【2020始動特別企画】宇野朴人×二丸修一×三河ごーすと鼎談「なぜ我々は10万部超えの新作を生み出せたのか?」

【学園ものの魅力を再構築、再確認】

二丸:でも書き下ろしの王道ファンタジーを仕込むという意味では『錆喰いビスコ』しかり、『七つの魔剣が支配する』しかり、電撃はひとつ頭抜けている感じはしますよね。

宇野:『錆喰いビスコ』の出現は少なからず影響はあったように思うし、あんな作品を自分も書きたいと思った作家は多かったんじゃない?

三河:やっぱり強い王道ファンタジーって、設定を読むだけで楽しいってくらい作りこまれてますよね。自分の観測範囲ではあるけど、独自の設定を組み上げて、設定だけでも楽しそうって思わせてくれる新作って、2019年は『ななつま』くらいだったんじゃなかろうか。他にもあったのかもしれないけど、目立ちきれなかった。目立った上で設定としても突き抜けてる特殊性が『ななつま』の凄いところだと思います。宇野さんは、ああいった設定ってどうやって考えてるんです?

宇野:『ななつま』の設定でいうなら、学園ものの魅力の再構築というか、再確認という意味合いがとても強い。学園ものの作品ってみんな当たり前のように書くけど、学園ものって何が面白いんだってことを考えた時に、そりゃ先輩がいて後輩がいて先生がいるっていう、多様で立体的な人間関係だと自分は結論付けたんですよ。

二丸:なるほど。

宇野:だから1巻では怖い先輩がいきなり現れてドンパチ始めたり、先生も油断ならなかったり、助けてくれた先輩が黒幕であったりする。そして1年生の時点から、現時点では普通に戦っても到底勝てないような相手としのぎを削らなきゃいけない緊張感がありつつ、一方でそういう人達が助けてくれる局面も生まれたりする。関係性をすごく転がしやすい。

三河:現時点では到底勝てないような先輩って、リアルな学生生活からも垣間見える風景ですよね。たとえば部活動とか。新入生として入学して部活動にも入部する。でも3年生はめっちゃ強くて、とても敵わないってなる。リアルな学園感をすごく感じますよね。

宇野:それもある。あとは自分の嗜好として、RPGの序盤で出会ってしまう、その時点では絶対倒せない敵とかいるじゃない? あれに遭遇するとワクワクしちゃうタイプなんだよね(笑)。

三河:ドラクエ5で言うゲマとか(笑)。

宇野:そうそう(笑)。そういった相手に一定ターンしのげ、みたいな展開はとてもワクワクする。そういう好みも反映されているかもしれないね。

三河:それわかるわー。序盤に出てくる強キャラっていいですよね。

宇野:こいつを相手にどうにか勝てというよりも、出くわしてしまった相手から何とか生存に繋げろっていうのは、ある種のリアルだと思う(笑)。

三河:そのワクワクっていうのは私も結構あるかも。『いもウザ』では主人公をかなり有能なキャラクターにしているんですけど、登場する大人達は全員、そんな主人公のさらに上を行く上位互換のような存在で。そういった敵わない大人の存在は、自分でもいいよねっていう気持ちがあるから登場させてる。ラブコメなのに(笑)。

宇野:大人のキャラクターは単なる当て馬じゃなくて、人生経験の厚みが見えるといいキャラだなって思う。

三河:現在のキャラ性に至るまでの、語られてないけど確かに存在する物語が垣間見えると、途端に人間としての魅力がグッと増しますよね。

二丸:敵わない存在という部分に関して、『おさまけ』はちょっと違うんですよね。というのも、主人公の一芸に関しては、大人にも負けない一芸にしたかったですし、ラブコメとしての主題もそこではないだろうなと。やっぱり可愛い女の子はどちらか、誰を選ぶのか、そういったシチュエーションをメインにしているので。

三河:作品の主題から逸れてまで表現すべきところではないですよね。『いもウザ』もさすがにそこはアクセント程度です(笑)。

宇野:敵わない存在ばかりが登場したら、それこそジャンルが変わってしまう(笑)。

二丸:まったくもってその通りですね(笑)。

三河:でも宇野さんの学園ものの考え方って、特にWEB小説で主流になっている流れとは遠いところにありますよね。新入生である主人公が上級生より圧倒的に強かったり、何なら教師でさえ足元に及ばなかったりっていうのが、WEBファンタジーにおける学園の位置付けとして多いかなと。学園のリアル感は見落とされていたというか、王道のはずなのに触れている人が少ない部分かもしれません。

