独占インタビュー「ラノベの素」 河鍋鹿島先生『異界掃滅のソルジャーメイド』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2025年1月25日にオーバーラップ文庫より『異界掃滅のソルジャーメイド』が発売された河鍋鹿島先生です。第11回オーバーラップ文庫大賞にて「金賞」を受賞し、満を持してデビューされます。建物の内部が異界化する超常災害『ハウス』にみまわれた世界を舞台に、『ハウス』と戦う二人の「ソルジャーメイド」の活躍と成長を描く本作。過酷な戦いに身を投じていくキャラクターたちや、戦うメイドを描くうえでのこだわりなど、様々にお話をお聞きしました。
【あらすじ】 建物の内部が化け物の跋扈する異界と化し、人を死へと導く超常災害『ハウス』。そしてその現象に、特殊な力で唯一対抗できる少女たち「ソルジャーメイド」。その一員であるシオンは、突然新部隊の隊長に任命される。さらに部下に配属されたのは内気で頼りない新人決死兵のアイリスただ一人。疑問と不満を露にするシオンだったが、『ハウス』でのアイリスの動きはまるで別人で……!?そんなアイリスと任務を果たしていく中で、孤高だったシオンはアイリスに対して徐々に相棒としての信頼を寄せていく。一方で心を開きかけては閉ざすアイリス。どうやら彼女は大きな秘密を隠しているようで―― |
――それでは自己紹介からお願いします。
河鍋鹿島と申します。小説は大学を卒業してから書き始めました。好きなものは映画やアニメ、小説などのエンタメ全般です。映画やアニメでは派手なアクションが描かれる作品やホラーを見ることが多く、小説だと主にミステリーを読んでいます。それ以外ですと、絵を描くことは幼い頃から好きですね。
――絵を描かれているというと、SNSに投稿したり、同人誌即売会で本を出したりされているのでしょうか。
そういったことはあまりやってこなかったですね。友達と一緒にオリジナルキャラクターを考えて、それをイラストにすることが多かったかと思います。
――小説は大学生の頃に書き始められたとのことでしたが、小説を書いてみようと思われたきっかけは何だったのでしょうか。
大学生の時に絵を含め、挫折を経験することがあったんです。「これは人生設計の軸を考え直す必要があるな」と考えていた時、出会ったのが森博嗣先生のエッセイでした。「どうすれば小説家になれるのか、小説を書けばなれる」みたいな内容だったかと思います。このエッセイを読んだ私は「それならば自分にもできるかもしれない」と思い、背中を押される形で小説家を目指すことになりました。
――新しい人生設計の軸として小説を選ぶことは、なかなかに大きな決断ですよね。
当時は「自分に出来そうなことだったら、何でもやってみるしかない」と思っていましたし、「せっかく新しいことに挑戦するのならば、自分が好きなことをやりたい」とも考えていました。昔から何かを作ることは好きでしたし、小説を読むことも好きだったので、小説家を目指すことにそこまでの躊躇はありませんでした。
――結果的に河鍋先生の挑戦は、第11回オーバーラップ文庫大賞「金賞」受賞という形で実を結ぶこととなりました。あらためて受賞の感想をお聞かせください。
正直、ホッとしましたね。いざ小説を書いてみたら、想像していたよりも難しかったですし、芽が出ない期間も長かったので、焦りがありました。受賞の連絡をいただいた際は、もちろん嬉しかったのですが、「首の皮一枚繋がったな」という安堵の気持ちも大きかったです。
――ちなみに公募への投稿は、小説を書き始めた頃からされていたのですか。
最初から公募をメインに活動していました。応募歴が長かったこともあり、気が滅入ることもあったのですが、ここまで何とか続けてこられてよかったです。
――長い期間書き続けることができたモチベーションの源はなんだったのでしょうか。
面白い作品に触れると、「自分ももう少し頑張ってみよう」って気持ちになるんですよね。映画やアニメ、小説などから元気を貰えたからこそ、モチベーションを保ち続けられたのだと思います。
――それでは第11回オーバーラップ文庫大賞「金賞」受賞作『異界掃滅のソルジャーメイド』がどんな物語なのか教えてください。
本作は、建物の内部が化け物だらけの異界に変化する超常災害『ハウス』が発生した世界で、唯一『ハウス』に対抗する力を持った「ソルジャーメイド」たちが、いかに活躍するのかを描いています。『ハウス』との戦いで大切な仲間を失ったソルジャーメイドのシオンが、特殊な立場のせいで多くのことを諦めている新人ソルジャーメイドのアイリスと出会ったことで物語は始まります。
