ライトノベルニュース総決算2024 年間刊行点数の増加でシリーズ継続率が上昇!? 青春ラブコメは本格的にピークアウトへ
2024年もライトノベルの市場、業界、界隈を賑わす様々なニュース、そして出来事があった。特に今年は、いつもライトノベルを読んでいる人たちだけでなく、ちょっとライトノベルから離れていた人たちを驚かせたり、沸かせたりするニュースも少なくなかったように思う。『狼と香辛料』のアニメが再び見られただけでなく、まさかの第2期も決定。そして宗介とかなめが家族となった、本編20年後の世界を描いた『フルメタル・パニック! Family』を2024年になって読めると思っていた人たちがどれだけいただろうか。ラノベニュースオンラインでは、2024年のライトノベルニュース総決算と題して、2024年の出来事や注目のニュースをまとめてお届けする。
■年間刊行点数は大幅増加となるも新作は減少 シリーズ継続率は上昇?
まず2024年を振り返ると、ライトノベルの刊行点数は約2,600点(ラノベニュースオンラインアワードの主だった対象作品より抽出)となった。今年創刊したライトノベルの新レーベルは、例年よりもやや少ない立ち上げ数に落ち着いたと言ってもよさそうで、増加した刊行点数に対して劇的に寄与したとは言いにくい。2020年にはコロナ禍で刊行点数は一時微減に転じたものの、2021年以降は再び増加の一途を辿っており、2024年も2023年に比べて約120点の増加となった。一方で、この増加を牽引したのは新レーベルでもなければ新作でもなく、シリーズ作品によって純増したものと考えられる。新作の刊行点数は2023年の約950点より約930点へと微減になったことからも、シリーズものの展開がひとつの鍵となっていたはずだ。いずれにせよ、1作品あたりの競争率は激化し続けており、市場規模の拡大が例年のごとく急務となっている。また、電子書籍市場の動向としては、2023年全体で推計6,400億円超となっており、市場全体としては堅調に右肩上がりに推移している。一方、市場の牽引はコミックに大きく依存しており、文字ものに至っては前年比9%減少との推計もある。ライトノベルの電子書籍における売上試算がどの程度であるかは、いくつか取りまとめようとしている団体や企業があるものの、実態の把握にはまだまだ遠いのが実情だ(2022年度は60億円前後と試算)。電子全体の堅調な動きとは異なり、文字ものがややシュリンクし始めている点は気になるところではあるが、電子市場における課題にも本格的に向き合う時代が訪れようとしている。ライトノベルの電子書籍レーベルとして立ち上げられた「ダンガン文庫」をはじめ、電子市場単体で戦う出版社も登場する一方で、電子書籍ストア3社の座談会「電子書籍ストアから見るライトノベルのいま」でも言及されているように、電子の市場における新作の立ち位置はかなり厳しい環境となっている。電子の高い印税率は、作家にとって大きな魅力のひとつではある。ただ、売れなければその高い印税率がもたらす恩恵が発揮されることはない。電子市場で戦うということは、どういうことなのかをしっかりと見つめ、売れるための道筋を立てていくことに引き続き期待をしたい。
■青春ラブコメブームはピークアウトの様相 女性向け作品はレーベルの垣根を完全に破壊
ここ数年のライトノベルジャンルを大きく牽引してきた、現代を舞台とした青春ラブコメ作品。ムーブメントとしての観点からすると、いよいよピークアウトしたと言ってもよさそうである。ムーブメントは2022年の330点がピーク。2024年は昨年よりも微増こそしたものの、再び300点を超えることはなかった。2021年、2022年と7冊に1冊が青春ラブコメ作品だった頃と比べ、今年は11冊に1冊と、割合も大きく変化してきている。
※ここで記した青春ラブコメは、現代を舞台、かつ異種族や異能なし(ちょっとした超能力は許容)の物語を、ラノベニュースオンラインの編集長が独断と偏見でカウントしたものです
ラノベアニメの放映は、おおよそ2~3年程遅れてヒットジャンルが登場するとも言われており、今年大きな話題を呼んだ『負けヒロインが多すぎる!』や『義妹生活』、『恋は双子で割り切れない』などの登場は必然であったし、アニメをベースとした盛り上がりは今後も続いていくだろう。2025年には『クラスの大嫌いな女子と結婚することになった。』、『男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!)』、『千歳くんはラムネ瓶のなか』といった注目作も放映される。数字上はピークアウトの様相を呈してはいるものの、ジャンルではなく「カテゴリー」にまで成長した異世界ファンタジーと共に、引き続き青春ラブコメジャンルはライトノベルを牽引してくれるはずだ。
