独占インタビュー「ラノベの素」 北条連理先生『これが「恋」だと言うのなら、誰か「好き」の定義を教えてくれ。』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2024年1月25日にオーバーラップ文庫より『これが「恋」だと言うのなら、誰か「好き」の定義を教えてくれ。』が発売された北条連理先生です。第10回オーバーラップ文庫大賞にて「金賞」を受賞し、満を持してデビューされます。過去の恋愛によるトラウマから他人と距離を置くようになった主人公と、あざと可愛い人気者ながら奥底に孤独感を抱えるヒロインが織り成す、「恋」と「好き」を巡る青春ストーリーを描く本作。欠けたものを埋め合う二人の関係性の魅力や本作を書く上での言葉に対するこだわりなど様々にお話をお聞きしました。

 

 

これが「恋」だと言うのなら、誰か「好き」の定義を教えてくれ。

 

 

【あらすじ】

拗らせぼっちの大学生・寺田悠には忘れられない過去がある。孤独を抱えた冬の夜の帰り道、公園で寒さに震えるあざと可愛い人気者の後輩・藤宮光莉から助けを求められ、家に泊めることに。その日から頻繁に家へやって来る光莉と重ねていく、温かな日常。その不思議な関係は、穏やかに続いていく――はずだった。「好きです、悠さん」二人の視線が絡み、距離がゼロへと近付く。頭のなかで誰かが言う。《普通》ならここでキスをするのだと。それができない恋は《偽物》だと。それでも――「ごめん、藤宮。俺はきっと《普通》の恋ができないんだ」オーバーラップ文庫大賞史上、最も不器用でもどかしい恋物語、ここに開幕。

 

 

――まずは自己紹介からお願いします。

 

はじめまして。北条連理と申します。出身は東京で、執筆歴は今年で5年になります。好きなことは物語を読むことで、とりわけライトノベルはかなりの数を読んできました。ジャンルとしては、青春もの、スポ根、異能バトルが多いです。あとは言語化不能な「巨大感情」に振り回されるカップリングが登場する作品は大好物ですね(笑)。ライトノベルを探す際も、自分のカップリングセンサーに引っかかったものを片っ端から読んでいます。ライトノベル以外だと、ここ数年は『アイドルマスター シャイニーカラーズ』というゲームにずっとハマっています。

 

 

――ライトノベルをたくさん読まれているとのことですが、印象に残っている作品はありますか。

 

現行の作品だと暁佳奈先生の『春夏秋冬代行者』、宇野朴人先生の『七つの魔剣が支配する』、安里アサト先生の『86―エイティシックス―』は発売からずっと追いかけています。どれも感情が揺さぶられる作品で、私の好みにぶっ刺さりでした。

 

 

――ありがとうございます。比較的最近のタイトルを挙げていただきましたが、最初にライトノベルを読み始めたのはいつ頃だったのでしょうか。

 

中学一年生の頃、二つ上の兄に勧められて『とある魔術の禁書目録』を読んだのがすべての始まりでした。それから、中学、高校、大学とずっとライトノベルを読んでいたので、『とある魔術の禁書目録』との出会いは大きなターニングポイントだったと思います。ちなみに『とある魔術の禁書目録』は、私がカプ廚になったきっかけの作品でもあります。上条当麻×御坂美琴は最初にハマったカップリングでした。

 

 

――中学生の頃からずっとライトノベルを読まれてきたんですね。そんな北条先生が小説を書き始めたきっかけは何だったのでしょうか。

 

ライトノベルを読んでいるうちに「私もこんな物語を書きたい」という思いが募ってくるようになって、自然と書き始めていました。最初に小説らしきものを書いたのは中学三年生の時だったと思います。まだデータが残っているのですが、今読み返すと1ページ目から目を背けたくなるような代物ですね(笑)。高校の頃は忙しくて書けていなかったんですが、大学生になって時間に余裕が出来てきたタイミングで執筆活動を再開しました。

 

 

――受賞時のコメントでは、「これは自分の為に書かれた物語だと感じる作品に出会ったことが、小説を書き始める原動力にもなった」とも語られていましたが、具体的な作品名をお聞きしてもよろしいでしょうか。

