独占インタビュー「ラノベの素」 ムラサキアマリ先生『のくたーんたたんたんたんたたん』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2022年11月25日にMF文庫Jより『のくたーんたたんたんたんたたん』が発売されたムラサキアマリ先生です。第18回MF文庫Jライトノベル新人賞にて「最優秀賞」を受賞し、満を持してデビューされます。父を殺した《亡霊》に復讐するため、殺し屋となった少年と、《不老不死の魔女》を名乗る美少女が出会って始まる愛と殺しと復讐のストーリーを描く本作。物語の着想から、インパクトの大きいタイトル、さらには個性豊かなキャラクターたちの誕生秘話など、様々にお話をお聞きしました。

 

 

のくたーんたたんたんたんたたん

 

 

【あらすじ】

「父さんを殺した《亡霊》に復讐するためなら、僕は悪の道を進む――!」それから五年、緋野ユズリハは裏社会で《死神》と恐れられる都市伝説(ころしや)になった。全ては復讐のために。《亡霊》の手掛かりを掴むためならば友を殺し、担任教師を殺し、その日も少女を一人殺した……ハズだった。「私は魔女です。悪魔と契約し、決して死なぬ身体となりました」少女は何度殺そうと立ち上がり、ユズリハに殺され続けた結果「惚れてしまったようです」などと口走り――? 都市伝説が織りなす愛と殺しと復讐の夜想曲第1番、開演――!

 

 

――まずは自己紹介からお願いします。

 

はじめまして、ムラサキアマリです。出身は東京都で、執筆歴、投稿歴は2022年1月に「佳作」の受賞が決まった時点で2年半ほどになります。今回受賞した『のくたーんたたんたんたんたたん』は人生で3本目に書いた小説になります。好きなものは「物語」で、漫画、アニメ、ゲーム、小説、映画、ドラマ問わず面白いモノはなんでも好きです。それこそお小遣いをもらえる年齢になるまでは、一日中テレビにかじりついていた記憶がありますね。高校入学以降はスマホやPCに触れる時間こそ多くなりましたが、物語好きは変わりませんでした。逆に苦手なものは「仕事」です。生きるために働いているのか、働くために生きているのか……分からなくなってきますよね(笑)。

 

 

――小さな頃から「物語」がお好きだったとのことですが、ご自身で「物語」を書き始めた理由は何だったのでしょうか。

 

昔から「この空想を形にしたい!」という思いがあったからですね。その思いを原動力に中学時代から約10年間、漫画家を目指して絵の勉強をしていたんです。ただ、どうしても絵を描くことが好きになれず、漫画家への道は諦めてしまいました。挫折を経験し、本当に自分がやりたかった事は何なのかを考えるうちに思い出したのが「物語をつくりたい」という原点でした。そこで、漫画家を志していた当時は存在を知らなかったライトノベルを書き始めることになりました。

 

 

――10年という長い時間を漫画に費やしてきた中で、大きく方向転換し、小説に専念できたことはすごいと率直に思います。

 

ありがとうございます。以前は、絵の勉強する時間を小説執筆にあてていれば、もっと文章力が高くなったのかなぁと思うこともありました。ただ、そうなると今とは違う人生を送ることになり、作家デビューもできなかったかもしれません。漫画家を目指して挫折したことも自分にとって必要なステップだったのだと考えています。

 

 

――そして今回、第18回MF文庫Jライトノベル新人賞「最優秀賞」を受賞されました。受賞の連絡を受けた時の率直な感想をお聞かせください。

 

まず四半期ごとの「佳作」受賞の連絡をいただいた時は、まるで救われたような気持ちでした。「面白いものが書けた。これで駄目なら諦めよう」と考えていたので、喜びと安堵が半々だったように思います。そこから7ヶ月後に最終結果が出るのですが、その間はエンドレス改稿作業に心身ともにかなり疲弊していましたね。「最優秀賞」受賞を知らされたのは、応募時点で「これ以外のものは書けないと思っていた結末」の改稿作業に行き詰っていたタイミングでした。喜びよりも驚きが大きかったですけど、「じゃあ頑張らないとな」という思いにも駆られました。そしてその3日後、「納得のいく結末」への答えはあっさりと見つかることになります。ほんとモチベーションって大事ですよね。担当氏は作家を3歳児に接するみたいに褒めるべきだと思います(笑)。

 

 

――数ある新人賞からMF文庫Jライトノベル新人賞を選んだ理由は何だったのでしょうか。

 

MF文庫Jライトノベル新人賞を選んだのは応募総数が多く、勢いがあり、一次選考で落ちても必ず評価シートがいただけるからです。この評価シートが結構辛口だったりするのですが、「時間を掛けて書いた小説の何が悪かったのか分からない」というショックに比べると、しっかりとした指摘をもらえるのは良かったですね。過去の評価シートは、本作の応募の際にも活用していますし、今回の受賞にも貢献してくれました。

 

 

