独占インタビュー「ラノベの素」 海空りく先生『落第騎士の英雄譚』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2023年12月15日にGA文庫より『落第騎士の英雄譚』第19巻が発売された海空りく先生です。ラノベの素には約3年ぶりの登場となります。2013年の刊行開始から10年、『落第騎士の英雄譚』は完結を迎えます。シリーズ10周年、そして完結を記念して本作を掘り下げながら振り返る、メモリアルインタビューをお届けします。主人公・黒鉄一輝を通して描きたかったもの、一輝とステラの関係性について、さらにはすべてを包括した最強キャラクターランキングなど、ファン必見の内容でお届けします。

※12月22日頃設置開始のフリーペーパー「ラノベNEWSオフラインvol.15」には本記事未掲載のインタビューも掲載されています

※本インタビューは第18巻までのネタバレを含みますのでご注意ください

 

 

落第騎士の英雄譚19

 

 

【あらすじ】

「では『母体』から不要なステラ・ヴァーミリオンの人格を削除する」『完全な人類』を生み出すための母体として、《大教授》カール・アイランズに拉致されたステラ。彼女を救うべく、一輝と仲間たちはアイランズが待ち受けるラボを急襲する。しかし、なみいる強敵を斬り払って囚われのステラのもとにたどり着いた一輝たちを待っていたのは、残酷な結末だった。《落第騎士》一輝と《紅蓮の皇女》ステラ。剣で惹かれ合った2人、その運命の行方は――!?「――僕の最弱を以て、君の最愛を取り戻す!!」 最終章クライマックス! 超人気学園ソードアクション、堂々完結!!

 

 

――大変ご無沙汰しております。前回のインタビューから約3年ぶりのご登場となります。まずは近況からお聞かせいただけますでしょうか。

 

ご無沙汰しています、海空りくです。ここ3年間の近況ですが、とにかくずっと仕事をしていたなって感じで、原稿に追われていたという記憶しかありません(笑)。『落第騎士の英雄譚』にしろ、『カノジョの妹とキスをした。』にしろ、ほかにも漫画原作をやっていてそっちの原稿にしろ、ただただ仕事をしていた記憶しかないんですよね……。ありがたいことでもありますが、だいぶ忙しくさせていただいています(笑)。

 

 

――この3年間、印象深い出来事などはありましたか。

 

作家としては、やはり『カノジョの妹とキスをした。』のシリーズを閉じたことは大きかったです。最終巻でもあった第4巻の出来も、個人的にはとても満足のいくものができました。賛否両論ある内容ではあったので、よろしい意見ばかりというわけではなかったにせよ、それでも自分の目指したものは受け入れられたかなと感じています。それはすごく嬉しいことでもありましたし、やりきったという意味においても、記憶には強く残っていますね。

 

カノジョの妹とキスをした。4

※2020年から2022年にかけて刊行、完結した『カノジョの妹とキスをした。』

 

 

――なるほど。シリーズを閉じるという点においては、『カノジョの妹とキスをした。』から引き続き『落第騎士の英雄譚』も幕を下ろすことになるわけですよね。同じ完結でも違いは感じましたか。

 

やっぱり全然違いました。『いもキス』に関しては、シリーズをスタートして完結するまでだいたい3年くらいですかね。シリーズを通して最初にやろうとしていたことを、初心から一貫して真っ直ぐにやれたなと思っています。一方で『落第騎士』に関しては、10年という長期シリーズでもありました。自分の中のやりたいことが常に変化したり、キャラクターが勝手に動き出して「こいつらどうしよう」みたいな、手綱を握る苦労が絶えませんでした。本当に波乱万丈だったというか、10年前の第1巻を作った時点から第19巻のエンディングを思い描いていたわけではなかったので、ライブ感の中で作品を執筆し続けるという意味でもまったく違いましたね。

 

 

――第19巻のラストは初期構想ではなかったんですね。

 

そうですね。『落第騎士』に関しては、第9巻の七星剣武祭のエンディングあたりまでが、最初の構想として考えていた部分になります。それ以降は自分としても未知の部分でしたし、キャラクターが勝手に動いて「これをやりたい、あれをやりたい」って言いだしたり、自分自身もそういった思いに駆られたりと、とにかく刺激的でした。その過程において、自分の非常に好きなキャラクターも生まれたりしましたね。

 

 

■落第騎士の物語はスポーツものから英雄譚へ、こだわりぬいた戦闘シーン

 

