独占インタビュー「ラノベの素」 モンスターレーベル10周年記念インタビュー【第3弾】神埼黒音先生×身ノ丈あまる先生『魔王様、リトライ!』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回はMノベルス刊『魔王様、リトライ!』より、原作の神埼黒音先生、そしてコミカライズを担当する身ノ丈あまる先生です。3ヶ月連続となるモンスターレーベル10周年記念企画として実施されるインタビューもついに第3弾。TVアニメ『魔王様、リトライ!R』の放送開始を記念して、お二人の対談をお届けします。原作、そしてコミカライズそれぞれの視点から描かれる、個性豊かなキャラクターたちについてはもちろん、物語の今後の展開についてなど、様々なお話をお聞きしました。
※9月30日頃設置開始のフリーペーパー「ラノベNEWSオフラインvol.18」には本記事未掲載の内容も掲載されています
・神埼黒音
第5回ネット小説大賞にて『魔王様、リトライ!』が「金賞」を受賞して作家デビュー。2019年に『魔王様、リトライ!』のアニメが放送され、2024年10月より続編となる『魔王様、リトライ!R』の放送がスタートする。
・身ノ丈あまる
コミカライズ版『魔王様、リトライ!』にて漫画家デビュー。『魔王様、リトライ!』を全5巻で刊行した後、『魔王様、リトライ!R』を刊行中。
――それでは自己紹介からお願いします。
神埼黒音:神埼黒音です。2016年に初めて、長編として『魔王様、リトライ!』を「小説家になろう」に投稿しました。それ以前は小説の執筆などとは縁遠く、執筆の経歴がないまま、ありがたいことにそのままデビューさせていただいた感じになります。好きなものは歴史小説とゲームで、司馬遼太郎さんとか、白石一郎さんとか、歴史小説ばかり読んでます。ゲームはシミュレーションやオープンワールドをプレイすることが多く、『Fallout 4』は世界観の造りがすごくて、非常にびっくりしました。苦手なものは……高所恐怖症なので、明らかに高い場所はダメですね。最近は運動不足解消のためにプールに通っています。
身ノ丈あまる:身ノ丈あまるです。元々漫画系の専門学校に通っていまして、卒業してから『魔王様、リトライ!』の連載を行わせていただいています。別名義で一度だけ小さな賞をいただいたことはありましたけど、身ノ丈あまる名義での漫画家歴は今作までありませんでした。私は結構マニュアル人間でして、型にこだわるタイプなんです。漫画も同様で、描きたいものはたくさんあったんですけど、描く上での漫画のフォーマットが気になって手がつかず、それを勉強するために専門学校に入学しました。なので、きちんと漫画を描き始めたのも専門学校からになります。好きなものはVTuberとゲームで、『ゼルダの伝説』シリーズはずっと遊んでいます。苦手なものはパクチーやネギなどの味や香りの濃いものでしょうか。最近は健康診断に引っかかってからウォーキングを始めました。
神埼黒音:ウォーキングって外ですか?こんな暑いのに?
身ノ丈あまる:朝の5時くらいに歩いてます(笑)。
神埼黒音:朝の5時!?ニワトリも寝てるでしょ(笑)。
身ノ丈あまる:夜は結構早めに寝るので、その分早めに起きてって感じですね。
神埼黒音:自分とは真逆の生活を送られてる感じですね。一緒にお仕事をさせていただいていますけど、身ノ丈さんの私生活が謎すぎて(笑)。
身ノ丈あまる:そんなことはないと思うんですけど。仕事はなるべく午前中に終わらせた方がいいって話をよく聞くので、午前中心に頑張ってるんですけど、だいたい午後までズルズルと伸びてます。なので、1日中漫画を描いていることが多いかもしれません。もともと外がそんなに好きではないので、買い物とウォーキング以外で外出することはないですね……。
神埼黒音:ずっと仕事をしているイメージがありますけど、休日は作ってます?
身ノ丈あまる:休日は…………一応、掃除をする日があるので、それが休日になってる感じです。ただ、毎年大晦日の日だけは、「必ずこれをやる」って決めていることがあるんですよ。
神埼黒音:大晦日だけっていうところも気になるんですけど、何をやられてるんです?
