ライトノベルニュース総決算2021 年間刊行点数と新作刊行点数は2年ぶりに増、女性向け作品のメディア化も本格化
2021年も私たちの日常はコロナ禍に大きく翻弄された1年となった。その一方でようやく少しずつではあるが光明も差してきたように思う。昨年に続いてコロナ禍に負けないというエンタメの精神は、ライトノベルにおいても大きく光り輝き、ここ数年ではなかなかお目にかかれなかったような市場や界隈、業界を賑わすニュースが飛び交うこととなった。振り返ってみれば明るいニュースも多く、『デート・ア・ライブ』や『はたらく魔王さま!』、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』、『魔法科高校の劣等生』などが原作10周年、そして『まぶらほ』が原作20周年を迎え、さらに『スレイヤーズ』は30周年を記念してイベントも行われた。ラノベニュースオンラインでは、2021年のライトノベルニュース総決算と題して、2021年の出来事や注目のニュースをまとめてお届けする。
■年間刊行点数は2年ぶりに増加へ転じる 要因はシリーズ刊行の加速化か
まず2021年を振り返ると、ライトノベルの刊行点数は約2,130点(ラノベニュースオンラインアワードの主だった対象作品より抽出)となった。昨年は刊行点数が前年より微減していたものの、今年は2年ぶりに増加へと転じている。増加の要因としてはSQEXノベルやGCN文庫、グラストNOVELS、Kラノベブックスfなど創刊された新レーベルの影響が一部にありつつも、2021年に関してはシリーズの継続刊行によるところが大きいようだ。全体の刊行点数は昨年より100点近く増加した一方、新作の刊行点数は約20作品の増加にとどまっている。こと新作の点数だけで言えば、女性向けライトノベルをカウントしていなかった2019年よりも少ないくらいである。シリーズの継続は著者や読者の双方にとって喜びしかないことを考えると、これまでの刊行点数の増加≒新作の増加という傾向からの脱却は、業界にとっても新しい風を運び入れることに繋がっていくのかもしれない。続いてジャンルへと視線を寄せてみる。2021年もラブコメ、青春ラブコメのジャンルが大きな脚光を浴びたのはまず間違いない。『千歳くんはラムネ瓶のなか』は「このライトノベルがすごい!2022」文庫部門で2年連続となる第1位に輝き、殿堂入りに王手をかけた。さらに『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』は発売4ヶ月で第1巻の単巻10万部を突破。第2巻に至っては2003年に発売された『涼宮ハルヒの溜息』と同じ初版発行部数で刊行されるなど、非常に大きな注目を集めた。これらのラブコメ作品の台頭は、長らく続いている異世界ファンタジー作品の人気と並行して、2つのジャンルが市場を支えるという、業界にとっても新たな流れとなるのだろうか。いずれにしても2022年は異世界とラブコメの2軸が、より一層大きく展開されていくことは間違いないだろう。
■YouTubeからの刺客!? YouTube発の漫画やアニメを原作とした小説が人気を博す
さて、2021年のトピックスにおいてはYouTubeの話題に触れないわけにはいかない。YouTubeからライトノベルへ黒船として来訪した、YouTube漫画、YouTubeアニメを原作とした小説である。『義妹生活』、『飛び降りようとしている女子高生を助けたらどうなるのか?』、『クラスの大嫌いな女子と結婚することになった。』、『友達のお姉さんと陰キャが恋をするとどうなるのか?』、『じつは義妹でした。 ~最近できた義理の弟の距離感がやたら近いわけ~』など数々の作品が登場しただけでなく、軒並み重版が行われるなど人気を大いに博している。小説化によるヒットの要因は、もちろん個々のコンテンツによって状況は異なるということを前提とさせていただきつつ、よりマスをターゲットとするYouTubeならではとも言えるコンテンツの構造と性質が大きく作用していると筆者は考えている。ライトノベルを知らない層やライト層に対する、コンテンツとしてのわかりやすさや共感のしやすさなど、より広い層に受け入れられるコンテンツ作りが根底にあるからこそ、小説のヒットにも繋がっている可能性だ。YouTubeではコアになればなるほど、動画の再生数が伸びづらいというジレンマを抱えており、だからこそ間口の広さが重要になってくる。そしてこれは『ベノム』や『グッバイ宣言』など人気楽曲の小説化でも同様の現象を引き起こしつつあり、2022年もYouTubeコンテンツからの小説化は加速していくことが大いに予想される。
■アニメ化も続々と発表される女性向けライトノベル作品、飛躍の年へ
2021年は『聖女の魔力は万能です』、『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…X』のTVアニメが放送され、後者に至っては映画化も発表された。そして今年、女性向けのライトノベル作品では『シュガーアップル・フェアリーテイル』、『悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました』、『ツンデレ悪役令嬢リーゼロッテと実況の遠藤くんと解説の小林さん』などの作品が続々とアニメ化を発表するなど、大きなニュースも飛び出した。昨年の総決算記事でも触れていたように、業界内でも数年前から女性向け作品には熱い視線が注がれ続けており、今もその勢いは衰えておらず、さらなる加速の気配もある。アニメなど女性向け作品の大型メディア化が進むことで、市場は一層の活気にあふれ、それは男性読者も一定数巻き込みながら、より大きな波紋へと広がっていくのだろう。ご存知の方も多いとは思うが、女性向けライトノベル作品にはメディア化されていないヒット作や人気作がまだまだ控えている。2022年はともすれば、今年以上に多くの発表を目にする機会に恵まれることになるのかもしれない。
