独占インタビュー「ラノベの素」 大森藤ノ先生『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2024年12月15日にGA文庫より『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』第20巻が発売された大森藤ノ先生です。第16巻刊行時に実施したインタビュー以来、4年ぶりの登場となります。シリーズ刊行より、間もなく12年目へと突入する『ダンまち』シリーズ。物語の今とこれからについてはもちろん、「書きたくなかった」と言い続けてきた「VSフレイヤ・ファミリア」へと至るまでの足跡とその伏線など、ファン必見の『ダンまち』の今を4年ぶりに語っていただきました。過去のインタビュー記事はこちら。
※原作小説第19巻まで、『ダンまち』各外伝等のネタバレが多分に含まれますのでご注意ください。
※アニメ第5期で『ダンまち』を現在進行形で追いかけている方はアニメ視聴完了後の閲覧を推奨いたします。閲覧は自己責任でお願いします。
※フリーペーパー「ラノベNEWSオフラインVol.19」は本記事と連動しています。
【あらすじ】 激震、オラリオVS学区対抗【都市競技祭典】――オラリオピアード開催だあああっ! 『ギルドの横暴を許すなぁぁぁぁぁぁ!!』 学生闘争勃発――! 最硬金属【オリハルコン】徴収を受け、不満を爆発させた『学区』生徒達。オラリオとの全ての交流が断ち切られ、都市中が騒然となる中、お祭り好きの神々がこの機会を見逃す筈もなく!『オラリオVS学区の代表試合! 都市競技祭典の始まりだぁアアアア!!』 最大の代表戦に振り回され、どちらの陣営につくべきか懊悩するベルだったが、「いつか約束した『冒険』をするとしよう。俺に協力してくれ、ベル」 一人の『騎士』に今、英雄を問われる。これは、少年が歩み、女神が記す、――【眷族の物語(ファミリア・ミィス)】―― |
――ご無沙汰しております。ラノベニュースオンラインでの原作インタビューとしては4年ぶりになりますね。
もう4年も……って感じです。感慨に浸る暇もなくて、あっという間に駆け抜けてきた感じですね。4年前もすごくバタバタしていたと思うんですけど、あれからもっとすごいバタバタが待っていました。
――あらためてよろしくお願いします。そして早速なのですが、昨年発売された第19巻。【ヘスティア・ファミリア】へのリューの合流という、全ダンまちファンが待ち望んでいた展開が訪れることになりました。合流の仕方もかなりコミカルで、ヘスティアとのコントめいたやり取りも非常に印象的でした。
ありがとうございます。リューには「リュー・クラネル」って言わせようと考えていましたし、むしろ「リュー・クラネル」が先に決まっていました。彼女をどう【ヘスティア・ファミリア】に馴染ませるか。その入り口でもあったので、ちゃんとしたエルフの像を見せつつ、一発で砕けて「これは大丈夫だ」と思わせるには、あのやり取りだけで大丈夫じゃないかなって。言っても大丈夫だろうなと感じたのは14巻の後くらい。あれだけベルとの関係値ができて、もう違和感はないなって自分の中では思ってました。
※リューが「リュー・クラネル」と言いだすのでは……と思いながら読み進めた読者も多いはず(笑)
――読者にとっては待ちわびた展開だったわけですが、反応などは見られていましたか。
実はそこまでしっかりと拝見していなくて……。というのも、リューの合流も大切ではあったんですが、学区編に突入した19巻そのものの評価がどうなるのか、ずっと気がかりだったんです。19巻は新章にあたりますし、18巻が本編の中でも本当に大きな戦いだったので、学区編は一種の谷の回になっちゃう。だからこそ、その谷をどこまで浅くできるのか、谷が深すぎると思われたら、この先を読んでもらえなくなるんじゃないかって、ずっと不安に感じていた部分でした。結果として、想定以上に学区が読者のみなさんに受け入れてもらえて、かなりホッとしたというか、嬉しかったですね。
※学区編が読者に受け入れてもらえるかどうか本当に心配だったという
――第18巻が巨大な山場だったからこそ、読者のクールダウンというか、冷めてしまわないよう心配していたと。
これは言うべきかどうかっていうのもあるんですけど、19巻の構成が、18巻の後始末からの学区編になっています。正直、どちらがメインのエピソードなのかは自分でも書きながらわからなくて、そういったアンバランスさを受け入れてもらえるか、シームレスに学区のお話に入ってもらえるのか、本当に心配していました。大きな戦いが終わったからこそ、もっと【フレイヤ・ファミリア】のあれこれや、新しく入団したリューのことを知りたいだろうなとは思いつつ、19巻では描き切らず、むしろ20巻にお漏らししているくらいの書き方をしていたので。でも本当に受け入れられてよかったなって思います。
■13ヶ月連続刊行や『ダンメモ』のサービス終了など怒涛の4年間
――ありがとうございます。第19巻の内容についてはまた後ほど触れさせていただくとして、この4年で原作10周年、13ヶ月連続刊行、アニメIII期とIV期、そしてV期の放送、『ダンメモ』のサービス終了に『ダンクロ』のサービス開始など、『ダンまち』を取り巻くコンテンツでは様々なことがあったと思います。あらためてこの4年を振り返っていただけますでしょうか。
