独占インタビュー「ラノベの素」 八目迷先生『ミモザの告白』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2022年1月18日にガガガ文庫より『ミモザの告白』第2巻が発売となった八目迷先生です。心と体の性の不一致を告白し、女子として生きていくことを宣言した幼なじみと、その告白によって変質していく人間関係や不器用な少年少女の青春模様を描いた本作。『夏へのトンネル、さよならの出口』のインタビューから約2年半ぶりの登場となる八目先生に、キャラクター達に込めた想いや執筆される上での葛藤など、様々なお話をお聞きしました。

 

 

ミモザの告白2

 

 

【あらすじ】

衝撃的な一学期が終わり、咲馬たちは夏休みに突入する。いつもと少し違う、だけど何気ない日常の最中に、ふと頭をよぎる『あの出来事』。ちゃんと向き合わなければならない、そう思う咲馬だが、今は目を逸らすことしかできなかった。そんな夏休みのある日。咲馬は、汐と夏希の三人で水族館へ行くことになる。三人は暗黙の了解のように『あの出来事』には触れず、楽しい時間を過ごす。だがなんでもないように振る舞っていても、過去はなかったことにはならない。「二人は、付き合ってるんだよね?」夏休みが終われば、その先には文化祭が待ち受ける。三人はそれぞれの想いを胸に、文化祭の準備を始める。実行委員の仕事、そしてロミオとジュリエット。行き違い続けた感情が交わるとき、舞台の幕が上がる。

 

 

――ご無沙汰しております。ラノベニュースオンラインへのご登場は『夏へのトンネル、さよならの出口』が発売された2019年のインタビュー以来ですね。まずは『夏へのトンネル、さよならの出口』の映画化、おめでとうございます。

 

ありがとうございます。いまだ遠い場所で起きた出来事のように感じています(笑)。

 

 

――映画化するというお話を聞かされた際はどのような心境でしたか。

 

すごく嬉しかったですね。担当編集さんの報告から1時間くらいはずっとニヤニヤしてました(笑)。しばらく「劇場アニメ化」の文字が頭から離れず、思い出し笑いみたいにニヤニヤしていた記憶があります。それくらい嬉しかったんですけど、何かと不安定なご時世ですから「この先どうなるか分からないぞ」と不安を覚えたこともありました。それを担当編集さんに言ったら「絶対大丈夫です!」と力強く答えてくれたので、安心してまたニヤニヤし始めました。我ながら単純ですね。

 

夏へのトンネル、さよならの出口

※劇場版『夏へのトンネル、さよならの出口』は2022年夏公開

 

 

――発売時のインタビューでも口にされていた「映画化」という目標を実現したことになります。

 

発売時のインタビューは、映画化が告知された際にあらためて読み返しました。言霊って本当にあるんだなと思いました(笑)。とはいえ、映画化は「夏トン」に関わってくださった方々の頑張りあってのことなので、「やってやったぞ」って気持ちは無かったですね。今は観客の一人として映画の公開を楽しみにしています。

 

 

――さらに『夏へのトンネル、さよならの出口』に続き、『ミモザの告白』が「このライトノベルがすごい!2022」総合新作部門2位、文庫部門4位に選出されました。あらためて選出された感想をお聞かせください。

 

『ミモザの告白』は、「このラノ」の投票開始時点で1巻のみの刊行だったこともあり、ランクインは難しいと思っていました。結果的に読者の方々から高く評価していただき、光栄に思っています。ただ、今作は前作までと違って、1巻で物語が綺麗に完結しているわけではありません。なので、次巻への期待を込めて投票してくださった方も多いと思うんです。そう考えると、ちょっとプレッシャーを感じちゃいますね。でも、次巻に対するプレッシャーはほとんどのライトノベル作家が抱えるものだと思うので、なんとか期待に応えられるよう頑張りたいです。

 

 

――八目先生自身は「このラノ」へのランクインを含め、読者からの反応をどのようにご覧になられていましたか。

 

