【2020始動特別企画】宇野朴人×二丸修一×三河ごーすと鼎談「なぜ我々は10万部超えの新作を生み出せたのか?」

【キャラクター産業の最前線としてキャラクターを立たせることの重要性】

――『ななつま』『おさまけ』『いもウザ』、いずれもキャラクターが立っていることもシリーズ人気の秘訣だと思っていますが、気を付けていることがあれば教えてください。

宇野:キャラクターに関しては『ななつま』でも非常に重要視している点ですね。メインキャラクターは6人いるわけですけど、1冊という短い尺の中でキャラクターを立たせなくてはいけない。その手法として、ひとつのテーマに対して1人に一言ずつ意見を言わせるというものがあります。逆にばらけたテーマにバラバラの意見を持たせても、どんなキャラクターなのか認識してもらうことは難しいんですよね。ひとつのテーマに対して意見することで、キャラクター像がわかりやすくなります。

二丸:それは絶対にありますね。

宇野:テーマでなくても、全員が同じことに対して、何かをしているでも、そのアクションのひとつがキャラクター性になるんですよね。

二丸:ここで大切なのはひとつのテーマを投げかけた時に、同じ行動や感情を抱くキャラクターは出さないようにすることも重要なのかなって思います。キャラクターはそれぞれ違うわけで、まったく同じ感想を持たせてしまうと、キャラクターが立たないんですよね。

宇野:そうそう。だからこそ、全員がひとつのものに対して反応しやすいシーンを作ってあげることが大切なんですよね。

三河:キャラクターの個性って本当大事だなって思います。見た目はもちろん性格も。私はいつもキャラクターコンセプトを作るんですけど、ここをばらけさせるようにしています。そうすることで、ひとつの事象に対する反応がキャラクターごとに変わってくる。キャラクターの行動指針って言ってもいいかもしれませんね。

二丸:あと僕はヒロインが今まで見せていなかった一面や反応を増やしていくように意識しています。

三河:特にラブコメはキャラクターに惚れることが大事だと思うんですよね。考え方としてリアルの恋愛に近いと思うんですけど、ヒロインのことをすべてわかりきらせてはダメだろうなって。すべてがわかってしまうと、恋愛感情で言う「冷める」という状態になってしまう。だから私はキャラクターの底をなかなか見せないようにしています。

宇野:それは大事だね。

三河:「えっ、全部知った気になっちゃった?」みたいな引きは用意しておきたいクチでもある(笑)。

二丸:聞いていて思い出したんだけど、ヒロインには短所を作るようにしてますね。その短所をいかに可愛くみせるのかがすごく悩む。ギャグっぽくするでも、怒るでもジェラシーが入って可愛くするとかいろんな見せ方があると思っていて、その子を好きになると短所を含めて全部可愛く見える。短所がないと逆に完璧すぎて、リアリティが薄まるのかなって。

宇野:自分が今の話から思い出したのは、『アルデラミン』では死ぬその瞬間まで主人公が新しい一面を見せ続けたんですよね。死ぬ瞬間まで見届けて、ああ、お前はこういう奴だったんだなって思ったんです。

三河:それこそ死んだ時の反応って死ぬまでわからないですからね。

二丸:死ぬ瞬間に考えることが、その人の一番の人生の何かだと思う。

宇野:底を見せずに小出しでうまく見せていくのは大切だと思う。まあ、書いているうちに勝手に増えるんだけどね(笑)。

三河:短所の話の続きなんですけど、自分は長所をファンタジー、短所をリアルって考えますね。

二丸:わかるわかる(笑)。

三河:短所をリアルにするのは、短所が読者さんの共感ポイントになると思ってるんですよ。自分にもこんなところありそう、っていう短所を結構作りますね。

宇野:短所って、そもそも共感を誘うものだしね。多少のファンタジーが入っていたとしても、リアルに存在する別の短所になり得る「何か」に置き換えることができれば、共感はできますしね。

