独占インタビュー「ラノベの素」 鵜飼有志先生『死亡遊戯で飯を食う。』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2024年9月25日にMF文庫Jより『死亡遊戯で飯を食う。』第7巻が発売された鵜飼有志先生です。第18回MF文庫Jライトノベル新人賞「優秀賞」受賞作として刊行され、その後は「このライトノベルがすごい!2024」総合新作部門1位に選出されるなど話題を呼び続けている本作。興行として開催されるデスゲームに参加する少女・幽鬼が、プロのデスゲームプレイヤーとして99連勝の記録達成を目指していく物語についてはもちろん、TVアニメ化決定を受けての心境や、デスゲームにおける幽鬼の考え方や強さなど様々にお話をお聞きしました。
【あらすじ】 けじめをつけた私は、前よりもずっと強かった。幻影との戦いを終え、超越した感覚を手に入れた私・幽鬼は、その力によって、あるときは海戦のゲームを、またあるときはお化け屋敷のゲームを、またまたあるときは地雷原のゲームを悠々とこなし、平穏なプレイヤー生活を送る。しかし――波乱の絶えない宿命に生まれついたのか、外の世界に目を向ける余裕ができたからか――ゲーム外にてトラブルが多発する。ときに殺し屋の少女から訪問を受け、ときに私の住むアパートの隣人が誘拐され、ときに不良グループの抗争に巻き込まれる。こうした全部を乗り越えて、平穏な生活を守り切ることができるか――?死亡遊戯で飯を食いつつ、私は今日も生きていく。 |
――それでは自己紹介からお願いします。
鵜飼有志です。生まれは大阪で、現在は神戸に住んでいます。執筆歴は4〜5年ほどで、小説賞には2~3年ほど投稿していました。好きなことはボーッとすることで、苦手なことは多忙なことです。趣味は、最近ですと世界史を学び直したいと思い、世界史関連のサイトをポチポチと開いていたりします。
――2~3年ほど公募へ投稿をされていたということですが、小説を書き始めたきっかけは何だったのでしょうか。
「本」や「小説」と心理的な距離が近かったことが、小説を書き始めたきっかけに繋がっているのかなと考えています。「物語」に興味を持つ原体験となったのは、中高生のときに手に取った『逆転裁判』や『428 〜封鎖された渋谷で〜』などのノベルゲームです。当時の僕は「話が面白い」という概念が頭の中になかったので、どうしてこれらのゲームが面白いのかうまく言語化できず、不思議な感動を覚えながらプレイしていました。原点となる「書籍」という観点ですと、大学生のころに『ファインマン物理学』と出会ったことも大きかったです。読書する習慣を身につけたのは、ひとえにあの本のおかげだと思っています。大学生で初めて本に感動するって、かなり遅めかもしれませんが……(笑)。ライトノベルを書き始めた実際的な理由は、大学を出た後の進路が決まっていないタイミングに、ふと思い立ったからなのですが、面白い文章に触れてきた影響は多分にあると思います。
――物語や書籍と近い環境に身を置かれていたことが、小説を書くという発想に至った一因になっていたわけですね。本作の第6巻は『老人と海』や『文字禍』を読みながら書かれていたとあとがきで拝見しましたが、普段はどういった小説を読まれているのでしょうか。
重点を置いているジャンルは特になく、小説を読みたいときは青空文庫にアクセスして、なにか適当に開いてみることが多いです。青空文庫では著作権の切れた名作が無料で読めるので、あまりお金に余裕がなかった投稿時代はよく利用していたのですが、その習慣が今も残っているのだと思います。いちばん好きな作品は、小説ではなく随筆ですが、太宰治の『鉄面皮』です。冒頭のものすごく長い一文が特に好きです。
――ありがとうございます。『死亡遊戯で飯を食う。』は2022年11月の第1巻発売から、絶えず話題を呼び続け、「このライトノベルがすごい!2024」では総合新作部門1位にも選出されました。読者からの感想や話題の広がり方などをどのようにご覧になられていましたか。
SNSやAmazonレビューを、おっかなびっくり覗いたりしているのですが、想像以上に評価していただいているなと感じています。自分で言うのもなんですが、本作は結構「妙なお話」だと思うので、多くの方に受け入れていただいたことはありがたいです。
