独占インタビュー「ラノベの素」 結城弘先生『イマリさんは旅上戸』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2025年1月15日にGA文庫より『イマリさんは旅上戸』が発売された結城弘先生です。第16回GA文庫大賞「金賞+審査員特別賞」を受賞し、満を持して書籍を刊行されます。憧れの美人上司がお酒を飲むと……まさかの脱獄王に!? 旅とお酒とキャラクターをコミカルに描き出す本作の誕生秘話はもちろん、お酒を飲む前と飲んだ後とで変化する二面性が楽しいキャラクターについてなど、様々にお話をお聞きしました。

 

 

イマリさんは旅上戸

 

 

【あらすじ】

「その話、仕事に関係ある?」 バリキャリ美人・今里マイは、冷徹で完璧な女上司である。絶対的エースで超有能。欠点なしに見える彼女だったが……?「よ~し、今から箱根に行くで!」 なんと彼女は、酒に酔うと突発的に旅に出る「旅上戸」だった! しかもイマリさんを連れ戻す係に指名されたのは何故か俺で!? 酔っぱらい女上司との面倒でメチャクチャな旅だと思ったのに――「うちに、ひとりじめ、させて?」何でそんなに可愛いんだよ!! このヒロイン、あり? なし? 完璧美人OLイマリさんと送る恋(と緊張)でドキドキの酔いデレギャップラブコメディ!

 

 

――それでは自己紹介からお願いします。

 

結城弘と申します。出身は滋賀県で、現在も滋賀に在住しています。執筆歴は約12年で、2018年に作家デビューし、KAエスマ文庫より2冊の書籍を刊行させていただいています。作家活動以外にも、一昨年からライター業にも従事していまして、滋賀県の良いところを紹介していく記事をWEBメディアで書かせていただいています。仕事柄、普段は取材先に赴いて自分がインタビューをする側なので、される側としては新鮮ですし、緊張しますね(笑)。

 

 

――インタビュー取材をされている方へのインタビューというのは、私もそんなに経験がないので新鮮です(笑)。続いて好きなものや苦手なものについても教えてください。

 

好きなものは国内旅行で、その土地の地酒や地ビールを飲みながら、電車旅をするのが趣味です。知らない場所に行くこと自体が趣味になっている感じですね。それ以外だと、子供の頃から空想するのが好きでして、よく物語を妄想していました。誰かが作った世界にハマるのではなく、その世界を自分の好きなように膨らませることが好きなんです。たとえ嫌なことがあっても、空想や妄想をしている間は無敵っていう感覚は小さな頃からありました。苦手なことは、少し感覚的なお話になるんですが、周囲の考える「普通」という感覚に困惑することが結構ありまして。自分の好きな本に、ノンフィクションの『火星の人類学者』っていう本があるんですが、その本の中で動物学者が語った「地球人類には生まれながらテレパシーのようなコミュニケーションをとれる能力があるけど、自分にはそれがない」という言葉がすごくしっくりきました。そういった感覚を持っていたこともあって、高校時代は周囲と馴染むことができず、半分くらいは学校に行っていませんでしたね(笑)。なので、大して偉い存在になったわけでもないのに、作家だからと先生呼びされるのは少々苦手だったりもします。自分のこだわりとして、作家という職業を他の職業と比較して特別視をしたくない。僕としては交流の際に先生呼びはしないでもらえると嬉しかったりしますので、他の作家さんとお話をする際も「さん付け」で呼ばせてもらったりしています。

 

 

――ありがとうございます。執筆歴が約12年ということで、小説を書くきっかけはなんだったのでしょうか。

 

先程もお話したように、僕は妄想癖があって、空想するのが本当に好きだったんですよ。10代の頃は、漫画っぽいものを描いたりもしていたんですけど、絵を描くのがしんどすぎて、物語だけを書きたいと思うようになっていきました。その後、部活動が忙しくなり、創作めいたことから一時的に離れていたんですが、高校を卒業してからでしょうか。『半分の月がのぼる空』をたまたま手に取ったんです。そしたらめちゃくちゃ面白くて、それまで小説はまったく読んでこなかったんですけど、僕の中で小説の世界が一気に広がりました。小説という媒体なら形にできるんじゃないか、そう考えて小説を書くようになりました。

 

 

――漫画っぽいものを描いてこられたということは、今も描けたりするんですか。

 

