独占インタビュー「ラノベの素」 悠寐ナギ先生『→ぱすてるぴんく。』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2018年6月29日に講談社ラノベ文庫より『→ぱすてるぴんく。』第2巻が発売となった悠寐ナギ先生です。第7回講談社ラノベ文庫新人賞「佳作」受賞作にして、隔月で続刊が刊行された本作。20歳の新鋭が描いたインターネットやSNSを通じた苦々しくも愛しい、リアルで等身大の青春ストーリーの内容や、第2巻の見どころについてお聞きしました。

【あらすじ】

スモモが引っ越してきたことから始まった“炎上”事件もどうにか収束を迎え、緋色とスモモは穏やかな日常を送り始める。スモモの家でお泊まり会を開いたりと二人のイチャイチャも加速しつつある連休前、緋色のクラスでは遠足に向けた班決めが行われるが――!?――渚と同じ班……だと? 成り行きで緋色は渚たちのグループに加えられてしまい、遠足は波乱の展開に。そこで聞かされる、渚の想い。そしてスモモが願う、自分たちの“恋人”としての在り方とは――!? 元カノと今カノの想いが混じり合ったその時、再び物語は動き出す。中高生に“刺さる”と話題を呼んだネットネイティブ世代の青春を描く新感覚ラブコメ、再始動の第2巻!

――それでは自己紹介からお願いします。

悠寐ナギと申します。東京出身の大学2年で、今年20歳になりました。第7回講談社ラノベ文庫新人賞にて「佳作」をいただき、『→ぱすてるぴんく。』にて今年5月にデビューさせていただきました。最近の趣味はアーケードゲームの「キラッとプリ☆チャン」にハマっていて、大学の空きコマなんかにふらっとゲーセンに立ち寄ることが多いです。あとは神保町の古書店を巡ったり、バッティングセンターに通ったりですね。苦手なものは「ウェーイ!」っていう大学生のノリが、1年間大学生をやりましたけど、未だに慣れそうにないところでしょうか(笑)。

――受賞の発表から約1年が経ち、大学生活も2年目を迎えていますよね。作家業と学生生活は両立できていますか?

『→ぱすてるぴんく。』の応募原稿の執筆は大学受験が終わってからでした。そこから夏頃に賞をいただいて改稿作業に入りました。その間も大学のサークル活動も並行したりして、時間の経過がとにかく早い1年だったように思います。次から次にやることがあって、本当にあっという間でした。大学生活も単位を1つ落としたこと以外は至って順調だと思ってます。ちなみに執筆活動が原因で単位を落としたわけではありませんので念のため(笑)。

――そういうことにしておきましょう(笑)。新人賞を受賞しデビューをされているわけですが、ご自身が小説を書こうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

もともと何か創作物を世の中に発表したいという思いは強くありました。それが中学2年生か3年生の頃で、得意じゃないものを順番に候補から外していき、何ができそうかを考えていました。身近に当たり前のようにインターネットがあって、ニコニコ動画ではボカロがとても流行っていた時期でもありました。そういった中で自分も何かやりたい、何ができるんだろうと考えた結果、小説を書くことにしました。昔から小説という形ではなくても文章を書くことが好きだったので、小説で挑戦してみたいという気持ちが大きかったんだと思います。

――創作活動をしたいと考えたタイミングで、小説が自分に合っているのではと思ったわけですね。

そうですね。ただ、デビューしてあらためて感じましたが、絶対に小説じゃないとダメだ、みたいなこだわりがあるわけではないです。今でも流行りの何かでチャレンジしたい、勉強したいと考えたり探したりしているので。活路があれば、小説にこだわらずいろんなことをやっていきたいですね。

――まさに創作者のバイタリティという感じですね。本作についても第1巻刊行から隔月で第2巻の刊行となりました。デビュー作の刊行速度としてはかなり早いイメージがありますが大変ではありませんでしたか。

執筆のペース自体はそこまで大変ではなかったです。昨年の晩夏の受賞から、第1巻の刊行が今年の5月で、受賞作を改稿しながら第2巻にも取り掛かっていました。年末くらいには第2巻の初稿ができていましたし、書きたいという衝動も強くあったのでネタに詰まることもなかったです。逆に大変だったのはイラストレーターの和錆先生やデザイナーさんだったんじゃないかなと……(笑)。本当にありがたい限りです。

