独占インタビュー「ラノベの素」 佐賀崎しげる先生『片田舎のおっさん、剣聖になる ~ただの田舎の剣術師範だったのに、大成した弟子たちが俺を放ってくれない件~』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2025年3月27日にSQEXノベルより『片田舎のおっさん、剣聖になる ~ただの田舎の剣術師範だったのに、大成した弟子たちが俺を放ってくれない件~』第9巻が発売された佐賀崎しげる先生です。片田舎の剣術道場の師範だった主人公が、かつての弟子によって騎士団の特別指南役に招聘されて始まる本作。おっさんの主人公を登用した裏話、そしてならではの魅力、さらにはいよいよ放送開始となるアニメについてなど、様々にお話をお聞きしました。
※フリーペーパー「ラノベNEWSオフラインVol.20」は本記事と連動しています。
【あらすじ】 “最強の冒険者スレナ・リサンデラが消息不明となった”突然の一報を受けたベリルは彼女を救うため、アリューシアや冒険者ギルドの助力を受けながらスレナが最後に依頼で訪れたアフラタ山脈へ直行する。慣れない獣道を進んだ先、どうにかスレナと再会できたのもつかの間。待ち受けていたのはスレナの仇にして、若き日のベリルを打ち負かした特別討伐指定個体(ネームド)の姿だった。「ともに立ち向かいましょう、先生」「今度こそ無様は晒さないよ」 深山幽谷にて最後に立つのは獣か、人か。今こそ、かつての因縁に決着を付ける時。 |
――それでは自己紹介からお願いします。
佐賀崎しげると申します。出身は作品のタイトル通りでもあるんですけど、四国の片田舎で育ちました。社会人を経て現在は作家をやっています。小説に関しては小学生の頃、ノートの切れ端に自分の考えたお話を書き連ね、先生に見てもらったりしていたことがスタートだったと思います。中学時代にはライトノベルもたくさん読んでいました。ただ、もともと作家を目指していたというわけではなく、絵を描いたり、作曲をしたり、文章を書いたりとクリエイティブなことをいろいろと続けていたんです。二次創作では『東方Project』の楽曲アレンジなどもやっていました。そんな折、仕事の傍ら「小説家になろう」で『片田舎のおっさん、剣聖になる』を書き始め、トントン拍子で今に至っている感じです。好きなことはクリエイティブ全般と子供の頃から遊んできているゲームですね。
――文章以外の絵や曲の制作というのは趣味でやられていたんですか。
そうですね。中学生の頃にキーボードやピアノ、ドラムも少し叩いたり。自然と音楽に触れる家庭だったことも影響していると思います。
――中学時代にはライトノベルもたくさん読まれていたということで、印象に残っている作品があれば教えてください。
当時だと上遠野浩平さんの『ブギーポップ』シリーズ、水野良さんの『魔法戦士リウイ』、高畑京一郎さんの『クリス・クロス 混沌の魔王』、中村恵里加さんの『ダブルブリット』、安井健太郎さんの『ラグナロク』などが印象に残っています。あの時代の作品群を勝手に黄金期と呼んでいるんですけど、当時の作品はたくさん読んでいました。ライトノベル以外では村山由佳さんの『天使の卵 エンジェルス・エッグ』や『おいしいコーヒーのいれ方』が好きでした。中学時代はとにかく本を読み耽っていたと記憶しています。
――二次創作をはじめ様々な創作活動を経験されてきた中で、オリジナルの小説を書こうと思った理由はなんだったのでしょうか。
2010年代の中盤から、WEB小説発の書籍化が増えていたことは月並みですが知っていて。僕もアマチュアながら創作畑に長らくいた人間だったので、「ちょっとやってみようかな」という軽い気持ちが始まりでした。『片田舎のおっさん、剣聖になる』は2作目の投稿作で、1作目は書きたいものを詰め込んで書いてみたんですけど、これといってランキングに載ることはありませんでした。執筆活動そのものは楽しくできていたんですけど、「小説家になろう」の中ではウケなかった。であれば、自分なりに市場調査をして、ウケそうな作品を書いたらどうなるんだろうと思って書いたのが、『片田舎のおっさん、剣聖になる』でした。
――流行りをきちんと調査して書籍化を狙いに行ったと。
