独占インタビュー「ラノベの素」 佐藤真登先生『処刑少女の生きる道(バージンロード) ―そして、彼女は甦る―』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2019年7月13日頃にGA文庫より『処刑少女の生きる道(バージンロード) ―そして、彼女は甦る―』が発売された佐藤真登先生です。第11回GA文庫大賞にて「ダンまち」以来となる7年ぶりの「大賞」を同作で受賞されました。処刑人の少女と殺せない異世界人の女の子。物語の最初と最後とでは、キャラクターも物語としても印象が大きく変化する本作について、その内容や見どころについてお聞きしました。

【あらすじ】

この世界には、異世界の日本から『迷い人』がやってくる。だが、過去に迷い人の暴走が原因で世界的な大災害が起きたため、彼らは見つけ次第『処刑人』が殺す必要があった。そんななか、処刑人のメノウは、迷い人の少女アカリと出会う。迷いなく冷徹に任務を遂行するメノウ。しかし、確実に殺したはずのアカリは、なぜか平然と復活してしまう。途方にくれたメノウは、不死身のアカリを殺しきる方法を探すため、彼女を騙してともに旅立つのだが……「メノウちゃーん。行こ!」「……はいはい。わかったわよ」 妙に懐いてくるアカリを前に、メノウの心は少しずつ揺らぎはじめる。――これは、彼女が彼女を殺すための物語。

――第11回GA文庫大賞「大賞」受賞おめでとうございます。まずは自己紹介からお願いします。

都内在住の作家・佐藤真登です。このたび第11回GA文庫大賞にて「大賞」を受賞させていただきました。最近は執筆作業で座っていることがどうしても多く、身体の節々に痛みが出てきたので、週2~3回のペースで水泳をはじめました。有酸素運動で身体の負担も少なく、習慣化しようと思っています。苦手なものはトマトです。よろしくお願いします。

――「ダンまち」以来、7年ぶりとなる「大賞」に選出されたわけですが、率直なお気持ちをお聞かせください。

まず連絡をいただいた当初は、嬉しいのと非現実感でいっぱいいっぱいでした。気の抜けた話ですけど、受賞の連絡はベッドで転がっていた時に受けて、編集の方から「GA文庫大賞《大賞》受賞です」と言われたんですよ。僕はなんでこの人「大賞」を2回言ったんだろうって純粋に疑問でしたよね。自分の頭の中では「大賞」受賞なんてことはありえないだろうと完全に除外されていましたから(笑)。ただ、そこで一回止まって考えて、ひょっとして2回繰り返したのではなく「大賞」を受賞したということなのでは、と気付くことができました。あの「ダンまち」以来となる7年ぶりの受賞ということで、作家として最大のチャンスを掴んだという思いがある一方、日に日にGA文庫さんのプロモーション活動も大きくなっていっているわけです。どんどんプレッシャーが膨らんでいるのを感じています。なので、極力考えないよう努めています(笑)。

※第4回GA文庫大賞「大賞」受賞作『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』

――手応えと大きなプレッシャーをそれぞれ感じているわけですね(笑)。あらためて、小説を書こうと思ったきっかけなどはあったのでしょうか。

正直な話、小説を書こうと思った大きなターニングポイントのようなものがあったわけではありません。両親が本好きで、僕も小学生の頃から児童文学をはじめずっと本を読んできていました。兄姉もいて、二人とも小説や漫画をそれぞれ溜めこんでいたので、何も買わなくても周囲にいろんな本があったという(笑)。僕自身の学校生活では中高と吹奏楽部に入部していて、かなりハードで部活と勉強とで忙殺されるような毎日を過ごしていたんですけど、高校2年生くらいの頃にようやく自己管理ができるようになって、ちょっとした時間が作れるようになったんです。少し時間ができたし、何をしようかと考えた時に、「よし小説でも書いてみよう」と。授業中に突然ノートに書きはじめた記憶がありますね(笑)。

