独占インタビュー「ラノベの素」 新馬場新先生『サマータイム・アイスバーグ』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2022年7月20日にガガガ文庫より『サマータイム・アイスバーグ』が発売された新馬場新先生です。第16回小学館ライトノベル大賞にて「優秀賞」を受賞し、満を持して書籍を刊行されます。真夏の三浦半島沖に突然現れた氷山と、一人の不思議な女の子。3人の高校生が小さな女の子の願いを叶えるために奔走しながら、二度とやってこない夏の記憶を刻んでいく青春SFストーリーが描かれます。作品誕生の裏側はもちろん、主人公たちが抱える悩み、そして謎の少女とのひと夏の不思議な物語について、様々にお話をお聞きしました。

 

 

サマータイム・アイスバーグ

 

 

【あらすじ】

真夏の三浦半島沖に現れた巨大な氷山――それが、運命を変える夏の始まりだった。三浦半島にある高校に通う進、羽、一輝。かつては仲の良いグループだった三人は、一年前のある事故が原因で、今はぎこちない関係が続いていた。ある夜、進は氷山が出現した海岸で、身元不明の謎の少女と出会う。「楽しい夏休みを過ごしたい」という少女の希望を叶えるため、進たち三人は奔走するが、氷山出現の秘密が明らかになるにつれ、進たちの手には負えない大きな力が少女に迫る。第16回小学館ライトノベル大賞・優秀賞に輝いた、「一度だけ」の夏を駆け抜ける、恋と青春の物語。

 

 

――まずは自己紹介からお願いします。

 

このたび第16回小学館ライトノベル大賞にて「優秀賞」を受賞させていただきました新馬場新です。出身は神奈川県横浜市で、執筆歴は4年ほどになります。もともとゲーム会社に勤務していまして、企画職やゲームプロデュースを担当していたのですが、もっと直接的なモノ作りがしたいと考え、小説を書き始めました。好きなものは執筆時に必須としている甘いものとコーヒーで、基本的にはなんでも楽しむことができる性格だと思います。最近はコロナ禍で滞り気味な観光業や旅行業の復活を楽しみにしています。大学時代にバックパッカーとしてアジアやアフリカをウロウロしていた時期もあったので、少しリアルの冒険に飢えているところがあるのかもしれません(笑)。

 

 

――もともとゲーム会社というエンタメ業界に身を置かれていたんですね。

 

はい。ゲーム業界でもやや珍しい部類になってきたアーケードゲームの業界でお仕事をしていました。現在もシナリオなどを手掛けています。アーケードゲームもキャラクター性やストーリー、チュートリアルをはじめとした各種シナリオに力を入れる時代になっています。特にIP作品は原作の雰囲気を損なわず、原作ファンの方に喜んでいただけるようなシナリオ作りが求められていますね。一昔前のアーケードゲームは100円を入れて1ゲームで終了という形が多かったわけですが、現在は継続してプレイしていただくためにストーリーが果たす役割も非常に大きくなっていると思います。

 

 

――ゲーム業界に身を置かれていたということは、ゲームはもちろんお好きだったと思うのですが、小説やライトノベルもご自身にとって身近なエンターテイメントだったのでしょうか。

 

小説やライトノベルについては、数あるエンターテイメントのひとつとして、たまに嗜む程度でした。もちろんアニメで知っている作品もありましたし、有川浩先生の『図書館戦争』や、渡航先生の『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』は大好きで、めちゃくちゃ読んでいました。それでも4年前までは自分で小説を書こうと考えたことは一度もなかったんじゃないかなと思います。

 

 

――一度も小説を書いてみようと思ってこなかった中で、執筆動機はどのようにして生まれたのですか。

 

これについては理由がありまして、僕がゲームの企画書を提出すると「RPGや小説なら面白いかもしれないけどゲームとしては成立しない」という意見をいただくことが多かったんです。そこで自分のアイデアはかなり物語的なのかなと感じていました。そんな時に、かつてラノベ作家を目指していた会社の同期から、三題噺での挑戦を持ちかけられたんです(笑)。それならばと書いてみたら意外と評判が良く、ひょっとしたら自分は小説を書くことができるんじゃないかなと思ったんです。同期とは現在も仲良くしていますが、今思うと挑戦を持ちかけられた理由が謎のままなんですけど、小説を書いてみようと考えるようになったきっかけがその同期だったことは間違いないですね(笑)。

 

 

――同期の方が果たした役割は非常に大きかったんですね(笑)。新馬場先生は、ライト文芸ジャンルで作家デビューされているわけですが、あらためてライトノベルの賞に応募した理由はなんだったのでしょうか。

 

