独占インタビュー「ラノベの素」 昼熊先生『自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は8月1日にスニーカー文庫より『自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う』が発売となる昼熊先生です。人間でもなく魔物でもなく、現代文明の利器のひとつ、自動販売機に転生した新感覚異世界ファンタジーについてお話をお聞きしました。
異世界で始まる自動販売機の大冒険!?
新感覚迷宮ファンタジー、開幕!!
【あらすじ】 交通事故に巻き込まれた「俺」は、目が覚めると見知らぬ湖の前に立っていた。体は動かず、声も出せず、訳もわからぬ状況に混乱し叫び出すと予想だにしない言葉が――!? 「あたりがでたら もういっぽん」 ど、どうやら俺は自動販売機になってしまったらしい……! 選択出来る行動は自動販売機の機能”のみ”。自力で動くこともできず、会話もまともにできない状況で異世界のダンジョンを生き抜く事は出来るのか!? 人気小説投稿サイト「小説家になろう」で話題沸騰! ダンジョンの奥深くで出会った少女と自販機を描く、新感覚迷宮ファンタジー開幕! |
――本日はよろしくお願いします。
よろしくお願いします。初めて経験なので迂闊なことを口走らないように気をつけます。
――どんどん口走ってください(笑)。まずは昼熊先生のプロフィールを教えてください。
大阪生まれの大阪育ちです。嫌いな食べ物は梅干しぐらいで、後は何でも食べられます。煙草、ギャンブルが嫌いというより、自分の意思の弱さを知っているので手を出さないようにしています。お酒は年に一度か二度、友人と飲むぐらいでしょうか。小説は昔から好きだったのですが、それは必然的に好きにならざるを得なかった環境でした。我が家の教育方針が漫画アニメ禁止で、娯楽が小説ぐらいしかありませんでした。ここで娯楽がないなら勉学に励むという選択肢もあったのですが、勉強嫌いな子供でしたから暇があれば本を読み漁っていました。それも漫画やアニメの代わりを求めていたので、子供が好きそうな冒険活劇やシートン動物記やファーブル昆虫記、世界や日本の偉人の話を好んで読んでいましたね。ライトノベルにはまったのは中学生になってからです。
――中学生時代にはまったライトノベル。自身の書籍化が決定し、今度は書く側に回りました。書籍化が決まった時の感想を教えてください。
この作品は「小説家になろう」という小説投稿サイトで連載していたのですが、運良く日間ランキング一位になり、週間ランキングも一位に到達した時に、書籍化の声がかかるのではないかと甘い期待を抱いていました。そう思いながらも、ないだろうなーと呑気に続きを書いていたら、スニーカー文庫様から書籍化の打診が来て我が目を疑い、何十回も確認しましたね。書籍化だけでも嬉しいのに学生時代から読み耽っていたスニーカー文庫様からの打診でしたので。その後のことはあまり覚えていません……嬉しさのあまり拳を突き上げていたような記憶があるような、ないような。
――また本作には「この素晴らしい世界に祝福を!」の暁なつめ先生がコラボ小説を書き下ろして、初版限定で封入されるとお聞きしました。この企画が決まった経緯と感想をお聞かせください。
幸運にも暁なつめ先生が私の作品を読んでくださっているという話を担当さんから聞きまして、何か絡めたら一方的に自分が得するなと……いえ、失礼しました。何か面白いことができたら、嬉しいなぐらいの気持ちでしたのですが、まさかまさかの展開です。その日以来、関東方向に足を向けて寝たことがありません。
――それでは早速、昼熊先生のデビュー作『自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う』の物語について教えてください。
一般的な異世界転生ものですね。平凡な自動販売機マニアの主人公が自動販売機を交通事故から守って死んでしまい、気がつくと湖畔で独り自動販売機になって佇んでいました。そんな主人公の元に怪力ヒロインであるラッミスが現れ、自動販売機である主人公を背負って移動することになります。自動販売機である主人公がどうやって異世界で生きて行くのか。そんな物語です。
――本作は生物などへの転生ではなく、ファンタジー要素からも縁遠い自動販売機への転生ということですが、着想のきっかけなどはあったのでしょうか。
実は、初めて「小説家になろう」に投稿してから四年が経っていまして、その間に何作も投稿してきたのですが、処女作と次の作品は読者も少なく殆ど評価されませんでした。これは才能ないなと諦めかけていたのですが、サイトの人気作品や好まれる展開を自分なりに考察して、次の作品を書いたら高評価をいただきまして、調子に乗って次々と作品を書き続けていたのです。ただ何作書いても書籍化に届くことはなく、迷走しているときにいっそ開き直ってオリジナル色の強いとんでもない作品を書いてみようと思い立ち、この作品が出来上がりました。
――ちなみに昼熊先生は自動販売機は好きなのですか?
