独占インタビュー「ラノベの素」 二丸修一先生『幼なじみが絶対に負けないラブコメ』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2019年10月10日に電撃文庫より『幼なじみが絶対に負けないラブコメ』第2巻が発売された二丸修一先生です。負けヒロインの印象がどうしてか強い幼なじみヒロイン。そんな時代の終わりを告げる幼なじみ好きのためのラブコメシリーズ。ラブコメとしても頭脳戦がキラリと光る本作の裏側や内容についてはもちろん、「負けない幼なじみ」に込めた想いについて様々にお聞きしました。
【あらすじ】 幼なじみの黒羽に告白し、見事玉砕した俺。死にたい。フラれるってこんなに辛かったのか……っていうか、あそこまでいったら普通OKするだろ! 笑顔で「ヤダ!」ってなんだよ! マジで女子の気持ちわかんねー。でもまてよ、白草は俺のことが好きなんだよな……今ならイケる……?のか……いやいやいや、ダメでしょ。もしまたフラれたらと思うと怖すぎるし。そんなモヤモヤ爆発の俺のもとに、子役時代の後輩にして理想の妹、桃坂真理愛が襲来! 玄関開けたら1秒で「おかえりなさいお兄ちゃん!!」っていったいどこのラブコメだよ!? 末晴に芸能界復帰の話が持ち上がり、ヒロインたちの思惑が交差する、先の読めないヒロインレース第2弾! |
――それでは自己紹介からお願いします。
岐阜県岐阜市出身の作家・二丸修一です。第17回電撃小説大賞にて拾い上げられ、『ギフテッド』でデビューしました。同期の出世頭は『はたらく魔王さま!』の和ケ原聡司さんですかね(笑)。好きなものは漫画やゲームで、特に『ファイアーエムブレム』シリーズが大好きです。苦手なものは三半規管が弱いせいか乗り物酔いが酷くて、乗り物系全般が苦手ですね……。知ってますか、ブランコって遊んでるだけで酔うんですよ。もうあらゆる乗り物で酔うので、常に乗り物酔いには万全の態勢を取って生活しています。
――ブランコで酔うのは初めて聞きました(笑)。電撃小説大賞の拾い上げでのデビューとのことですが、小説の執筆はいつ頃からされていたのでしょうか。
20歳くらいの時に、幻冬舎さんの公募に応募したのが始まりだったと思います。そこで3次選考まで残った作品が初投稿作品ですね。ホームページに名前が載ったことをいいことに、自分の原稿を読んでくれませんかといろんな出版社さんに持ち込み営業をしていたのを思い出します。残念ながら持ち込みから出版に辿り着くことはできませんでしたけど(笑)。その後少し体調を崩してしまい、地元の岐阜へと戻り、小説の執筆は続けていたんですが賞への応募からは遠ざかる時期がそれなりに続きました。それでももう一度応募しようと思ったのが28歳くらいの頃で、電撃小説大賞に応募した『ギフテッド』を拾い上げていただき、晴れてデビューすることになりました。
――幻冬舎の公募から始まり、電撃小説大賞への応募。応募先の賞で扱う作品のジャンルもそれなりに毛色が異なるイメージもあります。
そうですね。自分の場合はやや特殊で、書きたいものを書きあげてから、どの出版社や公募に向いているかを考えて応募していたんです。幻冬舎さんの時は物語がドラマのようなお話だったので、応募してみようという感じでした。そういう意味でも『ギフテッド』はかなりシリアス寄りの作品で、応募先を考えた時に『ブギーポップ』や『キーリ』などのシリアス要素の強い作品も受け入れている電撃小説大賞なら目に留めてもらえるかもしれないと考えました。それに加えて、電撃小説大賞は投稿数も多く、難易度も高いと思ったんですね。自分としては難易度が高いところで自分の作品を試したいという思いも強かったんですよ。