――著者としては『死亡遊戯で飯を食う。』のどういったところが読者の方に楽しまれているとお考えですか。
「ナンセンス感」というか、「ちょっと変な感じ」を楽しんでいただけているのかもしれないです。繰り返しになりますが、本作は「妙なお話」だと思っています。無料でクオリティの高いコンテンツに触れることができる昨今、それでも拙作をお手に取っていただけているのは、そうした珍妙さ、奇妙さがうまく機能してのことだろうと考えています。
――そして、本作は先日の「MF文庫J 夏の学園祭2024」にてTVアニメ化も発表されました。おめでとうございます。
お祝いいただき、ありがとうございます。この業界の誰もが意識する目標だと思いますし、僕としてもそうです。まことに嬉しく思います。
――アニメ化のご連絡を受けた際はどのような心境だったのでしょうか。
アニメ化決定の連絡については、特に前触れもなく、普通にメールでお話をいただきました。突然だったので、非常にびっくりしました。受賞の連絡をいただいたときよりもびっくりしたと思います(笑)。
――アニメ化に際して、期待されていることや楽しみにされている要素について教えてください。
いちばん気になっているのは、〈防腐処理〉周りの部分がどうなるんだろう……というところです。文章として書くのは容易な部分ですが、映像として描くのは難しそうですから。
――〈防腐処理〉の設定はなかなか特殊ですよね。流血が無いデスゲームというのは新鮮に感じました。
〈防腐処理〉をはじめとする特殊設定については、リアリティレベルの調整を目的として導入しました。100パーセントのリアルな世界にしてしまうと、いろいろ不都合なことがあるのです。例えば、実際の世界では、手足を銃弾が貫通しただけでも動脈を破損し、すぐに止血しなければ死に至りますし、後遺症を残すことだって少なくありません。殺人ゲームを書くにあたってそれでは都合が悪いので、いろいろなギミックを加えています。
――ありがとうございます。それではあらためて『死亡遊戯で飯を食う。』がどんな物語なのか教えてください。
命懸けの殺人ゲーム。それを見世物とする興行。本作はそんな世界でプレイヤーとして長年生き延びている、幽鬼という娘が主人公の物語です。普通の神経では理解しがたい、尋常ではない世界に生きている彼女たちは、一体どんなことを考えているのか? なんでそんな世界にとどまっているのか? そういうことをテーマとして書いております。特殊な世界の「お仕事もの」と捉えていただくのが、わかりやすいかもしれません。例えば、麻薬のブローカーや、ブラックハッカーといった、特殊な職業の人が私たちの世界にも実際に存在します。そんな彼らにもそれぞれ人生があり、思うところがあってその仕事に就いているはずです。そういった特殊なケースのひとつとして、殺人ゲームのプレイヤーを本作では取り上げています。
※「お仕事」としてデスゲームに参加し続ける幽鬼を描いていく
――「お仕事もの」というお話もありましたが、デスゲームを題材としている作品は数あれど、生業としているキャラクターが主人公である点は珍しいと感じました。着想についても教えていただけますでしょうか。
「デスゲームものを書こう」というのが第一にあったのですが、デスゲームものは1巻完結か、長くても数巻で終了する作品が多いかと思います。とはいえ、ライトノベルとしてやるからにはもっと長く続けたいところです。そのためにはどうすればいいか……と考える中、ゲームに繰り返し出場する、「達人」のような人物がいるはずだという発想に至りました。じゃあ、なんでそいつは何回も出場しているのか……? と考えていくうちに、テーマのほうもおのずと決まっていった感じです。
――そもそも「デスゲームもの」を書こうと考えられていたことが、本作を構想する上で第一にあったわけですね。「デスゲームもの」のどういった点に惹かれたのでしょうか。
当時そういうジャンルの作品を手にとることが多かったので書いてみた、というのが実際の理由なのですが……。デスゲームものは、生の感情とか暴力とかがいちばん色濃く出るジャンルだと考えていて、その点に惹かれたのだと思います。
――続いて、生の感情と暴力が渦巻くデスゲームの世界に身を置く本作の主人公・幽鬼についてあらためてご紹介いただけますか。