そして女性向け作品にも触れておきたい……というより、触れないわけにはいかない。その勢いは年々顕著となっており、女性向けレーベルという枠組みではなかったレーベルにおいても、明らかに女性を念頭に置いた作品が、いまや当たり前のようにラインナップされている。これはレーベルの戦略面からも、女性を意識した作品作りは避けて通れないことを意味しており、2025年もさらなる飛躍が期待される。女性向け作品においても、上述した青春ラブコメのアニメ展開同様に、来年以降も続々と注目作がアニメとして世に送り出されていくことになる。異世界転生や悪役令嬢、幼児や幼女のもふもふスローライフ。小説だけでなく漫画を巻き込みながら、拡大していく市場動向を引き続き注視していきたい。
■次のムーブメントは……? 百合ジャンルの飛躍、配信もの作品の注目度が増す
次はどのジャンルが一大勢力を築き上げるのか。青春ラブコメのピークアウトを受けて、本格的なヒットジャンルの模索期へと業界は再突入した。まず、昨年も少し触れた百合ジャンルは、ファンタジア文庫が新プロジェクト「GirlsLine」を掲げ、レーベルとしても大きなテコ入れをスタートしている。同ジャンルの盛り上がりの機運は間違いなく高まっており、ガールズラブコメの火付け的な作品でもあった『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』のアニメ化もまた、多大な影響を及ぼすことになりそうだ。百合ジャンルは、どうしても書き手を選ぶ難しさがあるものの、熱狂的なファン層を有しており、2025年の動向が非常に楽しみなジャンルのひとつとなっている。
そして2024年に目を惹く作品群となったのが、いわゆる「生配信」を絡めた「配信もの作品」だ。物語の舞台はVTuberであったり、ダンジョンであったり、ペットや生活の配信だったりと様々。そしてその多くに共通するのは、作中で描かれる「視聴者コメント」の存在である。活用のされ方は様々ではあるが、多くは物語やキャラクターに対するツッコミどころや笑いどころ、読み手の感情を代弁し、共感を促す読書体験がある。たとえば「俺、やっちゃいました?」という展開を、かつては読者が一人でツッコんでいたわけだが、作中に登場する視聴者たちと共にツッコめる点は新たな魅力と言える。VTuberから派生した配信もの作品は、VTuberにこだわらない形で作品の在り方を広げている。2025年も大いに期待したいジャンルのひとつだ。
続いて昨年にも期待を寄せたラノベ×ミステリーのジャンルについては、堅調にジャンル作品は登場しているものの、話題性にはやや欠けてしまった印象を受けた。2023年の『誰が勇者を殺したか』の登場によって、一層大きな期待が寄せられはしたものの、業界内におけるトレンドの方向性として強く汲み取られたのは、ミステリーの要素ではなく「戦後の物語」だったように感じる。タイミングとして『葬送のフリーレン』のヒットが重なったことも要因のひとつと考えられるが、話題作の登場には引き続き期待したい。
なお、筆者は個人的に「ファンタジー戦記」へ大きな期待を寄せている。『ロメリア戦記』のアニメ化発表や『転生貴族、鑑定スキルで成り上がる』第3期のアニメ化発表は、その追い風のひとつになってくれるのではないか。そして2021年に発表されたアニメ『幼女戦記』第2期の続報を待ち続けている人も多いはず。少し横道に逸れたが、『TS衛生兵さんの戦場日記』や『フリードリヒの戦場』、『白き帝国』など注目作も多い。2018年にも密かに期待を寄せていた「ファンタジー戦記」、2025年ではジャンルとして大輪を咲かせることはできるだろうか。
■往年の名作の新展開と完結が続く SAOもリアルでクリア日を迎えた
数年前から少しずつ同様の兆候はあったものの、今年はひとつ目立った1年だったとあらためて感じる。本編『フルメタル・パニック!』の完結から約13年半ぶりに始動した新シリーズ『フルメタル・パニック! Family』、東雲立風氏が手掛ける『ハイスクールD×D』の新シリーズ『ジュニアハイスクールD×D』、『ミスマルカ興国物語』約10年ぶりの続編『ミスマルカ最終章』、12年ぶりの最新刊&完結となった『9S〈ナインエス〉』、シリーズ4年ぶりの最新刊『涼宮ハルヒの劇場』などがこの1年で発売された。そしてアニメ『狼と香辛料 merchant meets the wise wolf』の放送では、かつて放送されたエピソードよりも一歩先に進んだだけでなく、第2期の制作も決定し、ファンを沸かせている。さらに『ソードアート・オンライン』では、2024年11月7日という、作中のクリア日を迎えるというお祭り的な年でもあった。2024年はライトノベルから少しばかり離れていた人たちにとっても、注目せざるを得ないトピックスは多かったように思う。
■コミカライズは1日1本以上の連載が開始! 縦読み漫画化は急ブレーキ
