【特集】『賢者の孫』吉岡剛先生&緒方俊輔先生アニメ化企画進行中&シリーズ3ヶ月連続刊行決定インタビュー

シリーズ累計80万部を突破し、アニメ化企画も進行しているファミ通文庫刊『賢者の孫』を大特集。2017年9月30日に発売する最新7巻からシリーズ3ヶ月連続刊行も決定している本作。原作者の吉岡剛先生とコミカライズを担当する緒方俊輔先生をお招きし、『賢者の孫』の魅力についてお聞きした。設定の考え方からコミカライズ決定の裏話、アニメ化企画がスタートした心境など、盛りだくさんの内容でお届けする。

【あらすじ】

創神教教皇エカテリーナから新しい二つ名を拝命したシンとシシリー。彼らが嬉しくも恥ずかしい二つ名に身悶えている中、ついに動き出した「魔人領攻略作戦」。魔人領の中枢である旧帝国に辿り着いたシン達連合軍だったが、翌日の総攻撃に備えるための小休憩の最中、功を焦った一部の軍人が、魔人の軍団に攻撃を開始してしまった!! 戦闘音に気づいたシン達は、すぐさま現地に向かうのだが……。大人気異世界ファンタジーライフ、第七弾!!

・吉岡剛(インタビュー内は吉岡

ファミ通文庫刊『賢者の孫』を執筆

・緒方俊輔(インタビュー内は緒方

ヤングエースUPにて『賢者の孫』コミカライズを執筆

――アニメ化企画のスタートとシリーズ3ヶ月連続刊行おめでとうございます。本日はよろしくお願いします。

吉岡緒方:よろしくお願いします。

――それでは早速ですが、各々自己紹介をお願いします。

吉岡:吉岡剛です。兵庫県神戸市出身です。以前はナレーター業に携わっていたのですが、現在はなぜか小説家をやっているという、よくわからない人生を歩んでいる最中です(笑)。バイクが好きで、バイクレースのMotoGPの観戦にも毎年行っているのと、バイクでのツーリングが好きです。週一のペースであちこち行ってます。関東圏では宮ヶ瀬ダムから山中湖へと抜ける山道がオススメのツーリングポイントです。

緒方:漫画家の緒方俊輔です。『賢者の孫』のコミカライズを担当しています。何気に商業誌デビュー10年を迎えました。とは言ってもこの作品に携わるまでは3年ほど漫画から離れていたので、3年ぶりの漫画連載に緊張しながら取り組ませてもらっています。料理と温泉に浸かるのが好きで、温泉は伊豆や四国をはじめ全国的に周ってます。宿泊部屋に個室の温泉がある旅館を選ぶことも多くて、とにかく延々と浸かってます。最近は忙しくてなかなか行けていないので、また温泉に行きたいです。

――ありがとうございます。先ほど耳にして驚いたのですが、お二人は今回が初顔合わせだとうかがいました。

吉岡:そうですね。お互いに編集さんを通してやり取りをしているので、緒方先生との間にはいつも自分の担当編集さんと緒方先生の担当編集さんの2枚のフィルターを挟んでいる状態です(笑)。なので、話が伝言ゲームで変化している可能性もあるかもわからない(笑)。

緒方:今回初めて顔合わせさせていただいて、良い機会でした。吉岡先生のおっしゃる通り、基本的には担当編集さんを通してのやり取りでしたので(笑)。

――本日はフィルターなしで存分にお話いただけたらと思います。それでは早速『賢者の孫』について教えてください。

吉岡:凄く簡単に表現すると異世界転生ものです。現在の知識を持ったまま、一度生まれ変わって子供からやり直したらどうなってしまうのか。現世とは異なる世界で知識を活かしながらはっちゃける少年の物語です。物語的な観点ではなく、作品のコンセプトとして読者へのストレスフリーを一番に考えて執筆している作品ですね。読んでストレスを発散できる作品になっていると思います。

――本作の主人公であるシン・ウォルフォードは自重できない、常識不足という少し特殊な特徴を持っていますよね。

吉岡:シンは格段無茶をやっているつもりはないんだけど、他人から見たときに「なにやってるんだ」というギャップを作りたかったキャラクターですね。わざと「やりすぎかな?」とキャラクターに思わせて動かすのではなく、「こんなことができたら凄いんじゃないか」といった探求心から行動を起こすので、周囲から総ツッコミをくらいます。無自覚の無自重みたいな。『賢者の孫』は8割から9割方コメディのつもりで書いているので、読者にもツッコミを入れてもらい、笑わせられたら勝ちだと思ってます(笑)。