実は文芸社文庫NEOで刊行した1作目は、過去の小学館ライトノベル大賞への応募作だったんです。結果は二次落ちだったんですが、当時の選評で「ライトノベルではない」という指摘をいただいていました。それならライト文芸側で真価を図ってみようと応募したところ、良い結果に繋がったんです。とはいえ、ガガガ文庫には『俺ガイル』の時から思い入れもあり、絶対にリベンジしたいとは思っていました。なのでデビューはしつつも挑戦は続けていたんです。

 

 

――そうだったんですね。そうして念願とも言える第16回小学館ライトノベル大賞にて「優秀賞」を受賞されました。あらためて受賞の感想をお聞かせください。

 

最終選考の連絡は年明けにいただいたんですが、当時は落選したと思っていたんです。プロを目指す界隈では、受賞の連絡がどのタイミングで来るのかっていう情報が結構出回っているんですけど、そのタイミングでは来なかったんです。なので僕は少し不貞腐れながら、目黒駅のマクドナルドでサムライマックを食べてました(笑)。そしたら急に電話がきて、めちゃくちゃ焦りながら電話を取ったのを覚えてます。なので、当初はすごく不貞腐れていましたね(笑)。

 

 

――相反する感情が交錯していたであろう姿が想像できますね(笑)。受賞後は改稿作業など行われてきたと思いますが、ライト文芸での書籍刊行の経験とあわせて、大変だった点や違いについてはいかがでしたか。

 

まず思うのは、担当編集さんがよく僕のことを諦めないでいてくれたなと(笑)。結果として100ページ近い加筆を行うことになったんですが、増やしては書き直して、増えすぎたものを削ってと、短いスパンで、それこそギリギリまで改稿を繰り返していました。もちろん大変ではあったんですけど、改稿のたびにレベルアップしている実感はあったので、苦しくもやりがいを感じていました。ライト文芸との編集、改稿の違いもすごく感じるところはありましたね。例えるなら、文芸系は柔道の技の掛け合いで、ゆったりとした中で一発どうするのかを考えるんです。でもライトノベルの場合はボクシングのジャブの撃ち合いというイメージです。初稿の残り方は原稿の出来次第で大きく左右するとは思うんですが、ライトノベルは軸を残しつつ、結構大きく変えていくんだなっていう。そういった違いに対して、アジャストしていくのはかなり大変でした。

 

 

――ありがとうございます。それでは受賞作『サマータイム・アイスバーグ』がどんな物語なのか教えてください。

 

簡潔に言いますと、真夏の海に氷山が現れるお話です。ジャンルは青春SF物語になると思います。舞台は現在から少し未来の2035年の神奈川県三浦半島。そこに暮らしている高校生3人組が、巨大な氷山の出現と同時に現れた不思議な女の子と一緒に夏を過ごしていくことになります。その少女の願いを叶えるために3人は奮闘していくことになる一方、氷山が解けていくことで、氷山に隠された秘密も明らかになっていきます。事態は高校生だけでは対処しきれない展開へと向かっていく中で、女の子の願いを叶えることができるのか、そして高校生3人組はどうなってしまうのか、そんな物語になっています。

 

サマータイム・アイスバーグ

※真夏の三浦半島沖に現れた巨大な氷山、そして一人の不思議な少女

 

 

――本作の着想についてもお聞かせください。

 

これは僕の物語の作り方のお話になってしまうんですが、まずタイトル発進なんです。雰囲気や語呂、語感のいい言葉を常に探していて、『サマータイム・アイスバーグ』もそのひとつでした。もちろんその言葉の裏側に物語性がありそうだなと感じられるかも重要です。その後に考えるのは、ポスタービジュアルです。僕の中ではエンターテイメント作品で強い作品というのは、タイトルを聞いた時にビジュアルが一発で頭に思い浮かぶ作品だと思っています。本作においては海岸線に立つ一人の少女と大きな氷山がぱっと浮かび、これはいけるんじゃないかと。そうして、この作品はどんな物語になるんだろうと作り始めたのがきっかけになります。なので、どうしても氷山の物語や青春SFを書きたかったというわけではなく、そもそもとして『サマータイム・アイスバーグ』という概念があり、掘り下げて生まれた物語が本作です。僕は夏を舞台にしたSF作品、例えば『ぼくらのウォーゲーム』、『サマーウォーズ』や『天気の子』、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』などが好きで、そうした自身の触れてきた作品の影響も少なからず受けていると思います。

 

 

――映画のタイトルもいくつか出てきましたが、本作は読み終えた時に一本の映画という印象を非常に強く感じました。

 