――あらためて、本作は約4年ぶりの刊行となったわけですが、新シリーズをスタートするにあたってどんなことを考えましたか。
まずは本当に4年も経っていたんだという気持ちでしたね(笑)。そこまで経っているとは思っていませんでした。ただ、この期間は執筆をしていなかったわけではなく、なかなか実にならなかったといいますか。『おさまけ』が動き出したのは、一回すべてを仕切り直してプロットを作り始めてからでした。前作のラブコメが3巻で終わってしまって、その反省を消化しきれずシリアス寄りの作品を書き続けていたんですが、このタイミングの仕切り直しとあわせて、心機一転、反省を活かしながらラブコメに挑戦、再スタートした感じはあります。
――そうして発売された『おさまけ』第1巻、反響は大きなものだったと思います。
本当にそうですね。自分の想定を超えた反響をいただき、ありがたくはあったものの最初に感じたのは「怖い」という感情でした(笑)。それでも段々と多くの方に褒めていただいているのを嬉しく感じることができるようになりました。私自身これまでの作家生活で重版の経験もなく、書籍の刊行も4年ぶり。重版は作家としての1歩目の目標で、そのステップを踏めたのは嬉しかったです。さらにコミカライズもPVも制作していただき、1歩目どころか2歩目、3歩目とステップが踏めている。あまりにも順調すぎて何か起きるんじゃないか、病気にでもなるんじゃないかと思って、すぐさま検診を受けましたからね(笑)。幸い何事もなく健康体でした。とにかく人生で貴重な経験をさせていただいていると思っていますし、書籍化のブランクがある作家でも企画の工夫の先にはこういった状況も待っているんだということを共有したいとも思いました。
――それでは『幼なじみが絶対に負けないラブコメ』はどんな物語なのか、第1巻を振り返りながら教えてください。
本作のテーマは恋と青春と復讐です。特に第1巻は復讐によりフォーカスした内容になっていたと思います。恋と青春も山盛りで、復讐で綺麗に締めくくることを目指したのが第1巻でした。非常に頭を悩ませたのが復讐はあまりラブコメらしくなく、どうラブコメとして描こうかということでした。復讐はラブストーリーとの相性はいいのですが、どうしても重たくなってしまうのでコメディにはしにくいと感じていたんです。それを乗り越えることができたのが本作だと思っています。幼なじみと一緒に初恋の相手に恋の復讐を遂げる物語、それが『おさまけ』です。
※幼なじみと共に初恋の相手へ恋の復讐をする物語。
――初恋へ復讐するラブコメとしても注目されている中、その中心には「幼なじみ」という存在がいるわけです。「幼なじみ」にもフォーカスすることとなった理由はなんだったのでしょうか。
実は「幼なじみ」をここまで前面に出そうと考えたのは、考えている中でも結構後の方だったんです(笑)。復讐という表のテーマにあわせて、ヒロインには裏のテーマを持ってもらいたかった。ここを考えるにあたっては初稿を1ヶ月遅らせてもらったりもしました。そこで出てきたのが「負けヒロインが勝つ」というテーマでした。ここで「じゃあ負けヒロインってどんなヒロインなんだろう」と考えた時に脳裏を過ぎったのが「幼なじみ」だったんです(笑)。自分の無意識化でも幼なじみは勝てないヒロインだという思いがあったようで、業が深いなとあらためて感じましたよね(笑)。
※幼なじみは勝てないヒロインの業を背負っている!?