身ノ丈あまる:大晦日のカウントダウンに合わせて、評価がイマイチな映画を観るっていう(笑)。
神埼黒音:なにそれ(笑)。
身ノ丈あまる:歴代のそういう映画が結構ありまして、それを観ながら、「こりゃダメだ!(笑)」って笑いながら年を越す感じです。
神埼黒音:確かに面白そうですね(笑)。
身ノ丈あまる:神埼さんはどんな感じなんですか。
神埼黒音:自分は夜がめちゃくちゃ遅いので、だいたいお昼に起床します。そこからプールに行って、帰ってきてから2時間ほど執筆するような生活を送ってますね。そこからは何をするでもなく過ごして、夜の10時頃からお酒を飲み、お酒がなくなったら寝るっていう感じです。まぁ半分ニートみたいなもんですね(笑)。
――神埼先生の1日の執筆時間が想像していたよりも短くて驚きです。
神埼黒音:「小説家になろう」で投稿していた時は、それこそ1日7時間くらい書き続けてたりもしてたんですけど、デビューしてからは執筆量が明らかに落ちました。当時は勢いで書いていましたけど、紙の本として市場に出るものだと考えた時に、すごく慎重になってしまったんです。執筆時間よりも、推敲したり調べたりする時間が増えましたね。とはいえ、集中力も2時間ほどしかもたないですし、書いたとしてもグダグダになって消しちゃうことが多いので。
身ノ丈あまる:私は去年から、25分仕事をして、5分休憩するっていうポモドーロテクニックを取り入れてから、集中して仕事ができている感じはします。とはいえ、私の場合は原作があって、そこから漫画のフォーマットに落とし込んでいるだけなので、ゼロからイチを作る作業とはまた別なのかなって感じますね。
――ちなみにお二人にはそれぞれ、バイブル的な作品はあったりされますか。
神埼黒音:『魔王様、リトライ!』とはまったく関係ないですけど、司馬遼太郎さんの作品全般です。僕の文体のちょっとした参考にもなっていると思います。ただ、第1巻の時は何も知らないまま執筆していたので、重版時に読み直すと、「本当に自分が書いたのか」って悶絶してしまいます(笑)。身ノ丈さんはどんな作品が好きなんですか。
身ノ丈あまる:子供の頃から見ていたという視点からだと、CLAMP先生の『カードキャプターさくら』、あとは手塚治虫先生ですね。そこからは順当に『るろうに剣心』をはじめとしたジャンプ系作品かなと。それと私が住んでいた地域にあった図書館では、定期的に大量の漫画が寄付されていたみたいで、『こち亀』も全巻あったんですよ。なので漫画コーナーが異様に大きく、そういう環境で育ったこともあって、漫画が大好きです。
――お二人は2017年から一緒にお仕事をされているかと思いますが、これまでも顔合わせの機会や直接やり取りをする機会などはあったのでしょうか。
身ノ丈あまる:直接お会いしたのは2回ですかね?
神埼黒音:そうですね。前回のアニメの時……アフレコの現場でしたっけ?
身ノ丈あまる:そうそう、アフレコ現場でしたね。2回目が今回のアニメの顔合わせの時だったと思います。だから今日が3回目ですね。
神埼黒音:1回目はアフレコ現場だったので、原作について何か語ったりとか、そういう余裕はお互いになかったですよね。アニメや声優さんの話がほとんどだった気がします。2回目の時は、顔合わせの後にみなさんでご飯に行って、お酒を飲みながら雑談してましたね。
身ノ丈あまる:お酒飲んで何を話してましたっけ……。何か言わなくてもいいようなことを言っていた気がします……。
一同:――(笑)。
――お二人は対面以外で直接やり取りをする機会もほとんどなかったのでしょうか。
神埼黒音:身ノ丈さんが単行本の作業を終わられたタイミングに「お疲れ様でした」くらいですけど、SNSのDMではやり取りをしてます。ただ、仕事の話はほぼしません。コミックについては身ノ丈さんにお任せしてますし、僕からの要望とかもまったくないですし。
身ノ丈あまる:言ってくだされば、そこは変えますので!
