独占インタビュー「ラノベの素」 槻影先生『誰にでもできる影から助ける魔王討伐』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2017年3月31日にエンターブレイン単行本より『誰にでもできる影から助ける魔王討伐』第2巻が発売となる槻影先生です。第1回カクヨムWeb小説コンテスト「ファンタジー部門」にて「大賞」を受賞し、早くも第2巻、そしてコミカライズも進行している本作についてお聞きしました。
【あらすじ】 チート級の力を持つ聖勇者と、国に選出された精鋭である魔導師と剣士。才能はあっても経験値がない、先行き不安な勇者一行をサポートをすることなった僧侶アレスは、頭を抱えていた。「なんでここを選んだし……」勇者たちの次なる目的地は、ユーティス大墳墓。アンデッドに怯える聖勇者なんて存在してはいけない。しかし、そんな情けない聖勇者の姿を、最も見られてはいけない人物が現れて……!? あらゆる神敵を殺戮する殲滅鬼、グレゴリオ・レギンズ。異端殲滅教会序列第3位、最低最悪の男、登場。 |
――かなり緊張されているご様子ですが、本日はよろしくお願いします。
インタビューは初めてなので至らぬところがあるかもしれませんが、よろしくお願いします。お喋りも得意な方ではないので、粛々と答えていけたらと思います(笑)。
――インタビューが初めてという作家さんも少なくはないのでフラットにいきましょう。それではまず、自己紹介からお願いします。
ペンネームは槻影です。WEB小説が今ほど注目されていなかった10年くらい前から、掲示板や小説投稿サイトで小説を書いていまして、2015年にファミ通文庫さんから『堕落の王』を出版させていただきました。そして今回、カクヨムで執筆していた『誰にでもできる影から助ける魔王討伐』が、第1回カクヨムWeb小説コンテストのファンタジー部門で「大賞」をいただき、出版することになりました。もともとライトノベルや漫画などのサブカルチャーが大好きで、具体的に作家を目指していたわけではないんですが、縁があってこうして作家をやらせていただいています。
――作家を目指されていたわけではないとのことですが、小説を書いてみようと思った理由はなんだったのでしょうか。
読書がもともと趣味で、読んでいるうちに自分でも書きたいなっていう欲求がでてきたのが始まりかもしれません。私の中学時代に、ライトノベルの走りと言いますか、有名どころが続々と刊行されていたタイミングでして。いろんな作品に触れていたので、そのあたりも大きく影響しているかもしれないです。
――槻影先生はWEBでの執筆歴がとても長いですよね。
うーん、どうなんでしょう(笑)。最初は小さな掲示板で書き始めて、その後は「小説家になろう」ができると、そっちでも書くようになりましたね。やる夫スレも気になっていた時期はありましたが、アスキーアートを貼り付けながらやったことはなかったです。あとは自分のブログを持って書いていたこともありましたけど、最終的には人の多いところで書くようになりました。
――様々な場所で書かれていた槻影先生が、賞も受賞した「カクヨム」で書いてみようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。
もともと新しいものが好きで、新しくサイトができたのでとりあえず触ってみようかなと。あんまり深い考えとかがあったわけじゃないです。それに正式サービスが開始する前から、WEBで小説を書いている人達の間では話題になっていたというのもありますね。
――なるほど、ありがとうございます。それではあらためて『誰にでもできる影から助ける魔王討伐』はどんな物語なのでしょうか。
世界観はRPG風な異世界をベースにしたファンタジー小説です。魔王を討伐するために異世界から聖勇者を召喚するのですが、召喚された勇者は戦闘もできず、性格も未熟です。そんな勇者を現地人の主人公アレスが手助けをするという物語ですね。世の中は異世界転生ものが流行っているという印象なんですけど、それを別の視点で見る…という物語になっています。コメディとシリアスを融合させている点も見どころのひとつになっているんじゃないかなと。
――『誰にでもできる影から助ける魔王討伐』を執筆しようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。
日頃からいろいろとネタ帳に書き溜めているんですけど、カクヨムがスタートした時にネタ帳を振り返って、なにか一本書こうと思っていました。その中で、一番ネタとしてまとめやすい作品だったんですね。もともと現地人ものも好きだったので、じゃあ書くか、と。