――ではあらためて、第2巻が発売となった『→ぱすてるぴんく。』がどんな物語なのか教えてください。

この作品はインターネットを舞台にした男の子と女の子の出会いから始まる物語です。インターネットを通じた恋愛ストーリーで、とにかく等身大な物語を心掛けて描きました。現代の青春の在り方のひとつであるということや、青春っていうのはやっぱり楽しいこともあればしんどいこともあるということ。僕自身の高校生活を振り返りながら、楽しい部分と苦しい部分を逃げずに描きつつ、エンタメとしても成り立たせられるように執筆しました。ただ、この作品には苦しかったり痛い部分がたくさん含まれているので、そこから逃げずにエンタメ化して、描き切るところがとても大変でした。その分、大きな魅力にもなってくれていると思います。

※インターネットを通して動き出す青春ストーリー

――本作はインターネットやSNSを通じた恋愛の喜びが描かれる一方、悪意なき悪意をはじめとしたネットやSNSの危うさにも触れられていると思います。それこそ中高生の時代からSNSに触れられてきたと思うのですが、悠寐ナギ先生にとってSNSはどのように見えているのでしょうか。

僕たちの世代は生まれた時からインターネットがあって、物心ついた時にはスマホもSNSもありました。正直な話、中高時代はインターネットやSNSに怖さというものはほとんど感じていなかったと思います。余程おかしなことをしでかさない限り、安全なものだと思っていましたし、自分一人の力で大きな発信に繋げられることも魅力だと思ってました。ネットを通じれば、変えられるものってたくさんあると思うんですよ。ただ、自分が物を届ける立場、責任ある立場になった今は、怖いという気持ちも芽生えるようにはなりました。何気ないつぶやき一つでも、とんでもないことになった実例もあるわけで。だからと言って縮こまるつもりはあんまりなくて、そういった難しい部分と折り合いをしっかりとつけながら、上手く活用していきたいと思ってます。

――良し悪しが表裏一体にあるネットを舞台に描く本作の主要キャラクターについて教えてください。

本作の主人公である軒嶺緋色は、とにかく弱いキャラクターです。各段に格好いいというわけでもないし、リアルでは停滞を望んでいるし、自分を信じ切れているわけでもありません。ただ、どんなに滅多打ちにされても、心が折られそうになっても、最終的には輝こうと頑張れる存在なんだよっていうメッセージを込めたキャラクターでもあります。ちょっと本音を言えば、自分も高校時代は日陰者だったので、そんな主人公に高校時代の自分を救ってもらおうと考えていた節がないと言えば嘘になるかもしれません(笑)。

※弱いキャラクターとして描きたかったという軒嶺緋色(左)

本作のヒロインの一人、楢山スモモは天真爛漫で、こんな女の子がいたらいいなというイメージで書きました。ネット恋愛の末、緋色を追いかけて四国から関東まで引っ越してきちゃいます。彼女は高校一年生になったばかりで、社会経験も乏しく突っ走っちゃう性格で、足りないところはたくさんありますが、それでも可愛く思ってもらえるように書いたキャラクターです。

※理想のヒロインでもあるという楢山スモモ

そして本作のもう一人のヒロイン、花菱渚は弱いキャラクターとして描いた緋色とは真逆の存在です。緋色とは中学時代に彼氏彼女の関係性を築き上げていく最中で、空中分解してしまった過去を持っています。それ以降、緋色は停滞することを選び、渚は変化を選んだ。この両者の対比もひとつ描きたかった点でした。

※緋色とは対照的な存在であるもう一人のヒロイン・花菱渚

――第1巻ではネットやSNSを舞台に緋色とスモモの炎上騒動が描かれ、二人ともかなり追い詰められることになりました。先ほどSNSの見え方についてお聞きしたのですが、なぜ作中でネットやSNSに潜む危うさやエグさにフォーカスしようと考えたのでしょうか。

正直に申し上げると、ネットやSNSにおける怖さ、後ろめたさ、危うさ、エグさについて、作中で特段踏み込んだとはあんまり思っていません。これは僕自身の性格に起因しているところでもあると思うのですが、僕は嫌いな人が基本的にいないんです。もちろん接していく中で、ムカついたり、なんだコイツって思ったりすることはあるんですけど、振り返ると楽しかったことだけを思い浮かべて全部水に流せちゃうんです。友人グループの中でも陰口とかありますけど、基本的には良いところしか見ないし言いません。敵を作りたくない性格とでも言いますか。なので、緋色やスモモと敵対するリア充グループのキャラクター達も一生懸命生きている中で、たまたま誰かを無意識で傷つけてしまっただけというか。僕としてはそれを一方的に悪とは言いたくなかったんですよね。ただその一方で、たとえ悪意はなくても、傷つく人もしんどくなる人もいるのが現実。今の中高生の人たちに、もう少し相手を慮ってみるのもいいんじゃないかなと伝えたい想いもあって、悪意なき悪意という形で描いた部分はありました。