――高校2年生のふとした思い付きで、執筆活動を始められたわけですね。

そうですね。高校2年生くらいの頃から短編を中心に書くようになりました。内容はライトノベルというよりは、キャラ文芸に類するような一般エンタメ小説寄りだったように思います。それから短編を3年くらい書き続けて、大学2年生の時に初めて長編を書こうと思いました。作品傾向としてライトノベルに寄ったのもこの時期だったと思います。

――佐藤先生はかなり本を読まれてこられたということで、強く印象に残っていたり、影響を受けたと思う作家はいらっしゃいますか。

作家は3名いらっしゃって。文章では『夜は短し歩けよ乙女』の森見登美彦先生ですね。とにかく文章を読んでいて楽しいですし、文章によるエンタメ性を強く感じた作家でした。本当にリスペクトしていて、文章の扱い方なんかは参考にしたりすることも多かったように思います。文章の雰囲気や構築のうまさでは梨木香歩先生です。あの方の作品の空気感は大好きです。単純に好きだというのは恩田陸先生。作品をたくさん読んで大いに影響を受けたと思います。ただ、自分の書いている作品に直接影響しているかと言われたら、違うとは思います(笑)。自分の作品は大学2年生あたりから見始めるようになったアニメから生まれるようなエンタメ性だと思うので。

――それでは受賞作『処刑少女の生きる道(バージンロード) ―そして、彼女は甦る―』がどんな物語なのか教えてください。

本作は教会の神官であり、処刑人でもある主人公・メノウが活躍するアクションファンタジーです。メノウは人であれ物であれ、教会が定める禁忌を処理する役目を負っています。その禁忌の中でも最大の脅威として作中で描かれているのが異世界人です。これは日本から転移なり召喚なりを経て、作中の異なる世界へと踏み込むことになる、ファンタジーではよくあるギミックですね。そういった異世界人を任務として処理する使命を帯びているメノウは、時任灯里(アカリ)という異世界人と出会うことになるんです。彼女の有する純粋概念の力……端的に言えばチートのような能力なのですが、その力によってメノウは彼女を殺すことができず、アカリという少女を殺す方法に辿り着くまで旅をしながら、様々な事件に巻き込まれていく物語になっています。

※彼女を殺すための物語には様々な事件が待ち受けている

――本作の着想について教えてください。

本作の原動力になったひとつに、スタイリッシュなスパイアクションものを描きたかったという動機がありました(笑)。2007年に放送されたアニメ『DARKER THAN BLACK -黒の契約者-』の影響も大きいですね。僕自身これまで書いてきたことのないジャンルでもありましたし、そういったものに挑戦したいと考えていました。執筆自体も然程苦労することなく、サクサク書くことができ、2ヶ月ちょっとで書き上げました。僕としては、応募原稿を書いた時とは比較にもならない大変さがこれから待っているんだろうと思いますが(笑)。

※冒頭の衝撃的な展開から物語は動き出していく

――では続いて、本作に登場するキャラクターについて教えてください。

本作の主人公・メノウは禁忌を排除する教会の処刑人です。『陽炎(フレア)』と呼ばれる導師の弟子でもあります。彼女は勢いだけで動いたら死んでしまうという能力バランス、かつロジカルな子を書こうと思いました。直面した問題を解決するためにたくさん考え、訓練して身に付けた技術で乗り越えていく、そんなキャラクターです。才能自体は決して豊かなキャラクターではありませんが、努力の結果、一人前と言われるくらいの力を有しています。下手をしたら能力的には作中で最も低いと言っていいかもしれません。そんなキャラクターが策を巡らせ、事件や任務を解決する姿を描きたかったんです。