いや、当時から人物なんて描けませんでしたし、それこそ描いていたのは星のカービィとか、ドラゴンクエストのスライムとか、割と簡単に描けそうなキャラクターでやっていました(笑)。ただ、読んだ友達からは、誰がどのキャラかわからないって言われてましたね。僕はハチマキとか巻かせて違いを表現していたんですけど、まったく伝わらず(笑)。漫画を描けたら便利だなとは思いますが、まったく描けないと言って差し支えないかと。

 

 

――なるほど(笑)。結城先生は京都アニメーション大賞で「奨励賞」を受賞され、2018年に作家デビューをされているわけですが、その当時、公募に応募しようと考えた理由はなんだったのでしょうか。

 

当時、人付き合いも誰かとしゃべるのも、今以上に苦手だったので、これは働けないなと思ったんです。でも小説家であれば、そんなにたくさんの人と会わなくても済みそうだって考えたのがきっかけでしたね(笑)。僕自身、周囲からはちょっと変に思われていたと思うんです。だから、このまま働いたら周囲からそう思われ続けるんだろうけど、小説家っていう肩書を持っていれば、多少変人でも受け入れてもらえるだろうって(笑)。ある意味この社会において、自分が普通になれる職業が小説家だったので、普通になりたくて小説家を目指したところもあります。

 

 

――執筆ジャンルとしてエンタメ、ライトノベルを選択したのはどういう経緯だったんですか。

 

当時ハマっていたのが、森見登美彦さんの『夜は短し歩けよ乙女』、有川浩さんの『図書館戦争』や『阪急電車』といった、どちらかというとエンタメ色の強い作品だったんです。心象風景に切り込んだ文学作品よりも、エンタメの方向に進みたいなという気持ちがありました。

 

 

――そして今回、あらためて公募の賞を受賞し書籍を刊行されるわけですが、再挑戦のきっかけはなんだったのでしょうか。

 

活動の幅を広げたい、その一点です。ここ数年間「今の自分のままじゃダメだ」、「書かなければ評価すらされない」と何度も感じてきたので、思い切って再挑戦しました。

 

 

――ありがとうございます。そうして応募した第16回GA文庫大賞にて、「金賞+審査員特別賞」を受賞されました。あらためて率直な感想をお聞かせください。

 

公募自体への応募は数年ぶりで、随分ひさしぶりの挑戦になりました。この作品を書きたいと思った時に、応募締切が近かったのと、自分の作品を受け入れてくれそうな土壌を感じてGA文庫大賞に応募したわけですが……受賞のお話をうかがった時は純粋に驚きました。特に今作は、これまで新作を考えていた時に込めようとしていたメッセージ性などは一切考えず、頭に思い浮かべたものを好き勝手に書いた作品でもありました。それを編集部や大森藤ノさんに評価していただけたことがすごく嬉しかったです。受賞連絡は電話でいただいたんですが、当時はビールを飲んで寝てたんですよ。抱えていた仕事が一段落して、休んでいた時に、何の電話だろうと思って取りました(笑)。

 

 

――では続いて受賞作『イマリさんは旅上戸』がどんな物語か教えていただけますでしょうか。

 

一言で言うと、ちょっと変わった男女がわいわい旅をするお話です。主人公のハシビロは、出不精で昔から感情表現が薄く、強面のせいで周囲となじめず、他人と距離を置いている主人公です。ゲームのデバック会社で働いており、上司の今里マイに憧れているんですが、彼女にはとある秘密があります。彼女はお酒を飲むと、放浪の旅に出てしまう(笑)。いわゆる笑い上戸、泣き上戸のように、旅上戸であることが発覚してびっくりすることになるんです。タイトルでは「イマリさん」ってカタカナになっているんですけど、ハシビロが酔った状態の今里さんを指して命名した言葉でもあります。イマリさんは会社にとっても欠かせない存在で、会社の上層部の社命によって、ハシビロがイマリさんを探して追いかけて一緒に旅をしていきます。シラフの時には口にしない本音や可愛い仕草を垣間見せる、憧れの人の新たな魅力を知るとともに、出不精でほとんど旅もしてこなかったハシビロが、新しい世界を知っていく物語にもなっています。

 

イマリさんは旅上戸

※お酒に酔って忽然と消えるイマリさんをハシビロが追いかける!