――ありがとうございます。それではいよいよ完結を迎える『落第騎士の英雄譚』について深くお聞きしていこうと思うのですが、まず本作の走りは異能バトルのスポーツものでした。

 

最初はそうでしたね。ただ、もともとスポーツものを目指していたかというとそういうわけでもなくて。まず構想の中に学園異能バトルという枠があって、そこで何をしようかと考えました。その時にやっぱり異能バトルだから戦うよねってところを考えたわけですけど、そこからスポーツをチョイスしたのは、完全に自分の趣味に近い理由だったと思います(笑)。基本的に自分は、漫画にしろラノベにしろ、タイマンの勝負が好きなんです。読むのはもちろんだし、書くのも書きごたえがあって好きです。そういう自分の好きで得意な部分を形にした結果、『落第騎士』が形作られていきました。

 

落第騎士の英雄譚

※本作の走りは異能学園スポーツものとして描かれていた

 

 

――本作におけるスポーツものとして毛色は、第9巻を境にテーマであったり方向性が変化した印象を受けたのですが、そのあたりはいかがですか。

 

物語としてのテーマ性はそんなに大きく変えたつもりはありませんでしたね。ただ、作品の毛色としては、スポーツもののバトルから、より英雄譚に近いものにしていこうという意識は持っていました。物語が進むにつれて、世界的に注目されていく一輝の姿を書きたいなという気持ちはあったので、試合における一対一ではなく、戦況によって状況が変遷する戦場で描くことを意識していました。実のところ、一輝はリングの上で戦うより、いろんな要素によって変化する戦場で戦う方が強いんですよ(笑)。

 

 

――《一刀修羅》なんかは超短期決戦仕様なので、個人的には一対一がトータルで向いているんじゃないかなと思っていました。

 

もちろん一対一での強さもあります。でも、一対多数をはじめとした、戦場の様々な要素を利用しても彼は強いんですよ。なので第9巻以降は、そういった一輝の良いところを見せたいと思って書いていましたし、七星剣武祭以後の見どころのひとつになっていたんじゃないかなと思います。それこそたとえば、ヴァーミリオン戦役編の決着シーンですよね。一輝は自分一人の勝利よりも、ステラにたすきを繋ぐやり方をしたわけじゃないですか。ああいったシーンは一対一のバトルでは描けない、大きな魅力になっていたんじゃないかなと考えてます。

 

 

――ちなみに一対一のバトルものはなぜお好きに?

 

やっぱり読んできた作品や通ってきた作品の中で、特に自分に刺さった作品にそういったものが多かったんですよね。僕のすごく好きな作品のひとつに『はじめの一歩』があるんですけど、あの作品もリング上で一対一を描いているじゃないですか。リングの上でお互いのバックボーンを手札として出していき、ドラマを作りながら描いていく。僕の作品におけるバトル描写が、とても長い理由もそのあたりに起因していたりもします。それこそ一輝とステラの戦いなんて、まるまる1冊でやっていたわけで(笑)。一対一の戦いは互いに焦点があたる二人の掘り下げがすごくやりやすい。ドラマを作りやすいし、見せやすいし、書きやすくもある。作家としても非常に有効な手法のひとつだと思っているので、そこも僕の好きな理由になっています。

 

 

――ご自身でもおっしゃる通り、『落第騎士の英雄譚』は戦闘シーンが本当に多く、その多さゆえに、他の作品との差別化もできていたように感じます。

 

戦闘シーンを描く上では場面の動きだけを追うのではなく、心の動きも同時に追っていく構成にすることを、僕としてはすごく気を付けています。小説は漫画よりも動きの描写の難しさという問題を抱えているわけじゃないですか。なので、そこにリソースを割きすぎると読み味が悪くなるかなと僕自身は思っているんです。逆に小説の良いところは、心情描写を深く深く掘り下げられるところだと思うんですよ。なので、戦闘シーンにおいても、身体の動き以上に心の動きにフォーカスして追いかけるような形になるよう、いつも注意していました。

 

落第騎士の英雄譚

※本作における戦闘シーンは他作品と差別化できるくらいに多いのも特徴のひとつ

 

 

――戦闘シーンにおける心の動きは、第3巻で描かれた黒鉄一輝VS東堂刀華戦が印象的だったという読者は多かったように感じます。互いに一太刀の勝負という、身体的動作はとても短い。でも胸を熱くする心情描写が満載で、本作におけるベストバウトのひとつになるんじゃないでしょうか。

 