――先ほど、受賞後は書籍の発売に向けての改稿作業が大変だったとおっしゃられていましたが、具体的にはどういった点が大変でしたか。

 

それこそ受賞を辞退しようかと思うくらいには辛かったです。打ち合わせでは二度泣きました(笑)。本当に「何もかも」が大変だったんですよ……。一部キャラクターの性格や容姿が変わったり、名前が「漢字+カタカナ」の形で統一されたり、章タイトルが変わったり、無駄な会話や描写を削ったり……ここでは伝えきれませんが、本当にキリがなかったと思います。ただ、しんどい思いをしたぶん、クオリティは65点から105点くらいになったと思います。一人では妥協して、ここまでは書けなかったと思うので、その点は苦労した甲斐がありました。ちなみに、悪魔……いえ、担当氏からは初顔合わせの際に「この作品が化けるかどうか、ある意味編集としても挑戦だ」と言われました。担当氏にはかなり迷惑をかけているので、本当に売れて欲しいですね!

 

 

――ありがとうございます。それでは『のくたーんたたんたんたんたたん』がどんな物語なのか教えてください。

 

「父さんを殺した《亡霊》に復讐するためなら、僕は悪の道を進む!」と、敵討ちのために殺し屋となり、目的のためなら知人も殺し、裏社会で《死神》と呼ばれるようになった少年・ユズリハが《不死の魔女》ハナコと出会い、惚れられる――といった始まりなのですが、ジャンルは「殺し屋×不死のラブコメ」ではありません。創作の世界では「悪人」が好意的に描かれることが多々ありますが、本作では「復讐」や「人殺し」の持つ悪性から眼を背けず、きちんと向きあって描くことを目指しました。こう話すとなんだか暗く重そうな話だなぁと思った方はご安心ください。台風のようなヒロインの存在が、そんなもの吹き飛ばしてくれると思います!(笑)

 

のくたーんたたんたんたんたたん

※《死神》と《不死の魔女》が出会い、物語は動き始める

 

 

――本作の着想についてもお聞かせください。

 

本作の元となるアイデアを考え付いたのは、シャワーを浴びている最中でした。殺し屋と不死の少女が殺し合っているシーンが頭に浮かんだんです。シャワーから出た後、そのシーンを元に設定も固めず息抜きのつもりで書き始めたところ、気付けばキャラクターが勝手に動き出していたんですよね。一章を書き終えたところで「これは面白いかも!」と思い、続きを書くことを決めました。そこからは「なぜユズリハは殺し屋になったんだろう?」「なぜハナコは魔女になったのだろう?」という問いにキャラクターたちが上手く答えてくれた結果、『のくたーんたたんたんたんたたん』は書きあがっていきました。

 

 

――『のくたーんたたんたんたんたたん』というタイトルも非常に特徴的ですよね。タイトルはどのようにして決まったのでしょうか。

 

実を言うと本作を応募したのは、締め切りまで一時間を切ったタイミングだったんです。元々は違うタイトルだったのですが、間に合うかどうかの瀬戸際で、「このタイトル弱いんじゃないか?」と思いまして。疲弊しきった脳で考えた結果、『のくたーんたたんたんたんたたん』になりました。ちなみに、担当氏とは刊行時に別のタイトルに変更する方向で考えていました。「わかりやすい長文あらすじ系タイトル」という昨今の流行に逆行した意味不明なタイトルでしたからね。ただ、正気では深夜のテンションで考えたタイトルのインパクトには勝てず、「最優秀賞」にも選ばれたことから「このままでいこう!」という話に落ち着くことになりました。運命の女神がイタズラしていますね(笑)。この「のくたーんたたんたんたんたたん」という言葉は本編にも登場するので、読者の皆様はぜひ確認してみてください。

 

 

――では続いて、本作に登場するキャラクターについても教えてください。

 

本作の主人公・緋野ユズリハは、11歳の時に父親を殺され、復讐のため裏社会に入ってから5年で《死神》と恐れられる殺し屋にまで上り詰めたキャラクターです。本編スタート時点では仇相手の情報を掴めぬまま焦燥の日々を過ごしています。殺しの天才で一見よくいるタイプの殺し屋に思えますが、物語を読み進めていくと、性格や信念などが普通の殺し屋と違うのだと気付かされると思います。またライトノベルには珍しい糸目主人公で、《死神》としての姿になった際に開眼するのがカッコいいんですよ。イラストをお願いする際、表と裏とで眼つきが変わるよう希望したところ、担当氏から「糸目はどうですか?」と提案されまして……。「はぁー、糸目ぇ? なにいってんだコイツぅー」と思いましたが、実際に上がって来たラフを見比べたところ「これはアリだな」と感銘を受け、糸目になりました(笑)。

 

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※仇を討つため殺し屋となった《死神》のユズリハ

 