ありがとうございます。僕は一発のアイデアというか、企画をすごく大切にしています。小学館ライトノベル大賞に作品を応募する上でも、うまくシリーズ化できる自信もなかったので、シリーズの1巻目のような立ち位置の作品で応募することはできないと思っていました。そう考えた際、1冊の小説の面白さは1本の映画の面白さに近しいところがあると思ったので、映画の構成も強く意識した作品で挑戦しようと考えました。個人の嗜好としても少年少女たちが、社会に出現した謎に立ち向かうという夏映画的な構図が好きだったのも大きいですね。

 

 

――では続いて、本作に登場するキャラクターについても教えてください。

 

宗谷進は自分の生い立ちに負い目を感じている少年です。周囲の幸せな家庭で育ってきた子たちを、少し疎ましく感じています。常に眉間にしわを寄せているイメージで、少々とがった性格でもありますね。根は優しい子ではあるんですけど、その優しさを周囲に向ける余裕がありません。イメージはクラスにいても仲良くなれなさそうな男の子をイメージして書きました(笑)。

 

宗谷進

※一年前の夏から前に進めていない宗谷進

 

富士天音はとにかく夏っぽい子を描きたいということで、天真爛漫な太陽のようなキャラクターをイメージしました。すごく良い子ではあるんですけど、進や羽からしたら天真爛漫すぎて、眩しすぎる女の子です。ただ作中では入院しているため、登場シーンはほぼないのですが、彼女の存在感は非常に大きく感じてもらえるんじゃないかなと思います。

 

富士天音

※事故に遭い昏睡状態にある富士天音

 

安庭羽は一言で言うと難しい女の子ですね(笑)。外見も良く男子からもモテるし、女子からも一目置かれています。でも外見ばかりを見られているようで、本人はあまり快く思っていません。彼女も家庭に問題を抱えており、お前ら程お気楽じゃないという尖り方をしていて、本当の友達ができないんです。それを自分のせいだとわかっていても、認めたくなくて他人のせいにしたりと、ズルいことをしてしまう、そしてそんな自分が嫌いな難しい女の子ですね。

 

安庭羽

※心の中に様々な想いを抱えている安庭羽

 

天塩一輝は秀才型で、性格も良く人気もある優等生です。ただ、他人にはさらせない問題を抱えており、その問題も誰がどうこうするものではなく、彼がひとりで戦い続けていくものです。それゆえに芯の強さや譲れない強さを持ち合わせる、優しくて妥協しない男の子です。

 

天塩一輝

※とある問題を抱えながらも優しい強さを持つ天塩一輝

 

日暈のイメージは夏の妖精です。容姿は天音の幼い頃にそっくりで、とにかく無邪気、周りを引っ張る力がある女の子です。小さな身体に大きな力を宿していて、天音に似た天真爛漫さを持っています。幼さゆえにままならないことやうまくいかないことに対して感情的になることもありますが、周囲の顔色をうかがうこともできたりと、子供らしいズルさも併せ持つ、素直な女の子です。

 

日暈

※謎の氷山と共に現れた不思議な女の子・日暈

 

 

――本作ではそれぞれのキャラクターが家庭に問題を抱えているなど、「家族」というキーワードも非常に大きなものだと感じました。

 

そうですね。当初はそこまで意識して書いたつもりはなかったんですが、あらためて読み返すと家族の描写も多いなって思います。思春期に対しては個人的な戦いとして描かれることも多いと思うんですが、子供が生きていくには家族という存在は必要だって思うんです。家族という存在は温かく包んでくれることもあれば、摩擦にもなり得る重要なファクターです。進や羽や一輝を描く上で、どうしても削れなかったのが、この「家族」の部分でした。そこを書かないで彼ら3人を描くのは嘘になってしまうと感じ、しっかりと描き切りました。

 

 

――また、物語の終盤にはとあるキャラクターが「この夏の主役は誰か」という話をするシーンがあります。あらためて本作を読む上で注目してほしいキャラクターを選ぶとすると誰でしょうか。

 

進と、事故に遭ってしまった天音。本作は彼らを巡る物語ではあるんですけど、注目してほしいのは安庭羽という、弱くてズルい女の子でしょうか。彼女が、自分の弱さやズルさとどう向き合っていくのか、ぜひ注目してほしいですね。

 

サマータイム・アイスバーグ

※安庭羽はもちろん、このひと夏の物語には登場人物たちすべての想いが強く込められている

 

 

――ありがとうございます。続いて、書籍化に際して本作のイラストをあすぱら先生が担当されました。イラストの感想やお気に入りの1枚があれば教えてください。

 

あすぱら先生のことは存じていたので、担当していただけたのはすごく嬉しかったです。キャラデザをいただいた時の衝撃も覚えていて、進も羽も一輝もここにいたんかって思うくらいしっくりきました(笑)。特に気に入っているイラストは羽と日暈が話をしているシーンを切り取った口絵ですね。羽の表情を描き切らず、日暈と向き合っていて、その奥には進がいる。この構図も好きで、作品全体を表している一枚だなって感じています。