好きですよ。流石に主人公ほどではありませんが。以前は体力勝負の仕事をしていた時期もあったので、夏場は自動販売機で水分補給をしないと仕事になりませんでしたから。仕事柄、結構色々な場所に移動していましたので、珍しい自動販売機に遭遇することも多く、その時の経験がこの作品に生かされています。個人的に感動した自動販売機は冷凍食品メーカーの自動販売機ですね。自動販売機の食べ物って食堂とかと比べて味が劣ると考えている人が多いと思うのですよ。正直、私も食べるまでそういう考えでした。ですが、この自動販売機でから揚げや炒飯を食べた時に、考えが変わりました。本当にお世辞抜きで美味しかったので。
――なるほど。自らの経験も本作には活かされているわけですね。では主人公となる自動販売機、作中ではハッコンと呼ばれるようになりますが、どんなキャラクターなのか教えてください。
元々は自他共に認める自動販売機マニアで、給料の大半を自動販売機の商品に費やしていました。珍しい自動販売機があると情報を得たら、休みの日に車でわざわざ見に行くぐらいのレベルです。生まれ変わってからはごく一般的な自動販売機の外見ですね。商品は生前に購入した物しか出せないので、自動販売機マニアだったことがプラスになっています。
※本作の主人公であるハッコンのキャラクターデザイン
――自動販売機であるがゆえのハッコンはコミュニケーション面での苦労が垣間見えます。一方で、機械音声により発せられる言葉のチョイスは、使いどころなどシュールで笑えるシーンも多かったです。言葉の取捨選択で意識したことはありますか。
まず、自動販売機を主人公にする際に考えたのは、話せる言葉を少なくしようでした。いきなり流暢に話しては自動販売機らしさが台無しですし、シュールな笑いを誘うにはこの方が面白いと思いましたので。言葉のチョイスは一般的な「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」は外せないので、後は当たり付きの機能があるなら「ざんねん」や「あたりがでたらもういっぽん」といった言葉が使えるなと。この二つの言葉は作中でも使い勝手のいい言葉なので重宝しています。本当はもっと使える言葉を考えていたのですが、多くすると普通に会話が成立してしまい面白味がなくなるので、あえて削りました。
――ハッコンは外見から非常にわかりづらいですが、性格的な内面はかなりイケメン設定だという印象を受けました。特に気を遣って書いている点などがあれば教えてください。
見た目が自動販売機で話せる言葉も少なく、自分で動くこともできない主人公です。それで性格が悪かったらどうしようもないので、内面が魅力的に思える人格を目指しました。自動販売機に生まれ変わった境遇を受け止め、喜んでくれるお客様を大切にして、ヒロインや仲間たちを守りたいと願う気持ち。無機物になってしまったからこそ、内面は人らしくあって欲しい。そう思って書いています。
――そんなハッコンをはじめとするキャラクター達が活躍する舞台は迷宮の階層となるわけですが、本作における全体的な世界観についても少し教えてください。
迷宮の外は猛威を振るう魔王軍と帝国が争い、かなり危険な情勢です。魔物や人間や亜人が存在するのですが、獣人は動物の姿そのままで二足歩行をしています。猫耳や尻尾だけ付いている人間という優しい世界ではありません。魔法や神から与えられた特別な力である加護といった能力も存在していて、加護の力は人生を左右する程大きな力となっています。迷宮は階層ごとに一つの別世界といっても過言ではないぐらい環境が違います。主人公たちがいる階層は湿地帯で、蛙や蛇や鰐の魔物が徘徊しています。
――ありがとうございます。今後ハッコン達が迷宮の外に向かう日がやってくるのかも注目ですね。さて、本作には魅力的なキャラクターも多く登場します。昼熊先生のお気に入りのキャラクターを教えてください。
