ライトノベルニュース総決算2023 年間&新作刊行点数は大幅増加へ 青春ラブコメは減少でジャンルの転換期が迫る!?

2023年は昨年の記事にも記載した通り、あらゆる物事が再開した1年となったように思う。身近なところで言えば、イベントの取材案内も多く届くようになるなど、2020年以前の日常が着実に戻ってきている。その一方で、物価の値上がりは続いており、娯楽品に対する出費にどのような影響を及ぼしているのかも大変気になるところだ。それはさておき、ライトノベルにおいては長らく続いた人気シリーズが立て続けに完結したり、彗星のごとく現れたファンタジーミステリが大きな話題を呼ぶなど、様々なニュースが見て取れた。ラノベニュースオンラインでは、2023年のライトノベルニュース総決算と題して、2023年の振り返りや出来事、注目のニュースをまとめてお届けする。

 

 

■年間刊行点数と新作刊行点数は大幅に増加 電子書籍の市場観も少しずつ詳らかに

ライトノベルニュース総決算2023

 

まず2023年を振り返ると、ライトノベルの刊行点数は約2,480点(ラノベニュースオンラインアワードの主だった対象作品より抽出)となった。今年もPASH!文庫やワニのピア文庫、女性向けではnovel スピラやプティルブックス、Ruhunaなどの新レーベルが立ち上がり、新たな風と共に大きな盛り上がりをみせた。全体の刊行点数は2年連続で増加傾向にあり、2023年は2022年より200点以上の大幅増となっている。その多くを牽引したのは新作で、昨年よりも170点以上増加した。とはいえ、ライトノベルの紙本市場の緩やかな縮小傾向は続いており、1作品あたりの競争率は激しさを増すばかりとなっている。刊行点数の伸びは、わかりやすい盛り上がりの指標のひとつではあるので、増加そのものは喜ばしいことだが、例年通り、いかに市場規模を拡大させていくのかという大きな命題に、業界関係者は引き続き取り組む必要がある。また、電子書籍にも少しだけ触れておきたい。2022年度の電子書籍市場の推計は6,000億円を超えたものの、約5,200億円がコミック市場とされており、文字ものは約600億円とされている。うち、試算としてライトノベルは文字もの全体の10分の1前後なのでは、という話もちらほらと聞こえてくるようになった。電子書籍における文字ものジャンルの市場推移は、2021年から2022年は横ばいになりつつあるものの、市場の広がりは無視できないものとなっている。その一例ではあるが、スニーカー文庫から発売された『誰が勇者を殺したか』は、KADOKAWAのライトノベル新作において、電子書籍の歴代売上第1位(※KADOKAWAライトノベル新作の電子書籍発売30日販売数)を記録。ひとつの震源地になった。ライトノベルの電子書籍は、シリーズの続刊はともかくとして、新作にはやや厳しいイメージが未だ付きまとうだけに、『誰が勇者を殺したか』の動きは、電子市場に投じられた一石となるのかも注目していきたいところである。

 

 

■激戦ジャンルの青春ラブコメは規模縮小 ラノベを牽引するのは女性向け作品に!?

負けヒロインが多すぎる! 6

 

ライトノベルは再びジャンルの変遷期を迎えるのかもしれない。2019年は180作品、2020年は230作品、2021年は290作品、2022年は330作品と、ムーブメントを牽引してきた現代青春ラブコメ作品が、2023年は270作品と減少に転じた。一昨年、そして昨年は7冊に1冊は青春ラブコメ作品だったが、今年は9冊に1冊の割合に変わっている。

 

ライトノベルニュース総決算2023

※ここで記した青春ラブコメは、現代を舞台、かつ異種族や異能なし(ちょっとした超能力は許容)の物語を、ラノベニュースオンラインの編集長が独断と偏見でカウントしたものです

 