神埼黒音:いやいやいやいや。何の不満もないので、そのままお願いします(笑)。
――続いて2019年に放送された無印のアニメ『魔王様、リトライ!』を振り返っていただきつつ、印象的な出来事や思い出に残っていることがあればおうかがいしたいです。
神埼黒音:アニメの内容とは全然関係ないんですけど、めちゃくちゃ印象に残っていることがあるんですよ。アフレコ現場にお邪魔した際、外でちょっと休憩をしてたんです。そしたら身ノ丈さんも出てこられたんですが、入口のところで、顔からバターンってコケちゃって。「嘘やろ!?」ってなりましたよね(笑)。
身ノ丈あまる:ありましたね(笑)。段差があったのに気づかなくて。
神埼黒音:それがなにより印象に残ってるんですよ。顔面からコケた人を初めて見たので、大怪我したんじゃないかって(笑)。
身ノ丈あまる:いやー、なんとか大丈夫でした。ギリギリ手が間に合ったので(笑)。
神埼黒音:そうなんですよ。身ノ丈さんも「あ、大丈夫です」って普通にひょっこり起き上がってきましたから(笑)。意外と大丈夫だったんだって思いましたね。身ノ丈さんは何が記憶に残ってます?
身ノ丈あまる:私は初めてアフレコ現場にお邪魔させてもらったので、実際の現場がどんな風になっているのかすごく気になってたんです。アニメの制作を題材にした漫画やアニメから得られる知識程度しか持ち合わせてなかったんですけど、実際に現場に入って見て、感じたことは多かったです。ブースの圧迫感もそうですし、雑音が入らないようにするための密閉した感じとか、とても印象に残ってますね。
神埼黒音:それで思い出しましたけど、お邪魔した時めちゃくちゃ暑くなかったですか?
身ノ丈あまる:暑かったですね(笑)。
神埼黒音:本当に「ここはサウナか」ってくらい暑くて、自分は収録の途中で耐えられなくなって……。あの暑いブースの中で、みなさん収録されていたので、凄いなって思ってました(笑)。
――そして2019年の無印アニメの放送から、新アニメの発表までは約4年の期間がありました。
神埼黒音:SNSでは「2期はよ」とか「やらないの?」とか、いろんな疑問を直接ぶつけられたりしたんですけど、世間には発表まで「やります」とは言えないわけじゃないですか。それがめちゃくちゃストレスでした。世の原作者さんはみんなそうだと思うんですけど、聞かれたことに対する答えを持っているのに、それに対して答えられないって言うことは意外と辛いんだなって感じました。
――新アニメのお話は、具体的にはいつ頃から動き出していたんですか。
神埼黒音:話自体は無印の放送終了直後から出てはいました。ただ、コロナの影響などもあって、前に進んだり後ろに戻ったり、紆余曲折を経ましたよね。本格的に話が固まって動き出したのが、2023年だったので、話は出ていたけど具体的には進まずみたいな状況が続いていたと思います。
身ノ丈あまる:私もアニメに関しては、2023年になってから本格的に『魔王様、リトライ!R』をやるというお話を聞いた感じでした。神埼さんも言われたように、言えないっていう状況が結構続いていて、当然ですけど家族にも言えずで。それだけ楽しみという気持ちは私も神埼さんも大きいんじゃないかなと。
――ありがとうございます。そしていよいよアニメ『魔王様、リトライ!R』が放送となります。あらためて今のお気持ちをお聞かせください。
神埼黒音:今回は脚本会議から全部出席しているので、かかわっている部分は多いです。原作者としてやれることは全部やったと思っているので、後はもう制作陣にお任せという感じですね。どんな感じになるんだろうって今から楽しみにしています。
身ノ丈あまる:私は今回、キャラクター原案っていう形でかかわらせていただいています。自分の絵がキャラクターデザインの方の絵に変換されていくわけで、その変遷を見ながら、すごく新鮮さも感じています。早く動いているところを見たいなって思いました。
神埼黒音:リモートではありますけど、アフレコにはほぼ、すべて参加していますし、その様子を見ていると本当に楽しみなんですよね。
身ノ丈あまる:私は5話目の収録時に現場へ行かせていただきました。絵コンテ付きで喋っている様子を見ていたんですが、すごく感慨深かったです。楽しみですね。