広がり続ける宇宙空間が「全然収束されない!」とは思ってました。コンテンツとしてはすごく幸せなことだと思うんですけど、広がり続けるからこそ原作ももっと頑張らなきゃって。今振り返ってみても、目の前でやっていることだけで精いっぱいというか、もうコンテンツを上から俯瞰してる暇もなくて、目の前のことにどんどんぶつかっていかなきゃいけない、その繰り返しだったと思います。しいて言うなら、ベルっぽく目の前のことにぶつかっていけたかなとは思います。あとは、18巻までようやく書き切れた、っていう思いですね。ようやく多少なりとも肩の荷物が下りたのかなと。でもその苦しみが終わったら終わったで、13ヶ月連続刊行っていう怒涛のイベントに突入しちゃって(笑)。でも本当に、フレイヤたちとの戦いに一区切りついたというのが、ひとつ大きなポイントでしたね。
――前回のインタビューでもだいぶ踏み込んでお話をさせていただいた、『ダンまち~メモリア・フレーゼ~』のサービス終了も大きな出来事のひとつだったと思います。本編では語られていないエピソードも非常に多く、ゲームでありつつ物語としても外伝的な立ち位置でしたよね。
『ダンメモ』のサービス終了については、すごく寂しかったし、悲しかったです。一方で、今あらためて振り返ると、少しホッとしたところはあったのかもしれません。これは決してなくなってよかったとかそういう話ではないんですが、『ダンメモ』はシナリオの量もすごく、このままだと自分はどこかで死んじゃうだろうなって思っていた節もありました。1年に1回、とんでもない文章量で3ヶ月にすべてをぶつける。毎年、自分のハードルをずっと上げ続けていたのもあったので。あと、それとは別に『ダンメモ』の周年シナリオの伏線を本編や外伝にそっと仕込んじゃってるので、「あちゃー」っていう気持ちはありますね。『極東大戦』とか『アルテナ』とか。なんかやっぱり私、『ダンメモ』が大好きみたいですね(笑)。
――『ダンメモ』に関しては、『ダンまち』にとってかなり特殊な立ち位置のゲームだったとあらためて感じます。一方で新たに『ダンまち バトル・クロニクル』のサービスがスタートしました。こちらは『ダンメモ』と違って、アクションゲームとしての比重が高いですよね。
単純に「ゲーム」として考えるのであれば、『ダンクロ』が正解なんだろうなって思います。ソーシャルゲームで15時間、20時間と拘束してはいけないし、コンシューマと勘違いしちゃいけない。勘違いした瞬間、『ダンクロ』さんから「やめてくれ」と言われるだろうなって、ひしひしと感じてます。個人的にすごく勉強になったこともあって、『ダンメモ』と『ダンクロ』はUIが全然違ったこともあり、『ダンメモ』で培ったシナリオ監修の技術やメソッドが、『ダンクロ』には一切通じなかったんです。もしそのままやってしまったら、破綻してしまうとはっきり感じた瞬間がありました。私にとって3Dボイスのシナリオ展開が本当に難しくて、チューニングがまだうまくいってない感じがしますね。『ダンメモ』に甘えていた部分もあったのかもしれませんけど、自分の中でカテゴリーエラーを味わったなって。
――そういった難しさを感じつつも、怒涛の13ヶ月連続刊行も並行していたわけですよね。「やりましょう」の発案はどこだったんですか?(笑)。
言い出したのは実は自分で、むしろ当時の担当編集さんは止めてました……。
――発起したのは大森先生だったんですね。それは驚きです。
本編18巻がいろんな意味で起爆剤というか、特異点というか、様々なものを吐き出すためのトリガーではあったんですよ。正確に言うと18巻と『アストレア・レコード』なんですけど、この4冊の原稿を上梓する際、手元にはいくつかあがっていた原稿がありました。なので、せっかくの10周年だし、これがあれば連続刊行もできそうだし、「お祭りにするためにやってみませんか」という経緯がありました。
――連続刊行の中には、ご自身で書籍化したくないランキング上位に挙げられていた『ダンメモ』のシナリオもあったわけですが、書籍化作業はいかがでしたか。
外伝の『ソード・オラトリア』の執筆とは違った難しさがありました。元々ゲーム用に自分が出力したものを、また戻して地の文を埋めて小説に仕上げる作業は、頭の使う回路が根本的に違うなって。あまりにも違い過ぎて、逆に勉強になりました。そしてあらためて、ゲームがどれだけ偉大な存在だったのか、わからされました(笑)。場面転換や暗転を挟むだけで通用していたシーンが、小説ではまったく通用しないし、「小説って音は出ないんだった」みたいなことを何度思ったかわからないです。『アストレア・レコード』も『アルゴノゥト』も、どうやったらゲームで感じられた臨場感を伝えることができるんだろう、超えられるんだろう、って悩み続けていました。ゲームをプレイした方は、『ダンメモ』の印象もしっかり残っているから、書籍化にあたっては、ゲームより面白いと思ってもらえるよう努力することが最低条件だと思っていたので、その大変さはすごくありましたね。
※ゲーム以上の面白さを目指して執筆し直された物語も多数刊行された
――苦悩と苦闘をしながら13ヶ月連続を成し遂げたわけですから、本当にすごいです。
私の中では16ヶ月連続刊行するつもりでした。
――えッ!?
最初は思ってたんですけど、途中で挫けました。私はそれができるほどすごい作家ではなかったです。
――いやいやいやいや(笑)。ちなみに連続刊行できなかった3冊というのは……?
