独占インタビュー「ラノベの素」 DREノベルス創刊記念vol.1 裕時悠示先生&小原豪編集長スペシャルインタビュー
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2022年10月7日に創刊するDREノベルスより『99回断罪されたループ令嬢ですが今世は「超絶愛されモード」ですって!?〜真の力に目覚めて始まる100回目の人生〜』が発売された裕時悠示先生と、同レーベルのトップであり、本作の担当編集も務める小原豪編集長のお二人をお招きしました。小原編集長にはDREノベルスの狙いや目指すもの、創刊の裏話などを中心にお聞きしているほか、裕時悠示先生には女性向けの要素が強い本作についてはもちろん、キャラクターの考え方や作品との向き合い方など様々にお聞きしました。
【あらすじ】 聖女暗殺の濡れ衣を着せられ、冷酷皇子に婚約破棄されて処刑される人生を99回ループしてきた公爵令嬢アルフィーナ。しかし100回目の今世は真の力に目覚めてしまい、周囲の人間の“心の声”が聞こえるようになってしまってさぁ大変。冷酷皇子や隣国王子に「実は超愛してた!」とか聞かされたり、聖女の醜い正体を知っちゃったり、ああっもう!「超絶愛されモード」なんて知りません、聖女に一発やり返したら国外逃亡しますので、皆さんついてこないでくださいね!! |
――小原編集長、DREノベルス創刊おめでとうございます。裕時先生も半年ぶりですね。ご無沙汰しております。
小原豪(以下、小原):ありがとうございます。本日はよろしくお願いします。
裕時悠示(以下、裕時):おひさしぶりです。あらためて本日はよろしくお願いします。
――それでは早速ですが、まずはDREノベルスの創刊について経緯を教えていただいてもよろしいでしょうか。
小原:はい。ドリコムメディアの理念でもあり考え方のひとつとして、IP価値の最大化があります。IPの創出から育成まで、社内で一気通貫に行える形を目指している点が特徴になります。0から1を生み出すだけでなく、書籍化からアニメ化を含めたメディアミックス戦略、つまり1から100までをすべて社内でプロデュースできる体制を作っていく。そうしてドリコムメディアは動き出し、この理念と体制に魅力を感じてメンバーが集うことになりました。
――ドリコムはゲーム会社というイメージも強く、大規模な出版事業部の立ち上げには大変驚かされました。
小原:おっしゃる通り、ドリコムはゲームのイメージが強い会社です。一方で、IPを軸にしたコンテンツを世界へ提供していく総合エンターテイメント企業を目指している会社でもあります。ドリコムメディアはその企業理念と一致したことで動き出した事業になるんです。体制もなかなか他の出版社とは違っていて、たとえば書籍の制作を行う際は編集者が中心となって進めていくことが多いと思うのですが、ドリコムメディアでは編集メンバー以外の宣伝やメディアミックス担当など、全員が企画会議に出席し、それぞれの視点からIPをヒットさせよう、最大化させようという視点で携わっているのが強みだと考えています。立ち上げメンバーも出版社の出身だけでなく、映像やゲームメーカーなどのプロフェッショナルが揃っているので、しっかりした作品をお届けすることができると思っています。
――なるほど。そうして動き出したDREノベルスですが、発表されているラインナップを見てみると、女性向けの作品が想像よりも多いなと感じました。
小原:現在は女性向けの作品がジャンルとしても元気な点と、コミックをメインとしたメディアミックスを視野に入れると、非常に期待ができるジャンルだと考えているからです。なので、我々としても男性向けの作品だけに絞る理由はないかなと考えています。男性向け、女性向けを一緒にやっているレーベルはもちろん、各出版社から女性向けレーベルの立ち上げ話も耳にする昨今ですので、DREノベルスとしても、まずは一緒にやってみようという感じで動いています。とはいえ、基本的なスタンスは自分たちが面白いと思うものを選ぶという、編集者として当たり前の視点を大切にしていますし、現在の市場で戦える作品をプロデュース、IPとして広げていけるビジョンが見える作品を優先して取り組んでいく感じです。
