独占インタビュー「ラノベの素」 カミツキレイニー先生『魔女と猟犬』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2020年10月21日にガガガ文庫より『魔女と猟犬』が発売されたカミツキレイニー先生です。ガガガ文庫からの刊行は実に4年ぶりとなる本作。圧倒的な存在感を放つ表紙には、この作品になくてはならない“魔女”の姿が鮮烈に描かれました。人々や国々が恐れ戦く“魔女”という存在と、一人の暗殺者の出会いがもたらす、至高のダークファンタジー。作品の着想や物語の主人公、そして魔女への想いなど、様々にお聞きしました。

 

 

魔女と猟犬

 

 

【あらすじ】

魔術師たちを独占し超常の力をもって領土を拡大する王国アメリア。その脅威に曝された小国キャンパスフェローの領主バドは、前代未聞の奇策に出る。それは、大陸に散らばる凶悪な魔女たちを集めて対抗するというものだった――。機を同じくして、隣国レーヴェにて“鏡の魔女”が拘束されたとの報せが入る。バドは魔女の身柄を譲り受けるべく、従者を連れてレーヴェへと発つ。その中にロロはいた。通称“黒犬”と呼ばれる彼は、暗殺者として育てられた少年だった……。誰も見たことのない壮大で凶悪なダークファンタジーが幕を開ける。

 

 

――それでは自己紹介からお願いします。

 

沖縄県出身のカミツキレイニーです。学生の頃、ヒーローショーのアルバイトで舞台演出にハマり、物語を作りたいと上京し、東京の映画専門学校へ通っていました。卒業後、自主製作で映画を撮るべく漫画喫茶でバイトをしながらシナリオを書き溜めていたのですが、金欠のため映画を撮ることができず、やがて小説を書くようになりました。約3年の投稿期間を経て『こうして彼は屋上を燃やすことにした』が第5回小学館ライトノベル大賞「ガガガ大賞」を受賞するに至りました。沖縄の両親には卒業後、映像会社に就職したと伝えていたのですが、一ヶ月で辞めていたこともあり、小説家としてデビューするまで一度も実家へ帰ることができなかったんですよね。

 

 

――このたびの新シリーズですが、ガガガ文庫では約4年ぶりの作品刊行になりました。

 

なぜガガガ文庫での作品刊行が4年ぶりとなったかについては後ほど触れるのですが、本作の着想を得たのは、ガガガ文庫で刊行していた前シリーズ『七日の喰い神』の最終巻を書き上げた直後でした。なのでおおよそ、4年前から構想を練っていたことになります。

 

 

――刊行という意味でも、企画という意味でも4年越しの作品だったわけですね。

 

はい。あとがきにも書きましたが、夢を見たのです。ティラノサウルスだかブラキオサウルスだか、何か巨大な恐竜の周りで、ほうきに乗った魔女たちが飛び回り、魔法を放ち、尻尾ではたかれ墜落していく光景を。目覚めて夢を思い返し、興奮しました。「売れたわ」と思いました。

 

 

――な、なるほど……。

 

多くの少年は好きじゃないですか、恐竜。そして魔女も好きじゃないですか。その二つが戦うのです。題して「魔女と恐竜」です。面白いに決まっているわけですから、企画書を書いてプロットを練って、編集さんに見てもらいました。ボツでした。”恐竜”がチープだと。しかし想いは通じたのか、全ボツではなく”魔女”の部分は残してくれたのです。感謝です! ということで僕と編集さんの二人で”恐竜”に代わるタイトルを考え、案を出し合いました。大切なのはリズム。「キョウリュウ」の響きが口当たりしっくりきていたものですから、それに近い単語が欲しかったのです。操縦……郷愁……猟銃……。そうして見つけたのが”猟犬”だったのです。口当たりはどうしたんでしょうね。

 

 

――作品そのものは重厚なファンタジーですが、物語よりもタイトルが先行した作品だったのですね。

 