※二人のソルジャーメイドがチームを組んだことで物語は幕を開ける――
――あわせて本作の着想についても教えてください。
SNSでメイドの役職表をたまたま見かけたのがきっかけでした。ひとえにメイドと言っても、台所の仕事を担当するキッチンメイドや、接客を担当するパーラーメイドなど、たくさんの種類があるんですよね。それを見て「なんだか軍隊の兵科みたいだな」と感じたんです。そこから着想を得て、メイドの戦闘部隊の物語を書こうと考えました。
――メイドの種類と兵科がリンクしている点もそうですが、「シオン」と彼女の武器「アスター」が、植物の「シオン属」とその学名「Aster」とリンクしているなど、全編を通してネーミングにはかなりこだわられていた印象でした。
やっぱり名前を付けるのならば、ちゃんと意味があるものにしたかったんですよね。とはいえ、分かりやすさも必要かと思います。ネーミングについてはこの二つのバランスを取ることにかなり苦心しました。応募原稿から変えたところも多かったですね。
――ということは、受賞後の改稿には苦労されることも多かったのでしょうか。
本当に大変でした。ネーミングもそうですが、構成自体を入れ替えることもありました。それでも、改稿を重ねていくことで、良くなっていく感触はありましたし、必要な苦労だったと思います。
――ありがとうございます。また、あとがきでは戦うメイドの姿が見たかったことも、本作を書いた理由に挙げられていたかと思います。河鍋先生は戦うメイドの魅力はどこにあると考えていますか。
メイドはいろいろな作品に登場しますけど、本来戦いとは縁遠い存在ですよね。戦いに似つかわしくない恰好をしたメイドたちが、武器を手に派手に立ち回るという、ビジュアル的なギャップは大きな魅力だと考えています。
――ちなみに河鍋先生は本作で戦うメイドを描く際にどのようなことを意識されているのでしょうか。
メイドというとやっぱり立ち居振る舞いに品がありますよね。なので、ソルジャーメイドの戦いを描く際は、品の良さや動作の美しさが垣間見えるよう意識していました。それに、メイドの「立ち居振る舞いの美しさ」って、兵士の「プロらしい無駄のない動き」にも通じる部分があると思うんです。もちろん、ソルジャーメイドは過酷な仕事ですので、泥臭さが必要な場面も出てきます。そんな中でも彼女たちの気高さを描くことは徹底していました。
※美しさと強さを兼ね備えた存在として「ソルジャーメイド」は描かれる
――そんなソルジャーメイドたちの敵となるのが『ハウス』なわけですが、『ハウス』は魔物や怪物などの類ではなく、「化け物だらけの異界になった建造物」というところが特異ですよね。
敵となる『ハウス』については、メイドの主戦場はどこなのかを考えていく中で生まれたアイデアでした。『ハウス』は、ハーミットという未知の生命体が建物に寄生することで発生するのですが、内部に取り残され、核となった人間の影響が色濃く出ることもあり、その性質は個体ごとに全く違います。そのため、攻略には、核となった人間の分析やプロファイリングも必要になってくるんです。ここは、ソルジャーメイドが『ハウス』を攻略するうえでの難しさにもなっています。
――戦闘能力だけでなく、分析力やプロファイリング能力も必要となると、『ハウス』との戦いはかなり神経をすり減らすものになるかと思います。河鍋先生はソルジャーメイドが『ハウス』と戦い続けるうえで必要なものは何だと考えていますか。
ポジティブな理由であれ、ネガティブな理由であれ、「戦う意味」を持つことは大事だと思います。何のために戦うのかが固まっていないと、激しい戦いを生き抜いていく胆力は得られませんからね。
――続いて、『ハウス』との戦いに挑む本作のキャラクターたちについて教えてください。
シオンは才能に秀でており、責任感が強ければ、気も強いキャラクターです。以前に所属していた部隊で仲間を全て失った経験があり、それを今も引きずっています。彼女は、人に分け与えられる温かさがあれば、何もかも燃やしてしまうような怖さもある、炎のような心を持った人物として描きました。個人的にはいろいろな武器を一人で使いこなせるところがお気に入りです。
※新たに隊長に任命された才気溢れるソルジャーメイドのシオン
アイリスはちょっと弱気で、ちょっと暗い、自虐的なキャラクターです。それにも理由があるのですが……、ここが作品の重要ポイントとなっています。弱気だったアイリスがシオンと出会ったことで、どう変わっていくのかには、注目してもらいたいです。あとは居合抜きで戦う眼帯の美少女という、画的な強さも彼女の魅力だと思います。
※シオンの部隊に所属することになった新人ソルジャーメイドのアイリス