『ミモザの告白』は、発売時から前作までとは違う読者層に届いた感触がありました。それに加えて、「このラノ」に選出された影響で、読んでくださる方がより増えたようにも感じています。少なくとも、ファンの方々に喜んでもらえる結果になっただけでも十分嬉しかったです。あと「このライトノベルがすごい!2022」本誌の話になりますが、「10代後半性別?」の方からコメントをいただいたことはすごく印象に残っています。この「性別?」が、性別を無記入で投票したのか、それとも男女に当てはまらない性で投票したのかは定かでないのですが、好意的なコメントだっただけに、胸に迫るものがありました。

 

 

――『ミモザの告白』第1巻の内容を鑑みて、そのコメントには特別な意味があったという事でしょうか。

 

そうですね。『ミモザの告白』は作中でガラケーを使っている描写があるように、一昔前の話なんです。ジェンダーに対する理解が乏しい時代で、閉鎖的な田舎町が舞台ですから、令和の時代では考えられないような差別や偏見が存在します。そこにトランスジェンダーのヒロインを登場させることで、認知の歪みを浮き彫りにし、誰でも差別しうるという気づきを与えたかったというのが本作の狙いのひとつでした。その過程で、セクシャルマイノリティに優しくない描写もしました。1巻を執筆している間は必要な表現だと割り切っていましたが、ここ最近は、もっと違う書き方があったんじゃないか、と考えてしまうこともあります。『ミモザの告白』は面白いと胸を張って言える作品です。だけど、面白さを追求するために、本来寄り添うべき対象の尊厳を蔑ろにしていたんじゃないかと、時々思うんです。よく読者の方から「考えさせられる」という感想をいただくのですが、僕も皆様の感想を読んで、本当にいろんなことを考えさせられています。

 

ミモザの告白

※汐の告白をクラスメイト達はどう受け止めたのか――

 

 

――著者も読者も「考えさせられる」という本作。あらためて着想についてもお聞かせください。

 

これといったきっかけはなく、今まで見てきたものの影響かな、と思います。たぶん、映画や文芸からの影響が最も大きいです。次にTwitterでしょうか。ここ数年、毎日のようにLGBTの話題を目にしているので、そういったところからも刺激を受けています。ネットに流れてくる記事や論争を見るたび、漠然とした違和感を誰かが言語化してくれてすっきりしたり、「それは違うのでは」と感じてモヤッとしたり。そんな思いが蓄積された結果、『ミモザの告白』が生まれたのだと考えています。とはいえ、そこまで啓発的な話にするつもりはなくて、あくまでボーイミーツガールを主軸にした物語にするつもりでした。ボーイミーツガールといっても男女の範疇にかぎらず、属性としての主人公とヒロインが出会い、その後どうなるかというお話ですね。思い返してみれば、テーマを決めてから最初に生まれたのが、セーラー服を着た汐と咲馬の出会いのシーンでした。汐の知られざる一面を咲馬が目撃するシーンです。二人は幼馴染で見知った仲なのですが、あそこで初めて、主人公とヒロインが出会ったのだと僕は認識しています。

 

ミモザの告白

※「自分の知らない汐」と咲馬が出会う場面。ここから物語は動き始める

 

 

――本作で取り上げられているテーマは、どれも答えが出しにくく、物語として表現するハードルも高いものだと感じます。どのような考えで、難しいテーマに挑戦することを決められたのでしょうか。

 

『ミモザの告白』の原型となるアイデアを思いついたとき、「これは面白いぞ」と確信したのですが、同時に「自分に書けるのか?」という躊躇もありました。そこで当時は、設定にSF的な要素を取り入れて、TSモノとしての側面が強い企画書を出したんです。そしたら「これSF要素いらなくない?」と指摘を受けまして(笑)。それからプロットやキャラ造形を見直し、今の形に落ち着きました。センシティブなテーマをそのままの形で扱うことに引け目があったんですね。でもよくよく考えてみれば、引け目を感じること自体、差別意識の表れかもしれないと思ったんです。ちょっと極端な例えになりますけど、メガネっ娘をヒロインにするとき「視力の弱い人に配慮を」と考える人はまずいないですよね。そういった気づきも含めて作品に落とし込もうと思い、執筆に踏み切りました。ただ、予備知識がないまま書き始めるのはまずいので、プロットの段階で自分なりに勉強しました。1巻も2巻も、書き始める前が一番大変だったかもしれません。