神埼黒音:キャストの方もめちゃめちゃ豪華ですからね。メインキャストはもちろんですけど、メインキャスト以外の方々もめちゃくちゃ凄いので。みなさんもびっくりするんじゃないでしょうか。
※アニメ『魔王様、リトライ!R』は2024年10月5日(土)より放送開始
――ではあらためてになりますが、『魔王様、リトライ!』がどんな物語なのか教えていただけますでしょうか。
神埼黒音:一言で言うと、勘違いものです。もともと勘違いものの作品は好きで、『魔王様、リトライ!』はその要素を自分好みに執筆したという面があります。『エンジェル伝説』っていう漫画はご存知ですかね。
身ノ丈あまる:『エンジェル伝説』面白いですよね。OVAとかにもなっていた気がします。
神埼黒音:そうそう。顔がめちゃめちゃ怖いのに、中身はすごく優しいっていう高校生の男の子の物語で、顔が怖いから、ヤンキーとかに絡まれるわけです。そういった作品からも、多少なりとも影響は受けていたりもするかもしれません。物語の方向性や展開については、最新刊になる第10巻で示すことができていると思います。一概に異世界転生系とも言いにくい作品ではあって、これから回収しなきゃいけない伏線もたくさんあるので、ぜひ第10巻も読んでいただきたいです。
――本作はかなり様々な設定が散りばめられている印象もあって、執筆前にはプロットや設定をどの程度詰めて書き始められたのかも気になるところです。
神埼黒音:キャラクターや物語について遡ると、発端は2001年になるんです。そこからずっと、頭の中で考えたり、自分でプログラムを組んでゲームを作ってみたり、少しずつではありましたけど、色々なことをしていました。そして紆余曲折を経て、2016年に長編小説として「小説家になろう」に投稿を始めた感じです。なので、準備期間という面だけで言うと、めちゃめちゃ長くもあって(笑)。とはいえ、読者の方にはあんまり堅苦しく見せたい作品ではないので、表向きはギャグをしながら、裏ではしっかりストーリーを詰めていく感じでやっていきたいですね。
――コミカライズを担当されている身ノ丈あまる先生は、本作のコミカライズを依頼された時はどのような心境だったのでしょうか。
身ノ丈あまる:専門学校在籍時代に、双葉社さんで新しいコミカライズレーベルが立ち上がり、作画担当者を探しているというお話が講師の方からあったんです。そこでコンペのような形で挑戦をさせていただいた結果、『魔王様、リトライ!』のお話をいただくことができました。嬉しいという気持ちも多少はありましたが、1ヶ月で30ページ前後を描けるのかといった、緊張や心配の気持ちが勝っていたような気もします。
神埼黒音:そのあたりは僕も少し記憶に残ってます。コンペのテーマが、ファーストさんの『神眼の勇者』だったんですよね。そのコンペのネームを当時の担当者さんから見せてもらって、めちゃくちゃ上手いなって思ったんですよ。
身ノ丈あまる:ありがとうございます。
神埼黒音:ネームはラフっぽい感じなんですけど、それでもお上手だってわかるくらいでしたから。あれが2017年になるんですかね。
身ノ丈あまる:連載が2017年10月からだったので、その年の夏くらいだったと思います。他の方も上手かったので、どうなるかなってずっと思っていました。あらためてコンペに受かってよかったなって思います。
――コミカライズも連載の開始から7年近くが経ちましたが、ネームや構成を考える上で、気を付けていることなどはありますか。
身ノ丈あまる:『魔王様、リトライ!』は、会話とギャグパートが重要だと思っています。とはいえ、原作から全文を書き出すわけにもいかないじゃないですか。なので、言い回しを変換したりするのですが、それぞれの「キャラクターらしさ」を保ったまま、漫画のフォーマットに落とし込むよう注意しています。あとは1話の中での場面転換は3回までって決めてますね。それ以上だと、読者の気が散ってしまうような気がしているので。
――神埼黒音先生から見たコミカライズ版の魅力、身ノ丈あまる先生からみた原作の魅力をそれぞれ教えてください。