――あらためて恋と青春と復讐の中でドタバタと奔走するキャラクター達についても教えてください。
丸末晴はおバカな部分と、最後はキメきるという格好良さを持ったキャラクターです。主人公の性格は世代によっては懐かしさを覚えるキャラクターかもしれません。とにかくギャップを出したいと考えていて、読者には「こいつおバカやなあ」って思ってもらいたいし、格好いいところは「やるじゃん」と思ってもらいたい。元人気子役という背景も要所で光っているところだと思います。
※幼なじみの後押しによって初恋への復讐に動き出す主人公・丸末晴
志田黒羽は主人公の幼なじみです。積極的で距離感も近く、フラれたのに諦めないというメンタリティの強さも持っています。このメンタルの強さは男性視点だとやや引いてしまう人もいるかもしれませんが、それでも可愛いのが黒羽です。腹黒さも垣間見えるんですが、とても魅力的な幼なじみだと思います。
※末晴の初恋への復讐に協力する主人公の幼なじみ・志田黒羽
可知白草は末晴の初恋の相手です。すごく美人ではあるんですが、臆病なところがあったりもして少々とっつきにくいキャラクターとしても描かれています。第1巻ではもっと強みを出してあげたいと思っていたので、第2巻では彼女の心の部分をさらに注目してもらいたいですね。
※主人公の初恋の相手である可知白草
――この3人だけでなく本作のキャラクターは軒並み強メンタルキャラクターだなって思いますし、頭脳派ばかりですよね。
メンタルについては確かにその通りで、幼なじみが勝つためには何が必要かって、やっぱりメンタルだと思うんですよ。とにかく折れない心。幼なじみが負けないと言っても、幼なじみらしさが消えては意味がない。黒羽は普通の幼なじみよりずっとメンタルが強いと思うし、行動も積極的だと思います。でも幼なじみというポジションが生み出す不幸さや運のなさ、ちょっとした詰めの甘さは持っている。そういった不遇さを持ちつつ、逆転しなきゃいけない存在でもあるんです。また頭脳派揃いという点は僕の癖かもしれません(笑)。デビュー作の『ギフテッド』も頭脳戦でのキャラクターが描かれていて、本作はそのよかった部分を反映しています。すべてのキャラクターが全員考え、それぞれで動いている。その結果に出た結論を誰かが総括する。それをラブコメという舞台でやっています。一方で、頭を使ったとしてもうまくいくとは限らない、というお話でもあるんですよね(笑)。
※第2巻登場の新キャラはもちろん、感情だけではない頭脳戦も見どころの本作
――ヒロインとして主人公にフラれている黒羽の存在は、そういう意味でも象徴的ですよね。
フラれた後の人間関係は僕も描きたかったテーマのひとつでもあります。主人公が幼なじみをフッたところから始まる物語は、自分の知る限りラブコメでもあんまりないのかなと。でも、その関係性だからこそ描けることも多いと思うんです。相手の本心が分かっているからこそ、ぶっちゃけられることって多いと思うんですよね。本音を出した後の面白さは絶対にあると思っていて、黒羽の末晴に対するフラれた後だからこその押しは絶対に描きたいと思っていました。そこを面白いと思っていただけていたら、著者冥利に尽きますね。
――本作のイラストはしぐれうい先生が担当されています。初めてキャラデザなどを見たときの感想を教えてください。
本当素晴らしいイラストですよね!『おさまけ』に注目していただけているのも、しぐれうい先生の力はめちゃくちゃ大きいと思っています。『おさまけ』は各キャラクターはもちろんなのですが、幼なじみが負けないというシチュエーション、つまり雰囲気をすごく大切にしたかったんです。しぐれうい先生はイメージを受け取ってくださるイラストレーターさんだという印象で、第1巻の表紙についてはかなり無理を言って2人を描く構図でお願いさせていただきました。我がままを言ってすいませんという言葉しかないのですが、見事に伝えた以上のイラストにしていただきました。第2巻のジャケットなんかも当初は卵焼きを想定していたのですが、しぐれうい先生から「あーんをしている卵焼きは色が埋没してしまうのでタコさんウインナーにしませんか」とご提案いただいたことで変更したりもしました。ボーカロイドの深層カルマという曲でイラストを担当されていて、その当時から存じ上げており、本当に魅力的なイラストレーターさんだと思います。
※シチュエーションを大切にしたというジャケットイラスト
しぐれうい先生からのコメント 2巻にも新たに魅力的なキャラクターがたくさん登場しています。その一人一人の感情や表情を引き出せるようにイラストを描きましたので、ぜひ注目していただければと思います。 |
――そして11月からは「コミックアライブ」にて井冬良先生によるコミカライズの連載もスタートしますね。
すごく楽しみです! 本連載に先駆けて「電撃文庫MAGAZINE」10月10日発売号、「コミックアライブ」10月27日発売号で、プロローグも掲載されます。本連載は「コミックアライブ」11月27日発売号となります。漫画は視覚で楽しめる点も多いので、文字から受け取る印象とも違うと思います。また、小説版では黒羽の登場がやや遅かったので、漫画版では早めに登場することになると思います。井冬良先生にもコミカルな部分と論理仕立ての部分、いずれも楽しんで描いていただけたらと思っています。文章とどう異なるニュアンスで表現されることになるのかはすごく楽しみですね。また、漫画版ではまだ小説に登場しておらず、しぐれうい先生もキャラデザをされていないキャラクターも登場しますので、あわせて期待していただければと思います。
※本連載は「コミックアライブ」11月27日発売号よりスタート!
