独占インタビュー「ラノベの素」 十利ハレ先生『スペル&ライフズ 恋人が切り札の少年はシスコン姉妹を救うそうです』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2023年1月25日にオーバーラップ文庫より『スペル&ライフズ 恋人が切り札の少年はシスコン姉妹を救うそうです』が発売された十利ハレ先生です。第9回オーバーラップ文庫大賞にて「金賞」を受賞し、満を持してデビューされます。異能を宿すカード「スペル&ライフズ」の実験場となっている人工島・色藤島を舞台に描かれる異能アクションファンタジー。異能バトルファン垂涎の物語誕生の裏側や登場するキャラクターについてなど、様々にお話をお聞きしました。
【あらすじ】 『スペル&ライフズ』――魔法(スペル)と召喚獣(ライフ)をこの世に顕現させる異能のカード。17才の少年・桐谷駿(きりや しゅん)はそれらを操る力に覚醒したプレイヤーだ。全てのプレイヤーが集う人工島・色藤島(しきとうじま)にて、駿はある日、不正渡航者の少女・萌葱咲奈(もえぎ さな)と出会う。非プレイヤーの咲奈は、この島で行方不明となった姉を追ってきたらしく――? とある事情から咲奈に協力することとなった駿は、駿の恋人を自称する少女・ミラティアとカードを駆使して調査を開始。その人探しはしかし、異能の力に魅入られし存在の意志と思惑に繋がっていた。導かれるように、駿はカードを巡る戦いへと巻き込まれていき――。異能と頭脳、そして恋人。切り札は――その全てだ。 |
――それでは自己紹介からお願いします。
十利ハレです。中学生の頃から小説をちょくちょく書いていまして、具体的に作家デビューを目指して書き始めたのがここ3、4年くらいになります。好きなものは小説を書くこと以外だと漫画や美少女ゲームが好きで、インスピレーションはこのあたりから結構得ているんじゃないでしょうか。苦手なものは乗り物全般です。すぐに酔ってしまって、今日も40分程電車に揺られてきたんですけど、気分が悪くなってしまって……。とにかく三半規管が弱く、車もずっと寝て過ごす感じです。それこそ絶叫系なんてもってのほかですね(笑)。
――お好きなことに小説を書くことそのものを挙げていただきましたが、執筆のきっかけはなんだったのでしょうか。
小説を執筆するようになったきっかけは『デート・ア・ライブ』でした。当時、アニメを動画配信サイトで視聴し、少し調べてみると原作があることを知ったんです。そして小説版を手に取り、そこからめちゃくちゃハマりました。自分で書いてみようと考えるようになったのも、理想のヒロインを書きたくなったという理由が大きいです。ライトノベルや漫画などを読んでいて好きになるヒロインはたくさんいますが、自分の理想とは少しだけズレている、みたいなパターンも少なくありません。それであれば、もう自分で書くしかないなと。昔も現在も最強の理想のヒロインを作りたいと思いながら、執筆活動を続けています。
――ちなみにこれまで触れてきた作品の中で、ご自身の掲げる理想のヒロインに最も近かったキャラクターは誰でしたか。
めちゃくちゃ難しい質問ですね(笑)。主人公との関係性込みですが、『ギルティクラウン』の桜満集と楪いのりが好きです。あとは『きまぐれテンプテーション』っていう美少女ゲームのアンネリーゼというメインヒロインが近いかなと思います。
――ライトノベルは『デート・ア・ライブ』以外で印象に残っている作品はありますか。
『ブラック・ブレッド』がめちゃくちゃ好きで、好きなライトノベルを聞かれた時は『デート・ア・ライブ』と『ブラック・ブレッド』を挙げることが多いです。ほかにも『灰と幻想のグリムガル』や『神様のメモ帳』、『Re:ゼロから始める異世界生活』や『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』、『終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?』なども好きですね。中高生の頃はアニメから作品を知ることが多くて、ある程度巻数のある作品を読んでいました。なので、新作や受賞作といった新規開拓層とはまた少し違う、ある意味でライトユーザーだったのかなと思います。最近は小説を読むという行為そのものが、どうしても勉強の意味合いが強くなってしまっていて、あまり読めていません。昔ほど純粋に楽しめないというわけではないんですけど、身構えながら読んでしまうので、もう少し楽しんで読めるようになりたいです(笑)。
