独占インタビュー「ラノベの素」 三雲岳斗先生『ストライク・ザ・ブラッド』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2020年8月7日に電撃文庫より『ストライク・ザ・ブラッド』第22巻が発売された三雲岳斗先生です。2011年のシリーズ開始から約9年半、TVアニメやOVAでも根強い人気を獲得し続けている本作の本篇がついに完結となります。本篇の完結を記念して、『ストライク・ザ・ブラッド』のはじまりから、走り続けた物語が行きついた先、さらにはキャラクターがどう成長したのかまで、様々にお聞きしました。

 

 

ストライク・ザ・ブラッド22

 

 

【あらすじ】

異境(ノド)を制圧し、咎神(きゅうしん)カインの真の遺産である六千四百五十二発の眷獣弾頭を手に入れたシャフリヤル・レン。眷獣弾頭の圧倒的な威力の前に聖域条約機構軍の艦隊は壊滅し、三真祖たちも沈黙する。日本政府は異境への『門(ゲート)』を閉じるために絃神島の破壊を決断。雪菜と那月を要石のあるキーストーンゲート最下層に派遣する。自らの手で絃神島を沈めることに苦悩しつつも、忠実に任務を果たそうとする雪菜。そんな雪菜の前に吸血鬼の力を取り戻した古城が立ちはだかる。そのころ異境では、謎の仮想空間に囚われたアヴローラが、モグワイと名乗る怪しいぬいぐるみと接触していた――! 世界最強の吸血鬼が、常夏の人工島で繰り広げる学園アクションファンタジー、ついに堂々の本篇完結!

 

 

――本篇完結おめでとうございます。ご存じの方も多いかとは思いますが、自己紹介からお願いしてもよろしいでしょうか。

 

三雲岳斗です。大分県出身で、第5回電撃ゲーム小説大賞にて「銀賞」を受賞し、電撃文庫刊『コールド・ゲヘナ』でデビューしました。主な著作に電撃文庫刊『アスラクライン』、スニーカー文庫刊『ダンタリアンの書架』などがあります。音楽と機械いじりが好きで、最近は自作キーボードにハマっています。

 

 

――『ストライク・ザ・ブラッド』は『ダンタリアンの書架』の次のシリーズとして、2011年に刊行を開始されました。それから約9年半、シリーズとして非常に長い期間を走り続けてこられたと思います。ご自身であったり、その周囲であったり、振り返ってみて変化などはありましたか。

 

そうですね。私自身というよりも、世の中のほうが大きく変動した9年半だったと感じています。大きな災害がいくつもあって、現在進行形で感染症や暴動などの問題も起きてますし。そういう現実的な問題に対して、小説などのエンターテインメントは無力なんですけど、一方で、それらが人々の心の支えになった部分もあるのかなと思っていて、『ストライク・ザ・ブラッド』という作品も、そんなふうに誰かの支えになれたらいいということはずっと意識していました。いい意味で変わらない存在でありたいというか、読者にとって安心できる作品でありたいな、と。

 

ストライク・ザ・ブラッド

※2011年5月より刊行を開始した『ストライク・ザ・ブラッド』

 

 

――あらためて『ストライク・ザ・ブラッド』はご自身にとってどんなシリーズでしたか。

 

作業量は多かったのですが、だいたい好きなことをやらせてもらえたので、個人的にはとても楽しいシリーズでした。あとは人に恵まれた作品だったと思います。イラストのマニャ子さんやアニメのスタッフ・キャストの皆さん、コミカライズを担当してくださったTATEさんなど、優秀な方たちがたくさん関わってくださって、とても幸運だったと感謝しています。

 

ストライク・ザ・ブラッド7 ジャケット

 

ストライク・ザ・ブラッド 漫画10

※マニャ子先生やTATE先生、アニメスタッフやキャストなど様々な「人」に恵まれたという本作

 

 

――本篇の完結は執筆当初に思い描いていた結末になりましたか。

 

最初に想定していたよりも長いシリーズになってしまったので、細かい部分まで拾えたというか、エピソードの数はかなり増えました。おかげで本来はオープンにする予定ではなかった裏設定なども描くことになってしまって、そのあたりは予定とは違ってしまいましたね。最終巻でも、おそらくかなり意外な秘密が作中で明かされていると思います。

 

 

――本作の刊行前に遡ってお聞きしたいのですが、本作はどういった着想で誕生した物語だったのでしょうか。また、ストーリーとキャラクターのいずれから動き出した作品だったのでしょうか。

 

前作の『ダンタリアンの書架』が変化球というかトリッキーな作品だったので、その反動で、王道の学園アクションを描きたい、というところから生まれた作品だったと思います。企画当初から頭にあったのは主人公の暁古城です。彼は望まずに吸血鬼になってしまったキャラクターなのですが、それまでの古典的な吸血鬼が持っていた苦悩やネガティブな要素を排除した、現代的な陽性のヒーローとして設定しました。ストーリー面でも、過去のしがらみや権威にとらわれた敵を、古城たちが若者らしいやり方で打倒していく、というのが『ストライク・ザ・ブラッド』の基本構造なので、主人公のキャラ性とストーリーは不可分な形になっているのかなと思います。