そこは内緒で(笑)。もし自分が原稿をあげられていたら、担当編集さんも応えてくれていたとは思うんですけど、私の方が「すいません無理でした(笑)」って感じでしたね。
■描き切ったフレイヤと【フレイヤ・ファミリア】、そしてオッタルが強すぎる
――その3冊も気になるところではありますが……。ここからは本編16巻から19巻の内容に触れながら、お話をうかがっていきたいと思います。前回のインタビューにおいて、『ダンまち』で最も底が知れないとおっしゃっていた、女神フレイヤの物語を描き切りました。肩の荷が下りたというお話もありましたが、あらためていかがでしたか。
オッタルが倒せないなって(笑)。それはそれとして、フレイヤが、フレイヤ自身でも言語化できないくらいぐちゃぐちゃしていたものを抱えていたので、それを私が紐解き、読者のみなさんに伝えてあげられるかなって思いながら書いていました。執筆する前は難しいなと身構えていたんですが、でもいざ書いてみると、意外にフレイヤの心情を読者のみなさんに届けられたのかなっていう感覚はありました。17巻ではずっと恐れていたフレイヤの心の淵に、少しだけ触れられた手応えもあって。そこでフレイヤに対してはひとつ大きな区切りをつけることができたのかなって自分の中では思えました。そこからはエ〇ーマンが倒せないみたいな18巻に突入しました。
※『ダンまち』で最も底の知れない存在だったフレイヤともひとつの決着がついた
――第16巻から第18巻で描かれた【フレイヤ・ファミリア】のメンバーの姿は、読者のそれまで持っていた【フレイヤ・ファミリア】とそのメンバーへの印象を大きく変えたんじゃないかと思いました。女神に忠誠を誓い死兵にすらなる「強靭な勇士(エインヘリヤル)」という見え方から、ものすごく彼らも「人間」だったんだなと。
まず、キャラ造形については本編7巻には固まっていて、外見の特徴は結構出していたと思います。四つ子がいて、アレンっていうキャットピープルがいて、一見冷酷で非道なダークエルフがいて、それを咎めるホワイトエルフがいる。ヘルンも含めてそういった指針は全部ばら撒いていました。なので、キャラ造形に関してはほとんど悩んでいなかったんですけど、おっしゃる通り、どうやってキャラの魅力をいっぺんに伝えられるかなっていう懸念は、私の中にもずっとあって。そういった課題に対して、一番重要だったのが『ファミリアクロニクル episodeフレイヤ』でした。この1冊のおかげで、淀みなく自分の中で【フレイヤ・ファミリア】を描けたって思っています。もしこの1冊がなければ、16巻、17巻、18巻はもっともっと苦戦していただろうなって。ベルのいないところで繰り広げられるフレイヤたちの冒険が、良いところも悪いところも何も隠さないフレイヤたちの本当の姿というか。あの1冊が、私の中ではフレイヤたちの方位磁針になって、迷いを打ち消す指針になったのは間違いないのかなって。
※【フレイヤ・ファミリア】の本当の姿を描けたという『ファミリアクロニクル episodeフレイヤ』
――【フレイヤ・ファミリア】のメンバーを描く上で、一番苦労したキャラクターは誰でしたか。
『ファミリアクロニクル episodeフレイヤ』を書くまで、ヘディンが一番キャラクターとして定まっておらず、影が薄くなるんじゃないかってずっとヒヤヒヤしていたんです。だからこそ、彼にどんな役割を持たせようかと考えていたんですけど、ファミリアクロニクルでああなって、これで決まりだ!って。ヘディンは影が薄くなるどころか、一番おいしい役どころに収まったまであります。だから『ファミリアクロニクル』の影響で、本編16巻、17巻、18巻の展開も変わってますね。最初の予定では「やればできるけど17巻みたいな内容書きたくない~!」というマインドで、16巻の直後に戦争遊戯(ウォーゲーム)へ突入するつもりでした。でもフレイヤの心を描くためにはどうしても必要でしたし、これじゃ本編6巻のアポロンの二の舞だとはわかっていて、最後は覚悟を決めました。ので、17巻を陰で支え続けていたのはヘディンでしたし、『ファミリアクロニクル』にはありがとうですし、ヘディンというキャラを確立してくれたアリィにもありがとうですね。
※ベル・クラネルに師匠と呼ばれるほどに立ち位置を確立したヘディン
――第16巻は『ダンまち』史上最高に頑張って作ったラブコメというお話でしたよね。これまで冒険者としての成長にフォーカスされていたベルが、ほんの少しだけ、男性として成長を遂げたようなイメージを受ける巻でもあったなと感じました。
ハーレム展開において、敢えて無視する展開を除いて、ラノベの主人公はその答えの提示を避けては通れないって私個人は考えています。少なくとも「憧憬一途(リアリス・フレーゼ)」を発現している主人公としては、その答えというか、どう接していくのか提示しないと、不義理だなって。本当ならみんなで和気あいあいするのもすごく好きです。でも、シルファンの方には本当にごめんなさいなんですけど、GA文庫大賞で受賞する前から、シル・フローヴァが一番最初にベルに告白してフラれるキャラだと決めていて、そこから始まった物語でもあるんです。なので、16巻の執筆を迎えた時、「ついに来てしまった、もう逃げられない」とビクビクしていました。そして良くも悪くも、私はベルをピュアな存在として描いているつもりなので、彼一人で答えを出せないだろうとも思ってました。そんなベルを支えたのが、年上の兄貴分でもあるヴェルフ。ヒロインだけじゃあ、きっとベルはあんな風になれなくて、身近にいるお兄ちゃんが背中を押すことで、沢山のことを考えられる主人公になったんじゃないかなと思います。そこがおっしゃっていただいた、ベルの男性としての成長だったのかなって。シルにとっては辛いシーンだったかもしれないけど、私の中では「鈍感系主人公のままではいられないよ」って、ベルに代弁をさせてしまった形でもあったのかな。