ここ数年で広がった青春ラブコメの隆盛を受け、同ジャンルを原作としたアニメーションは2024年以降数多く放映されることは間違いなく、今後も愛されるジャンルのひとつで在り続けることに対する疑いの余地はない。依然として、異世界ファンタジーと青春ラブコメの2大ジャンルが作品群の大きな柱ではあるが、青春ラブコメ減少の流れは、ライトノベルでの「次の流行ジャンル」への模索を示唆する可能性も俄然高まる。その可能性の行き先として、ひとつは女性向け作品だ。悪役令嬢や溺愛ものをはじめ、近年では女性の自立をイメージさせるような作品も見かけるようになり、新興レーベルも女性を強く意識した作品チョイスが目立つようになっている。WEB小説界隈における書籍化の打診も、かつての異世界ファンタジー隆盛期を彷彿とさせるスピードで早くなっている現状もあり、熾烈な作品の争奪戦が繰り広げられている。少なくともこれから数年間は、女性向け作品の存在感はかなり大きなものとなるに違いない。

そして昨年から今年にかけ、売れ線のひとつになり得る可能性を示したのが百合ジャンルの作品だ。2020年にTVアニメ化も行われた『安達としまむら』はもちろん、『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(ムリじゃなかった!?)』、『週に一度クラスメイトを買う話』など、重版情報を頻繁に見かける作品も増えている。百合ジャンルはこれまでも熱狂的なファン層を有するジャンルではあったものの、ライトノベルにおいてはどうしても特定の作家を除き、刊行時は挑戦作という位置づけが拭えない印象が強いと筆者は感じていた。しかしながらこの1年程を契機に、より広い読者層に作品を供給する環境が構築されつつあるように感じている。青春ラブコメのようにジャンルを席巻するというステージまで到達できるかどうかはともかくとして、一層の飛躍が期待されるジャンルであることは間違いないだろう。

そしてもうひとつが、ミステリー作品である。『探偵はもう、死んでいる。』の登場より、探偵の名を冠し、ミステリーを匂わせる作品は少しずつ増えてきていた。そして2023年、その傾向はより顕著になりつつある。「このライトノベルがすごい!2024」でも上位に食い込んだ『僕らは『読み』を間違える』や『シャーロック+アカデミー』などの話題作が登場し、『誰が勇者を殺したか』もそのうちのひとつとなる。そして『薬屋のひとりごと』が満を持してアニメ化されたことも、火付けの一翼を担うかもしれない。ライトノベルとミステリーの相性については長らく問いただされてきたが、今後その融合はより加速していくことが期待されている。

 

 

■増加し続けるラノベ原作のコミカライズ 縦読みフルカラー漫画にも少しずつ波及

ステラ・ステップ

 

ライトノベルを原作としたコミカライズは依然として増加の一途を辿っている。直近3ヶ月のラノベニュースオンラインで記事化された作品だけでも、2023年10月は30本超、11月は35本超、12月は25本超の新連載がスタート。3ヶ月で新連載100本に迫る勢いとなっており、毎月数十本近いコミカライズの連載がスタートしている状況だ。また、小説の書籍化が行われないまま、WEB小説を漫画化する事例も増え続けている。連載プラットフォームについても多岐にわたっており、ユーザーとしても作品を追いかけることがかなり困難な状況とも思われる。かつては連載の開始を記事として取り上げていた漫画系ニュースサイトでも、すべての作品が取り上げられることはなくなってしまった。今後、プラットフォームごとに細分化された各漫画の認知度を、どのようにして高めていくのかも大きな課題となるだろう。そして縦読みフルカラー漫画としてコミカライズが行われる事例も増加傾向となっており、縦読み漫画の市場規模拡大にあわせて、コミカライズの本数も増えていくことが想定される。2024年も引き続きコミカライズの新連載は増え続けていくものと考えられる。

 

 

■MF文庫Jが2022年KADOKAWAライトノベルレーベルで天下を取る

MF文庫J2022No.1

 