 

古城

※企画当初から存在した暁古城を中心に『ストライク・ザ・ブラッド』の物語は動き出した

 

 

――なるほど。キャラクター性とストーリーは不可分でスタートしたとのことですが、アニメも含め、姫柊雪菜や藍羽浅葱といった魅力的で個性的なヒロインが非常に目立ち、大きな魅力を持っていたと思います。新たなキャラクターを考えられる際は、ストーリーありきなのか、キャラクターに沿ってストーリーを考えられていたのか、どちらだったのでしょうか。

 

まずは見せ場となるシーンのイメージが先にあって、そこから逆算して、キャラの設定やストーリーが決まっていく感じです。妄想が捗るシチュエーションが思い浮かんでいれば、キャラとストーリーは自動的に決まるのですが、逆に最初のイメージが曖昧なままだと、作業が迷走してのちのち苦しむことになります。主に〆切的な意味で苦労したこともあります(笑)。

 

ストライク・ザ・ブラッド9 口絵

※魅力的なヒロインが本当に多い印象の強い『ストライク・ザ・ブラッド』

 

 

――キャラクターに関して、ご自身の想定を超えたキャラクターはいたのでしょうか。

 

先ほどの回答とも関連しているのですが、私の場合は、キャラがそれぞれ自分の見せ場を主張するところからストーリーが作られているので、そもそも作家の希望どおりに動いてくれるキャラというのがあまりいなくていつも苦労しています。その中でも特に印象に残ったキャラをあげるなら、主人公の妹である暁凪沙でしょうか。要所要所でストーリーにがっつり食いこんで、物語上の重要度が当初の想定の三倍くらい上がっている気がします。スピンオフの4コマ『こちら彩海学園中等部』でも、ほとんど主人公みたいになってますし(笑)。

 

凪沙

 

ストライク・ザ・ブラッド こちら彩海学園中等部

※ストーリーに大きく絡んだだけでなく、スピンオフ4コマでも活躍した暁凪沙

 

 

――古城をはじめこの9年半で成長を遂げたキャラクターも多かったと思います。三雲先生の中で一番成長したと感じるキャラクターは誰でしたか。

 

一番成長したのは、実は雪菜だと思います。古城との関係が大きく変化したわけではないのですが、様々な経験を通じて、互いの理解や信頼が明らかに深まり、正ヒロインとしての安定性が増しました。作者が意図した変化ではなかったので、長期シリーズならではの珍しい成長パターンとして、個人的にも興味深かったです。

 

雪菜

※作中を通してもっとも成長したキャラクターは姫柊雪菜だという

 

 

――ファンの間ではお馴染みの古城による「ここから先はオレのケンカだ!」、雪菜の「いいえ、先輩。私たちのケンカです!」というお決まりのフレーズ。作者として最もこのやり取りの感慨が深かったエピソードがあれば教えてください。

 

印象に残っているという意味では、やはりTVアニメの第4話で、初めて実際に映像として流れたときですね。あの掛け合いは一種の様式美なので、視聴者の反応というか、お約束として受け入れてくれるかどうかが重要だと思っていたので緊張していました。放送後に、あの決め台詞が流れると盛り上がるとか、水戸黄門の印籠的な安心感がある、というような感想をいただいて、ちょっと嬉しかった記憶があります。小説のほうでは、第9巻「黒の剣巫」で、それまでのお約束を逆手に取って、普段と違う感じで一連のやり取りを使ってみた場面が気に入っています。

 

古城と雪菜

※名シーンを生み出し続けた「ここから先はオレのケンカだ!」「いいえ、先輩。私たちのケンカです!」

 

 

――三雲先生が古城なら誰をメインヒロインに選びますか。

 

誰かを恋人にするなら、という意味であれば、ストブラのヒロインたちは全員ちょっと癖が強いので誰とつき合うことになってもそれぞれ苦労することになると思います。そんな中で貴重な常識人枠である唯里と志緒は、交際相手としては堅実な選択肢ではないかと。雪菜以外で古城と恋仲にしていちばん面白そうなヒロインは、という意味であれば、これは那月ちゃん(南宮那月)ですね。そういうifの番外編も、機会があれば描いてみたいです。

 

唯里と志緒

※作中における貴重な常識人枠だという唯里(左)と志緒(右)

 

那月

※古城と那月ちゃんのifストーリーは実現する……?