セレストはシオンが以前に所属していた部隊の隊長で、亡くなってもなお、たくさんの人に影響を与え続ける太陽みたいな人物です。セレストは格好いい人物として描いたのですが、彼女の格好よさはナチュラルなものというより、「人のためにいつでも格好をつけられる」ところにあると考えています。
※シオンのかつて上司で、周囲からの人望も厚かったセレスト
フローレンスはシオンやアイリスの上司である「ハウスキーパー」のキャラクターです。シオンたちより多くのことを知っているのですが、視座が高いがゆえに、何を考えているのか分からない怖さがあります。彼女がどんな望みや思惑を持っているのかも注目ポイントですね。
※陰で何やら動いているハウスキーパーのフローレンス
――キャラクターについてですと、アイリスが出した素っ頓狂な声を「踏んづけられたオポッサムみたいな声」と表現するなど、シオンが物を例える時のワードセンスが印象的でした。
ありがとうございます。シオンはもともと孤児だったこともあり、セレスト隊に入ったことは、彼女の人格形成に大きな影響を与えています。彼女のワードセンスや食の嗜好などは、そういった今のシオンを形作るものの一部として描きました。
――やはり、一緒にいる人から受ける影響は大きいですよね。それでいいますと、新人ソルジャーメイドのアイリスもまた、シオンから受けた影響は大きいのではないでしょうか。
非常に大きいと思います。アイリスはシオンの部隊に入ったことで考え方に変化が表れますし、同様にシオンもアイリスとの交流を経て成長していくことになります。こういった変化の過程で生まれる、感情同士のぶつかり合いや、想いが通じ合う瞬間は、バディものとしての大きな見どころだと思います。どちらも一人じゃ生まれないものですからね。
※シオンとアイリスの関係性の変化には注目してもらいたい
――ありがとうございます。続いてイラストについてもお聞きしたいのですが、本作では書籍化に際してちひろ綺華先生がイラストを担当されました。キャラクターデザインを見た際の感想やお気に入りのイラストについて教えてください。
キャラクターデザインについては、私自身が絵を描けることもあり、しっかりとしたイメージもあったのですが、ちひろ綺華先生のイラストは私の理想を大幅に超えるものでした。キャラクターデザインを見て、よりキャラクター像が明確になりましたし、素晴らしいデザインにしていただけて嬉しかったです。イラストについては、カバーイラストを見た時の衝撃が一番大きかったかと思います。綺麗で、すごく華のあるカバーにしていただけて、役得だなと思いました。頑張って小説を書いた甲斐がありましたね(笑)。
※河鍋先生が衝撃的だったと語るカバーイラスト
――著者として、『異界掃滅のソルジャーメイド』は特にどんな方に楽しんでもらえるとお考えですか。
「戦うメイド」を描いた作品ということで、格好いいアクションや可愛いキャラクターが好きな人には刺さる部分があるんじゃないでしょうか。あとは二人の女の子によって織り成されるドラマやバディものが好きな人、『ハウス』の恐怖演出にもこだわっているので、ホラーが好きな人なんかにも楽しんでもらえるかと思います。もちろんそれ以外の人にもぜひ読んでいただきたいです。
――今後の目標や野望などがあれば、教えていただけますでしょうか。
この作品で書きたいことは、まだまだたくさんあるので、長く続けられたら嬉しいです。そのためにも多くの人に読んでもらいたいですね。あとはアニメも好きなので、シオンやアイリスのアクションをいつかアニメでも見られたらいいなと思っています。
――最後にこのインタビューを読んで本作に興味を持ってくださった読者の方に向けて、一言コメントをお願いします。
『異界掃滅のソルジャーメイド』に興味を持っていただきありがとうございます。手に取ってくださった皆さんに、シオンやアイリスたちのことを好きになっていただけたら幸いです。そのためにも、これからも小説家としてより一層精進してまいります。
――本日はありがとうございました。
<了>
新しく隊長となったシオンと、彼女の部隊に所属することになった新人のアイリスが、ぶつかり合いながら成長していく、戦うメイドのアクションファンタジーを綴った河鍋鹿島先生にお話をうかがいました。格好よくて可愛いソルジャーメイドたちの活躍はもちろん、二人の関係の変化にも注目しながら読みたい『異界掃滅のソルジャーメイド』は必読です。
<取材・文:ラノベニュースオンライン編集部・宮嵜>
©河鍋鹿島/オーバーラップ イラスト:ちひろ綺華
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