それはありがとうございます(笑)。なにせ3巻っていうのは、当時の打ち切りの水準だったんですよ。なので、最悪そこで気持ちよく終われることを考えていたので、あのシーンは本当に作り込みました。絶対に一太刀で終わらせるっていう結果から考えて全体を作ったので、個人的にも良い巻になったと思っています。実際は一太刀の交錯なので、やっていることはすごく短い。でも心情描写で厚みを持たせていく形を、うまく体現できました。『落第騎士』はバトルを通じてドラマを見せていく作品でもあるので、戦闘シーンは自然と長くなっていきましたね。

 

 

■シリーズを通してめちゃくちゃ悩んで苦労したのは《大炎》編での戦い

 

――ありがとうございます。ではあらためてシリーズ刊行から10年を経て完結を迎えたわけですが、率直な感想についてもお聞かせください。

 

先ほどお話したように、まず第1~3巻までを大きな一区切りとして考えていました。3巻で校内戦に大きな決着をつけるということは企画時点から考えていたところになります。なので一輝と刀華の戦いを描いた3巻までは、企画段階から考える時間がたくさんあったので、すごくスムーズに執筆できていたなと思います。企画時から唯一手を入れたのが、倉敷蔵人でしたね。最初はただのチンピラとして出すつもりだったんですけど、ドラマ性を強く持たせたいと考えた結果、なかなか熱い男に仕上がりました。そうして3巻が終わったあたりだったと思うんですけど、メディアミックスのお話もいろいろ動き始めました。ありがたいことに3巻時点で長期シリーズ化が視野に入る売れ行きだったので、以降の七星剣武祭のことを考える必要が出てきたわけです。正式な場で一輝とステラが決着をつけるという大まかなストーリーの構想は持っていましたが、その過程まで詰めていたわけではなかったので、ここから様々な並行作業がスタートしたんです。当時はアニメもありましたし、スケジュール面では相当しんどかったです(笑)。当時の自分の若さに加えて、初アニメ化の喜びというバフもかかってなんとかできていたので、今同じことをやれと言われてもできる自信がないです(笑)。なので、暁学園のメンバーや七星剣王の諸星についても最初から考えていたわけではなかったんですよね。

 

 

――初期構想にはなかった暁学園には、第1巻から登場していた有栖院凪(アリス)もいましたよね。暁学園と関係性を持っていたアリスの構想は、最初から考えていらっしゃったんですか。

 

そこはそうですね。アリスはもとからそういうキャラクターとして出していました。最初の登場から彼女は胡散臭かったでしょ?(笑)。なので、もし七星剣武祭まで物語を進めることができたなら、アリスにはスポットをあてようと思っていました。

 

落第騎士の英雄譚

※珠雫の数少ない心許せる相方でもあった有栖院凪

 

 

――そして七星剣武祭の激闘、一輝とステラの決着を経て、物語はヴァーミリオン戦役編へと突入していきました。シリーズとしても英雄譚を意識されるようになったというお話もありましたが、構想を考える上で大変だったところはありましたか。

 

ヴァーミリオン戦役編はそこまで大変だったところはなかった気がします。《比翼》のエーデルワイスも再登場させられましたし、多々良幽衣の回収もできて、楽しく書けていたように思いますね。僕はヴァーミリオン戦役編で登場させた《黒騎士》アイリス・アスカリッドがすごく気に入っているキャラクターなんですよ。彼女は最終的に死んでしまうんですけど、彼女の人生を描けた楽しさというか、書き切ったという感覚をすごく持てたキャラクターでもありました。

 

落第騎士の英雄譚

※《黒騎士》アイリス・アスカリッドはヴァーミリオン戦役編におけるキーキャラクターとなった

 

 

――大きな戦いとなったヴァーミリオン戦役編は第15巻まで描かれることになりました。そしてここからクライマックスに向けて物語は加速してきましたよね。

 

そうですね。16巻と17巻で描いた《大炎》編は、懐かしいキャラクターをたくさん出せましたし、七星剣武祭で戦ったライバルたちの「今」を描くことができて楽しかったです。その一方で《大炎》があまりにも強く、一輝やステラ不在のメンバーでどう戦うべきか、当時の担当編集さんともすごい相談をしたりと、めちゃくちゃ悩んで苦労しました(笑)。最終的には刀華らしい、他人に対する受け皿の広さをキーワードに戦うことができたと思います。また、《大炎》編では諸星の存在が自分の中では光りました。七星剣武祭編での登場時から諸星の精神力はカンストしていたんですけど、ブレない彼の精神力は物語を運ぶ上で大きなエンジンとしても役立ってくれました。刀華の物語が軸にはなりましたけど、諸星も次点でいいところを持っていきましたし、諸星の英雄に対する解釈のアンサーとしては、いい着地点だったんじゃないでしょうか。18巻については19巻とほとんどセットなので、ここでは割愛しましょう(笑)。