 

語りだすとキリが無いのですが、渡航先生の『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』との出会いは本当に大きかったです。中学、高校、大学と『俺ガイル』と共に青春を駆け抜けてきたので、もはや私にとって人生そのものでした。特に「本物」の概念が出てきてからの物語は、心に突き刺さったとか、脳を焼かれたとか、そのぐらい衝撃的でした。比企谷八幡が求め続けていた「本物」という関係性が、あまりにも私の求めるものと近かったんです。比企谷は「俺と関わると人生が歪む」と言っていましたけど、私もかなり人生を歪まされましたね(笑)。

 

 

――ありがとうございます。あらためて、第10回オーバーラップ文庫大賞「金賞」受賞おめでとうございます。受賞の連絡を受けた際の感想をお聞かせください。

 

受賞連絡を電話でいただいて、自分から編集さんにかけ直したことは覚えています。ただ、記憶が曖昧で、その時に何を話したのかはほとんど覚えてないんですよね(笑)。受賞の連絡をもらった当時は、何を書いても上手くいかず、心が折れかけていたので、やっと報われたという気持ちが大きかったと思います。

 

 

―先ほど、中学の頃に小説を書き始めて、大学で本格的に執筆活動をするようになったとおっしゃられていましたが、具体的に小説家を目指し始めたのはいつ頃だったのでしょうか。

 

中学の頃は小説家になるというビジョンはあまりなくて、書きたいものをひたすら書いていましたね。具体的に小説家になるという考えが頭に浮かぶようになったのは、大学二年生になってからでした。その頃になると就職とか将来のことを意識し出すと思います。そんな中、「小説でご飯を食べていけたら最高じゃん!」という打算もあり、小説大賞への応募を始めました。ちょうどコロナ禍と重なっていて時間も有り余っていたので、当時は小説を書いてばかりでした。

 

 

――ちなみに、オーバーラップ文庫大賞に応募を決めた理由は何だったのでしょうか。

 

オーバーラップ文庫大賞に応募する決め手になったのは、「金賞」以上の受賞で第3巻までの刊行が確約されるという点です。本作については最低3巻あれば、物語の着地点に最速でたどり着ける想定だったので、3巻まで出させていただけるなら、確実に結末までお届けできると思って応募しました。

 

 

――ありがとうございます。それでは受賞作『これが「恋」だと言うのなら、誰か「好き」の定義を教えてくれ。』がどんな物語なのか教えてください。

 

本作は過去の恋にトラウマを抱えた主人公・寺田悠と、育ってきた環境のせいで拗らせたヒロイン・藤宮光莉が出会って「恋」をする物語です。タイトルの「恋」や「好き」というワードに鍵括弧がついているのがポイントで、“「恋」とは何か”、“「好き」とはどんな感情なのか”という問いが本作の大きなテーマとなっています。ジャンルとしては大学を舞台にした青春ラブコメディで、悠と光莉を中心とした大学生らしい人間模様や面白おかしい学生生活を描きながら、二人が自分たちの関係性に付ける名前を探していくことになります。

 

これが「恋」だと言うのなら、誰か「好き」の定義を教えてくれ。

※悠と光莉の間に芽生えた感情、その正体は――

 

 

――本作の着想についてもお聞かせください。

 

まず一つ目は『俺ガイル』の完結です。比企谷が「本物」にたどり着いた時、感動したと同時に置いて行かれたような感覚を覚えたんですよね。比企谷が「本物」に対する答えに辿り着いたのならば、私も自分なりの「本物」を見つけ出さなければいけないと思ったんです。もう一つのきっかけはコロナ禍です。私はコロナ禍のせいで二年ほど大学に行けていませんでした。どちらかというと一人でいるのが苦ではないタイプなのですが、人と関わらないようになると、一人で考え込む時間が増えるんですよね。本作にはその時に考えていたことがかなり反映されていると思います。

 

 

――“「恋」や「好き」とは何なのか?”という難問がテーマであることも関係してか、作中では悠や光莉の感情を安易に言語化しないように配慮があった印象でした。そのあたりは意識されていたのでしょうか。