※『陽炎の後継(フレアート)』と呼ばれる教会の処刑人

アカリはもう一人の主人公と言っていいかもしれません。日本から召喚された異世界人であり、教会が禁忌と定める純粋概念という能力を有する異世界人です。彼女の純粋概念は“時”で、この能力によってメノウは彼女を殺すことができないでいます。とにかく無垢で明るいキャラクターであり、メノウには無条件で懐いていて、メノウの堅い心を溶かすようなキャラクターでもあります。なぜ彼女の好感度は出会いから高めなのか、そこにはちょっとした理由もあったりします。

※”時”の純粋概念を有する異世界から召喚された少女

モモはメノウと同じく教会の処刑人です。先輩であるメノウのことがとにかく大好きなキャラクターですね。キャラクターとしてのシンプルさもウリな少女ですが、物語中盤以降で彼女の背景を掘り下げていて、序盤と終盤とでは読者の印象も大きく変化しているかもしれません。僕自身書いていて楽しいキャラクターですね。

※メノウの後輩にあたる教会の処刑人

もう一人、アーシュナ・グリザリカにも触れておきたいです。彼女はグリザリカ王家の王族で、姫騎士とも呼ばれています。このキャラクターのみ、他の主要キャラクターと比べて在り方が異なることも特徴です。最初から最後まで登場時からの印象が一切変わらず、一貫して芯の通った裏表のない強いキャラクターとして描かれています。またアーシュナは鼻が利き、事件へ首を突っ込んでくるだけでなく、己の力でまかり通ることもできるキャラクターゆえ、厄介な存在とも言えます。メノウやモモたちにとっては、味方ではないけど敵でもない、敵の敵という言葉が一番ぴったりくるキャラクターかもしれません。

※メノウたちにとっては味方でも敵でもない厄介な姫騎士

――見え方や見方は異なれど、いずれのキャラクターも根幹が一貫している印象を強く受けました。

そうですね。それぞれのキャラクターは自分の目的をしっかりと持っていて、その目的を達成することが最優先されています。なのでアーシュナはもちろんなのですが、アカリもモモもメノウの話を聞かないことは少なくありません(笑)。そこはメノウにも苦労してもらっている点かもしれませんね。

――お気に入りのキャラクターやシーン、ビジュアルがあれば教えてください。

お気に入りのキャラクターはモモですかね。シーンについてもモモの過去回想やラストのシーン。キャラクターとしての掘り下げがうまくいったなと手ごたえもあったシーンです。また今作ではニリツ先生にイラストを担当していただいているのですが、ニリツ先生のデザインから決まった設定もありますし、世界観やキャラクター性が強固に補強されたという印象も強く受けています。イラスト一枚取ってみても指先までキャラクターの感情が出ているので、細部まで見どころは多いと思います。お気に入りは口絵で使用されている4人がベッドに寝そべっている一枚です。作中のシーンとは別なのですが、4人は誰とも目を合わせていない構図になっていて、キャラクターの関係性や性格を間接的に伝えられている良い一枚だと思います。

※メノウのことがとにかく大好きな後輩・モモがお気に入りキャラクター

――ビジュアル化されたことによって、ご自身として印象が変化したキャラクターはいましたか。

うーん……難しいところではあるんですが、強いて言うならアカリでしょうか。特に終盤で描かれるイラストですね。こんな表情をするのか、とちょっとした衝撃を受けるくらい印象的なイラストもあるので、ぜひ見ていただきたいです。

――あらためてご著者として本作の見どころ、注目してほしい点を教えてください。

見どころとしては特に中盤以降ですね。着想にスパイアクションというお話もさせていただいたと思うんですけど、アクションシーンの盛り上がりも一気に加速していきます。序盤については結構なボリュームで試し読みも公開され、読んでいただいている方もいらっしゃるかと思います。動きのあるイベントやインパクトのあるシーンも盛り込んでいますが、それでもこの作品の世界観や雰囲気を伝えるところに重点を置いていたので、物語としてより加速していく中盤から終盤はぜひ読んでいただきたいです。ライトノベルをよく読んでいる方やアクション、バトルものが好きな方にはオススメできると思います。