 

 

――本作の着想についても教えてください。

 

そもそも本作には原案と呼べる短編小説がありまして。2023年の夏コミで、今までの旅の記録をまとめた旅行記を作ったんです。その冊子の中に、3ページちょっとの短編小説を載せようと思って書いたものが原案になっています。当初は一人旅を象徴するような、静かな短編を書こうと思っていたんですけど、旅行記を作る中でテンションもあがって、せっかくなら男女がわいわい騒ぐアホらしい物語が書きたいと思い、『女上司は旅上戸』というタイトルで執筆しました。これまで自分は小説を執筆する時に、実際に訪れた土地の魅力や体験を作品の中に織り込もうとする癖があったんです。でも、ストーリー上で両立させるのも難しく、どうにかならないかと悩んだ結果、旅そのものをテーマにした小説を書いたら両立させられるのではないかと気づき、あらためて形にしてみようと考えました。

 

 

――結城先生は旅もお酒もお好きとのことで、作中ではキャラクターの旅先、登場するお酒も反映されているんですよね。これまで訪れた旅先で、一番美味しいと思ったお酒ってなんでしたか。

 

鹿児島県枕崎市の芋焼酎ですね。白波っていうブランドの蒸留所があるんです。そこを訪れるまでは、癖の強いイメージがあって、芋焼酎に美味しいイメージをあまり持てていませんでした。ただ、蔵に入った瞬間、心地いい香りが広がり、試飲した芋焼酎が癖もなく本当に美味しくて……。そこから本当に好きになりましたね。

 

イマリさんは旅上戸

※作中でも様々なお酒が登場する

 

 

――美味しいお酒が飲みたい方は、鹿児島県枕崎市の芋焼酎を要チエックですね(笑)。ちなみに結城先生は酔うと何上戸になるんですか。

 

よくしゃべるようになるので、しゃべり上戸?(笑)。ただ、お酒はそんなに強くないので、すぐ眠くなってしまいます。強いに越したことはないと思いますが、酒代もかかりそうですし、ちょっとで酔えるならそれはそれで燃費がいいのかなと思うようにしてます(笑)。

 

 

――では続いて、本作に登場する主要なキャラクターについて教えてください。

 

主人公の橋広滉代、ハシビロですが、最初に考えたこととして、主人公だけども個性的な人間にしたいと考えました。上司のイマリさんになぜ惹かれるのか、どうして好きでいられるのかを考えた時に、自身が罵られることが好きな人間にしようと思って、ドM設定になっています(笑)。あだ名にもある「不動明王」そのままに、動かざるが彼の性質だったりするんですけど、それがイマリさんの放浪癖「脱獄王」というあだ名と対になっているんです。二人の正反対の性質が、物語をどう動かしていくのか注目してもらえたらなと思います。

 

橋広滉代

※ゲームデバック会社で働く19歳のハシビロ(※キャラクターデザインより)

 

メインヒロインの今里マイは、ショートカットがとても似合う、うなじが美しいお姉さんです。雰囲気はバリキャリですけど、背丈は小柄で、酔うと可愛らしい魅力を持っています。気を付けたこととしては、酔ってウザ絡みするキャラにはしたくなかったので、そうならないよう注意しました。本編ではそんなイマリさんの姿を楽しんでいただけたらなと思います。

 

今里マイ

※会社のエースでしごできお姉さんなのだが……(※キャラクターデザインより)

 

もう一人のヒロインの須崎さんは、公募への投稿に向けて執筆していた際は、物静かで引っ込み思案なキャラとして進めていました。ただ、途中から物足りなさを感じ、最終的には締切の1週間前に性格変更を決意したキャラでもあります。どんなキャラかは本編を読んで深掘りしてもらえたらなと思います。ボブカットがとても似合う、スレンダーで美しいお姉さんなので、ぜひよろしくお願いします。

 

須崎さん

※ハシビロの同僚でもある須崎さん(※キャラクターデザインより)

 

 

――本作ではお酒がキャラクターの二面性を表現するトリガーになっているのも面白いですよね。コメディパートがスタートするぞ、みたいな(笑)。

 

そう感じてもらえるような、お約束というかお決まりの流れについては意識しましたね。イマリさんがお酒を飲んで、ハシビロがイマリさんを追いかけて、さあ物語が動くぞっていう。読者にも「きたきたきたきた」と思ってもらえるよう意識しているので、お酒を飲んだら陽気な道中が始まります(笑)。

 

イマリさんは旅上戸

※イマリさんがお酒を飲んでその場から消えると物語は急加速!?

