独占インタビュー「ラノベの素」 神田暁一郎先生『ただ制服を着てるだけ』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2021年7月15日にGA文庫より『ただ制服を着てるだけ』が発売された神田暁一郎先生です。第13回GA文庫大賞にて《金賞》を受賞し、満を持してデビューされます。コンビニの店長となって順風満帆に思える人生を歩むアラサー男と、JKの制服を着る一人の少女とが織り成す、少しいびつで心温まるラブストーリーを描く本作。作品の内容についてはもちろん、登場キャラクターの裏話やタイトルに込められている想いなど、様々なお話をお聞きしました。
【あらすじ】 同居相手は19歳 彼女が着てる制服は、ニセモノ。 若手のエース管理職として働く社畜、堂本広巳(どうもとひろみ)。日々に疲れていた広巳は、本作のヒロイン、明莉(あかり)が働くある店にハマってしまう。そんな毎日の中、休日の職場トラブルで呼び出された広巳を待っていたのは、巻き込まれていた明莉だった!?「私行くとこないんだよね――お願い、一緒に住ませて!!」 突如始まった同居生活の中、広巳と明莉は問題を乗り越え、二人で新たな道へと歩み始める。社畜×19歳の合法JK!? いびつな二人の心温まる同居ラブストーリー、開幕。 |
――第13回GA文庫大賞《金賞》受賞おめでとうございます。まずは自己紹介からお願いします。
先日、結果発表されました第13回GA文庫大賞にて『ただ制服を着てるだけ』という作品で《金賞》をいただきました、神田暁一郎(かんだぎょういちろう)と申します。出身は愛知県名古屋市です。趣味はゲームで、オンラインゲームやFPSをはじめいろいろと遊んでいたんですが、現在は忙しくほとんど遊べていません。また勉強がてら、映画を見ることが多いのと、自分自身を鍛えるために筋トレをやってます。
――ご自身の小説執筆のきっかけはなんだったのでしょうか。
もともと自分は漫画派で、小説はまったく読んでいませんでした。それこそ学生時代は「読むと頭痛がする」と言っていたくらいで(笑)。そんな折、友人からうえお久光先生の『悪魔のミカタ』を勧められまして、見事にハマってしまいました。「小説にもこんな世界があったんだ」と思い知らされたことを覚えています。そうして初めて高校3年の頃に自分でも小説を書くようになりました。1度創作から離れたりもしましたが、執筆歴としては5~6年で現在に至る感じです。
――ゲームや筋トレ以外に映画もお好きとのことですが、具体的にはどういったジャンルの作品を観ることが多いんでしょうか。
ヒューマンドラマ系の映画は好きですね。ベタなところだと『フォレスト・ガンプ』。それとヒューマンドラマではありませんが『恋愛小説家』も好きです。意識的に1990年代~2000年代の名作と言われている作品はたくさん観るようにしています。
――ありがとうございます。ではあらためて第13回GA文庫大賞《金賞》受賞の感想をお聞かせください。
受賞の連絡をいただいた時はちょうど寝ていて、完全に寝起きの状態で電話を取ったと記憶しています。それこそ本当に夢かと思いましたよね(笑)。連絡をくれたのが担当編集さんだったんですけど、編集部でラジオなどもやられてるじゃないですか。声を聴いて「ラジオの人だ、本当なんだ」って思いました。ずっと夢見ていたことでもあったので、感極まってちょっと泣きそうになっていたかもしれないです(笑)。
――新人賞はGA文庫大賞以外にもあるわけですが、GA文庫大賞へ応募した理由はなんだったのでしょうか。
大きな理由としては、GA文庫で活躍されている白鳥士郎先生に憧れているというのがひとつですね。そして裕時悠示先生の『29とJK』の存在も非常に大きかったです。自分の作品も主人公の年齢がアラサーなので、土壌として受け入れてもらいやすいんじゃないかという、ちょっとした打算もありました(笑)。もともとこの作品はWEBで連載していて、手応えも少し感じているところはあったんです。なので、ライトノベルの新人賞への応募自体がそれこそ10年ぶりくらいだったのですが、送ってみようと思いました。
――それでは受賞作『ただ制服を着てるだけ』はどんな物語なのか教えてください。
ジャンルとしてはラブコメ作品で、ヒロインが主人公の家に押し掛ける、いわゆる押し掛け同居ものです。最初はお互い打算や惰性で関わっていくんですけど、同居を通して次第に心を通わせていく、そんな作品になっています。本作にテーマを与えるのであれば「自己肯定」でしょうか。人生の肯定というか、読者さんが自己肯定できるようになる物語でもあると思っています。
※とあるお店で主人公はJKの制服を着たヒロインと出会う
