独占インタビュー「ラノベの素」 二月公先生『声優ラジオのウラオモテ』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2020年2月7日に電撃文庫より『声優ラジオのウラオモテ』が発売された二月公先生です。第26回電撃小説大賞にて2年ぶりとなる「大賞」を受賞し、満を持してデビューされます。声優ラジオのパーソナリティを務めることになった、偶然にも同じ学校に通う二人の女子高生声優の「本気」の青春を描く本作。作品の内容やキャラクターはもちろん、執筆者がラジオ局関係者だと疑われてしまう程のリアリティで描かれる本作の魅力など様々にお聞きしました。

【あらすじ】

「夕陽と~」「やすみの! せーのっ!」「「コーコーセーラジオ~!」」 偶然にも同じ高校に通う仲良し声優コンビが教室の空気をそのままお届けしちゃう、ほんわかラジオ番組がスタート! でもパーソナリティふたりの素顔は、アイドル声優とは真逆も真逆、相性最悪なギャル×根暗地味子で!?「……何その眩しさ。本当びっくりするぐらい普段とキャラ違うな『夕暮夕陽』、いつもの根暗はどうしたよ?」「……あなたこそ、その頭わるそうな見た目で『歌種やすみ』の可愛い声を出すのはやめてほしいわ」 オモテは仲良し、ウラでは修羅場、収録が終われば罵倒の嵐!こんなやつとコンビなんて絶対無理、でもオンエアは待ってくれない…! プロ根性で世界をダマせ! バレたら終わりの青春声優エンタテインメント、NOW ON AIR!!

――第26回電撃小説大賞「大賞」受賞おめでとうございます。まずは自己紹介からお願いします。

二月公と申します。愛知の大学を出たあと、会社員をしながら小説賞に原稿を投稿し続けていたんですが、このたび第26回電撃小説大賞にて「大賞」をいただきました。趣味は読書、そして声優さんのラジオを聞くことです。いわゆる「ふつおた」や、番組のコーナー等、声優さんのラジオにメールを送るのが好きです。苦手なことは行列に並ぶことで、東京に来ると困ることは結構多いですね。ご飯を食べるのにも並んだりするのはちょっと辛いです(笑)。

――小説賞への応募はかなり長い期間続けられてきたそうですね。

はい。小説を書き始めたのは15歳か16歳くらいの頃だったと思います。当時、有名なラノベ原作のテレビアニメを視聴して、すごく感銘を受けたんです。それで、こんな話を書いてみたいなぁと。それまではライトノベルもほとんど読んでこなかったんですけど、原作小説を読み始め、小説も書くようになりました。小説の書き方なんてまったくわかりませんでしたけど、オリジナルの作品を書いたからちょっと投稿してみようという軽い感じで賞へ応募していました。なので、投稿歴でいうと10年以上になりますね。ずっと送っては落ちてを繰り返していました。

――第26回電撃小説大賞「大賞」受賞の感想をお聞かせください。

実はいまだに実感が薄いんですよ(笑)。原稿を応募する時は一応「大賞」を目指して応募はしていますけど、獲る姿をまったく想像できてなくて。そもそも賞への応募数も膨大ですし、普通に考えたらまぁ無理じゃないですか。贈呈式や発売日が近づけば「大賞」を獲ったという実感が湧いてくるのかなと思っていたんですけど、結局湧いてこなかったので、これは一生実感することはないんだろうなって思ってます。投稿前の気持ちとしては、最終選考まで残ってくれれば本が出るかも、そうなったらいいな、ってくらいでした。ただ、最終選考に残った直後は、初めて「大賞」を獲りたいなという気持ちがほんの少しだけ湧きましたね(笑)。

――受賞の連絡をもらった際は何をされていましたか。

受賞の連絡は仕事を終えて自宅で受けました。電撃文庫では有名な話ですけど、受賞の連絡をいただく際は担当の編集者さんが1回フェイントを入れるんです。「残念ながら……大賞でした」みたいな(笑)。自分はその慣習を知っていたので、もし「大賞」を獲れるようなことがあれば、フェイントがあるかもしれない、と思っていました。そうして電話がかかってきて、担当さんがものすごく暗い声で「残念ながら……」と切り出してきたんですよ。その時の演技が無意味にうますぎて、頭の片隅にあった慣習なんて一気に吹っ飛んでしまいましたよね。これはもう選外だったんだろうと、下手をしたら拾い上げの可能性もないのだろうと、走馬灯のようにすごくいろんなことが脳裏を過ぎっていました。で、その後に「大賞です」って言われて。本当に「もううううううううううううううううううっっ!!!」って感じでした(笑)。