――ありがとうございます。続いて裕時先生にもお話をうかがっていきたいのですが、あらためてDREノベルスのお話を聞いた当時を振り返っていただけますでしょうか。
裕時:遡ると2019年末くらいから約1年間、小説投稿サイト「小説家になろう」に別名義で作品を投稿していた経緯があります。その中に、今回の創刊ラインナップに選んでいただいた『99回断罪されたループ令嬢ですが今世は「超絶愛されモード」ですって!?』のベースになっている作品がありました。正直、書きかけというか、未完のままの、いわゆる「エタっていた」作品なんですけど(笑)。放置の理由ははっきりと思い出せないのですが、それから1年近くが経ち、小原さんがGA文庫を辞められて新しいレーベルを立ち上げるというお話を耳にしました。僕としては「ついに新しい道に旅立たれるのか」と思っていたところ、声をかけていただいて。おそらく僕とは知らずにWEB上で読んでいたんだと思うんですけど、エタっていた作品を書籍として出しませんかと。
小原:最初は裕時先生の作品だとは知らずに、読んでいて面白い作品だなと思っていました。令嬢ものは個人的にも大好きで、WEBでもかなり読み漁っています。ただ作品は面白かったのですが、エタっていて残念だなとも思っていました。その後、当時の同僚から裕時先生の作品であることを教えていただいて、エタっていたの裕時先生じゃんってなりましたよね(笑)。であれば、せっかくの機会なので、加筆して書籍化しませんかと打診させていただいた感じです。
――そうだったんですね。そして新レーベルである「DREノベルス」の創刊ラインナップに名前を連ねられることになったわけですが、レーベルの創刊に関わる機会はそう多くはないと思います。裕時先生ご自身、実はかなり待望されていたとか。
裕時:そうですね、率直に言ってめちゃくちゃ嬉しいです(笑)。自分は第2回GA文庫大賞の受賞者ですけど、あと1回早ければ初代受賞者でもありました。でも僕は第2回なんです。待望と言うとやや大袈裟ですけど、自分の中では最初の受賞や最初のラインナップに大きな憧れがありました。以前に小原さんとは「建国の元勲」というお話をしたんですよ。俺たちがこの国を作ったんだみたいな、最初の立役者のことですね。そういうのって後からでは絶対に関われないわけじゃないですか。どうやっても第1回に参加するっていうのは最初の1回しかなくて、その後にどれだけのヒット作を出そうとも、第1回に加われるというチャンスは滅多にありません。だからこそ単純にお声をかけていただいて本当に光栄だし嬉しかったです。ついに第1回に自分の名前を連ねられるチャンスが巡ってきたという、本当に嬉しく思っています。
――前回のインタビューでも触れているのですが、YouTubeやTwitterを始められたお話。そしてGA文庫以外からの書籍出版。2022年は裕時先生にとって変化の1年なのかなと感じてしまいます。
裕時:出版されている記録というか、外側から見ると2022年は大きな変化の時期に見えるかもしれません。とはいえ、僕自身は2年程前から少しずつ進めてきていることの延長線上でもあって、その結果がたまたま2022年に重なっただけでもあるんですよね。講談社ラノベ文庫もDREノベルスもいろんなタイミングと巡り合わせがあって今年になっているというイメージです。別にズレていてもおかしくなかったんですけど(笑)。
――ありがとうございます。それでは創刊ラインナップとして発売された『99回断罪されたループ令嬢ですが今世は「超絶愛されモード」ですって!?』がどんな物語なのか教えてください。
裕時:いわゆるループものの作品になりますが、そのコメディ版と言ったらいいでしょうか。ループものの作品は『ひぐらしのなく頃に』をはじめとして大好きなんですけど、どうしてもシリアスな印象が強いと思うんです。令嬢ものでもループものはありますが、やはりシリアスに寄せた作品が多いのかなって。本作については真逆とまではいかずとも、コメディ的な味付けが強い作品かなと思います。内容はタイトルの通りで、99回断罪され、皇子様には婚約を破棄されてしまうヒロインですが、99回も人生を繰り返しているがために「はいはいそうですか」というノリになってしまっています。そんなヒロインの100回目の人生では、突然人々の本音が聞こえてしまうという能力に目覚めるんです。そうして自分を嫌っていたと思っていた人々が、実は好いてくれていたことを知ることになるのですが、ヒロインはそんな人々に愛されて国に安住することを既に望んでおらず、一人で生きていくので邪魔をしないでくださいっていう、そんなお話です(笑)。