※ヴェルフの存在がベルの男性としての成長を一層促す形に
――ベルの大きな決断と成長を描いた後、当初の想定にはなかったという第17巻を迎えました。フレイヤの魅了の力がベルの心をへし折りにかかり、同時に読者の心をもへし折りにきていると感じた1冊になりました。
正直、肉体的苦痛は14巻でやりきってしまったので、じゃあこうだよねって。14巻というより11巻にあたるんですけど、それ以降のベルは完成されていると思っていて、そんな彼をどう揺さぶれるかと考えた結果、フレイヤ様が全力を出すしかありませんでした。もし17巻をスキップして、18巻に進むというIFがあったなら、きっとあそこまではしなかったと思います。でも書くと決めたからには腹を括って書かないと、そもそも17巻を書く意味がない。ベルにも読者のみなさんにも、痛々しく苦しい展開を押し付けてしまったかもしれないんですけど、それがフレイヤの神様的なスケールの愛……情念の重さでもあって。女神が女神である一端は、ああいう姿にあるんじゃないかなと。一人のために世界を捻じ曲げるには、想像できないくらい凄まじいエネルギーがきっといりますよね。正体がバレてフレイヤの一端を見せると考えれば、あの形の17巻がマストだったと思います。
――そして【フレイヤ・ファミリア】との戦いに突入していくわけですが、第18巻も第14巻とほぼ同ページ数で、再びレンガのような分厚さになりました。
この時は、私自身テコでも動かない作家状態で、戦争が起こりました。半分に分けて出すのか、でもあの原稿をどこで分けるのか、同時刊行や連続刊行をしたとて……、もうずっと平行線だったんです。この後どうなってもいいから、みたいなマインドで、編集長にたてついてでもこのまま出すって。
――結果として編集部が折れたと(笑)。
私だって分けて出した方がいいことくらい、わかるんです。読者のみなさんの手の負担的にも、価格とか流通の面を考えても。でも、私が18巻を書く上で体験してきた苦しみを、みなさんにも味わってほしい……とまでは言いませんが、私がトンネルをひいひい言いながら潜り抜けたので、みなさんも一緒に潜り抜けてくれよな、みたいな思いも少しだけありました(笑)。とにかく18巻はノンストップで読んでほしかったんです。もちろんまとめられなかった私にも非はありますし、なんなら630ページっていうのも嘘ですし。
――えッ!?(笑)。
当時の担当編集さんが魔法(意訳)をかけてくださったんです。本来のGA文庫のフォーマットだと、740~750ページくらいになるって言ってたかな? じゃないと出せないってなって、私からすれば「魔法をお願いします」の即答しか返せないんですけど。本当にそれだけ当時の私は面倒臭かったと思います。
――1ページあたりの文字数が結構違いそうですね。
あんまり数えてほしくないんですけど、実はみっちりですね。「本当にGA文庫かな?」っていうくらい、いろんな魔法をかけていただきました。
――実際に読んだ身としては、案外気付かないものですね(笑)。
そうですよね。だからまたちょろまかせる……いえ、なんでもないです。二度としません(笑)。
■戦争遊戯(ウォーゲーム)最大の功労者は……ロイマン!?
――そんな第18巻では、オラリオ史上最大の戦争遊戯(ウォーゲーム)が幕を開けるわけですが、これまでには同程度の戦争遊戯はなかったっていうことなんですよね。
まず戦争遊戯(ウォーゲーム)って、私の中ではとてもお行儀のいい試合みたいなものなんです。15年前の暗黒期、さらに前のゼウスやヘラの時代は、言ってしまえば殺し合い上等、イタリアンギャングの大抗争なんですよ。だからこそ、戦争遊戯に落とし込んだという意味において、私からするとギルド長のロイマンが一番頑張ったかなって。史上最大だろうがなんだろうが、【フレイヤ・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】を衝突させないようにあらゆる手段を使って、あらゆるところからヘイトを買って。なんだったら読者のみなさんからもヘイトを買ったんじゃないかなって。
――確かに読者からも一定程度のヘイトは買っていたかもしれませんね(笑)。
ロイマンも15年以上前の戦いも見てきているので、それがトラウマというか、忌避するという意味でも、絶対に戦争遊戯(ウォーゲーム)の形式にして、二大派閥を戦わせない舞台作りに終始していました。かつてない戦争遊戯と言いつつ、もっとひどい戦いがたくさんあったという裏設定があります。『アストレア・レコード』もそうですね。【フレイヤ・ファミリア】VS【派閥連合】の形に収まったのは、ロイマンの努力の結果。そしてフレイヤ自身も自覚していた、品性に欠けたベルに対する自身のスタンスゆえだったのかなと。
――仮に戦争遊戯(ウォーゲーム)でなければ、結果は違っていたと。
もしあの戦いがルールなき殺し合いであれば、【フレイヤ・ファミリア】が一方的に勝っています。こればかりは動かない設定ですし、戦争遊戯(ウォーゲーム)だったからこそ、【フレイヤ・ファミリア】が負けたとまで言えますね。どこかの描写で触れていたかもですが、もしその状態で【ロキ・ファミリア】が参戦していたなら、ベート、ティオナ、ティオネ、アレン、ガリバー四兄弟あたりが、天に還っちゃいます。そう考えると「ロイマンのやったことってすごくないですか?」と私からはお伝えしたいです!(笑)。別にロイマンの肩を持つわけじゃないですけど、それくらいの綱渡りだったと思いますし、すごかったと思います。