書籍化を狙う気持ちがなかったわけではないんですけど、それ以上にランキングの上位に載りたいという欲求がすごく強かったです。ランキングの上位に載って、ポイントをさらに積み上げて、たくさんの感想をもらって、「なんて気持ちいいんだろう」っていう状態になってみたかったんです(笑)。
――なるほど(笑)。入念な準備を経て投稿した結果、ランキングに載ることはできたんですか。
はい。投稿を始めて5日、日刊の総合1位に載ることができました。今でも覚えているんですけど、投稿初日に1時間ズラしで計5話を投稿したんです。自身のネームバリューがあるわけでもないし、読み手の目に作品が触れなければそもそも意味がない。そのためのスタートダッシュには、1日1投稿ではぬるいだろうと判断していました。その結果、ランキングの詳細は覚えていないんですけど、80位台に載ったんです。それから1日2話ずつ投稿していき、ランキングも一緒に上がっていきました。
――そうしてランキングで1位に載り、さらには書籍化のオファーまで受けたわけですね。
11月17日に投稿を始めて、1週間後の11月24日でした。連絡をいただいた時は「マジかよ」っていう心境でしたね(笑)。実は本作の投稿においては、いろいろアドバイスをしてくれたWEB小説読みの友人がいまして、その友人と連絡をいただく数日前に「SQEXノベルが新しくできるぞ」っていう話をしていたんです。スクウェア・エニックスと言ったら誰もが知っている企業で、それこそ万が一、何かが転んでここから書籍化できたら強いよなっていう話をしていました。そういった経緯もあり、「こんなことあるんや」って(笑)。一晩じっくり考えた結果、SQEXノベルで行こうと決めた感じですね。
――そうして2021年4月に『片田舎のおっさん、剣聖になる』の刊行がスタートして4年が経ちました。漫画も含めたシリーズ累計は700万部を突破するなど、非常に大きな反響を呼んでいます。あらためて現在の心境をお聞かせください。
一言でいうと宝くじが当たった気分です。確率的にもおそらくそんなものでしょう。たくさんの物書きさんがいて、その中から書籍化や商業デビューできるのも一握りなわけじゃないですか。さらにそこから、どこに出しても恥ずかしくないヒット部数で宣伝ができる作家になるのは一握りですよね。だから宝くじみたいなものだろうなって。もちろん僕に実力がまったくなかったとは、今の立場上言いませんけれど、大いに運が良かったのは間違いありません。SQEXさん、コミカライズの秋田書店さん、アニメの製作委員会の方とお会いするたびに、とにかく巡り合わせがよかったとお話をしています。そこに尽きるんじゃないかなと思いますね。
――そういった様々な巡り合わせの結果、本作はアニメ化へとお話が進んでいったわけですよね。アニメ化のお話を最初に聞いた時の心境はいかがでしたか。
何巻かのあとがきにも書きましたけど、「えっ?」って感じで。アニメ化のお話は担当編集さんと、普段の電話でのやり取りの中でポロっと聞かされたんですよ。伝えられ方が日常の延長すぎて、感動とかはなかったです(笑)。
――アニメ化に向けて物事が進んでいく中、どういったタイミングで佐賀崎先生は実感に至りましたか。
最初にアニメの関係者の方々とご挨拶もしたんですけど、僕もそれまで社会人をやっていたこともあって、お話をして契約は巻いたけど、結局立ち消えてしまう可能性も全然あると思っていました。それこそ作るものは工業製品ではなくクリエイティブなもので、ぽしゃる可能性は常に頭の片隅には置いていましたね。そこから第1話のプロットや脚本、絵のラフといった成果物が出てくるごとに、「本当に進んでいるんだ、この企画」と、実感が湧いた感じです。
――そうして企画も進み、アニメの放送がいよいよ4月よりスタートとなります。
「いよいよきたな」って感じです。企画段階の頃の夢物語と違って、4月から実際に放送が始まるわけです。僕ももちろん当事者の一人ではあるんですけど、脚本会議や絵コンテ、美術設定の確認が終われば、以降は口出しすることもないし、僕が作っているわけではないのでできません。なので、当事者でもありつつ、一人のアニメ視聴者として4月からの放送を楽しみにしています。
※アニメは2025年4月5日(土)より順次放送開始!