神埼黒音:漫画版の魅力はやっぱり作画ですよね。漫画家さんって2タイプいると思ってて、絵柄が変わらずに描き続けられる方と、絵柄がだんだんと上手くなっていく方と。おそらく身ノ丈さんは後者だと思っていて、めちゃめちゃ上手くなっていってると思うんですよ。それが本当に凄いなと思ってて。第1巻の頃と比べたら作画力がびっくりするくらい上がってると思います。
身ノ丈あまる:ありがとうございます。自分でも第1巻の頃の絵は見返したくないなって思っちゃいますね(笑)。
神埼黒音:この作画力で文句を言う人は誰もいないでしょう(笑)。
身ノ丈あまる:私としては、もっと女の子を可愛く描きたい思いがあるんですよ。ネットに溢れているイラストを見ていると、可愛いイラストがいっぱいあるじゃないですか。
神埼黒音:それはあるかもしれないですけど、十分可愛いですよ。マダムの変身した姿も反響が凄まじかったですし。原型を残しつつ綺麗に変身したなって思います。
身ノ丈あまる:マダムはもともと、骨格は美人っていう前提で描いてましたからね。イメージはマツコ・デラックスでしたけど(笑)。
神埼黒音:変身前と変身後の中間地点も描かれていましたけど、本当に原型をうまく残しながら、削ぎ落して今の姿になっていってるんですよね。
身ノ丈あまる:ポケモンの進化みたいなものですね。
一同:――(笑)。
身ノ丈あまる:原作については、やっぱりキャラクターとテンポが魅力かなって思います。テンポが良くない作品は、読んでいても集中力が続かないじゃないですか。そういうことがないので一気に読めるんです。あとはどのキャラクターも2面性を持ってると思うんですよ。そういうのも含めて、このキャラとあのキャラが会話をすると、化学反応が起こって面白いというシーンがたくさんありますし、先の展開が気になるのも魅力だなって思います。
神埼黒音:ありがとうございます。
――あらためてお二人それぞれから、主人公の九内伯斗の魅力についてもお聞かせいただければと思います。
身ノ丈あまる:九内は外見と中身が乖離してるキャラクターじゃないですか。だから傍目から見ると格好良くてリーダーシップもあって、何を考えているかわからないミステリアスさがある。でも内心はめちゃくちゃ焦ってる。そんな二面性の部分がいいですよね。シリアスをやった直後に、ギャグパートをこなせるのも大きな魅力だと思います。
神埼黒音:九内は格好悪さと、格好良さが混ざり合っているキャラクターではあります。加えてボイスを津田健次郎さんがやってくださっていることも、影響としては大きいんじゃないですかね。見た目も声も渋い、でも中身は結構抜けたところも多くて(笑)。嫌われない主人公を目指していたので、そういう意味ではうまくいったかなって思います。
身ノ丈あまる:九内の二面性を描く上で、内心を描く時は等身を下げるようにしていたりもします。食パン顔にして、メリハリをつけようとは思ってますね。逆に格好良い時は、渋格好良い感じにする。描き方を少し変えることで、読者の方に「今ここは内心ですよ」って、わかりやすく伝える意味もあったりします。
神埼黒音:九内は外見の設定年齢より、中身である大野晶の方が若いことも二面性を助長させているかなと思います。この作品を投稿した当時、異世界転生系はおっさんが美青年に転生するといった、若返る作品が多かったんです。なので、逆張りでおっさんにしてやった方が面白いかなって考えました。
――お二人それぞれが気に入っているというキャラクターについても教えてください。
神埼黒音:全部のキャラクターを気に入っているんですけど、実質的に物語を動かしているのは、魔王ではなく田原勇です。そういう意味では欠かすことのできないキャラだなと思いますね。あとは小物キャラが好きなんですよ。クルマ・エビとか、フレイとか。こう言っちゃアレですけど、クルマたちも別に馬鹿ではありません。どちらかというと、あの世界では結構賢くて、それなりに優秀です。でも、想定外の力にしてやられちゃうっていうのが、可愛くていいなって思いますね。
身ノ丈あまる:私はやっぱりアクちゃんですね。もともと片目隠れのキャラが好きだったので、そういう意味でも「よっしゃあ!」って感じでした(笑)。
神埼黒音:絶対そうだと思ってました(笑)。なんで片目隠れのキャラが好きになったんですか。