――それでは第9回オーバーラップ文庫大賞「金賞」受賞の率直な感想をお聞かせください。
受賞の連絡はアルバイトの最中でした。不在着信として履歴が残っていて、バイト終了時に気付いた感じです。電話に出られなかったからだと思いますが、一緒にメールもいただいていて、受賞についてはメールで知ることになりました。受賞すると電話が来るという話はよく耳にしていましたので、どうせなら電話で受賞を知りたかったなと今でも思ってます(笑)。自分自身、てっきり落ちていたものだと思っていたので純粋に驚きましたね。特に今作『スペル&ライフズ』は、これまでの応募作と比べてもかなり好き勝手に書いた作品になっていまして、新人賞には通らなさそうだけど、自分がとにかく書きたいから書こうと思った作品だったんです。10万文字に到達したから送ってみよう、くらいの気持ちでしたし、正直自分自身でも受賞を期待していた作品ではなかったので、二重の意味で驚きがありました。
――作家デビューを目指して作品を書き始めたのが3~4年前ということでしたが、あらためて作家を目指そうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。
これはすごく単純で、プロになることができればお金がもらえるし、これで食べていけるんじゃないかと思ったからですね(笑)。執筆自体は中学生の頃からでしたが、好きな時に好きなものを、自分が楽しむための物語を書くだけでした。それこそ、本1冊がだいたい何文字かすら理解していませんでしたし、思いついたものをひたすらに書き続けていただけだったんです。とにかく暇があれば執筆活動をしていたので、この趣味が仕事になればと思い、10万文字に到達したら「もったいないのでどこかの賞に応募しよう」みたいな感じでしたね。現在も原稿とは別に、趣味として作品をいくつか書いていたりもしますので。
――なるほど。近年ではWEB小説も話題を呼んでいますが、そちらで書こうとは思わなかったのですか。
WEBで連載するために書こうと思ったことはなかったです。それこそ公募に応募して落選した作品を載せてみようくらいの気持ちで取り組んだことはありましたが、本当にそのくらいですね。今もそうなんですけど、自分自身WEBで小説を読んだことがほとんどありません。WEB発の作品であっても、単行本を買って読むことが当たり前だったので、WEBかそうでないかという意識さえほとんどなかったですね。
――それでは第9回オーバーラップ文庫大賞「金賞」受賞作『スペル&ライフズ』についてどんな物語か教えてください。
本作は色藤島という人工島が舞台にした、異能が顕現するカードをキーアイテムとするローファンタジーになります。主人公はとある理由で離ればなれになってしまった妹を探しているのですが、第1巻では連絡の取れなくなった姉を探すために密航してきた非プレイヤーの少女と共に、彼女の姉を探す物語になっています。
※色藤島では異能の力を有する「スペル&ライフズ」というカードが存在する
――応募にあたっては書きたいものを書いたというお話でしたが、着想はなんだったのでしょうか。
着想としては、メインヒロインであるミラティアを書きたいという思いからでした。ヒロインを可愛く見せるために、主人公とどんな関係を築いたらいいか、どんな世界観だと映えるかなどを考えながら、カードのローファンタジーの設定を別で考えていた物語から引っ張ってくるなど、物語を広げていきました。ミラティア以外のキャラクターも、それぞれどんなストーリーや背景があれば面白いか、書きたいシーンはどんなシーンかを考えながら作り上げていった感じです。
※ミラティアというキャラクターを描きたくて動き出したという本作
――なるほど。作品を考える際に物語が先か、キャラクターが先かという話題もちらほら耳にしますが、十利先生はどちらかというとキャラクターを先行して考えられているのでしょうか。
それは難しいところで、物語もキャラクターもそこまで切り離して考えているわけではないんですよね。自分は設定やストーリー、背景を含めてキャラクターだと考えています。こんなシーンがあったらキャラクターが格好良く、そして可愛く見えるかなとか、そのシーンを描くためにはこんな設定があったらいいなと考えながら作品の全体像を固めていくことが多いです。
――ありがとうございます。また、ローファンタジーがお好きだというお話もありましたが、本作を拝読させていただいてまず想起したのは、『とある魔術の禁書目録』や『ストライク・ザ・ブラッド』のような魅力でした。