 

落第騎士の英雄譚

※一輝やステラ不在の中、《大炎》が騎士たちの前に立ちはだかった

 

 

■刀華と珠雫の戦いはアニメ側がうまく膨らませてくれた

 

――では続いて、2015年に放送されたアニメについても振り返っていきたいと思います。放送から8年が経ちましたが、あらためてアニメはいかがでしたか。

 

初めてのアニメ化ということもあり、とにかく印象的なことだらけでしたね。最初から最後まで楽しかったとしか言いようがないですし、そう言えることが本当に幸せだったと思います。主題歌も酒井ミキオさんに担当していただけることになって、本当にびっくりしました(笑)。もう8年以上前のことなので、どういう流れだったかまでは正直思い出しきれないところもあるんですけど、最初の企画会議かなにかで、酒井ミキオさんのお名前か、格好いい主題歌だったか、そんな話題になったんですよ。「酒井ミキオさんのような、格好良くて熱い歌を作ってくれる方に依頼しよう」、そういった類の話をしていた気がします。それで自分も「『スクライド』大好きなんで嬉しいです」みたいなことを答えた気がする。なので、最初は酒井ミキオさん本人に歌ってもらえるとは1ミリも思っていなくて、作詞や作曲をやっていただけたら嬉しいな、くらいに考えていたら、まさかのご本人という(笑)。今思い返してもめちゃくちゃ驚かされましたし、めちゃくちゃ嬉しかったですね。

 

落第騎士の英雄譚

※アニメでも印象的な思い出は非常に多かったという

 

 

――アニメは1クール12話が放送されました。特に印象的だったシーンを挙げるとしたらどこでしょう。

 

一番印象に残っているのは、やはり一輝と刀華の戦いを描いた最終話ですね。それと優劣はつけたくないんですけど、同じくらい印象に残っているのが、刀華と珠雫の戦いでもあります。あの戦いは本当にアニメ側がうまく膨らませてくれて、すごく迫力のある戦闘シーンになりました。刀華も珠雫も派手な魔法を使う騎士なので、一輝とは毛色の違う戦いをうまいこと映像化していただいて、見ていてめちゃくちゃ嬉しかったです。あとはオープニングの話にもなりますが、映像が変わっていたんですよね。1話から4話が桐原静矢、5話から8話が倉敷蔵人、9話から12話が東堂刀華で。ああいった演出はすごく大好きで、とても印象に残っています。

 

 

――アニメになったことで印象の変わったキャラクターはいましたか。

 

一輝とステラのクラスメイトで、新聞部の日下部加々美ですかね。元から明るいキャラクターではありましたけど、相坂優歌さんの声がついたことで、すごく可愛く見えるようになりました。その結果、出番も増えました。その後も七星剣武祭編のドラマCDではアニメのキャストさんに集まっていただいて収録もしていただき、シリーズを続けていてよかったと思いましたし、非常に嬉しかったです。

 

落第騎士の英雄譚

※アニメを通してより可愛さが増したという日下部加々美

 

 

■主人公・黒鉄一輝を理想のヒーローとして描き切った

 

――ありがとうございます。ここからはキャラクターについてより深くお話を聞いていければと思います。あらためて本作の主人公である黒鉄一輝は、海空先生にとってどんなキャラクターでしたか。

 

男の子かくあるべし、美学の体現者って感じでしょうか。こうあれたらいいなっていう、理想像を描いたキャラクターだったと思います。もしこうあれたら、自分も周りも幸せだろうなっていう、ヒーローとしての理想でもありました。この想いを一層強く感じるようになったのは、2020年から『カノジョの妹とキスをした。』の主人公が、一輝とは全然違うタイプの主人公だったことも大きかったですね(笑)。佐藤博道くんもね、あれはあれで好きなんですよ、等身大の男の子ですし。ただ、そのあたりを鑑みても、一輝はやっぱりヒーローだったなって思います。

 

落第騎士の英雄譚

※ヒーローとしての理想でもあったという黒鉄一輝

 

 