――今後の目標や野望があれば教えてください。

この作品がライトノベルという枠だけにとどまらないで、コンテンツとして大きく広がってくれたら嬉しいなと思います。それこそ目指せ「ダンまち」みたいな(笑)。僕としては小説という形態に全力を注ぐんですけど、より大きく広がっていき、自分一人じゃどうにもならないという状況になったらいいなとは思います。既にコミカライズも決定しているので、僕も今掲げた野望をしっかりと叶えられるような小説を引き続き書いていきたいですね。

――最後に本作へ興味を持った方、これから本作を読んでみようと思っている方へ一言お願いします。

とにかく騙されたと思って読んでほしいです。それこそきっと「騙された!」という感想が返ってくると思うので(笑)。また、書いた本人の言葉なんて信じられないという方は、7年ぶりのGA文庫大賞「大賞」受賞作という看板と肩書を信じて読んでいただければ、きっとご満足いただけるんじゃないかなと思ってます。第2巻も9月に発売を予定しています。アカリを殺すというメノウの目的は踏襲しつつ、第1巻で登場したキャラクターも違った形で再登場してきますので、ぜひ楽しみにしていただければと思います。また、7月にはMF文庫J刊『全肯定奴隷少女:1回10分1000リン』、ヒーロー文庫刊『嘘つき戦姫、迷宮をゆく』最新刊も発売されますので、そちらもよろしくお願いします!

■ラノベニュースオンラインインタビュー特別企画「受賞作家から受賞作家へ」

インタビューの特別企画、受賞作家から受賞作家へとレーベルを跨いで聞いてみたい事を繋いでいく企画です。インタビュー時に質問をお預かりし、いつかの日に同じく新人賞を受賞された方が回答します。そしてまた新たな質問をお預かりし、その次へと繋げていきます。今回の質問と回答者は以下のお二人より。

第25回電撃小説大賞「金賞」受賞作家・渋谷瑞也先生

 ⇒ 第11回GA文庫大賞「大賞」受賞作家・佐藤真登先生

【質問】

純粋にいち作家としてお聞きしたいのですが、物語を執筆する際、どこから話を創りはじめますか。僕はラストシーンからで、これがないと書けないし書こうとも思いません。ラストシーンに向かうためにどうなっていけばいいかを計算しますし、キャラクターも最終地点に向けて想定した動きで収まるタイプだと思っています。どこから話を創りはじめるのか、そしてどこを一番面白いと感じるのか。楽しみを見出している点を含めて教えてください。

【回答】

自分も渋谷先生と一緒で、ラストシーンに限らないんですが「ひとつのシーン」を書くために書くタイプだと思っています。シーンやコンセプトが合わさったり、こんなキャラクターを描きたいというところから始まることもあるので、いろいろあると言えばあるのですが、何が最初に来ようとも「書きたいシーン」は必ず存在し、そこに向かっていきます。僕の場合はキャラクターが勝手に動き出すことも多いので、そこは少し違う点かもしれません(笑)。楽しみについては書いている最中というよりは、書いた後ですね。一度原稿を書き上げて、推敲するのがとにかく楽しい。構成を見直したり、作品としてのクオリティを高めていく作業に楽しみを感じます。

――ありがとうございました。

<了>

教会の禁忌を排除する処刑人の少女が、禁忌指定である異世界人の少女と出会って動き出すアクションファンタジーを綴った佐藤真登先生にお話をうかがいました。「彼女が彼女を殺す物語」。この見出しに込められている意味からも目が離せそうにありません。『処刑少女の生きる道(バージンロード) ―そして、彼女は甦る―』は必読です!

©佐藤真登/SB Creative Corp. イラスト:ニリツ

[関連サイト]

『処刑少女の生きる道(バージンロード)』特設サイト

「第11回GA文庫大賞受賞作」特設サイト

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