2022年、KADOKAWAのライトノベルレーベルの中で、最も売上を叩き出したのはMF文庫Jだった。この一報は、マーケティングの観点からも大変興味深い発表だったに違いない。ヒット作をたくさん有していればNo.1になる、というのは真理である。ただ、作品を右から左へと流通に乗せるだけでは、ヒット作はそうそう生まれるものではないと筆者は考えている。課題は面白い作品を、どう世の中に知ってもらうか。どう継続して育てていくか。MF文庫Jは、スニーカー文庫やファンタジア文庫、電撃文庫などの隣に並ぶレーベルを、どのように抜き去って売上No.1となったのか。もちろん一朝一夕で成し得たことではなく、数年か、或いは10年以上なのか、積み重ねの結果であることは言うまでもない。ただ、その足跡を辿ることで「ライトノベルを売る」ということに対する何かしらのヒントが見えてくる可能性は十分にある。今やSNSでの広告宣伝は当たり前となった。2019年の『幼なじみが絶対に負けないラブコメ』に端を発した、PVによるプロモーションムーブメントの加熱も今は落ち着いてきている。アニメや漫画を広告と考えるのであれば、これは増加の一途を辿り続けている。あわせて、交通広告をはじめとしたリアルの広告露出が再び増え始めるなど、広告手法の原点回帰も少なからず感じるようになった。書店の持つ広告効果も、店舗の減少によって最大化が望めなくなっている現状、各出版社は様々な試行錯誤を繰り返し、繰り広げている。今年6月に掲載した「【特集】業界の命題である「どうすればライトノベルの市場は拡大するのか」のヒントを広告運用者に聞いてみた――広告を打つ意味や効果とは?」もぜひご一読あれ。

 

 

■人気の長期シリーズが続々完結! 来年も完結ラッシュは続くか!?

ロクでなし魔術講師と禁忌教典24

 

2023年は人気シリーズが続々と完結を迎える一年となった。2001年に刊行を開始した『ウィザーズ・ブレイン』は、8年半ぶりの2ヶ月連続刊行となり、22年の時を経て物語は完結した(※短編集は別途刊行予定)。また、2014年に刊行を開始した『ロクでなし魔術講師と禁忌教典』は2017年にTVアニメ化、その後もコンスタンスな刊行を続け、9年を経て物語に幕を下ろした。2013年に刊行を開始した『ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?』は2016年にTVアニメ化、約3年半ぶりの2ヶ月連続刊行を経て完結している。そしてこちらも2013年に刊行開始となった『落第騎士の英雄譚』は2015年にTVアニメ化、そして3年半ぶりの最新刊をもって完結。ほかにも書籍が2015年より刊行を開始した『本好きの下剋上』、2016年より刊行を開始した『即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。』、2019年より刊行されていた『ライアー・ライアー』など、多くの長期シリーズが幕を下ろした。2024年には『9S』も12年ぶりの刊行と完結が予定されているほか、完結間近な人気作も少なくないので、引き続き楽しみにしていきたい。

 

 

■2023年はラノベアニメバブル元年なのかもしれない

薬屋のひとりごと13

 

ライトノベルを原作としたアニメの本数も、刊行点数の増加やコミカライズの増加とあわせて右肩上がりが続いている。2023年に放送されたライトノベル原作のアニメは60本に迫り、前年の33本と比較しても倍近いアニメが放送されたことになる。一説では、アニメ業界の流れにも大きく影響を受けていると言われている。アニメの制作現場では、オリジナル作品よりも原作付きの作品が求められているという、成功と失敗、リスクとリターンを秤にかけた上での判断も多いようだ。とはいえ、いち視聴者の目線で考えると、視聴できる本数にも限界というものは存在するわけで、ラノベ原作のアニメだけを追いかけるにしても、そのカロリーは年々上がり続けている。アニメ視聴者というパイの争奪戦も熾烈を極める中、どうヒット作を生み出していくのか。市場の構造はどこか、少し前のWEB小説とライトノベルという構造に似ているようにすら感じてしまう。2024年1月も15本のラノベ原作アニメの放送が予定されており、このアニメバブルのような状況が続くのであれば、2024年も60本ペースとなるが、果たして……。どう転ぶにせよ、ラノベファンとしては、アニメの恩恵がしっかりと原作に跳ね返ってくれることを切に願うばかりだ。

 

 

上記のトピックスでは、全体の総括や印象に強く残った出来事、ニュースを主に紹介したに過ぎない。ほかにも『転生したらスライムだった件』や『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』の10周年アニバーサリー企画、レーベルの周年イベントラッシュ、11年ぶりに刊行された『灼眼のシャナS IV』など、気になるニュースやトピックスは非常に多かった。2023年、ラノベニュースオンラインはライトノベルのニュース記事を2,700本以上配信している。この1年、ほかにもどんな出来事や発表があったのか、気になる読者はぜひラノベニュースオンラインで2023年の出来事を振り返ってもらいたい。

 

ラノベニュースオンライン編集長・鈴木

 

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