※ループ100回目の世界ではあらゆる人たちの本音が聞こえるようになって……
――これまでの刊行作品を顧みても、裕時先生が女性向けの作品を手掛けることに驚く読者も多いと思います。もともとはWEBに投稿されていた作品ですが、令嬢ものの作品を書いてみようと考えたきっかけはなんだったのでしょうか。
裕時:小説を投稿していた当時、「小説家になろう」をどう攻略しようか、ランキングの上位にはどうすれば載ることができるのか、自分なりに考えていました。一方で、ランキングの上位に行くためならなんでも書くのかと言われるとそういうわけでもなく。これは僕の中の執筆における基準ではあるのですが、自分が読んでいて脳汁が出ないと書けないんですよ(笑)。たとえば今流行っているラブコメジャンルでも、自分が読んで脳汁の出る作品と出ない作品があります。脳汁が出るタイプの作品は、自分でも書けるんじゃないかと思うんですが、脳汁の出ないタイプの作品は、これは書けないなって思ってしまうんです。
――なるほど。「脳汁」が出たことによって、令嬢ものの作品に「書ける」を感じたと。
裕時:当時、「小説家になろう」の上位作品をいろいろと読んでいて、令嬢に類する作品の中でも強く影響を受けた作品がいくつかあるんです。先日アニメ化も発表された『ティアムーン帝国物語』、あとは宣伝っぽくなってしまいますが、ひだかなみ先生がイラストを担当されている『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』などですね。このあたりの作品は脳汁がすごくて、自分でも書けるんじゃないかと感じたんです。なので、男性向けも女性向けも自分としてはあまり関係なく、脳汁の有無で挑戦を考えたわけですね(笑)。
※処刑の運命を99回繰り返した令嬢の物語が動き出す――
――例として挙げていただいた作品を見ると、本作と同様にコメディも重要な要素のひとつなのかもしれませんね。
裕時:確かにそれもあるかもしれません。また、『ティアムーン帝国物語』も『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』も、昔からある王道ストーリーのカウンター的な作品だとも感じています。乙女ゲームという大本の原作というかテンプレートがあって、それに対する皮肉のようなものが悪役令嬢ものにはあると思うんです。自分としては、そういう物語に面白さを強く感じるんですよね。
――小原編集長はWEB投稿時から読まれていたわけですが、本作のどんな点に魅力を感じていたのですか。
小原:私は日常シーンが面白い作品が好きで、本作もその点で合致したところが多いという印象です。加えて、各キャラクターの本音が聞こえるというギャップが新鮮で、一気に読める面白さだと感じました。
――書籍刊行に向けては、裕時先生とはどんなやり取りがあったのか教えてください。
小原:書籍化にあたっては1回書き上げていただいた後に、改稿していただいた部分もかなりありまして。主人公でありヒロインでもあるアルフィーナの元気でガサツなキャラクター性は、より色濃くなるようお願いさせてもらいました。改稿後の原稿も想定以上に面白くなっていましたし、伏線の入れ方もさすがだなと。1冊として読み応えのある作品になったと思います。
裕時:僕は小原さんと初めて作品を一緒に作らせていただいたんですけど、LINEですぐに返事をくれるんですよ。その内容も割と的確っていう(笑)。
小原:ありがとうございます(笑)。
裕時:アドバイスをリアルタイムに近い感じでいただけたので、非常に助かった印象が強いです。どうしても執筆をしているとテンションのタイムラグができちゃうので、高いテンションの時にしっかりとした返事をいただけていたのは、非常に心強くて頼もしかったです。
――特に揉めたりはしませんでしたか(笑)。