名前の通り、幽霊みたいな雰囲気の娘です。殺人ゲームの達人でして、第1巻の開始時点ですでに28回も出場しています。死生観に少しズレたところがありますが、悪い人ではないはずです。たぶん……。
※幽霊みたいな雰囲気の娘であるという主人公・幽鬼
――「死生観のズレ」ですか。そのあたりの違いについて詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか。
どんな職業でもあることだと思うのですが、「物書きとして生きたい」「編集者として生きたい」と思う職業人がいる一方、「物書きとして死にたい」「編集者として死にたい」と思ってやっている職業人もいると思います。幽鬼の場合は後者で、「プレイヤーとして死にたい」と思っているんです。なので、命の危ない世界でやっていくことは、幽鬼にとってなにもおかしなことではないわけです。必要になれば、手足の一つぐらいポンと差し出せてしまうし、ゲームを繰り返して肉体が壊れていくことにも悲壮感はありません。彼女にとっては当然起こるべき過程のひとつであるわけです。
――死と隣り合わせの状況に身を置けるのは、幽鬼の根底に死は当然のものであるという思想があるからなんですね。そんな彼女の考え方が、デスゲームが「日常」に根ざしたものとして描かれている事にも繋がっていると思うのですが、幽鬼から見たデスゲームを描く上で意識されていることはありますか。
ご指摘の通り、幽鬼にとってデスゲームは日常的行為ですので、できるだけ特別感は出さず、俗っぽい雰囲気を出すことを心がけています。「今回のゲームの食事、あんまりおいしくないな」とか、「今回の衣装あんま好きじゃないな」とか、日常的にデスゲームに参加しているからこそ持ちうる感情を描いているのもその一環です。
――第6巻まで多くのデスゲームに参加してきた幽鬼は、様々な死地を乗り越え、様々な出会いを経験してきたかと思います。彼女にとって一番大きなターニングポイントはどこだとお考えですか。
いちばん大きく成長したのは、第1巻の終盤かと思います。目標を持つことで、無軌道から軌道に乗ったことが大きいですね。技術的あるいは物理的に強くなったということはないと思うのですが、なにか決定的なものが変わったはずです。本の要約だけを読むのと精読することとの違いや、家のお風呂の湯と温泉の湯の違いのような、はっきり言葉にできないけど確かにある「なにか」を、幽鬼は得たのです。大きな成長ということでいえば、第5〜6巻のエピソードも候補にのぼると思われます。人間関係を知らなかった幽鬼が、それを知らざるを得なくなったわけなので。
※99連勝という具体的な目標を得たことで幽鬼は大きく成長していく
――第5~6巻のエピソードはまさにそうなのですが、デスゲームの勝利を積み重ねていくにつれて、幽鬼の人間関係が広がっていく点も本作の面白さを形づくる要素のひとつだと考えています。作中には人間関係がゲーム攻略の鍵になるエピソードもありましたが、幽鬼の周辺の人間関係を描く上で意識されていることはありますか。
幽鬼には、なるべく誰に対してもフラットな態度でいさせるように心がけています。敵も味方もできるだけ作らない、というのが幽鬼のプレイスタイルですし、誰が悪人で誰が善人だ、というふうに決めてかからないことをテーマとしています。
――本作には、永世は学習、真熊は恵まれた身体と戦闘能力など、明確な強みを持ち、それを活かした立ち回りをするキャラクターが多数登場します。幽鬼は「敵も味方もできるだけ作らない」というプレイスタイルとのことですが、幽鬼の強みは何だとお考えですか。
取り立てて強みがない、という点が幽鬼の長所だと思っています。明確な強みがあるということは、裏返せば、どこかしら手薄な部分があるということでもあります。例えば、永世には少し傲慢なところがありますし、真熊にはソリストなところがあります。そういった致命的な弱点を持たないからこそ、たびたびピンチになりはすれど、うまく立て直すことができているわけです。
※突き抜けた長所はないが、大きな弱点もないことが幽鬼の強さとなっている
――ちなみに、鵜飼先生ご自身はデスゲームで生き残るのに必要な条件、そしてデスゲームで勝ち続けるのに必要な条件はなんだとお考えですか。
なるべく偏らないこと、だと思います。