そうですね。タイトルが決まった後は、すぐにプロットを組み立てて物語を作りました。プロット第四稿目でOKが出て「さあ書き始めようか」という状態になったのです。しかしその辺りで『ゲーム・オブ・スローンズ』にハマってしまい、自問しました。「はたしてこのプロットで、ゲーム・オブ・スローンズより面白いと言えようか――否。これではまだ及ばない」ということで、一度通ったプロットを自分でボツにして書き直したんです。そうしてあらためて見てもらったのですが、ボツでした。”魔女を集める話”が、いつの間にか”王位争奪戦”になっていたのです。影響を受けすぎました。そりゃあボツです。軌道を修正して書き直しましたがそれでもボツでした。もうわからん、正解が見えない、と以前通っていた第四稿に戻しましたけどボツでした。何でよ!(笑)。その後も右往左往を繰り返し、再びOKが出たのは第十四稿目のプロットでした。こんなにプロットに改稿を重ねたのは初めてです。なるほど4年もかかるわけです。おおよそ『ゲーム・オブ・スローンズ』のせいですね。

 

 

――それでは『魔女と猟犬』についてどんな物語なのか教えてください。

 

物語全体の骨子は、「弱小国を救うため、悪い魔女たちを集めるお話」になります。第1巻に限っていえば、「鏡の魔女を仲間にするお話」です。「悪には悪の正義がある」とは有名なセリフですが、まったくもって人を”いいやつ・悪いやつ”で判断するのは難しいことだと思います。誰かが誰かをそう判断するのなら、その”いいやつ・悪いやつ”というのは、発言者の主観なのかもしれない。本や映画の物語に登場する悪役は、そのほとんどがどうしようもなく”悪いやつ”でしょう。殺人鬼に毒親、暴君にマッドサイエンティスト。魔女だってそう。だって悪役はとびきり”悪いやつ”でなくては、お話がつまらなくなってしまいますから。語り手は物語を面白くするため、彼女たちをとびきり悪く言うでしょう。どんなに残虐で残酷か。どれだけ恐ろしいか、倒すべきか。大げさに演出し、誇張して描くでしょう。ならばその悪役たちの、語られない本当の素顔を見たいと思いました。きっと魔女たちにも愛する人がいて、護るべきものがあって、そしてヒロイン以上に、魅力的な表情で笑うのです。今作は、そのような魔女たちにスポットを当ててみました。

 

魔女と猟犬 口絵

※恐れられる魔女たちは何を想い、考え、生きているのか――――。

 

 

――本作に登場する魔女はおとぎ話をモチーフとしているんですよね。

 

はい。おとぎ話をモチーフとしたプロットから生まれています。魔女は悪役として懲らしめられる運命です。それを”猟犬”が救っていきます。おとぎ話に登場する魔女たちの新たな一面を考えるのは、非常に楽しいです。全体のシリーズを通して、次々と集めていく予定です。考えただけでも楽しいですし、ワクワクしませんか? 恐竜にしなくてよかった。

 

 

――魔女のテーマの在り様はカミツキレイニー先生の『こうして屋上を燃やすことにした』や『憂鬱なヴィランズ』を彷彿とさせられました。

 

元々おとぎ話は好きでした。デビュー作『こうして屋上を燃やすことにした』は「オズの魔法使い」をモチーフにしていますし、『憂鬱なヴィランズ』では、おとぎ話に登場するキャラクターの能力を使って戦います。ただ意識しておとぎ話系作家になろうとしているわけではなく、自然とおとぎ話を絡めたら面白いな、と思っていたのです。それだけおとぎ話というジャンルが、魅力的だということなんだと思います。

 

 

――おとぎ話の中でも、今作では”魔女”に特化した設定ですよね。

 