――先ほど黒鉄一輝のことを「男の子」と表現をされましたが、個人的にもその表現がぴったりな主人公だったなと思います。紳士的な面もあり、でも思春期的な感情にすごく揺れ動く。ステラとのやり取りでは本当に「男の子」をしていたなと(笑)。

 

まあ、一輝の紳士は途中でお亡くなりになりましたけどね(笑)。いずれはそうなるだろうなとは思っていましたけど、キャラクターが勝手に夜の一刀修羅を始めてしまったので、僕としてはもうどうしようもなかった(笑)。

 

落第騎士の英雄譚

※ステラとの甘酸っぱいシーンも非常に多かった

 

 

――そのあたり、黒鉄一輝を描く上でのバランス感覚など難しさはありませんでしたか。彼のストイックさや人との向き合い方、捉え方によってはかなり達観したタイプの主人公とも受け取れるキャラクター像だったなと感じていまして。

 

なるほど、そういう見え方もしていたんですね。僕は一輝を達観した人間だとは捉えていなかったので、ステラに対する態度とかですかね、逆にバランス感覚が難しそうという感じに映ったのかもしれません。僕にとって一輝は、普通に格好いい一人の男の子だったんです。だからこそ、ステラほどの美人と付き合ったらあんな感じになるだろうと思いながら書いていました(笑)。何か意識しながら書いていたわけではなく、自然とそうなっていたという方が適切かもしれませんね。

 

 

――格好いい男の子、その代名詞となる決め台詞も個人的にはとても印象的でした。

 

「僕の最弱(さいきょう)を以て、君の最強を打ち破る――!」

 

決め台詞は、シリーズを通して使える格好いいセリフを言わせたいと最初から考えていました。やっぱりバトルものでの決め台詞ってすごく大事だと思うんです。この台詞が出たら、もう勝ち確やぞっていう(笑)。読者さんもある程度読んでくると、この台詞が出たからここからは勝ち確だとワクワクを感じてもらえると思うんです。お約束ってすごく大事だと思っているので、だからこそ作った台詞でもありましたね。

 

 

――あらためてこの10年を通して、海空先生の書きたかった黒鉄一輝の姿は描けましたか。

 

ネタバレになるので深くは触れませんが、特にラストですね。すごく良い一輝を描けたなって思っています。これは最終巻をぜひ確認してもらいたいですね。黒鉄一輝というヒーローの姿を、強さだけでなく弱さも含めて描き切れたなと思います。

 

落第騎士の英雄譚

※最終巻で描かれる黒鉄一輝の姿は必見!

 

 

■一輝の最愛にして最強のライバルであり続けたステラ・ヴァーミリオン

 

――では続いて、ヒロインである彼女についても聞かないわけにはいかないでしょう。海空先生にとってステラ・ヴァーミリオンはどんなキャラクターでしたか。

 

ステラに関しては、一輝の最愛で最強のライバルに集約されると思います。特にヴァーミリオン戦役編ではステラが主役みたいなところもありましたし、《傀儡王》オル=ゴールとの戦いでも、ステラの良さを書けたと非常に満足しています。一輝という大切な人間を失っても折れることはない。珠雫にも言及されてましたけど、それがステラらしさでもありました。

 

落第騎士の英雄譚

※一輝との最初の出会いはドタバタ劇からの模擬戦で――

 

 

――ステラを描いていく中で、彼女のターニングポイントや成長のポイントはどんなところにありましたか。

 

まず、ターニングポイントで言えば一輝との最初の模擬戦になるでしょう。もともとすごく強いキャラクターではあるんですけど、一輝と出会って大きく変わりました。それから黒鉄王馬との戦いに敗北したことや、オル=ゴールと初めてエンカウントした時も、大きな成長の機会になっていたと思います。そしてヴァーミリオンを守るために、《比翼》のエーデルワイスが住むエーデルベルクで修業をし、修行の中で自分は何がしたかったのかに気付いていく。でもステラが一番強くなった要因は、七星剣武祭で一輝に負けたことだったと思います。そこで大きなブーストがかかったと思いますね。ステラの向かう先は、割と最初から決まっていましたし、本作は一輝とステラの二人にスポットをあてて、最愛にして最強のライバルを描いていく物語でしたので。

 

 

――最愛にして最強のライバル。ステラは一輝にとってヒロインであり、ある意味で立ちはだかるボス的な存在だったのかもしれません。

 

七星剣武祭編までの構想では、一輝がステラを倒すまでの物語として、ステラは一輝の前に立ちはだかるボスという役割を担っていました。でもその役割を乗り越え、最愛で最強のライバルという、一輝にとっての唯一無二を描けたんじゃないかなと思っています。ステラはボスだったかもしれないけど、一輝にとって彼女はボス以上の関係性でした。ずっと一輝の最愛で最強のライバルで在り続けてくれた。このシリーズを書き続けていて、よかったことのひとつだなと思いますね。

 

落第騎士の英雄譚

※黒鉄一輝の最愛にして最強のライバルで在り続けたステラ・ヴァーミリオン

 

 

■七星剣王・諸星雄大には伸びしろがなかった?