――それではあらためて受賞作『声優ラジオのウラオモテ』がどんな物語なのか教えてください。

この作品は偶然にも同じ学校の同じクラスの二人が、共に声優で同じ高校だったことをきっかけにラジオ番組が始まって……という物語です。二人のうち片方はギャルっぽくてとても明るい女の子です。もう一人は根暗で人付き合いを苦手としているんですけど、声優としては明るいアイドル声優をやっています。二人の相性は非常に悪いのですが、同じラジオのパーソナリティに選ばれた以上は一緒に仕事をしなくてはいけない。いがみ合いながら、そして成長しながら、番組を成立させていくというお話ですね。

※女子高生声優2人のラジオ番組がスタートするのだが……

――声優さんのラジオが大好きだというお話もありました。着想のきっかけはやはり声優ラジオだったのでしょうか。

そうですね(笑)。声優さんのラジオを聴いていると、たまに番組が始まった当初の話をしてくれることがあるんです。番組が始まる前にどんな打ち合わせをしていたか、始まった当初はどんな心境だったのか。ラジオ番組もお仕事なので、もちろん本人がパーソナリティを選べるわけではなく、プロデューサーや番組のコンセプトから決まっていきます。なので、パーソナリティ同士が「はじめまして」からラジオ番組をスタートさせることもある。そんな状況でも楽しくお話をしなければいけないわけです。そこでふと、人間である以上はどうしてもソリの合わない人がいるのは当たり前で、もしそんな人たちがパーソナリティを組まされることがあったら大変だろうなって思ったのが、作品を書くきっかけでしたね。

※相性最悪の2人が現場で出会い物語は動き出していく

――なるほど。作品の題材として選ばれた「声優ラジオ」ですが、ご自身としてはどんなところが魅力だと思っていますか。

これは私がラジオを聴き始めるきっかけにまで遡るんですが、仕事が本当に忙しく、プライベートの時間がぜんぜん取れないような時期があったんです。当時、それがまぁしんどくて(笑)。その中で、なんとかプライベートな時間を確保できないかと考え、車通勤だったこともあり、運転しながらでもラジオなら聴けるかも、と思ったのが声優さんのラジオを聴き始めるきっかけでした。仕事はしんどかったんですけど、声優さんたちがラジオで楽しく話をしている様子が、日常の清涼剤になっていったんです。大げさに聞こえるかもしれませんが、命の恩人だとさえ思ってます(笑)。苦しかった時期を乗り越えられたのは、声優さんたちのラジオのおかげなんですよ。楽しくて、笑えて、癒される。それが声優さんのラジオの魅力だと思っています。

――それでは本作に登場するキャラクターについても教えてください。

佐藤由美子はいわゆるギャルの女の子で、学校生活では明るく友達も多い、充実した私生活を送っています。彼女は歌種やすみという名前で声優をやっていて、声優の時は元気で可愛らしいキャラを演じています。けれど、オーディションには受からず、仕事はなく、あまりうまくいっていません。声優としても3年目を迎えており、ちょっとした焦りを抱えています。なので、同級生で声優としてうまくいっている渡辺をみて嫉妬したり、嫉妬する自分に自己嫌悪したりと、非常に人間味のある女の子です。声優の仕事にはとにかくひたむきで、真っ直ぐな女の子でもある。読者に応援してもらいたいキャラクターですね。

※左:夕暮夕陽(渡辺千佳)/右:歌種やすみ(佐藤由美子)

渡辺千佳はあまり人と話すことが好きではなく、学校ではまったく喋らない根暗な女の子です。人付き合いもせず、いつも一人で過ごしています。彼女は夕暮夕陽という名前で声優をやっており、のんびりとした清楚系の可愛らしいキャラを演じています。声優2年目ですが才能もあり、大きな仕事もこなしたりと仕事面ではうまくいっています。ただ、アイドル声優としてキャラクターを演じていることに疑問を感じており、露出の多い仕事ではなく声の仕事だけに専念したいという悩みも抱えています。普段はクールぶっている女の子なんですが、感情的になりやすかったり、若干ポンコツめいたところもある女の子ですね。

