと思います。車に乗れることでできることが増える、本作のふたりも「車があるからつながれた」わけですから。
――車での旅と並び、本作では高校3年生という時期を舞台にしている点も大きな特徴のひとつだと思います。敢えてこの時期を選択した理由はなんだったのでしょうか。
やっぱり「最後の夏休み」という言葉ですね。本作の主人公は大学に行かず、高校を卒業してすぐに働くことを決めています。もしかしたら彼にとって人生最後の夏休みになるかもしれないんです。「人生最後の夏休み」という言葉が持つ儚さや切なさを表現したいと思い、本作では高校3年生の夏休みに物語の時間を設定しました。
――「青春のど真ん中」を描く作品が多い中で、「最後の青春」を意識させられるのはなんだかすごく新鮮に感じてしまいます。
ありがとうございます。そもそも僕がラノベ作家になったのは『イリヤの空、UFOの夏』という電撃文庫の名作の影響を受けてなんですよね。『イリヤの空、UFOの夏』でも、逃避行といったほうが正しいんですけど「終わりが近づく中、美少女と夏に旅をする」という要素があって、前からそういった切なさを書いてみたいなと思っていました。もしかしたら、今作ではそういったエモーショナルな部分も出ているかもしれないですね。
――それでは続いて本作に登場するキャラクターの紹介をお願いします。
沢北廉太郎は「男とは」だとか「男なら」のような建前を大事にしているキャラクターです。ロマンが好きでかっこつけたがりな主人公ですね。だけど、いまいちきまらなくて、ヒロインのあやりに茶化されるみたいなやり取りをよくやっています。本人的には二枚目なつもりですけど、二枚目にはなり切れない三枚目な主人公という事で、そのギャップを楽しんでもらえたらなと思っております。
※かっこつけたがりな主人公だという沢北廉太郎
鮎川あやりは、今の時代に受け入れられる「ツンデレ」を意識して書いたキャラクターになっています。彼女もまた、建前を大事にする子ですね。意地を張っているというか、窮屈な生き方をしているイメージでしょうか。主人公といると、どうしてもペースを乱されてしまう。主人公のことは好きだけど、同時に忌々しい存在とも思っている、矛盾の間で苦しんでいるヒロインです。実は彼女のようなヒロインはあまり書いたことが無いので、旅の中でどんな言動をするのか想像がつかないところも多く、僕自身も楽しみにしているキャラクターの一人です。
※今の時代に受け入れられる「ツンデレ」を意識して書かれた鮎川あやり
崎山雫さんは廉太郎の憧れの人で、「廉太郎のこうありたいという理想」を体現したようなキャラクターになっています。ただ、そんな憧れの雫さんからも「いやキミはそういう人間じゃないよ」って言われているのが廉太郎です。素直になれない廉太郎とあやりを客観的に見ているキャラクターですね。
※沢北廉太郎の憧れの人である崎山雫
――主人公の廉太郎については、ここぞという時に少し大げさな立ち居振る舞いをしますよね。どことなく『俺修羅』の鋭太のセリフ回しに重なる部分があるようにも感じます。廉太郎は鋭太と比べてどのようなキャラクターに仕上がりましたか。
廉太郎も、そして鋭太も、二人とも照れ屋なんですよ。誰かのために動いている事を気取られたくなくて、あくまで自分のために行動していることにしておきたいんです。「お前のためじゃないんだからな」っていう、ある種のツンデレなのかもしれません。だから、誰かのために行動する時は照れ隠しで芝居っぽい口調になってしまうのかもしれないですね。廉太郎はそれに加えて、へそ曲がりな部分もあるのかなと思っています。タイトルの「可愛くない後輩」って部分はまさにそうですよね。「いや、絶対本心では可愛いって思ってるだろ」って僕は思っています。この点は『俺修羅』の主人公と比べてもかなり難物といいますか、天邪鬼なキャラクターになっています。
※廉太郎と鋭太には「ここぞという時は誰かのために動ける」という共通点も
――ありがとうございます。旅をテーマにした本作のイラストですが、成海七海先生が担当されています。あらためてイラストの感想や、お気に入りの1枚などがあれば教えてください。