 

――ありがとうございます。そんな一輝とステラ、二人の存在が非常に重要である物語の中には、多くのキャラクターが登場しました。海空先生の中で特に印象に残っているキャラクターは誰でしたか。

 

先程も軽く触れましたが、《黒騎士》アイリス・アスカリッドです。書き続けているうちにどんどん好きになっていって、その死に際も印象に残っています。弟であるオル=ゴールを倒すために戦っていた彼女ですが、いざ倒せそうなタイミングになった時、自分の本音に気付いてしまった。世界をまるごと敵に回しても、弟のためにというスタンスで立ち塞がり、一輝もそれを理解し、そして受け入れて二人は戦います。一輝の度量の広さもあったし、アイリスの引けない理由もありました。僕の中にも一輝やアイリスの想いには納得があったし、結果的にオル=ゴールとの決着における大切な要素にもなったわけです。アイリスはすべてをかなぐり捨ててオル=ゴールを愛した。でもオル=ゴールはアイリスの想いをまったく顧みず、それが敗因となりました。アイリスがいたからこそ、ヴァーミリオン戦役編の物語はうまく回ったと思っています。本当に気に入っていて、印象深いキャラクターになりました。

 

落第騎士の英雄譚

※一輝やステラにとって味方でありながら敵としても立ちはだかった《黒騎士》アイリス・アスカリッド

 

 

――では一輝とステラを除き、シリーズを通して一番成長したと感じるキャラクターについても教えてください。

 

登場するキャラクターが割とみんな最初から強いので、なかなか難しいところですね……。人間的な成長も含むのであれば、珠雫でしょうか。最初の頃から比べて、技量はとんでもなく高くなりましたし、やれることも技もすごく幅広くなって、単純にとても強くなりました。もちろんそれだけでなく、精神的な成長も大きいと思っていて、ステラを受け入れられたというのもひとつありますし、七星剣武祭の最中で一輝の心臓が止まったじゃないですか。あの時の苦い経験を乗り越えるべく、《白衣の騎士》薬師キリコに弟子入りをし、ヴァーミリオン戦役では自身の力で運命を捻じ曲げました。振り返ると一番伸びがあったキャラクターだったと思いますね。そうそう、それ言うと一番伸びていないのが諸星で(笑)。

 

落第騎士の英雄譚

※人間としても騎士としても大きな成長を遂げた黒鉄珠雫

 

 

――七星剣王の諸星雄大には伸びしろがなかったと(笑)。

 

とにかく彼は初期スペックが高すぎた。恐らく彼だけが、初期状態のまま最終巻を迎えたんじゃないかなと思います。《大炎》編で使っていた技も最初から持っていた技ですし、学生相手だから敢えて使わなかったものでもありました。諸星は一輝のような戦闘狂じゃないので、TPOをわきまえているし、相手を殺してでも勝ちに行こうとかは思わないんですよ(笑)。そもそも七星剣武祭は学生同士が自らの技量を高め合う、お互いにメリットのある場なので、相手を壊すことはしない。諸星の持っている「無双一烈」は、相手を壊す技なので、七星剣武祭で見せてはいなかったんですよね。なので、成長の幅という意味では、最初から変わっていない気がします。メンタル面も含めてほぼ完璧ですから。

 

落第騎士の英雄譚

※諸星雄大は最初からパーフェクトなキャラクターだったという

 

 

――なるほど。ちなみに私が個人的に好きな倉敷蔵人についても聞かせていただきたいです(笑)。

 

彼も成長の幅はすごく大きかったかなと思います。ただ珠雫と比べたら少し落ちるかなと思って(笑)。蔵人については嫌なキャラクターの中に彼なりの美学を持たせていました。長らく燻り続けていたわけですけど、その燻りも彼が持っていた美学ゆえでしたからね。ただ一輝という目標を見つけて大きく成長したキャラクターではあります。

 

 

■シリーズ最強は神宮寺黒乃、そして《比翼》のエーデルワイス

 