■『呪術廻戦』『鬼滅の刃』はノベライズでも人気を博す 『探偵はもう、死んでいる。』も大健闘
2020年の『鬼滅の刃』ブームは今年もノベライズで大きな数字を残すこととなり、その後を引き継ぐような形で『呪術廻戦』のノベライズも脚光を浴びた。毎年オリコンが発表している年間“本”ランキングにおいて、ジャンル別ランキング「ライトノベル」の上位5作品は『呪術廻戦』と『鬼滅の刃』のノベライズが占める結果となった。数字の面では『鬼滅の刃』が昨年残した数字が圧倒的だったこともあり、同様に比較することは難しいところではあるのだが、漫画、アニメーション作品の小説人気はひとつの流れとして定着しつつあるようにも感じる。ジャンル別ランキング「ライトノベル作品別」では、昨年に続き『鬼滅の刃』ノベライズが1位を飾り、推定販売部数は約77万部。2020年と2021年の2年間で350万部以上をセールスするなど、大きなムーブメントを起こし続けている。以降は『転生したらスライムだった件』、『薬屋のひとりごと』、『Re:ゼロから始める異世界生活』と、いずれも1000万部を超える人気作がランクインする中、『探偵はもう、死んでいる。』が堂々の5位にランクイン。過去の傾向からも100万部を超える人気シリーズがランクインを続けてきたことを考えると、大健闘どころか偉業と言っても差し支えない。シリーズ刊行から話題を呼び続け、アニメーションもプラスに働いた結果、新たなシリーズでも本作のような結果を残せると証明した事実は、これから続く多くの作品の光明となってほしいものである。
■「KADOKAWA ライトノベルEXPO2020」が開催 イベントはオンラインが日常化へ
KADOKAWAの5大ライトノベルレーベルが集ったイベント「KADOKAWA ライトノベルEXPO2020」がオンラインで開催されたことも印象的な出来事のひとつだった。ラノベニュースオンラインも公式レポーターとして参加させていただいている。本イベントはコロナ禍の影響を受け、2020年秋から一度延期。そして今年3月から4月にかけてオンラインをベースに開催、展開された。24の豪華ステージをはじめ、大規模に展開されたWEBサイン会なども非常に印象的で大きな盛り上がりを見せていたのだが、やはり会場に多くのラノベファンが集まる姿を見たかったという思いは今でもある。筆者でもそうなのだから、現場関係者の胸の内にはいまだに燻るものがあってもおかしくはない。ここ2年でオンラインでのイベント開催が日常となりつつあることは、選択肢が増えたという点においては素晴らしいことである。だからこそ、選択肢のひとつとしてイベント会場に足を運び、賑わいや熱をその身で感じる日が、遠くない未来に再び選択できるようになることを願わずにはいられない。
■ラノベ原作のコミカライズは増加傾向が続くも市場状況にはやや変化の兆し
今年もWEB小説やライトノベルを原作としたコミカライズは、増加の一途を辿ることになった。連載、販売のプラットフォームは年々多様化しており、昨年も触れた通り、どこでどの作品が漫画化され、連載されているのか、追いかける側は一層の情報収集が欠かせなくなっている。コミカライズのムーブメントは、年間の新連載が100作品を超えるようになった2017年から、主だって異世界ファンタジー系作品が牽引してきた。その後ライトノベルはラブコメブームを迎え、コミカライズにおいてもラブコメ作品は頻繁に展開されるようになってきている。また、小説の書籍化を行わないコミカライズも年々増加しており、原作としての需要はまだまだ広がりを見せ続けているのが現状だ。WEB小説やライトノベルを原作としたコミカライズは来年以降も拡大の一途を辿ることは想像に難くない一方で、コミックス市場においてはやや飽和の色合いが滲み始めている。これはひとりあたりがコミックスを購入して追いかけることのできるシリーズ数が、そろそろ頭打ちを迎えてしまうのではないか、そんな危惧にも繋がっている。シリーズとして終わる作品よりも始まる作品の方が圧倒的に多い現状を踏まえた上で、2022年の市場動向はより一層の注視が必要になりそうだ。
■VTuberとのコラボレーションや作品展開は再び活性化するか?
YouTubeからの逆輸入という話題があった一方で、作品をYouTube側へ広げるための手段として、今年はVTuberとのコラボレーションも増えた1年だったように感じる。作品そのものにおいても、登場キャラクターをVTuber化させる試みは『VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた』や『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』でも見られ、大きな話題を呼んでいた。VTuberと作品のコラボは2017年から2018年頃にいくつかの作品が試行され、その後しばらくは大きなコラボは行われていなかったように思う。VTuberはYouTubeにおいても一大ジャンルとして人気を博し、インフルエンサーとしての役割も担うようになっている。「ホロライブ」や「にじさんじ」をはじめとした、人気VTuberと作品のコラボは、今後どのように広がっていくのか注目だ。
上記のトピックスは、全体の総括や印象に強く残った出来事やニュースを主に紹介している。ほかにも「ラノベストリート」や「たいあっぷ」など新たな小説プラットフォームの展開や、『ファンタジア・リビルド』のサービス終了、「次にくるライトノベル大賞」の開催など、気になるニュースやトピックスは非常に多かった。2021年、ラノベニュースオンラインはライトノベルのニュース記事を2,600本以上配信している。この1年、ほかにもどんな出来事や発表があったのか、気になる読者はぜひラノベニュースオンラインで2021年のニュースを振り返ってもらいたい。
ラノベニュースオンライン編集長・鈴木