独占インタビュー「ラノベの素」 伊尾微先生『あおとさくら』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2022年7月15日にGA文庫より『あおとさくら』が発売された伊尾微先生です。第14回GA文庫大賞にて「金賞」を受賞し、満を持してデビューされます。学校外の図書館で出会った少年と少女が、お互いにかかわることで成長していくピュアな思春期と青春の物語を描く本作。作品誕生の裏側はもちろん、主人公の蒼やヒロインの咲良、さらにはそんな二人が悩みや諦めの中で少しずつ変化していく姿についてなど様々にお話をお聞きしました。

 

 

あおとさくら

 

 

【あらすじ】

クラスになじめない高校生・藤枝蒼。彼は放課後通い詰めていた地元の図書館で、一人の少女と出会う。「私の名前、教えてあげよっか」「いいよ、別に」 日高咲良と名乗る彼女は、明るく屈託がなくよく笑う、蒼と対照的な少女だった。通う高校も違えば、家も知らない。接点は、放課後の図書館だけ。共通の話題すらないままに、なぜか咲良に惹かれていく蒼。しかし、蒼と咲良、ふたりには人には言えない秘密があった――。「やっぱり君、変な人だね」 その出会いはやがて、恋へと変わる。少しずつ、歩くような速さで。きっと誰もが憧れる、最高にピュアな青春ボーイミーツガール。

 

 

――まずは自己紹介からお願いします。

 

第14回GA文庫大賞にて「金賞」をいただきました伊尾微です。出身は岡山県で、現在は京都在住で執筆をしています。書籍の出版や受賞は今回が初めてで、小説の執筆は中学高校くらいから少しずつ、そして大学の卒業を機に1本書き上げて送り、今に至ります。好きなものは小説で、読むのも書くのもどちらも好きですし、絵を描いたりだとか、美術関連のギャラリーに足を運ぶのも好きです。苦手なものは高所恐怖症なので高いところ、あとはキノコやワカメ類が苦手ですね(笑)。最近は税金まわりの知識に興味を持つようになったのと、ネットで競馬の馬券を買うようになりました。あとはコーヒーも美味しくて好きです。

 

 

――小説から始まり、お好きなものや興味を持たれている分野が多岐に渡っていますね。競馬に興味を持たれているというお話も、ウマ娘をはじめとした最近のムーブメントの影響もあるのでしょうか。

 

そうですね。ウマ娘の影響はもちろんあるんですけど、前回の本賞の受賞作である『ブービージョッキー!!』の影響もかなり大きかったです。とはいえ、何も知識がないまま好きな名前の競走馬の馬券を買っているだけなので、勝率はボロボロなんですけど(笑)。

 

 

――ありがとうございます。執筆歴にも触れられたらと思うのですが、大学卒業にあわせて公募用の作品を書き上げたというお話でした。それが今回の受賞作ということになるのでしょうか。

 

はい。長編の作品として初めて、公募用に書き上げたのが本作になります。そもそも長編を書こうとしたのが大学に入学してからで、それまでは4万文字前後で筆を置いては蓋をするという状況を繰り返していました。そのくらいの文字数までいくと、「これはやっぱり面白くない」と、ずっと辞めてしまっていたんです。そんな中で、自分と同じように小説を書いていた友人に「小説を書けるんだったら公募に出せ」と言われたんです。その言葉で個人的に踏ん切りがついたというか、まずは1本しっかりと書き上げてみようと思いました。

 

 

――なるほど。ご友人に背中を押されて1本の書き上げを目指されたわけですが、4万文字で止まっていた頃と比べて、自身はどのような変化を感じながら執筆を続けたのでしょうか。

 

まず、公募をより具体的に意識したことが大きかったです。それと自分自身、1本を書き上げるにあたって、どうして途中で折れてしまうんだろうという振り返りもしました。自分の場合、設定を考える際どうしても少し難しい方向に走りたくなってしまうんですが、今回はそこを抑えてシンプルさを常に心がけるようにしたんです。難しくし過ぎず、自分の書ける範囲で留めようとしたことが功を奏し、1本書き上げるに至れたんじゃないかなと思います。とにかく書き終えた後は、「自分もやればできるじゃん」と安心した気持ちと嬉しい気持ちがありました。締切も一応考えてはいて、4月や5月の公募締切が集中している期間に照準を合わせていました。限られた時間の中、そこに向けて書き上げることができたという結果は、自分にとって本当に大きな自信に繋がりました。