 

 

――具体的にはどういった点が大変だったのでしょうか。

 

マジョリティとマイノリティを分けるものだとか、何気ない偏見や見下しだとか、そういったものを知れば知るほど身動きが取れなくなる感じがしたんです。何を書いても自分の差別意識が露呈してしまうような気がしちゃったんですよね。このあたりの葛藤は2巻で色濃く表れていると思います。正直なところ、このインタビューも受けるかどうか悩んだくらいで(笑)。でも、自分が表現者であるかぎりは発信していくしかないと考えています。万人に認めてもらえるものを模索していきたいですね。

 

 

――悩みながら執筆されている八目先生と一緒に難問と対峙している登場キャラクターについてもお聞かせください。

 

紙木咲馬は、作中の時代に生きる一般的な高校生として書きました。いろいろと考え込んでしまう性格をしています。デリカシーに欠けるところもあるんですけど、根は優しい子です。主人公という性質上、どうしても作者自身を投影してしまうところがあるのですが、彼も自分の偏見と戦っています。よければ応援してやってください。

 

ミモザの告白

 

槻ノ木汐は、『ミモザの告白』の中心に立っている存在です。なんでもできる優等生で、クラスの人気者でした。そして心と体の性別にズレのある子です。汐を書くのが一番神経を使います。それはトランスジェンダーというアイデンティティを持っているからだけではなく、読んでくれたすべての人から愛されるヒロインにしたいという祈りを込めているからです。本当に大好きなキャラなので、一人でも多くの人から愛されてほしいです。

 

ミモザの告白

 

星原夏希は、「クラスにこんな子がいれば楽しいだろうな」というのを意識して書きました。ちょっと流されやすいところはありますが、友達思いで感情表現が豊かな子です。彼女の明るさには咲馬も汐も助けられています。あと僕も。いや、ほんとに星原がいないとすごく暗くなっちゃうんですよ、この話(笑)。ある意味『ミモザの告白』のMVPです。

 

ミモザの告白

 

 

――咲馬や星原、世良など本作に登場するキャラクターの考え方は三者三様で、その違いが『ミモザの告白』の面白さのひとつだと思っています。本作ではどのようにキャラクターを考えられているのでしょうか。

 

『ミモザの告白』の登場人物は、汐に対するリアクションから逆算して構成しました。たとえば汐のことを拒絶するキャラがいたら、それはどんな人で、なぜ拒絶するのか。逆に、汐のことをすんなり受け入れられるキャラがいたら、その人は善良なのか。汐を好きになるキャラがいたら、その人の恋愛対象は男なのか女なのか……。そんなふうに、汐を通して疑問を重ねながら、一人ずつキャラを固めていきました。一番早く固まったのが西園で、次に世良だったと思います。世良は、ちょっと特殊な存在なんですよね。彼は東京からの転校生なんですが、作中で最も現代的な価値観を持ち、偏見に縛られない行動を取ります。でも、彼の作中での言動がすべて正しいかというと、決してそうではないんです。正しい発言をすることもあれば、詭弁を使うこともあります。いわゆるトリックスターってやつですね。

 

ミモザの告白

※八目先生がトリックスター的存在だと語る世良慈

 

 

――キャラクターという点では、『夏へのトンネル、さよならの出口』の川崎小春や、本作の西園アリサなど、八目先生の作品には感情に振り回され攻撃的になってしまうキャラクターが登場する印象があります。これは人間の弱さや脆さを描きたかったということなのでしょうか。

 