 

サマータイム・アイスバーグ

※新馬場先生が本作を象徴する一枚だという口絵イラスト

 

 

――あらためて著者として本作の見どころ、注目してほしい点を教えてください。

 

夏を舞台にしたSF映画が好きな方には気に入ってもらえるんじゃないかなって思います。『サマーウォーズ』や『天気の子』のような、ひとつまみの不思議が社会を変えてしまい、それに飲み込まれる少年少女という構図が好きな人たちにはぜひ読んでいただきたいですし、そこに注目してほしいです。また、本作の舞台は神奈川県の三浦半島です。神奈川の海というと湘南や鎌倉のイメージが強いと思うのですが、僕はすごく三浦半島が好きなので、本作を通して三浦半島の良さもみなさんに知っていただけたらなと思います。

 

 

 

――今後の野望や目標があれば教えてください。

 

身近なところで言うと、シリーズものの作品を書いたことがないので、シリーズものの作品を書いてみたいです。今も企画書をめちゃくちゃ作っているので、近いうちに担当編集さんにぶつけようかなって思ってます。遠い展望を言うなら、これ以上面白いものは書けないという作品を書き切ってからぽっくり逝きたいですね(笑)。そんな冗談も織り交ぜつつ、映像化も夢ではあります。特に本作は企画段階からビジュアルに強い作品を作りたいと思っていましたし、実際に映像化されれば非常に映える作品だとも思っています。映像化のオファーもお待ちしております!

 

 

――最後に本作へ興味を持った方、これから本作を読んでみようと思っている方へ一言お願いします。

 

ここ数年は、今まで通り旅行へ行ったりキャンプをしたりといった当たり前の楽しい夏というのはなかったように思います。『サマータイム・アイスバーグ』に登場するキャラクターたちも、氷山のせいで楽しい夏を過ごすことができなくなってしまいます。読んでくださる方にもどこか重なる部分があるんじゃないかと思っていて、これから楽しい夏が訪れるかどうかはわかりませんが、みなさんの夏の助けになるような作品になっていると思います。ぜひ今年の夏のお供にしていただけたら嬉しいです!

 

 

■ラノベニュースオンラインインタビュー特別企画「受賞作家から受賞作家へ」

インタビューの特別企画、受賞作家から受賞作家へとレーベルを跨いで聞いてみたい事を繋いでいく企画です。インタビュー時に質問をお預かりし、いつかの日に同じく新人賞を受賞された方が回答します。そしてまた新たな質問をお預かりし、その次へと繋げていきます。今回の質問と回答者は以下のお二人より。

 

第14回GA文庫大賞「金賞」受賞作家・伊尾微先生

 ⇒ 第16回小学館ライトノベル大賞「優秀賞」受賞作家・新馬場新先生

 

【質問】

物語にはたくさんのキャラクターが登場すると思うのですが、自分は登場するキャラクターの動きをかなり計算して動かしている節があります。ストーリーに沿うことはもちろん、キャラクターの思考を先回りして、逆算しながら動かすことが多いのですが、キャラクターを動かす基準としてどんなことを考えられているのか気になります。世の中にはキャラクターが勝手に動き出すという言葉もありますが、具体的にどんなことを考えられているのか教えてください。

 

【回答】

僕はキャラクターを基本、書きながら知っていくということが多いです。キャラクターを作る際、自分の中でそのキャラクターに対する偏見を持つようにしています。その偏見から、キャラクター自身の思考を深堀りしていき、客観的な立ち位置からそのキャラクターを分析し、知っていくことを心がけています。どちらかと言うとライブ感に近いものもあり、逆算というより肉付け、掘り下げながら書いている感じでしょうか。なので、後になってから最初の部分の台詞や心理描写を書き直すことも結構あります。主役に近いキャラクターであればあるほど手探りになることが多いですね。本作に登場しているキャラクターも、書き終えてなお、本心を掴み切ることはできませんでしたので(笑)。

 

 

――本日はありがとうございました。

 

 

<了>

 

 

真夏の海に突然現れた氷山、そして不思議な少女を中心に描かれる少年少女の青春を綴った新馬場新先生にお話をうかがいました。それぞれが問題を抱えながらも、少女の願いのために奔走する高校生たちの成長からも目が離せない『サマータイム・アイスバーグ』は必読です!

 

<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>

 

©新馬場新あすぱら/小学館「ガガガ文庫」刊

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ガガガ文庫公式サイト

 

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サマータイム・アイスバーグ (ガガガ文庫 ガし 6-1)

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