――確かにWEB小説で主流となっている学園ものの流れとして、関係性の立体構造に重きを置いている作品はそう多くはない気がしますね。

三河:おそらく、物語としての軸が学園の空気感を楽しむこととは別のところにあって、作品としての勝負どころが違うんだと思います。

宇野:とりあえず学園に入っておこうみたいな空気も少なからずあるとは思うんだよね(笑)。

三河:どストレート! 言葉を選んでいたのに!(笑)。

二丸:学園という箱に籍を置くという設定は、舞台装置として珍しくはないし、わかりやすさもあるんだと思います。

三河:確かに。

宇野:学園ものは学校そのもののコンセプトがはっきりしていると、魅力になると思うんですよ。学校自体がひとつの強烈な特色を持っていること、舞台になる箱そのものの魅力が大事ですね。もちろん現代の学園ものであれば普通でいいんだけど。

三河:逆に青春モノやラブコメで、よっぽどその舞台装置が活きるようなものでなければ、学園を特殊にしても……というのはありますね。

【作品から作品への系譜を辿る】

――二丸先生の『おさまけ』は、古き良きラブコメの系譜を継いでいるような気がします。かつての人気作から今イチオシの作品への読者流入がうまくいっているのではないかなと。

三河:これはすごくあると思います。1巻発売後に電撃文庫から発売された『俺の妹がこんなに可愛いわけがない13 あやせif 上』に『おさまけ』単体のチラシが入っていたりしましたよね。『俺妹』っていうビッグコンテンツの中に、今勢いのある同じラブコメ作品のお知らせが入っていたのは、結構効果あったんじゃないかな。

二丸:『俺妹』まではラノベを読んでいたけど、それ以降はラノベから離れていた読者さんも結構いたと思うんですよね。『俺妹』最新刊でちょっと戻ってきてくれた読者さんに、今の推しのラブコメはこれだって伝えられたことは、作品としての系譜を繋いでいただいた感じはすごくします。

三河:これまでそういった施策があまりやられてこなかったのが少し不思議ではある。新刊にチラシを入れているレーベルは多いし、もう1枚くらい系譜上にある作品のチラシを挟んでもいいんじゃないかなって。もちろんコスト面の相談もあるだろうけど。

二丸:「おすすめ文庫王国2020」(本の雑誌社)で電撃文庫の王道ラブコメという話題があって、『とらドラ!』『俺妹』に次ぐという形で『おさまけ』に触れていただいたりもして。そういった人気シリーズからの系譜から読者を引っ張っていただいている気がして、それもすごく大きいと感じますね。

宇野:そうですよね。系譜っていいですよね。

三河:宇野さんは『ななつま』で、『天鏡のアルデラミン』からのセルフ系譜をやってるじゃないですか(笑)。

宇野:セルフ系譜ね(笑)。『アルデラミン』から『ななつま』に繋げられてよかったと思います、本当。

二丸:実際問題、宇野さんからファンタジーの系譜を繋げて欲しいという作家さんもいると思うけど(笑)。

三河:『ななつま』はセルフじゃなくても、『SAO』や『とある』みたいな、電撃が脈々と継いできたバトルものや学園ものの系譜を繋ぐことができそうな気もしますね。ビッグコンテンツの読者さんに今は『ななつま』も熱いんやでっていうチラシが入っていたら、それで興味を持ってくれる人も増えると思うんですよね。

――とはいえ、難しいのは系譜として繋ぐ作品をきちんと選ばないと、チラシを入れても意味がないだろうってことですよね。

二丸:それはもちろん。でも作品間の系譜って概念は、もっと意識してもいいと思いますね。各レーベルの財産だと思いますし。

宇野:ただ、作家の縦の関係って限りなく薄いところがあるからなあ(笑)。

三河:作家だけじゃなく、レーベルの戦略としてあってもいいのかなって思います。

宇野:それは確かに。紐づけられているってやっぱりいいよね。

三河:「週刊少年ジャンプ」でも系譜ってあると思うんですよ。最近話題になった『鬼滅の刃』も、和風ファンタジーって『NARUTO』しかり『BLEACH』しかり、もう少し遡ると『るろうに剣心』しかり、ちゃんと大ヒット作のあるジャンルでしたよね。そういう意味でも『鬼滅の刃』は突然変異というわけではなく、きちんと系譜を継いでいる感がある。

宇野:同レーベルの先輩からであれば、遠慮なくアイデアを継承してもいいっていう、そんな土壌があればいいなと思わなくもない(笑)。

三河:確かにそうですね。ジャンルのかぶりを避けすぎるのもよくない。漫画でもジャンルは脈々と引き継がれていると思うし、その中でちょっと違う切り口の作品が、次世代の代表作として頭角を現していく。消えちゃうともったいないですよね。

宇野:アイデアにしろ設定にしろ、「これは俺のもの」っていう世界ではないと思うんだよね。

二丸:100%のオリジナルは存在しない世界ですからね。

三河:昔からそうだと思うんだけどね。難しいよね。

<3ページ目:異なる売れ方でシリーズ累計10万部を突破した3作品>

ランキング

ラノベユーザーレビュー

お知らせ