独占インタビュー「ラノベの素」 幕霧映先生『田んぼでエルフ拾った。道にスライム現れた』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2021年5月7日にSQEXノベルより『田んぼでエルフ拾った。道にスライム現れた』が発売された幕霧映先生です。今年1月に創刊された同レーベルより作家デビューとなる若き新鋭が描くのは、“新・日常系ファンタジー”。タイトルやジャケットからイメージされる和やかな雰囲気とは異なった大きなギャップも魅力の本作。作品誕生の裏側やキャラクターについてなど、様々にお聞きしました。
【あらすじ】 ――夏。太陽は今日も元気だ、クソ暑い。さして特徴もない高校生の俺は、「今年も同じ様な夏なんだろうな」 そんなことを思いながら、近所の農道を歩いていた。――だが。「私はスティルシア。こことは別の世界から来た者だ」と、自称エルフの電波な銀髪美少女と出会ってしまう。なにコイツ。――って、指から火を出したァ!? しかもコイツと一緒に、妙な軟体生物も蠢いてるし……なんか他にもバケモンがやってきてるし!? エルフにスライム、妙な連中と出会った今年の夏。いつもと違う日々がやってくる。――そう、思っていた。 |
――それでは自己紹介からお願いします。
北海道出身の幕霧映です。3年程前からWEBで小説の投稿をはじめ、このたび『田んぼでエルフ拾った。道にスライム現れた』にてお声掛けをいただき、現在に至ります。好きなものは本や漫画、ゲームで、苦手なものはパソコンです(笑)。
――具体的な年齢には触れないでほしいというお話でしたけど、とにかくお若いですよね。パソコンが苦手だという点も世代のギャップを感じてしまいます。
小説もすべてスマホで書いているので、パソコンをいじり始めたのも書籍化のお話をいただいたことがきっかけでした。日常生活においても基本的にはスマホひとつで事足りてしまいますし、小説もテンキーを駆使して執筆しているので、キーボードも全然使えません(笑)。もしキーボードが使えるようになったら、文字を打つ指の本数も物理的に増えるので、執筆の速度ももう少し早くなるのかなと。とはいえ、今はスマホに甘んじています(笑)。
――小説や漫画、ゲームがお好きとのことですが、具体的にどんな作品が好きなんですか。
小説ですと三秋縋先生の『恋する寄生虫』や『三日間の幸福』が好きですね。小説ジャンルでは最近は一周回って青春系をよく読みます。漫画だと『チェンソーマン』や『ジョジョの奇妙な冒険』の「スティール・ボール・ラン編」を買って読んでいます。ラノベだと『ブギーポップ』や『戦闘員、派遣します!』なども好きです。いろいろ読んだり見たりはするのですが、ラブコメジャンルがやや苦手でして、月9のドラマでもキスシーンとかあったりするじゃないですか。ああいったシーンは恥ずかしくて直視できないです(笑)。
――なるほど(笑)。『ブギーポップ』は世代的にも珍しいチョイスだなという印象ですが、どこで作品を知ったのでしょうか。
2年くらい前に偶然近所の本屋さんで新装版の1巻を見かけまして。表紙に惹かれて、いわゆる表紙買いをしたのがきっかけです。作中に登場するキャラクターが、中性的でミステリアスな雰囲気もあり、非常に魅力的だと思っています。
――ありがとうございます。小説や漫画など様々な作品に触れつつ、ご自身で小説を書いてみようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。
最初の動機はちょっと不純なんですけど、友人がWEBで小説を書いていまして、それをノリでからかってやろうと思ったんです。そしたら友人に「書いている小説を教えてほしかったらお前もなんか書けよ」と言われ、書き始めました。それまでは文章を書くという行為はそれこそ学校の授業ベースで、ほとんどしたことはなかったんですけど、言われた当日に3,000文字を書いて投稿しました。当時は大手掲示板などに投稿されていた二次創作のSSはかなり読んでいたので、WEB小説というもの自体は結構身近な存在でもありました。
――今回の『田んぼでエルフ拾った。道にスライム現れた』は、ご自身にとって4作目とのことですが、ちょっと不純な動機からスタートしたという小説の執筆を続けてこられた要因はなんだったのでしょう。
最初の動機はともかくとして、投稿サイトにはアクセス解析機能があるじゃないですか。自分が初めて書いて、初めて投稿した小説の初日に20PVがついたんです。それでめちゃくちゃテンションが上がってしまったんですよね(笑)。20という数字は決して多いわけではないんですけど、学校のクラス単位で見ると、クラスの半分の人が読んでいることになるわけじゃないですか。そこからもう書くことに夢中になりました。タイトルを工夫したりすることはもちろん、投稿サイトを複数使いながら、自分の作風を面白いと思ってくれる読者さんがどこにたくさんいるんだろうと探しながら投稿を続けてきました。どうせ書き続けるなら、一番自分の作品を楽しく見てもらえる場所で頑張ろうと思ったんです。
――書き手と読み手が近い距離で繋がっている投稿サイトという仕組みが、幕霧先生にはハマったんですね。
もちろん小説を書くようになってから、新人賞への投稿も検討したりしました。ただ、その時に立ち塞がったのもパソコン問題でした(笑)。結局スマホではうまく投稿規定を満たすための準備を整えられず断念してしまいました。その後に本作へお声掛けをいただくこととなり、書籍化を果たすことができました。最初は親とも「これは詐欺じゃないのか」と、かなり慎重に応対をさせていただいていましたね(笑)。
――ありがとうございます。それでは『田んぼでエルフ拾った。道にスライム現れた』がどんな作品か教えてください。