 

凄く意識はしていました。私は言葉には型が決まっていて、すべての感情をそこに押し込めることはできないと思っています。言葉にならないものを無理やり言葉という型に押し込んでしまうと、型から溢れ出したものは排除されてしまうんです。本作では簡単な単語で表せない想いも描きたかったので、意識して無理に言語化しないようにしています。

 

 

――続いて、「恋」や「好き」という感情の正体を探していく本作のキャラクターについても教えてください。

 

本作の主人公・寺田悠は過去のトラウマから人と関わることを避けるようになったキャラクターです。一人でいることを選びながらも、孤独を恐れている矛盾した人間になっています。

 

寺田悠

※過去のトラウマにとらわれているぼっち大学生・寺田悠

 

ヒロインである藤宮光莉も過去に暗いものを抱えています。彼女は悠とは反対に、その経験から積極的に他者と関わることを選びます。一人でいることを恐れているからこそ多くの人に愛されようと振る舞っているんですが、心の奥底には孤独感が残っているという難儀な人間ですね。

 

藤宮光莉

※悠とは対照的に人から好かれようと奮闘するヒロイン・藤宮光莉

 

一人でいることを選んだ悠と人と関わることを選んだ光莉、一見正反対な二人の共通点が見えたところから物語が始まります。表面上は真逆の生き方をしながらも、欠けたものを持つ人間同士きれいに噛み合う場所がある、という点は二人を描く上で意識しました。本作では第1章が悠視点、第2章が光莉視点となっているので、それぞれの視点からのお互いの見え方の違いも含め楽しんでほしいです。

 

これが「恋」だと言うのなら、誰か「好き」の定義を教えてくれ。

※悠と光莉には表面上は見えない共通点があるようで――?

 

 

――なるほど。また、「欠けたものを埋め合う関係性」が好きだという事はあとがきでも語られていましたよね。その魅力について具体的に教えていただけないでしょうか。

 

欠けたものを埋め合う関係性は、言い換えるとその二人でしか綺麗に噛み合わない形をしているという事なんです。唯一無二の関係性って素敵じゃないですか。作中では「鍵」をそんな関係性の比喩として使っています。鍵は歪な形をしていて、綺麗に噛み合うものは一対しかありません。ロマンチックでいいなぁって思います(笑)。私がハマるカップリングって「生きるのが下手くそな人間が、かけがえのない一人と出会う事で、ちゃんとした人間になる」っていう関係性なんです。もう、ただの性癖ですね(笑)。

 

これが「恋」だと言うのなら、誰か「好き」の定義を教えてくれ。

※「欠けたものを埋め合う関係性」の魅力は、かけがえのなさにあるという

 

 

――どういった形であれ、かけがえのない人との出会いや関係は、すごく心にくるものがありますよね。それともう一人、光莉が所属するサークルの代表である和田孝輔についても教えてください。

 

和田は第1巻のキーキャラクターになるのですが、本作の中では一番大人な人間です。表面上は上手く立ち回るすべを身に着けていて、みんなに優しく振る舞っています。その一方で彼も心の奥底に秘めたものがあったりします。陰のあるイケメンって、いいですよね(笑)。彼には幸せになってほしい……。

 

和田孝輔

※北条先生が第1巻のキーキャラクターであると語る和田孝輔

 

 

――またキャラクターについてですと、主人公の悠がアセクシャルであるという点は本作の肝にもなっているかと思います。センシティブな題材かと思いますが、描く際にどのようなことを意識されていたのでしょうか。

 

アセクシャルの描き方については絶対に間違ってはいけないと思っていて、特に注意しました。最初に本作の原型を書いた際は、ただ自分の考えていたことを書き連ねていただけでした。それから時間が経って、ある程度自分の小説を俯瞰できるようになると、この題材をどう取り扱うべきかという点で色々と悩みました。というのも、アセクシャルの認知度って「LGBTQ+」の「+」にあたる部分だということもあって、あまり高くないと思うんです。本作で初めてこの概念に触れる方も多いと思います。だからこそ、読者に誤解されるような描き方をするわけにはいかないんです。あとがきで「誰一人として同じ性のあり方の人間はいない」と書いていますが、読者の方にはアセクシャルの方がすべて悠と同じわけではないという事は念頭に置いて読んでほしいです。