裕時:揉めたわけではないですけど、小原さんがライオネットの名前をずっと間違って言ってて、「名前、ライオネットです。聖闘士星矢のライオネット蛮のライオネットです」って言ったら一発で理解してくれましたね(笑)。
小原:それからはもう間違えなくなりましたからね(笑)。
――本作は女性向けを強く意識されたわけではないということではありますが、やはり男性向け作品との違いもゼロではないと思います。注意した点や発見などはありましたか。
裕時:一番考えたのはキャラクターの外見設定かもしれません。どんなヒーロー、どんなヒロインが読者に受け入れてもらえるのかというデザイン面ですね。特に髪の色や瞳の色などはまったく想像できなかったので、小原さんや編集部の女性の方などに相談したり、お力を貸していただいたりしました。自分で女性向けを意識するにしても限界があると思っていますし、そもそも感性だって違うわけじゃないですか。「こういうシーンや設定なら喜んでもらえるだろう」っていう浅い考えで書いても、逆に見透かされて、そっぽを向かれちゃうだろうと思っていたので。今作に関しては、わからないことは素直に他人に頼っていくことを意識しながら執筆しました。発見については、令嬢ものを執筆したのはまだ1作目なので、書けば書く程に謎は深まっている印象もあります。ただその点に関して言えば、男性向けのラブコメでもあまり変わらないんですよ。『俺修羅』はシリーズとして18巻まで書きましたけど、時代による変化もありますし、何が喜ばれて何が喜ばれなくなるのかもリアルタイムで変化していくわけじゃないですか。作品を書くたび、刊行するたびに新しい発見があるので、どちらかというと常に手探り状態っていう感じではあるかもしれませんね(笑)。
――それでは続いて、本作に登場する主要なキャラクターについても教えてください。
裕時:主人公でヒロインのアルフィーナは、独立独歩な人間ですね。ループを繰り返して100回生きているので、恋愛をはじめとした人間関係は不要という境地に達しています。好意でも悪意でも自分を縛るものから逃げたいという想いが強い反面、お人好しでもあるため、なんやかんやと関わって、その結果追いかけられてしまうことになります。トラブルに巻き込まれやすい主人公ですね。
※100回目の人生では自由を望むアルフィーナ
裕時:ヒーローの一人、ライオネット皇子は純粋で真っ直ぐで猪突猛進なキャラクターです。決めたらとことん突き進むのですが、恋愛面に関してはかなりこじらせていて、好意を素直に向けることができません。周囲の評価は冷徹でクール、決断力もあるため冷酷に見える一面も。なのに恋愛では本音を口にできない可哀想な人です。アルフィーナには本心の聞こえる魔法でだだ漏れ状態ですが、ライオネット自身はそのことを知らないので、もしその事実を知ったら自棄を起こしてしまうのでは、と心配なキャラクターです(笑)。
※不本意にアルフィーナを処刑し続けてきた皇子ライオネット
裕時:キスリングも一応ヒーローの一人なんですが……彼はもう頑張って生きてくださいって感じです(笑)。物語のコメディ部分を一手に引き受けているキャラクターですし、運命的にもちょっと不幸な立ち位置にいます。物語の中で一番変転しているキャラクターなので、そのあたりを読者の方には楽しんでいただければなと思います。
※物語の中で最も変転してしまうキスリングは必見
裕時:ヤヴンロックもヒーローの一人で、ライオネットのライバルでもある隣国の王子です。こいつはもう完全にイっちゃってますよね(笑)。僕も書いていて「なんでこいつはこんなことをしているの?」って思っちゃったキャラクターで、制御の難しいキャラクターです。アルフィーナは相手の本心を読めるわけですけど、それをもってしても何を考えているのかわからないぶっ飛び具合を楽しんでいただけたらなと思います。
※ヤヴンには歌唱パートも存在するのだが……
裕時:そしてアルフィーナをループさせ続けた張本人でもあり、悪役でもある聖女のデボネア。彼女はもうブタさんです。とんでもないブタ野郎なので、これは書籍を読んでいただいて(笑)。ひだかなみ先生の可愛いイラストでも描かれているので、そんなブタじゃないだろうって思うかもしれませんが、みなさんの想像する100倍くらいブタなので、ブタ具合を楽しんでいただければなと思います(笑)。
※真の聖女でありながら中身はブタさんで……!?