――本作の魅力はどういったところにあると考えていますか。
この作品は現地人であるアレス側の視点と、召喚された勇者側の視点、それぞれから始まる物語なんですが、双方の視点の違いによって見えてくる物語の印象が変わってきます。そこがひとつ本作の魅力だと思っています。
――確かにそこは面白いですよね。第1巻を読まれた方はわかると思いますが、勇者が抱えているものはアレスから見えていないわけですし。
そうですね。第1巻の最後で明かされた勇者の秘密も含めて、それぞれの視点からのズレや違いは意識して書いていました。どういったタイミングで明かそうかと考えていましたし、勇者の周囲にはまだまだ明かされていないギミックも残っているので、物語を続けていけたらなと思います。
――本作の主人公であるアレスは、一言で表すと苦労人に尽きると思いますが、槻影先生から見たアレスはどんなキャラクターですか。
苦労人なところがあり、そしてかなりの現実主義者でもある。実際に我々もそうだと思うのですが、社会に出てみるといろんな苦労があるよね、みたいな想いをアレスに重ねて書いている部分はありますね。後はもともとの性格でもあるんですが、やることはやるけど力技、というタイプでもあります。なので、他のキャラクターへのアタリは総じてキツめかもしれませんね(笑)。
※常に苦労とストレスに苛まれているアレス
――アレスは教会と勇者という二人の上司を持つ中間管理職のようなポジションで、本当に苦労が絶えないなと思います。
文句を言いながら、それでもなんとかしようとはしますからね。アレスは読者が感情移入しやすいように設定してあって、いかなる苦難にも力づくで立ち向かう姿をイメージして書いています。アレスには試練がたくさんありますし、まだまだ未熟なところもあります。なので、アレスの成長も描きながら、窮地に追いやっていこうと思っています。
――窮地にはやっぱり追い込むんですね(笑)
窮地に追いやられることがアレスの仕事という見方もできなくはないです。我々の現実世界も似たようなものだという想いが私の中にはあるので(笑)。
――アレスは実際問題、タイトルにある「魔王討伐」以上に、ずっと身内と戦っている気さえします。
まだ物語は序盤なので、そう見えてしまいますね。最終的にはちゃんと魔王とも戦いますのでご安心を。ただ、世の中の面倒な厄介事って、外側よりも内側の方に多く存在するということを、作中で体現しているという点もなきにしもあらずです(笑)。
――アレスの苦労ばかりに目がいきがちな本作ですが、お気に入りのキャラクターはいますか。
やっぱり主人公のアレスがお気に入りですね、どんな時でもくじけず立ち向かい続ける姿勢は、書いている自分が言うのもおかしな話ですが、尊敬するべき点なのかなと思います。女性陣だとアレスを支えるアメリアですかね。クールビューティーではあるんだけどおちゃめな部分もある。そのあたりは気に入っています。まぁ、作者なので全員気に入ってるんですけど(笑)。
※アレスを補佐するアメリア。本作唯一の癒し系の存在との呼び声も高い?
――続いては新キャラクターについて教えてください。第2巻から登場するグレゴリオは、どんなキャラクターなのでしょうか。
グレゴリオは一言で言うなら強烈なキャラクターです。アレスと同じ教会に所属しているのですが、立ち位置としては彼の天敵でもあります。分類上では仲間のはずなんですけど、決して好ましい相手ではありません。神にすべてを捧げている狂信者で、神に対する考え方はアレスと対極にいると言ってもいいです。さっきの身内と戦っているという意味では、グレゴリオも例に漏れないと思います。
※第2巻より登場するグレゴリオ
――これまたアレスの胃が痛くなりそうですね。アレスの画策で勇者パーティのメンバー候補者になるスピカはどんなキャラクターでしょうか。
スピカは教会の孤児院からパーティに抜擢された大人しいキャラクターです。ですが、実は芯が非常に強い女の子でもあります。第2巻を読んで確かめていただきたいのはもちろん、今後の物語ではアレスも読者も予想していない方向に成長を遂げることになるんじゃないですかね(笑)。
※第2巻より登場するスピカ
――さて、そんな本作はコミカライズ企画も進行していますが、進捗状況などはいかがでしょうか。
私の方ではコミカライズのカットやキャラクターのイラスト、魔物のイラストなどを見せていただいています。監修については隅々までチェックするというよりは、お任せしているイメージですね。自分の作品はモノローグが多いので、漫画と小説とでどんな違いが見えてくるのか、とても楽しみにしています。
※貴島煉瓦氏作画によるコミカライズも間もなくスタート!