※無自覚の無自重が特徴的な主人公シン・ウォルフォード

――シリアス面の要素には、シンたちの前に立ちふさがる魔人という存在がいますよね。

吉岡:そうですね。ただ魔人はこういう存在、と表現するのは少し難しかったり。というのも、自分の設定の作り方はかなり特殊だと思っていて、世界に登場させるものを決めてからバックボーンを組み上げていくスタイルなんです。作中にシュトロームという魔人が登場しますが、なぜ魔人になったのかまでを突き詰めていくんです。なので、物語全体の大きな世界観から設定を派生させるのではなく、登場させたいもの、登場させたものから世界観を作り上げていくイメージなので、広義に魔人とはどんな存在なのかに私自身が辿り着くまでは、まだまだ先のお話になるかもしれません(笑)。

――ありがとうございます。続いては緒方先生におうかがいします。コミカライズを担当することになった経緯をお聞かせください。

緒方:今回漫画を担当している編集さんとは以前からのお付き合いがあって、1年ぶりに電話をいただいたのがきっかけでした。ただ、電話をいただいたタイミングがちょうど温泉に浸かっている時で、結局折り返しは自宅に戻ってからだったという(笑)。当時は漫画から少し離れていたのですが、挑戦してみないかということで候補を2本ほど紹介いただきました。そのうちの1本が『賢者の孫』で、先にOKをいただいたことから担当することになりました。実際に物語を読んで非常に入りやすかったことと、凄く描きやすそうだと感じた点も魅力でした。

――コミカライズについて吉岡先生はほとんど関与されていないというお話ですが実際はどうですか。

吉岡:ネームを送っていただいて台詞の違和感を修正するくらいですかね。それも序盤からどんどんなくなっていきましたが(笑)。漫画を作る側として自分は素人も同然なので、良し悪しの判断を付けることも難しい。変に要望を言ったところでロクなことにはならないと思っていたので、専門の人にお任せしようと。なので完全にお任せしています。

緒方:もっといろいろと言っていただいた方が安心できたりもするんですが、直接お話を聞けて安心しました。これ描いて吉岡先生怒っていないだろうかと日々恐る恐る描いてますから(笑)。

吉岡:むしろもっとはっちゃけていいんじゃない? みたいな提案を最初の時にしたくらいですよね(笑)。初めて緒方先生から受け取った第0話に、シンが空を見上げるシーンがあるんです。このシーンが本当に僕のイメージとぴったりだったんですよ。感性が似ているのかどうかはわからないですけど、直感で緒方先生ならお任せしても大丈夫だって思いました。

※イメージとぴったりだったという空を見上げるシーン

緒方:ありがとうございます(笑)。もっとはっちゃけた方が、っていうのはコメディシーンのリアクションの大きさとかですよね。自分も元々ギャグを描いていたので、それなら遠慮なくやってもいいのかなと。普通のファンタジー漫画というよりは、コメディに寄せられた物語でもあるので、自分自身の性に合った描き方ができていて、本当に楽しいです。

吉岡:そりゃよかった(笑)。

緒方:按配が難しいじゃないですか。ギャグ表現もやりすぎちゃうとイマイチになることもありますし(笑)。

吉岡:小学生向けのギャグ漫画なんかとはやっぱり違う面もありますからね。

緒方:顔の崩しなんかも大丈夫ですかね。

吉岡:全然問題ないですよ(笑)。

――せっかく顔を合わせられているので、お互いに聞いてみたいことがあればぜひ。

吉岡:うーん、本当に僕の作品を担当してもらってよかったのかなとは思いましたよね。緒方先生は漫画家として10年やってこられていて、僕は『賢者の孫』が初めて書いた小説なわけです。デビューして間もないのに、本当に『賢者の孫』に手間をかけてもらってもいいのかなという思いが正直ありました(笑)。

緒方:それはお互い様なのかなと(笑)。コミカライズのお話自体、自分が漫画から離れていた時期にいただいたお話なわけですし、本当にありがたいという言葉以外にないです。ここまでヒットされている作品を描かせていただけるというお話もそうそうないですからね。楽しく描かせてもらってます。

吉岡:それなら安心です。

緒方:吉岡先生にもお聞きしたいんですが、『賢者の孫』以外に本当に小説を書かれていなかったんですか?