――とても前向きな思考から生まれた設定だと言われると、納得してしまう部分がありますね。ある意味で、本作は作家のパーソナリティの影響を強く受けている作品なのかもしれませんね。

自分でもかなり前向きな性格だと思ってます(笑)。他人を単純に否定したくはないし、誰かを悪者にしていきたいとは思わないんですよね。

――なるほど、ありがとうございます。とはいえ痛くて辛い部分も少なくない本作のイラストは、明るさや柔らかさが印象的です。お気に入りのイラストやシーンなどがあれば教えてください。

作家としてデビューする前から、Twitterで和錆先生のイラストは拝見させていただいていて、とても素敵だなと思ってたんです。いつかデビューできたら、和錆先生にイラストを担当してもらいたいと。それがこんなにも早く実現したことがまず嬉しかったですよね。表紙のスモモは完璧ですよ! お気に入りのシーンは、第1巻で渚が涙したシーンです。和錆先生のイラストも相まって、緋色にとって大きなターニングポイントになるシーンだったと思います。

※憧れの和錆先生が描くお気に入りのシーンより

――そして二人の炎上騒動のその後が描かれる第2巻も発売となりました。第1巻はネットが主立った舞台となり、第2巻では現実が主立った舞台です。第2巻の見どころについて教えてください。

1巻を書き終えてから自分でもびっくりしたんですが、実はスモモと渚が会話しているシーンがなかったんです。二人がまったく関わっていないことに気付いたことが2巻の着想でした。そして1巻はネットが中心の物語だったので、2巻は物語の舞台を学校へと移して、スモモと渚、そして緋色の3人の関係性を明確に描いた点がひとつ見どころだと思っています。また、世の中のネットの流れと忘却の速さについても触れ、その一方でネットには消えない痕が残るんだぞというメッセージも込めています。そして2巻ではぜひ檸檬ちゃんにも注目してもらいたいです。1巻では炎上騒動の火種のひとつとなってしまった彼女ですが、2巻では緋色とスモモを繋ぎとめる重要な役割を果たしてくれます。『→ぱすてるぴんく。』では、どのキャラクターも未熟な部分がたくさんあって、成功もあれば失敗もします。ただ、みんながいろんなやり方で、思い思いの青春を過ごしているからこそ、すれ違ったり勘違いが生まれてしまう。大人から見たら足りないところだらけに見えるかもしれませんが、それも含めて高校生の少年少女たちの姿だと思っているので、ぜひ注目していただけたらと思います。

※彼ら彼女らの青春の行方に注目です!

――今後の目標や野望があれば教えてください。

本を1冊出してみて、僕自身が作家であることにこだわっていないということをあらためて感じました。それは小説を書きたくないとかそういうことではなくて、小説も書き続けて本も出し続けていきたいことには間違いありません。ただ、「作家」という立場にだけ縛られる理由にはならないのかなと。何か新しい文化が生まれるならそこにも挑戦したいし、自分に出来そうな何かがあれば、その「何か」でエンターテイメントを届けていきたい。そのモチベーションを保ちつつ、視野を狭めないようにするのが今の目標です。

――最後に第2巻の発売を楽しみにされていた方、そしてこれから本作を読んでみようと思っている方に一言お願いします。

この作品はいわゆるライトノベルに馴染みのない方にも読んでもらいたいと思っています。作中のキャラクターはいずれも等身大で、中高生の人達には共感してもらえるという自負があります。リアルで等身大なこの物語には痛みも苦味もたくさん詰まっていますが、そういうものも含めて、きっと読者に伝わってくれると思っているので。今、青春をしている人達に読んで欲しいというのが一番の願いというか、気持ちです。書店員の皆様方も、ぜひそんな陳列のチャレンジをいただければと思います!

――本日はありがとうございました。

<了>

ネットやSNSを舞台に苦々しくも愛しいリアルで等身大な恋愛ストーリーを綴る悠寐ナギ先生にお話をうかがいました。物語の舞台はネットから現実へと移り、それぞれの青春の在り方や考え方が大きく動き出すことになる最新刊。恋愛もSNSも甘いだけではない物語として描かれる『→ぱすてるぴんく。』第2巻も必読です!

©悠寐ナギ/講談社 イラスト:和錆

[関連サイト]

講談社ラノベ文庫公式サイト

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