――あらためて著者としてアニメの見どころを教えてください。
個人的に本作の肝は、剣技におけるアクションシーンとキャラクターの機微になるかなと思います。特に主人公のベリルは、剣一筋の世間知らずなおっさんです。様々な人と巡り合うことで、少しずつ成長をしていく。子供の頃と違い、一般的にいい年をした大人が何かひとつの出来事をきっかけに、精神面が大きく変化することはほとんどないと思いますが、その中でもアクション的な絵の動きはもちろん、心の動きも丁寧に作っていただけているじゃないかなと思っていますし、美術もかなり力を入れていただいているので、映像美などを含めて楽しんでもらえるんじゃないでしょうか。
――ありがとうございます。それではアニメ放送もスタートする『片田舎のおっさん、剣聖になる』について、どんな物語なのか教えてください。
一言で言うと、自分に自信がなく、剣術道場で師範をしているおっさんが、自分が育てた教え子に持ち上げられ、もてはやされて、自分の実力に少しずつ気付き始め、名声を得ていく。そんなお話になっています。
※弟子のひとりによって王国騎士団の特別指南役として招聘されることに
――あらためて着想についても教えてください。
先程も少し触れましたが、着想の大枠は「小説家になろう」でランキングの上位を狙う、がスタートでした。ジャンルとしては、おっさん無自覚無双ファンタジー的な表現をされていますが、主人公が格好良く活躍すること。それは戦闘に限らず、決めるべきところはきちんと決めていくことは絶対条件だと考えていました。また、これは個人的な考え方ではあるんですけど、いわゆるゲーム要素。ステータスやレベル、スキルといった要素は、ゲームの世界を描くのでなければ、使いたくないなとも考えていました。そのうえで強さを表現するために何がわかりやすいだろうと思案した結果、王道かつ認知度の高さから、剣術を主軸にしようと。おっさんにした理由は、僕もいい年だったりするのと、地に足を付けて強くなったんだっていう姿の方が、筆が乗るだろうと考えたからですね。
――なるほど。先ほどWEB小説読みのご友人にアドバイスをもらっていたというお話もありました。具体的にはどういったアドバイスがあったんですか。
序盤で読者の興味をどう掴むかというのは、友人と打ち合わせを重ねて、展開や登場キャラクターを固めていきました。アドバイスを経て大きく変わった点としては、スレナ・リサンデラというベリルの弟子で冒険者の女性キャラクターがいるんですけど、初期案では男性だったんですよ。僕の中で弟子の男女比が偏りすぎるのはよくないんじゃないかって考えたんですけど、その友人からは「間違ってるとまでは言わないけど、WEBで書くのあれば、絶対女性の方がいい。比率だけが理由なら序盤に男キャラを出す意味がない」とバッサリ(笑)。そういったアドバイスもありつつ、実際に日刊ランキングで1位を獲った時はすごく驚いていましたね。
――では続いて、主人公のベリル・ガーデナントについてお聞きできればと思います。まず、主人公をおっさんにした理由はなんだったのでしょうか。
先程も触れましたが、主人公のキャラクターが自分の年齢に近い方が、若い主人公にするより書きやすいだろうなと思ったのがひとつあります。そして僕自身がこれまで読んできた漫画や小説の中で、主人公の師匠という存在に惹かれていたところがあります。前提として、主人公の師匠が強いのは当たり前です。でも主人公の師匠は、主人公の師匠であって主人公ではありません。たとえば『るろうに剣心』には比古清十郎という師匠キャラがいますけど、彼が出てきて全部しばき倒したら物語は終わるじゃないですか(笑)。なので登場頻度も然程高くはなくなります。だからこそ、そういった強いキャラクターを主軸に置くことで、何かできないかとは考えていました。それと本作を読まれている方は気付いているかなと思うんですけど、ベリルは書籍の巻数を経るごとに、語り口が変わっていっているんです。第1巻や第2巻の頃は口調がめちゃくちゃ軽いんですよ。