――ありがとうございます。続いて幽鬼以外のキャラクターについて伺いたいのですが、本作では重要なキャラクターや人気キャラクターも容赦なく死んでいきますよね。第5~6巻のエピソードなどは読者からの反響も大きかったと思います。キャラクターを退場させる際にはどのようなことを考えられているのでしょうか。
本作ではキャラクターごとに個別のストーリーを考えていて、その中に死亡するタイミングも折り込んでいます。世界観上、ばたばたと人が死んでいくのは避けられないので、重要なキャラクターであっても死なせるときは死なせるものだと考えています。
――なるほど。幽鬼を中心とした物語とは別にあらかじめ登場させるキャラクターごとのストーリーを作られているんですね。
そうですね。キャラクターのストーリーについてはいろんなケースがあるのですが、「だいたいどういう性格の人で」「どういう欲求があって」「どういう道筋をたどって、どういう結末を迎えるのか」を想定してキャラクターを作ります。そういった個別のストーリーを独立した形で脇に置いておき、適切なタイミングで本編に差し込んでいく、という具合です。
――ありがとうございます。続いてイラストについてもお聞きしたいのですが、本作のイラストはねこめたる先生が担当されています。これまでのイラストで特に気に入っているものを教えてください。また、これまで幽鬼がデスゲームで着てきた衣装の中で、特に好きなものや似合っていると思うものはどれでしょうか。
どのイラストも素晴らしいと思うのですが、アニメ化と同時に発表されたプロモーション用イラスト、第1巻の表紙イラスト、第4巻の表紙イラストが好みです。特に、第1巻の表紙イラストをいただいたときの気持ちは覚えています。プロフェッショナルの「わざ」を見た、と思いました。ゲームの衣装でいうと、第4巻の魔女の格好がいちばん好きです。こういう、ちょっと怪しげな衣装が幽鬼には似合うと勝手に思っています。
※アニメ化プロモーション用イラスト
※第1巻カバーイラスト
※第4巻カバーイラスト
――本作は万歳寿大宴会先生によるコミカライズも2023年4月から行われています。コミカライズならではの魅力や見どころはどんなところだと思いますか。
第一に、画面が美しすぎますよね。文章であれば「メイドさんが6人いた」で済むところを、漫画だとフリルからなにから描かなければいけないわけですから、その苦労はひとかたならないと思います。また、絵だけではなく話においても、漫画としてうまく表現してくださっていると思います。僕などは、文章のフォーマットでもひいひい言っているというのに、それを漫画のフォーマットでやっているというのですから……。すごい人がいるものだなあ、と思っています。
※コミカライズは「コンプエース」にて好評連載中
――そして発売された第7巻ではこれまであまり触れられてこなかった、幽鬼の住むアパートや街などの物語が描かれていくことになります。第7巻の見どころを教えてください。
予告にもあった通り、第7巻では全編におよんでゲーム外の話となります。殺し屋の女の子から接触を受けたり、お隣さんが誘拐されたり、地域の不良グループと一悶着あったりします。殺人ゲームという道具立てを使わずに、それでも『死亡遊戯』らしい話を行うことができるのか……? お手に取って、確認していただければ幸いです。
※アパートの隣人とのエピソードや地元の不良グループとの一悶着など新たな角度で物語が描かれていく
――今後の目標や野望について教えてください。
とにかく、無事に続刊を作成するということです。「もうだめだー」と思いながら毎回やっているのですが、なんとかこれがゴールまで保ってほしい、という気持ちです。
――それでは最後にファンのみなさんに向けて一言お願いします。
ついてきてくださってありがとうございます。それ以外に言葉がありません。
――ありがとうございました。
<了>
プロのプレイヤーとして、死と隣り合わせの世界で勝ち続けることを選んだ少女・幽鬼のデスゲーム・ライフを綴った鵜飼有志先生にお話をうかいました。練られた個々のデスゲームはもちろん、勝利を重ねていく中での幽鬼の変化、プレイ歴が伸びるにつれて広まる人間関係など、巻数を増すごとに魅力を増していく本作。待望となるTVアニメ化も決定した『死亡遊戯で飯を食う。』は必読です!
<取材・構成:ラノベニュースオンライン編集部・宮嵜/鈴木>
©鵜飼有志/KADOKAWA MF文庫J刊 イラスト:ねこめたる
[関連サイト]