――「自己肯定」という言葉がありましたが、作中では「自己責任」という言葉にも強く考えさせられることになりました。
そうですね。以前自分も「それは自己責任だろう」と言って、人を傷つけちゃったことがあるんです。考え方のひとつに「自己責任論」というものがありまして、その人の置かれた背景に一切目を向けることなく、「自己責任」という言葉だけですべてを片付けてしまおうとするものです。たとえば酷い環境に置かれた人がいるとして、努力をしなかった結果そうなったんだろうと決めつけてしまうような考え方ですね。でも実際は誰かに騙されてしまったのかもしれないし、どうしようもない理由で心身を壊してしまった結果なのかもしれない。そういう背景を知ろうともしない考え方があるのだと知り、自分も過去に同じようなことをやってしまっていたなという、ちょっとした後悔のようなものが生まれていました。それが奇しくも本作のテーマへと繋がっていったんです。
――なるほど。その流れも踏まえた上で、本作の着想についてもお聞きしてよろしいでしょうか。
実はこの作品を書く前に、ノンフィクションやルポルタージュにすごく傾倒していた時期があったんです。今も多分に影響はあるんですけど……(笑)。それで先ほどの「自己責任論」であったり、いろんな社会問題を知るきっかけとなり、この作品の核の部分へと繋がっていきました。基本的には本で得た知識をベースとしているんですが、とにかくたくさんの資料を調べましたね。
――受賞の後、改稿作業で大変だったことや印象的なエピソードはありますか。
改稿で大変だったことは、投稿時の原稿がライトノベルより文芸作品の色が強かったと自分では認識していて、その修正にかなり苦労しました。でも、改稿作業を行っていく中で、原稿がすごく良くなっていることも同時に実感できていて、その変わりように執筆しながらひとり感動してましたね(笑)。
――また、本作は受賞時のタイトルから改題されていますよね。
はい。原題の『かげひなたになる』も決して悪いタイトルではないという担当編集さんとの共通認識の上で、ライトノベルとして考えた時に少しわかりづらいよねという話になりました。そこで新しいタイトルを考えることになったんですが、ポンと『ただ制服を着てるだけ』というタイトルが落ちてきたんです。物語の内容はもちろん、主人公とヒロインに共通するキーワードでもありました。担当編集さんからもこういう場合は千本ノックになるパターンが多いという話も聞いていたんですが、幸いにも一発目で作品タイトルが決定しました。
――ありがとうございます。それでは続いて本作に登場するキャラクターについても教えてください。
主人公の堂本広巳はコンビニで店長として働くアラサーの男です。周囲からの信頼がすごく厚い人物なんですけど、そこは訳ありで……。時折影をのぞかせたりもしますね。
ヒロインの藤村明莉はちょっと特殊なお店で働く女の子です。設定が設定だけにはっきりとは言えないんですが、タイトル通り「ただ制服を着てるだけ」のグレーな存在という感じですかね(笑)。
杉浦琴子はちょっと下世話な話ですが、オタクが好むオタク女子のようなイメージをただただ自分の好みに従い形にしました。お気に入りのキャラクターの一人です(笑)。
篠田舞香については、実はモデルになった方が現実にいて、ほぼそのままで書かせてもらいました(笑)。非常に面白いのが、40原先生からあがってきたイラストも、ほぼそのままなんですよ。びっくりするくらい似てるんです。仕事の後輩ではあるんですが、一応本人にも書かせてもらったって伝えてはいます。実際に作品を見せるかどうかは検討中ですが(笑)。
――作中では明莉が「ヒロインになりたい」「ヒロインになることを諦めたくない」という心情の吐露があったりと、ヒロインというキーワードも多く登場しますよね。あらためて神田先生の考えるヒロイン像を教えてください。
そうですね。自分の考えるヒロイン像としては、主人公に影響されて変わっていき、なおかつヒロインからも主人公に対して影響を与え、変えてしまうような存在でしょうか。実質この作品はW主人公のような形ですし、主人公視点の際は主人公がヒロインから影響を受け、ヒロイン視点の際はヒロインが主人公から影響を受けています。それぞれの視点で描かれる、二人の与える影響にも注目していただけたら嬉しいですね。
※藤村明莉はヒロインへの憧れを持ち続けていて……
――本作のイラストは40原先生が担当されています。あらためてイラストの感想やお気に入りのイラストがあれば教えてください。