※おっさんを主人公にした理由は書きやすさと師匠キャラの存在がある
――確かに第1巻や第2巻を読んだ時、「存外にフランクなおっさんだな」という印象を受けました(笑)。
そうなんですよ。内面がバカフランクなおっさんっていう(笑)。これもWEB小説として投稿する上での戦略のひとつではありました。おっさんのガワはしているし、言葉は丁寧だけど、内面は自分を茶化したり、ツッコミをいれたり。そういう軽さがあった方が読まれやすいんじゃないかなと考えていました。そうして第3巻あたりから、じわじわと本来の自分の書き方へと表現の塩梅を戻していき、第5巻くらいで完全に戻っていたりもします。結果、その表現の変化が翻って、ベリルというキャラクターの内面的な成長の描写に繋がったんじゃないかなとも思っています。
――描写の変遷が結果としていい方向に転がったと。
ベリルってキャラクターは、剣の達人で優れた師匠で、すごい剣士です。ただ、決していい大人ではないんですね。それこそ僕は、ベリルをダメ人間的な感じで書いています。見識が広いわけでもなければ、気を遣えるわけでもなく、優柔不断なところも多い。剣だけはやたら強いダメなおっさんなんです。でも道場師範という肩書もあるし、体面もあるからいろいろと取り繕ってはいる。スタート地点はそこなんです。そんな彼を成長させていき、最終的に「いい大人」を描ければいいなと思っています。
※ゆっくりと、そして少しずつ成長をしていく姿も描かれる
――なるほど。とはいえ、ベリルには弟子をはじめとして慕ってくれる人間も多いですよね。「いい大人」ではないとしても、周囲の人間を惹き付ける要因は、どんなところにあるとお考えですか。
あらためて問われると難しいですね(笑)。まず、剣の師匠としては単純に優秀です。そして彼は人をよく見ているんです。それは戦いの上で動体視力を活かすというのもそうですし、一人一人の生き方だったり、何を思って何をしようとしているのか、細かなところに目端が利く。そしてその性質は、剣術道場の師範として門下生に応対する時に出やすいわけです。一方で、プライベートは足りないところが主だって出てきてしまう。つまるところ、プライベートのベリルを知らない弟子が割と多いんです。それで「優秀な師匠=いい人」っていう感情を抱いていることが多いわけです。ひとつ例を挙げると、アリューシアとスレナは二人とも文字で表現すると、ベリルのことが「好き」です。でもそれぞれの「好き」は意味が異なり、描写の仕方としても彼への慕い方は異なるように書いています。なぜならスレナは、幼少期にベリルのプライベートを含めてよく知っているからですね。アリューシアは然程知らなかったりもするわけで。文章の中で敢えて説明することはしていないですけど、そういう匂わせは考えながら書いていますね。
※ベリルに向けられる好意や敬意は弟子ごとに異なるという
――ありがとうございます。また、剣士としてのベリルの語る剣術についても教えてください。作中で描写される剣術や剣技は、かなり論理的かつ順序立てられた解説や動きがなされているイメージを受けました。佐賀崎先生が何かしらの経験を持たれているのか、それともしっかりと調べられたからなのか、非常に気になりました。
ありがとうございます。まずはちゃんとそのあたりが表現できているという感想をいただけたのが嬉しいです。ご質問にお答えするのであれば、それは経験になります。僕は小学校高学年から高校卒業まで武道をやっていまして、大学では別の格闘技をやっていました。格闘技に携わっていた時間も長く、その間には棒術を試してみたり、いろいろ齧っていたんです。もちろん徒手空拳で戦うのと、武器を持って戦うのとでは動きの違いはあるので、多少調べはしました。でも、素手でも武器を持っていても、根本的に人体の動きは大きく変わらないんですよ。それらの延長で「こう動くのならこう」というのは、僕の経験から書いていますね。