身ノ丈あまる:直接これがきっかけで、というものはなくて、気づいたら目隠れキャラが好きになっていたんですよね。不思議です。
神埼黒音:自分はそういうフェチみたいなのものがまったくないから、逆に羨ましくすらあるんですよね。
身ノ丈あまる:創作者としては、たぶん珍しいですよね。
神埼黒音:そうですよね。みんなだいたい好きな何かがあるじゃないですか。
身ノ丈あまる:絶対ツルペタじゃないとヤダっていう方もいらっしゃいますしね。
神埼黒音:そうそう。みんなそれを突き詰めていくと思うんですけど、自分にはないんですよ。妙にフラットというか。なので本当に羨ましいです。
――お二人にとって作中における印象的なエピソードについても教えてください。
神埼黒音:執筆が大変だったという意味にはなるんですが、まだデビューしていない投稿時代の話ですね。九内とホワイトが予期せぬ混浴になってしまうエピソードがあって、そのシーンを描く際に本当に筆が進まなくて……。後にも先にも、お酒を飲みながら執筆したのはその時だけで、どうやって書けばいいのかわからなくて非常に苦労しました。物語の転換点という視点から挙げると、第4巻のエピソードになると思います。第3巻までは文庫でも出してましたし、第4巻は無印のアニメ放送中に刊行した巻になります。自分自身、ここで読者を引き寄せないと終わりだと感じていたので、第4巻と第5巻は全力投球をしました。そういう意味でも印象に残ってますね。
身ノ丈あまる:描いていて大変だったのは、神埼さんもおっしゃられた原作の第4巻と第5巻のエピソードになるかなと思います。疑似天使が登場したり、戦いが三つ巴になったり、物語自体もめちゃくちゃ動いていたので、本当に大変でした。筆が乗った方で言うと、アクちゃんがマダムに、「自分は周りと違ってなんの魅力もない」と吐露するシーンがあるんですけど、そこは描いていて楽しかったです。アクちゃんは本心を常に口に出してはいますが、珍しく不安な気持ちをつぶやいたシーンだったので、とても印象に残っています。
※原作小説第4巻から第5巻にわたるエピソードはお二方とも力の入れ具合が凄まじかったとのこと
※マダムの前でふとした気持ちを覗かせたアク
――ありがとうございます。キャラクターに触れていただいたところで、本作はキャラ名や国名など、ネーミングもかなり特徴的だと思います。どういった基準を持って考えていらっしゃるのでしょうか。
神埼黒音:一番はいかに読者の方に覚えてもらうかに重きを置いています。人の名前であれば、そのキャラクターとある程度結びつくようには考えてますね。例えばマーシャル・アーツっていうキャラクターは、明らかに強いんだなってなんとなくわかるじゃないですか。コマンド・サンボは、関節技を使ってくるやつだなとか(笑)。一度覚えた人間の脳って、意外と忘れないんです。5年ぶりに新アニメもやるわけですけど、そういえばこんな名前のキャラクターいたなとか、SNSでつぶやいている方もいて、狙い通り覚えていただけていて、嬉しさを感じました。
※名は体を表すとはまさにこのこと
――キャラクターとある程度結びつくようにというお話こそありましたが、読者視点からですと、明らかに笑わせにきてるんじゃないかっていう名前のキャラクターもいると思うんですけど(笑)。
神埼黒音:そうですね(笑)。エビフライ・バタフライとか、笑かしてやろうっていう気持ちもあります。明らかになんじゃこりゃっていう感じの名前もありますからね。名前で笑うっていうのもまた重要で、「これ、そもそも人の名前なの?」って感じながら、その人の記憶に残ると思うんです。
身ノ丈あまる:そのあたりは私も見ていて面白いなって感じます。中途半端にありそうな名前になっていないところも良いなって。絶対にフィクションだと言い切れるくらい清々しいじゃないですか。
神埼黒音:身ノ丈さんはお気に入りの名前のキャラっていたりするんですか。
身ノ丈あまる:インパクトの面で言うと、やっぱり長女のエビフライ、次女のカキフライじゃないですか。国の名前だとス・ネオとか。
神埼黒音:ス・ネオはお金持ちの国ですからね(笑)。やっぱり聞いたら忘れないような名前にしたいって考えちゃうんですよ。とはいえ、最近はそこまで変なネーミングはしてないと思いますよ!