 

 

――そして第1巻の時点では、主人公の橋広滉代は19歳と、まだお酒が飲めない年齢でもあります。彼からこの先、どんな上戸が飛び出すのか非常に楽しみでもあります。

 

その設定についてはもちろん含みがあります。含みがありますので、今後にご期待をいただければ(笑)。

 

 

――ありがとうございます。続いて書籍化に際してはイラストをさばみぞれ先生が担当されました。あらためてビジュアルを見た時の感想や、お気に入りのイラストについて教えてください。

 

イラストを担当していただいたさばみぞれさんには、イマリさんに関していろいろ難しい要求をしてしまいました。ですが、初めてキャラデザを拝見した時、その要求をクリアしていただいたばかりでなく、より魅力的に描いてくださってすごく嬉しかったです。もう一人のヒロイン、須崎さんのキャラデザを見た時も、鼻息を荒くして「これでお願いします!」って言っていましたね(笑)。お気に入りのイラストは、初めてハシビロとイマリさんが二人で旅に出るシーンで描かれた見開きイラストでしょうか。その1枚に自分の表現したかったことのすべてが詰まっていて、特にお気に入りです。

 

イマリさんは旅上戸

※結城先生が特にお気に入りだというイラスト

 

 

――また、巻末にも載っていますがコミカライズも決定しています。作画をぺけ先生が担当されるわけですが、著者として期待したいポイントなどがあれば教えてください。

 

ぺけさんの絵を拝見した瞬間、一目惚れしたというのが率直な感想です。絵柄が優しいですし、キャラクターも可愛らしく、安心してお任せできるなと思いました。ぺけさんの技術でさらに作品を広げたり、深めたりしていただけるんじゃないかなと思うので、お力を貸していただけるとありがたいなと思っています。女の子の赤面顔をとても魅力的に描かれるので、イマリさんたちが顔を赤らめるシーンを早く見てみたいと楽しみにしています(笑)。

 

イマリさんは旅上戸

※ぺけ先生が担当するコミカライズにも乞うご期待!

 

 

――あらためて著者として、本作の見どころや注目してほしい点はどんなところでしょうか。また、どんな読者が読むと、より本作を楽しめると考えていますか。

 

作品の見どころとしては、キャラ同士の会話はもちろん、描写している旅の情景も楽しんでいただけたらと思っています。登場する舞台は、実際に私が足を運んだ場所で、当時の感じた気持ちとかも詰め込んでいますし、その土地の魅力を知ってもらえたらいいなと思っています。良い意味で力を入れずに書けた作品でもあるので、気軽に手に取ってもらえたら嬉しいです。本作は何かを始めたいけど一歩を踏み出せない人、失敗することを怖がっている人たちに手に取ってもらいたいという気持ちがあります。私自身、そういう人間だったので。作中のゲームデバック会社での経験は、私自身の経験でもあります。何か踏み出したいけど踏み出せていない人は、この作品から一歩を踏み出すきっかけを感じ取ってもらえたらなと思います。

 

 

 

――今後の野望や目標があれば教えてください。

 

作家としての目標になるかなと思うんですけど、究極の目標としては、お気に入りの喫茶店で飲むコーヒーのような小説を書きたいです。あんまり自分の話を読んで、「人生変わりました」っていう体験を求めていないというか、そもそもそういう物語は書けないというか(笑)。それよりも自分の作品が、お気に入りの一杯のコーヒーを飲んでいる間だけは、現実を忘れられるかのような、そんな作品でありたい。これから書く作品もいろいろ形は変わっていくかもしれないですけど、根本の目標は変わりません。自分の作品を読んでいる間だけは、ホッと現実を忘れられるような、そんな作品作りを心掛けていきたいですね。

 

 

――最後に本作へ興味を持った方へメッセージをお願いします。

 

肩の力を抜いて楽しんでほしいと思って書きました。ハシビロとイマリさんのワイワイとした珍道中を楽しんでいただけたら嬉しいです。みなさんに買っていただけると、ハシビロとイマリさんがたくさん旅を続けることができますので、ぜひよろしくお願いします!

 

 

――本日はありがとうございました。

 

 

<了>

 

 

旅上戸な憧れの女上司に振り回されながらの珍道中を綴った結城弘先生にお話をうかがいました。書き手の好きを詰め込んだ、楽しく笑えるラブコメディ。惚れた弱みも垣間見える、酔いデレ上司と主人公との恋路からも目が離せない『イマリさんは旅上戸』は必読です!

 

<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>

 

©結城弘/ SB Creative Corp. イラスト:さばみぞれ

kiji

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『イマリさんは旅上戸』特設サイト

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