吉岡:小説ではそうですね。ただ、ブログを書いていたことはありました。もう十年くらい前になるのかな。腐女子彼女とか、自分の彼女のオモシロ行動を綴ったブログがたくさんあって、楽しく見ていた時期があったんです。今の奥さんが彼女だった当時、キャラクター的に少しおかしい部分もあって、僕もエピソードをブログでコメディ化しつつ綴っていた時期がありました。ただ、物語を架空のストーリーとして綴るのは初めてで、正直今でもよくわかってない部分もあります(笑)。日本語も難しいし、校正原稿が戻ってくる時はいつも怯えてというか、恥ずかしい思いでいっぱいです。

――日本人からしても日本語って難しいですからね。

吉岡:日本語は小中高の国語ぐらいでしか勉強していないので、当たり前だと思っていた言葉の意味が全然違っていたということもままあります。同じような話でも日本語の書き方で面白くもなればつまらなくもなる。読みやすさもそうですよね。なので、かなり気を遣って書いている部分はあります。

――コミックでは日本語の扱い以外に気を遣っている点などはありますか。

緒方:コマが多くなりすぎたり、台詞が多すぎたりすると読みづらくなってしまうことが多いので気を付けていますね。自分の中で、1ページあたりのコマ数や吹き出しの数などベースは持っているので、常に調整しながら描いてます。ストーリー的にどうしようもないところは、構図などで見やすくするなど可能な限り工夫していますね。魔人シュトロームの過去編はかなり詰め込みましたが(笑)。

――続いて、お気に入りのキャラクターがいれば教えてください。

吉岡:お気に入りというか、動かしやすさという点では断トツでアリスですね。いつの間にかおふざけキャラクターになっていた(笑)。

――もともとはどんな設定のキャラクターだったんですか?

吉岡:クラス内の妹ポジション的なキャラクターとでも言えばいいんだろうか。ただ、リンというキャラクターと組ませたら急にふざけはじめてしまって、いつの間にかコメディパートで一番動かしやすいキャラクターになっていたんですよね。アリスで物語を書くと勝手にお話が生まれてくるんですよ。

※左:アリス/右:リン

――なるほど。著者の視点から主人公のシン・ウォルフォードについてはいかがですか。

吉岡:シンというキャラクターの要には、自分の理想みたいなところがあるんです。シンは周囲の印象からキャラクターとして成り立っている部分が多いんですが、日本人的には一般的な、あまり逸脱しない感じの性格にしているつもりではあります。ただ、世界における一般常識を知らないがゆえに、逸脱しちゃうだけで、特別本人がぶっ飛んでいるわけではない……はずです。表立って言い難いことを面と向かって言い返したり反論したりできる人って現実でも多くはないと思っていて、そこをバシッと踏み込んでくれるキャラクターにしたかったんです。怖気づいたり悩んだり、うじうじするようなキャラクターにはしたくなかったという思いはありますね。

――続いて緒方先生のお気に入りのキャラクターを教えてください。

緒方:最初の頃からずっとマリアです(笑)。今でも変わらないですね。意識をしながら漫画を読んでもらうとわかるんですが、原作にはないところでマリアは結構喋ってるんですよ。というのも、私自身ツッコミキャラクターが大好きで、マリアはそのノリを徹底してやってくれるキャラクターとして確立しているんです。漫画のネームを描くにあたって、原作小説にはないセリフを考えなくちゃいけないシーンもあるんですが、マリアは勝手に喋ってくれるんです。悩まずにセリフがスラスラと出てくる。逆に、シンやシシリーを小説にないシーンで喋らせようとすると凄く悩んでしまうんですよね。吉岡先生も先ほど触れていましたが自身を投影したキャラクターだからというのもあって、考え方をスムーズに沿っていくことが簡単ではないんです。なので、フィーリングで動かせるという点も含めて、マリアは本当に好きですね。

※緒方先生お気に入りのマリア

――主人公のシン・ウォルフォードを描く上で、気を付けていることはありますか。

緒方:シンは主人公なので、とにかく好感度は下げないよう表現には気を付けています。吉岡先生の言う通り、シンはうじうじしたり悩んだりするようなキャラクターではないので、台詞もかなり意識しながら描いていますね。

――これまで描いてきた『賢者の孫』という物語の中で、特に力を入れている(入れた)シーンなどがあれば教えてください。

緒方:コミックではアクションシーン。そしてシシリーのアップ(笑)。この2つには特に力が入ります。魔法を放ったり虎を蹴飛ばしたり、アクションシーンは派手さもあって見どころにもなるので、描いていて楽しいですね。シシリーのアップについては、何よりも可愛く見せることが大前提なので、特に神経を使います(笑)。誰が見ても可愛く見えるよう描いています。

※迫力ある戦闘シーン、そして可愛いシシリー

吉岡:僕としてはコメディパートで笑ってほしいと思っているので、自然と力が入っているかもしれません。あとは口絵にも描かれたマジカルバレーはイラストも良かったですし、読者からの反応も良かったので個人的にも印象に残っているシーンです。

