独占インタビュー「ラノベの素」 畑野ライ麦先生『恋する少女にささやく愛は、みそひともじだけあればいい』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2024年7月14日にGA文庫より『恋する少女にささやく愛は、みそひともじだけあればいい』が発売された畑野ライ麦先生です。第16回GA文庫大賞にて《金賞》を受賞し、満を持してデビューされます。新たな趣味として短歌を始めることになった男子高校生と、彼に短歌をレクチャーすることになった女子中学生の青春ラブコメディを描いた本作。小説の題材としての短歌の魅力や、短歌を通じて繰り広げられる青春模様など、様々にお話をお聞きしました。
【あらすじ】 高校生の大谷三球(おおたにさんた)は新しい趣味を探しに訪れた図書館で、ひときわ目立つ服装をした女の子、涼風救(すずかぜすくい)と出会う。三球は救が短歌が得意だということを知り弟子として詩を教えてもらうことに。「三十一文字だけあればいいか?」「許します。ただし十万文字分の想いがそこに込められてるなら」日々成長し隠された想いを吐露する三球に救は好意を抱きはじめ、三球の詩に応えるかのように短歌に想いを込め距離を縮めていく。「スクイは照れ屋さんな先輩もちゃんと受け止めますから」三十一文字をきっかけに紡がれる、恋に憧れる少女との甘い青春を綴った恋物語。 |
――まずは自己紹介からお願いします。
畑野ライ麦(はたのらいむぎ)と申します。愛知県出身で、執筆歴は覚えていないのですが公募には4~5年ほど投稿しています。好きなことは旅行で、最近は北海道の日高地方にある牧場に行って、競走馬のお墓やサラブレットの放牧を見てきました。知らない土地を訪れて、違う文化に触れたり、新たな発見をしたり、非日常を味わえるのが旅行のいいところだと思っています。旅行以外だと動物も好きで、今はミナミコアリクイの動画を見ることにハマっています(笑)。
――最近は北海道に行かれたとのことですが、今後旅行してみたいと思っている場所ってあったりしますか。
海外にはまた行ってみたいです。これまで台湾に3回、インドネシアとベトナム、チェコに1回行ったことがあるんですけど、最近はまとまった時間が取れず、全然行けていないんですよね……。
――ありがとうございます。SNSを拝見したところ、ライトノベルはかなり読まれている印象なのですが、最近は何を読まれましたか。
最近読んだのは『美少女生徒会長の十神さんは今日もポンコツで放っておけない』です。他にも『毎晩ちゅーしてデレる吸血鬼のお姫様』と『嘘つきリップは恋で崩れる』の第2巻も積んでいるので、読むのが楽しみです。読んでいるジャンルとしては現代ラブコメが多いです。ファンタジーも読みたいとは思っているんですけど、あまり私が得意なジャンルではないので、自然と手が伸びる作品は現代ものやラブコメディが多くなっています。
――挙げていただいた作品はどれも6月刊と最新のタイトルですが、昔から今のようにライトノベルは読まれていたのでしょうか。
正直に言いますと、ライトノベルはそんなにたくさん読んできた方ではないんですよね。どちらかというとマンガやゲーム、アニメがメインで、ライトノベルはその延長線として楽しんできた側面が大きいです。
――ちなみに漫画やゲームなどでは、どのような作品がお好きなのですか。
漫画だと結構古いのですが、冬目景先生の『羊のうた』は大好きです。後は流行っているジャンプ等をはじめとする少年漫画を読んだりしていました。ゲームは漫画ほど触れてはいなかったのですが、有名な作品をたまに触れる程度にプレイしています。基本的にマンガもゲームも、特定のジャンルやタイトルしか触れないというわけでなく、その時々で琴線に触れたものを読んだり、プレイしたりしてきました。
――ながらくコンテンツの消費者側であった畑野ライ麦先生が、小説を書こうと思われたきっかけは何だったのでしょうか。
元々文章を書くのが好きだったというのが一番の理由かなと思います。それ以外だとコロナ禍も小説を書き始める大きな契機でした。4年前頃からイベントが中止になったり、外を出歩けなくなったりして、暇な時間が一気に増えたんです。そこで何か新しいことをやろうと考えた時、一番手を出しやすかったのが小説を書くことだったので、執筆活動を始めました。
――公募への応募歴は4~5年ほどとのことでしたが、小説を書き始めた時から公募に作品を出すことを目標に活動されていたのでしょうか。