単にコミュニケーションの下手な子が好きってのもあるんですけど、大体そんな感じです。「夏トン」の川崎にせよ、本作の西園にせよ、暴力に走るのは本人の弱さが原因だと思っています。その弱さが、僕はものすごく気になってしまうんですよね。「なんでそうなっちゃったの?」って変なセンサーが反応するんです。そこから勝手に想像が膨らんでいくので、いじめっ子みたいなキャラをよく書いてしまいます。良くいえば作風で、悪くいえば手癖でしょうか。ただ、この手のキャラを書くときは、できるだけその人物にも寄り添ってあげたいと思っています。たとえいじめっ子でも、読者にカタルシスを与えるためだけの存在にしたくない、と言いますか。もちろん犯した罪の償いは必要なんですけど、相手が子どものうちは、ちゃんと思いを吐き出させてあげたいんです。まぁ今ではこういう考え方も「いじめっ子はみな心に問題がある」みたいな偏見に繋がるのかな、とか思っちゃうんですけどね。特に理由もなく暴力を振るう人も世の中にはいますし、変に入れ込みすぎないよう気をつけています。

 

ミモザの告白

※女の子として生きる汐を拒絶する存在として描かれる西園アリサ

 

 

――本作も『夏へのトンネル、さよならの出口』、『きのうの春で、君を待つ』に続いてくっか先生がイラストを担当されています。くっか先生とのタッグも3作目になりますが、『ミモザの告白』ならではのイラストの魅力を教えてください。

 

過去2作は季節感を重視していましたが、『ミモザの告白』ではキャラクターを前面に押し出す方向にしようという話になったんです。くっか先生は独自の空気感を作るのが巧みな方だと思っているので、キャラ単体のカバーをどう仕上げてくださるのかは気になっていました。その結果が1巻のカバーイラストなんですけど、誇張抜きで今まで見てきたライトノベルの表紙の中で一番好きです。どこか少年らしさを残す顔つき、足の組み方、骨格、日の当たり方や自転車のディティールまで、すべてがいいですよね。素晴らしいイラストに見合う文章を書いていきたいと、毎度背筋が伸びる思いです。汐のキャラクターデザインも理想の上を行くものでした。ラフを見たとき、設定にない黒ストッキングが追加されてたんですよ! めちゃくちゃ合う、と思いました。その黒ストッキングもそうなんですけど、カバーイラストの青いロードバイクとか、汐のパーソナリティをちゃんと理解してくださっているなと思います。

 

ミモザの告白

※キャラクターがメインで描かれているカバーイラストでは汐の人間性が丁寧に表現された

 

 

――ありがとうございます。それでは発売された第2巻の見どころについて教えてください。

 

まずは、汐の服装です。本当にめちゃくちゃ可愛いので……。2巻のコンセプトの一つに「汐に可愛い服を着せる」があるので、ぜひイラストを見てください。もう一つは、各人物なりの「思いやり」に注目してほしいです。相手を思いやるつもりが逆に傷つけてしまった経験は誰にでもあると思うのですが、2巻はそういった感情を煮詰めた話になっています。優しくするつもりが傷つけてしまったり、傷つけたくないから距離を取るようになったり、過剰な配慮がどのような結果を生むのか……ぜひ2巻で見届けてほしいです。

 

ミモザの告白

※夏休みを過ごし、これから2学期を迎えることとなる咲馬たち3人

 

 

――まだ本作を読んだことがない読者、そして第2巻の発売を楽しみにしていた読者へそれぞれ一言お願いします。

 

小難しいことも言いましたが、『ミモザの告白』はジェンダーに関心がない方にこそ読んでほしい物語です。重いテーマだと身構えず、気軽に読んでみてください。そして1巻を読んでくれた方。自分なりの答えを必ず作中で示しますので、どうか最後まで見届けてください。それでは、今後ともよろしくお願いします。

 

 

――本日はお忙しいところありがとうございました。

 

 

<了>

 

 

トランスジェンダーであることを告白し、女子として生きることを宣言した幼なじみと、向き合い方を問われることになった主人公たちが織り成す青春物語を綴る八目先生にお話をうかがいました。 複雑に絡み合った登場人物たちの関係、それぞれの想いの変化にも注目しながら読みたい『ミモザの告白』は必読です!

 

<取材・構成:ラノベニュースオンライン編集部・宮嵜/鈴木>

 

©八目迷くっか/小学館「ガガガ文庫」刊

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[関連サイト]

ガガガ文庫公式サイト

 

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