――やはりというか、きちんと裏打ちされた表現だったのですね。ちなみに佐賀崎先生はお強いんですか(笑)。
いえ、喧嘩をしたら負けるでしょう(笑)。あくまで僕がやっていたのは、技を学ぶことと武道でして。ストリートファイトで勝てる術でもなければ、その心構えを学んだわけではないです。いざとなっても動けないでしょうね(笑)。
――ありがとうございます(笑)。せっかく強さの話題になったので、ベリルの強さにおける立ち位置についてもお聞きしたいです。作中では戦士と剣士の違いについても触れられていましたよね。
あんまり言うとネタバレになりそうな部分もあるので……。一言で言うなら、ベリルは人類最強でもなんでもない、ということでしょうか。もちろん強さとしてはかなり上の方にはいます。ただ最強ではないし、最強として書いてもいません。そういう世界だと思っていただければなと思います。
※ベリルの強さはさらなる高みへ……
――では最後に、ベリルはある意味で40代のオールドルーキーとも言えるのかなと思います。そしてその年齢になっても、学ぶことや成長できることがまだまだあるんだなっていう思いを、ベリルを通して感じている読者も多いんじゃないかなと思うのですがいかがでしょうか。
いい年をした大人は、ひとつの出来事でガラリと変わることはそんなにないと思います。でも変わりはするんですよね。じわじわでもゆっくりでも。そういった小説や漫画に触れて、感動でも共感を得るでもなんでもいいんですけど、何かしらポジティブな刺激を受けて、ちょっとでもその人の生活が変化したりするのであれば、僕はすごく嬉しいです。もちろん、物語は物語で現実は現実だという方も多いでしょうから、そうならなくてもいいんです。良い影響を受ける人が1人でも2人でもいるのであれば、それはそれでいいことだなと思います。
――ありがとうございます。では続いて、ベリルの弟子についても紹介をお願いできますでしょうか。
僕がこの作品を考え始めた時、ベリルという剣術師範がいる以上、その薫陶を受けた教え子たちが並ばないと始まらないと考えていました。そこで最初に出てきたのがアリューシアでしたね。彼女が物語の起爆剤となっています。大変に優秀で時にはちょっとポンコツという、静謐さとのギャップを持つキャラクターです。そして優秀な弟子には優秀なライバルが必要だと思い、スレナを考え、その次は一流の弟子ばかりでは味気がないと思い、ムードメーカー枠としてクルニを考えました。その後に、剣という世界やベリルの目から見るとイロモノ枠になるフィッセル。そしてお姉さんキャラであるロゼ。基本的に物語の序盤の軸は、ベリルと弟子のお話になるので、まずはその関係値を外枠から固めていきました。中身のキャラ付けや見た目は、様々な先達方の要素から学ばせていただき、組み上げていった感じですね。
※様々なタイプの弟子たちが登場するのも本作の見どころのひとつになっている
――作中ではベリルの弟子がたくさん登場しますが、特に筆が進むというキャラクターはいますか。
筆が一番進むのはアリューシアです。彼女はベリルに関わる根幹設定の大部分を担っているキャラクターでもあるので、アリューシアの設定は強固に決まっています。書きやすさも馴染み方も一番ですね。逆に書きにくさを感じるキャラクターはいないですね。
※ベリルの招聘を画策し実現させたアリューシアの存在は物語に欠かすことはできない
――ありがとうございます。では続いて、これまでに多くのイラストが描かれてきたかと思います。印象に残っているイラストや特に気に入っているイラストを教えていただけますでしょうか。