――ありがとうございます。では続いてなんですが、海空先生の考えるベストバウトをお聞きしてもよろしいでしょうか。王道の対決や既に評価されている戦いは外していただけますと(笑)。

 

これは繰り返しになりますけど、一輝VSアイリスですね。自分も書いていてすごく楽しかったというか、滾りました。その次だと一輝VS諸星ですかね。

 

 

――一輝やステラが絡まない戦いですとどうでしょう(笑)。

 

難しいですが、選ぶとするなら第4巻で書いた珠雫と《隻腕の剣聖》サー・ヴァレンシュタインとの戦いでしょうか。珠雫が明確に一皮剥けたシーンでもあるのでとても印象深いです。加えて、珠雫の「青色輪廻」という技が生まれた戦いでもあるんですよね。あの技は僕としてはかなり思い切った技になっていて、これを許容したらいろいろ壊れるかもしれないと理解しつつ導入した技でもありました(笑)。もちろん他にもいくつかありますよ。蔵人と《血塗れのダ・ヴィンチ》サラ・ブラッドリリーの戦いも楽しく書けたなと思います。

 

 

――数々の戦闘シーンで描かれたドラマについては、伐刀者(ブレイザー)と非伐刀者である剣客がこの世界には混在していたことも、スパイスになっていたのではと感じています。綾辻絢瀬の父親である海人さんもそうでしたよね。

 

これは伐刀者(ブレイザー)がいるような世界で剣客やってるような人間が、頭おかしくないわけないよねっていう(笑)。第2巻の内容も個人的には結構気に入っていて、最終的にいいドラマになったんじゃないかなと思います。振り返ってみると、絢瀬一人だけが置き去りにされて可哀想というか、結果として娘だけがあまりよくわかっておらず、空回っていたみたいな感じでしたね(笑)。

 

 

――戦いでは一輝と蔵人の再戦やステラと珠雫も正式な形で戦うことはありませんでした。

 

一輝と蔵人の再戦は、いくつか理由はあるんですけど、自分の中では選択肢にありませんでした。ステラと珠雫についても、正直戦ったところでステラが瞬殺してしまうので面白味がないかなと。珠雫はステラにぶつけるよりも、他に役割がたくさんあるキャラクターだったので、正式な形で戦う理由もなければ、二人がぶつかる道理も自分の中にはありませんでした。3巻で一度喧嘩のような突発的な衝突はありましたけど、物語上でぶつける必要性は感じていませんでしたね。まあとにかく相性がよくない。珠雫がどれだけ細かくなろうと、燃やされてしまうので(笑)。

 

落第騎士の英雄譚

 

落第騎士の英雄譚

※読者から望まれていたかもしれない、しかし実現しなかった戦いも多かった

 

 

――キャラクター周りではこれで最後になるのですが、第19巻時点で構いませんので、登場キャラクターの強さトップ5が聞きたいです。KOKリーグのランキングはありますが、《比翼》や《大炎》など、ヤバいキャラクターの現在地も知りたいです(笑)。

 

世界最強は破軍学園の理事長・神宮寺黒乃だと思います。だいぶ頭のおかしい性能で、ちょっと強すぎる。今から理事長を倒す物語を書けと言われたら、だいぶ困ります(笑)。

 

落第騎士の英雄譚

※海空りく先生の考える作中最強は元世界三位《世界時計(ワールドクロック)》神宮寺黒乃

 

そして理事長とタメを張るくらいかなと思うのが、《比翼》のエーデルワイス。

 

落第騎士の英雄譚

※世界最悪の犯罪者で世界最強の剣士と謳われていたエーデルワイスも黒乃と並ぶ最強の一角

 

そこからちょっと落ちるかなで、《夜叉姫》西京寧音。

 

落第騎士の英雄譚

※《砂漠の死神(ハブーブ)》ナジームとの激闘も凄まじかった西京寧音

 

その後ろあたりに、一輝やステラが並んでくるかなってイメージです。《大炎》はギリギリ入らないかなと思いますね。一輝とステラなら、なんやかんやでなんとかしちゃいそうだと思ってしまいますし。南郷寅次郎は一輝やステラに並べちゃってもいい気はしますね。このあたりのメインキャラクターの最終ステータスが掲載されている破軍学園新聞が、第19巻特装版の画集に収録されているので、気になる方はそちらもぜひチェックしてみてください(笑)。

 

落第騎士の英雄譚

※第19巻特装版に付属する画集も必見!