お気に入りは、まずヒロインのラッミスですね。この子は明るく元気で可愛らしいという理想的なキャラクターをしています。ハッコンは感情表現が不可能なので、その分、彼女が感情豊かな性格になっています。彼女が関連するシーンだと危険な状況で自動販売機を背負いながら荷台を引くところでしょうか。彼女の性格が良くわかるシーンですね。
※明るく元気で表情豊かなラッミスのキャラクターデザイン
後はラッミスの幼馴染であるヒュールミでしょうか。スタイル抜群で人当たりのいいラッミスとは真逆を目指しました。なので、ペッタンコで男勝りで口が悪かったりもします。ですが、姉御肌で実は付き合いが良く心配性という可愛らしいところもあります。ヒュールミに関しては、とある自動販売機の商品と比べられる場面がありまして、読み返すと酷いなと我ながら思いますね。
※ヒュールミのキャラクターデザイン
――キャラクターデザインをはじめ、本作にも多くのイラストが製作されたわけですが、お気に入りのイラストはありますか。
何といってもカバー絵ですね。これ程インパクトのある絵はないと思います。知らない人でも思わず立ち止まって二度見してしまうのではないでしょうか。他にもお色気シーンやスオリというお嬢様キャラがハッコンともめる場面も好きですね。絵に関しては自分の理想の遥か上をいく出来栄えだったので、大満足ですよ。これで文句を言ったら罰が当たります。加藤いつわ様には本当に感謝しています。
※可愛い女の子が自動販売機を背負うカバーイラストに思わずみんな立ち止まる!?
――本作はWEBで連載されている作品ということもあり、WEB版と書籍版で違いがあれば教えてください。
書籍版では三話追加エピソードがあります。それからプロローグが全く別物となっています。あとエピローグも追加されていますね。他は大きな変更点はありません。キャラの性格も性別も年齢も同じです。
――発売となった『自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う』はどんな方に読んでもらいたいですか。
自動販売機という身近な存在が主人公なので、ファンタジーに興味がない人も面白く読めるのではないかと勝手に思っています。逆に異世界に転生する作品に飽きた人にも読んで欲しいですね。この組み合わせは他にありませんので。
――作家として、これからの目標ややってみたいことがあれば教えてください。
まずはこの作品が書店に並ぶのをこの目で確かめたいです。後は続巻を出したいですね。贅沢を言うなら人気が出てアニメ化となるのが理想ですが、夢であった小説家になれたのですから無謀でも目標は高く。
――それでは最後にファンのみなさんに向けて一言お願いします。
既に「小説家になろう」で読んでくださっている読者の皆様。夢にまで見た書籍化が叶ったのは、皆様の応援があったからこそ。この物語を書けたのは私だけの力ではありません、本当にありがとうございます。そして、これからもよろしくお願いします。初めてこの作品を知ったという方は是非、一度目を通してください。あり得ない組み合わせの物語。退屈はさせません。
――本日はお忙しい中ありがとうございました。
こちらこそありがとうございました。
<了>
ファンタジー世界に自動販売機という異色の組み合わせで物語を書き綴った昼熊先生にお答えいただきました。シュールな笑いも満載な『自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う』は必読です!
©昼熊/KADOKAWA 角川書店刊 イラスト:加藤いつわ
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