【特集】業界の命題である「どうすればライトノベルの市場は拡大するのか」のヒントを広告運用者に聞いてみた――広告を打つ意味や効果とは?

ライトノベル業界でも悩みの種のひとつである「どうすればライトノベルの市場は拡大するのか」という命題は、SNS上でも時たま話題にあがります。筆者もラノベニュースオンラインを運営する一人の人間として、市場拡大が命題のひとつであることは間違いないと考えています。そこで今回、「ライトノベルとSNS広告」をテーマとして、広告運用を仕事としているプロの視点から、あらためて広告とは何か、作品を世の中に広げるためには何が必要なのか、その先にある市場拡大へのヒントについて聞いてみました。なかなか知ることのできない「広告運用の裏側」についてみなさまにお届けします。

 

 

ラノベと広告

 

 

※取材・記事協力:株式会社Days

 

 

■そもそもなぜ広告を打つのか?

ものすごく当たり前のことではありますが、広告を打つ理由から聞いてみました。

 

レプリコ広告03

 

ラノベと広告

※広告は様々な形で展開されていますよね

 

 

広告配信を実施する理由はケースバイケースではありますが、認知の拡大が大きな理由のひとつになるかなと思います。特にSNSでの広告配信の場合は、特設サイトやAmazon販売ページへの遷移、またはツイートの「いいね」や「リツイート」の数で作品の認知を広めることを目的にすることが多いです。ほかにもPVがあれば、そのPVの再生数を伸ばすための相談も少なくありません。

 

また、ライトノベルの広告をSNSで配信する場合は、ターゲティング(つぶやき/検索したキーワードや特定のアカウント/それに類似したアカウントをフォローしているユーザー、など)を指定し、ユーザーに届けることが多く、既存のラノベユーザーへと配信することが多いです。最初は関心の高い顕在層に対してターゲティングを行い、広告としての効果を見ながら拡散させていくことが主流です。ほかには「●●の日(例:2月22日は猫の日、ほか)」のような特別な日(タイミング)にあわせて配信することもあります。この場合は顕在層以外にターゲティングする場合が多くなります。その一方で、そういったユーザーに興味を持ってもらう以上のことを望むのは、ややハードルの高い配信の方法でもあります。一言で広告を配信すると言っても、実際は様々な方法があるわけです。

 

 

■ラノベユーザー以外にターゲティングしないと市場は拡大しない?

市場の拡大とは、多くの方が既存ユーザー以外のユーザーを引き込むことを想像するのではないでしょうか。ただ、そのハードルは決して低くはありません。広告配信では何を重視するのでしょうか。

 

ラノベと広告

 

 

通常の広告配信では、ラノベやなろう系、異世界系が好きな人を中心にターゲティングを行うため、その外側を狙いに行くことは少ないです。例えば小説の隣にはアニメや漫画というジャンルもあると思いますが、広告運用の立場から見ると、お隣さんという認識はほとんどありません。もちろんそういったユーザーに向けて配信をすることは可能ですが、見込みのないユーザーに配信される確率が上がり、結果としてユーザーからの反応(いいねやRT、タップ、スワイプなど)が下がることに繋がります。効果を重視する広告代理店では、ほかも似たような状況じゃないかなと思います。

 

ただ、アニメや漫画のすべてがお隣さんではないというわけではありません。このお隣さんの考え方には、良いお隣さんと悪いお隣さんがいるんです。広告の配信を行う際は、どういったお隣さんを選んで配信するのか、それが非常に大切です。クライアントから「●●という作品を知っている人達に配信してほしい」というオーダーをいただくこともありますが、作品の絵柄や物語によって、お隣さんの概念は都度変化しているため、いただいた希望がお隣さんとして適していない場合もあったりします。広告運用のプロとしては、そのお隣さんをしっかりと見極める必要があると思っていますし、そのノウハウは日々の業務の中で蓄積し続けていくものです。その蓄積やノウハウを持っているかどうかでも、広告の効果は大きく変わってくるのではないでしょうか。

 

毎月200~250冊の作品が刊行されるライトノベルにおいて、本屋だけで勝負していくのは難しいと考えています。本来、本屋に行かなければ得られない情報を、スマホがあれば見られるというのが今という時代です。だからこそ広告は大切な要素のひとつなんです。仕事の延長線上で、ライトノベルやTwitterの広告をより見るようになってから、認知の機会は圧倒的に増えました。時たま本屋にも足を運んで、人気の度合いや出版社の推しの度合いをチェックしたりもします。そういった思考のとっかかりも、我々としては重要だと考えています。広告配信は、反応してくれる人まで広告を届かせることに真価があります。声優やインフルエンサーを切り口としたアプローチをはじめ、普段ライトノベルを読まない人を、読んでくれる人に変えていく。きっかけそのものの見せ方を変えていくことも必要ではないかなと考えています。

 

 

■ぶっちゃけ、広告の力でジャンルの変遷って生み出せるの?

広告の力はどこまで強度があるのか。純粋な疑問として、ジャンルの変遷を意図的に生み出せたら強いなと感じたので聞いてみました。

 

時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん

※ロシデレみたいにヒットさせたいよ!