――コミカライズでは、アレスがつらい目にあうシーンが次話への引きになっているというお話を伺いました(笑)。
確かにWEB連載でも読者からストレスが溜まるという感想は来ていました。でもそれがこの作品の特徴なので、どうしてもそうなってしまいますよね(笑)。
――コミカライズも楽しみですが、先日第2巻の発売を記念する特設サイトも公開されました。アメリアの生音声での応援ボイスなど、更なるメディアミックスの予感を感じさせられるのですが、いかがですか。
メディアミックスはいろいろやれたらいいですよね。書き手としては書くこと以外にできることは多くないですが、いろいろな展開が実現すれば、とても幸福なことだと思います。
※みんなで応援ボタンを押して、アレスがちょっと幸せになる短編や、アメリアの応援ボイスを聞こう!
――特設サイトはぜひチェックしていただければと思います。さて、作中では腹痛や頭痛や震えをはじめ、アレスは相当ストレスを溜めこんでいるわけですが、槻影先生ご自身はストレスには強いのですか。
私個人としては何を言われても大丈夫な程度には耐性があると思ってます。長らくWEBで執筆してきましたし、いろんな感想もその都度いただいてきましたので。とはいえ、あまり溜めこまないようにはしています。
――ストレスを溜めない秘訣はあるんでしょうか。
私はあんまり外に出ないので、ジャンル問わず面白い作品を読むだとか、勉強がてらじゃないですけど、インプットすると同時にストレスをアウトプットする感じでしょうか。インプットに夢中になりすぎて、執筆をはじめとしたアウトプットをしなくなることもありますが(笑)。私自身、かなり調子に波があるので、調子が悪い時はインプットに徹する。そうでない時はアウトプットに徹する。そうしてバランスをとっているつもりです。ただ、調子が悪い状態で書かないといけない時は、SNSなんかで「調子がいいから頑張るぜ!」みたいにつぶやいて、自己暗示をかけたりしていますね。
――調子がいいという発信は不調の表れであると(笑)
そうですね、めっちゃ書けるみたいなコメントをしている時は軒並み不振ですね(笑)。あ、編集さんは聞かなかったことにしておいてください。
――それではいよいよ発売となる第2巻の見どころについて、あらためて教えてください。
第2巻はやはり、強烈なキャラクターであるグレゴリオ、そしてスピカが見どころになると思います。その2人とアレスの関わりであったり、そこから生じるアレスの苦労などを楽しんでいただけたらと思っています。そして、bob先生が描くグレゴリオのビジュアルにも注目してもらいたいですね。小説を書く時はイラストを意識して書いていないんですが、bob先生にはいつも素晴らしいイラストを描いていただいているので、そちらも私と一緒に楽しみにしてもらえればと思います。ちなみに表紙のグレゴリオのイラストは、これでもかなり柔らかくしてもらってます。それほどまでに一筋縄ではいかないキャラクターであると、イラストを通じて読者に伝わってくれたら嬉しいですね。今巻もアレスは間違いなく苦労しますので!
――これからの目標などもあれば教えてください。
現時点では、この作品を最後まで書ききって楽しんでもらいたいというのが私の目標です。あとはまた、別の作品も出して行けたらと考えていますが、今はこの作品に力を入れていくことが第一だと思っています。アニメ化なんかは、運がよければ、と。私にできることはとにかく書くことだけなので、粛々と執筆していきたいと思います。
――最後に『誰にでもできる影から助ける魔王討伐』のファン、並びにこれから読もうとしている方へ一言お願いします。
この物語は、万人に楽しんでもらえるようになっていると思っています。社会人の皆さんには、苦労性のアレスに共感しつつ、どう障害を打ち破っていくのか、その過程を楽しんでもらえたらと思います。あとは、コメディ要素も多く盛り込んでいますので、なんとなく笑いたい人にも楽しんでもらえるんじゃないかなと。第1巻と比較しても、第2巻はかなり書き下ろしていますので、WEBで読まれていた方にもあらためて楽しんでいただけると思います。引き続き『誰にでもできる影から助ける魔王討伐』をよろしくお願いします。
――本日はありがとうございました。
<了>
異世界から召喚された勇者を現地人が駆けずり回ってフォローする新感覚ファンタジーを手掛ける槻影先生にお答えいただきました。発売となる第2巻でアレスの苦労は報われるのか、ストレスが軽減する日はやってくるのか。魔王の討伐に向けて奔走するアレスと勇者の物語に注目です。『誰にでもできる影から助ける魔王討伐』は必読です!
©槻影/KADOKAWA エンターブレイン刊 イラスト:bob
[関連サイト]