 

 

――それではあらためて、第14回GA文庫大賞「金賞」受賞おめでとうございます。受賞の連絡を聞いた時はいかがでしたか。

 

最初に連絡をいただいた時は、仕事終わりで買い物に行こうとしていたタイミングだったと思います。電話が一本入っていることに気付いてかけ直したら「GA文庫です」と言われて。僕は受賞の連絡がどんな感じでくるのかよくわかっておらず、かけ直した電話で本名を名乗ったんですが、編集部さん側からも「誰?」みたいな(笑)。そこで「伊尾先生ですか?」と言われ、受賞を知ることになりました。ただ、買い物に行く途中だったので、あらためてかけ直す旨を伝えて電話を切りました。

 

 

――電話をかけ直して、詳細を聞く前に一度電話を終えられたと。よほど買い物を急がれていたんですね(笑)。

 

いえ、そういうわけではなく、ただただ正常な判断ができていなかっただけです(笑)。「今お話できますか」という電話口の声と、「買い物に行かなくちゃ」という脳内の声があって、なぜかその時は買い物が勝ってしまった(笑)。テンションが上がってスーパーまでダッシュしちゃいましたけど、買い物しながら落ち着けたのはよかったですね。

 

 

――なるほど(笑)。公募についてGA文庫大賞を選んだのは、何か理由があったのでしょうか。

 

先程も少し触れましたが、4月5月のタイミングは様々な公募の締切が集中していて、GA文庫さんが割と近かったことも大きかったです。僕自身、公募はライトノベルというジャンルに絞っていたわけではなく、初めて作品を応募するにあたって、今後のことも考えて評価シートをいただける賞がいいなと考えた結果でもありました。ジャンルについても、ラノベでもライト文芸でも、どちらにも振れる作品だと思っていたので、評価シートを目当てにまずは送ってみようと考えました。

 

 

――公募への初めての応募作が見事受賞を果たしたわけですが、伊尾先生はもともと小説家を目指されていたんですか。

 

どちらかというと目指していた、ってことにはなると思うんですが、明確な目標を持って「なるぞ!」というよりは、「なれたらいいな」という漠然とした感じだったと思います。他の仕事や職業にも「やりたい、やってみたい」という思いが脳裏を過ぎっていったことはありましたけど、小説家になりたいという思いだけが、漠然としまま消えずに残り続けていたんです。ただ、公募や評価される場所に自分の作品を出してしまったら、自分の現在地を突き付けられるじゃないですか。そこに少しビビっていたところもあって、なれたらいいなとは思い続けていたけれど、なるためのステップは一歩も踏めずにいました。友人からの一言が、結果として自分の環境を大きく変えるきっかけになりましたね。

 

 

――それでは受賞作『あおとさくら』はどんな物語なのか教えてください。

 

タイトル通り、一人の少年・蒼と一人の少女・咲良の出会いから始まる物語です。それぞれお互いに悩みや人には言えない秘密を持っていて、そんな二人が図書館で出会い、話をするようになり、少しずつかかわりを持つようになっていきます。そのかかわりの中で、自分たちの抱えているものと向き合ったり、周囲に少しばかり目を向けられるようになったりする。自分を見つめ直すことや、自分の事を認められるようになっていく、そんな思春期の少年少女の青春模様を描いた物語になっています。

 

あおとさくら

※図書館での出会いが少しずつ二人を変えていくことになる

 

 

――本作の着想についても教えてください。

 

この物語は、最初に主人公とヒロインとが対になるお話にしようと考えました。特に主人公は、自分が高校時代に思っていたことや考えていたことを思い返しながら書こうと。そんな主人公に対して、ヒロインは話をしたら心地いいだろうなっていうキャラクターを目指しました。本作はキャラクターから始まった物語なんだと思います。主人公の持つ世の中や周囲に対する不満や否定的な部分、また主人公の目を通して描かれている風景や情景は、自分が日頃から思っていてメモしていたところから採用している感じです。

 

 

――キャラクターからスタートした物語ということですが、個人の印象として本作で描かれる青春模様は、恋愛以上に思春期ならではの悩みや葛藤との向き合い方にフォーカスされた物語という印象を受けました。