印象に残っているイラストで言うと、第5巻最後の見開きの挿絵でしょうか。担当編集さんの提案で見開きになったんですけど、ベリルと父親のシーンは本文の背景を含めて、非常に印象的でした。お気に入りのイラストで言うと第7巻の書影になります。第1巻からヘラヘラしていたベリルの表情が、雪景色の中でビシッと決まっており、格好良いなって思います。
※佐賀崎先生が特に印象に残っているイラストとお気に入りのイラスト
――あらためて本作のイラストを手掛けてこられている鍋島テツヒロ先生のイラストの魅力はどんなところにあるとお考えですか。
鍋島先生のラフやキャラデザを拝見していた中で、カラー絵を見た時、率直に「綺麗だな」と思いました。言語化がだいぶ難しいんですけど、色使いも含めて、鍋島先生が描くキャラクターの目が特に好きなんです。それこそ毎回拝見するたびに好きになりますね。あとはベリルがちゃんとしたおっさんなところでしょうか(笑)。それも好きで、魅力的なポイントだなって思っています。
※佐賀崎先生も絶賛するキャラクターの瞳にも注目してみてほしい
――ありがとうございます。また、コミカライズは本編と2本のスピンオフが連載されています。あらためて各漫画版の魅力や見どころについて教えてください。
まず、乍藤和樹先生の本編コミカライズですが、とにかく絵がお上手です。特に読者の方が評価している点としては、アクションなのかなと思っているのですが、アクションシーンの描写のうまさにもいろんなタイプがいると思うんです。乍藤先生の場合は、動いているその一瞬を切り取った絵が抜群にうまいと思っていて、静止画なのにすごく動きを感じられる絵は一級品を超えているかと。そこまで描ける方に僕の作品を担当していただけているのは、僥倖な巡り合わせだと感じます。そもそも小説と漫画はメディアとして媒体が違うわけで、それぞれのメディアに適した表現は絶対的に異なります。乍藤先生には原作のストーリーをうまくリワークしていただいていて、それを一本の漫画としてうまく再構成していただいています。なので、コミックスを読んでも原作の100%のネタバレにはならないし、原作を読んでいてもコミックスの100%のネタバレにはならない。二度楽しめる作品になっていると思いますね。
※どこでもヤングチャンピオンにて連載中!
第1弾スピンオフの『片田舎のおっさん、剣聖になる外伝 はじまりの魔法剣士』は、主に魔法と剣術を使うフィッセルの幼少期から現在に至るまでの物語を漫画にしていただいています。本作は物語の起承転結の流れを僕が作っていて、構成の渡辺樹先生から、とんでもない量の資料と質問事項をいただいたりもしました(笑)。なので、物語の構成における密度と強度は凄まじいことになっています。それこそ、このスピンオフ一本で楽しめる物語と言っても差し支えありません。ベリルが主軸の話ではどうしても剣術がメインなので、魔法って掘り下げにくいんですよ。とはいえ、魔法も世界を構築している重要な要素ではあるので、作品世界のさらなる拡張としても面白く大事なものになっています。
※マンガアプリ「マンガUP!」にて連載中!
第2弾スピンオフの『片田舎のおっさん、剣聖になる外伝 竜双剣の軌跡』は、冒険者となったスレナがブラックランクに至るまでの過去の物語を漫画化していただいています。僕もお手伝いはさせていただいていますが、こちらはフィッセルのお話ほどガチガチに僕が決めているわけではありません。もちろん諸々ご共有をいただいた上で意見を出させていただいてはいます。ただ、スレナがどんな冒険者としてこれまでを過ごしてきたのか、僕自身も完璧に埋め切れているわけではないんです。そういう意味でも楽しみにしている物語です。ベリルを主役にしている以上、冒険者のお話も掘り下げられないので(笑)。スレナは弟子の中でも結構年上で、今でこそ彼女は彼女らしい振る舞いを本編ではしていますが、昔はそうではなかった。そういったスレナの成長という面でも、楽しめる作品になっています。
※ヤングガンガンにて連載中!