廉太郎とあやりがドライブしているイラストを見た時は「あ、これだ」という感覚がありましたね。執筆中もイメージはあるんですけど、イラスト化されたことで本作の世界観の輪郭がはっきりしました。車中のふたりはこういう表情をしているんだよなっていう最後のピースがハマった感覚でしたね。車に乗っているふたりを描く構図はラノベのイラストだとほとんど前例がないと思うんですけど、それを成海先生には見事にビジュアル化していただいたなと思っています。あとは口絵になっているフェリーからイルカを見るイラストも印象的ですね。このあやりの目の輝きと言いますか、色合いや空気感はすごいなって思いました。
※物語を象徴するふたりのドライブシーンを描いたイラスト
――イルカを見るエピソードがまさにそうですが、本作では何かを見た時に湧き上がる感情のようなものを大切にされている印象を受けました。
そうですね。基本的には同じ景色を見ても、見え方や感じ方は人によって違うと思っています。特に本作は、喧嘩ばかりしているふたりの旅ですから、当然意見の違いも多いわけです。だけど、逆にガチっとふたりの見ているものが重なる瞬間も旅の中にはあると思っていて、そこは本作の見どころの一つですね。ふたりが何かを見たときの感情の変化や、心が重なる瞬間をドラマチックに描ければと思っています。
※ふたりが何を見て、何を感じるかにも注目したい
――著者として本作はどんな方が読むと、一層面白く感じてもらえると思いますか。
「知っているけど、新しいものを求めている人」でしょうか。大半の人はよく知らない料理が並んでいたとしても、気おくれして食べられないと思います。かといって食べる前から味が予想できるものをわざわざ食べようとも思わない。これは、ある意味わがままで矛盾した願いなんですけど、当然読者の欲求としてあると思うんですよ。その欲求を満たせるように「知っているけど、食べたことのない料理」を目指しましたし、本作ではそういったものを提供できているんじゃないかなと思います。
――新シリーズという事で新たに挑戦していきたいこと、あらためて作家として目指す目標などがあれば教えてください。
本作で挑戦していきたいことはラブコメとしての純度をとにかく高めるという事です。廉太郎とあやりの物語をどこまで突き詰められるかというのが、この作品での挑戦です。作家としては「めちゃめちゃおもしろくて、めちゃめちゃ売れる作品をつくる」というのを目標にしています。ただ、まだ自分にはその力が足りていないと思っていて、一つ一つの作品で設定した目標を達成していくことで、レベルアップしていければと思っています。なので、まずは目の前の作品をいいものにしていきたいです。
――これから作品を読むことになる読者の方に向けて一言お願いします。
おそらく、『俺修羅』や『29とJK』、『レネシクル』を含めても、僕の作品の中で一番ラブコメしている作品だと思います。『俺修羅』だとハーレム王を目指すという要素、『29とJK』だと社畜ものや、サラリーマンものという要素があったのですが、今回は本当にラブコメ100%に仕上がっています。僕の作品のラブコメ部分が好きだという方には、まさに特上カルビだけを提供する焼肉屋のごとき作品なので楽しみにしていただきたいです。あとは、作品とあわせてYouTubeのチャンネル登録、高評価もよろしくお願いいたします(笑)。
――本日はありがとうございました。
<了>
普段は喧嘩ばかりしている少年と少女が、車という狭い空間で同じ時間を歩む「同乗ラブコメ」を綴る裕時悠示先生にお話をうかがいました。ラブコメの純度の高さを意識して書かれたという本作。車中だからこそ描けるふたりの掛け合い、ドライブや旅の中で変わりゆく関係性にも注目したい『高3で免許を取った。可愛くない後輩と夏旅するハメになった。』は必読です。
<取材・文:ラノベニュースオンライン編集部・宮嵜/鈴木>
©裕時悠示/ SB Creative Corp. イラスト:成海七海
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