ありがとうございます。自分が一番ラノベを読んでいた時は、『東京レイヴンズ』とか『ストライク・ザ・ブラッド』、『ハイスクールD×D』など、ローファンタジーの作品がアニメでも多く放送されていました。今思えば影響を受けているのかなと思いますし、おっしゃる通り『とある魔術の禁書目録』の影響はあるかなと思います。また、本作で言えば『デート・ア・ライブ』の影響も大きそうだなとは感じますね(笑)。
――それでは続いて本作に登場するキャラクターについて教えてください。
桐谷駿は17歳の少年です。セレクタークラスという、プレイヤーに異能を植え付けるための施設出身で、施設で離ればなれになってしまった妹を探して奔走しています。無愛想で刺々しい発言も目立ちますが、なんだかんだ面倒見のいい性格をしていますね。ちなみに彼はシスコンです。
※セレクタークラスという施設出身の駿
ミラティアは駿至上主義の少女です。本当に駿のこと以外に興味がなく、駿の恋人として存在することに固執しているキャラクターでもあります。作中では駿以外の名前を呼んでいないのですが、これは本当に覚えていません。それくらい周囲に興味がないということでもあります。書き手の視点からだと、このキャラクターを書きたかったにも関わらず、かなり動かしづらいキャラクターなので、結構苦労しています(笑)。
※駿と甘いもの以外に興味がないミラティア
萌葱咲奈は連絡がつかなくなってしまった姉を探すため、色藤島まで来た非プレイヤーの少女です。1巻では主人公のような立ち位置でもあって、自分自身咲奈を主人公だと思って1巻を執筆しました。駿とミラティアと出会うことによって、物語が動き出していくことになります。また、彼女は本作の中で一番計算高く作ったキャラクターでもあります。主人公もミラティアも動かしやすいキャラクターではないため、物語の潤滑油のような存在になってほしいなと。駿とミラティアのサバサバした会話の中にツッコミヒロインがいることで、会話劇としてもうまく回るようになったかなと思います。
※ノリのいいツッコミ系ヒロインでもある咲奈
朝凪夜帳は、駿と同じセレクタークラス出身の情報屋です。1巻では出番がそれほど多いわけではありませんが、この物語の鍵を握っているキャラクターの一人であり、自分としても思い入れの強いキャラクターです。物語を構築する上でも、夜帳の存在によって設定や世界観が大きく広がりました。夜帳は夜帳で目的を持っているので、彼女の動向にはぜひ注目していただきたいです。
※駿も苦手としている情報屋の夜帳
――物語の舞台となる色藤島についても、あらためてどんな場所なのか教えていただけますでしょうか。
色藤島は異能が顕現するカード「スペル&ライフズ」の実験場になっています。島民はプレイヤーと呼ばれ、非プレイヤーが島へと自由に出入りすることはできず、プレイヤーもまた手続きを経ない限り、島から自由に出ることができません。1巻でも描かれていますが、街頭や電車などにはカードの力が用いられており、ちょくちょくカードの要素が見られます。ただ、基本的には本土と大きく変わることはなく、たまに変なものがあるなと思ったら、それはカード関連であるということくらいですかね(笑)。また、1年に1回本土の非プレイヤーが色藤島を訪れる、お祭りのようなイベントもあったりします。
――――ありがとうございます。続いて、書籍化に際してイラストをたらこMAX先生が担当されました。イラストの感想やお気に入りの1枚があれば教えてください。
ありきたりな表現ですけど、めちゃくちゃ嬉しいです。キャラデザを送っていただいた際は、とにかく衝撃がすごかったです。文章だけだったキャラクターが絵になって、とにかくすごいなと。ミラティアについては複数パターンの衣装デザインをいただいたりもしました。ミラティアやへレミアのデザインは、ファンタジー過ぎないにもかかわらず、他のキャラクターとしっかり差別化できる奇抜さもあり、特に気に入っています。お気に入りのイラストは表紙のミラティアが強く印象に残っています。
※ミラティアと舞うカードが描かれたジャケットイラストは本作を象徴する1枚となっている
――あらためて、著者として本作の見どころや注目してほしい点はどんなところでしょうか。