そうですね。当時から公募を目標に小説を書いていました。WEB小説も選択肢としてあったのですが、毎日小説を書いて更新することや、流行や読者の反応を見ながらその都度物語にテコ入れすることなど、WEB小説のスピード感が自分には合わないと感じたんです。日による調子の波はありつつも、期間を決めて作品を完成させるスタイルの方が自分に合うと思ったので、公募への投稿を選びました。
――小説とひとえに言っても様々なジャンルが存在するかと思います。その中でライトノベルを選ばれた理由についても教えていただけますでしょうか。
最初から意識してライトノベルを書こうと考えていたわけではないんですよね。書き上げた作品を見て、「自分の作品を受け入れてくれる懐の深さがあるのはライトノベルぐらいだろう」と思い、ライトノベルの公募に投稿するようになりました。
――それではあらためてになりますが、第16回GA文庫大賞《金賞》受賞おめでとうございます。受賞の連絡を受けた際の感想をお聞かせください。
ありがとうございます。入賞の連絡は配信を見ながらご飯を食べている最中に電話でいただきました。夜の10時頃と遅い時間だったこともあり、最初は気づきませんでした。いくら編集者の方でもこんな遅い時間まで仕事はしていないだろうと思いつつ、折り返し電話を掛けたところ入賞連絡だったのでびっくりしたのですが、本当に嬉しかったです。《金賞》受賞についても大変ありがたかったのですが、どんな賞をもらってもやることは変わらないので、受賞の連絡をいただいた後も気にせずに執筆を行っていました。
――それでは受賞作『恋する少女にささやく愛は、みそひともじだけあればいい』についてどんな物語なのか教えてください。
大きな挫折をした主人公・大谷三球(サンタ)が、短歌が得意な変わった女子中学生・涼風救(スクイ)と出会ったことで、少しずつ変化していく青春恋愛ストーリーとなっています。また、彼らの恋路を盛り上げるエッセンスとして、古来から続く表現方法である「短歌」を盛り込んでいます。短歌については、担当編集さんからもほかには類を見ない題材と言っていただいていますし、本作の大きな特徴なのかなと思います。
※夏休みの図書館での偶然の出会い――ここからサンタとスクイの歌会がはじまる
――確かに短歌を題材にしたライトノベルは珍しいですよね。短歌をモチーフにしようと思われた理由は何だったのでしょうか。
たまたま、次に書く作品について考えていた時に、短歌にまつわるニュースをいくつか見たのがきっかけでした。ひそかに短歌がブームになっている事が話題に上がったり、配信者が視聴者から短歌を募集する企画をやっていたり、そういった短歌にまつわる小さな出来事が続いた結果、「今、短歌を取り扱うのはアリなのでは」と考え、作品に取り入れました。
※作中には短歌を取り扱うVTuberも登場する
――畑野ライ麦先生からみて、短歌のどんなところが魅力的に映ったのでしょうか。
やはり、言葉のカッコよさや切れ味の鋭さでしょうか。普段なんとなく感じているけど、ちゃんと言葉にしたことがない「思い」が、共感できる形で言語化されているのを見てカッコいいと感じました。あとは感情表現がダイレクトに行われている点も短歌の魅力の一つだと思っていて、登場人物の心情を発露させる手段として、小説でも上手く活用できそうだと考えました。
――ちなみに、畑野ライ麦先生も短歌を詠むことはあるのでしょうか。
作中でサンタがスクイのレクチャーを受けながら短歌を学んでいくのと一緒に、私自身も小説を書きながら短歌を勉強していました。今もなお勉強中です(笑)。
――本作にはサンタをはじめキャラクターが詠んだ短歌が多数登場していますよね。キャラクターの視点で短歌を詠むことは自分で詠む以上に難しいことだと思います。短歌は勉強中とのことですが、作中の短歌を作るのは大変ではありませんでしたか。
サンタの短歌は自分の高校時代を思い返しながら書けたので良かったのですが、スクイの短歌に関しては、自分が女子中学生だった時代はないので本当に大変でした。短歌にはキャラクターの感性がそのまま表れるので、キャラクターの感性と作った短歌の間にズレがあると読者の方は違和感を抱くかと思います。スクイの歌については、「これは男が詠んだ短歌だ」と読者の方に思われないようにかなり気を使っています。
――ありがとうございます。続いて本作に登場するキャラクターについて教えてください。
まずは主人公の大谷三球です。彼は元々野球部で、怪我をきっかけに本気で打ち込んでいた野球をやめてしまうという大きな挫折を経験したキャラクターとなっています。彼の凄いところは野球を諦めつつも、立ち直るきっかけを自分で探そうとしているところです。彼は結構根性がある人間だと思っています。ただ、猪突猛進すぎるところは良さでもあり、難点でもありますね(笑)。