井冬良先生からのコメント 原作の魅力を120%引き出せるように、その一心で頑張りたいと思います! |
――PVも豪華な声優陣が担当しているだけでなく、ラブコメなのに格好良さも光る映像でした。
キャストについてはお伺いしたとき、こんなに豪華なキャストで本気か!?って思いました(笑)。PVの雰囲気も作品の良いところをしっかりと伝えることができる映像になっていて、ありがたい限りです。頭脳戦も繰り広げられるラブコメとして、より多くの方に知っていただけるきっかけになったら嬉しいです。
――さて、第1巻では末晴の一世一代の告白劇を黒羽がフッて幕を閉じました。あらためて発売された第2巻の見どころについて教えてください。
一言で言うと泥沼ですよね。みんなが沼にはまってます(笑)。それを見て楽しんでもらえたら。著者としては第1巻で大々的に描いた復讐に代わるテーマとして、第2巻では負けない幼なじみをテーマとして大きく描いています。コメディタッチな部分も第1巻以上のボリュームとなっているので、楽しみにしていただければ。そして第1巻の最後でも登場した新キャラクター・桃坂真理愛は、第2巻の根幹にも関わる重要な女の子なので注目してもらいたいですし、志田家の四姉妹も登場するのでそちらも楽しみにしていただけたらと思ってます。もちろん黒羽と白草の恋の争いも、引き続き注目してもらいたいですね。
※第2巻のキーキャラクターとなる桃坂真理愛
――今後の目標や野望があれば教えてください。
そうですね。少し気が早いですけど『おさまけ』に関してはアニメ化できたらいいなとは思ってます(笑)。できるといいなアニメ化! また、いち作家としてはシリアス路線も評価していただけるような作品を仕上げたいです。もともとは心理戦の作品でデビューした人間でもあるので、そういった作品も手掛けていきたい。シリアスもラブコメも自分の好きな物語をいくつも書いて、いろいろと試していきたいです。日の目を見ず眠り続けている作品たちもいつかお天道様の下に出せたらいいなあという目標も添えつつ(笑)。
――それでは最後にファンのみなさんへ一言お願いします。
『おさまけ』を読んでいただいて、評価をしていただいたみなさんには本当に感謝の言葉しかありません。本当にラブコメって、現代という枠にはまっているので繊細で難しいと思うんですよ。可愛いは時代でも変化をするし、琴線も変わっていきます。それでも可愛い、そして面白いと思ってもらえるような続刊を出し続けていきたいです。まだ本作を読んだことがない方には読んでくださいとしか言いようがないですが、古きよきドタバタラブコメの系譜も持っていると思っています。ぜひちらっと覗いてみてください。また、女性の読者のみなさんにも、力を入れて書いている男性のサブキャラクターなんかに注目しながら読んでいただきたいです。女性でも読みやすいラブコメにしたいという思いも織り交ぜておりますのでぜひ。第3巻については……2020年の年明けから春頃にかけてを目安に刊行を予定しておりますので、こちらも楽しみにしていただければと思います。『おさまけ』をよろしくお願いします!
――本日はありがとうございました。
<了>
「恋と青春と復讐」、「負けない幼なじみ」をテーマに、初恋の少女と幼なじみが激突するドタバタラブコメを綴る二丸修一先生にお話をうかがいました。各キャラクターが個別で考え、そして動く、そんな頭脳戦の様相も垣間見える本作。第2巻では新キャラクターの登場でさらなる波乱を巻き起こす『幼なじみが絶対に負けないラブコメ』は必読です!
©二丸修一/KADOKAWA 電撃文庫刊 イラスト:しぐれうい
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