――なるほど。とはいえ、第19巻のロイマンがゴリ押そうとしている「立坑(シャフト)計画」は、第20巻での学区と揉める火種になっていたり、やらかしてる感は拭えないんですよね(笑)。
そもそもロイマンはそこまで綺麗な存在じゃなくて、私の中では典型的な役人気質というか。不正もいっぱいしているし、もしSNSがあれば総スカンを喰らう程度には、全然悪いことしてますしね。でもそう考えるとロイマンの設定……もっと綺麗な心の時ってあったのかな……。
――心の綺麗なロイマンっていうワードだけで面白いですね(笑)。
根本的にロイマンの目的はすごく一貫しています。今のポジションのまま甘い蜜を吸って「生き残りたい」、これに尽きるわけです。ちょっと格好良く言えば、黒竜を討伐しなければ世界も自分も滅んでしまうから、なんとかしたい。ロイマンは神様の次に、冒険者たちが散っていった姿を見ているわけで、多くの犠牲が積み重なっているからこそ、黒竜を倒さないといけないというマインドは強く根付いています。そのために頑張っているんだから、少しくらい甘い蜜を吸ってもいいでしょうって、調子に乗っちゃうのがロイマンなんです。
――清濁併せ吞みながら、一貫した姿勢でいるのはヘルメスも似ている気がしますね。
そうですね。ロイマンやヘルメスのような、必ずしも綺麗なだけの存在ではない登場人物が、私は好きかもしれません。ケジメはつける方だし、終始この二人は一貫してブレていないつもりです。私からすると、ロイマンは可愛いところがあるんですけど。保身という大きな柱がありつつ、フィンたちにちょっとした温情をかけるような詰めの甘いところもある。みなさんにはこの可愛いは届かないかもしれないんですけど、「立坑(シャフト)計画で歴史的偉業を為し、自分の名前が歴史の一ページに刻まれるぞガハハハ!」みたいな姿を見ていると、もう可愛いなコイツって(笑)。エイナにもみんなにも絶対無理って言われているのに、「夢見てるなぁ」みたいな。で、ごめんなさい、きっと誰もあまり得をしないロイマンについて長々語ってしまいました。すいません。
■【フレイヤ・ファミリア】の打倒とその後を示す伏線は仕込まれ続けていた
――また、作中においてフレイヤが、シルの姿を女神の付き人たるヘルンに何度か許しているという描写もありました。これは過去巻を読んだ時に、読者はその違和感に気付くことはできるものでしょうか。
前提として、ベルやリューたちの前では、シルの姿をヘルンには許していません。豊穣の女主人とベルたちの前は、「絶対に私が行くから余計なことをしちゃダメ」って。なので本編を読んでいても、おそらく気付けないんじゃないかなと思います。敢えてヒントを提示するとしたら、8巻の「街娘の秘密」というエピソード。そして『アストレア・レコード』の書籍第1巻を読んでいただくと幸せになれるかもしれません。『アストレア・レコード』ではゲームになかった、加筆の部分で匂わせていたりもするので、勘の良い人は気付けるかなと思います。わかりやすさとしては後者かなと。
※シルに扮したヘルンを貴方は見破ることができただろうか
――あらためて【フレイヤ・ファミリア】VS【派閥連合】におけるMVPを選ぶとしたら誰になりますか。
可哀想だなっていう部分も多いんですけど、パッと浮かぶのは春姫かなって。彼女がいなければ、どんだけ負けてたんだっていう話でもありますし、Lv2にもなって本当に大変だったろうし、すごい子だなって思います。とはいえ、結局誰も欠かせなかったことは間違いありません。18巻にはいかに【フレイヤ・ファミリア】の怖さを示すかというテーマもあって、弱すぎてもダメだし、強すぎてもひっくり返せないしで、バランスがとても難しかった。ヘグニが倒されるっていう、【フレイヤ・ファミリア】崩壊の導火線を築き上げたのはダフネだし、そのダフネの功績も椿やドルムルたちがいっぱい戦ってくれたおかげです。リリの視点でも描きましたが、全部が繋がっていて、誰も欠けてはいけなかった戦いという見せ方を意識していました。ひとりだけのMVPはちょっと選べそうにはないですね。ごめんなさいなんですけど。
――【フレイヤ・ファミリア】を倒すために欠かせなかったキャラクターしかいなかったわけですね。
そうですね。小冊子や短編、設定資料で魔法の情報を仕込んでいたナァーザとかもそうだし、【フレイヤ・ファミリア】を倒すための伏線を総動員しました。ナァーザの魔法は18巻が初でしたけど、4巻の時点で神話が詳しい人には、魔法について開示していたつもりでした。逆算を続けて、それこそいつから【フレイヤ・ファミリア】を倒すための伏線を仕込んでいたのかっていうくらい、【フレイヤ・ファミリア】との戦いは絶対に大変だとわかっていたので。わかっていたから、書きたくなかったです(笑)。裏を返せば、ここまでしなくちゃ【フレイヤ・ファミリア】は倒せなかったなぁって。もしよければ、このインタビューを読んでくださっている方は1巻から17巻まで、仕込み続けてきた【フレイヤ・ファミリア】を倒すための布石を、振り返りながら読んでいただけたら嬉しいですね。逆説的に言うと、最低17巻まで書かなければ【フレイヤ・ファミリア】は倒せなかったのかな。
――そして結局倒しきれなかったオッタル……。Lv8目前のLv7ということもあり、この戦争遊戯(ウォーゲーム)は、オッタルに経験値(エクセリア)をもたらしたのかどうかも気になります。
これは来年発売の『ダンまち外伝 ソード・オラトリア』15巻を読んだら幸せになれるかもしれません。嬉しい情報が載っていると思います。あらためてオッタルに関しては、本当に強すぎて、どう計算しても勝てないから、もう4人がかりで行くしかないという結論に至りました。春姫の「階位昇華(レベル・ブースト)」とヘディンの付与魔法「ラウルス・ヒルド」の重ね掛けでようやく、みたいな。でも、うん、倒せなかったですね、オッタル。