――この二人はもちろん、本作では声優としての華やかな面だけでなく、その裏側にある苦悩や葛藤も大変印象的な物語でした。

ありがとうございます。我々が普段見たり聞いたりしている声優さんは、私も含めたお客さんから見ると、眩しいくらいに華やかな存在だと思います。だからこそ逆に、その裏側にあるものを描きたかったのかもしれません。とんでもない苦労は間違いなくあると思うんですよ。声優の華やかさだけではない、悩んだり嫉妬したりといった姿が書きたかったのかもしれません。

※声優の華やかな姿だけでなく、苦労も描きたかったという

――また、ラジオ関係者からはどこかの局の社員なのではと疑われてしまう程、舞台背景が緻密でしっかりしていると太鼓判を押されたそうで(笑)。私も取材はどのようにされたのだろうかと不思議に思っていました。

単にラジオが好きで、聴き続けていただけです(笑)。その一方で、本作の原稿を読んだ文化放送の方にラジオ局の社員さんかなにかですかって言っていただけました(笑)。内容にリアリティがあり、実情が描かれていると太鼓判をいただけたことも非常に嬉しかったです。

――お気に入りのキャラクターやシーン、イラストについて教えてください。

お気に入りのキャラクターはどうしても佐藤と渡辺の二人になっちゃうんですけど、他にもう一人挙げるとしたら放送作家の朝加でしょうか。忙しすぎて普段はスウェットで化粧もせず収録現場にやってくるズボラな女性なんですけど、佐藤や渡辺よりも年上で、優しいお姉さんとして二人を導くシーンもあり、気に入っています。シーンでは佐藤と渡辺の二人がコロッケを買いに行くシーンですね。二人の距離がちょっとだけ近づくエピソードでもあります。渡辺の世間知らずさであったり、雑な食生活をしているといった、思わぬ一面が様々に描かれたシーンだと思っています(笑)。イラストを担当いただいたさばみぞれ先生には感謝しかありません。佐藤と渡辺のキャラデザもいくつか候補を挙げていただいて、どのデザインが一番いいか選ばせていただいたんですけど、非常に楽しかったですね。イラストで印象的なのはやはりキービジュアルです。普段の二人の前に置かれる声優の人形、その対比もすごくいいなと思っています。二人の関係性や作品の雰囲気が一発でわかる最高の一枚だと思います。

※本作の雰囲気が一枚でわかるキービジュアル

――そして本作はコミカライズが決定しているだけでなく、発売前からPyxis(豊田萌絵・伊藤美来)とのラジオコラボも展開されていますよね。

そうですね。コミカライズについてはキャラクターデザインやネームは既に拝見させていただいています。さばみぞれ先生によってデザインされたキャラクターが、今度は巻本梅実先生の手でもう一度描かれるわけです。それぞれ違った主人公たちを見られることが非常に嬉しいですね。小説では主人公たちの声優と女子高生という二面性を、口調の変化などで表現してきました。一方、漫画ではギャルの格好をした佐藤由美子が、歌種やすみという可愛い声を演じる姿、そして普段は前髪で目が隠れている渡辺千佳が、おっとりとした声を演じる姿、それらが漫画として描かれることで一層表現としてわかりやすくなると思います。「電撃マオウ」での連載を予定しているので、こちらもぜひ楽しみにしていただけたらと思います。

――ラジオコラボは本作と非常に親和性の高いコラボだと感じました。

ラジオとのコラボについては、最初の打ち合わせで担当の方から「ラジオとコラボしたいね」みたいな話をしていただいていたんですけど、「そうですね」と返事をしつつもまったく信じていませんでした(笑)。発売もされていない作品がコラボなんてそもそもできるわけないだろうと。いざ決定のお話を聞いた時は不思議な気持ち、というか、やっぱり信じられませんでした(笑)。実際にラジオ局に足を踏み入れ、スタジオや収録を拝見させていただいた時は、それはもうものすごく嬉しかったです。なんと言ってもただのリスナーですからね(笑)。本当に貴重な、一生の思い出をいただきました。