「おとぎ話に登場するキャラをカテゴリーで集めて物語を作ってみたい」というのは前々から考えていました。そのとき空想していたのは、おとぎ話に登場する”猫”たちの擬人化です。『長靴を履いた猫』の猫の親方、『不思議の国のアリス』のチェシャ猫、『青い鳥』のずる賢い猫チレットや、『十二支物語』のネズミに騙され十二支に入れなかった猫など……。猫たちを擬人化して物語に落とし込んだら面白そうだな、と。彼女たちはどれも魅力的で、個性があって、可愛いのです。親方はキザでリーダーシップがあって、チェシャ猫は消えるし、チレットは悪女だし、騙された十二支の猫は猜疑心の塊になっていることでしょう。「これは面白い」と企画書を作ったのですが、ボツでした。「ちくしょう面白いのになあ」と歯がみしながら日々を過ごしていたわけですから、例の夢を見て身体を起こした直後「恐竜と戦っていたあの魔女は誰だ?」と考えた時に「……鏡の魔女だわ」と決定したのは、ごく自然な流れでしたね。

 

魔女と猟犬 扉絵02

※魔女裁判と称した魔術師(ウィザード)と魔女の激突も大きな見どころとなっている

 

 

――では本作に登場するキャラクターについても教えてください。

 

本作の主人公として、ロロ・デュベルがいます。主の命令を受け、魔女を集めることになる暗殺者です。このキャラクター像を作るのは、大変難しいものでした。なんせプロットは第十四稿までありますからね。主人公のパターンも数多くありました。暗殺者らしく寡黙な最強キャラにしてみたり、猟犬らしく忠義の厚い熱血漢にしてみたり。どんなキャラクターが最も魔女と相性がいいかを考えました。ロロは元々暗殺者になりたかったわけではなく、命令がなければ魔女を集めることもしません。人生を悲観するわけでもなく、かといって大きな目標があるわけでもない。殺しの技術は持っているけれど、それをひけらかすようなこともしません。生まれた国や時代が違えば、隣を歩いているような普通の大学生になっていたかもしれません。先生や親の言うことをよく聞く優等生です。しかし彼の心の奥底には、世界と立ち向かえるだけの強い意志があります。それを物語の展開を通して爆発させ、ニュートラルなキャラクターを動かざるを得ない状況に陥れたいと思いました。追い込まれた彼の行動はもしかして、書き手の予想をも超えてくるかも知れません。魔女との旅を通して、このキャラクターにどんな変化が生まれるのか。最終巻と比べてどれほどの成長ぶりを見せてくれるのか、見比べるのが楽しみです。

 

魔女と猟犬 扉絵01

※主人公であるロロの成長も大きな見どころになっていくという

 

他のキャラクターに関しても語りたいところですが、困ったことに、ロロも含め本作に登場するキャラのほとんどが嘘つきです。自分で書いていて混乱するくらい騙し合い、相手を出し抜こうと裏で画策しています。あまり語るとネタバレになってしまうので……。物語は”鏡の魔女”の争奪戦を主軸に進んでいきます。彼女もまた、嘘つきです。ロロたちは、この魔女に関わってきた人々から話を聞くことになりますが、その印象は語り手によってコロコロと変わっていきます。本当の”鏡の魔女”とはどのような人間なのか。僕がここで語るよりも、物語の中で、ロロと共に探っていていただければ幸いです。

 

 

――本作でイラストを担当するLAM先生や、お気に入りのイラストについて教えてください。

 

お気に入りは表紙に描いていただいた「魔女」です。残酷で恐ろしく、それでいて人を惹きつける魅力的なヒロインです。ただ者ではありません。ならばそれを描ける人もまた、ただ者ではありません。LAMさんとお会いしたのは、僕が『ALTDEUS:Beyond Chronos』のシナリオチームに参加した時でした。その作品のビジュアルイメージをLAMさんが担当されていて、一目見たら忘れられないインパクトと、個性的でハイセンスな美絵に魅了されました。打ち合わせの最中、LAMさんの「ラノベの挿絵も手がけてみたい」という言葉を聞けたのは、あまりにも幸運すぎました。ぜひ魔女を描いて欲しいと、恐れ多くもオファーさせていただきました。

 

魔女と猟犬 カバー

※鮮烈で印象的なカバーイラストに仕上げられている

 

 

――おっしゃられる通り、表紙のインパクトは絶大ですよね。

 