金髪碧眼で、明らかに日本人じゃない美少女・山田ハナコは、悪魔と契約した《不死の魔女》で、かの有名人物を自称しているキャラクターです。不死ゆえに頭のネジがぶっ飛んでおり、何をしでかすかわからないトリックスターで、作中ではそれが悪い方向へ行ったり、良い方向へ行ったりします。彼女のおかげで本作の重めのテーマが緩和されている部分もあると思います。物語の結末も彼女に振り回された結果、当初予定していたものとは別方向に落ち着きました。瞳孔が花の形で、髪型がハーフアップ+かんざしというのは作者のアイデアでして、イラスト担当のおりょう先生の多大な尽力によりとても良いデザインとなりました。いやマジ可愛いですよね。

 

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※物語を搔きまわす存在であるという《不死の魔女》山田ハナコ

 

緋野ギンジロウはユズリハの父であり、ユズリハの復讐のきっかけとなったキャラクターです。《白狼》と呼ばれた優秀な殺し屋で、その活躍を妬んだ《亡霊》に殺されてしまいます。章の合間に入る過去エピソードで登場するのですが、これがまたテキトーな性格の薄汚いオッサンです。しかし彼の言葉には妙な魅力や説得力があり、ユズリハは彼が大好きでした。また、ユズリハの仮面はギンジロウより受け継いだものです。キャラデザの段階でリテイクをお願いさせていただいた一人で、「もっと汚くしてください!」と頼みました。特におっさんフェチではありませんが熱望してしまいました(笑)。

 

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※ユズリハの復讐劇のきっかけとなった父・ギンジロウ

 

 

――序盤のユズリハはつかみどころがないキャラクターという印象でした。彼の軽妙なセリフ回しも独特のカッコよさを演出していましたよね。

 

ありがとうございます。ユズリハのキャラクター造形については、「特別な境遇の奴が、普通なわけないよね!」という考えのもとに作られています。作者は普通の奴なので、彼の考え方には一部賛同できない部分もあったりします。ですが理解できることが必ずしもカッコよさに繋がるわけではないので、そこが「独特なカッコよさ」になったのかもしれません。また台詞などに関しては、実はそこまで深く考えていません。場を整えると、どのキャラクターも勝手に喋り始めるのでフォローするのが大変なんです。応募原稿では野放しだったので、揃いも揃って無駄な会話を繰り広げていましたね(笑)。

 

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※ユズリハの特異な境遇や考え方が、彼の独特のカッコよさを生み出している

 

 

――本作のイラストはおりょう先生が担当されています。先ほどキャラクターデザインにも少しだけ触れてただきましたが、イラストの感想やお気に入りのイラストについても教えてください。

 

キャラクターラフをいただいた時は思わずツイートしたのですが、「嬉しかった」の一言に尽きます。モチベーションは「最優秀賞」に決まった時よりも大きく、絵の力で殴られたような感覚でした。ワンパンKOです。お気に入りのイラストなんですが、おりょう先生の絵はどれもこれも顔が良くて選ぶのが難しいです。特に好きなものとなると、ネタバレになるのでぜひ読者の皆様にはぜひ書籍で確認していただきたいのですが、後ろから2枚の挿絵です。ネタバレにならない範囲からですと、3枚目の口絵のハナコですね。左下に小さくいるだけなのですが、この「ハァ?」みたいな表情が個人的にツボです(笑)。

 

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※ムラサキアマリ先生お気に入りの一枚

 

 

――あらためて著者として本作の見どころ、注目してほしい点を教えてください。

 

自分で言うのはやや気恥ずかしいので、審査段階で本作が評価された点を挙げますと、キャラ、設定、文章、ストーリー、構成、台詞が良く、外連味があったようです。とくに台詞や外連味はあまり褒めない担当氏が評価している部分なので、その2つはまず間違いないのかなと思います。

 

のくたーんたたんたんたんたたん

※外連味あふれるセリフ回しや掛け合いは大きな魅力

 

 

――今後の目標や野望があれば教えてください。

 

プロの作家として生き、物語を書き続けて死にたいです。その第一段階としては「1巻の重版」ですかね。作家は夢を与える職業ですが、売れないと続きを書けないこともあるので、夢を与え続けられるよう頑張ります。

 

 

――最後に本作へ興味を持った方、これから本作を読んでみようと思っている方へ一言お願いします。

 

来世は裕福な家の愛猫になりたいです。よろしくお願いします。

 

 

――ありがとうございました。

 

 

<了>

 

 

天才殺し屋と不死の魔女による都市伝説系アクションを綴るムラサキアマリ先生にお話をうかがいました。殺し屋としては独特の哲学を持った主人公や、物語を書かき回すパワフルなヒロインによって演じられる外連味あふれる物語。復讐だけではなく、キャラクター同士の掛け合いも大きな魅力となっている『のくたーんたたんたんたんたたん』は必読です!

 

<取材・構成:ラノベニュースオンライン編集部・宮嵜/鈴木>

 

©ムラサキアマリ/KADOKAWA MF文庫J刊 イラスト:おりょう

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[関連サイト]

『のくたーんたたんたんたんたたん』特設サイト

MF文庫J公式サイト

 

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のくたーんたたんたんたんたたん (MF文庫J)

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