 

 

前提として、ものすごい予算規模、宣材のクオリティ、強力な拡散力、良いお隣さんだけでなく悪いお隣さんも含んだ幅広いターゲット、それらをすべて高いクオリティでアプローチすることが必要になります。なので、ただ広告費にお金を湯水のごとくかけたとしても、あらゆる面でのクオリティが高くなければ難しいと思いますし、それだけ多角的なジャンルのプロが関わる必要もあると思います。そしてその根底には、コンテンツそのものの魅力と力も必要です。広告は作品のすべてを説明することはできません。作品の良いところをピックアップして広めることが役割です。ユーザーの期待を高めることはできても、実際に作品を見たら思ったよりも……となってしまうと、せっかく高額な予算を割いてもユーザー離れに繋がってしまいます。これは広告を配信する側の視点としても、「面白い」に対する説得力や裏付けがしっかりとしている作品は、広告効果の広がりや手応えを感じることが多いです。

 

 

■個人でSNS広告を配信するメリットとデメリットについて教えて!

過去にもいくつか事例はありましたが、プロでなくても広告を配信したり、展開したりすることは可能な時代になりました。個人で広告を配信できる現状において、そのメリットとデメリットも聞いてみました。

 

広告配信はやらないよりもやった方がいいのは当たり前です。その前提の上で、作者ご本人が配信することのメリットとしては、作品の訴求ポイントを一番理解していることだと思います。あとは代理店に手数料を取られないこともメリットとして捉えてもいいかもしれません。また、広告の配信におけるクリエイティブ(画像や映像素材)も、訴求を高める上での大きな役割を担っています。そういった素材の制作に時間をかけることや、外注時におけるディレクションをご自身できちんとこなすことができるのであれば、満足感の高い配信ができるんじゃないでしょうか。

 

一方で、広告配信の仕組みを理解していないと、本来拡散したい層にアプローチできなかったり、広告の配信が狭い範囲で終わってしまうことも珍しくないかなと思います。広告運用という専門知識を持っているからこそ、効率のよいターゲティングを設定できますし、配信の状況に応じた細やかな対応も可能となります。Twitter広告の配信ひとつとってみても、クリック最適化(広告をクリックしやすいユーザーに当てる方法)やエンゲージメント最適化(広告に反応を示してくれやすいユーザーに当てる方法)、複数の画像を用いた広告のフォーマットであるカルーセル広告など、配信の手段や方法は多岐にわたります。広告を出稿する以上は、より高い効果を狙っていくという意味においても、商品のジャンルに対してノウハウを持った代理店の活用は意味のあることだと思います。

 

 

■他社の配信広告を分析してもらった

具体的にこの広告について……というものをお出しはできないものの、実際に配信されているSNS広告を見ながら、流行や狙いなどを分析してもらいました。

 

昨今の広告配信のクリエイティブ素材は、奇抜とまでは言えないものの、かなりひねったものが増えてきていると感じます。これは出版界隈だけに限った話ではありません。広告配信には掲載のためのフォーマットがあるわけですが、そのフォーマットを活かしたクリエイティブが特に増えている印象を受けます。カルーセルとして掲載するだけでなく、より工夫した見せ方をするクライアントは増えてきている印象を受けます。また、静止画や映像ひとつとってみても、プロモーション全体を意識、見据えた登用が目立つようになっていると感じます。映像も画像もただ作るだけではなく、その素材を広告としてもどう活かすかまで考えられている印象です。また、WEB広告の市場規模や登用が広がったことによって、交通広告などへの原点回帰のように見受けられる広告もちらほらと増えている印象です。コストパフォーマンス、数値や効果をしっかりと追いかけるならWEB広告は強いですが、渋谷や新宿などにある巨大ビジョン広告などは、視覚的に「この作品にはお金がかかっている」ことを印象付けることができます。CMには「3回見ると覚える」という格言もあって、5回や6回と見ることで、どんどん覚えがよくなるわけです。

 

また、Twitterでは広告出稿の増加に伴い、カルーセルの枚数を限界まで使用しないなど、広告がシンプル化している印象も受けます。特にSNSは受動の媒体なので、脳死でも目に留まる広告を意識しているんじゃないかなと感じます。ほかにも音感の良さで読める、読ませるキャッチコピーも目を引くことが増えていますし、様々な工夫が凝らされているなと思います。

 

 

■プラットフォームの特徴

一言でSNSと言っても、プラットフォームは数多くあります。媒体ごとに適した広告はあるのか、さわりの部分だけ聞いてみました。

 

まずTwitterですが、プラットフォーム自体が文字ベースで成り立っています。インスタグラムだと写真などの視覚的な要素が多いですよね。あくまで一例ですが、文字を訴求しなければいけないライトノベルとインスタの相性は、お世辞にもいいとは言えないかもしれません。一方でインスタグラムはカルーセルが多く設定できるという特徴があり、内容訴求の広告が多い印象です。もしインスタでライトノベルの広告を展開するのであれば、口絵や挿絵を利用しての訴求がいいのかもしれません。

 

 

■最後に

なぜ広告を打つのか、広告を掲載したらどんな効果をもたらす可能性があるのか、広告は作品の根本的な力と噛み合わさることで絶大な力を発揮するなど、広告の考え方における片鱗について話を聞きました。あらためて広告を打つにあたって、大切なことを聞いてみました。

 

広告を打つか打たないかでいうと、打った方がいいです。そして打つなら1回で終わらせない方がいいです。1回打った広告の結果から、何がよくて何が悪かったのか、そこから次へと繋げることができるからです。実施することで思わぬ糸口が見つかることもありますし、効果が悪かったとしても悪かったという分析結果を得られます。本の売り方、売られ方、インターネット内外でアンテナを張り続け、運用上で培ったノウハウをしっかりと繋げることが、プロの広告運用者としてみなさんのお手伝いに繋がると信じています。その結果が、市場の広がりへの一歩に繋がっていったらいいなと願っています。

 

 

kiji

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