2024年12月から3ヶ月ほど遡ったところ、約120本の漫画化が行われていた。そこで数えるのを辞めてしまったのだが、今やラノベを原作としたコミカライズは1日1本以上のペースで連載がスタートしている。コミカライズについては正直なところ、昨年以上に触れるべき内容はほとんどない。細分化し増え続ける連載プラットフォーム同士の競争がさらに激化し、生存戦略の模索が大きな課題となるだろう。一方で、縦読みフルカラー漫画化は2024年下半期に入った途端、急ブレーキがかかった印象だ。要因として考えられるのは、ライトノベルと縦読み漫画の相性か。縦読み漫画は、読ませ方、魅せ方が最大の肝となっていることもあり、縦読みに特化したシーンの創出や展開の考案が、そもそもの原作や原案に求められることになる。そういう意味では、縦読み漫画にきちんと特化した原案をもとにした方が、より適したアウトプットになる、そう判断された可能性は高い。縦読み漫画が、ライトノベルのメディアミックス先として定着するかどうかは、まだ判断できかねる部分が多い。ただ、上述の理由から、筆者としては離れていくイメージが強いのだが、果たして。
■KADOKAWAがランサムウェア攻撃で甚大な被害
2024年6月に発生したKADOKAWAへのランサムウェア攻撃によって、KADOKAWAのサイトがアクセス不能に陥った。ライトノベルの各レーベル公式サイトだけでなく、コミックレーベルや、アニメーションの公式サイトなども影響を受けるなど、大きな被害をもたらした。現在、KADOKAWAオフィシャルサイトと電撃文庫の公式サイトは復旧したものの、未だ多くのレーベル公式サイトは閲覧できない状況が続いており、少しでも早い復旧が望まれる。期間中唯一の救いだったのは、異なるサーバーで管理されていたであろう、キミラノやカクヨムが情報発信の場として役割を果たしたことか。それでも不便であることには変わりないので、引き続き復旧を願いながら応援するしかない。
■ラノベアニメは年間60本が当たり前? 再編も進むエンタメ業界
昨年の総決算記事において、年間60本に迫ったラノベ原作アニメの現状を、ラノベアニメバブル元年と言及していたわけだが、2024年はいよいよ60本を超えてきた。テレビ局も深夜帯を軸に、アニメの放送枠を増やす事業戦略を展開し、2025年以降も年間のアニメ放送本数は増加が見込まれている。あわせてラノベを原作としたアニメの本数増加も見込まれ、しばらくは年間60本前後という数字が基準となっていく可能性がある。4、5年前が年間22、3本前後だったなんてとても信じられない……。
また、広義の意味において、メディアミックスのスキームに連なる業界再編の動きも活発化してきている。バンダイナムコフィルムワークスによるエイトビットの子会社化、KADOKAWAグループによる動画工房の子会社化、NTTドコモによるMUGENUPの子会社化、東宝によるサイエンスSARUの子会社化など、いずれもIPビジネスの強化と拡大を視野に入れた動きとなる。そしてこの年末には、ソニーによるKADOKAWA買収検討の一報がもたらされ、業界に激震が走った。結果としてソニーがKADOKAWAの株式の約10%を保有し、筆頭株主としての資本業務提携にとどまったわけだが、やはりIPビジネスの拡充と強化が狙いだ。向こう数年は、ほぼ間違いなくIPビジネスに力を入れる企業が増え、戦略的に買収や子会社化、資本業務提携を行う企業が増える可能性は高い。ホンダと日産のような経営統合話は、ライトノベル業界やその近隣の業界にとっても、まったく他人ごとではないという話でもあるのだ。
ラノベのアニメが増えるのは嬉しい。ただ、視聴してもらえるアニメを作ってもらうことが、いち原作ファンから制作会社への切なる願いでもある。アニメの放送本数が増えれば増えるほど、いち視聴者が視聴する作品は厳選されていく。作れば見てもらえる時代は既に終わりを迎え、数億円から十数億円の予算をかけて制作するアニメ事業に対しては、今年の『負けヒロインが多すぎる!』のように、原作小説にもしっかりと恩恵が届くような、夢のあるメディアミックスをひたすらに願いたい。
上記のトピックスは、全体の総括や印象に強く残った出来事やニュースを主に紹介している。ほかにも5年ぶりのリアル開催となった「MF文庫J夏の学園祭2024」や、シリーズ10周年&第1期から6年を経てアニメの続編制作が発表された『デスマーチからはじまる異世界狂想曲』、笑いどころでは『異能バトルは日常系のなかで』×日清のどん兵衛のコラボCM、『青春ブタ野郎』シリーズの完結など、気になるニュースやトピックスは非常に多かった。2024年、ラノベニュースオンラインではライトノベルのニュース記事を3,000本近く配信している。この1年、ほかにもどんな出来事や発表があったのか、気になる読者はぜひラノベニュースオンラインで2024年の出来事を振り返ってもらいたい。
ラノベニュースオンライン編集長・鈴木