※挫折を経験してもなお、前向きでいようとする主人公・大谷三球
次にヒロインの涼風救です。彼女は背伸びしがちな中学生で、大人ぶろうとしつつも、年相応に子供っぽいところがある可愛らしいキャラクターとなっています。彼女は努力家なんですが、甘えるのが下手なところもあるので、「誰かが近くで支えてあげたらいいんだけどなぁ」と思いながら書いています(笑)。
※背伸びしがちな性格ながら、年相応に子供っぽいところが魅力の涼風救
3人目の月島手毬(つきしまてまり)はサンタの先輩ですので、まだ幼いところのあるスクイとは対極にいるキャラクターとして描きました。彼女は精神年齢が高く、人付き合いも上手いハイスペックなお姉さんなのですが、最初から完璧だったわけではないんですよね。彼女も様々な経験をして今の自分になったという事は忘れないようにしながら書いています。
※先輩らしく成熟したキャラクターとして描いたという月島手毬
――本作はサンタが作った短歌をSNSでスクイへと送り、スクイがその短歌をベースに指導をするという形で物語が進むわけですが、特にスクイが短歌を受け取った際のリアクションにはこだわられていた印象でした。
ありがとうございます。本作ではサンタが高校生でスクイが中学生という事もあり、二人が直接会うタイミングはあまりありません。なので、必然的に二人はSNS上での短歌を通じたやり取りで、お互いを知っていくことになります。短歌を受け取ったスクイは、「サンタは何を考えてこの歌を詠んだのか」と思いを巡らせ、サンタはスクイからの返信の意味を考える。本作では、そういった二人のコミュニケーションを描ければと考えています。
※普段あまり会えない二人は、短歌を通じてお互いを知っていくことになる
――続いてイラストについてもお聞きしたいのですが、本作では書籍化に際して巻羊(まきひつじ)先生がイラストを担当されました。キャラクターデザインを見た際の感想やお気に入りのイラストについて教えてください。
どのキャラクターも好きなのですが、スクイのデザインは特に気に入っています。スクイは服装がすごいんですよね。本文中では「和装風のアレンジ衣装」と表現しているのですが、書いていた当初は漠然としたイメージしかなくて、本当にイラスト化できるのか少し不安でした。けど、完全に杞憂でしたね。私の想像を超える可愛い衣装にデザインしていただけたので、とても嬉しかったです。お気に入りの一枚は少し変化球になりますが、スクイがあきれた顔をしているイラストです。このイラストだけ表情がデフォルメされているんですけど、表情豊かなスクイのキャラクター性が表れている素晴らしい一枚だと思います。
※畑野ライ麦先生が気に入っているというイラスト
――本作の見どころや注目してほしいポイントについて教えていただけますでしょうか。
せっかく「短歌」という題材を選んだので、短歌の良さが活きるような物語にしたいとは書き始めた当初から考えていました。短歌を通じてお互いを知っていくサンタとスクイに注目して読んでいただけますと幸いです。中高生の青春や恋愛など、純粋なキャラクターたちのやり取りが好きな方でしたら、楽しんでいただけるかと思います。
――今後の目標や野望について教えてください。
大きな野望みたいなものはないのですが、強いて言うなら本作のキャラクターグッズを見てみたいです。許されるならガレージキットとかほしいです(笑)。自分の部屋にフィギュアなどの立体造形を置いたことがないので、自分の作品が初めてだと最高ですよね。あとは長く健やかに作家生活を続けていけたらいいなとぼんやり考えています。
――最後にインタビューを読んで本作に興味を持ってくださった方に一言お願いします。
変な言い方になるのですが、この本を通じて読者の方と一緒に遊べたら嬉しいです。小説を書いて、読んでもらってからというとすごく遠回りなんですが、そういったのんびりしたコミュニケーションが読者の方ととれるといいなと思っています。
――ありがとうございました。
<了>
短歌を通じて心を通わせていく男子高校生と女子中学生の青春ストーリーを綴った畑野ライ麦先生にお話をうかがいました。サンタから送られてくる短歌に一喜一憂するスクイをはじめ、少年少女たちのピュアなやり取りから目が離せない『恋する少女にささやく愛は、みそひともじだけあればいい』は必読です!
<取材・文:ラノベニュースオンライン編集部・宮嵜/鈴木>
©畑野ライ麦/ SB Creative Corp. イラスト:巻羊
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