 

 

――ありがとうございます。そして、書籍化に際してはイラストをサコ先生が担当されました。あらためてキャラクターデザインを見た時の感想や、お気に入りのイラストについて教えてください。

 

キャラクターデザインをいただいたのは、ちょうど改稿作業で行き詰っていたタイミングでした。第2章は光莉視点の物語なのですが、応募原稿は大部分が悠視点だったこともあり、一人称視点の光莉を掴みきれていないまま書いていました。書いていて、光莉の台詞なのに光莉がしゃべっている感覚が無かったんです。そんな中、キャラクターデザインを送っていただいたのですが、見た瞬間におぼろげだった光莉の人間性が一気に明瞭になりました。キャラクターデザインを見たあの時、本当の意味で悠や光莉に出会えたんだと思います。一番お気に入りのイラストは悠と光莉が花火を見ている一枚絵です。私が言葉で書くしかないものを、イラストだとここまで表現できるのかと驚きました。イラストの力を感じさせる一枚だと思います。美しくも儚い青春の一幕が、一枚のイラストから伝わってきて本当に素晴らしいですよね。今は私のPCの壁紙にもなっています(笑)。

 

これが「恋」だと言うのなら、誰か「好き」の定義を教えてくれ。

※北条先生が特にお気に入りだと語るイラスト

 

 

――著者として、本作はどのような方がより楽しめるか、あるいはどのような方に読んでほしいか教えてください。

 

ライトノベル好きの私の趣味がぎっしり詰まっているので、ライトノベルが好きな方なら楽しめると思います。後はやっぱり、今の社会に何か違和感を覚えている人とか、生きづらさを感じている人には届いてほしいです。そういう人に寄り添えるわけではないし、完全に理解できるわけでも、同じ痛みを共有できるわけでもないけど、一人ではないよという事は伝えたいので。正直、「アセクシャル」の存在をこれまで知らなかった人に知ってもらえるだけでも、大きな意義があると思っています。できるだけたくさんの人に読んでもらえればと思います。

 

 

――今後の目標や野望について教えてください。

 

野望は大きく言うと世界を変えたいです。私は物語の力を信じています。様々な作品を読んで感情を揺さぶられてきたからこそ、物語には人を変える力があると思っています。私の作品を読んだ人の価値観が変わって、やがて世界そのものを変えられたら……。大きく出すぎなんですけど、そのぐらいの意気込みではあります。身近な目標だと、悠が「恋」や「好き」という言葉に対する答えを出すところまで本作を書き切りたいですね。答えを書かずに終わるのは許されないと思っているので、どんな形であろうとたどり着いてみせます。本作以外だと高校生の青春群像劇とか、ゼロ年代を焼き直すボーイミーツガールの現代異能バトルとかも書きたいです。

 

 

――最後に本作へ興味を持った方へメッセージをお願いします。

 

タイトルに惹かれた方ならば、絶対に刺さるものがあるかと思います。ピンと来た方はもちろん、ピンと来てない方にも手に取ってほしいです。本作を読んで何かを感じてくれれば、それが一番嬉しいです。

 

 

――本日はありがとうございました。

 

 

<了>

 

 

臆病で孤独を抱えた大学生たちの等身大の恋物語を綴った北条連理先生にお話を伺いました。秘めた思いを抱えながら、少しずつ心の距離を近づけていく二人を丁寧に描いた本作。彼らがたどり着く答えにも注目したい『これが「恋」だと言うのなら、誰か「好き」の定義を教えてくれ。』は必読です!

 

<取材・文:ラノベニュースオンライン編集部・宮嵜/鈴木>

 

©北条連理/オーバーラップ イラスト:サコ

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これが「恋」だと言うのなら、誰か「好き」の定義を教えてくれ。 1 (オーバーラップ文庫)

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