タイトルからもひょっとしたら想像できるかもしれませんが、もともとは日常系の作品を書くつもりで書き始めた作品です。ふと帰り道を歩いていたら、田んぼに異世界からやってきたというエルフが落ちていて、という。ちょっとした戦闘シーンなども日常の一端として想定にはあったものの、現在のような血みどろで、命の危機に瀕するようなバトルシーンや展開はあんまり考えていませんでした。書きながら少しずつ自分の趣味を交えながら、路線を変更していった結果、普通の少年が異世界からやってきたエルフと出会い、異世界から廃棄されてくる様々なものと対峙していくボーイ・ミーツ・ガール作品へと仕上がっていきました。
※田んぼにはまっているエルフの少女を助けたことで、主人公の日常には変化が起こる
――おっしゃる通り、本作はタイトルから受けるイメージと実際の物語とのギャップが大きいことも特徴的なんですよね。
本作に関しては、フロムソフトウェア作品の『ブラッドボーン』をはじめとした、いわゆる死にゲー系の影響も受けているかもしれません。アクションゲームとしても好きなんですが、それ以上に陰鬱とした世界観も大好きなんです。自分自身、ゲームも相当やり込んでいるので、ついつい血みどろな展開に……(笑)。
※世界と日常は大きな変化を余儀なくされることに……
――読んでみるとわかりますが、ゴリゴリのバトルファンタジーですからね(笑)。ご自身の中で筆の乗ったシーンや苦労したシーンはありましたか。
書いていて楽しかったのは戦闘シーンですね。逆に一番難しかったのは、日常パートというか、主人公とヒロインのほのぼのとしたシーンでしょうか。バトルシーンの執筆は、その瞬間だけストーリーのことを考えず、戦闘描写だけに没頭して書けるので、個人的にはすごく筆が進むポイントですね。
※手に汗握る戦闘シーンも本作の大きな見どころになっている
――それでは本作に登場するキャラクターについて教えてください。
主人公については、ここでは「主人公」とさせてください。主人公はどこにでもいるような普通の高校生です。ヒロインのスティルシアと出会ったことを契機に……と、それだけではないのですが、世界ともどもかなり過酷な状況に追い込まれることになります。主人公の友人はかなり特異で目立ちますが、主人公は限りなく一般的なイメージにしました。一方で本作は主人公の成長物語という面もあり、強引な手段を使用してでも成長しなければいけない世界観にも注目していただきたいです。
※エルフの少女を拾った主人公。普通の高校生はかくして大きなうねりに巻き込まれていく
ヒロインのスティルシアは、異世界からやってくるエルフです。物忘れの激しいエルフという設定もありつつ、主人公と接する時のような天真爛漫な面と、異世界側の考え方をちらつかせるやや冷徹な面といった、二面性のあるキャラクターとして描いています。そして彼女には大きな秘密があり、明らかになるにつれて、二人の関係性や感じる部分がたくさん出てくると思っています。
※様々な秘密と謎を抱えるエルフの少女・スティルシア
最後にもう一人、大賢者ですね。異世界から現代世界に現れた、主人公の明確な「敵」にもあたります。WEB版では一線を越えた言動の多いキャラクターでもあったので、書籍版では台詞のチョイスなどでかなり修正も入りました。異世界からやってくる敵が、魔物やモンスターだけではないということを示唆したキャラクターでもありますので、注目していただきたいですね。
※主人公とスティルシアの前に容赦なく立ちはだかる大賢者
――本作のイラストはともぞ先生が担当しています。イラストを見た際の感想や、お気に入りのイラストを教えてください。
キャラクターデザインを最初に送っていただいた際に、エリミネーターというキャラクターの立ち絵が本当に素晴らしかったんです。もちろん他のキャラクターも素晴らしいデザインに仕上げていただいているんですが、とにかく強く印象に残っています。また、本作は表紙と裏表紙が一枚絵になっているんですが、表面と裏面とでイメージが全然違うんです。作品そのものを象徴するように描いていただいており、ともぞ先生にはうまく表現をしていただきました。感謝しかありません。
※異界の騎士・エリミネーター
※日常が侵食される構図も印象的なカバーイラストにも注目してもらいたい
――著者として本作はどんな方が読むと、一層面白く感じてもらえると思いますか。
本作は現代ファンタジー作品、いわゆるローファンタジーにあたると思っています。『とある魔術の禁書目録』をはじめとした、現代を舞台にしたファンタジーやバトルものの作品が好きな方は、読みやすく感じていただけたり、一層面白く読んでいただけるんじゃないかなと思っています。
――今後の目標や野望について教えてください。
「このライトノベルがすごい!」で第1位に選ばれることでしょうか(笑)。野望なので、目標は高く持っていけたらなと思います!
――それでは最後に意気込みをお願いします。
本作はいろんな方の力を借りていい本になったと思っています。タイトルや表紙から手に取っていただいた方には、こんな物語展開になるのかと驚きを感じてもらえると思いますし、作品全体にも非常に多くのギミックを仕込ませていただいています。私自身も自信を持って世に送り出せたと思っているので、ぜひ手に取っていただけたらと思います!
――本日はありがとうございました。
<了>
田んぼでエルフを拾った高校生が、異世界との邂逅で大きな戦いの渦へと巻き込まれていく現代バトルファンタジーを綴る幕霧映先生にお話をうかがいました。本作には世界観、そしてキャラクターをはじめとした、様々な「謎」、そして手に汗握るバトルシーンと見どころが満載です。『田んぼでエルフ拾った。道にスライム現れた』は必読です!
<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>
(c)Ei Bakumu/SQUARE ENIX
(c)Tomozo/SQUARE ENIX
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