――実際に声優さんの掛け合いを間近で聴かれていかがでしたか。

手汗が凄かったことだけは覚えています(笑)。また、Pyxisのお二人にはキャラクターの声も演じていただいているんですが、私自身は普段キャラの声ってイメージできていないんです。なので演じていただいた時はとにかく衝撃的で、「この二人はこんな声なんだ!」と気付かせていただいた瞬間でしたね。佐藤も渡辺も普段の声と声優の声とでしっかり演じ分けていただいていて「すごいなぁ……!」とずっと感動してました。コラボは全8回予定で、2月末まで実施しているので、この機会にぜひみなさんにも聞いていただきたいです。

――あらためて著者として本作の見どころ、注目してほしい点を教えてください。

主人公の二人は非常に相性が悪く、いがみ合う存在ですが、合わない二人が声優ラジオをやっていく上で、相手のことを少しずつ理解し、距離が近づいていく、相手への想いが変化していく、そんな成長と青春の姿を楽しんでいただければと思っています。もちろん声優ラジオが好きな方や、声優さんが好きな方は「業界あるある」みたいな感じでも楽しんでいただけるんじゃないでしょうか。そして女子高生声優の苦悩や葛藤、何かを成し遂げるために壁にぶつかってしまう青春模様が好きな方にも楽しんでいただけると思っています。華やかな道だけではない、そんな物語が好きな方にも面白く読んでいただけると思います。

――今後の野望や目標があれば教えてください。

実は以前に違う名義で本を出したことがあるんです。ただ、その当時は売れずに作家を続けることができませんでした。今回は「大賞」という名誉な賞をいただくことができ、少しでも長生きできるように頑張っていきたいです。切実に!(笑)。

――最後に本作へ興味を持った方、これから本作を読んでみようと思っている方へ一言お願いします。

物語として声優ラジオが好きな方もそうでない方も楽しめる作品になっていると思うので、ぜひ手に取っていただきたいです。お話の中でも触れましたが、ラジオ関係者の方にもよくできていると評価をいただくことができましたし、選考委員の方にも「大賞」に選んでいただいた作品です。著者として絶対に面白いとは言いづらいんですけど、こうして評価をいただいているので、手に取っていただけると嬉しいです。第2巻も鋭意準備をしており、物語としては第1巻の本当に直後から始まる予定です。やらかしてしまった二人が怒られるところから始まるので、第1巻を読んでいただいて、ぜひ続きも楽しみにしていただけたらと思います。

■ラノベニュースオンラインインタビュー特別企画「受賞作家から受賞作家へ」

インタビューの特別企画、受賞作家から受賞作家へとレーベルを跨いで聞いてみたい事を繋いでいく企画です。インタビュー時に質問をお預かりし、いつかの日に同じく新人賞を受賞された方が回答します。そしてまた新たな質問をお預かりし、その次へと繋げていきます。今回の質問と回答者は以下のお二人より。

第32回ファンタジア大賞「大賞」受賞作家・竹町先生

 ⇒ 第26回電撃小説大賞「大賞」受賞作家・二月公先生

【質問】

コメディに関して質問です。自分はコメディを書けるタイプの人間ではないのですが、もしコメディに関して何か勉強をされているのであれば、どういった勉強をしているのか教えてほしいです。笑いのセンスをどう摂取しているのか、どうアイデアを得ているのか、どうギャグのセンスを磨いているのか。教えてください!

【回答】

センスを磨いているという自覚はないのですが、お笑い芸人やお笑い番組が大好きなので、漫才やコントの掛け合いを見て、「上手く使えないかな?」と思うことはあります。声優ラジオでも笑える番組が好きなので、影響や勉強はそういったところからできているのかなと(笑)。特に声優ラジオはコントとも違い、完全に「声」だけじゃないですか。お笑い番組などのベクトルとはまた違う技術だとも思っていて、勉強になっていると思います。

――本日はありがとうございました。

<了>

ギャルと地味子の女子高生声優二人の「頑張り」と「苦悩」と「本気」に溢れる青春ストーリーを綴った二月公先生にお話をうかがいました。それぞれの学校生活と、それぞれの声優活動。二つの顔を持つ女子高生たちが華やかな声優の世界の裏側で奮闘する姿は、ただ可愛いだけではありません。彼女たちの「本気」に触れた時、二人を応援したくなること間違いなし! お仕事ものとしても青春ものとしても読者を魅了する『声優ラジオのウラオモテ』は必読です!

©二月公/KADOKAWA 電撃文庫刊 イラスト:さばみぞれ

[関連サイト]

『声優ラジオのウラオモテ』特設サイト

電撃文庫公式サイト

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