※国や街の名前もじっくり読んでみると面白い
――続いて、それぞれ書きやすい(描きやすい)キャラクター、書きにくい(描きにくい)キャラクターについてもお聞きしたいです。
身ノ丈あまる:描きやすさで言うと、表情豊かで喜怒哀楽も激しいルナ・エレガントは描きやすいです。描きにくさでいうと……装飾が多いので田原かなって思います。
神埼黒音:そうなんですね。自分はてっきり、堕天使バージョンの魔王がすごく描きにくかったんじゃないかと思っていました。羽根とか絶対大変だったろうって。
身ノ丈あまる:あれも大変ではありましたけど、羽根よりも装飾品の方ですね。羽根は3Dがあるので、実はそこまで大変じゃなかったりするんです。なので、どうしても描き込まなきゃいけない装飾品が大変になります。特に田原は腰回りを描き込まなきゃいけないので。
神埼黒音:田原って腰に何つけてましたっけ?
身ノ丈あまる:銃とかポーチとか、警棒のようなものだとか、いろいろつけてますね。とはいえ外してしまうと、「っぽくない」んですよ。全体のバランスを考えても、自然と描くものが増えちゃう感じです。ほかに描きやすいキャラだと、トロンも等身が似ているんで描きやすいです。あと描きにくいキャラありました。巨乳キャラです。
神埼黒音:なるほど?(笑)。
身ノ丈あまる:ホワイトとかミンクとかですね。巨乳のキャラは、胸が動いたりするシーンだと、重力が加味されるじゃないですか。それが難しいんですよ。柔らかく描きすぎると垂れているみたいに見えるし、固くしすぎると鉛でも詰まってるんじゃないかって見えちゃう。そのあたりが難しいですね。
神埼黒音:自分は書きやすさでいうと、主人公の魔王が一番です。基本的に何をしていても違和感がないですし、ぶらぶらしながら酒を飲んでてもいいキャラではあるので、そういう意味でも楽ですね。書きにくいキャラは、これといっていません。唯一挙げるとするならば、近藤友哉くん。オタクキャラなんですけど、僕が今のオタク文化にまったく浸ってないんで、流行がわからない(笑)。なので、彼を何にハマらせたらいいかがわからなかったりするので、そういう意味での苦労はあります。
身ノ丈あまる:私は今のちょっと古いオタク像の方が、ブレなくていいんじゃないかなって思います。それこそ今のオタク層と、一昔前のオタク層って、価値観も微妙に違うと思うので。近藤くんがいきなりVTuberオタクになったら嫌ですもん(笑)。
一同:――(笑)。
神埼黒音:動かしやすさの面から考えると、身ノ丈さんもおっしゃられていましたけど、ルナですね。このキャラも何をしててもいいですし、何を言っても許されるしで。好き勝手できるキャラクターは、基本書きやすいかなと思います。
身ノ丈あまる:行動させるのに理由がいらないですからね。
神埼黒音:そうなんですよ。でもそれでいったら大抵のキャラクターが我儘なので、登場するキャラクターはみんな好き放題してるなって思っちゃいます。身ノ丈さんは挙げられませんでしたけど、アクちゃんは描きやすいのかなって勝手に思ってるんですけど、どうですか? ちょっとしたシーンでも絶対コマに出てくるじゃないですか(笑)。
身ノ丈あまる:アクちゃんを描く時はノリノリで描いてます!