二丸:理想と現実のバランスは重要ですよね。理想がないと楽しくない。かといって現実がないと浮世離れしてしまう。大切です。

【うまくいかなかった過去の反省を活かす大切さ】

――みなさんは打ち切りの経験を持たれていますが、成功に結び付けるために、具体的にはどのように活かされているのでしょうか。

二丸:まずは新刊を4年間出せなかった僕から(笑)。一番は過去作でうまくいかなかった反省を活かすということだと思います。『ギフテッド』では自分の伝えたいことが読者に伝わっていなかった点もあると思っていて、自分の中での大きな反省点になっていました。なので、捻ったものを物語の中に取り込む時は、キャラクターの誰かが解説をしたりすることで、自分の伝えたいことを的確に伝えられるんじゃないかなと考えました。『おさまけ』では終盤に物語をキャラクターが総ざらいしてくれるパートを盛り込んでいます。自分の感覚と読者さんの感覚とがズレすぎないようにする技術論でもありますが、反省をしっかりと活かせたなと。この4年間、売れるためには賞を取らなくちゃいけないとか、小説投稿サイトを経由しなくちゃいけないという話はたくさん聞いてきましたけど、そうじゃなくても売れるという実例が作れたと思います。ベストを尽くせば売れる可能性は絶対にあります。実はこのことが一番言いたかったんです。この事実が、一年前の僕と同じような悪戦苦闘を続けている作家の皆さんの力になれればなと思っています。

三河:私も失敗はたくさんしているんですよね。自分としては打ち切りになった場合、その原因を客観的に分析するようにしています。その上で注意していることは、原因を外的要因に求めすぎないことですね。例えば時代が悪いとか、読者が求めていないとか。一方で、1巻が売れなかった理由を「内容」だと思いすぎるのもよくない。内容が原因なのか、他の何なのか。あくまでも私情を交えず、客観的に考えることが大事です。デビュー当時は内容のせいで売れなかったのだと考えた時期もありましたが、タイトルやパッケージで魅力を伝えきれていなかったんだと、最近になってようやく気づけました。何を当たり前のことを、と思われるかもしれませんが実は盲点で……。

宇野:考える考えない以前に、むしろわからなかったよね。特にデビュー当時はあがってくるものすべてに「はい」「はい」って受け取っていただけだったと思うし。

二丸:デビュー当時は特に、実際僕もそうだったんですけど、改稿を経て書き上げた時点で満足してしまう心があったと思うんですよね。

三河:そうそう。だから単純に「気になるところがあったなら言えばよかったのに」という話でもないんですよ。そもそもわからなかったというか、そこまで自分自身の考えが及ばなかった、という状況は少なくないと思うんです。考えるための前提になる知識が圧倒的に足りていませんでした。

宇野:だから自分たちの事例は、ある程度避けられないことだったのかもしれないけど、それを後に活かせているかどうかがポイントなのかなと。

三河:ただ、タイトルやパッケージの話ばかりしてしまうと、売れなかった原因を全部そこに持っていきがちになってしまう。でもそうじゃないんです。タイトルやパッケージを魅力的にするにあたって、自分自身はどこまで突き詰めて考えることができていたのか、立ち戻って考えなくちゃいけない。

宇野:三河さんが大切なことをかなり言ってくれたんだけど、自分の反省点もデビュー作のパッケージングに集約されると思うんです。当たり前ですが、イラストレーターさんは何ひとつ悪くない。メディアワークス文庫でもお願いするほど頼りになる方でしたので。だから、あれは本当に私の思慮が浅かったですね。あらためて当時のパッケージを見返してみると、まずもって情報量が足りていない、どんな話なのかわからない、自分なりに格好の付けたタイトル『神と奴隷の誕生構文(シンタックス)』でしたが、『とある魔術の禁書目録(インデックス)』の印象が当時の自分の中で強かったのか、なんとなく語感を寄せちゃったんですよね。それで特にはっきりした効果を狙うわけでもなく。

二丸:そうだったんですか(笑)。

三河:確かにインデックスみたいな語感だとは思っていたけど(笑)。

宇野:そうそう(笑)。二転三転した結果、最後によくわからないところに着地しちゃった。でもその経験が『アルデラミン』の時にすごく活かされたと思っていて。キャラクターに色の属性を持たせたことで、パッケージングをはじめ読者さんも作中でのキャラクターを把握しやすくなることにも繋げられたんじゃないかなと思ってます。それと1巻の表紙には小さいながらもイクタが描かれていて、格好いいヤトリととぼけているイクタとで関係性やストーリー性も見せられたのではないかな。そして『ななつま』は更に情報量が詰められているわけです。過去の反省点を活かした上で発展させられたんじゃないかな、と。

三河:少なくともコツコツと足りなかったもの、足りないものを補完しながらトライアンドエラーしているところは、みんな変わらないのかなって気がしますね

宇野:この3人は全員エラーをしているわけで、ただそのエラーを無駄にしてないと思うんだよね。何がダメだったのかしっかり考えてる。

三河:うまくいかないなって時に、やり方を変えられるっていうのは強みだと思います。うまくいっていないやり方をずっと続けていても、結局前に進めることの方が少ないのかなって。上手くいかなかった理由を考えて、そこを補完する。問題解決しようっていうのが大事だと思います。