――ブタさん呼ばわりされてしまっている聖女デボネアも、非常に癖の強いキャラクターですよね。
裕時:令嬢ものの作品をいくつか読んでいくと、正ヒロインのポジションに相当する「聖女」っていう存在を多く見かけました。基本的には光と闇で言うなら、光側のキャラクターになるのですが、こういうヒロインが心の中でどんなことを考えていたら面白いかなと思った時に、「この力ですべてのイケメンは私のもの!」と考えていたとしたら面白いだろうと。その結果のブタさんです(笑)。
――本作のキャラクターで気に入っているキャラクターがいれば教えてください。
裕時:今回小原さんと一緒に改稿する中で、主人公のアルフィーナがかなり好きになりました。WEB版と比べても一番変化したキャラクターだとも思っていて、元気でガサツなヒロインを強調しようというアドバイスをもとに書き直したんですけど、それで一層好きになりましたね。書き直したアルフィーナのパワフルな生き方が自分でもしっくりきたんですよ。彼女の生き方に好感を持つことができたのは大きいと思います。これまで書いてきた作品においても、主人公級のキャラクターを一番好きになることがほとんどなかっただけに、自分でも少し驚いています。
※裕時先生も共感したというパワフルなアルフィーナの生き方に注目
――小原編集長はどのキャラクターが一番お気に入りですか。
小原:私は聖女デボネアが一番面白いなと思います。聖女ものも令嬢ものとは別にいっぱいあると思うんですけど、本当に酷いキャラクターなのに、本当の聖女の力を持っているというのは珍しいと思うんですよね。偽聖女であったり、本物の聖女の力を利用するキャラクターは多いと思うんですけど、本当に神から認められた凄い力を持っている。なのにブタさんっていうのが非常に面白い。極限まで利己的でダメな人間なので(笑)。
裕時:本当に神様から選ばれた一時代に一人の聖女なのは間違いないんですけど、そういう力を持ったら利用したいと思うのが人の本性というか、性だと思うので。その力でイケメンをゲットしまくり、みたいなことを考えてしまう人間が力を持ってしまい、その結果としてのブタさんなんだろうなって思います。もうデボネアについて語ろうとすると、ブタさんしか出てきませんね(笑)。
※本物の聖女の力を持ちながら歪みに歪んだデボネアの立ち回りからも目が離せない
――ありがとうございます。続いてはイラストについても触れていきたいのですが、本作のイラストはひだかなみ先生が担当されていますよね。
裕時:ありがたいお話で、ひだかなみ先生に担当していただけることが決まった時はすごく嬉しかったです。『はめふら』のお話もさせていただいたと思うのですが、山口悟先生の原作ありきなのはもちろんですけど、コミカライズを読んだ時の印象も強く残っているんです。原作の魅力に加えて、ひだかなみ先生のキャラクターデザイン力、イラスト力というか、漫画的な演出の力が非常に強く、どのキャラクターもすごく活き活きしているなって思ったんです。実際、デザイン面でも非常に助けていただいたと思っています。僕自身、初めて女性向けに挑戦するということもあって、ビジュアル面が思い描きづらかった。男性向けのラブコメであれば、自分の中でそれこそゲームやアニメ、漫画など男性視点から、ヒロインのビジュアルは思い描きやすいんですけど、それができなかったんです。ひだかなみ先生からアルフィーナのデザインをいただいた時に、一気に作品やキャラクターとしての輪郭がはっきりしましたし、視野が開ける感覚があったんです。10年以上作家生活を続けていますが初めての体験でした。これを体験できたというだけでも、令嬢ものに挑戦してよかったなって思いましたね。
※活き活きとしたキャラクターを描くひだかなみ先生のイラストも必見!
裕時:お気に入りのイラストはライオネットがアルフィーナのピンチに駆けつける時のイラストでしょうか。修羅場的な展開と、首から下げているペンダントのデザインのギャップが面白く、絵面としても非常に映えていて最高です。
※ペンダントとシーンのギャップはぜひ本書で確認してもらいたい
――編集者の視点からひだかなみ先生へ依頼するに至った経緯についてもお聞かせいただけますでしょうか。
小原:ひだかなみ先生にお願いしようと考えたのは、私自身『はめふら』を読んでいてファンでしたし、本作のような男性も楽しめる女性向け作品を思い描いた時に、パッと候補として導き出されたのがひだかなみ先生でした。かなりお忙しいはずではあるので、ダメ元でお声かけさせていただいたのですが、ご快諾をいただけたのは非常に嬉しかったです。男性向けの作品とは違い、わかりやすいサービスシーンなどがあるわけではないので、作品の面白さや魅力が一発で伝わるシーンを裕時先生と一緒に選び、イラストを手掛けていただいていますので、ぜひ多くの方に見ていただきたいですね。
――本作の見どころや注目ポイントを著者の視点と編集者の視点からそれぞれお聞かせください。
裕時:主人公が右往左往する様を一緒に楽しんでもらえたら、というのが僕なりの希望というか、見どころです。波乱万丈な人生を歩んでいる主人公でもあるので、その波乱万丈さを一緒に体験してもらえたらと思います。また、アルフィーナは誰とくっつけば幸せなのか、或いは誰ともくっつかず、カルルやヒイロと一緒に生きていくことが幸せなのか、読者の中でも意見が分かれるのかなとも思っています。アルフィーナの幸せの形を読者の方に想像してもらえるような読後感を与えることができたら最高だなと思いますね。