※オッタルがいかに強かったかを知らしめる結果となった第18巻
――さらにオッタルとの戦いの後には、ベルとアレンの追いかけっこもありました。激戦続きで戦いが全然終わりませんでした(笑)。
そうなんですよね。アレンとの一戦は最初から……というか、応募原稿の時から「書きたいな」って思ってて。アレンは都市最速だってずっと強調してきていました。それを世界最速が覆す、このくだりはずっと温めていました。オッタル戦で力尽きても良かったとは思うんですけど、ここまで書かないとダメだと思っていました。思い返すと18巻は、過去一番書き直しましたね。あと、オッタルの話に戻るんですけど、オッタル自身も『アストレア・レコード』があったからこそ、高い壁になってくれたんだと思います。あらためて『ダンメモ』が『ダンまち』というコンテンツに与えてくれた貢献は凄かったなって。もしまだ読んでいない方は、『アストレア・レコード』を読んでから18巻を読むと、すごい発見があると思うので、ぜひ読んで欲しいなって思います。『アストレア・レコード』を書き終えるまで、18巻を出せなかった理由もわかってもらえるかも。
――『アストレア・レコード』を読んでという視点からですと、リューが発現した魔法「星々の記憶(アストレア・レコード)」も非常に心にくるものがありました。
リューの魔法を最後、発現させるとしたらこれしかないな、って。それがすべてですね。ひとつ言えることは、『アストレア・レコード』を書かなければ、あの魔法は「星々の記憶(アストレア・レコード)」という名称にはならなかったです。だから、自分で言うのもおかしな話なんですけど、とても深い外伝を書かせてもらったっていう思いがあります。14巻、そして『アストレア・レコード』の3冊をかけて、リューの魔法の土壌を築き上げたと言ってもいいと思います。私個人としては、すごく納得のいく魔法になったなって。18巻だけでも面白く読んでもらえると思いますが、『アストレア・レコード』を読んでいただけたら、リューのことをより好きになってもらえるんじゃないかなって。それと今思い出したことがひとつありました。
※【アストレア・ファミリア】の団員たちの想いが魔法「星々の記憶(アストレア・レコード)」に詰まっている
――なんでしょうか。
『ファミリアクロニクル episodeリュー2』なんですが、実は本編に組み込む予定だったんです。戦争遊戯(ウォーゲーム)が始まる直前に、リューとアストレア視点の中編があって。もし組み込んでいたら、18巻は800ページを超えていたと思うんですけど、原稿を提出する前段でページ数の雲行きが怪しくなって、ごっそり落としました。それを膨らませたのが『ファミリアクロニクル episodeリュー2』。アニメ5期を見終えた後でもいいので、読んでない方がいらしたら、こちらもぜひ読んでいただければと思います。
※本編から分かたれたエピソードだったという『ファミリアクロニクル episodeリュー2』も必読!?
――ファミリア、家族の視点からひとつ。あまりにも拗れすぎて痛々しさすらあった、アーニャとアレンは再び家族に戻れるでしょうか。
うーん、書きたいなとは思いつつ、戻してあげられるかな……戻してあげたいです!(笑)。
※あまりにも拗れすぎてしまったアーニャとアレンの今後にも注目したい
――そして戦争遊戯(ウォーゲーム)を終え、【ヘスティア・ファミリア】は面白い位置に収まりました。フレイヤがヘスティアの従属神になり、ファミリアの等級もDからB(S)へ昇格。正式ではないものの、【ヘスティア・ファミリア】の傘下に【フレイヤ・ファミリア】がそのまま収まる形となりました。
【フレイヤ・ファミリア】を倒した後の着地点はこれしかないと自分でも思っていて、後々こうなるだろうなと思い、8巻で従属神という設定も出しておきました。あと、魅了の女神に対抗できるのは処女神であるという言及も。
――戦いのその後の伏線もしっかりと準備されていたんですね。
そうですね。というか【フレイヤ・ファミリア】がいないと、この先がのっぴきならないので、いなくなると困ります。その世界線は絶望しかないですね。
■学区編ではベルの違った成長の姿が見られる
――では続いて、新章の「学区編」では、ベル・クラネルの立ち位置がいつもと少しだけ違っていたように感じました。これまでアイズや神様、ファミリアの仲間に導かれてきたベルが、学区の生徒を導く側に立ちましたよね。第12巻同様に、ベルの成長を示す物語だったように思います。
18巻までは、ベルの主観的な強さを描写してきたと思うんですけど、19巻は敢えて外側からベルの正当な評価を載せようっていう意図はあったかもしれません。それはニイナの視点であったり、学生たちの視点であったりとか。本当はランクアップしたからこそ、お祝い的なエピソードも書きたいとは思いましたが、それどころではなくなってしまったので。
――ベルのLv5へのランクアップは、戦争遊戯(ウォーゲーム)の直前でしたからね……。
そうなんですよね。本編開始前のアイズのレベルに追いついたのに、そんな感慨もなく、ひたすらボコボコにされてしまって……。それも含めて、19巻ではベルが辿り着いた凄さの描写をしっかりやろうと考えました。力を隠した主人公が学園に忍び込むんだったらこういう展開だと、一度はやってみたかったストーリーですね。本当は1巻でやるべき内容だというのはわかるんですけど、19巻でやることの意味や、感じ方の違いという視点でも、面白いんじゃないかなと思ってやらせてもらいました。
――そしてもうひとりのLv7、レオン・ヴァーデンベルクとも邂逅しました。