 

 

■10年を共に歩んだイラストレーター・をん先生の最大の魅力は

 

――ではイラストについてもお聞きしたいと思います。をん先生とは本作を通して10年を共に歩まれました。あらためて振り返っていただけますでしょうか。

 

をん先生には本当に長い間お世話になりました。いつも可愛いイラストを描いてくださって、毎回「すごい!可愛い!」というイメージばかりで。をん先生が描いてくれて、担当編集さんから「こんな感じになりました」ってサンプルをいつも送っていただくんですけど、そのサンプルはパソコンに大切に保管してます。いつも素晴らしく、エロいイラストをありがとうございますって感じですね(笑)。

 

 

――あらためて海空先生の思う、をん先生のイラストの魅力はなんですか。

 

おっぱい(即答)

 

 

――(笑)。

 

え? これは当然では?(笑)。おっぱいでしょ? 一目瞭然でしょ?(笑)。その中でも特に「すごい」のが、第14巻限定版の特典イラストに、ステラが晴れ着を着ているイラストがありまして。和服を気崩しているんですけど、あれはすごく印象に残ってます。ボリュームがすごいんですよ(笑)。本当に素晴らしかったです。

 

落第騎士の英雄譚

※各巻にはをん先生の素晴らしいイラストが盛りだくさんとなっていた

 

 

――それではをん先生のウエディングドレス姿のステラが美しい表紙を飾る、最終巻の見どころについても教えてください。

 

やっぱり一輝とステラがどういう風に結びついているかっていうところですかね。彼らの結びつきの在り方がすごく見える巻になっていると思うので、注目して読んでいただけたらなと思います。

 

落第騎士の英雄譚

 

 

――今後の目標や野望について教えてください。

 

今後に関しては、ひとまずインプットに徹したいっていうのが率直な気持ちです。この10年はずっとアウトプットばかりだったので、最近の流行りもほとんど追えていないですし、読んでみたい作品もいろいろ溜まってきているので、勉強したいなっていう気持ちが強いですね。

 

 

――現時点でこんな作品を書いてみたいという構想はあったりされるんでしょうか。

 

ラノベから外れたところだと、動いている企画もあったりするので、それはそれで楽しみにしてもらえたらなと思います。ラノベという話になると、現状では確たるビジョンがあるわけではないんですよ。ただ興味があるという点では、メタバースを舞台にした物語にはちょっと興味があります。あとは明るい作品を書きたいなと思ってますね。別段、これといった理由があるわけではないんですけど、バチバチに命のやり取りをするような作品よりも、ちょっと緩めでちょっとバトルもあるよねみたいな、そんな作品をやってみたいかもしれません。いずれにしても、インプットが圧倒的に足りていないので、ふわっとした雰囲気のような感じです(笑)。

 

 

――これもやや蛇足になってしまいますが、『落第騎士の英雄譚』のスピンオフなどの可能性はあったりしますか?

 

現状、自分的にはゼロです(笑)。『落第騎士』の物語として、やれることをすべてやったシリーズだと思っていますので。そのあたりは最終巻を含めて読んでいただければ、ご理解いただけるんじゃないかなと思います。

 

 

――それでは最後にファンのみなさんに向けて一言お願いします。

 

長い間『落第騎士の英雄譚』をご愛顧いただき、本当にありがとうございました。10年以上もの間、一輝たちの物語に付き合っていただき、最終巻も読んでいただけているというのは、本当にありがたいことです。みなさんと一緒にやってこれたゆえの結末ですので、最後まで楽しんでもらえたらいいなと思います。

 

 

――本日はありがとうございました。

 

 

<了>

 

 

10年という長い時間をかけてシリーズを書き続け、黒鉄一輝とステラ・ヴァーミリオンの最愛にして最強の物語を描き切った海空りく先生にお話をうかがいました。物語の結末はもちろん、数多に登場する魅力的なキャラクター達、息を吞むバトルシーンも盛りだくさんな本作。「僕の最弱(さいきょう)を以て、君の最強を打ち破る――!」、『落第騎士の英雄譚』は必読です!

 

<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>

 

©海空りく/ SB Creative Corp. イラスト:をん

©海空りく/ SB Creative Corp. イラスト:さばみぞれ

©海空りく・SBクリエイティブ/落第騎士の英雄譚製作委員会

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TVアニメ『落第騎士の英雄譚』公式サイト

『落第騎士の英雄譚』アニメ公式SNS

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落第騎士の英雄譚(キャバルリィ)19 (GA文庫)
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