――口絵のお話が出たところで、本作は菊池政治先生がイラストを担当されています。イラストについてはいかがですか。

吉岡:初めてイラストを見た時は感動しましたよね。もともとライトノベルも読んでいましたし、『まよチキ!』(MF文庫J)も読んでいたわけで。アニメも見ていましたし、その作品のイラストを担当されていた方が自分の作品でも描いてくれるだなんて、感動と非現実感が混ぜこぜになっていた記憶があります。過去に色々とあってかなり疑り深い性格でして、書籍化のお話もそうでしたが、イラストレーターさんもそっくりさんなんじゃないのかと。ただ、現実は真実として動いていて、ラフイラストやカバーイラストが続々と上がってくるわけです。そうして本当だったんだ……とあらためて感動していた気がします。

――さて、そんな『賢者の孫』ですが、アニメ化企画進行中という発表も行われました。率直な感想をお聞かせください。

吉岡:コミカライズの時にもお話したように、「いいの?」という思いと、「本当なの?」って感想です。まだその段階ですね。現実味はなにひとつないです(笑)。

緒方:自分も全然聞いてなくて、編集さんとの打ち合わせの中でさらっと告げられました。電話越しにこの人何の話してるんだろうって。アニメ化したいよね、っていう希望の話をしているものだとばかり。ただ、よくよく聞くと「アニメ化企画が進行している」というお話で。なぜあの時しれっと伝えてきたのか、自分はツッコむべきところだったのか。未だに実感はありません(笑)。

――本格的な実感が湧くことになるであろうアニメ化決定の発表を楽しみにしています。あわせて、シリーズ3ヶ月連続刊行も決定しましたよね。

吉岡:9月に小説第7巻、10月にコミックス第5巻、11月には外伝が刊行されますね。

――吉岡先生は隔月で刊行となるわけですが、スケジュールはキツくありませんでしたか。

吉岡:このお話を聞いたのは小説第6巻を刊行した直後だったんですけど、「マジで?」って思わず口から飛び出しちゃいました。超頑張りました! この一言です(笑)。

緒方:自分のスケジュールはいつも通りでした(笑)。

吉岡:羨ましい(笑)。それと小説第7巻とコミックス第5巻のオビにあるQRコードを読み込むと、マリアを主人公にした漫画と小説がそれぞれ読めます。

緒方:ストーリーが連動しているのでぜひ読んでみてください。

――各最新巻ついてPRなどがあればお願いします。

吉岡:小説第7巻は物語としてひとつの山場になります。これまで活躍の場が少なかったキャラクターの活躍も描かれています。久しぶりに活躍(?)するよ! そして11月刊行の外伝では、シンの祖父ちゃんと祖母ちゃんであるマーリンとメリダの学生時代のストーリーが描かれます。コミックでも二人が魔人を倒すシーンが描かれていましたが、あのシーンが外伝のラストシーンに相当します。二人が学院に入学し、魔人を倒すに至るまでの物語をぜひ楽しんでもらいたいです。

緒方:10月にはコミックス第5巻が発売します。これまでは戦闘シーンなどが大きな見どころではあったのですが、第5巻ではシンとシシリーの関係進展がメインの物語となります。こちらもご期待ください。

――それでは最後にファンのみなさんへ一言ずつお願いします。

吉岡:『賢者の孫』は読んだ人が読み終えて吐く一息と一緒に、ストレスも抜けていくような物語であり続けたいと思っています。さらっと読んでストレスを発散して、明日の活力に繋げてもらえたら。日々ストレスが溜まっている方は『賢者の孫』を読んで、ストレスを発散してほしいなと思います。そして現実味が何ひとつないままですが、アニメ化企画にも引き続き注目してもらえればと思います。

緒方:『賢者の孫』は描いていても読んでいても面白い作品です。恋愛あり、戦闘あり、ギャグありといろんな人が読んで楽しめる作品だと思います。読みやすく作品にも入りやすい。登場するキャラクターたちも被ることなく、会話のやり取りもすごく楽しいです。キャラクターで魅せていく作品でもあると思っているので、漫画も小説も読んでもらいたいです。アニメ化企画も続報にご期待ください。

――本日はありがとうございました。

<了>

ファミ通文庫の大人気シリーズ『賢者の孫』を手掛ける吉岡剛先生と、コミカライズを手掛ける緒方俊輔先生のお二人にお答えいただきました。原作小説第7巻、コミックス第5巻、そして外伝とシリーズの3ヶ月連続刊行はもちろん、アニメ化企画も非常に楽しみな本作。今後の展開がますます気になる『賢者の孫』に注目です。

©吉岡剛・緒方俊輔/KADOKAWA

©吉岡剛/KADOKAWA エンターブレイン刊 イラスト:菊池政治

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『賢者の孫』特設ページ

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