神埼黒音:あとはオルガンとか……等身低めのキャラがやっぱり描きやすかったりするんですかね。
身ノ丈あまる:等身は低い方が描きやすくて、コマの中に入れやすいんですよ。魔王とアクちゃんくらい身長差があると、コマに収めやすかったりします。逆に身長が近い同士だと、カメラワークが難しくなったりするので大変ですね。
神埼黒音:なるほど。悪魔側は描きやすさ的にはどうなんですかね。オルイットとやケールとか、装飾としてゴテゴテしてるわけではないですけど、
身ノ丈あまる:ケールは鎌が大変です。私は3Dを自分で作っているんですけど、それでもやっぱり時間がかかるなって思います。キャラクターよりもやっぱり装飾品が大変で、かといって描かなさすぎると、ページが白くなっちゃう。大変だけど大切だなって思ってます。
神埼黒音:じゃあシャツとゲーム機くらいしかない近藤は描きやすかったり?
身ノ丈あまる:そうですね。近藤君はシャツの文言が面白いですよね。いくつかパターンはありますが、基本小説の挿絵で描かれていた「中トロ」で統一するようにしてます(笑)。
神埼黒音:シャツの文言はイラストレーターの飯野まことさんが送ってきてくれたんですよ。自分は面白いからそのままでいいと思っていて、あれは飯野さんの案でした(笑)。
※原作イラストを担当する飯野まこと先生の遊び心も垣間見える近藤
――ここまでありがとうございます。ちなみに本作のラストについては、既に決まっているのでしょうか。
神埼黒音:作品を書き始めた時から、エンディングは決まっています。そのラストに向かってずっと書いている感じですね。とはいえ、書きたいものはどんどん出てきますし、そのたびに矛盾が出ないよう調整はしていて、終わり方は決まっているけど、そこへ辿り着くまでに何巻必要になるのかは正直自分でもわかっていません。寄り道をどれくらいするのかにもよりますし、ずっと小説の作業だけをやれるわけでもないですからね。ただ、みなさんには期待していただけたらなと思います。
――アニメの放送開始に先駆けて、小説と漫画の最新刊も発売となりました。それぞれの注目ポイントについて教えてください。
神埼黒音:第10巻は二桁巻でもあって、メモリアルな巻でもあると思うんですよ。だからというわけではありませんが、物語の本質に切り込む巻にもなっていますので、ここまで本作を追ってきてくれている読者さんには楽しんでいただけたらと思います。
身ノ丈あまる:Rの第9巻ですが、表紙のホワイトがかなり多く登場する巻になります。ある意味、ホワイトの妄想が暴走している巻でもあるので、そのあたりを楽しんでいただけたらなと思います。
――最後にファンの皆さんに向けてメッセージをお願いします。
神埼黒音:ファンのみなさんには長らくお待たせする形になりました。この秋は一緒に楽しみましょう。
身ノ丈あまる:アニメ無印の頃から、続きを見たいとおっしゃられていた方がたくさんいらっしゃったので、お待たせしましたという気持ちです。装いも新たになっていますので、あらためてよろしくお願いします。
――本日はありがとうございました。
<了>
モンスターレーベル10周年記念企画第3弾として、『魔王様、リトライ!』より神埼黒音先生と身ノ丈あまる先生のお二人にお話をうかがいました。小説と漫画、それぞれの視点から、キャラクターや作品の魅力について掘り下げていただきました。アニメ『魔王様、リトライ!R』もいよいよ放送間近。アニメ放送に向けて、小説からでも漫画からでもぜひ本作を手に取ってみてください。小説『魔王様、リトライ!』、そして漫画『魔王様、リトライ!R』は必読です!
<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>
©身ノ丈あまる・神埼黒音/双葉社
©神埼黒音・身ノ丈あまる/双葉社・「魔王様、リトライ!R」製作委員会
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