本作を執筆するにあたり、力を入れたのはキャラクターです。なので、キャラクター好きな人には読んでいただきたいと思いますし、やや特殊な世界観で描いたローファンタジーでもあるので、一風変わったローファンタジーを読みたいという方にも注目してもらいたいです。個人的にローファンタジー作品を今出して売れるのだろうかという悩みや想いもありました。ただ、キャラクターをはじめ、運命シリーズの22枚のカードを巡る争奪戦など、見どころは非常に多いです。勢力同士のカードの奪い合いや共闘にも注目してもらいたいですね。
――今後の野望や目標があれば教えてください。
とにかく自分は野望にまみれてます(笑)。自分はいろんな作品をたくさん書くよりも、ひとつの作品を掘り下げながら書き続けたい人間です。それこそ『とある魔術の禁書目録』のように、作品の世界そのものを広げていきたい。本作は設定的にも長い巻をやれるだけの要素があるので、しっかり売れて20巻は超えていけたらいいなと思いますね。また、作家としては執筆のきっかけでもある最強のヒロイン作りを続けていきたいです。それこそ目標は、作品以上にヒロインが認知されるような物語です。また、自身がラノベを書き始めたきっかけでもある『デート・ア・ライブ』の橘公司先生とは1回お話してみたいです。自分の原点であり、すごく思い入れの強い作品と作者なので、いつかお会いできたらなと。売れたらぜひラノベニュースオンラインでセッティングしてください(笑)。
――最後に本作へ興味を持った方、これから本作を読んでみようと思っている方へ一言お願いします。
なんて言えばいいのか一番迷いますが、買ってくださいよろしくお願いします、としか言えないんですよね(笑)。異能バトルが好きな人、可愛いキャラクターが好きな人、ファンタジー作品が好きな人など、テンポの良い作品だと思いますので、気軽に少しでも興味があったら手に取ってもらいたいです。また、自分には中学生の弟がいるのですが、話を聞くと周囲はラブコメしか読まない人が多いらしく……。ローファンタジーを読んでこなかった人の入り口になりやすいようにも作っておりますので、ぜひ触れてこられなかった方にも読んでいただけたらと思います!
■ラノベニュースオンラインインタビュー特別企画「受賞作家から受賞作家へ」
インタビューの特別企画、受賞作家から受賞作家へとレーベルを跨いで聞いてみたい事を繋いでいく企画です。インタビュー時に質問をお預かりし、いつかの日に同じく新人賞を受賞された方が回答します。そしてまた新たな質問をお預かりし、その次へと繋げていきます。今回の質問と回答者は以下のお二人より。 |
第14回GA文庫大賞「金賞」受賞作家・持崎湯葉先生
⇒ 第9回オーバーラップ文庫大賞「金賞」受賞作家・十利ハレ先生
【質問】
キャラクターの名前はどのように考えていますか。僕は名前自体に物語性を背負わせるキャラクターもいれば、その場でパッと思い浮かんだ名前をつけるキャラクターもいます。キャラクターの名前を考える際に統一性がありません。強いて言うなら、姓名判断は絶対にやるようにしています(笑)。あとはフルネームの響き、キャラクターの性格との相性はなんとなく気にしている程度です。どのように考えているのかぜひ教えていただきたいです。
【回答】
早速この質問を聞いて主人公の姓名判断をしたら大凶でした(笑)。駿らしいと言えば駿らしいのですが。キャラクターの名前については、私もそこまで深く考えたり特殊なことはしていないつもりです。できるだけ被りを減らすために、カナ名のキャラクターは検索にかけて調べたりはしています。あとは今作の主人公の名前を「駿」に決めた大きな理由として、ヒロインであるミラティアが呼んだ時に可愛く聞こえるかどうかは考えました。「シュン」って呼ぶ姿は可愛いと思ったんですよね。なので、ヒロインが呼んでいる姿を想像したりはするかもしれません。できる限り被りをなくし、語感には気を付ける。名前を考える時は主人公よりもヒロインの方が気を遣うかもしれませんね(笑)。
――本日はありがとうございました。
<了>
異能を宿すカード「スペル&ライフズ」を巡る異能アクションファンタジーを綴った十利ハレ先生にお話をうかがいました。閉ざされた人工島での出会い、そしてプレイヤー自身にスキルを植え付けるという謎の実験、暗躍する組織。宿す力と色藤島の闇とも対峙していくことになる『スペル&ライフズ 恋人が切り札の少年はシスコン姉妹を救うそうです』は必読です!
<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>
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