小原:何度もループしたからこそのアルフィーナの性格、そして相手の心が聞こえるというギャップ。それらのギミックが面白く、笑いながらしっかりと楽しめる作品になっているというところかなと思います。
――また、DREノベルスでは創刊ラインナップとして発表されている作品のいずれもがコミカライズされるわけですが、準備中の漫画への期待などもあればぜひ。
裕時:今作は漫画の方が向いているネタなのかなと個人的には思っています。ギャップの見せ方は、文章でイメージするよりもビジュアルで見せた方がわかりやすいこともあると思うんです。僕は漫画家ではないので、小説で表現するんですけども、ネタ的には漫画なのかなと。なので、ビジュアルとして見た際に、「なるほど、こういう感じだったんだ」っていう、僕の中での新たな世界が開けるのを楽しみにしています(笑)。
――作家生活12周年を迎え、そう遠くない未来には作家生活15周年という大きな節目を迎えることになると思います。先々まで見据えつつ、やってみたいことなどがあれば教えていただけますか。
裕時:ラノベに限らず、いろんなジャンルに挑戦したいという思いはあります。今の時点で、お話できるようなはっきりとしたビジョンがあるわけではないのですが、新しいジャンルに挑戦していかないとつまらないなって自分でも感じてしまうんですよね。他の作家さんはどうかわからないですけど、さすがに10年以上作家業をやっていると、少なからずマンネリを覚えてしまうところもあると思うんです。インダストリアルというか、工業製品的な感じで作品を作り上げていくことは決して悪いことではないし、読者に楽しんでいただけるぶんにはいいと思うんですが、自分自身が楽しむことを考えると、やはり新しいことに挑戦しないといけないなって思いますね。
――挑戦におけるはっきりしとしたビジョンはないということですが、思い浮かべられそうなものがあればぜひお聞きしたいです。
裕時:そうですね……。たとえば『29とJK』という作品を書いたんですけど、これは「ラブコメ+企業もの」であり、サラリーマンものでもありました。ラノベなので、JKとのラブコメもかなり意識的に強調して書いた作品でもありましたね。なので、今度は逆に一般向けで、企業もの、サラリーマンものに特化したものを書けたら面白いのかなって個人的には思っています。もちろん今まで書いてきた作品のステップアップもアリだと思いますし、まったく自分が書いてこなかった作品に挑戦してみるのもアリなのかなと思います。
――小原編集長からもDREノベルスの目標をあらためて教えてください。
小原:まずはなるべく早くヒット作を出すというのが短期的な目標ではあります。それとは別に、グローバルで戦えるIPを作り出すことが大きな目標になると思いますし、そういった作品をどんどん生み出していくことが肝要です。私も作品に対する読者の反応をエゴサーチするのが大好きなんですけど、海外の反応をまとめているサイトも見たりしています。自分の関わった作品で、世界的な反応を見てニヤニヤしたいなと思っているので、グローバルに広がる作品を展開し続けていける環境にまでレーベルを育てていけたらなと思います。
――それでは最後にファンの方へ向けて一言ずつメッセージをお願いします。
裕時:『俺修羅』や『29とJK』などいろいろ書いてきましたが、僕の書くコメディが好きだって思っていただけている読者の方には、女性向けであっても本作を楽しんでいただけると思います。おそらくコメディ要素に関しては、ここ最近刊行した作品と比べても強いと思うので、男性読者の方も面白いと言ってもらえると思います。そして今作を機に新しく僕の作品を手に取ってくださる読者の方にも、おそるおそるではありますが、きっと面白いものになっていると思いますので、ぜひ読んでみてください。よろしくお願いします!
小原:DREノベルスでは『99回令嬢』を含め、面白い作品をしっかりと作り、しっかりと宣伝し、しっかりと売っていく形を取っていきます。初期から「ドリコムメディアを応援してたんだよね」と言ってもらえるくらい、最初から応援をしていただいて、読者のみなさんと一緒にレーベルを成長させていけたらなと思いますので、これからのドリコムメディアにご期待いただければと思います!
――本日はありがとうございました。
<了>
新たに出版事業を立ち上げ、新レーベル「DREノベルス」を創刊した小原豪編集長、そして創刊ラインナップに名前を連ね、女性向け作品に初挑戦した裕時悠示先生のお二人にお話をうかがいました。新しい挑戦から始まり、今後の発展にも期待が寄せられるドリコムメディア。そしてコメディ要素の強い令嬢もの作品としても期待が寄せられる『99回断罪されたループ令嬢ですが今世は「超絶愛されモード」ですって!?〜真の力に目覚めて始まる100回目の人生〜』は必読です!
<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>
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