『ソード・オラトリア』まで目を通してくださっている方はわかると思いますが、オッタルと並ぶもう一人のLv7「ナイト・オブ・ナイト」がレオンです。インフレキャラの一人で、学区という舞台が登場するにあたって、「とはいえオッタルより弱いでしょ?」と言われないためにかなり前から考えてました。私自身、色々なゲームをやっていて思うんですけど、途中参戦のキャラクターはどうしても、そこまでずっと育ててきたキャラに比べて、愛着も実力も劣りがちだと思うんです。じゃあどうするかっていうと、一人は所謂「ぶっ壊れ」っていうキャラが登場するんですよね。それが私の中ではレオンです。レオンの強さに対するアンサーは、20巻を読んでもらえたらわかっていただけるかなと思います。
※もうひとりのLv7「ナイト・オブ・ナイト」レオン
――そしてエイナの妹でもあるニイナ・チュールも登場しました。ヒロインレースの参加者はまだまだ増えますか?(笑)。
可愛い女の子という意味では、ニイナが最後になるかもしれません。これも裏話になりますが、そもそもニイナを登場させるかどうかも迷っていました。ニイナの存在は、九二枝さんの本編コミカライズ3巻の短編でほのめかしていたんですけど、ほのめかした以上は出さないといけないなって。ただ、学区を語る上でニイナのポジションは不可欠だったと思いますし、純粋な後輩キャラを書くのも初めてだったので、私はとっても気に入ってます。ニイナ、可愛くないですか? 20巻でも活躍してくれているので、ぜひ注目してみてください。
※第20巻でも活躍するという大森先生お気に入りのニイナ・チュール
――そして三大クエストでもある「黒竜討伐」について、作中でも話題として触れられる回数が少しずつ増えてきていますよね。
書かないといけなくなってきているので、どんどん情報を出さなければとは思っています。こちらも20巻でかなり踏み込んでいますので、それも楽しんでいただければと思います。
■大森藤ノ「原作者である私が許します!」
――そして現在、アニメ第5期も放送されています。全15話ということで、今後の見どころなども教えていただけますでしょうか。
私も視聴者さんと同じ気持ちで見ているんですが、画像の綺麗さや演出の丁寧さがすごいですよね。4期の時もフィルムとしての質がグンと上がった印象がありましたが、5期も4期に負けていない印象です。4期はアクション主導で、心の動きを描く5期とは一概に比べられないとは思うんですけど、まだクオリティが上がるのかという驚きが立ってます。視聴者さんには全部が見どころと言いたいですが、得体のしれなかったフレイヤをこう描くんだって私も思うくらい、アニメは独特というか、面白い演出になっていると思います。フレイヤ様の美しさを感じつつ、乙女的な部分じゃないですけど、シルの部分をちょっと感じてくれたら嬉しいなって思います。
※TVアニメ第5期は好評放送・配信中!!
――では発売された第20巻について内容や見どころを教えてください。
当初の予告通り、ずっと続けたかった平和なファンタジーである学区編は20巻で終わります。そしてもうひとりのLv7であるレオンを中心に書いていて、どんなキャラクターなのかに迫れるかなと。先程は途中参戦の壊れキャラみたいな言い方をしてしまいましたが、その意味もわかっていただけるかなとは思うので、注目してもらいたいです。20巻はこれまでの『ダンまち』とは少し違った意味で、うまく書けたんじゃないかと自分では思ってます。自惚れていいのかわかりませんが、レンガのようなページ数じゃなくても、ちゃんと面白く書けるんだぞって(笑)。19巻を楽しんでくれた方は楽しんでいただけると思っています。ただ、20巻を読んだ方が、21巻が出るまで『ダンまち』難民になってしまうかも?
※20巻では「ナイト・オブ・ナイト」レオンというキャラクターにも迫ることができる
――そんな難民の救済措置(?)になるかもしれないという、2025年1月に発売される『外伝 ソード・オラトリア』第15巻についても教えていただけますでしょうか。
外伝の『ソード・オラトリア』は、【ロキ・ファミリア】視点で、本編であったことをアイズの視点で描きつつ、彼女たちは彼女たちなりの冒険に挑む物語です。そして本編20巻を読んだ後、こちらの15巻は……良くも悪くも読みたくなるんじゃないかなと思っています。
※『外伝 ソード・オラトリア』第15巻は2025年1月15日頃発売!
――でも大森先生、「本編は読んでいるけど、外伝はまだ……」という読者もいると思うんです。どうしたらいいですか。
断言しちゃいますね。本編20巻を読んで、もし居ても立ってもいられなくなってしまった方は、たとえ外伝の1巻から14巻を読んでいなくても……15巻から読んでいいです!!
――本当ですか、大森先生!?
原作者である私が許しますから、読んでいいんです!(笑)。伏せた言い方になってしまうんですけど、本編20巻と外伝15巻のエピローグの見え方、読後感を比べてほしいです。私自身やったことのない試みでもありましたし、外伝ならではというか、いろんな見え方ができるんじゃないかなと思います。そこに天国が待っているか、地獄が待っているか、私は言えないんですけど、いい読書体験ができるんじゃないかなって。でもわかりません。それで大森藤ノを恨むって言われても責任は取れない……。いや、取らないといけないんですけど。
――天国か地獄か……。
お話した17巻ではないですけど、作品を書いていると読者に嫌な思いをさせてしまうこともあると思っています。あくまで私は良かれと思ってやってて、楽しんでもらうために書いているけど、読者の方々の中にはどうしてもすれ違ってしまう方も出てきてしまうと思うし、もっと傲慢な言い方をすると、作家のひとりよがり。でも私は精一杯書かせてもらいました。なので、もう一度言っておきますね。これまで外伝を読んでいない方も、15巻から読んでもらって大丈夫です! 許します!!