 

思春期的な要素が強めだという点については、自分でもかなり強く意識した部分ではあります。恋愛を大きく前に押し出すというより、人間的な誰しもが抱えていても不思議ではない気持ちや考え方が、ヒロインと出会うことで少しずつ変化していく。後ろ向きな思考から前を向いて歩きだすまでの過程とでも言えばいいんですかね。思春期はどうしても盲目的な部分があると思うし、いろんな意味で馬鹿をやっていると思うんです。だからこそ、誰かとかかわることで、様々な方向に大きく変わっていくことができる。主人公がどう変化していくのか、という点が本作における魅力になっているんじゃないかなと思います。

 

あおとさくら

※本作では気持ちや心情に触れられるシーンも多く、キャラクターの成長を強く感じることができる

 

 

――それでは本作に登場するキャラクターについて教えてください。

 

藤枝蒼は、ある時期をきっかけに笑えなくなってしまった少年です。笑えなくなったことで、他人とも距離を置くようになり、いろんなことに対して諦め癖がついてしまいました。他人との関わりが減った状態で高校2年生に進級し、そんな蒼が咲良と図書館で出会い、自分と向き合うきっかけを得ることになります。思い悩みつつも、自分が見ないようにしていた問題と向き合っていくことになります。

 

あおとさくら

※笑うことができなくなってしまった主人公・藤枝蒼

 

日高咲良は、蒼の視点で見ると元気で活発、その場にいたら雰囲気を明るくしてくれる女の子です。しかし、そんな彼女も時折遠くを見つめているようなキャラクターでもあります。彼女自身もちょっとした秘密というか隠し事を抱えており、蒼と同じようにその事実と向き合っていくことになります。明るいけど、アンニュイな表情も垣間見せる不思議な女の子です。

 

あおとさくら

※蒼と交流を持つようになる日高咲良

 

茶屋みずきは咲良と親友という立ち位置の少女です。ビジュアルも非常に可愛い女の子で、咲良と並ぶと見た目や性格でのメリハリがあるキャラクターになってます。

 

あおとさくら

※咲良の親友だという茶屋みずき

 

高瀬はいかにもな爽やかスポーツマンで、蒼とは対照的に高校生活を楽しんでいる男子です。蒼とセットで登場するシーンが多く、ある意味で蒼の成長や変化をわかりやすく示してくれるバロメーター的存在でもあります。読者のみなさんも二人が一緒に登場した時は、蒼の成長が読み取れるんじゃないでしょうか。

 

 

――ありがとうございます。シチュエーションの面でもお聞きしたいのですが、本作の主人公とヒロインは異なる学校の生徒で、校外の図書館が出会いの場となりました。出会いの場を同じクラスや同じ学校にしなかった意図があればぜひ。

 

僕はライトノベル全体を広く見ているわけではなく、浅い知識ではあるんですが、いわゆる青春恋愛ものの作品では同じクラスや同じ学校、場合によってはひとつ屋根の下やお隣さんといった、主人公とヒロインの隣り合わせのシチュエーションが多いんだろうなと感じています。なので、違う学校の主人公とヒロインで描く物語は、決して多くはないんだろうなと認識はしていました。正直な話、ものすごく深い意図があったわけではありません。ただ、僕自身が学校や職場など環境を同じくする人たちとは異なる人と出会うことに特別性を感じているところがあるんです。同じ学校や家、いつも近くにいないからこそ、二人の出会う時間に対する意味や密度は濃くなるんじゃないか。そして蒼と咲良も、図書館以外の会えない時間が多いからこそ、内々で考える時間が増えると思うんです。本作は蒼の心情をより強く書きたいと思っている部分もあり、会えない時間が多いからこそ描けている心情描写も多いですし、主人公から見えるヒロインの姿が、そのまま読者のみなさんの印象にも繋がるんじゃないかなと。そんな感じです(笑)。

 

 

――続いて、書籍化にあたり本作のイラストを椎名くろ先生が担当されています。情景や雰囲気、蒼から見た咲良の姿など繊細なイラストも特徴的です。あらためてキャラクターデザインを見た時の印象や、お気に入りのイラストについて教えてください。

 