――続いて発売された最新9巻の見どころと注目ポイントを教えてください。
第9巻はスレナが主軸のお話となります。また、物語はスレナが消息不明になって動き出します。そこからどうなるかは本編を読んでいただければ。見どころとしては、やや抽象的になってしまいますが、第9巻を書くにあたっては、劇場版にできるかもしれないという心意気で書きましたし、いい盛り上がりを作れたと思っているので、楽しんでいただけたら嬉しいです。
※第9巻ではスレナが消息不明になってしまい……?
――そして多くの読者が気になっている事かと思いますが、第7巻ではシュステが、第8巻ではアリューシアが、ベリルに対して明確にその想いを告げましたよね。ベリルはこの先、結婚できますか(笑)。
うーん、どう答えようかな(笑)。できる、できないという意味で言えば、できると思います。実際に候補はいますし、ベリル自身も気付かされた部分もあるわけで。できるんじゃないですか?(笑)。
※ベリルの結婚は果たしてどうなる……!?
――では仮に結婚できるとした場合、現時点において佐賀崎先生の中で相手となるキャラクターは決まっていたりするんですか。
できると仮定した場合、こうなるんだろうなっていうのは決まっています。ただ100%の決め打ちをしているわけではありません。それは変化するかもしれないし、増えるかもしれないし、わからないんですけど、現状できるという世界線で進むなら、ですね。これ以上は今後を楽しみにしていただければ(笑)。
――ありがとうございます。ベリルの結婚事情にも引き続き注目していきたいですね。ではあらためて、今後の目標や野望について教えてください。
長いスパンでみた目標としては、専業作家になっているので、会社員に戻らないようにはしたいなっていうのはひとつあります。こうやって活躍の機会をいただけて、売れているわけなので、開かれた道を閉ざさないよう努力していきたいなと。もちろん『片田舎のおっさん、剣聖になる』の一本だけでなく、佐賀崎しげるという名前に商用利用価値がある限りはやっていきたいと思います。野望は……下世話な野望にはなりますが、『片田舎のおっさん、剣聖になる』というタイトルで、一般的なサラリーマンの生涯年収を稼ぎ切りたいなと思っています(笑)。
――それでは最後に本作のファンに向けてメッセージをお願いします。
まず、最大の感謝を述べたいのは、「小説家になろう」に僕が投稿を始めて、すぐに読んでいただき、評価とブックマークを入れていただいた最初の方々。その方々の動きがあってこそ、ランキングの上位に載ることができ、書籍化ができ、今があります。なので、その方たちには自信を持って後方師匠面をしていただきたいと強く思います(笑)。それはそれとして、商業になれば商業として売れなきゃ続刊はありません。書籍を手に取っていただいた方々、第1巻を手に取って面白いと思って買い支えていただいている方々のおかげで、僕は今こうしてお話をできているところもあります。みなさんが今後も楽しめるような、こいつの第1巻を買って正解だったなって、これからの読書人生において、自分の中で言い続けられるようなお話を頑張って書いていきたいと思います。これからもぜひ応援いただけるとありがたいです。あわせてコミカライズにスピンオフ、そしてアニメとメディアミックスもされておりますので、たくさん楽しんで、少しでも人生の彩りになっていただけたら嬉しいなと思います。
――本日はありがとうございました。
<了>
片田舎から都市に降りてきたおっさんが、少しずつ己の名声を本人の意志とは無関係に高めていくことになる物語を綴った佐賀崎しげる先生にお話をうかがいました。人は何歳になっても学び、成長ができる、そんなメッセージとしても受け取れるベリルという剣士の行く末に注目したい本作。アニメ放送もいよいよ開始となる『片田舎のおっさん、剣聖になる ~ただの田舎の剣術師範だったのに、大成した弟子たちが俺を放ってくれない件~』は必読です!
<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>
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