二丸:エラー続きでも考えながらトライを諦めないことが大事ですね。

三河:二丸さんが4年間書籍を刊行していなかったにも関わらずヒット作を作り出せたことや、私も2012年デビューで2017年に初めてヒット作を書けたこと。2019年には『いもウザ』も出せました。長くぱっとしなかったけど、細々と考えながらやってきて実になったよね。

二丸:だから編集者さんにも伝えたいことがあるんです。過去の実績とかじゃなくて、目の前にある作品の面白さをしっかりと見てほしいって。

三河:そうだよね。宇野さんは『アルデラミン』でネームバリューができたけど、それまでネームバリューがあったかと言えばそうではないし、私も二丸さんもそうだった。たとえネームバリューがなくても、目の前にある作品が「いけそう」だと思ってもらえたなら、編集部も営業さんも賭けてみていいんじゃないかなと。ネームバリューがなくても売れることはある、これは伝えておきたい。もちろん、なんでもかんでもいけるとは言わないし、賭けられる賭けられないに関しても様々なジャッジがあることは十分理解してますけどね(笑)。

――それでは最後に、本日のお話の総括をそれぞれお願いします。

三河:WEBで人気がないとダメ、Twitterでフォロワー数が少ないとダメ。そんなことはないと思うんです。書店の減少や紙の出版が厳しいであったり、衰退しているといった声はありますけど、書店の存在はまだまだ強いです。ヒット作が出せない環境ではないので、諦めず一緒に頑張っていきましょう。今回の3作品だってみんな違う方向性です。いずれも異なる戦略と見せ方をしていますし、売れ方も異なっています。内容も自分の強みを多く盛り込んでいるだけで、何かしら特定の偏った傾向があるわけでもありません。それでもそれぞれ10万部を突破している。独自の戦略をもって戦うことの重要性や大切さも伝わったらいいなと思います。

二丸:この鼎談の内容は僕らが今回たまたまうまくいっていますというだけで。それを踏まえて、その経験が誰かの参考になったらありがたいねっていうお話です。業界全体でクオリティがあがってくれれば話題になるし、ラブコメが面白いってなればラブコメが売れる。ライトノベルが面白いってなれば、新しい人はもちろん、一度離れてしまった読者さんも戻ってきてくれると思っています。業界全体を一人一人が底上げしていけるよう頑張っていきましょう!

三河:自分の作品の魅力や強みを全力で押し出した、パワーある作品が増えるといいよね

二丸:僕らが持っていない魅力を、デビューしている人たちは必ず持っていると思うんですよね。

三河:何度も言っている通り、必ずうまくいくわけではないことも念頭に入れつつね。

二丸:上手くいく、上手くいかなかったは本当に紙一重だと思ってます。

宇野:すべきことは、まず最高の内容と確信できるものを書きあげる。さらに表紙、タイトル、あらすじ、そのすべてで作品としての情報量と内容を伝えられていると確信した1冊が出来上がった時に、初めていい勝負ができると思ってほしいですね。それでも勝てるとは言わないし、言えないんだけど。

三河:そこまでやって、初めてなんか得られるよね。

宇野:勝負になるし、たとえ負けたとしてもすごく大きなものが得られると思う。だからまずはそこまでやってほしい。

三河:後悔のポイントを残した状態だと、そこを言い訳にできちゃうんですよね。でもそうじゃなくて、後悔のポイントを残さない。残さなければ、その結果でぐうの音も出ない現実を叩きつけられるので、そしたら成長できるよねっていう。まあ、頑張っていきましょうってことですね(笑)。

宇野:まとまりましたかね。

二丸:まとまったと思います(笑)。

――本日はありがとうございました。

三河:次は全員50万部突破でやりますか(笑)。

二丸:盛ったなあ(笑)。

宇野:到達できなかったら誰が責任とるんだよ(笑)。

<了>

今回の鼎談では御三方の仮説や考え方、経験より「次に繋げる・繋がる」を交えながらお話をいただきました。明確な答えや正解はなくとも、可能性を模索し続ける余念のなさが、ライトノベルの明るい未来へと繋がる道筋のひとつであることは間違いありません。2020年も始まり、早くも大きな話題を呼ぶ作品が登場しています。様々な「面白い」が生み出され続けているライトノベルの今年の盛り上がりも大いに期待していきたいですね。

[関連サイト]

宇野朴人Twitter

二丸修一Twitter

三河ごーすとTwitter

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