個人的にLAMさんの個展「目と雷」にもお邪魔させていただき、とある絵を購入したんです。背景が赤の、大きな椿の花を耳飾りにした女性の絵でした。苦しい執筆中、この絵に励まされたことはもちろん、普通は1巻目の執筆では固まっていないキャラデザのイメージへの大きな助けにもなりました。まさに部屋に飾った椿の女性こそが、僕の中の”魔女”だったんです。この絵の素晴らしさをLAMさんに伝えた際、LAMさんは「表紙はこれ以上のものを描きますよ」とおっしゃってくださいました。ちょっとカッコ良すぎませんか?(笑)。LAMさんは本をデザインする際、表紙を並べた時のシリーズ感も大切にされているそうです。完成した表紙は、まさにコレクションとして集めたくなるような”飾れる文庫本”でした。ぜひ読者の皆さまにも、シリーズを集めて並べていただきたいと願います。魔法にかかりますよ。

 

 

――著者として本作はどんな方が読むと、一層面白く感じてもらえると思いますか。

 

本作はファンタジーです。昨今のファンタジーと言えば、なろう系が強いでしょうか。異世界転生はもちろん、悪役令嬢ものやパーティーから追放されたチート系なども流行っていますね。そういったファンタジーも痛快で面白いのですが――考えてみると今作は、流行と逆行したファンタジーかもしれません。主人公は、異世界から転生してきたわけではありません。戦えはしますがチートではなく、勝利が約束された展開でもありません。もしかして読者に「しんどい」と思わせてしまうようなシーンがあるかも知れない。ただ僕が次に読みたいなと感じたのは、そのような物語でした。もうダメだ終わった、と絶望に追い込まれた主人公が、それでも戦うしかなくて、みっともなくとも足掻き続けるような、そんな物語が読みたいと思いました。なので本作は、「死ぬ可能性もあるファンタジー」が好きな人に楽しんでもらえるかな、という気がします。

 

 

 

――今後の目標や野望があれば教えてください。

 

アニメ化は目標の一つです。多くのラノベ作家は、そこを目標にしているのではないでしょうか。アニメ化した方々は次に何を目標にするのでしょう。フィギュア化でしょうか、いいな。ラノベ作家はご存じの通り、1巻を出しただけではまだ安心して眠ることができません。ちゃんと売れるのか。楽しんでもらえるか。続きは書いていいのか。刊行したあとは、先の見えない気もそぞろな毎日の始まりです。いつ来るかわからない打ち切り宣告に怯える日々は、まさに死刑執行を待つ囚人のそれ。それでも書き続けるのは、読んでくれる人がいるからか、書きたい情熱があるからか――。僕はアニメ化したいがためです。

 

 

――それでは最後にご自身のファンの方、そして新たに本作を知った方へ一言お願いします。

 

作家買いしていただいている読者の方々には、大変お待たせしてしまいました。4年分のプロットです。お待たせしてしまったぶん、壮大なお話になっているかと思います。ただシリーズが続きにくい昨今、このお話もどこまで描けるかわかりません。魔女を7人集めましょうとは言っていますが、はたして全員集められるのか。なので、レビューや感想などつぶやいて、シリーズを一緒に盛り上げていただけたら嬉しいです。LAMさんの描く”魔女”や”猟犬”のフィギュア……欲しくない? 本当、恐竜にしなくてよかった。さておき、何よりもの願いは、読者に物語を楽しんでいただくことです。アニメ化よりもフィギュア化よりも、まずはそこですね。主人公ロロと共に、剣と魔法のファンタジー世界を楽しんでいただけたら幸いです。

 

 

――本日はありがとうございました。

 

 

<了>

 

 

弱小国家を救うために悪の魔女を味方にせんと動き出すダークファンタジーを綴るカミツキレイニー先生にお話をうかがいました。恐れ戦かれる「魔女」が何を想いながら生きているのかを、重厚なファンタジーと共に描いていく『魔女と猟犬』は必読です!

 

 

©カミツキレイニーLAM/小学館「ガガガ文庫」

kiji

[関連サイト]

『魔女と猟犬』特設サイト

ガガガ文庫公式サイト

 

魔女と猟犬 (ガガガ文庫 か 8-11)

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