書籍になるということは、自分の考えたキャラクターにイラストがつくということで、それが自分のこととして起こったことに言い表しようのない嬉しさを感じました。キャラクターデザインも椎名先生が細かなところまで読み込んで描いてくださっていることを感じましたし、非常に嬉しかったです。特に蒼のイラストを見てからは、蒼が自分の頭の中でより明確に動いてくれるようになりました。椎名先生の描く光の加減や空気感も好きで、とにかく素敵なイラストを描いてくださって嬉しい気持ちが大きいです。お気に入りのイラストは花火大会で手をつないで歩く二人を描いた口絵、あとは図書館で笑っている咲良の挿絵が印象に残っています。自分としてはずっと見ていられるイラストですね。とはいえ、選ぶのが難しいくらいどのイラストも素敵なので、ぜひ読者のみなさんにも見ていただきたいです。

 

あおとさくら

 

あおとさくら

※伊尾先生が特にお気に入りだというイラスト

 

 

――あらためて著者として本作の見どころ、注目してほしい点を教えてください。

 

注目してほしい点は、やはり二人のかかわり合いになると思います。どうかかわろうとして、かかわった上でどう変化していくのか、そういう部分に注目してもらいたいです。また担当編集から、この作品は最終選考の際、編集部の30代半ばくらいから20代の若いみなさんが特に推してくださったと聞いています。学生の方はもちろん、若い方に支持していただける物語になっているんじゃないかと思いますので、ぜひ手に取っていただけたらと思います。

 

 

――今後の野望や目標があれば教えてください。

 

目標としてはまず、できる限り長く作品を出し続けていくことです。そして自分の書いた物語が、コミカライズや映像など、様々なメディアに派生することができたら嬉しいなって思います。

 

 

――最後に本作へ興味を持った方、これから本作を読んでみようと思っている方へ一言お願いします。

 

まず本作に興味を持っていただけたことが嬉しいですし、自分としても楽しんでもらえる作品ができたんじゃないかなと思っています。思春期や青春というキーワードでお話をたくさんしましたが、蒼と咲良の関係性や、二人のやり取りにも楽しさを感じていただければと思っています。蒼と咲良の二人が今度どうなっていくのか、ぜひ楽しみにしてもらえればと思います!

 

 

■ラノベニュースオンラインインタビュー特別企画「受賞作家から受賞作家へ」

インタビューの特別企画、受賞作家から受賞作家へとレーベルを跨いで聞いてみたい事を繋いでいく企画です。インタビュー時に質問をお預かりし、いつかの日に同じく新人賞を受賞された方が回答します。そしてまた新たな質問をお預かりし、その次へと繋げていきます。今回の質問と回答者は以下のお二人より。

 

第28回電撃小説大賞「大賞」受賞作家・白金透先生

 ⇒ 第14回GA文庫大賞「金賞」受賞作家・伊尾微先生

 

【質問】

アイデアの発想法についてお聞きしたいです。自分はミステリー作家さんのエッセイも読んだりするんですけど、トリックをどう考えているのか、設定をどう広げているのか、非常に気にしながら読んでいます。作品の設定やキャラクターをどう考え、どう広げて作っているのか。自分の場合は作品によって違うところもありますが、基本はひとつのアイデアを中心に、逆算しながら物語を広げていくスタイルです。ぜひ作品の発想方法について教えてください!

 

【回答】

僕の場合は、メインになってくるキャラクターやその関係性を最初に考えることが多いです。特に出会いの部分から入ることが多い気がしますね。メインのキャラクターとの関係性があり、そこにワンアイデアを放り込む。結末や物語の核からの逆算ではなく、物語の始まりに重きを置いているかもしれません。もちろん結末も考えはするんですけど、執筆しながらコロコロと動いていく感じでもあるので、発想における意識としては「始まり」が強いかもしれません。

 

 

――本日はありがとうございました。

 

 

<了>

 

 

一人の少年と少女の出会い、そしてかかわりあうことで変わっていくピュアな青春模様を綴った伊尾微先生にお話をうかがいました。人との出会いによって、見える景色も考え方も少しずつ変化し、成長へと繋がっていく物語を描いた『あおとさくら』は必読です!

 

<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>

 

©伊尾微/ SB Creative Corp. イラスト:椎名くろ

kiji

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『あおとさくら』特設サイト

GA文庫公式サイト

 

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あおとさくら (GA文庫)

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