――作家としての大森藤ノとして、新作についてはいかがでしょうか。
やっぱり『ダンまち』が終わらないと出せそうにないです……!『杖と剣のウィストリア』も始まっていますし、ここからまた新作やるの?みたいな。もちろん作家としては出したいと思っています。きっと書かないだろうけど、あれだけ苦手だって言っていたラブコメの構想もできてしまいました! やっぱり嘘、世間一般的なラブコメではないかもです。とにかく、やりたいものは無限に増えているという感覚はありつつ、ベルの冒険はきちんと終わらせなければとも思っているので、小説としてベルの物語が終わるまでは、という状況です。作家として、いろんなお仕事をさせていただいて、なんだかんだ小説が一番大変だなと感じています。漫画やゲームではたくさんの方の力を借りて、私自身ライターという全体の一部であるという見方をしていましたが、小説は私たち作家自身が、九割九分九厘まかなわなきゃいけないなって。とにかくエネルギーがいります。シリーズを並行したことによって、『ダンまち』がつまらなくなったと思われちゃうのは悲しいので、まずはしっかりと書き切ります。本当に新作書きたいんですよ? 本当ですよ?
――新作を書くにせよ、シリーズを継続するにせよ、健康であることが肝要です。大森先生は大丈夫ですか。
私はずっとPCの前に張り付けない人間で、90分くらいしたら、ふらっと立ち上がっちゃうんですよ。座り続けることができなくて、そこが逆に健康に対して良い方向に働いているのかもしれません。なんだったら、ネタが出て来ないと外に飛び出しちゃいますね。ありがたいことに、身体へのガタは今のところ実感していないです。
――それでは『ダンまち』ファンのみなさんへ向けてメッセージをお願いします。
おかげさまで、本編は20巻の大台に到達しました。本当にありがとうございます。『ダンまち』は作家一人が展開している外伝数としても多い方で、ちょっと変わった立ち位置にあると思っています。今回のように作品について語れることもすごく貴重なことですし、光栄なことだと思っています。アニメも5期ということで、正直こんなに映像化するとも思っていませんでした。ここまで続けられているのも、原作小説を読んでくださって、楽しいと思ってくださっているみなさんのおかげです。そしてですね、今後の展開もいろいろありまして……弱音を吐いてしまうと、私自身楽になりたいと思いつつ、ベルと一緒に苦しむと思います。苦しみながら突き進むと思うので、温かく見守っていただけたら幸いです。続刊も早く届けられるよう頑張ります!
■インタビューはここで終わ……らない!! 『ダンまち』のこれからとは?
――ありがとうございます。そして最後に、とっておきの情報をいただければと思うのですが、前回のインタビューの最後で、女神ヘラについて言及していただいていましたよね。あれからいかがでしょうか。
そのあたりは4年前と変わらずで、ベルの物語では出てこないかなとは思います。私自身、今後も『ダンまち』シリーズを終わらせないよう努力し続けると思うんですけど、そういったシリーズ展開の中で、ようやく出てくるキャラかなと、展望としては考えています。それこそわかりませんが、『ダンまち2』や『ダンまち3』を展開できたとして、登場するキーキャラクターがゼウス、ヘラみたいな使い方をするんじゃないかなと。ヘラの立ち位置としては、登場させるのであればそのくらいはやりたいです。だから、そうですね、タイミングは明言できないですけど、今後の予定としては、いつか『ファミリアクロニクル』の『episodeゼウス』……いや、メーテリアかも? とにかく、そういうものを出せたらなって。そこではがっつり出てくるかと。このあたりは書かないと、みなさんが納得してくれないというか、そういう部分だと思うので。でもその話も書きたくないですね……。
――楽しみにしているのでぜひ書いてください!(笑)。
ちょっと聞いてほしいんですけど、本当に最近、キャラを殺したくないんですよ! これはアニメの監督さんやスタッフさんのせいとかではないんですけど、アニメ4期の【アストレア・ファミリア】の全滅シーンから、キャラを殺すのが本当につらくて……。ご存知の方もいるとは思いますが、【ゼウス・ファミリア】や【ヘラ・ファミリア】のお話は、どうしても破滅的なストーリー不可避みたいなところがあって、『episodeゼウス』的な何かを書くということはそういうことになっちゃうんです。避けられないし、書いて出さないととは思いつつ、書きたくないなって。誰も死んでほしくないんですよ。本当ですよ? いっそ『学園ダンまち』でも始めようかなって思ってしまうくらい。ちょっとまとまらないですけど、私もマインドを削りながら書こうとは思っていますので、ヘラについてはそんな感じでしょうか。
――そうして振り返ると、本編のベルの物語では死人って少ないですよね。
本編を読まれている方はお気付きかもしれませんが、ベルの前ではあまり人の生き死にを描かないようにしています。今のベルなら大丈夫かもしれませんが、11巻までのベルは、自分の目の前で誰かが死んでしまったら、戦えなくなっちゃうから。11巻、12巻を書いて、「今のベルなら大丈夫」だと思ったからこそ、ジャガーノートを起こした節もあります。ただ、対照的に外伝では書いていますね。ベルの英雄たる所以というか、ベルの手の届く範囲では、そういったシーンは極力出さないようにしていますが。怖いと思いながらいっぱい悩んでます。悩みながら怖がってます。
――ではこのあたりで……。
そうですね。20巻のあとがきでも明言しているし、ここでも最後に言っておきます。21巻からは最終章「終末編」に突入します。今でもいろいろ悩んでいます! もう、誰にも酷い目にあってほしくない!!
でも、酷い展開にはなっちゃうと思います。
――えぇ……戦々恐々としながら今後も楽しみにしていきたいと思います。本日はありがとうございました。
<了>
『ダンまち』の現在、そしてこれからの話題をたっぷりと大森藤ノ先生におうかがいしました。最後には何やら不穏な言葉を残して締め括られることになりましたが、本編の次巻より最終章「終末編」に突入していく本作。第一級冒険者へと成長したベル・クラネルを待ち受ける展開から目が離せない『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』は必読です!
<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>
©大森藤ノ/ SB Creative Corp. イラスト:ヤスダスズヒト
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©大森藤ノ・SBクリエイティブ/ダンまち5製作委員会
[関連サイト]
『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』原作特設ページ