はじめて40原先生からイラストをいただいた際は、シンプルに感動しました。本当にライトノベルになるんだなって強く実感することにもなりました。やっぱり表紙のイラストは抜群で、一見すごく爽やかな印象があるんですけど、背景に視線を移すと、少しだけ物々しい雰囲気を感じることができるんです。40原先生もかなり作品を読み込んでくださったそうで、40原先生がこの作品に解釈を持ち込んでくださったことが伝わるイラストになっています。本当に嬉しくて、感謝しかありません。
※本作の雰囲気を感じることのできるジャケットイラスト
お気に入りのイラストは広巳と明莉が味噌汁をよそっているシーンを描いた口絵ですね。ヒロインの明莉はもちろん可愛いんですけど、主人公も格好よくて気に入っています。鎖骨のラインがめちゃめちゃセクシーだなって。そこに目を奪われました(笑)。
※神田先生のお気に入りだという口絵イラスト
――著者として本作の見どころ、注目してほしい点を教えてください。
主人公とヒロイン、それぞれを一人称視点で書いているんですけど、特に注目していただきたいのは心理描写です。表現を工夫したポイントですので、ぜひ注目していただきたいです。また、主人公がアラサーということもあるので、年齢層的には社会人の方であったり、日々の暮らしで気持ちがモヤモヤとしている方には、より一層刺さってくれるんじゃないかなと思います。
――今後の野望や目標があれば教えてください。
まず編集部に恩返しをしたいですね。ライトノベルとして見た場合、この作品には問題点がたくさんあったと思うんです。それでも勇気を出して手を挙げてくれた担当編集さんや、他の編集さんの期待に応えたいと思っています。
――最後に本作へ興味を持った方、これから本作を読んでみようと思っている方へ一言お願いします。
『ただ制服を着てるだけ』は、ライトノベルのラブコメとしては少々イレギュラーな部分が多いかもしれません。それでも改稿を経て、ラブコメ作品としてしっかりと形にできたと思っています。一人でも多くの、今のラブコメブームの読者のみなさんに届いたら嬉しく思います。また、書店様の特典SSでも色々と書かせていただきました。ヒロインが主人公に出会う前のお話や本編終了後のちょっとした一幕など、本編と密接な関係にあるショートストーリーとなっているので、そちらもぜひ注目いただけたらと思います。あとは40原先生のイラストが本当に素晴らしいので、ぜひそちらも見ていただけたら嬉しいです。どうぞよろしくお願いします!
■ラノベニュースオンラインインタビュー特別企画「受賞作家から受賞作家へ」
インタビューの特別企画、受賞作家から受賞作家へとレーベルを跨いで聞いてみたい事を繋いでいく企画です。インタビュー時に質問をお預かりし、いつかの日に同じく新人賞を受賞された方が回答します。そしてまた新たな質問をお預かりし、その次へと繋げていきます。今回の質問と回答者は以下のお二人より。 |
第27回電撃小説大賞「大賞」受賞作家・菊石まれほ先生
⇒ 第13回GA文庫大賞「金賞」受賞作家・神田暁一郎先生
【質問】
自分の作品が本になって出版されることはすごく嬉しい反面、同時に不安やプレッシャーを感じる方も多いんじゃないかなと思っています。私も原稿が仕上がった直後くらいから、いろいろ考えるようになってしまいました。私の場合は好きな音楽を聴いたり、不安を解消するような合図を意図的に起こして、気持ちを切り替えようと頑張っています。そういった時にどうやって不安やプレッシャーに対処したり、気持ちをコントロールするのか、ぜひ伺ってみたいです。
【回答】
対処法とは違うんですけど、自分は不安と友達になろうと思ってやっています。不安やスランプは絶対になるものであると思うんです。その中で、どれだけ原稿の前にいられるか。たとえ一文字も打てなかったとしても、原稿の前にいられたこと自体が強くなっている証拠なのだと思うようにしています。そういったことを心掛けていれば、いつか必ず不安を解消することができるのかなと。場当たり的な解消法ではなく、不安を感じなくなるよう強くなるということですね。ちなみに自分は人の視線や笑い声も気になるくらいメンタルは弱いです(笑)。
――本日はありがとうございました。
<了>
とあるお店で出会った社畜アラサー男と、JKの制服を着た19歳の少女が織り成す社会派ラブコメを綴った神田暁一郎先生にお話をうかがいました。青春でも甘々でもほのぼのでもない、生きることの意義や意味にも迫っていくストーリー。作中で描かれる二人の独白シーンも見逃せない『ただ制服を着てるだけ』は必読です!
<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>
©神田暁一郎/ SB Creative Corp. イラスト:40原
[関連サイト]