 

 

――作中のキャラクターでご自身に1番近いキャラクターを選ぶとしたら誰ですか。

 

自分に近いかどうかはわかりませんが、性格的にいちばん共感できるのは浅葱です。浅葱は徹底した利己主義者で、彼女の行動原理は正義や倫理ではなく、常に自分のためなんです。利用できるものはなんでも利用するし、手段も選ばないけれど、その行動の責任をすべて背負う覚悟も持っている。まあ、彼女の場合は自分が幸せになるために頑張っていたら、いろいろ背負いこまされて、結果的に世界を救わなきゃいけないところまで追いこまれてしまったわけですが。そういう要領がいいんだか悪いんだかわからないところに、なんとなくシンパシーを覚えています。

 

浅葱

 

浅葱

※三雲先生がもっともシンパシーを感じるという藍羽浅葱

 

 

――ありがとうございます。また物語についてもお聞きしたいのですが、いち読者として古城が第四真相として覚醒し、自らのドミニオンを所有して自身を取り巻く状況が大きく変化した第一部「聖殲編」は大きなターニングポイントだったと思っています。三雲先生は本作のターニングポイントはどこだったと考えられていたのでしょうか。

 

たしかに真祖大戦以前と以後で、状況が大きく変わっているのは間違いないです。なにしろ絃神島の形すら変わっていますので。ただ、物語の構造としては、初めて古城以外の真祖が登場して、浅葱が古城の正体に気づいた第7巻が作品のターニングポイントではないかと思います。それまでは一話完結型のこぢんまりとした物語だったのが、そこからは群像劇っぽい大きな流れが出来たかな、と。自分としては、初期のほのぼのした雰囲気も好きだったのですが、ちょうどそのあたりから番外編である「Appendシリーズ」などを執筆する機会が大幅に増えてしまって、日常的なシンプルなエピソードは主にそちらで描くことになってしまったという事情もありました。ひとまず今回完結した本篇のほうでは、そのような日常が再び戻ってくることを予感させる終わり方になっていると思います。

 

古城と雪菜

※本篇完結後、古城たちに日常は再び戻ってくる、そんな予感をさせる結末になっているという

 

 

――アニメについても少し触れさせてください。本作はTVアニメ放送以降、OVAでシリーズが継続している、現在ではかなり珍しいタイプのメディア作品だと思います。アニメシリーズを追いかけてくれているファンにはどんなことを感じていますか。

 

作品をずっと盛り上げてくださっていることに対して、ファンの皆さんにはひたすら感謝しています。作家が読者や視聴者の姿を直接目にする機会はほとんどないのですが、アニメのイベントなどで会場に来てくれた人たちの姿を見たときは本当に感動しました。正直、アニメの人気が出たのはスタッフやキャストの皆さんの功績で、原作者はなんの役にも立ってないので、美味しいとこ取りしているような多少の申し訳なさはあったりするのですが……。

 

 

――あらためて発売された第22巻について教えてください。

 

いちおう最終巻という位置づけなんですが、消化試合のような淡々としたストーリーではなく、最後まで古城たちを振り回すような激動の内容になっていると思います。本当はエピローグ的な日常パートをあと150ページくらい入れたかったんですが、物理的に無理だったので、それは別の形で補完できれば……。

 

 

――エピローグ的な日常パート、楽しみにしております(笑)。本作では現在展開中のOVAIVはもちろん、様々なメディアミックス展開が行われてきました。三雲先生ご自身は、今後はさらにどんなことを目指していきたいと考えていますか。

 

これまでに経験のないところでいえば、実写の映画やドラマに憧れがあるので、映像化に向いた面白い作品を書きたいという課題を自分の中に抱えています。あと個人的な趣味としてロボット熱が高まってまして、アニメでもゲームでもいいのでロボットものの企画がやりたいなあ、と。現実的な話をすると、すでに『ストライク・ザ・ブラッド』の次の作品の企画が動いていますので、当面はこちらに注力することになると思います。かなり挑戦的な内容になっていると思いますので、よければこちらにも注目しておいていただければと。

 

 

――それでは最後に『ストライク・ザ・ブラッド』を本篇完結まで追い続けてくれたファンに向けてメッセージをお願いします。

 

本当に皆様の応援のおかげで、シリーズを書ききることができました。古城と雪菜たちの物語を、最後まで楽しんでもらえたら嬉しいです。ありがたいことにOVAシリーズも継続中ですし、番外編などでお目にかかる機会もあると思いますので、引き続き『ストライク・ザ・ブラッド』をよろしくお願いいたします。

 

 

――本日はありがとうございました。

 

 

<了>

 

 

9年半に渡る長期シリーズ『ストライク・ザ・ブラッド』の本篇完結を迎えた三雲岳斗先生にお話をうかがいました。王道を最後まで突き進み続けた学園アクションファンタジーは、OVAの展開がまだまだ続いています。あらためて原作小説を読み返しながら、不可分な物語とキャラクターの足跡を振り返ってみてはいかがでしょうか。最後の最後まで意外な秘密が明かされていくことになる『ストライク・ザ・ブラッド』第22巻は必読です!

 

 

©三雲岳斗/KADOKAWA 電撃文庫刊 イラスト:マニャ子

kiji

[関連サイト]

アニメ『ストライク・ザ・ブラッド』公式サイト

アニメ『ストライク・ザ・ブラッド』公式Twitter

『ストライク・ザ・ブラッド』原作公式ページ

電撃文庫公式サイト

 

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